The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

熊、半魚人、黒豹、雀2018年1月~3月に観た映画

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 3~4ヶ月ぶりのブログ更新でございます。この約3ヶ月何をしていたのかというと、まあ特に何もしていなかったのでございますね。最初の1ヶ月は確かにブログを更新できない諸事情があったのですが、残りはずっと「なんかいっか」と惰性で更新をサボっていました。6月中に一回でもやる気出しとけばよかったけど、7月入ったらもう暑さで何もやる気が起きなかったしね!

 しかしそんな中でも映画は観ていましたよ!というわけで2018年の夏も終わり。本当なら6月終わった時点で上半期の観賞リストとその時点のベストとかを出しとくべきだったと思うのですが、とりあえず劇場観賞作品を上げたいと思います。長くなりそうなので何回かに分けて。

  • 2018年1月

パディントン2

  • 2月

スターシップ・トゥルーパーズ レッド・プラネット

グレイテスト・ショーマン

 

  • 3月

15時17分、パリ行き

ブラックパンサー

シェイプ・オブ・ウォーター

リメンバー・ミー(同時上映アナと雪の女王/家族の思い出

トゥームレイダー ファースト・ミッション

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

レッド・スパロー

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

ヴァレリアン 千の惑星の救世主

1月2月何にも観てねえじゃん!と思ったけど急に3月になってめちゃくちゃ観てた。なのでとりあえず今回は3月まで。好きなジャンルの話題作がある月に集中するからこういうことも起きるのだけど、観てない月はだいたい新作をたくさん見るより好きになった作品を何度も観るパターンが多かったりします。「パディントン2」も「グレイテスト・ショーマン」も3回ぐらいづつ観ましたしね。

 それでは各作品簡単に感想を(もう今となっては数少ないですがちゃんと感想記事書いたのはそこへのリンクを)。

 

パディントン2 
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スターシップ・トゥルーパーズ レッド・プラネット

  ロバート・A・ハインライン原作、ポール・バーホーベン監督による傑作SF作品のアニメ版。このシリーズは実写映画が3作、CGアニメによるTVシリーズ、そして日本で作られたTVシリーズとはパラレルなCGアニメ映画があって、本作はその2作目。僕は前作「インベイジョン」は観ていなくて、あくまで日本オリジナル作品かな、という程度の認識で観に行ったのだが、脚本が3作目の監督でシリーズの脚本家でもあるエドワード・ニューマイヤーで、登場人物もジョニー・リコ、ディジー・フローレンス、カルメン・イヴァネス、カール・ジェンキンスといったシリーズ第1作のキャラクターが出ていて、しかもジョニーとディジーに関してはそれぞれキャスパー・ヴァン・ディーンとディナ・メイヤーが担当しているという正統な続編であった。最も僕が観たのは日本語吹替版だけども。ちなみにディジーの声が日本語だと上坂すみれさんでちょっと1作目から知ってるディジーのキャラには合ってなかったかな?という気も。とはいえよりアニメっぽくデザイン化されたディジーには合っていたと思われます。

 アラクニド・バグズとの争いというよりは地球連邦内での揉め事と陰謀が中心だけれど、スターシップ・トゥルーパーズらしさは失っていない面白さがありました。

 

グレイテスト・ショーマン 

  19世紀アメリカ、稀代の山師P・T・バーナムを描いたミュージカル映画。と言っても伝記映画ではなく、あくまでバーナムをモデルにした作品といったところ。描かれる出来事は実際には何十年にも渡るが、劇中では1〜2年ぐらいの出来事として描かれている(バーナムの2人の娘がほとんど成長しない)。バーナムは年老いた黒人女性を「ワシントン大統領の乳母」といって見世物にしたような人物だが、現在のサーカスの基を作った人物でもある。トロイ遺跡発掘で有名なシュリーマンが幕末の日本に来た際、独楽回しなどの大道芸を見て「バーナム氏は(ワシントン大統領の乳母とか見世物にしてないで)今すぐ彼らをスカウトするべきである」といったような内容の手記を残していたりする。ちなみにバーナムと日本の関係だと日本製の人魚のミイラ(猿の上半身と魚をくっつけたもちろん偽物)を展示していたりしたらしいですね。

 実際のバーナム氏はもっと一癖も二癖もあって単なる情熱の人では無かったと思うけれど、映画でヒュー・ジャックマンが理想に燃える熱い男を演じています。ジャックマンやレベッカ・ファガーゾン、ゼンディヤ、キアラ・セトル、ザック・エフロンといった歌も一流な俳優たちによって奏でられる楽曲はどれも見事。音楽は「ラ・ラ・ランド」のベンジ・バセック&ジャスティス・ポールのコンビだけれど断然こっちのほうが耳に残り素晴らしいです。  

グレイテスト・ショーマン(オリジナル・サウンドトラック)

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  • 3月

15時17分、パリ行き
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ブラックパンサー 

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シェイプ・オブ・ウォーター
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リメンバー・ミー(同時上映アナと雪の女王/家族の思い出

  同時上映の「アナと雪の女王/家族の思い出」は雪だるまのオラフが主人公の短編。ただちょっと短編というには長い印象もあり、またオラフはかなりうざったいキャラなので脇役として主人公の周辺にいる分には良いキャラクターだが、主人公となるとちょっとイラッとしちゃうかな。

  本編はメキシコが舞台のファンタジー。音楽が禁じられた靴職人一家に育った音楽大好き少年ミゲルがふとしたことで死者の世界に迷い込み、すでに死んでいる家族たちやそこで知り合ったヘクターと現世に戻るべく奮闘する。音楽と思い出がテーマでよく出来ているものの、ちょっともやっとする部分も。最近のディズニー/ピクサー作品とか無理に悪役を作らなくても成立しそうな話が多くて、でもそんな中無理やり悪役にされてる人がやられてもなんかすっきりしないんだよね。とはいえそこはピクサーなので作品の質は高いです。

 フリーダ・カーロエル・サントなんかも出てるよ(死者として)。

 

トゥームレイダー ファースト・ミッション

 人気ゲームの映画化第3弾。とはいえ以前に映画化されたアンジェリーナ・ジョリー姐さんの2作とはつながっているのかも不明(僕はゲームの方は全く遊んでいません)。時間軸的にもララ・クロフトが冒険家としてデビューする話なので最初の物、という感じなのだろう。日本史永遠の謎「邪馬台国卑弥呼」のナゾ・埋葬地などが明らかに!

 主人公ララ・クロフトアリシア・ヴィキャンデルは「エクス・マキナ」のアンドロイド、エヴァの人。夫はマイケル・ファスベンダーです。悪役のイメージ強いドミニク・ウェストが最後までいい人だったのと、粗暴なチンピラやらせたら右に出るもの無しのウォルトン・ゴギンズがまさかの知的なラスボス!っていうのが意外でしたね。アクション映画としては及第点。

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

 今の日本では公文書偽造が当たり前のように起きている異常事態なのだけど、そんな状況の中公開され、今の日本のあわせ鏡だ!と話題になった映画。ニューヨーク・タイムズのスクープから始まりワシントン・ポスト紙が後追いするベトナム戦争に関する国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」をめぐる報道の自由と政府による弾圧と闘う物語。物語はワシントン・ポスト氏の編集部を中心に発行人である社主のキャサリン・グラハムと編集長ベン・ブラッドリーの対立や友情を描く。キャサリンはファミリー企業の二代目(初代である父親の後は夫が継いだが自殺したため社主に就任)なため政府上層部とも付き合いがあり、その中で友人づきあいと報道のどちらを選ぶか苦悩したりする。

    スピルバーグ監督作品なので音楽は当選のようにジョン・ウィリアムズなのだが、時折ジェリー・ゴールドスミスっぽい部分も。

 そしてこの映画ノーラ・エフロンに捧げれていて、なぜ今ごろ(ノーラ・エフロンが亡くなったのは2012年)と思ったりしたけれど主演のトム・ハンクスメリル・ストリープとの仕事が多かったって以外に元夫がウォーターゲート事件の記者カール・バーンスタインでその時期のことをエフロン自身による脚本で映画化していたり(「心みだれて」)、テーマ的な部分で関係したりするのですな。

レッド・スパロー

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ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

  高度に発達した特殊メイクはチャーチルヒッチコックの区別がつかない。

 ゲイリー・オールドマンアカデミー賞を取った映画。変人扱いされていたチャーチルが首相に就任し、ダンケルクの作戦を実行するまでの葛藤を描く。かなり一面的な描き方なのでこの映画だけ見てすべてを知った気になるのは危険だとも思うけど面白かったです。

 クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」が徹底的に現場だけを描いた作品だとすればこっちは逆に現場を一切描かず後方の事情だけを描いた作品。見事なまでに裏表なのでセットで見たりなんなら時間ごとに交互に見たりすると面白いかも。とはいえ演出のテンポも違うあくまで別作品ですけどね。

