The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

思いがけない客、思いがけない旅 ホビット 思いがけない冒険


 はい!そういうわけで今年のベスト第4位に輝いた「ホビット 思いがけない冒険」です。あの「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの前日譚、ビルボ・バギンズがひとつの指輪を手に入れるきっかけとなった冒険です。

物語

 中つ国の第三紀。地面の穴の中には1人のホビットが住んでいました。名前はビルボ・バギンズといいます。あるとても気持ちのいい日に家の前でパイプ草を吸っていると魔法使いの灰色のガンダルフがやってきて彼を冒険に誘いました。ビルボはとんでもないと断りましたがガンダルフは家の扉に何かを施して去っていきます。あくる晩、ビルボが夕ご飯を食べようとした時、呼び鈴がなりました。出てみるとそこには招いたはずのないドワーフが立っていました。そのドワーフは勝手にビルボのご飯を食べてしまいました。また呼び鈴が鳴りました。今度は誰だろうと思い出てみるとまた別のドワーフでした。そうしていつの間にか家の中がドワーフだらけになってしまいました。そこにガンダルフがやってきてやっと説明を受けました。彼らはかつて栄えたドワーフの王国の者たちではなれ山に黄金を蓄えていましたが、欲深い魔竜スマウグに乗っ取られてしまったのです。スマウグが姿を見せなくなって60年経って彼らは今こそ王国を取り戻す時だと考えました。ドワーフの王トーリン・オーケンシールドはそのための仲間探しをガンダルフに頼んでいて、ガンダルフが選んだのがビルボ・バギンズというわけです。しかし、ビルボはとんでもないと断りました。バギンズの家からは冒険に出たり厄介を起こすうような者はこれまで1人だっていなかったからです。ところがビルボはホビットらしくないことで有名なトゥック家のベラドンナ・トゥックの息子だったのです。
 朝になって、ビルボが目を覚ますと魔法使いとドワーフはすでに旅立った後でした。最初は一安心と思ったものの、ビルボは冒険に出たくてたまらなくなりました。急いで身支度を整えるとビルボはガンダルフたちを追いかけました。後に中つ国の運命を揺るがす思いがけない冒険のはじまりです。

 映画化不可能と言われたJ.R.R.トールキンの「指輪物語*1を見事に三部作で映画化したピーター・ジャクソンがその前日譚「ホビットの冒険」を映画化。「ロード・オブ・ザ・リング」が完結した直後くらいから次の企画として噂は立っていましたがその時はピーター・ジャクソンは製作に回って「ヘル・ボーイ」シリーズ、「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロが監督するということになっていました。実際プリプロの段階までは彼で進んでいたらしいのですが、結果として彼は降板、ピーター・ジャクソンその人が後を継ぐことになりました(デル・トロは脚本でクレジット残っています)。
 「ロード・オブ・ザ・リング」は3部作の原作をその通り3部作で撮る、しかもまず一作目を作ってその興行成績の如何によって2作目を制作するか決める、とかではなく、一気に3部作同時制作をするという手段を取りました。このおかげで作品でばらつきが出ること無く同じクオリティでシリーズは完成しました。もちろん長大な原作なのでそれでも省略されたり、構成を変化した部分はありますが画期的な出来事でした。結果3作目の「王の帰還」はファンタジー映画としては異例のアカデミー賞作品賞、監督賞含む11部門を受賞しました(それでも男優賞、女優賞が無かったのがまだこの手の映画に対する偏見を感じます)。
 一方「ホビットの冒険」は「指輪物語」より17年前の1937年に出版された中つ国を舞台にした物語群の最初の作品です。作品は児童書として執筆され物語の内容も北欧神話的な苛烈さを伴う「指輪物語」に比べるとだいぶん牧歌的です。今回の映画は「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズとは逆に元々一冊(日本語訳はいくつか種類がありますが最も入手しやすい岩波少年文庫瀬田貞二訳だと上下ニ巻です)の原作を3部作に分けて映画化することになりました。そのため「指輪物語」や「追補編」と言った後続の作品から逆に設定やエピソードを追加して物語や世界観に膨らみをもたせています。また、いずれ来る指輪戦争の影も落ちて、ちょっと暗めに仕上がっています。それでも「ロード・オブ・ザ・リング」に比べると全体的に明るいです。今回も3部作同時製作とのことなので途中で失速することはないでしょう。
 僕は中学の時に友達から勧められて「ホビットの冒険」と「指輪物語」を読みました。当時仲間たちの間ではテーブルトークRPGが流行っていて、それは主に「ロードス島戦記」などの影響によるものなのですが、それに伴い海外のファンタジー小説なども読むようになり、その大元の作品としてトールキンの諸作品を読んだのです。「ロード・オブ・ザ・リング」が公開された時には「指輪物語」の方は自分で買って読み直したのですが、「ホビットの冒険」の方はそれっきりでした。今回は映画を観る前に映画の「ロード・オブ・ザ・リング」3部作を観直してから鑑賞。IMAX3Dの吹替です。そしてあまりの素晴らしさにそのまま原作を購入。それを読みつつ「旅の仲間」を観直して、もう一度今度は字幕版を鑑賞という形で今に至ります。169分という長さですが全く気になりませんでした。
 物語はビルボ・バギンズが自分の誕生日を前にかつての冒険を書き記すところから始まります。演じるのは「旅の仲間」でビルボを演じたイアン・ホルム。甥のフロド・バギンズも登場、もちろんイライジャ・ウッドが演じているのですがこれが眩い美少年!なんだか以前よりも美少年度が増したような気がします。そして彼はビルボの誕生日を前にガンダルフを迎えに行きます。そう、「旅の仲間」の冒頭につながるのですね。そして「ホビットの冒険」の時代へ。ドワーフの王国が滅んだ訳を説明し、先に書いたあらすじへと至ります。以前「旅の仲間」公開時にゲーム雑誌「ファミ通」で確か浜村通信だと思ったのですが「RPGとしてみた場合、人間の戦士2人、エルフ1人、ドワーフ1人、魔法使い1人はまだいいがホビット4人というパーティー構成はバランスが悪すぎる!と言っていたのが記憶にあるのですが、今回は魔法使い1人、ホビット1人、そして屈強なドワーフ13人というバランスとか考えていたら到底考えつかないような人数構成です。これだけいるとキャラクターの個性がこんがらがってわけが分からなくなるものですが(実際原作は特に書き分けていません)、そこはビジュアルと行動で見事に描き分けています。そんなドワーフ達は以下のとおり。

