The Spirit in the Bottle

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裂け目に沈むイェーガー パシフィック・リム

 記憶を遡る限り、一番最初に映画の面白さに目覚めたのは小学校に入る前に親戚の家で見たTV放送された1933年の「キングコング」である。戦前の白黒映画だが、巨大ゴリラと恐竜の戦い、現実に存在しないはずの恐竜たちの存在感。子供にも分かりやすいある種究極のラブストーリーに魅了された。劇場で映画を初めて観たのは1984年の「ゴジラ」。この2つの怪獣映画がある意味、僕の嗜好を決定づけたといってもいいかもしれない。
 ただし、怪獣映画として僕が大好きだったのは1965年から始まる「ガメラ」シリーズである。というのも僕が小学校低学年のころは、土曜日の昼間ぐらいから頻繁にガメラシリーズを放送していたこともあって、白黒だった「大怪獣ガメラ」はそうでも無かったが、カラーになった2作目「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」以降は一番身近な怪獣映画だったからだ。ゴジラシリーズも「キングコング対ゴジラ」「三大怪獣地球最大の決戦」あたりは放送していた記憶があるが、1954年の1作目を初めてみたのは高校の頃だったし*1、他の作品も大学に入ってからレンタルで初めて見たというのが多い。もちろん1984年からの通称「平成VSシリーズ」は全部劇場で観ているのだけど、それでも「ゴジラVSビオランテ」が小学6年の時であることを除くと、後は中学から高校にかけてなのでやはり、子供の頃、というのとは少し違ってくるのだな。
 ガメラシリーズはゴジラと違って最初から子供好き、という設定が存在してたし2作目以降の善玉怪獣となってもその造形はそれほど変わらなかったこともあってゴジラの善玉化に比べると違和感は少ない。また中期以降の日本人の子どもと外国人の子供(もちろん流暢に日本語を喋る)のコンビが出てくる構成や軽快なガメラマーチも僕は大好きだった。やはり子供時代にリアルタイムで接した作品というのは格別で、後に金子修介監督による平成三部作が作られ、僕も観ているし高い評価を得ているが好きなガメラといえば圧倒的に昭和ガメラ。ましてや平成ガメラシリーズを持ち上げるあまり昭和ガメラを貶められるとカチンと来てしまう。
 怪獣映画以外でも自分が子供時代を過ごしたのは1980年代だが、当時放送していた子供番組やアニメというのはあまり覚えておらず、むしろ当時再放送されていた70年代の番組こそ自分の核となっているのでは、と思うこともある。小学校の頃にリアルタイムで接することの出来た作品で大ファンだったと覚えているのは「キン肉マン」、「戦え超ロボット生命体トランスフォーマー」と「ゲゲゲの鬼太郎」第3期ぐらいか*2
 さて、そんな怪獣映画であるが、海の向こうでも人気のコンテンツである。日本の怪獣映画はそのキャラクター性と単なる巨大生物ではない特異さが特徴となって海外でも広く人気を集めている。小さい頃に日本の怪獣映画を見て育ったというクリエイターも多く、人によってはその影響を隠すことなく自分の作品内で表現したりもする。代表はティム・バートンで「ピーウィーの大冒険」では終盤なぜかゴジラを撮影している(アメリカの)映画スタジオが登場したりするし、「マーズアタック!」でも「VSビオランテ」の映像が流用されていた。スピルバーグも「ゴジラ」の大ファンだったという。そんな日本の怪獣映画へのリスペクトを込めたといわれるギレルモ・デル・トロ監督の「パシフィック・リム」を観賞。

物語

 太平洋の海溝の裂け目から怪獣が出現、環太平洋諸国は人型巨大兵器イェーガーを開発してこれに対抗する。イェーガーは複数のパイロットが精神をつなぎあわせ(これをドリフトという)操縦する。アメリカの誇るイェーガー、ジプシー・デンジャーを操るローリーは怪獣との戦いで共同パイロットの兄を亡くし失意の中パイロットを辞める。それから5年、より強力になった怪獣たちの脅威の前に人類はイェーガーではなく巨大な壁を作って防御する政策に方針転換。その前に環太平洋司令軍のペントコストは各国のイェーガーを一同に集め、敵の出現場所である裂け目に核を打ち込み殲滅する作戦を立てる。ローリーも再び呼び戻され、イェーガー、ジプシー・デンジャーに乗ることに。彼の相棒として候補に上がっているのが森マコだった・・・

