The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

とっても憑かれた 来る(他3本)

  さて、例によってたまった映画感想をいくつかまとめて。今回は「憑かれた」映画ということで。なんだか特に意識せずに似た感じの映画を連続で観たのでね。その中で一番おもしろかった作品を中心に。まずは「Oooh きっと来る きっと来る 季節は白く~」というわけで中島哲也監督作品「来る」から(主題歌は「feels like 'HEAVEN'(byHIIH)」ではございません!)

  • 来る

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 原作は澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」。2015年の作品。「ぼぎわん」とは「ブギーマン」が日本の田舎で訛って伝わったものだそうで、映画劇中では結局なんなのかは明らかにされない。山の神のようにも幾人もの怨念が積み重なったもののようにもいかようにも解釈出来そうだ。

 この映画は主人公が妻夫木聡黒木華岡田准一と移り変わり、更にそこに小松菜奈松たか子青木崇高といった人物が脇を支える形。この主人公が移り変わるのはそもそも原作がそれぞれの主人公の一人称で繰り広げられる3つの短編が合わさって一つの長編となる形をとるものらしい。これが映画でも継承されてて、明確な3部作というわけではないけれど大体において3つに分けられ、それぞれ中心となる主人公が交代していく。

 ただね、映画としてそれが効果的かどうかはちょっと判断がつかなかった。というのも最初の二人、妻夫木聡黒木華の夫婦は両方共死ぬ形(それも凄惨な死)で退場するので主人公が死んだ!っていう衝撃を観客が受けるので「あれ?ここで終わりかな?」って思っちゃうんだよね。特に妻夫木聡の方はまだ時間があるのは分かるけど黒木華の方は観客の時間間隔が鈍ってくる頃なので。小説ならまだ続きがあるのが分かるけど。

 で、やはり最終的な主人公である岡田准一とそのパートナーである小松菜奈のコンビをもっと早く出して置くべきだと思った。物語本編とは直接関係なくてもいいから小さな心霊現象を解決するエピソードなんかを冒頭に置いて、本編に登場するのこそ遅れるけどこの人達が主人公だよ、と観客に提示しておくべきではないかと。これ「貞子vs伽椰子」の常磐経蔵(安藤政信)の時も思ったけど主人公(ヒーローといってもいい)はなるべく早く出すべきだと思う。ちなみに「貞子vs伽椰子」の数倍「来る」の出来はいいです。

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 映画はまず最初に妻夫木聡黒木華を連れて田舎に帰るところから始まる。祖父の13回忌で婚約者を紹介する妻夫木。この田舎が見事に悪い田舎。内に凝り固まっていて、おっさんは宴会で若い女性(といっても多分誰かの妻)に酔った(フリ?)で抱きついたりする。外に出たものの夢破れた者は管を巻く。これぞ地獄絵図。主人公の家族も外面は良いものの、黒木華がいないとこではよそ者の陰口を叩く。この冒頭の田舎が実は一番のホラー。なるほどこんなとこなら人ならざる者が誕生もするわなあ、と言う感じ。でももしかしたらここの描写を特に何も感じない観客もいるのかもしれない、と思うとそれが一番ホラーかも。

 続いて妻夫木、黒木の結婚式とマンション購入、出産といった幸せ描写が延々と続き、ここが僕にとってはかなり拷問だったので、そこまででかなりメンタルはやられて、実際の超常現象が頻発するようになると逆に心穏やかに臨めたりしました。

 見どころはまず妻夫木聡の空っぽぶり、彼が演じる田原夫婦の旦那は一件完璧な人間。東京の優秀な営業マンで外見も言動も爽やか。結婚してからは良い夫、良い父親を見せている。ただしそれは完全に外面で、家事・育児は妻任せ、そして疲れる妻の気持ちを慮ることが出来ない。普段の行いやブログでは完璧な父親を演じているが分かる人にはその空っぽさを見透かされている。「完璧な父親を演じている」と書いたが、多分本人は演じてる気すら無く実際の姿と外面が彼の中では矛盾がないと思えるのが更に空疎さを増す。

 かたや黒木華の妻は自身が毒親に育てられたため、自分が家庭を持つことに自信がない。そんな彼女がよりによって妻夫木聡と結婚してしまったことが運の尽き。生活に疲れ、人生に疲れ、おまけになんだかよく分からないものに憑かれる。不思議と疑問だったのは夫が死んだ後もあのマンションに住み続けてるところ。購入したとはいえローンがあるだろうし、売っちゃったほうが良いと思うのだが住み続ける。もちろん妻夫木が一括で払ってるので普通に住み続けたほうが安いとか、夫があんな死に方をした後なので買い手がつかないのかな、とかあるのかもしれない。が、個人的には後述の「A GHOST STORY」同様、その家に住み続けることがすでに超常現象なのかもしれない。

 田原夫婦が共に死ぬと、主人公は岡田准一に交替。そして満を持して松たか子が姿を現す。この松たか子は沖縄のユタの血統を受け継ぐ霊能力者、とされるが、何気にものすごい影響力を持つ人。警察や政府の上層部と通じ、マンション周辺一帯を封鎖して大規模な除霊の儀式を行う。その方法は仏式の坊主もいれば神道の神主スタイルもいるし、ハングルが書かれた道具を使う韓国式の者達もいる。この霊能力ちゃんぽんぶりと大規模さで思い出したのは「ヴァン・ヘルシング」。あれはカトリックチベット仏教などが秘密裏に手を組んで魔物と戦う組織を作っていたが、もしやあれが現代まで続いているのでは?などと思った。とにかく大規模などんちゃん除霊が楽しい。ちなみにここではしゃいでる女子高生もきっちり巫女さんかなんかだったのですな。

 邦画の悪霊さんはわりと手当たり次第で大規模に襲うのはホラー映画としてはむしろ恐怖感を削ぐと個人的には思う。この映画も実際の超常現象部分は楽しめたけどそんなに怖いとは思わなかった。ただ超常現象外の部分が非常に怖く感じたのであった。「家族ホラー」としては次の「ヘレディタリー/継承」より良く出来たいたと思います。


岡田准一×黒木華×小松菜奈主演!映画「来る」予告

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

 
  • ヘレディタリー/継承

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 祖母の死をきっかけに次々と家族に不幸が降り注ぎ、実はそれはとある陰謀であった、と言う話。自分の解釈したところでいうと、祖母は悪魔崇拝のオカルトサークルを運営していて、自分の孫である男子ピーターにとある悪魔を宿らせようと画策。しかし娘である孫の母親アニーが息子と接触させなかったため一時断念。替わりに孫の妹である孫娘チャーリーに悪魔を借り宿させる。その後祖母が亡くなり孫娘は不慮の事故(これが単に事故なのか計画の内なのかは不明)で亡くなる。行き場をなくした悪魔をきちんと当初の予定通り男子たるピーターに宿らせるべき祖母の仲間たちがアニーに接触、降霊会などをさせる・・・と言う感じか。もちろんこれは全部観た後での解釈。まずはとにかく出てくる人物の顔が怖い。ピーター(演じるアレックス・ウルフはジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」でロック様になった人)こそ普通の少年だが、母親であるアニーや妹のチャーリーは怖い。アニー役のトニ・コレットは僕が観た中では最近だと「トリプルX:再起動」(対照的に全く頭を使わない映画だ)で悪役を演じていたが、もっとセクシーな美人という感じ。本作でも美人ではあるのだろうが、常に苦悩してるか怒鳴っているか、という感じなのでまず怖い。役柄的にもほぼすっぴんという感じなのだろうが、この容姿の怖さは単に素面だからなのか、何か特殊メイクを施しているのかどちらだろう?このアニーがまたミニチュアアーティストで、いろんな物をジオラマで再現しようとしたりするのがまた怖い。神(悪魔)は細部に宿る。

 そして妹チャーリー役の御面相。よく考えると彼女は途中で退場するし、悪魔が彼女に宿っていた(という僕の解釈)とはいえただただ不幸な少女、というだけなのだが、まるでこの映画の悪の元凶のような気さえしてしまう。演じるミリー・シャピロは確かに特徴的な容姿ではあるが当然普通の少女。こちらも多少は特殊メイクされているのか、と思うがどうなんだろう。

 一家の父親役がガブリエル・バーン(製作総指揮も)で一家の中では(血統に関係ないからか)一番普通の人なのだが、どうしてもこういう映画だと「エンド・オブ・デイズ」のサタン(燃えるおしっこ!)を思い出しちゃう。

 面白かったけど、世間で言うほど高評価ではないかな。特に斬新だとかは思いませんでした。「家族ホラー」としては先の「来る」の方がよく出来ていたと思うし、悪魔関連の「カルト(教団)ホラー」としてはロブ・ゾンビの「ロード・オブ・セイラム」の方が不条理な中にもユーモアがあって面白かったかな。

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  何に恐怖を感じるかは人それぞれなので僕が特に怖く感じなかったからといってそれはあくまで僕の感覚でしか無いわけだが(例えば僕は独身だが子供がいる人は「来る」も「へレディタリー」も違う見方をするだろう)、それでもやっぱり最近の映画でホラーとして怖いってのは殆ど無いなあ(音量や演出でびっくりすることはある)。


Hereditary - Trailer

  • A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー

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 ルーニー・マーラケイシー・アフレックの夫婦。ある日ケイシーは自宅前で交通事故に遭い死亡。しかし白い布をかぶった幽霊となって帰宅。妻を見守るがやがて妻は家を売却して去る。幽霊はその家にいつづけ、やがて…

 ホラーじゃないです。ファンタジー映画なのだろうか。序盤かなり淡々としていて、カメラワークもほとんど無いのでちょっと辛い。画面比も3:4でちょっと小さかったし。成仏しそこねた幽霊は家に帰るが、今度はそこから離れられない。幽霊は人に憑くのか、家に憑くのか、土地に憑くのか?最初は妻という想い人、人に憑くかのように思う。だが妻が家を去り次の住人が住んでも幽霊は家を離れない(新住民をポルターガイスト現象で脅かして追い出すなど対応は妻とは異なる)。やがて家は取り壊され、そこにショッピングモールが出来るとモールをうろつく幽霊と成るか、あまりの変わりように絶望したのか身投げ。さて、それでは建物に憑いていたのか?今度は突然過去の西部開拓時代。ある一家がそこに家を建て定住しようとするがインディアンに襲撃され全滅してしまう。それを見守る幽霊。幽霊は土地に憑くのか?