左から、ノーリ、フィーリ、ドーリ、ボフール、グローイン、ドワーリン、トーリン、バーリン、オイン、ボンブール、ビフール、オーリ、キーリ。
 まあ最初はこんがらがるけれど、そのうち分かってくると思います。このドワーフの中でリーダーはトーリンでドワーフの王、ドゥリンの孫、スロールの息子。かつてモリアに攻めてきたオークの王アゾグの猛攻を樫(オーク)の枝を盾(シールド)として防ぎ、勇敢に戦ったことからトーリン・オーケンシールドと呼ばれています。彼がビルボに続く主人公といえるでしょう。
 演じるのはリチャード・アーミテージ。「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」でヒドラのスパイとしてアースキン博士を殺害しキャップの最初の敵となる役で出ています。ちなみに彼は舞台デビュー作品が「ホビットの冒険」でそこではエルフを演じていたそうです。
 次に重要なのはバーリンとドワーリンの兄弟でしょう。彼らはトーリンにずっと付き従っているドワーフ歴戦の戦士です、ドワーリンは「水滸伝」の花和尚魯智深や「ロビンフッド」のタック和尚を思わせる坊主姿の巨漢(ドワーフの中では)。そしてバーリンはドワーリンの兄で13人のドワーフの中では最年長で参謀役。彼は「旅の仲間」でモリアを長老として名前が出てきますね、残念ながらその時点ではすでにオークの犠牲になっていましたが。
 次にトーリンにつながる王族の家系でまだ年若いフィーリとキーリの兄弟。彼らはスマウグによる王国の滅亡やオークとの戦争の後に生まれたせいかどこか苦労知らずな面もあります。「旅の仲間」で言うところのメリーとピピンにあたる役どころですね。この兄弟の特筆すべき点はそのルックスの良さと顔の小ささ(スタイルの良さ)でガンダルフやエルフなど他の種族との対比がなければ普通にドワーフではなく人間だと思ってしまいそうです(実際予告編の時点では人間なのかなあ、などと思っていました)。ちなみに中つ国の種族はエルフが人間と同じかちょっと長身、ドワーフは140〜150cmぐらい。そしてホビットは更に小柄な130〜140cmぐらいという感じです。ドワーフのイメージは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでは主にギムリが荷なっているため、小柄ながらもずっしりした顔も大きめのずんぐりむっくりのイメージがあるのですが、見事にそれを覆い返しました。フィーリは髭さえなければエルフが似合いそうな細面ですし、キーリはジェシーおいたん(byフルハウス)を思わせる濃い目の美青年です。中つ国でも有数の美男子ですが、案の定、原作にはない展開として今後キーリには恋愛パートの担当が待ち受けているそうです。
 ギムリといえば彼の父親がグローインで、多分役者は違いますが「旅の仲間」の裂け谷の会議において彼も出席しています。
 その他、大食いのボンブール、ゴブリンの玄関で一瞬ビルボと心を通わせるボフールなどそれぞれに魅力的ですが、個人的には末っ子キャラ(実際の最年少はキーリなのですが)のオーリが印象深いです。ドワーフの中ではちょっとおとなし目で戦闘はパチンコで、その童顔とも相まって人の良さが前面に出ています。