 この作品、公開前からツイッターのTLでの盛り上がりが凄く、僕は公開初日に観れなかったりしたこともあって、逆にちょっと引いて冷静な気持ちで観ることが出来たのだが、もちろんなんといっても「ヘルボーイ」シリーズのギレルモ・デル・トロの新作である。とても楽しみにしていたのは言うまでもない。デル・トロは「ミミック」で初めて知って以降は「ブレイド2」と「ヘルボーイ」シリーズ、そして劇場での観賞こそ叶わなかったが「デビルズ・バックボーン」「パンズ・ラビリンス」と監督作はほぼ観ている。だからやはりそのデル・トロが怪獣映画を撮ると聞いて期待はしていたのだ。
 ところが正直なところ、僕にとっては少々がっかりな出来であった。もちろんつまらないか面白いかで行ったら面白いと言えるし、シーンシーンでは随所に「こりゃ凄え!」という部分も多いのだが、一つの映画としてはかなり期待はずれであった。
 去年「バトルシップ」を観た時と似た感じで「うん、これは好きな人は大好きだろうな、でも自分とは合わなかったよ、ごめんね」という感じ。

 ロボット(イェーガー)のデザインは正直最初は自分の好みでは無かった(事前に一番格好いいなと思ったのはチェルノ・アルファ)。僕はどちらかと言うと鉄人28号とか原作版のゲッターロボとかが好きで、アニメ「THEビッグオー」のメガデウスとかは結構好きなデザインなのだが、いわゆる「マクロス」のバルキリーなど河森正治系の細身のデザインは苦手なのだ。それでも演出で格好よく思えてくる。ただやはり、怪獣の設定もそうだが、ちょっと大きすぎるのでは?とも思った。なんだかCGと人間が乖離しているように思えるのだな。後はやはりCGによる自由度の効き過ぎというか暗闇の中の激しいバトルがちょっと見づらい。
 怪獣は何種類か登場し、どちらかと言えばガメラなど大映怪獣っぽいデザイン。これももっと明るいシーンでしっかり全体像を見せて欲しかったなあ。後は設定上のものだが結局この怪獣たちは一体一体にはドラマがない。しかも強いことは強いが決して人類が殺せないわけではなく大量に出てくるのも「怪獣」としては弱い。強力な数匹がイェーガーの前に撤退する事はあっても倒されることはなく一進一退の攻防が続いている・・・とかの設定の方が良かったんじゃないかな。
 ちなみにジプシー・デンジャーという名前。どうにも「デンジャー」の部分が収まりが悪くもう一文字付け足したくなってしまう。「ジプシー・デーンジャー」といったほうが日本語の語感的に格好良いと思うのだが如何か。
 人によっては「ずっとロボットと怪獣が戦ってる場面だけで最高じゃん!」と思うかもしれないが、やはりそこには緩急が大事でそればかり見せられても辟易してしまう。例えば僕はピーター・ジャクソンの「キングコング」でよくある批判、「キングコングが出てくるまでが長い」とかはそう思ったことが無い。
 怪獣は英語でも「KAIJU」と表記され発音される(最初の字幕ではGIANT BEASTも)。でもやっぱり吹替や字幕で「怪獣」と出てくるのはともかく英語の会話の中で「KAIJU」と出てくると違和感があるよ。最初に怪獣が日本を襲って一番最初にそう命名されたから、とかの設定があって説明されたならまだ良かったのだけど・・・ 
 また、個人的には今回の作品にはギレルモ・デル・トロらしさをほとんど感じなかった。デル・トロの作品はオカルトホラーが基軸となっているので当然なのかもしれないが、今回はそういう要素はなかったし(怪獣にすこしでもクトゥルフ神話の邪神達っぽい部分を感じられればまだ良かったが)、敵である怪獣に全く理解を示すことが無かった。「ブレイド2」にしても「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」にしても敵であっても観客が共感出来る部分を示し、それでもうまくカタルシスに持っていくところがデル・トロらしさでもあったと思う。怪獣の脳と自分の精神をつないでドリフトしようとする科学者とその仲間の科学者が登場するが従来ならもっとこの二人が怪獣にも理解を示しそれこそ「ゴジラ」の山根博士や芹沢博士のような複雑な心情を表現させていたと思う。ここでは単なるコメディリリーフ以上のものになってないのが辛い(しかもそのコメディ部分は大して面白くない)。
 