 この幽霊はおそらくケイシー・アフレック演じる亡くなった夫、そのものではない。最初の入植者一家から代々積み重なった何かだ。幽霊自身が見る自分たち夫婦の会話。それは家に対して何か不吉なものを感じ、引っ越したいと訴える妻と家に愛着を持つ夫の会話。ポルターガイスト現象で脅すも結果として逆に夫妻は引っ越しを決めてしまう。その直後に夫は事故死。つまりこの土地、家に憑く何かがこの夫妻を引き留めようとして夫のほうを殺して引きとめようとしたのだと思う。幽霊は夫の幽霊ではあるがその何かとの融合体みたいなものなのであろう。

 とつらつら書いたけどホラーじゃないし、ショッキング描写も特に無いです。面白かったかも微妙で映画館じゃなかったら多分途中で脱落したかもしれない。妙に心には残るけど。


A GHOST STORY - Trailer (2017)

  • ヴェノム

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 最後はガラッと変わって「ヴェノム」。元は「スパイダーマン」のヴィランで実写映像化としては二回目。前回はサム・ライミの「スパイダーマン3」でほぼ原作に忠実にピーター・パーカーのコスチュームに憑いた宇宙からの寄生体がピーターに逆恨みした新聞記者エディ・ブロックに憑依、ピーターへの恨みで狙いが一致した二人はヴェノムとして復讐を為そうとする、というもの。サム・ライミは自身の少年時代に親しんだ60年代のスパイダーマンには深く思い入れがあったようだが、偉い人の要望で登場させたこの90年代にデビューしたキャラクターには全く興味がなかったようでわりと普通の悪役という感じ。今回はそのリベンジでもあるのだが、もともとは「アメイジングスパイダーマン」のスピンオフ企画。ただ今回はシリーズとしては終了したアメスパとも現在のMCUに参加しているトム・ホランドスパイダーマンとも世界観は共有していないようである。ということはつまりスパイダーマンのいない世界でスパイダーマンの悪役を主人公とした作品を作る、というわけでちょっと物足りないのもたしか。アメコミ映画の例に漏れず、最初の予告編は実にシリアスな感じだったが徐々にコメディっぽい部分も出てきて最終的にはわりと愉快な映画だった。トム・ハーディが「ダークナイトライジング」ベインに引き続きアメコミキャラクターを演じる。ややこしいことにベインはヴェノムという薬品を摂取している設定なのでごっちゃになりますね。

 ライミ版に比べると体格が最初から過剰なマッチョになっていたり、大げさに表現されていて楽しかったがやはりスパイディがおらず大元のオリジンがコミックスと異なるのでデザイン的にも胸の蜘蛛が無くなっていてただ黒いだけだったりするのが残念。あと、敵となる相手がやはりヴェノム同様シンビオートでヴェノムに対してより巨大でヴェノムより若干銀がかった黒という感じで「ブラックパンサー」のラストバトルでも思ったけど格闘ゲームの色違いキャラみたいな感じで違いが分かりづらいのが辛い。しかも戦うのは夜だし。もうここは設定大幅に変えていいから赤いアイツにして欲しい、とか思ったのだったけどアメコミ映画恒例のエンドクレジット後のアレで赤いアイツが出てきたのでそれは良いや!

 なんかとにかく変な映画。正直本編はイマイチであったがエンドクレジットやおまけ見ている内に愉快な気分になったのでOKです。個人的にはもしもシリーズ化が念頭にあったのならシリーズの2作目、3作目でヒーロー化しても1作目は悪役まっしぐらのピカレスク路線で良かった気もする。


VENOM Official Trailer #2 - Tom Hardy

 

ヴェノム:リーサル・プロテクター (ShoPro Books)

ヴェノム:リーサル・プロテクター (ShoPro Books)

 
ヴェノム [Explicit] (Music From The Motion Picture)

ヴェノム [Explicit] (Music From The Motion Picture)

 

 

 あ、あと「ヴェノム」公開時に「Godzilla King of the Monsters」の予告編(月の光)が流れて、日本版はオリジナルより短いんだけど、あれを大画面で観れるのは眼福でありました。新しいのも公開されて来年の5月までは死ねませんぜ。


Godzilla: King of the Monsters - Official Trailer 1

 

浮世か夢か ボヘミアン・ラプソディ

Is this the real life-(これは浮世か)

Is this just fantasy-(それとも夢か?)

Caught in a landslide-(地すべりに飲み込まれて

No escape from reality-(逃げることなど出来やしない)

ボヘミアン・ラプソディ 

 さて、「ボヘミアン・ラプソディ」です。現時点で5回ほど観ましてですね。一回目は普通に。二回目はもっと音響設備のいい劇場で。そして三回目は応援上映というやつで。以降は特に拘らず時間が合う時に飛び込みで、と言う感じで。今年最も多く劇場で見た映画で、かといって物凄く出来が素晴らしい映画とも頭では思わないんですが、それでも心は持って行かれているので今年のベスト入りは間違いないです。まあ例年音楽映画は評価基準が甘い傾向はあるのですが(自分評価)。

 それではブライアン・シンガー監督作(後述)「ボヘミアン・ラプソディ」感想です。

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 ブライアン・メイの特徴的なギターサウンドによる20世紀FOXファンファーレから始まる本作、物語はイギリスのロックバンドQUEENの、その中でもボーカリストフレディ・マーキュリーの生き様を描いたノンフィクションドラマ。彼らの楽曲が随所に出てくるがミュージカル映画ではない。とはいえ間違いなく音楽映画ではあって、伝記映画だが全編を音楽が彩る。

 QUEENは1971年に結成、1973年にデビュー。ボーカリストフレディ・マーキュリーが亡くなる1991年までほぼ20年間活動していたことになる(フレディ死亡以降もブライアン・メイロジャー・テイラーQUEENとしての活動も継続。オリジナルメンバーでの活動が1991年までという形)。僕は1977年生まれなのであるが、このQUEENABBA(奇しくも両者とも今年関連映画が公開された)は家にレコードがあって(おそらく母がファン)、わりと小さい頃から聴いていた。ただそれがQUEENというバンドの曲であると認識し、メンバーの構成や名前や歌詞内容や、発表された時期などを意識して聴き始めたのは高校以降ぐらいなのですでにフレディは亡くなった後。以降もどちらかというとオリジナルアルバムよりも「グレイテスト・ヒッツⅠ&Ⅱ」あたりを中心に聴いていたので大ファンではあるけれどその経歴などについてはあんまり詳しくなかったりします。とはいえね、もうそれを洋楽と意識する前から聴いてる(自分が聴き始めた順番としてはビートルズより早い)楽曲ばかりなので血肉にはなっています。大体の曲は(歌詞の意味はともかく)歌えるし、自然と口ずさんでしまう感じ。なのでもう映画の評価とはまた別に映画館であの楽曲が聴けるってだけで高評価なのではあります。

 QUEENは海外でまず売れたということで、特に日本でブレイクしたバンドとしても有名なのだけど、おそらくその楽曲が英語の歌としては非常にわかりやすいのも一因じゃないかと思う。フレディ・マーキュリーザンジバル生まれインド育ちで、ゾロアスター教徒の(ということは人種・民族的にはペルシア系)両親の間に生まれた。17歳の時にイギリスにやってきてその後QUEENを結成するに至る。彼自身がゾロアスター教徒だったのかどうかはわからないし(死後はゾロアスター教徒として火葬されたそうだ)、英語が母語だったのか、外国語として学んだのかも分からないが、そういう経歴があるからか、彼の楽曲の歌詞はわりと英語を母語としない外国人が聴いても分かりやすい。もちろんフレディならではの独特な詩的な部分は大いに感じられるが(「Don't Stop Me Now」のゴダイヴァ夫人とかミスター・ファーレンハイトとか最初は何のことかさっぱりわからんかった)文法的には分かりやすい英語が多いし、フレディの歌い方もわりと同じハードロックの他のバンドと比べると聴きやすい。そこにあのメロディが加わって外国でも受け入れやすかったのではないかと思う。f:id:susahadeth52623:20181211000300j:image

 映画は決して史実のQUEENに忠実というわけでなく、おそらく意図的に色々変えてあります。もうすでにいろんな人が検証しているけれど、一番大きなところではフレディが自分がHIVだと知ったのが映画のクライマックスである「LIVE AID」の後、ということ。これは最初から「LIVE AID」をクライマックスに持ってくる、というのが前提としてあって、そこから逆算して物語を構成したからではないかと思う。他にも細かい史実との違いはたくさんあって、そこを映画の評価としてマイナスと取る人もプラスと取る人もいろいろいると思うのだけれど、個人的にはあくまでドキュメンタリーではなく伝記映画、それも音楽を通して感性に訴える要素が多い作品なので全然いいかな、と思う。ここの改変に関しての批判に近いのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマーティーが1955年にチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」を演奏してそれを間接的にチャック・ベリーが聴いていた、つまりチャック・ベリーはオリジナルとしてではなく、マーティが演奏した別の時間軸の自分の曲に影響された、というタイムトラベルの妙を描いたシーンかなと思う。あのシーンは黒人音楽を白人が作ったことになった!という批判も受けたのだけれど、僕個人はあそこはマーティ自身はむしろリスペクトとして演奏しているのだし、タイムトラベルの不思議さと面白さを描いたシーンなので全然良いと思う。寧ろ許せないのは「ロック・オブ・エイジズ」で主人公が「自分の作曲した曲」と称してジャーニーの「Don't Stop Believin'」を歌ってしまうシーン。あの映画の世界にはジャーニーはいない設定なのかもしれないが個人的には許せなかったですね。閑話休題

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  とまれ、これらの史実と異なる部分に関しては勝手にやっているわけではなくブライアン・メイロジャー・テイラーが製作や音楽監修で関わっている以上、ちゃんと彼らの許可と監修を受けた上で映画としてより良くするためのものなのだと思う。そもそも映画タイトルが「ボヘミアン・ラプソディ」でその冒頭はまさに「現実か幻想か」」なので(自分は無理やり「浮世か夢か」と訳してみました)。
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 映画はQUEENのメンバーそれぞれがそっくり!ということでも話題になった。フレディ・マーキュリーにはずっとサシャ・バロン・コーエンが候補に挙がっていて、僕もツイッターなどでフレディ役はサシャ・バロン・コーエンしかいないのでは?ということを何度か呟いたことがある。結局、演じたのはコーエンではなく、「ナイト・ミュージアム」シリーズで展示物である古代エジプトの王子アクメンラー(架空の人物)を演じたラミ・マレックが演じることとなった。ラミ・マレックのフレディがそっくりかどうかということでいえば映画に出てくる他のメンバーに比べると実は一番似ていない。ただ、実際のフレディより童顔で目が大きく過剰歯によって特徴的な口元が強調されて尚魅力的に演じている。実際のフレディ(特に80年代に入ってからのヒゲと短髪のフレディ)はもっと渋い感じだと思う。この童顔でより無邪気な感じはライブシーンでのフレディのパフォーマンスの再現部分より映像には残っていないプライベート部分(ゲイバーで男をあさったり夜な夜な乱痴気パーティーをする)で観客に嫌悪感を抱かせない効果を果たしていると思う。