 

・ヴァレリアン 千の惑星の救世主

  リュック・ベッソン監督のスペース・オペラ。正直ヴィジュアルだけの空疎な大作映画だろ、って感じでたいして期待せずに観に行ったんだけど凄え面白かったです。アメコミとも日本の漫画ともまた違うBDの面影をきちんと残しつつ、でも(作品の雰囲気的にも物語的にも)決して難解ではなく一級の娯楽品として仕上がっている作品。テーマ的にちょっと訴える部分もある。

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 主演はデイン・デハーンとカーラ・デルヴィーニュの美男美女コンビ。二人と年齢的には十分大人だけど外見的にはまだ美少年美少女といっても良い。でもその辺が二人の天才という設定に説得力を与えている。そしてこれだけ美男美女のカップルなのに何処か幸薄い感じも共通。その幸薄さが脳天気になりすぎず程よい緊張感をもたらしているとも言える。

 日本の作品だと寺沢武一の「コブラ」が一番近いかな。「コブラ」って実写化の噂を聞いてもう5年ぐらい経つな、とか今なら全然実写化出来そうだな、とか思いながら観てたので劇中出てきた3人組エイリアンが「コブラ」に出てくるアヒル型エイリアンにしか見えませんでした!

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 邦題は「千の惑星の救世主」より原題直訳の「千の惑星の都市」のほうが良かったかな。

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  さて、1月2月に対し、3月がいっぱいだったのでとりあえず今回はこの辺で。次も4月以降観た作品を一気に紹介の予定です(なるべく早く)!

酒は飲んでも飲まれるな! お酒映画ベストテン!

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乾杯!

 というわけでワッシュさん(id:washburn1975)さんの恒例企画です。今回すっかりチェックを忘れていて、先ほど気づきました。そして締め切りは今日まで!なので突貫ではありますが参加したいと思います。

  今年は「お酒映画ベストテン」!最近はジャニーズ人気グループの一人が酒に酔って未成年にキスを強要したとして大騒ぎになり、それに伴う喧々諤々の状態ですが、この企画が発表されたのは4月の16日なのでその事件とは関係ない模様です。

d.hatena.ne.jp

  僕自身はお酒はほとんど飲めず、飲み会などの場では最初に一杯程度、後はソフトドリンクでというレベルです。日本人は基本的にお酒が弱いのですが、僕はその中でもすぐに顔に出るのであんまり強要されるということもなかったですね。むしろすぐ心配される感じ。なのでお酒での失敗も家に帰ってトイレまで間に合わずに玄関でゲロぶちまけた、というのが最初にして最後、最大の失敗だったと思いますがこれももう10年以上前のこと。

 最近は「酒は百薬の長」などというのもほぼ嘘(というか元々の意味が本当に薬になる、という意味ではなかったという説も)と言われていて、酔って気持ちいい以外は身体的には害しかないそうです。まあ他人に迷惑をかけなければ良いとは思います。先ほどの芸能人の事件でもしきりに「酒は悪くない。人が悪い」とか言われてますけど、もちろん個人が悪いのは大前提でその上で「やっぱり酒だってちょっとは悪いんじゃねえの?」とは思います。

 さてそんなお酒にまつわる映画ベストテン。自分が飲まないので、あんまり印象に残る映画の飲酒シーンってパッとは思いつきませんでした。特に男女がお洒落なレストランでワイングラスを傾けて・・・・・・みたいなのは全然。なので苦労はしたのですがとりあえず思いついたのを。

 

  1. 大脱走(1963年 ジョン・スタージェス監督 米)
  2. シンクロナイズドモンスター(2016年 ナチョ・ビガロンド監督 カナダ/スペイン)
  3. キャプテン・アメリカ/ザ・ファーストアベンジャー(2011年 ジョー・ジョンストン監督 米)
  4. ホビット思いがけない冒険(2012年 ピーター・ジャクソン監督 ニュージーランド/米)
  5. ロード・オブ・ザ・リング王の帰還(2003年 ピーター・ジャクソン監督 ニュージーランド/米)
  6. ドランクモンキー酔拳(1978年 ユエン・ウーピン監督 香港)
  7. 酔拳2(1994年 ラウ・カーリョン監督 香港)
  8. ワールズ・エンド酔っぱらいが世界を救う!(2013年 エドガー・ライト監督 英/米/日)
  9. ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い(2009年 トッド・フィリップス監督 米)
  10. クロウ/飛翔伝説(1994年 アレックス・プロヤス監督 米)

 もう完全に思いついた順ですね。劇中で何が飲まれているかは説明されてるのもあると思うんですが、ぱっと思い出せないのでそれは適当に。主にビールとウィスキーが中心だと思われます。それではそれぞれ簡単に解説。

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 ご存知脱走映画の金字塔。劇中スティーブ・マックイーンら数少ないアメリカ人3人が独立記念日に備えてじゃがいもから酒を作るシーンが有ります。この時の3人が試飲する様子が本当に美味しそう。この後他の捕虜たちにも酒を振る舞い(大多数のイギリス籍の兵士に対して独立記念日ということで「イギリスクソ食らえ!」といって酒を注ぐのが粋ですね)、直後の悲劇を際立てます。史実ではこの独立記念日を祝うエピソードは別の捕虜収容所でのことらしいですが、印象深いシーンです。ちなみにお酒は飲めない僕ですが「密造酒作り」には心惹かれるロマンを感じますね。 

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 わりと最近の作品が第2位。女性のダメ人間が主人公という珍しい映画(自分はあんまり見たことない)。酒によって韓国の都市を破壊する!もう一人(の怪獣)も酔っぱらいで最低だ!

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 マーベルで酒というとアイアンマンことトニー・スタークのアル中エピソードが思い起こされますが、映画のMCUの中では特にその辺は触れられず、「アイアンマン2」におけるパラジウム中毒のシーンで代用している模様。なので「アイアンマン」ではなく「キャプテン・アメリカ」を。このシリーズ第1作はMCU全体の時系列としても最初の方を描いた作品であり(神話時代などを含めればもっと遡る描写はあるが一本の映画としては一応最初の物語)、今となってはどこか牧歌的な印象もあるこの作品。劇中では二度ほど印象的な飲酒のシーンがあります。最初はスティーブが超人兵士になるための実験を受けるその前の晩にアースキン博士と語らうシーン。ここでは微笑ましいながら乾杯だけして実験直前にアルコールはダメ!と飲ませてもらえませんね。もう一つはバッキーを失い自分の無力を知ったキャップが一人やけ酒を煽るも、もう酔えない身体になっているので全然意味が無い、という超人兵士になった者の悲哀を感じさせるシーン。他にも幾つかお酒のシーンが有ります。

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 この2本は両方共中つ国の酒飲みをご紹介。「ホビット」の方ではドワーフたちの豪快な飲みっぷりが、「ロード・オブ・ザ・リング」ではホビットたちの愉快な飲みっぷりが堪能できます。最後の「王の帰還」のラストのホビットたちの飲み会は大冒険を成し遂げて成長した者達のちょっとしんみりした様子もいいですね。 

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 そしてジャッキー・チェンの2本。多分この「酔拳」とこの後の「ワールズ・エンド」「ハングオーバー!」の3本は多くの人のベストテンに登場するかと思われます、僕も結局外せなかった。酔拳は特に決まった流派があるというわけでなく一説には「水滸伝」の豪傑行者武松が最初ともいわれています。実際の酔拳は「形は酔っても意は酔わず」ということであくまで酔っぱらいの先が読めない意表をついた動きを拳法に用いるのが本意であって、実際に酒を飲んで戦う拳法ではないのですが、映画ではそれでは面白くないので実際に飲んじゃいますね。「酔拳2」の方では工業用アルコールを飲んで戦ったりします(ありゃ?メチルアルコールって飲めないのか)。酒の恐怖も描いている!

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  • ワールズ・エンド酔っぱらいが世界を救う!(2013年 エドガー・ライト監督 英/米/日)

  エドガー・ライトサイモン・ペッグニック・フロストといったおなじみの面々によるパブはしご映画。なんか最後の方どんなんだったかもう覚えていないけれどお酒が飲めたらもっと面白かったんだろうなあ、と思う映画でした。

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  バチェラー・パーティーで羽目をはずすのは危険!