 キャストはペントコスト司令官にイドリス・エルバ。イギリス出身ということも有りアメリカン・アフリカンのファンキーな感じはあまり感じない黒人俳優。この人とオ―ストラリアのイェーガー、ストライカー・エウレカパイロット、ハーク・ハンセンを演じたマックス・マルティーニは頼れる大人、という感じでとても良かった。ただ、ラストにハークの代わりに息子のチャック・ハンセンとストライカー・エウレカに搭乗したペントコストがチャックも犠牲にして一緒に特攻するのはちょっといかがなものか、と思った。親が子の代わりに、というのはまだ理解できてもその逆はちょっとつらい。また、ここはペントコストがチャックを先に脱出させ、その上で自分だけ自爆とかのほうが燃えたと思うのだ。
 主人公といえるのはジプシー・デンジャーのローリーと森マコ。ローリーは兄を亡くしたトラウマを抱えているはずだが、中盤は特にそのへんの葛藤は描かれない。代わりと言っては失礼だけど菊地凛子は予想外によかった。凛々しい時と少女のような表情を見せる瞬間、また彼女は他のキャストに比べ背が低いのでどうしても上目遣いになってしまい、そのへんも守ってあげたいと思ってしまう感じがよく出ている(まあ別に彼女は守ってほしいなんてつゆほども思ってないでしょうが)。彼女の子供時代を演じているのが芦田愛菜でほとんど泣き叫んでいるだけだがこれも強烈な印象を残す好演であった。
 彼女とイドリス・エルバが会話の中に時折日本語を織り交ぜるのだが、これが日本語だけ、英語だけ、と分けられず唐突に日本語の文が交じるのでびっくり。菊地凛子はなぜか日本語のほうがたどたどしいし、イドリス・エルバの日本語も正直何言ってるか分からず、会話の流れと英語字幕から推察するしか無いという事態に。出来れば日本語喋ってる時でも日本語字幕が欲しかったですね。
 そのほかどちらかと言うとコメディリリーフ担当の科学者二人にサム・ロックウェルJ・J・エイブラムスを足して割ったようなルックスのチャーリー・デイと「ダークナイト・ライジング」や「レッド・ライト」で出番は少ないながら強烈な印象を残したバーン・ゴーマン。いかにもドイツの科学者という偏見を誇張したような風貌。先程も述べた通り、この二人がもっと(作品の世界観の根本部分において)活躍したら良かったのにと思う。
 従来のデル・トロ組からはヘルボーイことロン・パールマン。いつもの特異な風貌で怪獣の死体を処理・運用する闇商人ハンニバル・チャウを演じている。中々面白いキャラクターではあったが最後のオチは要らなかったかな。
 

 