 僕が一番そっくりだと思ったのはブライアン・メイのグウィリム・リーで僕はこの映画で知ったこともあって、良い意味で本当に演技の素人、ブライアン・メイその人なのではないか、と思う感じ。ちょっとしたセリフなんかもすごい自然。ちなみにブライアン・リーは天文物理学を学んでいて2007年に博士号を取ったりしているのだけど、宇宙と関連してかSF好きでQUEENが「フラッシュ・ゴードン」のサントラを担当したのはおそらく彼の意向。「マッドマックス2」の音楽を担当しているブライアン・メイは同名の別人です。

 バンドの中でその美少年然としたルックスでアイドル的人気を誇ったドラムのロジャー・テイラーは「X-MEN アポカリプス」でエンジェルを演じたベン・ハーディ。ロジャーの美男子ぶりを全力で再現しています。ロジャーは一番フレディと親しかったらしく(一時期古着屋を共同経営していた)その分直接ぶつかるシーンなんかも。
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 そして、この映画で改めてその重要性を感じ取ったのがジョー・マッゼロが演じたジョン・ディーコン。スター性は低く、いても目立たないが、いなきゃバンドが成り立たない隠し味でありムードメイカー。ビートルズリンゴ・スターモンティ・パイソンマイケル・ペイリンに似た立ち位置。こういう人がいるから個性派揃いのアーティストたちがバンドとして一つになれるのであり、そういう部分は決してライブ映像など表の実際の映像だけ観ていては分からない部分。こういう映像に残されていない部分の描写こそこういう作品の重要要素。ちなみにジョー・マッゼロは「ジュラシック・パーク」でハモンドの孫姉弟の恐竜好きの弟ティムを演じたジョゼフ・マッゼロが成長した姿。はっきり言って当時の面影は無いけれどなんか見てて安心します。

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 この映画のクライマックスは21分の「LIVE AID」パフォーマンスの再現(実際には15分ぐらい)。ここに至る経緯にも史実と映画では違いもあるが(バンド不仲の原因がフレディのソロ活動にあるかのようになっているがこの時期ロジャーもソロ活動をしていたし直前でなく少し前にQUEENとしての活動も再開している)、この「LIVE AID」がなければ解散していただろう、とブライアン・メイも言っていてQUEENにとって記念碑的ライブであったことは間違いないようだ。僕は当時のことなど知らないので後々映像を見た形であるが、確かにこの時のQUEENのパフォーマンスは圧倒的だった。だから91年のフレディの死までの中でここをクライマックスに持ってきたのは理解できて、先述したように史実ではここ以降の出来事をこの前に持ってきたのも観客の感情を高める効果としては大成功だと思う。

 実際の映像(YouTubeで見れますが公式かどうか分からないので貼りません)見たほうがいいじゃん!という意見もあるのだが、映画として見た場合は映画のほうがただのコピーではなく当然実際のライブでは不可能だったカメラワークなどもあり映画は映画で最高でした。

 「LIVE AID」の実際の観客は当然チャリティコンサートの一観客として来ているわけでその時点で映画の観客と違いQUEENやメンバーたちの葛藤や経緯を知らないわけですよ。実際のパフォーマンスでは歌われている「We Will Rock You」と「愛という名の欲望」が映画ではカットされているのだけれど、「We Will Rock You」はともかく(後述)、ロカビリー調の「愛という名の欲望」は実際のパフォーマンスでは良い緩和部分として機能しているけれど、映画では不必要だと思った。最高潮に高まった映画の観客の感情の高ぶりが「愛という名の欲望」で萎えてしまうと思うから。

 で、僕は今回応援上映というのも観に行きました。観客が一緒に歌ったりペンライト振ったりすることが出来る上映形態。僕は「ロッキー・ホラー・ショー」を別としてあんまりそういうのには肯定的じゃないんだけれど、これは結構良い経験でしたね。というか単に劇場側が「今回は応援上映ですよ」といって区別しているだけかと思ったらちゃんと使用しているフィルムも別で楽曲部分で英語歌詞がカラオケのように出てきます(その分日本語歌詞は出ない)。僕が参加した時は正直いうと僕含め、まだ照れがあるのかみんなおとなしめでした。これは直前に誰かが前説として観客を煽ったり先導する役の人がいたらよかったかもしれません。まああんまりやり過ぎるとそれはそれでウゼぇって思っちゃうかもしれないけど。

 そういえば僕はなんとなく「ロッキー・ホラー・ショー」にはQUEENの影響があると思い込んでいたんだけど、時期的にはほぼ同期かなんならQUEENの方が後発なんですな。自分の生まれる前のことなのでなんか時空が歪んでました。

 そして先述の「LIVE AID」。ここでは実際には歌われた「We Will Rock You」がカットされている(撮影はされたらしい)のだけれど、これはすでに「We Will Rock You」創作時のエピソードが出てるからであろう。実際通常上映で観る分には無くて正解だと思う。ただ応援上映に限って言えば確実に盛り上がるので入ったほうが良かった。この映画の応援上映はそれこそ21世紀の「ロッキー・ホラー・ショー」になるポテンシャルを秘めていると思います。

 そして、この映画の監督は一応ブライアン・シンガーということになっている。僕は一回目を観た時点ではシンガー監督作ということは知っていて、でもその割に監督名がパンフでも宣伝でも前面に出してこないなあ、などと思っていたのだけれど、その後調べてみて納得。ブライアン・シンガーは撮影途中でトンズラしてしまったらしいです。残り撮影予定が2週間、という時点で感謝祭休暇が明けても戻ってこなかったらしく、その後の部分は製作総指揮であったデクスター・フレッチャーが監督したらしいが全米監督協会の規定でシンガーのみが監督としてクレジットされた、ということらしいです。

 出来上がった作品のどこまでがシンガーによるものなのかは分からないのだけど(クライマックスの「LIVE AID」は最初に撮影されたのでシンガー演出で間違いなさそう)、最初に観た時はこれはシンガー映画だなあ、と思ったもの。特に「X-MEN」シリーズの2作目「X2」とは姉妹作品みたいにさえ感じた。アイスマン、ボビー・ドレイクが家族にミュータントであることを打ち明けるシーンやミスティークとナイトクロラーの会話など、シンガーがミュータント問題に託して描いたと思われる同性愛関連の描写はそのまま今回のフレディの描写と重なった。実際の演出はしてなかったとしても脚本の完成にはシンガーの意向も強く反映しているだろうし、多分同じQUEENの映画でも別の人が演出していたら全然違う印象となっただろうなあ。ブライアン・シンガー100%の映画で無いかもしれないが、シンガー色の濃い映画ではあると思う。ブライアン・シンガーは今後どうすんのかな……

 他は細かいところではQUEENを理解しないプロデューサーにマイク・マイヤーズが扮していたりします。これが一回目では全く気づかず、クレジット見て「あ、出てたんだ」という感じだったが二回目観たら確かに喋り方といい声色といいマイク・マイヤーズだった。このプロデューサーは架空の人物で「ボヘミアン・ラプソディ」を理解しない偉い人として登場するのだけれど、「車の中で頭が振れるような曲がいい」という台詞といい、完全に「ウェインズ・ワールド」を前提としたマイク・マイヤーズへのあて書きっぽいです。


Bohemian Rhapsody Wayne's World HD

 


Bohemian Rhapsody - The Movie: Official Trailer

 評論家には不評だったり、QUEEN好きに史実改変部分なんかで好き嫌いは激しく分かれていたりするのだけれど大ヒットしています。先述の監督交代劇やクレジット問題などの裏のゴタゴタを考慮すると作品の作家性を重要視する評論家が批判する理由も分からないではないんですが(正直映画本編を詳細に分析したらそりゃあまり出来が良いとも僕自身思わない)、もう本作はそういう評論家がどうこうできる枠を越えている作品だとも思います。 

 ファンだった人もそうでない人もまだ間に合う!劇場へ走れ!

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

 
Greatest Hits 1 & 2

Greatest Hits 1 & 2

 

 

浮世の夢か 映画映画ベストテン!

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 アンゴラ村の住人エド・ウッドさん。

 早いものでもう12月、2018年も終わりです。来年は天皇代替わりで平成も終わりだとか。いやもう今年が平成何年なのかもよく知らない感じですが、そういうわけで、世間では色々節目の記事や催しが目立ちます。僕などは昨日、なぜか今が閏年の2月の29日だと勘違いして、明日で今月も終わる!と絶望していたら夕方辺りで「あ、今は11月だ。まだ明日も30日じゃん」と気づいてホッとする出来事がありました。いやあ疲れてるな。

 今年はほぼブログ更新がストップして、2~3ヶ月分の映画観賞分をまとめてあげる、ということが中心になっています。なんとかしなきゃなあ、と思いつつどんどん更新頻度が落ちて行く・・・

 さて、年末ということだと恒例のワッシュさん( id:washburn1975 )の映画ベスト企画です。

d.hatena.ne.jp

  今年は「映画映画」ということで映画製作の現場が舞台だったり、主人公が映画人だったり。あるいは映画ファンの話でも良いとのことなので結構間口は広いけれど、例えば「プロデューサーズ」とかはあれは舞台ミュージカルの話だから対象外だし、と実は結構迷いました。でもトップ3を決めたら後はそれにつられてどんどん思い出して一気に決まった感じかな。今回は特にワッシュさんの決めたルール以外の自分で定めた制限は無し。全部無難に「映画映画」だと思います。それではまずはベストテン一覧を。

  1. エド・ウッド(1994年 ティム・バートン監督 アメリカ)
  2. キング・コング(1933年 メリアン・C・クーパー&アーネスト・J・シュドーザック監督 アメリカ)
  3. セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ(2000年 ジョン・ウォーターズ監督 アメリカ)
  4. ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲(2001年 ケビン・スミス監督 アメリカ)
  5. エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア(1994年 ウェス・クレイヴン監督 アメリカ)
  6. 喜劇王(1999年 チャウ・シンチー監督 香港)
  7. トロピック・サンダー/史上最低の作戦(2008年 ベン・ステイラー監督 アメリカ)
  8. イングロリアス・バスターズ(2009年 クエンティン・タランティーノ監督 アメリカ・ドイツ)
  9. 僕らのミライへ逆回転(2008年 ミシェル・ゴンドリー監督 アメリカ)
  10. スクリーム(1996年 ウェス・クレイヴン監督 アメリカ)