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 2の方の感想です。

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 最後はこちら(1点狙い)。ジェームズ・オバー原作、アレックス・プロヤス監督によるダークヒーロー映画。ブルース・リーの息子、ブランドン・リーの最後の映画でもあります(この映画の撮影中に銃撃を受けるシーンで実際に実弾がこめられていて死亡。足りないシーンをすでに撮影済みのシーンからCG合成して完成させたことで話題となった)。あんまりろくな飲み方が出てこないですが、ひときわ印象深いのはTバードたちが酒を飲むときに一緒に銃弾を飲み込むシーン。火薬そのものはちょっと美味そうな気もしますがシェル込で飲むのはちょっと理解の外でありその分悪党たちの狂気さ、不気味さが発揮されていますね。

  というわけで「お酒映画ベストテン」でした!突貫で書いたので乱雑ではありますがご容赦を。酒は程々に!

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 昨年のベストテン企画はこちら。

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黒豹 武装蜂起のバラード ブラックパンサー

 アメコミ映画だけは感想書こうと思っていたのにこの体たらく。昨年の「X-MEN」シリーズのヒュー・ジャックマンのラストウルヴィー「ローガン/LOGAN」も書けず、DCFUのとりあえずの最初の頂点「ジャスティス・リーグ」も色々思うところはあったが書けてない状態です。そしてMCU、すでに年末に「マイティ・ソー:バトルロイヤル」が公開され、年明けには「ブラックパンサー」が。そしてついにフェイズ3最大の山場「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」が公開されます。今回は大分遅れた「ブラックパンサー」の感想ですが、同時にMCUフェイズ3の簡単な復習もしたいと思います。なんならまだ「ブラックパンサー」は公開中で「アベンジャーズ」とハシゴできるのかな?MCU17本目!(多分)

 ちなみに「星の王子ニューヨークへ行く」はザムンダでワカンダとは別のアフリカの国で、「特命武装検事・黒木豹介」とはまったくの別人です。

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  • 物語

 アフリカの小国ワカンダ。世界のほかの国々からは発展途上の一農業国に過ぎないと思われているこの国には秘密があった。それはかつてこの国に落ちたヴィブラニウムの隕石の力で他の国を凌駕する最新科学を備えていたのだ。国を治めるのはティ・チャラ。テロによって亡くなった先代ティ・チャカ王の後を継いで国王となった。それは同時に、国の守護神ブラックパンサーとなることでもある。

 ティ・チャラのもとにかつてワカンダからヴィブラニウムを盗んだ武器商人ユリシーズ・クロウの所在が判明したと報告が入る。国王の親衛隊ドーラ・ミラージュの隊長オコエ、ティ・チャラの元恋人で今は国外で活動するナキアと共にクロウ捕獲に向かう。そこにはCIAのロス捜査官もいたが、クロウを捕獲。しかしクロウは謎の男エリック・キルモンガーに奪われてしまう。キルモンガーはワカンダと深い関わりがあって……

  MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェイズ3はいきなり「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で最高潮に達してしまいその後は宇宙でも地球でも特に大きな動きは無かった。「ドクター・ストレンジ」と「スパイダーマン:ホームカミング」の2本は新ヒーローの登場編で、それぞれの存在感を示したがMCU全体の物語としては大きな動きはなかった(アガモットの目がインフィニティストーンの一つとして登場したことぐらいか)。

 宇宙に目を向けると「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は時間軸的にはフェイズ2に属する物語でスターロード=ピーター・クイルの出生の秘密が分かったりしたものの前作以上に他の作品との絡みは少なく、ラストにサノスに対抗しうるアダム・ウォーロックの誕生を伺わせる程度。

 そして「マイティ・ソー:バトルロイヤル」*1ではアスガルドをめぐり壮絶な戦いが起きた結果、ソーは行方不明になっていたハルクと再会し、しかしアスガルド自体が難民となって終わる。

 MCUという世界においてヒーローたちの内紛という重大な出来事を描いた「シビル・ウォー」のその直接の続編として始まっているのが今回の「ブラックパンサー」だろう。「シビル・ウォー」でデビューした彼はテロによる王の死という緊急事態を受けての参戦したが、今回正式な国王となる。

 映画はしかし現在から30年ほど昔の1990年代初頭から始まる。先代ブラックパンサーことティ・チャカ国王はアメリカで活動する弟の元を尋ねる。実は弟である王子はワカンだのヴィブラニウム製の武器をもって黒人革命を起こそうと画策していた。しかしそれは鎖国を国是とするワカンダに反する行為。国王は自ら弟を始末するのだった。この時ティ・チャカの身につけているブラックパンサースーツは全身は見えないがティ・チャラのスーツにアフリカの民族衣装の意匠を少し混ぜたような感じ。個人的にはなんなら最新のスーツより格好良く思えた。90年代初頭とかいってもすでに映画のほうで「バットマン」や「バットマン リターンズ」があった頃だから実写のヒーロースーツもそれなりにボディスーツっぽい物。どうしてもマーベル映画で過去の話(主人公の子供の頃とか)が出てくると現在(2018年)基点だから90年代とか「アメスパ2」で出てきたように2000年代とかでおかしくないのに、1960年代を思い浮かべてしまうなあ。特にこの作品の場合内容的にも「ブラックパンサー」というタイトルからも60~70年代の黒人公民権運動などを連想してしまうから。

ブラックパンサー」というタイトルからはどうしても「ブラックパンサー党」を連想するがこちらのほうが1966年デビューでブラック・パンサー党より登場は一年早い。しかしこの二つの黒豹が同じ名前なのは全くの偶然なのではなく、その前に存在していた黒人団体が黒豹をロゴにして用いていたことから別々にインスピレーションを受けたようだ。

 MCUでは「アイアンマン2」でウォーマシンが、そして現在におけるキャプテン・アメリカの相棒としてファルコンがすでに「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」で黒人ヒーローとしてデビューしているが、単独主演は初。映画で登場する主要登場人物で非黒人キャラは武器商人ユリシーズ・クロウとCIA捜査官のエバレット・ロスぐらいしかおらず、舞台も含めてここまでアフリカが強調された作品も珍しい。

 ワカンダの描写は国全体を覆うホログラムでカモフラージュされており、そのホログラムを抜けると本当のワカンダ王国が現れる。そこは最新科学と伝統的文化が見事に融合された世界。最新科学の一方で国王即位の儀式などでは伝統も重んじられ、農業や牧畜も盛んなある意味理想国家として描かれている。ワカンダでしか産出出来ない鉱物ヴィブラニウムと人間に超人的なパワーをもたらすハート型のハーブの力で国王はブラックパンサーとして国を守護する。

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 主人公ティ・チャラは「シビル・ウォー」に続きチャドウィック・ボーズマン。宿敵となる、マイケル・B・ジョーダンとはまた別の人懐っこそうな魅力を持つ。「キング・オブ・エジプト」では知恵の神トートを演じていたが、この人はアフリカン・アメリカンにありがちなストリートの匂いをまったく感じさせないというか、貴族的な育ちの良さを感じるのでその辺もこのヒーロー兼国王というキャラクターにピッタリだった。

 他にも色々個性的なキャラクターが登場し、特に女性陣は皆魅力的。オコエやナキアなど普通に主人公を凌駕する力を発揮するヒロインもいいがティ・チャラの妹でブラックパンサーのバックアップをするシュリが個人的には好き。演じているのはレティーシャ・ライトは1993年生まれなので25歳だが劇中ではもっと若く見えおそらく作品の設定的にはまだ10代だろう。このシュリが天才科学者として今回のブラックパンサーのスーツ、装備、後方支援を担当。その技術力はトニー・スタークやハンク・ピムを凌駕しているように思える。スターク系はアイアンマン、ウォーマシン、スパイダーマン。ピム系はアントマン、ワスプ、イエロージャケット。そしてシュリ系はブラックパンサーとヒーローの強化スーツを系統立てれると思う。それぞれ注力したポイントが異なるけれどスターク=火力、ピム=縮小機能、シュリ=耐ショックといったところか。「シビル・ウォー」でのブッラクパンサースーツはヴィブラニウムを織り込んだボディスーツという感じだったが、今回新たに登場したスーツは首飾りからナノマシンが放出されて全身を覆う感じで変身/変身解除が思いのまま。

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 とにかくこの妹様シュリがさりげなくMCUでも一二を争う天才なのに、一方で普通の今どき少女っぽいのも良い所。シーンシーンによっていろんな魅力を出しています。またティ・チャラとシュリの母親である王妃にはアンジェラ・バセット。90年代に女性アクション俳優といえばこの人だったイメージがあります。実際撮影現場でも出演者からかなりのリスペクトを受けていたようだ。

 ヴィランはエリック・キルモンガー。元米国の特殊部隊として世界中で殺戮を繰り広げた男。正体はティ・チャカの弟ウンジョブの息子でありティ・チャカがウンジョブを処分した時にそのままアメリカに置き去りにしてしまった悲劇の王子である。彼は血統の正統性と儀式によってティ・チャラを破りワカンダの国王となる。そしてヴィブラニウムの武器を世界中に配り父の果たせなかった世界一斉蜂起、黒人革命を試みる。