 もちろん主人公はビルボ・バギンズです。晩年をイアン・ホルムが演じましたが、今回メインとなるその青年時代を演じたのはマーティン・フリーマン。「銀河ヒッチハイクガイド」などで人の良さそうなキャラを演じていますが、今回もとても善良なホビットを演じています。
 ビルボはホビットとして平均的な人物を装っていますがその奥底にある冒険心をガンダルフに見透かされます。彼はバギンズ家の一員ですがトゥック家の血も引いているのです。トゥックと言えば「旅の仲間」のピピンことペレグリン・トゥックですね。あの憎めないトラブルメーカー(「旅の仲間」では僕が一番好きなキャラクターです)のピピンはまぐれもなくトゥック家の一員でした。ビルボは甥のフロドよりむしろピピンとメリーに似ている気がします。彼はドワーフたちに比べて非力な(といってもホビットの運動能力は見た目よりもずっと優れているのですが)身ですが、それでも知恵と機転で冒険の役に立っていきます。ひとつはトロルたちに馬を奪われた時に今まさに焼かれようとするドワーフたちを助ける時間を稼ぐために口からデマカセを言います。結果としてトロルたちは石に!ところでここで出てくるトロルの名前はトム、バート、ウィリアムと言います。今でも英語圏では普通に使われている名前ですね。もしかしたら彼らの名前は人間に受け継がれているのかもしれません。ちなみにこの石になった3人のトロルは「旅の仲間」でも石になったまま出てきます*2
 もう一つは、ラスト近く彼はトーリンに足手まといだと言われますが、そのトーリンを救うためにアゾグに挑みなんとかトーリンを助けます。これによって彼はトーリンから認められ、正式に仲間となるのでした。
 彼のエピソードで重要なのはやはりゴクリ(ゴラム)との出会いとそれに伴うひとつの指輪の入手でしょう。彼はゴブリンの隠れ家の地下深くでゴクリと出会います。そしてひょんなことから彼の大事にしている指輪を手に入れますが彼となぞかけをして(かなりインチキな手段ではありますが)勝利するのです。「旅の仲間」ではフロドが「ビルボが会った時に殺しておけばよかったんだ」と言いガンダルフが「情けじゃ。情けがビルボの手を止めた」と答えますがそのシーンもきっちり再現されています。ゴクリを演じているのは「ロード・オブ・ザ・リング」でゴクリを演じ「キングコング」ではコング(コックさんも)、「猿の惑星 創世記」では類人猿の救世主シーザー演じたアンディ・サーキス。今回は撮影第2班の監督も務めています。ただ、原作ではゴクリとひとつの指輪はその後の運命はまだ語られず、単に姿を消せる魔法の指輪としての描写のみ。映画でも本来ここで終わりになるはずだけれど、ピーター・ジャクソン監督はゴクリに思い入れがあるようだし、後の「指輪物語」との整合性も重要視しているようなので次でも何らかの形で出てくるかもしれません。
 「ロード・オブ・ザ・リング」から続いて出演しているのは灰色のガンダルフ。もちろんイアン・マッケランが演じています。ガンダルフは「二つの塔」で一度生まれ変わり白のガンダルフとしてより強力になりますがイアン・マッケランは灰色のガンダルフの方が好きだそう。白の魔法使いになると若干人間味が減るのでそれは分からないでも無いです。よく誤解されるのだけれど中つ国における魔法使いは「魔法を使える人間」ではなく「魔法使い」という種族です。厳密に言うとマイアールと呼ばれる、創造主(のような存在)の使いが人間のような肉体を持った存在。我々の社会で言うとキリスト教の天使や仏教の天部が人間の血肉をまとったものという感じでしょうか。冥王サウロンバルログも元はマイアールです。
 ガンダルフは不死の存在ですが、演じたイアン・マッケランは若干歳を取ってなんだかより偏屈な頑固爺いの様相。ドワーフたちをサポートしつつも時折喧嘩をし、ぷいっとどこかへ消えてしまったりします。彼自身の存在がジョーカーみたいなものなので、ずっといっしょにいるというより、ここぞという時に切り札になるようなキャラクターなのですね。
 その他裂け谷のエルロンドにメガトロンことエージェント・スミスことVことヒューゴ・ウィーヴィング。そしてガラドリエルの奥方にケイト・ブランシェット。この二人も「ロード・オブ・ザ・リング」から続投ですが、エルフのメイクも相まって神秘的な美しさ。
 そして、白のサルマンことクリストファー・リー御大も登場します。彼はここではちょっと扱いが悪いですが、彼が登場することでこの冒険が後々指輪戦争につながるのだということが認識させられます。ただ、彼がしゃべっている間、ガンダルフガラドリエルが心で内緒話してるのはちょっとかわいそうでしたね。クリストファー・リー御大は生前のトールキンと親交があったそうで(彼はイアン・フレミングのいとこでもあります)、彼自身相当な「指輪物語」ファンだそうです。「ロード・オブ・ザ・リング」では「王の帰還」におけるサルマンの扱いに不満を持ってピーター・ジャクソンと少し揉めたという話もあったのですが、ここで出演しているということで一安心。ちなみに揉めた内容というのは「王の帰還SEE版」冒頭でサルマンはアイゼンガルドにおいて部下だった蛇の舌グリマを罵った挙句彼に刺されて死亡しますが、これを原作通りエピローグ的なホビット庄の放蕩において死ぬ形にして欲しかった、ということのようです。まあ、さすがにあのあとホビット庄での一悶着入れると長くなり過ぎますのでしょうがないかなあ、という気もします。
 魔法使いはもう一人茶のラダガストという人物が登場します。彼は森に住み動物たちと心を通わせる存在で、他の魔法使いからは変人扱いされています。まあ、一般の人々からすると魔法使いは全員もれなく変人ですけどね。
 