 わりと年代的には 1990年代~2000年代に偏っています。一本だけ1933年という古い作品があるけれど、これは同時に2005年のリメイク版も込みなところがありますのでやはりこの年代15年ぐらいの間に収まっていますね。「映画映画」という以外のジャンル的傾向だと直接映画製作そのものを題材にしたノンフィクションは1位の「エド・ウッド」ぐらいで後は映画制作の現場で何かが起きる物語という感じでしょうか。それでは作品ごとに簡単な解説を。

 

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 ティム・バートン監督の白黒映画。「史上最低の映画監督」というありがたくない称号を持つ実在のB級映画監督エドワード・D・ウッドJr.の最も楽しかった頃を切り取った伝記映画。このエド・ウッドの監督作品は僕も「プラン9・フロム・アウタースペース」と「怪物の花嫁」は見たことがあるのだけれど、普通につまらないです。カルト映画を見てやろう、という気構えを持ってしてそうなのだから普通の観客には尚つらい。そんなわけなので映画監督としては成功せず、赤貧のうちに亡くなったそうなのだけど、のちに「アメリカ史上最低の映画監督」に選ばれたことでカルト的人気を博しそして作られたのが本作。脚本はこの後「ラリー・フリント」「マン・オン・ザ・ムーン」「ボブ・クレイン」そしてやはりティム・バートン作品となる「ビッグ・アイズ」など異能の人物の伝記映画の脚本を手がけたスコット・アレグザンダーとラリー・カラゼウスキーのコンビで本来はマイケル・レーマン(「ヘザース」「ハードロック・ハイジャック」)が監督、バートンは製作に回る予定だったらしいが題材があまりに好みだったため自分で監督したらしい(レーマンは製作総指揮)。

 それも納得で、劇中のエド・ウッドと「魔人ドラキュラ」のドラキュラ伯爵として有名なベラ・ルゴシの晩年の友情と付き合いはティム・バートンヴィンセント・プライスの関係を彷彿とさせるし、才能に決定的な差はあるものの、ウッドの作品はどう見たってバートン好みである。ウッドを取り巻く奇妙奇天烈な連中の描写も相まってとっても幸せなバートン映画だと思う。

 またラスト近く行き詰まったエド・ウッドが逃げるようにある店に駆け込むとそこに何故かオーソン・ウェルズがいて彼に励まされてことを成し遂げる、というのはいぜんスタン・リーの追悼記事などでも紹介したケビン・スミスの「モール・ラッツ」のクライマックスにも共通するところ。

 ちなみにこの時期長年コンビを組んでいたダニー・エルフマンと仲違いをしていたため、この作品は長編デビュー以降のバートン作品としては初めてエルフマン以外が音楽を手がけることと成る*1。でも担当したハワード・ショアの音楽が実にエルフマンしてるというか、見事に1950年代のSF映画っぽくて素晴らしい。

 エド・ウッドは女装が趣味で特にアンゴラのセーターが好きだったらしいのだけど演じたジョニー・デップによるやっつけ女装も見どころ。

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 映画が誕生したのは1895年リュミエール兄弟のシネマトグラフによってとされる。それ以前にもエジソンが同じ原理の映写機(キネトスコープ)を発明していたが、これは一人一人が箱をのぞき込むとその中で動く映像が見れる、というもの。多人数に同時に観せる、というのがシネマトグラフの画期的なところであった。とはいえ当初は特に物語のないただそこにあるものを写しとる、ドキュメンタリー的なものばかりであったがフランスのジョルジュ・メリエスが特撮技術を見つけると、それを表現するのに物語性が求められ、いわゆる劇映画が誕生する。その後、サイレントを経て、トーキー、カラーと映画は進化していくのである。

 1930年代、飛行機や旅客船などの発達で世界は大分狭くなったがそれでもまだ人々が簡単に海外旅行できる時代ではなく、映画は遠い外国の(できれば野蛮な方が良い)風景を観客に見せる役割も背負っていた。「キング・コング」はまさにそういう時代の作品。実際に作られた作品は海外ロケなどしていないだろうが、ウィリス・オブライエンの特撮技術がその代替となる。映画は山師的な映画製作者カール・デナムが食い詰めた女性アン・ダロウを連れ謎の島「髑髏島」へと映画を撮影しに行く。島の住民に目をつけられたアンはさらわれ島に住む巨猿コングへのいけにえとされる…

 映画撮影が肝となっていて元々はゴリラとコモドオオトカゲを実際に戦わせる企画だったなどともいうし、監督コンビは実際にそういう世界中の未知をフィルムに収めてきた映画製作者であった。1933年のオリジナル版ではデナムは特に映画製作者として葛藤を見せてくれるわけではないが、その辺は2005年のピーター・ジャクソン版のジャック・ブラックが演じるデナムがいかがわしさもカリスマ性も備えたこだわりの映画監督として熱演しています。

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モンスターバースのリメイク版の時の感想記事。今後2020年にゴジラと戦う予定です。 

 さて、ここからは駆け足で。

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  •  セシル・B/ザ・シネマウォーズ

 悪趣味映画の帝王ジョン・ウォーターズの戦う映画映画。過激派映画監督セシル・B・ディメンテッドが仲間を引き連れ、テロなのか映画製作なのかほぼ区別がつかない過激行動を繰り返す。監督が何かのインタビューで、「でも彼らの映画が面白いとは思えないよ。だって彼らの中に編集がいないからね」というようなことをいたのが印象的。もちろん名前は大作映画の巨匠セシル・B・デミルから!

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  • ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲

 ケビン・スミス自身が演じるサイレントボブとその仲間ジェイ。この二人はこれまでケビン・スミス作品には欠かさず出てきた名脇役だったが、ついに主役へ。「チェイシング・エイミー」のベン・アフレックが自分たちをモデルにして描いた漫画「ブラントマン&クロニック」がハリウッドで映画化されるという。俺たちには何の連絡もなかったぜ!と二人はハリウッドに乗り込むのであった。タイトルは「スターウォーズ 帝国の逆襲」から。他にもスミスのコミック愛があふれていて、映画としてはわりとめちゃくちゃ。内容の過激度というか物議を醸した的な意味では「ドグマ」の方が上かもしれないがハチャメチャ度ではこちらのほうが上だろう。マーク・ハミル(拍手!)が自身が演じたコミックドラマ「超音速のヒーローフラッシュ」のヴィラントリックスターに似た悪役を演じる本人役として登場する。他にも本人役のカメオ出演が多数。この後2作品監督作が出てくるウェス・クレイヴンも出てます。

 フレディ・クルーガーが夢の中で人々を襲うシリーズの番外編。「エルム街の悪夢」のリメイクが決定!かつてナンシー役を演じたヘザー・ランゲンカンプの周りで奇怪な出来事が起き始め、フレディ役のロバート・イングランドや監督のウェス・クレイヴンなどに相談。実はクレイヴンの書いたリメイク版脚本の内容が現実に起きていて、ついにフレディが・・・

 という感じのまさに現実か虚構か、といった感じの一本。フレディ自体が夢の中の存在という劇中でも実在するのかいないのか曖昧なものであったがそれをさらに境界線を曖昧にした作品。

  続いて5~10位。

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 香港の喜劇スター、チャウ・シンチーの監督・脚本・主演作。この前の「食神」と本作で俳優としてだけでなく映画監督としても実力を付け「少林サッカー」でついに日本でもメジャーな存在となる。その一歩手前の作品なので、まだちょっと香港ローカルに特化しているというか、「少林サッカー」に比べるとチャウ・シンチーのどぎつい土着的な笑いの要素も大きく日本人が見てもちょっと引いてしまうかもしれない、でも売れない役者役のシンチーがブルース・リーの全力の完コピをするシーンなどは涙なしには見れませぬ。

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  • トロピック・サンダー/史上最低の作戦

 戦争映画で成功しようと試みる俳優たちだが、ロケ地の本当の紛争に巻き込まれて、でもそれも映画撮影だと思い込んで…というベン・ステイラー監督・主演の戦争コメディ。ハンディキャップのある役柄で賞を取ろうとして顰蹙を買った落ち目の俳優や、白人なのに黒人の役をやろうとする演技派俳優などが出てきます。ベン・ステイラーでもお下劣系コメディの方なのでキツいと思う人もいるかも。ラストのトム・クルーズが全てをさらう。

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 クエンティン・タランティーノの映画は西部劇を除くと大抵映画への言及があり、ある意味でどれもが「映画映画」と言えないこともないんだけど、特に映画館そのものが舞台となっている事もあってこの超史劇「イングロリアス・バスターズ」を。クライマックスは映画館でのヒトラー暗殺(成功しちゃう!)。

 まあでも本作は新たなスター、クリストフ・ヴァルツが世に出た作品として記憶されるでしょう。 

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  タランティーノも色々あったな…

 レンタルビデオのテープが全部ダメになったので手作りで作り直し「スウェーデン製○○」として売り出したら大評判。という映画作りの楽しさを描いたような作品。映画紹介などでは「スウェーデン製と思い込んで…」みたいな言い方をされることも多いんだけど、借りる客側も分かった上で楽しんでるんだよね。あの大作がチープに生まれ変わる様子が楽しいです。

 

  • スクリーム

 スラッシャー映画中興の祖とも称されるウェス・クレイヴン監督作。これまでに作られたホラー映画のお約束をなぞったり逆をいったり。このシリーズは今のところ4作目まで作られているんだけど、続編ではこの1作目の事件が「スタブ」というタイトルで映画化されてて、それがシリーズを重ねている、というまたまたメタな展開。1作目は愛すべき映画うんちくキャラジェイミー・ケネディ演じるランディがいるので選びました。惜しい人を亡くした…

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 「スクリーム4」の時の感想記事 

   こうしてみるとウェス・クレイヴン監督作が2作あるのは当然意識してたけど、なぜかジャック・ブラック出演作が多いですね(「キングコング」2005年版含む)。

 世界にはまだ不思議なものがある。それを全世界の人に見せよう。取るのは映画の入場料金だけ。

カール・デナム(キング・コング

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QUEEN: I Want To Break Free

 記事冒頭のアンゴラ村長(違う)に対して記事を締めるのは「ブレイク・フリー(自由への旅立ち)I Want to Break Free」の時の女王様たち。このPVでのクイーンの女装はフレディの発案だと思われがちだけどロジャー・テイラー発だそうです。どうりでロジャーだけ気合入っとる!でも髭のままやっつけのフレディの女装はエド・ウッドに通じるところもありますな。というわけで、次は「ボヘミアン・ラプソディ」感想書きます!