 演じるのはマイケル・B・ジョーダンで監督のライアン・クーグラーとは「フルートベール駅で」「クリード」に続き3作目のタッグ。アメコミ関連映画としては(アメコミ原作ではないが)「クロニクル」「ファンタスティック・フォー」のヒューマントーチに続く。ヒーロー一転ヴィランである。この人の特徴は悲劇的な役柄を演じていてもその親しみやすさでどこか希望を残すところで、本作のキルモンガーも悲劇的な出自を持つが、どこか明るくそしてカリスマ性を持っていて一時的とはいえワカンダの国王になるだけの器量を垣間見せる。ただ、最初の方のアフリカの祭祀用の仮面をかぶる姿と違って、クライマックスではブラックパンサーのバージョン違いのスーツを着用する。二人のブラックパンサーは色合いが極端に違うわけではなく、戦闘の舞台も暗いところだったりするので見分けがつきにくく混乱してしまってちょっとその辺は残念。いわゆる主人公と同型で能力的には凌駕するヴィランというパターンだがその辺ではちょっと物足りなかったかな。

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 数少ない白人キャラはマーティン・フリーマンエヴァレット・ロスとアンディ・サーキスユリシーズ・クロウ。二人ともMCUではすでに登場済みのキャラクターだが、今回は共演し、ロスがクロウを尋問するシーンも有る。この二人といえば「ホビット」のビルビ・バギンズとゴクリ/ゴラムである。あの時は特殊メイクやCGで共演していたが、その二人が今回は生身で共演。だからといって特にこの二人のやりとりが「ホビット」を連想させたりはしないんだけど、その分鬼気迫るものはありました。

 今回はティ・チャラがワカンダの国王として自らを確立する物語であり、クライマックスの戦いもちょっとした内戦でありコミックヒーローの戦いというのとも少し違うかもしれない。またこの物語を通してワカンダという国を紹介する役割を負っている。

 ラスト、無事国王に返り咲いたティ・チャラは国連でこれまでの鎖国政策を止め世界に広く文化を開放することを宣言する。弱小の農業国としか思われていなかったワカンダだが、その世界の最先端を行く科学力や希少なヴィブラニウムは世界を大きく変えていくことだろう。良くも悪くも。


Black Panther - Official Teaser Trailer | HD

 オマケ映像はワカンダの子どもたち懐かれている謎の男。その正体はウィンターソルジャーことバッキー・バーンズ。「シビル・ウォー」ラストで本人の意志により洗脳が完全に解ける手段が見つかるまでワカンダの科学力で冷凍睡眠されることとなったが、内戦のさなかの混乱で解除されたのか?ここでは「ホワイトウルフ」と呼ばれるが、「インフィニティ・ウォー」でもウィンターソルジャーでなくホワイトウルフとしてクレジットされているとかいないとか。

 BLACK PANTHER WILL RETURN IN AVENGERS : INFINITY WAR.

そして物語は「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」へと続きます。


Marvel Studios' Avengers: Infinity War Official Trailer

 予告編を観る限りわりと「ブラックパンサー」からすぐつながる物語っぽく今回登場したキャラクターの多くはそのまま登場するっぽい。同時にやっと「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が他の作品と明確に絡んでくることも確かで宇宙の話と地球の話がひとつになります。前後編の前編と言われているので「インフィニティ・ウォー」だけで完結はしないと思われるけど十分見応えはありそうです。

  • 関連記事 

 ブラックパンサーが出てるMCU前作。 

  

ライアン・クーグラー監督の前作。感想記事のタイトル「父親越えの神話」はそのまま今回の記事にも使えそう。監督デビュー作が実録社会派「フルートベール駅で」だったため社会派のイメージがあって、その意味では今回のMCU参加は「ロッキー」シリーズである「クリード」以上に意外だったのだが、娯楽作の中にきっちりテーマを盛り込むことでは一級の力を見せたと思う(ただアクションシーンの演出はルッソ兄弟に比べるとちょっと下手かな)。

ブラックパンサー ザ・アルバム [Explicit]

ブラックパンサー ザ・アルバム [Explicit]

 
ブラックパンサー (オリジナル・スコア)

ブラックパンサー (オリジナル・スコア)

 

  もう発売されちゃったね。

 さあ、明日はインフィニティ・ウォーだ!!

*1:しかしやはりこの邦題は間違いだと思う。「ラグナロク」に戻してほしい

舌切り雀の選択 レッド・スパロー

 実は最初のうちは全く食指をそそらなかった映画。ジェニファー・ローレンス主演のスパイアクションね。「ソルト」とか「アトミック・ブロンド」みたいな…って感じ。特に新味を感じずスルーでいいかな?と思っていた。それが変化したのはまず予告編で一部が修正されていると話題になったこと。僕が劇場で観た時は噂になった修正がされていなかったので不思議に思ったが、別の劇場で別の作品を観た時に流れたものは確かに修正がされていて劇場毎に基準が違うのかな?などと思いそれから気をつけて予告編を見るようになった。それでも本編への興味はまだ薄くてあくまで基本スルー予定、公開されて評判が良かったら観てもいいかな、ぐらいの位置付け。それが替わったのは公開直前に監督がフランシス・ローレンスと知ったからだ。ジェニファー・ローレンス主演の「ハンガー・ゲーム」シリーズの後半3作を手がけた監督。僕は多分日本人の映画好きの中ではかなり積極的にあのシリーズを絶賛している数少ないブロガーと自負しているのだが、あのとにかく丁寧に作られた作品を手がけた人物の手によるものならこれは観なくてはなるまい、と方針を改めたのであった。ジェニファー・ローレンス主演、フランシス・ローレンス監督作品「レッド・スパロー」を観賞。f:id:susahadeth52623:20180418174529j:image

  • 物語

 ロシア。ボリショイ・バレエでトップを務めていたドミニカはステージで大怪我を負い引退。住んでいたアパートも立ち退かねばならない事態に。病気の母親を抱えて途方に暮れたドミニカはロシア情報庁幹部の叔父ワーニャはドミニカの怪我は仕組まれたものであったことを伝える。ドミニカは仕組んだ者に復讐を果たすが、そのために叔父の仕事を手伝わなければならなくなる。最初に聞いた条件と違い工作員による暗殺の片棒を担がされたドミニカは、そのまま母の治療費などを条件にスパイ養成所へ。スパローと呼ばれるスパイを養成するそこであらゆる手管を学ばされたドミニカは最初の仕事を任される。それは内通者を探り出すため、CIAの捜査官と接触すること。ドミニカはブタペストでCIA捜査官ネイトと接触するが・・・

 先に「ハンガー・ゲーム」の監督作品だから観た、と書いたけれども。実は監督デビュー作はキアヌ・リーブス主演のアメコミ映画「コンスタンティン」で、その後ウィル・スミス主演の「最後の男」のリメイク「アイ・アム・レジェンド」を監督していたりするので実は2011年の「恋人たちのパレード」以外は全部観ていた。最も監督を意識して観たのは今回が初。「アイ・アム・レジェンド」はリチャード・マチスンの原作から大分脚色されているけれど、「ハンガー・ゲーム」に関してはとにかく丁寧に忠実に原作を実写に映し変えているな、、という感想。なのでその辺に監督としての方向性があると思いながら見た。今回はエンドクレジットで出てくるまで原作付きだったことも知らなかったぐらいなのだけど、それでも丁寧だしおそらく忠実に映像化しているんだろうなあというのが伝わってくる。後述するけれどこの作品は派手なスパイアクション映画ではなくかなり堅実なスパイ映画なのだけど、地味だが決して退屈にはならないそのギリギリの線をきちっと計っていると思った。

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 タイトルの「レッド・スパロー=赤い雀」の雀=スパローとはスパイの隠語で赤いとはおそらくロシアのことを指しているのだろう。ジェニファー・ローレンス演じるドミニカは叔父に見込まれてスパイ養成所に送られる。ただしこの養成所では格闘術やテロ工作などではなく(ある程度それらも学ぶとは思うけど)徹底的に人を操る術を学ばされる。相手の感情を理解し、感情を操り、でも決して相手に対して感情を持たないスパイ。もちろんそこには肉体を駆使し性的に相手を誘惑、実際に肉体関係まで持ち込むことも求められる。

 劇中では淡々と描かれるがここではキューブリックの「フルメタル・ジャケット」前半の海兵隊の教練シーンを連想した。スパローたちも海兵隊員ももちろん最初から完成されているわけではない。養成所や教練を通して一般人としての価値観を捨てさせ目的のために手段を問わないマシンを養成する。