パシフィック・リムとID4

 この映画、「怪獣と巨大ロボット」という事からか日本の作品の影響ばかり言及されるが、物語の構造上一番近いのはローランド・エメリッヒの「インデペンデンス・デイ(以下ID4)」だと思う。「パシフィック・リム」ではどちらかと言うとコメディ担当に近い科学者が怪獣の脳と自分の精神をつなげて敵の思考を感じ取ったりするが、この辺は「ID4」でやはり変人の科学者(演じるは「新スタートレック」のブレント・スピナー!)が宇宙人に意識を乗っ取られたり、大統領が一時的に宇宙人と意識が一つになって彼らの本性を知るシーンとそっくり。また最後は大統領(司令官)が演説をしたり、特攻をかける、敵の本拠地に乗り込んで最後は無事帰還とか、そっくりな場面が多い。しかし「パシフィック・リム」は「ID4」に比べるととりあえずこういう場面があれば面白いでしょ、という域を脱していないように思える。「パシフィック・リム」だけではないが、「バトルシップ」にしても全面戦争の侵略SFが出るたび「ID4」のエメリッヒ監督はうまい演出家だったんだな、という思いを新たにすることが多い。公開当時はちょっと馬鹿にしてたこともあったんだけどね。彼の「ゴジラ」も実はそれほど悪い映画ではないしね(あれはどちらかというと「原子怪獣現わる」のリメイクだと思ったほうが良いのだ)。余談ですが僕はエメリッヒのゴジラがイグアナに見えたことが一度もありません。

 

脚本家と監督

 で、僕はデル・トロにはこれまでの実績から彼を信頼に値する監督だと思っている。「バトルシップ」の監督はこれまでも期待しては外れ続けてきたのでもう全く期待していないがデル・トロはそうではないのだ。だから(僕は今作を彼のフィルモグラフィーの中でも一番の失敗作だと思っているので)あえて擁護してみよう。今回の企画は実はデル・トロの持ち込みではないそうだ。あくまで脚本のトラヴィス・ビーチャム(「タイタンの戦い」の脚本家)の原案が先にあり、そこにデル・トロが乗っかった形だという。脚本にはデル・トロも名を連ねているが大筋ではビーチャムの物語なのだろう。ビーチャムは1980年生まれ、おそらく「新世紀エヴァンゲリオン」などどちらかと言うと最近の日本のアニメを観ているはず。一方デル・トロは1964年のメキシコ生まれ。彼は「鉄人28号」などを見ていたという。この脚本家と監督の年齢差と嗜好の差が本来のデル・トロらしくない作品になった一因とは言えまいか。つまり僕はこの作品はどちらかと言えばビーチャムの作品(少なくとも物語部分において)といったほうが適切なのではないかと思う。
 また、この作品の制作に前後して、デル・トロは彼の長年の企画だったラブクラフト原作の「狂気の山脈にて」が頓挫する目にあい、そして「ホビット」の監督を降板している。この2つの挫折を埋める企画が「パシフィック・リム」だった。だから、やっつけとまではいかなくても実はあくまで雇われ仕事に徹したのではないか、という気もする。
 もちろん、デル・トロ作品という肩書きがなければ評価はまた違ってくるだろう。これが無名の監督、それこそビーチャムのデビュー作、とかだったら「オー色々粗いけどスゲー!」と思っていたかもしれない。でもデル・トロだからこそそれ以上のことを期待するし、厳しくなってしまう。こういう作品がアメリカで作られることの重要性は分かっているし、今後の弾みになって欲しいがこれは大いなる失敗作だと思う。
 本作はアメリカでは特にヒットはせず、中国でなぜか大ヒットだという。それでも過去のデル・トロ作品の中では一番興行収入を稼いでいるらしいので、本作をステップアップに次こそは是非「狂気の山脈にて」や「童夢」といった本当に自分のやりたいものを監督してほしい。「パシフィック・リム」の続編はいらないから!どうしてもまた怪獣と巨大ロボットの映画が撮りたい場合は水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎海獣」の実写化をおすすめします。これまでにも何度もアニメ化されてる名作エピソードだが僕はこれこそデル・トロに最もふさわしい物語ではないかと思っている。ぜひ今度はマイク・ミニョーラとがぶり四ツでコンビを組んで!

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*1:なんとなくこれは初見を劇場で、と心に決めていて名画座でかかるのを待っていた

*2:機動戦士Zガンダム」と「ゲゲゲの鬼太郎」のどっちを見るかで兄貴と喧嘩したりした