Bohemian Rhapsody - The Movie: Official Trailer

*1:その後バートンとエルフマンは元鞘に収まりもともとがミュージカル舞台だった「スウィーニー・トッド」以外ではエルフマンが音楽を担当している

大きいことはいいことだ?9月、10月に観た映画

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巨人を殺すべく奮起するバーバラさん。

    そういうわけで2018年ももう終わりを感じるこの頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。全然映画感想を書けてませんが、週一ぐらいのペースで観てはいるわけで、そのリストです。

 と、その前に!

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 こちらの記事に「ジオストーム」観たのに書くの忘れましたよ。まあ忘れたということはそのくらい観て印象の薄い作品だったということなのですが。記憶を振り絞ると天災が多発する近未来。宇宙ステーションから気候を操作して何とか保ってきたけれど、その宇宙ステーションがおかしなことになって地球にありとあらゆる天災が振りかかる!と言う話ですね。監督がディーン・デヴリンローランド・エメリッヒ監督との超大作映画製作などで知られているけれど、本作が監督デビュー作の模様。とはいえいつものデヴリンだな、という印象。主演のジェラルド・バトラーはじめ良さそうな人は良い人だし、怪しそうな人は裏切るし、悪そうな人は悪い、というキャストから物語が予測できる作品でありました。以上!

 では9月と10月に観た映画を。

8月

  • マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー

9月

 

10月

8月

  • マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー

 公開は8月だけど観たのは10月入ってから。前作から10年経過でメリル・ストリープは死んでしまっている!眉毛のリリー2号ことリリー・ジェームズが若い頃のメリル・ストリープに扮し、アマンダ・サイフリッドの父親候補3人との出会いを描く。出演者で前作の後売れた人はたくさんいるが、1番はドミニク・クーパーだろうか。前作は後から出てたんだ?!って気づく感じだったが、今回は最初からしっかり存在感出してます。ミュージカルとしては前作よりABBAの曲が馴染んでいたような気もします。メリル・ストリープはスケジュールの都合がつかなかったのかと思いきや!

ピアース・ブロスナンの相変わらず上手いのか下手なのかよく分からないけど、ただ迫力はありとにかく楽しそうなことが伝わってくる歌は好きです。

9月

 ジェイソン・ステイサム主演のサメ映画。海底深く、さらにその奥の人類未踏の深海へ乗り込むも古代の巨大鮫メガロドンを地上に引き連れて来てしまってさあ大変!という作品。肉体派アクション俳優ステイサムと巨大CGモンスターってあんまり相性良くない印象が合ったのだけど、まあ当たらずとも遠からず。序盤や海上でメグちゃん(ちょっと小さい)と戦う時はわりと大作映画の雰囲気をまとっていたのに、後半に芋洗い状態のピーチが舞台になった途端B級映画っぽくなったのは愉快でしたね。中国人のお父さん博士がとてもわかりやすい英語で教訓めいたことを言うのが50年代のSi-Fi映画ッて感じで良かった。

 

  • 累-かさね-

 今年の邦画では1位。土屋太鳳と芳根京子の演技合戦もクライマックスの劇中舞台「サロメ」も良かったです。

映画『累-かさね-』オリジナル・サウンドトラック

映画『累-かさね-』オリジナル・サウンドトラック

 


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  「響」とともに一つの感想記事にまとめています。

 

 人気シリーズ「プレデター」最新作。一応全部つながっていて、「エイリアンVSプレデター」シリーズも「エイリアン」としてのシリーズとしては無かったことにしたい気持ちもあるけれど、「プレデター」シリーズとしては全然あり。本作ではもう最初から政府や軍はプレデターさんたちの存在を知っている状態です。プレデターと人間とが四つ巴ぐらいに成るのだけれど実はあんまりプレデターさんたちの魅力は薄くて人間の特に軍で問題を起こした犯罪者たちのチームが魅力的だったりします。プレデターさんはああ見えて頭の良いとこが魅力なのだけど新人の3mさんは筋肉バカであんまりプレデターの魅力は出せてなかったよなあ、と。

  • 響-HIBIKI-

 欅坂46センター平手友梨奈主演の文芸アクション(違)。演技力というよりも役者とキャラが一体となった感じでは最高でした。優れた作家は文章で説明するよりもまず指を折る!

小説 響 HIBIKI (小学館文庫)

小説 響 HIBIKI (小学館文庫)

 

 

死霊館」シリーズ最新作。メインの物語ではなく外伝としての第3弾。とはいえ今回はアナベル人形は(一応)出てきません。「エンフィールド事件」の前日譚。悪魔ヴァラクがイギリスくんだりまで来た経緯を明かす。1952年の東欧の修道院を舞台としているので雰囲気はこれまでと大分異なる。最初は「薔薇の名前」を彷彿とさせるベテラン神父と新人シスターのコンビが謎を解く、と言う感じなのだがすぐに別の流れへ。面白かったけど「死霊館」や「アナベル」までの雰囲気とはかなり異なるのでシリーズのファンでも評価は割れそう。 

 

 ロック様がダイ・ハードしながらタワーリング・インフェルノする映画。東洋人金持ちといえばこの人「ダークナイト」のラウ社長ことチン・ハンも出ています。ネーヴ・キャンベル久々に見た。

スカイスクレイパー

スカイスクレイパー

 

 

音を聞きつけて襲い来るナゾのエイリアンから逃れてほそぼそと暮らす家族を描いたSFホラー。突っ込みどころは多いし、エイリアンの姿形も魅力薄いし、オチは「マーズ・アタック!」だしと評判の割に個人的にはそこそこ。まあ緊迫した雰囲気でつまらなくはなかったです。ただ設定を理解できていない批評が多かった気がするなあ(といって自分もパンフも買わず、特に調べてないので「どこまで理解してるか分かってないけど)。主演がエミリー・ブラントで最後の最後で一瞬映画の雰囲気が一変するのだが、個人的にはその雰囲気で映画を作ってもらいたかったなあ。

 

10月

 デンゼル・ワシントン主演の「死の天使映画」第2弾。世間的には「一般人だと思ってなめてたら凄腕だった」映画なんていう風に言われてるジャンルですね。今回はホームセンターの店員からタクシー運転手に鞍替え。常連のおじいさんや同じアパートの黒人青年と親交を温めたりする中、かつての上司が殺され、その犯人を探っていく。」前回はどちらかと言うと近寄る敵を片っ端から退治して行ったら最終的に組織も壊滅できました、ッて感じだったのだが(記憶曖昧)今回は積極的に攻撃していくスタイル。クライマックスの海沿いの町で大嵐の中での戦闘は見たことあるようで無いシチュエーションだったが、なんだかまたゲームっぽいなあとも思ってしまった。

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前作の記事。

 

怪物はささやく」の少女版といった感じだがそれ以外にもなぜか「ナポレオン・ダイナマイト」を連想したりしたのだった。イギリスから転校してきたというだけでポッシュ・スパイスってあだ名が付けられたり、字幕で「雷神ソー」と「雷神トール」が両方出てきた気がしてちょっと気になった。読売巨人軍は倒さねばならぬ! 

バーバラと心の巨人

バーバラと心の巨人

 
I KILL GIANTS (IKKI COMIX)

I KILL GIANTS (IKKI COMIX)

 

 一応アメコミ原作映画。

 

 ハリウッド近郊で自堕落に暮らす青年がある日であった女性に惹かれるがその人は次の日には転居していた。いなくなった部屋に描かれたマークなどを元に彼女を探すが、徐々に町の闇に触れていく・・・「イット・フォローズ」の監督の最新作。「LA LA LAND」と「ツインピークス」を合体させたような・・・という言い方もされますね。「イット・フォローズ」は面白かったけれどホラーとしての描写が理詰めで、そこが新鮮だったんだろうけど逆に理詰めなだけに些細な矛盾が気になってそこまで傑作とは思わなかった。それに比べると本作は別にホラーじゃないんだけど徹頭徹尾不条理で、矛盾だらけだけどその辺特に触れないよ、ッて感じで逆に良かったです。というかですね。この映画途中からほぼ主人公の妄想なんじゃないか。と思いますね。映像ミス(右手で物を持ってたのにカットが変わったら左手に変わってた的な)も幾つか見つけた気がしたけど、この場合ミスなのか、主人公の妄想を証明する狙ったものなのかよくわからないです。犬殺しとかふくろう女とか解明されない部分もたくさんあるし。スカンク攻撃の後あたりから全て怪しい。

 とはいえ個人的に子供の頃読んだわりといかがわしいオカルト本や陰謀論本などを思い浮かばせて懐かしさえあった作品でした。

 

ピッチ・パーフェクト」最新作にしてラスト。もう大学は卒業してそれぞれの道を歩むも上手くいかず後輩の活躍に逆に落ち込み、一念発起、軍の慰問ツアーに参加するベッカたちバーデン・ベラーズの面々。今度の相手はラッパーやメタルバンドという異種格闘技戦だ!

1作目は学内予選、2作目は世界大会と舞台が広がったので3作目は異種格闘技戦というまさに正しい3作目。2作目までていた男レギュラーが一切出てこないのも潔い。唐突なアクションも全然ありな有終の美(とはいえ多分何らかの形で作られそうな予感も)。アナ・ケンドリックなどこれまでのベラーズの面々に加え制作で前作の監督でもあるエリザベス・バンクスも引き続き出演。新キャラにルビー・ローズも出てるけどやっぱりこのシリーズの一番の魅力はレベル・ウィルソンですな。本作でも悪乗り大活躍!