 だから、この映画で描かれるスパイはCIAの男性捜査員を誘惑したり、あるいはレズビアン上院議員秘書官と親しい仲になったりするのがメイン。アクションもゼロではないがその辺はいわゆるアクション映画という体では描かれない。すべて観ていて痛いシーンばかり。ちなみに一番痛いシーンは最初のバレエで怪我を負うとこなのでそこを乗り越えれば他はそういう面での苦痛は感じないと思います。

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 原作は元CIAの人ということである程度リアルなのだろうが、スパロー養成所の内部などどこまで事実かは分からない。それでも映画の中では荒唐無稽さはほぼ感じないリアルなものとして描かれている。スパイ映画といっても「007」シリーズ系ではなく「裏切りのサーカス」系の作品ですね。

 映画は「R15+」指定ということでジェニファー・ローレンス他の際どいシーン(ヌードや拷問)も多い。これらのシーンに対して、映画秘宝に載っていた監督のインタビュー記事がとても素晴らしかったので紹介したい。(取材・文は渡辺麻紀氏。強調は元の記事より)

(前略)僕としては、彼女にいい環境で演技に専念してもらいたいという気持ちが強かった。ヌードを始めとした過激なシーンをこなすため念入りなミーティングを重ね、なぜ裸にならなければならないのか?そのシーンでのドミニカの心情はどうなのか?そういうことをじっくりと話し合った。でもそれは女優にヌードを頼むときの当然の手順だ。そこで僕は、もっと彼女が安心して演技ができるよう、ヌードシーンの編集権を与えたんだ。つまり、そのシーンが完成したら、プロデューサーやスタジオより先にジェンに見せる。彼女が最初に見て気になるところがあれば変更したりカットしたりできる。彼女の前に見るのは僕とエディターだけというふうにしたんだ。これはとても良かったと思う。彼女は演技に集中できたから。

 ジェンが手を入れたかって?あったけれど決して多くはなかったよ。僕たちの意図もちゃんと判っているのがジェンのいいところのひとつでもあるから(笑)(後略)

 監督/主演コンビで4作目でもあり、信頼関係が最初から出来上がっていたからってのもあるけれど、 「女優にヌードを頼むときの当然の手順」と言う姿勢が素晴らしい。以前「授乳シーンで乳首を見せない女優はダメだ」と言っていた日本の映画監督*1がいたけれど、じゃあ果たして脱がせる側はここまで誠意を見せているか?

 もちろんアメリカでも昨年のワインスタインの一件から始まる「#metoo」運動があったように日本だからアメリカだからということでもないかもしれない。それでも映画だけでなく、、ここ最近の日本で起きた様々な事案、相撲の土俵における女人禁制問題や、写真家荒木経惟のモデルを長年続けた人の告白やそれを受けたモデル/女優の水原希子の告白、財務省次官のセクハラ問題などを顧みれば、フランシス・ローレンス監督が特別誠実なだけかもしれないがやはり日米で雲泥の差を感じる。

 こうして撮影された過激な際どいシーンは、劇中の登場人物はともかく観客が観て劣情を催すようなものにはなっていない。作劇上でも必要な物でいわゆる男性向けのサービスシーンと言った類のものではない(予告編で修正されたことで話題になった水着含め)。

 ジェニファー・ローレンス以外のキャストとしてはCIA捜査官ネイトにジョエル・エドガートンジェイソン・クラークあたりと同様派手さに欠け、決してヒーローというタイプの俳優ではないが、こういう作品の中では溶け込んでいて良かった。他ジェレミー・アイアンズ、メアリー・ルイズ・パーカーなどが共演。特筆すべきはドミニカの叔父であるマティアス・スーナールツで、これがプーチン大統領そっくり。身内であるドミニカをも使い捨てにし容赦なく利用(そしてちょっと色目も使う)。プーチンが元KGBということもあってこのキャラクターの容姿はかなり意図的なのではないかなあなどと思う。後は名前もない役柄でありながら、強烈な印象を残すのがスパロー養成所の教官でもある監督官を演じたシャーロット・ランブリング。「愛の嵐」などが有名だが、冷徹に酷いことを教えこんでマシンを送り出す姿が恐ろしい。


【予告編#1】レッド・スパロー (2018) - ジェニファー・ローレンス,ジョエル・エドガートン,マティアス・スーナールツ 原題:RED SPARROW

 ラスト、ドミニカはいくつかある選択肢の中から一つを選ぶ、それは復讐でもあり決別でもある。たとえ今後も国家に所属しようとも。

 

レッド・スパロー(上)

レッド・スパロー(上)

 
レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)

レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)

 

 関連記事

 監督の前作。「ハンガー・ゲームFINAL」の2作は独立した感想記事書いてません。スマヌ。

 タイトルはこちらから。

*1:その後別の件でもセクハラが話題になった

Deep One’s Love シェイプ・オブ・ウォーター

 ”深き愛”ならぬ”深きものどもの愛”。アカデミー賞といえば英語圏の映画賞の中でも最高峰なわけですが、やはり色々物議を醸すものであって、なぜあれが選ばれなかったんだとか逆になぜあれが選ばれたんだ!とか毎回良くも悪くも話題になります。僕なんかはもうノミネート段階では何が選ばれたのか興味はありますが、最優秀賞となるともうどれでも別にいいかなってスタンス。作品選びの参考にすることは殆ど無くなってますね。そしてこの手の映画賞はやっぱりある種のジャンル差別があって、どんなに大ヒットしても評価が高くてもSFやホラー作品が選ばれることは滅多に有りません。技術部門で取ることはあっても作品賞や男優女優賞はまず有りませんね。しかし今年は「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」以来のファンタジーが作品賞、監督賞などを取りました。ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞受賞作「シェイプ・オブ・ウォーター」を観賞。観たのはちょうどアカデミー賞授賞式の次の日でした(別に意識したわけではないです)。

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  • 物語

 ハンサムな王子の時代が終わりに近づいた頃…

 唖の女性イライザは航空宇宙研究センターで清掃員として働いている。同僚のゼルダと隣の部屋の絵かきジャイルズのみを友達として過ごす代わり映えしない毎日。

 ある時ホフステラー博士の研究チームが新しく何かを連れてきた。イライザはその生物が警備担当のストリックランドの虐待に対して暴れ血の海にしたらしい現場の掃除を任される。ふとその生物と目が合い惹かれるイライザ。

 次の日からちょっとづつその「彼」と親交を深めるイライザ。一方ストリックランドは「彼」に負わされた傷も痛み彼の解剖を主張する。ホフステラー博士は反対するがトップのホイト元帥はストリックランドの意見を受け入れる。それを聞いてしまったイライザは彼を逃そうとする。イライザの作戦にゼルダやジャイルズ、そして実はソ連のスパイだったホフステラーも加わって…

  ギレルモ・デル・トロ監督というと怪物への偏愛。僕も「ミミック」で知って以降一応全部の作品を見ている。僕自身怪物・怪獣映画は大好きだし、特にデル・トロ監督同様半魚人に目がないのでその意味でもこの作品は面白かった。世間的にはデル・トロ監督といえば「パシフィック・リム」なのだろうが、個人的にはあの作品には他の作品に見られる怪獣描写への繊細さと偏愛が欠片も感じられず残念だったのだが、その後の「クリムゾン・ピーク」や本作は本来のデル・トロらしさが感じられて僕は好きです。

 この作品がアカデミー賞(作品賞、監督賞)などを取ったということで、これで「怪物が出てくる作品が認められた!今後は怪獣映画が作品賞を取る可能性もある!」と喜んでいたりする人も見受けられたけど、僕は特にそうは思わない。「王の帰還」の時には僕も「今後はジャンル関係なく評価される!」と思ったりしたけれど、特にそんなことも無かったしね。この作品が評価されたのはまずラブロマンスとして優れていたからだろう。ドラマとして評価されたからクリーチャーが出てくるファンタジーという部分をおいて賞を得たのだと思う。

 更に言うなら、別にアカデミー賞なんて取らんでもいいんじゃないの?って思う。ジャンル映画はジャンル映画として評価されれば良い。もちろんこの作品の受賞は僕も嬉しいし喜ばしいけれど、少なくともアカデミー賞で評価されるために怪獣映画にいらないドラマを加えるなんてことが起きたら本末転倒だと思う。

 

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 僕は怪物が出てくる物語としては「フランケンシュタイン」が大好きなんだけど、キャラクターとしてのクリーチャーでは「大アマゾンの半魚人」も大好き。「ウルトラマン」でも海底原人ラゴンとかが好きだし、「スターウォーズ」ではモン・カラマリのアクバー提督が好きだ。とにかく半魚人キャラにはどうしようもない魅力を感じてしまう。そんな中ここ最近登場した半魚人キャラで一番好きなのは「ヘルボーイ」シリーズのエイブ・サピエンで、その造形だけでなく所作や喋り方なども魅力的だ。そのエイブを演じたダグ・ジョーンズが今回も半魚人を演じている。