 1冊の原作を3部作にしたことでおそらく意図的に「旅の仲間」と対比される部分が多く出てきます。例えばホビット庄から始まり中盤に裂け谷が出てくる、ガンダルフが蝶を介してワシの王(グワイヒア)に助けられてピンチを脱するシーンなどです。次の作品でもおそらく「二つの塔」と対比されるシーンが出てくることでしょう。
 グワイヒアの救出シーンでは「最初からそれで行けよ!」というツッコミが「王の帰還」の時から見受けられますが、彼らはガンダルフの使い魔ではありません。きちんと自分の意志を持った気高い種族です。なのでいつでも自由に使えるわけではないのですね。まあ、映画ではそこまで分からなくても、極端な話そういうツッコミは野暮、それで得意になってる人は粋ではないなあ、と思ってしまいますね。物語のカタルシスや定形を「ツッコミどころ」という名の下に茶化す最近の傾向は正直余り好きにはなれません。もちろん自戒も込めて!ですが。
 今回は悪の勢力指輪物語時点のようにまだサウロンの下にまとまっているわけではありません)としてアゾグの率いるオークの一団と岩山に住むゴブリンが登場します。ゴブリンとオークは原作では同じ存在で、「ホビットの冒険」ではゴブリン、「指輪物語」ではオークと呼ばれる呼称の問題に過ぎませんが、映画のほうでは別な種族になっています。オークは人間大の種族でゴブリンはドワーフと同じくらいの大きさの種族です。これは映画だけを見ている人にも分かりやすくていいと思います。お陰でトーリンとアゾグの因縁が際立ってよりドラマティックになっています。オークは気のせいか「ロード・オブ・ザ・リング」時点より体格が良い気がしますが、あの頃と今回では食糧事情が違うのですかねえ。彼らが乗るワーグ(魔狼、アクマイヌ)も単にオークに飼われているわけではなく同じ邪悪をよしとするもの同士、手を組んでいるのです。
 
 「ホビットの冒険」が描かれたのは1937年、「指輪物語」は1954年です。トールキンはこの物語をあくまで英語圏における英語による神話(つまり中つ国の住民がそれぞれの言葉の他に英語を使っているのは当然のことなのです)として作っているので当時の事象は参考にされていません。トールキンは自作が現実の出来事の代替として評価されることを嫌っていましたが、一般に「指輪物語」には第二次世界大戦の惨禍が影響を与えている、等と言われてしまいます。ですがそれは逆にトールキンを貶めることにつながってしまうかもしれません。ここは純粋に現世のことなど忘れて中つ国に浸りましょう。
 
 とにかく、まだ平和な頃の中つ国を綿密に描写していることである意味「ロード・オブ・ザ・リング」より世界観の構築はうまくいっています。続編はそれぞれ2013年冬、2014年夏に公開らしいですが、ほぼ傑作になることは確実視しつつ、期待に胸を膨らませて待っています。