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 というわけで9月と10月に観た映画一覧でした。

11月は「ボヘミアン・ラプソディ」ばかり観ています。


『ボヘミアン・ラプソディ』予告編 (2018年)

Excelsior,Stan Lee スタン・リーの世界

  11月13日未明、寝れずにいた僕がツイッターを覗いていたら突如飛び込んできたのが「マーベルレジェンド、スタン・リー95歳で死去」というニュースだった。

 

 お陰でその日1日は何も手につかない精神状態だった。何しろ95歳、いつかこんな日が来る、というのは覚悟はしていたし、この歳ならどんな亡くなりをしたとしても大往生といえるだろう。ただ直前には映画「ヴェノム」のカメオ出演で元気な姿を見せていたし、それでよりショックだったのも事実。以前に水木しげるが亡くなった時の記事にも書いたが水木しげるクリストファー・リー、そしてスタン・リーの3人(ついでにいうと亡くなった時期は大きくずれるが山田風太郎も)はともに1922年生まれ。この怪奇とファンタジーの偉大なる創造主が相次いで亡くなってしまった事となる。先述した通り3人共90歳越えの大往生。その意味で寂しさはあるが不思議と悲しさは少ない。最後まで知的好奇心を保ち続けた人に特有の飄々とした人柄もあってまたすぐにひょいっと姿を表しそうな気もする。何より彼らが生み出した幾多もの作品たちが今後も僕達を彼らに会わせてくれる。

 僕にとってはスタン・リーはクリストファー・リーブルース・リーと並ぶ世界三大リーでもあるわけだが、この「スタン・リー」と言う名前は本名ではなく産まれた時の名前は「スタンリー・マーティン・リーバー」だった。編集人、コミック作家としてのペンネームとして「スタン・リー」を生み出した。本名はいずれ小説家として偉大なアメリカ文学をものにした時用に取っておいた、という理由は有名だ。ニューヨークに生まれ、1939年にタイムリーコミックス(後のマーベルコミックス)に入社、編集や原作(脚本)に関わるようになったリーはまさにゴールデンエイジ*1から業界にいる生き字引だったわけだが、やはり彼をアメリカンコミックス界における伝説にしたのはシルバーエイジを牽引したことだろう。シルバーエイジは1956年のDCの二代目フラッシュの登場から始まるとされているが、1961年にスタン・リーがアートのジャック・カービーとともに「ファンタスティック・フォー」を誕生させたことが大きい。これまでの完全無欠なヒーローに対し新しいヒーローたちは、人間関係や経済的な悩みも持ち、口げんかも多い人間的な苦悩を備えた存在だった。1963年には打ち切りの確定した「アメイジング・ファンタジー」誌15号に「スパイダーマン」をデビューさせる。最初の話は蜘蛛の力を手に入れた科学オタクの少年(ピーター・パーカー)がその力を正しいことに使わなかったばかりに愛する人(ベンおじさん)を失う、というヒーロー物というよりは教訓めいた民話のような物語だったが、これが人気を博し、マーベルを代表するキャラクターとなる。以降スタン・リーは「ハルク」「アイアンマン」「ソー」など現在でも映画などで大活躍するヒーローを次々と生み出し、また「キャプテン・アメリカ」や「サブマリナー」といった戦前から存在するヒーローにも新たな活躍の場を与え、コミックスのルネッサンスを創出することなる。

 本来裏方であるはずのクリエイターを前面に出すようにしたのもスタン・リーが最初だ。表紙などにライターやアーティストの名前をクレジットするのはもちろん、末頁には自身と読者の通信欄なども作った。こうした中で「スタン・リー」という名前が世間に浸透していくこと成る。

 マーベル・メソッドと呼ばれるアメコミ独特の創作方法を生み出したののもスタン・リーで、これはほぼ一人でマーベルのコミックスのライターをやっていた時期に、プロットだけアーティストに渡し、アーティストはそのプロットにしたがって作画をする、帰ってきた作画に後からセリフを入れていくという日本のネーム先行とは逆のやり方で、捨てゴマを多く使い、流れるように読む日本の漫画と一コマ一コマの絵に力を入れているアメコミの差がはっきり分かれてきたのはこの方式の浸透によるのも大きいと思う。

 自己顕示欲の強い、良くいえば自己アピール能力に長けた、悪くいえば他人の名声をも自分のものとしてしまう人物だったのも確かなようでパートナーとして長年タッグを組んでいたジャック・カービーとも仲違いしたりもした。

 スタン・リーはよく「日本でいうところの手塚治虫的存在、彼がいなければ今のコミックシーンはぜんぜん違うものになっていただろう」などといわれる。僕もその意見には異存はないけれど、単に作品の創出する作家としてだけでなく、物語を越えて活躍するヒーローキャラクターの創造という点ではむしろ石ノ森章太郎(そしてそのアシスタント出身でやはり多くのキャラクターを創出した永井豪)の方により近い気がする(もちろん手塚治虫も単にキャラクターの創出という点でも凄いけれど)。ともに作品を読んだことがなくてもキャラクターは知っている人は多いだろう。今年はちょうど石ノ森章太郎生誕80周年であり没後20年でもある。

 ここからは僕の妄想で全く根拠は無いのだけれど、以前から日本の誇るスーパーヒーロー番組であるスーパー戦隊シリーズ元祖「秘密戦隊ゴレンジャー(1975年)」には「X-MEN(1963年)」のオリジナルメンバー(サイクロップス、ビースト、エンジェル、アイスマン、マーベルガールの5人)の構成とコスチュームのデザインがアイデアの一助として影響していると思っている。原作版「仮面ライダー」の本郷猛と執事立花藤兵衛の設定は「バットマン」の影響が強いし、当時の漫画家は今以上にアメコミを読んでいるし影響を受けている。

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 もちろん、「ゴレンジャー」はそもそも「複数の仮面ライダーによるチームヒーロー」というコンセプトが東映側から提案されたり、石ノ森章太郎にはすでに「サイボーグ009」というヒーローチームの金字塔的作品があり、ゴレンジャーから始まってスーパー戦隊の特徴である敵怪人との対決前の名乗り、口上は歌舞伎の「白浪五人男」が元ネタとしてあるように幾つものアイデアが複合して出来上がったものだけどその一つとして「X-MEN」もあるのではないかと思う。

 

 そうでなくても石ノ森章太郎原作ではなくなったスーパー戦隊シリーズ第3弾「バトルフィーバーJ*2東映マーベルコミックスの提携によって産まれた作品第2弾だし(第1弾は最近逆輸入の形で本家にも参戦した東映スパイダーマン」)、「マーベル+ゴレンジャー」と言う形で産まれた「スーパー戦隊シリーズ」はのちに「パワーレンジャー」として世界的に展開していくわけで、日本、アメリカのみならず世界中の子どもたちはスタン・リーと石ノ森章太郎の影響を受けずに育つことはないのである(大げさだが実際そうだと思う)。

 長年マーベル・コミックスの発行人として活躍し続けていたスタン・リーだが最近は日本との関わりも深く、「HEROMAN」「機巧童子ULTIMO」「THE REFLECTION」などを日本のクリエイターとともに手がけていた。 

HEROMAN 1 (ガンガンコミックス)

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 最近の活躍でいえば映画の特に自身が原作としてクレジットされている作品の映画化作品においてカメオ出演するおじいさんとして知る人も多いだろう。2000年の「X-MEN」からほとんどの作品に顔を出し、その特徴的な姿を見せている。マーベル・シネマティック・ユニバースにおけるスタン・リーはこの世界を観測する役割を持った「ウォッチャー」なのではないか?などという説がファンの間ではまことしやかに語られ「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーリミックス」ではその冗談を受けた出演の仕方をした。僕が好きなスタン・リーのMCUでのカメオ出演は「インクレディブル・ハルク」で、ここではハルク(ブルース・バナー)の血が混入したジュースを飲んで昏倒するという役を演じていて、お陰でハルクの居場所がロス将軍にバレる、というMCUの中ではほぼ唯一物語にも関わってくる役として出ている。

 最後に、僕がもっとも好きなスタン・リーの出演シーンと、コミックスを紹介して終わろう。まずはケビン・スミス監督作品「モール・ラッツ」。ここで恋人に振られ「もういい加減大人にならなきゃな」と思っている主人公の前にスタン・リー本人として現れる。興奮した主人公(「FF」のゴム人間リード・リチャーズの股間はどうなっているのか?と執拗に質問する)に呆れつつ自分らしくあることの素晴らしさを説き、主人公を発奮させる。


Mallrats - Brodie Meets Stan Lee

 コミックスではやはり”キング”ジャック・カービーとのタッグ作である「ファンタスティック・フォー」のシルバーサーファーとギャラクタス襲来の一連のエピソード。僕はマーベルのキャラクターとしても作品としても「ファンタスティック・フォー」自体は「スパイダーマン」や「X-MEN」に比べるとそれほど大好きというほどでもないのだが、このエピソードだけは別格。友達の持っていた光文社からでていた白黒の翻訳コミックスを借りて読んだ。本来フルカラーであるのに対して白黒になり、小野耕世氏による翻訳は子供向けになっていたが、そのストーリーの壮大さ、個性的なキャラクターの魅力、ジャック・カービーの力強い絵の魅力とすべてが衝撃だった。僕を決定的にアメコミの道に踏み入れさせたのは間違いなくこのエピソード。

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 とりとめなく書いてきたが少しでもこの偉大なクリエイターのことを知っていただけたら幸い。そして作者はこの地上から去ったが、作品とキャラクターは残り続けるのだ。作品を読めば、そして見ればそこにスタン・リーは存在する。影響は今後のクリエイターたちにも与え続けるだろう。

EXCELSIOR!

R.I.P Stan Lee(1922~2018)

EXCELSIOR,STAN

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*1:初期の1930年ごろから1938年のスーパーマン誕生を経て始まる最初のコミック全盛期

*2:石ノ森原作でなくなったことや巨大ロボットが登場することからシリーズ初期はこの作品を第1作とすることあった

才能と嫉妬と劣等感 「累−かさね−」と「響−HIBIKI−」

 さて、久々の単独映画記事、といきたいのですが故あって2本まとめてです。普段あんまり邦画を観ない僕がかなり前から気になっていた2本。しかも共通点が多いのでまとめて感想あげます。「累−かさね−」と「響−HIBIKI−」を観賞。

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  • 「累」物語

 今は亡き女優、淵透世を母に持つ累(かさね)。しかしその容姿は母に似ず、更に口裂け女のような大きな傷があることから劣等感に悩まされ孤独に生きてきた。母の13回忌で出会った男羽生田から演劇の舞台に誘われた累はそこで美しい丹沢ニナと出会う。ニナはとある理由から演技に注力できず中々芽が出ない。羽生田の提案は累がニナの代わりを務めること。実は累が母から受け継いだ口紅はキスした相手とかを入れ替えることができる不思議な力を持っており羽生田はそれを知っていたのだ。

 入れ替わった累は丹沢ニナとして表舞台に立つ。新進気鋭の演出家烏合霊汰の舞台のオーディションに合格する累。しかしニナは自分の人生を奪われるのでは、と徐々に恐れを抱いていく……

  こちらは土屋太鳳と芳根京子という2人の女優のぶつかり合い。この二人が顔を入れ替えるという設定のもと、互いを演じ合う。この二人は似たキャリアを積んでいるが演技の仕方としてはわりと対照的だと思う。芳根京子の方は僕はちゃんと認識したのは「表参道高校合唱部」での合唱好き少女の役。そしてその後朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」の主演を経て現在。一方、土屋太鳳は「リミット」と言うドラマで知ったがちゃんと認識したのは映画「るろうに剣心」の巻町操役。その後朝ドラ「まれ」を経て、つい最近は「チア☆ダン」のドラマ版で主演していた。似た経歴の二人だが、俳優としての種類はわりと別物で、土屋太鳳は何を演じても土屋太鳳らしさが現れるスタータイプで芳根京子芳根京子としてはそんなに印象に残らないが役をきっちり演じきる演技派タイプという印象。土屋太鳳た太陽なら芳根京子は月。そんなイメージがある。