 ダグ・ジョーンズアンディ・サーキスと並んで「顔を見せない名優」という感じで、デル・トロ作品でも数多くのクリーチャーを演じている。ただ、今回は同じ半魚人でも服を着て言葉を喋るエイブとはかなり印象が違う。その辺は同じ半魚人でも別物だぞ、と制作側も強気意識したのだろう。のっぺりとしたエイブに比べて鱗やヒレのディティールが細かく、言葉を喋らないので動作や目線で感情を訴える。個人的にはデザインとしてもエイブのほうが好きだけどこちらも新時代の半魚人デザインとしてよく出来ていた。ただ個人的には(これは別にこの作品に限ったことではないのだが)生物発光して感情を表現するのはあんまり好きではないかな。

 ほとんどクトゥルフ神話色が無かった「パシフィック・リム」とかと比べると、今回はアマゾンの奥地で原住民に神として崇められた存在を連れてきて宇宙開発研究の一環としてアメリカで調べているという設定で、コズミック感こそ少ないが「深きものども」感は満載。しかもそれを恐れるべき敵ではなく、愛すべき存在としても描いているのが素晴らしい。愛すべきといっても単に可愛らしく描いているわけではなく、そこは人間とはまた違う価値観(猫食ったりする)の生き物で、感覚的にもかなり異なるものとして描いていて、でも魅力があるようになっているのもまた良い。

 で、まあ元ネタというか、劇中で触れられてるので別に深読みでも何でもないと思うんだけどこの作品はヘブライ神話「旧約聖書士師記」のサムソンの物語を善悪逆転したものですね。

 イスラエルの英雄サムソンがペリシテ人に神の力を失って捕らえられ、しかし最後は力を取り戻しダゴン神殿を破壊し多くのペリシテ人を道連れに死んだ、という物語。ゼルダのミドルネームがデリラと知った時にストリックランドがこの話に触れます。ストリックランドは自分をサムソンに例えるし、デリラはサムソンの恋人で彼の力の秘密を探りペリシテ人に密告する人物と同じ名前。そしてダゴンは古代に信仰されていた半人半魚の神様で、豊漁を司る神として広く崇められていたものの、この時に多くの信者を失い、のちにキリスト教では悪魔とされます。またダゴンラブクラフトによってクトゥルフナイアルラトホテップなどとともに旧支配者の一柱となります。ストリックランドは半魚人によって指を2本失うけれど、これはサムソンがダゴン神殿を崩壊させるときに2本の柱を倒すことを暗示しているのかも。

 この作品はダゴンとその信者たちが執拗に攻めるサムソンを倒してかつての神の地位を取り戻す物語ともいえる。ストリックランドはそれまでただの化け物としか見てこなかった半魚人を最後の最後で神と認めて死んでいく。だから怪物が出てくるファンタジーという部分以外でアンチ聖書なところがあって、よくこの作品がアカデミー賞取れたな、と観た後に別の意味でびっくりしてしまった。

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 ちなみに、ストリックランドというと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのマーティの天敵でもあるストリックランド教頭をまず思い起こすのだけど、日本語の響き的にも「ストリックランドStrickland」という名前は刺々しく厳しい印象を与えるがそのへんどうなんでしょう?実在する姓だろうけど英語でも悪役っぽい名前なのだろうか。f:id:susahadeth52623:20180321051750j:image

 ストリックランドを演じたのは「マン・オブ・スティール」のゾッド将軍ことマイケル・シャノン。いかつい顔はそのままだが、(鎧を着ていたからだが)上半身にボリュームがあったゾッド将軍に比べると身体がやけに細くアンバランスで、それが神経質そうなキャラの性質をより強調しています。ストリックランドは家庭では良き夫、良き父だが職場では最低な野郎で(トイレで手を洗わない)、そのストリックランドがイライザに好意を示すシーンがあるけれど、あれで連想したのは「スタートレックDS9」でカーデシア支配下ベイジョーでテロック・ノール(DS9)の司令官だったガル・デュカットがベイジョー人女性を愛人(うち一人はキラ・ネリスの母親でもある)にしていたエピソード。この権力に極端に勾配がある状況で行われるあのシーンは一見ストリックランドの人間性を示すようで実は、自分より弱いものに情を示すふりをすることで優越感を味わうという実に嫌なシーンである。

 またゼルダ役のオクタヴィア・スペンサーは「ドリーム」に続き宇宙開発の場で働く役だけど、こちらは清掃員という職種であり、時代的にも「ドリーム」の裏と思って見ると興味深いかも。ちなみに冒頭に「ハンサムな王子の時代が終わりに近づいた頃」と出てくるけれど、これはケネディ大統領のことで時代設定は1962〜1963年です。ただその辺ぼんやりとなので、僕は最初普通に現在が舞台で、それにしちゃやけに背景や小道具がレトロだなあ、とか思ってしまった。中盤以降朝鮮戦争の話などが出てきて時代に気付いた。

 ジェラルドはリチャード・ジェンキンズ。この人が出てきたSFホラー系作品だと「キャビン」でしょうか。ゲイであるジャイルズは好きになった男性に会いに行く時にカツラをつけるが、つけてない時のほうが素敵。ホフステトラー博士のマイケル・スタールバーグはどことなく中性的な不思議な魅力のある人で個人的には「メン・イン・ブラック3」が好き。

 主役のイライザにはサリー・ホーキンス。「パディントン」シリーズや「GODZILLA」に出演し、クリーチャーとの共演も慣れたもの。決して凄い美人というわけではなくどちらかと言うと近所にいそうな親しみのある容貌。元アイドリング!!!32号の関谷真由さんに似ている……というのは「パディントン2」の時にも書きましたね。今回はヌードもあり、また自慰シーンなどもあり必要なシーンかな?と思う一方で個人的にはノイズだったのでもうちょっとその辺はぼかした描写でよかったんじゃないか、とも思ったり。


THE SHAPE OF WATER | Official Trailer | FOX Searchlight

 デル・トロ監督が製作した「パシフィック・リム:アップ・ライジング」も公開間近。こっちは監督がTVシリーズの「デアデビル」や「スパルタカス」などを手がけたスティーヴン・S・デナイトが担当。予告編を観た限り、前作あってこその続編とはいえ前作より面白そう。僕的には適材適所、本来あるべきものがあるべき場所へ収まったという感じで楽しみです。

  • 関連記事 

susahadeth52623.hatenablog.com

  デル・トロへの期待値が大きすぎて個人的にはイマイチだったけど世間的には大ヒットした作品。

シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

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ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

 

  ギレルモ・デル・トロ監督は本作のような監督のわりとパーソナルな思いがあふれる作品のほうが好きなので次もこういう系を撮って欲しいなあ。しかしオスカーを得て、選択の幅も広がったはずで次こそは「狂気の山脈にて」を撮って欲しい!

ラヴクラフト全集 4

ラヴクラフト全集 4

 

 

実録ゆえの歪さ 15時17分、パリ行き

 クリント・イーストウッド監督最新作!俳優としては一応引退した身だが監督としては健在、今もコンスタントに新作を送り出している。僕も全部見ているわけではないが(前作観てないや)、新作が公開されればまずは気にかける監督の一人。今回も公開初日に観に行ったのだった。「15時17分、パリ行き」を観賞。

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  • 物語

 スペンサー・ストーンとアレク・カトラスの二人は幼なじみ。中学でそこに加わったのがアンソニー・サドラー。3人は学校に馴染めぬ一方サバイバルゲームなどで友誼を深めるが、アンソニーは別の学校に転校。アレクも父親に引き取られ3人はバラバラになる。それでも3人の友情は終わらなかった。

 大人になってスペンサーとアレクは軍に入隊する。スペンサーは志望のパラセーリング部隊に入れず、第2志望の部隊でも中々成果を出せない。ヨーロッパに駐屯するスペンサーとアフガニスタンで従軍するアレクは休暇期間中にヨーロッパ旅行を計画する。そこにアンソニーも加わってドイツ、イタリア、オランダと楽しむ3人。そして2015年8月21日アムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスに乗った3人は……

  最初にイーストウッドの監督最新作としてタイトルを聞いた時は「西部劇かな」?」と思ったのだが、これはイーストウッドのイメージと「3時10分、決断のとき(原題3:10 to Yuma)」からの連想だろう。タイトルにおもいっきり「パリ」と入っているのにね。