 今回はまずIMAXの3D吹き替え版で観ました。僕は特に気にしていなかったのですが、これは「HFR "High Frame Rate"」というバージョンでの上映だったようです。通常一秒間に24フレームというのが基本ですがそれが48フレームになったとのこと。確かにシーンによっては気持ち悪いぐらいに滑らかな部分もありました。でもそれも含めて映像は素晴らしかったですね。
 僕は今回は積極的に吹替で鑑賞しようと決めてました。というのも「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでは原作の定本翻訳である瀬田貞二を無視して一般名詞をカタカナにしてしまうような酷い字幕で監督自身からも「字幕担当者*3を今後は関わらせないでくれ」と請願されたという話もあるくらい原作を無視したものだったからです。
 トールキン言語学者で、基本的に翻訳の際は固有名詞以外はその国の言葉に訳すようにと指示しています。例えばゴクリは自分の名前も忘れたスメアゴルが喉を鳴らしてつばを飲み込む音「ゴクリ」から来ています。だから本来「ゴラム」では意味が通じないわけですね。国によってはもっと徹底して固有名詞(人名など)であってもそれに意味が付いている場合はその国の言葉に訳している場合もあるようです。これは例えばインディアンの言葉で「どっしり座った牡牛」という名前を英語で「シッティング・ブル」と表記し、更に日本語にする際は「座る牡牛」と記すみたいなものでしょうか。そういうものなので、本来は(日本語が第一言語な人なら)日本語で堪能するのが最高だと思います。字幕の酷評に対して「ロード・オブ・ザ・リング」は公開当時から日本語吹き替え版は最高の評価を受けてきました。今回も事前のキャスティング表を見る限り、タレント吹替など無いし前シリーズ同様の高いレベルの吹替が堪能できると考え吹替で観ることにしました。前シリーズと共通のキャラクターではガンダルフの声を担当した有川博氏が2011年に亡くなったため、羽佐間道夫氏に交代しましたが、それ以外は特に変更はありません。
 そして吹替は最高だったのですが、一つだけ気になったことが。途中「死人使い」というキャラクターが出てくるのですがこれを「死人使いネクロマンサー」と呼ぶんですね。ネクロマンサーというカタカナ言葉がちょっと気になってしまいました。ここは「死人使い」だけで良かったと思います。
 ビルボの声はシュー先生こと森川智之氏、トーリンに東地宏樹氏、そしてドワーリンに玄田哲章氏などが万全の安心感で声を当てています。クリストファー・リー御大も安心の家弓家正氏!
 しかし、やはり一番はチョーさん演じるゴクリでしょうね。ビルボとゴクリのなぞなぞシーンはアクションこそないですが一番の見せ場だと思いますが、正直声の演技だけで言えばアンディ・サーキスのオリジナルを越えていると思います。

ホビットの冒険 オリジナル版

ホビットの冒険 オリジナル版

映画 ホビット 思いがけない冒険 オリジナル・サウンドトラック

映画 ホビット 思いがけない冒険 オリジナル・サウンドトラック

 音楽は「ロード・オブ・ザ・リング」同様ハワード・ショア。全体を貫くテーマ曲は今回も健在ですが、それ以外にトーリンたちが故郷の奪還を願って歌う「霧ふり山脈」を元にした「はなれ山の歌」がドワーフのテーマ曲として随所に使われ、重厚さを盛り上げます。
 
 「ホビット」は一つの大きな物語、と言うよりは小さなミッションをクリアしていくといういかにもファンタジーRPGのような作りです。そのため小さな盛り上がりが幾つもあって逆に退屈してしまいそうになるのですがそこはピーター・ジャクソンの底力とでも言うのでしょうか、全く飽きることなく、むしろここで終わってしまう寂しさすら感じる作品になっています。ゴブリンのところで見受けられるスラップスティックインディ・ジョーンズ風のアクションやユーモラスでそれなりに魅力的であるトロルとの戦いなど現時点では悲壮さは少ないのですが、それでも見た人の冒険心をくすぐる優れた作品といえるでしょう。

息もしないで 生きていて、
死んでるように つめたくて、
のどかわかぬが 水をのみ、
よろい着てても 音もせぬ。

答えはなあに?

*1:過去にはアニメーション監督のラルフ・バクシロトスコープという気の遠くなる手段で綿密なアニメーション映画を作ったけどあまりに綿密過ぎて「二つの塔」の途中で製作が終わってしまい文字通り爆死

*2:SEE版だけだったかもしれません

*3:ちなみに戸田奈津子氏です