 この映画でもその印象は生かされている。

 この映画は原作が松浦だるまのマンガ「累」全14巻で、映画は最初の4巻までを使用している。僕は映画を観てから原作漫画を読んだのだが、わりと大胆に脚色・改変しているように思った。おそらく続編などを考慮せずあくまでこの一本だけでの完結を目指したのであろう。余計な部分(多くは累や透世や口紅の秘密に関する部分)を省き、累とニナの二人の関係にテーマを絞っている。更に原作はあくまで累が主人公であり、ニナはその中で出会う一登場人物に過ぎない(4巻で退場してしまう)が、映画はこの二人をわりと対等な主人公同士として描いている。しかし結果テーマ部分としては原作の訴えたいことがより鮮明に浮かび上がったのではないかと思う。

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 僕が最初に思ったのは「ブラックスワン」と「フェイス/オフ」。演劇=バレエを舞台に主演を奪われそうになったプリマドンナがあることで演技者として覚醒するという作品。主人公の名がニナであるのも共通。これはともに「累」劇中舞台であるチェーホフ」の「かもめ」の主人公ニーナからの引用であろう。

フェイス/オフ」はニコラス・ケイジジョン・トラボルタが互いの顔を入れ替えるというアクション映画なのでまあまんまではあるのだが、ここでこの二人がオリジナルの自分を演じる時より」互いに入れ替わった設定の役を演じるときのほうがはるかにいきいきしていたのと同様に、この「累」でも互いに入れ替わっている時の方が魅力的に映っている。累が土屋太鳳の顔をもつニナとして演技をしている時は確かに魅力的だし、原作では累の顔になって周りの目に怯えていたニナも映画では(どうせ一時的だからと開き直っているのか)堂々と傷の付いた顔を表に上げ過ごしているのでオリジナルの累の時より魅力的だ(いっても芳根京子の顔なのだから元は美人だ)。

 ニナをきちんと主人公の位置まで押し上げたことで二人の間の才能と嫉妬、劣等感みたいなものがより際立った。

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 この映画の魅力のもう一つは劇中舞台。邦画で出てくる劇中劇とか登場人物が出てくるTV番組とかそういうものが大概手抜きというか、もうちょっと実際の番組作りと同じくらいのクオリティで仕上げてくれよ、と思うのだが、本作にはそれがない。2本ある(厳密には最初の小劇団の含めて3本)劇中劇は「かもめ」(こちらは稽古風景のみだが)「サロメ」ともにちゃんと全編観たい!と思わせるものになっている。特に「サロメ」は土屋太鳳の熱演もあって、映画とは別にこれはこれで本当に公演してくれないか、あるいは全編撮影しているのならソフト化の際に是非ノーカットで独立したものとして観たい!と思う出来。土屋太鳳はこれまで舞台はやったことがないというから驚きだ。

 とにかく今年の邦画の中では素晴らしく、口紅など世界観の秘密に関するところは匂わせる程度に納めくどくど解読しなかったところや、だらだらエピローグをやらず、スパッと終わるところも素晴らしかった。


「累 -かさね-」【特報①】9月7日(金)公開

 

松浦だるま「累」画集 紅虹

松浦だるま「累」画集 紅虹

 

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「響」物語

 文芸雑誌「木蓮」の新人賞応募作としてとある原稿が届く。応募要項が全然守られていないその作品は破棄されるはずであったが女性編集者花井ふみが目を留める。

 4月、高校に入学した鮎喰響は不良のたまり場になっていた文芸部に入部し、初っ端から喧嘩を売られそれに答えた結果不良たちを追い出す。中々周りとのコミュニケーションが上手く取れない響だが、実は小説を読むこと、書くことにかけては天才だった。部長である祖父江凛夏は実は大ベストセラー作家祖父江秋人の娘であり、彼女を通じて響はふみと出会う。ふみが驚愕した応募作「お伽の庭」の作者こそ響だったのだ。新人賞受賞式で自分に喧嘩を売ってきた同時受賞作家を椅子で殴打するなどトラブルを起こす響。しかし「お伽の庭」は芥川賞直木賞のダブルノミネートを果たすのだった……

  こちらも原作は漫画。柳本光晴「響~小説家になる方法~」で既刊10巻。映画は6巻あたりまでを映画化。こちらは「累」と比べると丁寧なダイジェストという感じ。一部登場人物やエピソードをカットしているが概ね原作に忠実で、キャストのハマり具合もあって、原作のファンは満足できるだろう(その点僕は映画から入ったので分からないが、「累」の方は原作ファンはもしかしたら拒否反応を起こす人もいるかもしれない)。

 主演は平手友梨奈。アイドルグループ「欅坂46」のメンバー。現在最年少でデビュー以来ずっとセンターを務めた人だ。演技としてはグループで出演した「徳山大二郎を誰が殺したか?」「残酷な観客たち」というドラマは僕も見ている。ただ、この2作はほぼ自分を演じる形なので純粋な他人を演じるのは初とも言える。ちなみに「残酷な観客たち」はつまらなかったけど「徳山大二郎を誰が殺したか?」はそれこそ舞台劇なんかにすると面白い題材で、ある程度彼女たちのグループとしての関係やキャラクターを知っていないといけないとはいえ、十分面白いドラマだったのでおすすめ。

 今回は15歳の天才で、文章の天才の割にコミュニケーションをとるのは苦手という役柄で、やはり最年少でずっとセンターを努め、この一年ぐらいは楽曲に入れ込み過ぎたのかちょっとヤバいと言われてる状態だった平手友梨奈と重なるところがある。今回は平手友梨奈という女優の演技力がどうこう、というよりは役者と役柄がピタリと重なって違和感がないところが素晴らしいという感じなので、彼女の真価はまた次の機会であろうと思う。

 映画は丁寧なダイジェスト、と書いたが、省略された部分があることで原作よりもリカとの対比が強調された形となった。リカは文芸部の部長で作家祖父江秋人を父に持ち、自身も才能がある。高校生のうちに作家デビューもする。ただし響が天才タイプであるならリカは秀才タイプという感じで響の才能に打ちのめされる。響がWノミネートを果たす一方でリカはどちらにも残らなかった。間のエピソードがないのでこの響とリカの才能と嫉妬、劣等感の描写がより際立って痛いです。リカ役はアヤカ・ウィルソン

f:id:susahadeth52623:20180921132721j:image、 響の書いた「お伽の庭」は読んだ登場人物が皆素晴らしいと思うその一方で、しかし「累」がちゃんと劇中劇を見せてその演技力を観客に見せていたのと比べると、簡単なあらすじやその情景の感想なんかは出てくるものの、具体的な描写も実際の文章も出てこない。これは原作からそうで、まあ天才の書いた文章とされるものを実際に見せてそれで観客が納得するものを描写できるかといえば難しいので仕方がないとは言える。そこで具体的な才能よりも人物のエキセントリックな行動で描写することとなる。文章よりももっぱら肉体言語が用いられ、響は「殺すぞ」という脅し文句に対し躊躇せず相手の指を折り、暴力をふるうな、と言われて自分のためなら我慢出来ても友人のためなら躊躇しない。映画ではそういう暴力描写が実際の人によって描かれることで、原作ではわりとコミカルだったものがもうちょっとシリアスな感じに。

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まず指を折ることから始まる出会いもある(ねえよ!)。

 実際、その辺の響のエキセントリックな描写は実写になることでまた原作とは別の趣きをもっていて、飛び降りて何事もなかったようにすたすた歩き去る描写(原作では落ちない)や、新人賞授賞式で椅子で殴った田中を電車で追い詰めるシーンや雑誌カメラマンの矢野の自宅に押しかけるシーンとかは、原作ではいきなり存在するのに、映画では一応後をつける描写があることで響の行動がより非常識に見えてくる。

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 個人的には純文学は読まないです。趣味で小説書いたりもするけれど、書くのも読むのももっぱらSFやホラー、ミステリなどのジャンル小説のみ。だから毎年の芥川賞とかほとんど興味が無いし、何度もノミネートみたいなの意味があるのか?とも思うし、劇中の描写がリアルなら芥川賞受賞にそこまでのめり込んでいる人がいるんだ?という不思議な驚きもあった。それはさておき映画の構成で良かったのは小栗旬演じる作家の描写。直接響と絡むのは最後の最後だが、原作では(映画の原作となった部分の)終盤にまとめて描写されているのに対し、響の物語と同時進行で小栗旬の描写が描かれることで(そこでは響とのニアミスもある)、最後の出会いが際立つ。

 原作にあって映画で無くなって残念だったのは作家の吉野先生。吉野先生との出会いは響の作家人生においても重要だと思うし。一方無くなってよかったのは響の幼なじみ涼太郎。涼太郎自体は登場するけれど、出番は少なく特に響への恋愛描写(ストーカー描写ともいう)は完全に無くなっている。これが連続ドラマならそういう描写も入って良いけれど、時間が限られてる映画では余計な描写だと思うのでこれは入れなくて正解。

 

映画「響-HIBIKI-」オリジナル・サウンドトラック

映画「響-HIBIKI-」オリジナル・サウンドトラック

 

 


映画『響 -HIBIKI-』予告

 今回取り上げた2作に特に物語面で共通点があるわけではない。しかしともに漫画原作で公開日も近く、女性二人(累とニナ、響とリカ)の才能と嫉妬、劣等感みたいなものが描かれているなどテーマ的な部分で共通点も見いだせた。まあ一緒にした一番の理由は僕が同日にはしごしたからってのがあるんですけど。

 両作とも10巻以上続く(「累」はもう完結したが、「響」はとりあえず既刊10巻で続刊中)原作の最初の方を映画化した形なので物語は続いている。しかし個人的には映画「累」はもうこれで完結していると思う。原作の方はニナの代わりの女性を見つけ累が再び別人の女優として成り上がる話やそれと平行して口紅と母親の秘密、異母姉妹などが出てくるのだが、再び仕切りなおすのならともかく、今回の作品の続編としては正直その辺はどうでもよく続編はいらない(替わりに劇中の「サロメ」舞台を実際に公演するか完全版を見せてほしい)。

 一方「響」は続きの物語が観たい。原作にあるテレビ局に乗り込むところや文科省をぶん殴るところとか観たいのでこちらは早めに続編製作をお願いします。

 個人的に心に刺さったのは「累」の方だが、続編が観たいのは「響」と言う感じである。ともに良い邦画でした。

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家族でヒーロー夏休み! 8月に観た映画

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 さあ、やっと劇場鑑賞リストも最後。8月に観た映画で終わりです。次からは全部で無くとも単独感想記事をあげられるといいな。それでは平成最後の夏行ってみよう!