 正直本国などではあまり評判が良くないらしい。日本でも賛否両論といったところだが、根強いイーストウッドファンが多い事もあってそれなりに受け入れられている模様。僕自身は「面白かったけどかなり歪な映画だな」というのが最初の感想といったところ。事前に知っていた情報は、実際に起きたテロ事件をその当事者を主演俳優として起用し描く、という部分。その事件が具体的にどういうものかはあまり調べなかった。実在の事件を当事者を起用して描く、といえば2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」のハイジャックされながらも目標への激突を防いだ(しかし墜落して全員死亡)ユナイテッド航空93便の顛末を描いたポール・グリーングラス監督の「ユナイテッド93」を思い起こす人も多いだろう*1。僕も最初に作品情報を聞いて思い浮かべたのはこの作品。内容というか作品構成もテロが起きた前後をドキュメンタリータッチでリアルタイムに近い感じで描くのではないか?と思っていた。ところがこの作品はそもそもテロを描く作品ですら無かったのだ。

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 TVスポットなどでは「イーストウッドが描くテロとは」というような感じで宣伝されているが、この作品ははっきり言ってテロをメインに描くものではない。テロリストがなぜ?どうやって?テロを起こしたか?というのはほとんど描かれない。この映画は94分というわりと短い上映時間で大体4部構成となっているが、テロ事件そのものはその4部目で一瞬の出来事。それよりもこの映画が重視しているのはスペンサーというアメリカの一若者の苦悩だろう。

 最初はちゃんとプロの俳優で撮影する予定だったらしい本作。脚本作りのために当事者3人に聴きこみ取材をした際に「どうせなら本人に演じてもらおう」となったらしい。おそらくこの時点で作品の方向性も変わってきているはずで、フィクションとしての作劇はよりノンフィクションなものになったはず。通常の作品ならたとえ実話ベースであってももうちょっとクライマックスの事件と主人公のそこまでを絡ませたりすると思うのだが、何しろこれは事実を描いたもの。テロリストとヒーローとなった主人公たちの間には何の因縁もない。だからこれはテロに遭遇した若者を描く作品であっても「なぜテロが起きたのか」といったようなことを描く作品ではない。極端な話、テロでなくてただの列車事故でも良かったのだ。

 映画作品として歪なのは偶然がクライマックスにつながって物語が成り立っているので描写が積み重ねで出来ているわけではないから。そしてそれが他のフィクションと本作を隔てている。

 僕は事前に主人公を演じるのが当事者本人で、テロに対処した事件を描く作品と知っていても最初の中学生のスペンサーやアレク、その後の入隊してからも挫折するスペンサーの描写などで、こいつらがスクールシューティング起こすんじゃないか?と思うぐらい過去の描写が詳細。スペンサーとアレクはADHD(注意欠陥・多動性障害)を疑われ、母子家庭でもあるため、学校から疎まれている。母親はキリスト教系の学校に転校させるがそこでも二人は疎外感を味わっている。この2人に問題児であるアンソニーを加えた3人はサバイバルゲームに熱中。周りから浮いている軍オタという描写がやがて銃乱射事件に発展するのではないか?とこれがノンフィクションだと知っていても思ってしまうぐらい彼らの子供時代の描写が痛い。

 やがて成長しスペンサーとアレクは軍に入る。スペンサーはアンソニーの何気ない一言に奮起しこれまでにない努力をするが、本人の与り知らないところ(視力関係)で希望の部隊に入れない。

「これまでは何もしてこなった。何もしてないということはやればできる、と言う可能性を残すことだ。でも今回はやった。でもダメだった。それじゃあ希望はないじゃないか!」と言うような叫びを母親に訴えるシーンはぐっとくる。第2志望の部隊でも努力とは別にうまくいかない。挫折した軍人、という部分でも例えば「テキサスタワー乱射事件」などを思い出した。とにかくスペンサーを取り巻く未来が見えないため、どうしてもテロを止めるどころか主人公がテロを起こす未来が見えてしまうのだ。スペンサー・ストーンは軍人らしい巨漢といかにも白人といった白い肌が特徴。巨漢なので一見すると強面だが、よく見ると童顔で僕はレスラーのブロック・レスナーを思い出した。この巨大な身体に幼い顔が乗っているアンバランスさがまたこちらの不安を掻き立てる。この時点では彼らが英雄となる未来は見えない。

 ところがスペンサーの内面を描く描写はここで途絶える。中学、軍に続く第三幕はヨーロッパ旅行。ドイツ、イタリア、オランダと三人が本当に遊戯を深め楽しんでいる様が描かれる。ここは本当に楽しそうでカメラアングルもセルフィを使ったりしたものに。ここでは三人は演技というより素の自分を見せているのだろう。これまでのスペンサーの苦悩が嘘のようだ。

 そしてテロへ。実際の事件は乗務員が乗務員室に施錠して閉じこもった、という問題も起こしているが、その辺は描かれず、わりとあっさり巨漢の軍人であるスペンサーとアレクの二人がテロリストを取り押さえ、アンソニー(ともう一人三人とは別のイギリス人男性)がサポートする様子が描かれる。乗客が撃たれ、スペンサーもナイフで首を切られるが描写はあっさり。

 イーストウッドが描くのはテロでも事故でも何でも良かったのだろう。イーストウッドらしい骨太マッチョな描写だが、政治的にどうこうというよりは極限の緊急事態に人はどのように行動するのが正しいのか?ということを描いた作品という感じか。

 中学、軍でのスペンサーの挫折感がクライマックスでほとんど無関係(一応軍で習った応急処置が撃たれた乗客を助けるために生かされてはいる)だったりするのはやはりそれが実話だからなのだろう。主人公とテロの間には何の因縁もないだから。これが本人主演じゃなかったら脚色として過去とクライマックスにつながりをもたせると思う。僕は書いたように「本人が演じているとは知っててもこいつが銃乱射するんじゃないか」と思ったぐらいなのだが、そんな描写が許されるのも実話だから。実話の前には物語としてのつながりは通用しない。

THE 15:17 TO PARIS Trailer (2018)

 何度も言っているように一本の映画作品としてはかなり歪です。テロを描くものでもありません。ただその歪さ故にいわゆるノンフィクション映画ともまた違った緊張感、臨場感は味わえる代物かと。

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

  しかしイーストウッドは自身の出演作以外の監督作は基本ノンフィクションばっかりなんだね。

*1:管制塔の人は一部当事者

熊熊危機一髪 パディントン2

 2月ももう終わりで、相変わらずブログ更新をサボっていたわけですが、あれなんですね。はてなブログは更新が途絶えていると「そろそろ更新せえや」ってメール来るんですね。びっくり。というわけで新年は1日に前回の「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL」を観たきり全く劇場映画鑑賞をしていなくて、2月も半ばまではこれといった活動をしていませんでした。あまつさえ一時期文明と隔絶した生活を送っていたのでオリンピック他世間の話題から全く乗り遅れていたのでした。

 とはいえ2月後半からは遅れを取り戻すように観賞復活。人より大分遅れて観たのが今回の「パディントン2」で、これが最高に良かった!正真正銘年明け一発目ポール・キング監督作品「パディントン2」を観賞。ちなみに熊といえば赤カブト(銀牙)と片目のゴン(牙王)が真っ先に思いつきます。

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  • 物語

 ロンドンのウィンザー・ガーデンでブラウン一家の一員として幸せに暮らす熊のパディントン。その誠実な人柄でブラウン家だけでなく近所の人たちとも仲良くやっていた。ペルーにいるルーシーおばさんへの誕生日プレゼントを探していた時グルーバーさんのお店で飛びだす絵本を見つける。世界に一冊しかないロンドンの名所を紹介した特別な絵本。パディントンはこの絵本をおばさんのプレゼントに決めたが高価なためアルバイトに励むのだった。

 そんなある日、グルーバーさんの店に泥棒が入り絵本を盗む。その場に居合わせたパディントンは泥棒を追いかけるが逃げられてしまう。そして到着した警察はパディントンを犯人として捕まえてしまう。実は絵本には隠された秘密があって、それを狙った落ち目の俳優ブキャナンのしわざだったのだ。ブキャナンの嘘の証言もあってパディントンは刑務所へ。

 ブラウン一家はパディントンの無実を信じ、真相を見つけようとする。一方パディントンは無頼者揃いの刑務所でもいつもの誠実さで囚人たちに慕われていくのだった・・・

  前作はその年のベストテンに選んでいるけど、ちょうどブログの更新が途絶えがちになった時期でもあって独立した感想記事は書いていない。のでちょっとこちらで前作の補完も。

 この作品はイギリスの作家マイケル・ボンドの絵本。僕は映画が作られて初めて知ったのだが1958年に出版され、日本でも複数の出版社からシリーズが発売されている。作者のボンド(ジェームズ・ボンドとは無関係)は前作に特別出演していたが2017年の6月に91歳で亡くなった。本作はボンドに捧げられている。

 前作で面白かったのは、「喋る熊」というパディントンの特色をブラウン一家はじめ良い人達はそれを特別視しないこと。もちろんパディントンは熊なので、その点で怖がったりする部分もあるのだが、基本的にはあくまでパディントンの人柄で評価して受け入れているのだ。パディントンの「喋る」部分に興味を持つのはニコール・キッドマン演じるミリセント・クライド。父親の冒険家がルーシーとパストゥーゾ(パディントンの育ての親グマ)を友人として扱い、熊の居場所を明らかにしなかったため学会を追われた。ミリセントはその復讐を「喋る熊」パディントンを捕まえ剥製にして展示することではらそうとしている。登場人物で唯一パディントンの「喋る」部分に拘りながら、その喋る部分を一切生かせない剥製にしようと頑張るのが実に倒錯していてまた悪役としてよく出来ていた。厄介者のご近所カリーさんも「熊怖い」であっても喋る部分にはとくに恐怖を覚えていないというか。

 実はちょっと特殊な能力を持つ主人公が上京(便宜上の言い方)してそこに馴染み新しい家族を見つける、という物語は大デュマの「ダルタニャン物語」など定番で、僕は宮﨑駿の「魔女の宅急便」を連想した。あれも主人公が魔女であり箒に乗って空を飛べる、というのを主人公の特性として尊重はしているものの周りの人達は特に重要視すること無くあくまでキキの人柄をもって受けいれている。空飛ぶ能力を重要視するのはトンボだけで、トンボは悪役ではないが、そのゆえにキキを危機に巻き込む(駄洒落になってしまった)。 

魔女の宅急便 [DVD]

魔女の宅急便 [DVD]

 

 今回は評価の高かった前作を受けてスタッフ/キャストがほぼ続投。順当に物語の規模がパワーアップした正統派の続編映画となった。

 前作ではパディントンがブラウン一家に受け入れられるまでを描いた物語だったが、今作はその辺はもう心配なし。逆にウィンザー・ガーデンの他の住人との交流が描かれる。ウィンザー・ガーデンには人種民族様々な人が暮らしていて、インド系の学者もいれば退役軍人もいる。ロンドンに例えばアメリカのニューヨークほど多人種が暮らす都市というイメージはないが、そこは古くから繁栄した国際都市で、ありとあらゆる人たちが暮らしている。つまりパディントンもそんな移民たちの一つに過ぎないのだ。人間じゃないキャラクターを移民として描くというのはそれこそスーパーマンから続く表現ですね。昨今はイギリスのEU離脱などもあり、ナショナリズムによって人々の心が狭くなって(これはイギリスばかりではなくアメリカでも日本でもその傾向が強くなっていて由々しき事態だ)来ているが、そんな風潮に警鐘を鳴らす作品でもあろう。というか別にそんな社会派作品として観なくても全然いいのだが、もっとおおらかになろうよ、という感じ。

 ブラウン一家は今回はもう完全にパディントンを一家の一員として受け入れていてそこが乱されることはない。パディントンの無実を晴らすための捜査の方針でヘンリー(かつてはワイルドだったが、結婚と子供の誕生を機に堅実になったリスク管理会社に務めるサラリーマン)とメアリーらが揉めたりするものの全員一丸となってパディントンの無実を晴らそうと動く。ジュディとジョナサンのこどもたちもしっかり成長している。メアリー役のサリー・ホーキンスゴジラパディントンと、この後に「シェイプ・オブ・ウォーター」で半魚人とも共演する今最も羨ましい女優(半魚人大好きです)。いわゆる美人というよりはチャーミングな感じ(前作の時点で超美人であるニコール・キッドマンとの対比もあったと思う)。人間ではパディントンの一番の理解者で今回も頑張ります。あれですね個人的に関谷真由さんに似ているとこも好感が持てます。

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 刑務所でもパディントンはその誠実な人柄とマーマレイドレシピのお陰で囚人や看守から慕われ、刑務所の待遇改善までしちゃうところはさすがハートフル・コメディいったところ。ガタイがでかいいかにも暴れん坊といった風体のキャラほど実は料理や家事が得意、みたいなのも定番ではありますな。

 そして悪役はヒュー・グラント。かつての売れっ子、今は落ち目の俳優で今回はその芝居で養った演技やメイキャップを駆使してパディントンやブラウン一家を翻弄する。セレブを装ってはいるが今はお金に困っているブキャナンは絵本の秘密を知っていて…

 ヒュー・グラントはわりとTHEイギリス俳優!というイメージ。それこそ金髪碧眼の美男子という定型的な白人俳優で他にイギリスの俳優として思いつくユアン・マクレガーなんかと比べてもイギリスらしさが全面に出ていると思う。その意味では多人種多民族だったウィンザー・ガーデンにあって支配層でもあるイギリス人のイメージ(故に逆に異物)なのかもしれない。そういえばウィンザー・ガーデンのブラウン一家などが住む家って多分建売というか同じ構造の戸建てが連続して並んでると思うんだけど、これ「死霊館エンフィールド事件」の舞台となった家と多分同じ構造なんだよね。もちろん色味から何からぜんぜん違うんだけど。

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 ブキャナンがメアリーを自宅に招いた時にブキャナンの若いころの写真が部屋中に飾ってある描写があって、これはブキャナンのナルシズムを笑うところなんだけど、ここで飾ってあるのはもちろんヒュー・グラント自身の若いころの写真。これが本当に美男子なんだよね。もともとロマンティック・コメディで人気を博した人で、この作品なんかもユーモラスな部分が強調されているけれど、若い頃は男も惚れそうな美男子で、そりゃこんなルックス生まれたらナルシストにもなりますわ(グラント自身がどうかは知らないが)。

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 今回は初回は日本語吹替で観賞。前作はパディントン松坂桃李、ヘンリーに古田新太、メアリーに斉藤由貴、ミリセントに木村佳乃といったいわゆるタレント吹替全開のキャスティング(僕はよく知らないのだけどジュディ役の三戸なつめも)。なので不安も不安で前作公開時は字幕版を選んだ。でも公開前の年末に1作目がTV放送されて、そこで初めて日本語吹替版を見た。そしてこれが実に良かったのですよ。なんといっても松坂桃李パディントンのとにかく丁寧で誠実な語り口がこちらによく伝わってくる。丁寧さではオリジナルのベン・ウィショーを上回るかもしれない。ご存知のように松坂桃李は「侍戦隊シンケンジャー」の主人公、志葉丈瑠としてドラマデビュー。スーパー戦隊はちょうどこの「シンケンジャー」からオールアフレコではなく、素顔での演技は同録となったものの、もちろん変身後やアクションシーンなどでアフレコするシーンもあっただろうし、そういうところで鍛えられたのでしょう。他のキャストも良かったので、今回は日本語吹替と字幕両方を最初から観る気満々であったのです。

 前作のニコール・キッドマン木村佳乃に変わってヒュー・グラントには斎藤工斎藤工自身のアフレコ、声優としての技術がうまいかはよくわからないが、グラントの大げさな演技にはあっていた。声優だと森川智之に近い声質。もちろん実際のグラントとは歳が離れていて若い声なんだけど、何しろミュージカル的な部分もあるので今回のヒュー・グラントにはぴったりだったと思う(他の作品だったらどうかは分からないが)。

 残念だったのはサリー・ホーキンスのメアリーの声が斉藤由貴から変わっていることですね。なんかスキャンダルがあって降板したらしいのですが……とはいえ替わった石塚理恵さんも素晴らしかったです。

 作品は前作ではそれほど多くはなかったアクション面でも強化され、舞台が大きく広がったこともあって大満足。前作が良かった人なら問題なく楽しめるでしょう。倫理や表現の限界に挑むような作品で賛否両論になるのもいいけれど、とにかく丁寧に不特定多数が楽しめるように作られた作品も良いものです。

 今回唯一残念かな?と思った部分はカリーさんですね。前作でも近所の厄介さんとしてパディントンを毛嫌いしミリセントと組み、でもミリセントがパディントンを殺そう(剥製標本にしよう)とすると密かに(すぐバレるけど)ブラウン一家に情報を与える役柄で、一応善性が示されていたのだけれど、今回は一人自警団として住人にパディントンの危険性を説き回り最後まで良いキャラにはならなかったのは少し残念(ラストのブラウン家に集まる人達の中にもカリーさんはいなかったと思う)。別に完全に改心する必要はないんですよ。もし新作が作られたらまた厄介さんとして登場してくれて良いのです。でも根っからの悪い人でない部分は示してほしいかな。


PADDINGTON 2 - Official Film Trailer (International)

 とにかく丁寧に作られた誰でも楽しめる作品だと思います。

 ラストもハッピー!「カンフー・ヨガ」とかと最近こういうエンディングが心地よい。年取ったかな。

クマのパディントン

クマのパディントン