8月

 自分では珍しく邦画が多いです。まあ仮面ライダースーパー戦隊やアニメは置いといてもわりと珍しいですね。9月は更に「累」と「響」を観に行ったりしたのでなんとなく今年の夏は邦画の印象が強いです。

8月

 ブラッド・バード監督のスーパーヒーローアニメ第2弾。前作の「Mr.インクレディブル」はピクサー初の人間がメイン登場人物と成る作品で(当時はCGでは髪の毛の表現などが難しく、その必要がないおもちゃ題材の「トイ・トーリー」が長編第1弾として製作された経緯なんかがある)、「ファンタスティック・フォー」のキャラで「ウォッチメン」をやる、というスーパーヒーロー映画となった。今回は前作のラスト直後から始まる物語で、こういうあたりはアニメならでは。今回はどちらかと言うとイラスティガールが中心の物語で、ミスター・インクレディブルは子育てに難儀したりする。

 ヒーローが先かヴィランが先か?前作もそうだが、今回もメインヴィランはヒーローに無自覚に裏切られた人物がヴィランとなってヒーローに復讐する物語。この映画にとっては明確にヒーローがヴィランを生むのだ。ところどどころもやっとするところもないではなかったけど、スーパーヒーロー映画としてよく出来ていいました。 

インクレディブル・ファミリー オリジナル・サウンドトラック

インクレディブル・ファミリー オリジナル・サウンドトラック

 

 ブラッド・バードも過去に監督を務めたトム・クルーズのライフワーク「スパイ大作戦」の映画化シリーズ第6弾。監督は前作に引き続きクリストファー・マッカリー。このシリーズ、毎回新たに監督を迎えるのが恒例だったので監督の続投は異例。それだけトムに信頼されているということか。

 前作もそうだが、今回もちゃんとした物語があるというよりはアクションシーンを先に決め、それをつなぐための物語を考えて構築した、と言う感じだった模様。ちなみに前作のラスト、ソロモン・レーンをガラスの箱に囚えるラストは、現場で思いついて実行したもので製作の偉い人はあのラストを絶賛したものの、もし脚本段階であのラストが書かれていれば「地味だから」と許可しなかっただろうとのこと。撮影中にはトムの怪我があって一時中断されたりしたが、その逸話から分かる通り今回もトムがほぼすべてのスタントを担当。ますますトムのジャッキー・チェン化が著しい。キャストもほぼ前作から引き継いで、物語もつながっている。それだけでなく1作目に登場した武器商人マックスの子どもたちが登場したり、2冒頭のクリフハンガーアクションを思わせるアクションが登場するなどシリーズ集大成と言った趣も。マクガフィンは分かりやすく核爆弾だがシリーズを見てきた人なら何の問題も無く楽しめるでしょう。

 新キャストに一人としてナポレオン・ソロことヘンリー・カヴィルがいて実は敵なのだが、彼とトムのコンビが実に息が合わなくてその意気の合わなさが逆に物語のテンポとなっているのも面白い。 

 

susahadeth52623.hatenablog.com

 前作の記事。

Mission: Impossible - Fallout (Music from the Motion Picture)

Mission: Impossible - Fallout (Music from the Motion Picture)

 

 堀越耕平原作のTVアニメ「僕のヒーローアカデミア」の劇場版。「ONE PIECE」や「HUNTER×HUNTER」「銀魂」「NARUTO」といった原作者が直接参加するジャンプアニメ劇場版の系譜に連なる作品。一年目の夏、一学期期末試験と夏合宿の間の時期を舞台に人工的な島を舞台にデクたちが活躍する。

 冒頭にオールマイトの若い頃、デビューのきっかけとなる出来事が描かれその後現在の話となる。個人的には全く外伝としてこのオールマイトの若いころに絞った物語でも良かったんじゃないかな、とも思う。というか僕はそれが観たい。

 全体として「HUNTER×HUNTER」の天空闘技場を舞台とした劇場版「The LAST MISSION」に酷似している。また1-Aの生徒のうち①メインで活躍するもの、②登場するけど活躍しないもの、③出番が全く無いものと分かれていて、①は全然問題ないものの、②と③はなぜ分けたのかよく分からない。②のキャラクターたちも救助活動などで活躍するのかな、と思ったら全く活躍しなかったし。舞台設定的にも全員出す必要はないわけで、あんな感じで出すなら最初から出さないほうが良かったような。 

僕のヒーローアカデミア (ジャンプコミックス)
 

仮面ライダービルド Be The One」の同時上映作品。名探偵エルロック・ショルメが来日。来日早々新聞記者に変装したギャングラーを見破るなど活躍するが、実はそこには陰謀が…。エルロック・ショルメはモーリス・ルブランのオリジナル「アルセーヌ・ルパン」で登場するイギリスの名探偵。元はシャーロック・ホームズその人だったが諸事情(というか当然のようにコナン・ドイルからクレームが来た)によりエルロック・ショルメ(英語読みならハーロック・ショームズ)としてルパンの好敵手となった(慣例的に日本ではホームズとして登場することが多い)。

 ルパンレンジャーの相手としては申し分ないわけだが、このショルメをココリコ田中が演じている。で登場するギャングラーの名前はウィルソン。このウィルソンはホームズの相棒ワトソンのことである。ウィルソンが怪人ということは当然ショルメも…しかしここで疑問はそもそもエルロック・ショルメなる名探偵は最初からギャングラーだったのか、それともギャングラーがその名声を利用した形なのかどっちなのか?色々気になりますね。ちなみに僕は温水洋一演じるコグレさんはカリオストロ(Cogliostro)のアナグラムなのではないかと思っていおるのでだとしたらぬっくんも敵かもしれません。

 物語的には中盤のルパンレッド魁利とパトレン1号圭一郎がギャングラーの世界に飛ばされ一時的に手を組んで脱出するのが見せ場。ルパンレンジャー側も合体してルパントリコロールになったりするが、それを思うとやはり青白赤のフランス三色旗カラーにするべきではなかったのかなどと思ったり。

 TVシリーズも無事終わった「仮面ライダービルド」の劇場版。ちょっと時間軸とTVの終わり方を比べるとズレが有るように思うので微妙にパラレルなのかも。統一された日本の新しい指導者たちが仮面ライダー狩りを指示、洗脳された民衆たちが戦兎たちを襲う!実は彼ら新しい指導者はブラッド族と呼ばれるエボルトと同じ火星の生命体で、影からエボルトをサポートしていたが、エボルトがのらりくらりしているので自ら打って出た、と言う設定。彼らを勝村政信松井玲奈藤井隆が演じていて、勝村政信仮面ライダーブラッドにも変身したりします。

仮面ライダービルド TV主題歌&挿入歌 ベストソングコレクション(ALBUM)
 

 これまでシリーズを劇場で観たことは無かったんだけど、予告編があまりに魅力的だったので公開初日に見てしまった「オーシャンズ11」のリメイクにして続編。ダニー・オーシャンの妹デビーは出所したと同時に次の獲物に狙いをつける。獲物は女優ダフネ・クルーガーがファッションの祭典で身につける特大のダイヤのネックレス。そのためにデビーは相棒のルーとともにそれぞれ特殊技能を持つ仲間たちを集める。

 まあとにかく手際が見事である程度オチは読めるものの、とにかく爽やかに楽しめる犯罪映画。登場するキャラクターが皆個性的で誰か一人はお気にい入りができるはず。僕はリアーナ演じるナインボールがお気に入りです。 

「オーシャンズ8」オリジナル・サウンドトラック

「オーシャンズ8」オリジナル・サウンドトラック

 

 昨年大ヒットの空知英秋原作「銀魂」の実写映画第2弾。個人的には前作の正統なパワーアップ続編。もちろん「銀魂」という題材や福田雄一作品の特にギャグ部分は人を選ぶので誰にでもおすすめできる作品ではないけれど(でも大ヒットしているから凄い)、それでも福田作品の弱点であるところの物語の弱さも前作同様原作の人気エピソード(真選組動乱篇)を持ってくることでカバーしているし大真面目にバカをやっているキャスト陣の頑張りもあって楽しくも感動できる作品になっていると思います。

 でもまあ一番の見所は勝地涼演じる将軍に尽きる!

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 前作の記事。

 

 2010年の韓国映画「サニー永遠の仲間たち」の日本リメイク。現代パートが2018年になっていて、その分過去も10年ほどずれて1996年辺りを舞台に。物語自体は驚くほどオリジナルに忠実でなんならカメラワークとかも同じなところもあったように思うのだけど、一部登場人物が削除されたり統合されたり(凶暴文学少女クムオクとライバルグループ少女時代をイ・サンミと統合しちゃったのはダメだと思う)したことや時代のズレなどもあって個人的にはやはりオリジナルには遠く及ばないなあ、といったところ。例えば音楽。今回は音楽映画、という位置づけにもなっていて確かにミュージカルシーンなどもあるのだけど、その楽曲がすべて日本のJポップ。洋楽と韓国の歌謡曲をバランスよく組み合わせていたオリジナルに比べると、確かにあの時期Jポップが強かったがそれでも内部に閉じこもる印象が強くなる。グループ名の「サニー」の由来も全然別のものに。そこぐらいオリジナルと同じ楽曲を使えばよかったのに。

 また90年代コギャル文化とやらが過去編のキーワードらしく僕は(ほぼ登場人物と同年代だが田舎なので)知らないが、それが「援助交際=援交」という形で語られることが多いのが気になった。探偵役のリリー・フランキーが「あんたたちもやってたんでしょ」みたいなこといったり、主人公たちも「私たちはやらなかったけど」みたいな感じでさも当時の女子高生に取っては援交が当たり前みたいな形で語られていくのだ。監督は「バクマン。」の大根仁。「バクマン。」もマンガの実写映画化としてはよく出来ていたと思うが、妙に原作とは別の性的な葛藤描写を入れたりしていたが、なんかこの他人の原作である作品にも絶対性的描写を入れてやるぜ!と言う強い(そして邪悪な)意志を感じてしまう。

 キャストは過去も現在もみな良かったと思います。僕もオリジナルを見て以来、定期的に「もし日本でリメイクするならこのキャスト」とその時々のアイドルなどを想定して妄想していた。もちろん今回のキャストには全くかすりもしていないのだが。そういえばラストの現在のところ。池田エライザさんが大人になって誰が出てくるのだろうと思ったら唯一池田エライザさん本人がそのまま出てきたのでびっくりしました。てっきり石田ゆり子あたりを特別出演のサプライズとして用意していると思ったので。

 最終的にはちょっと泣けてくる部分もあるんですよ。そりゃ物語自体は全くオリジナルのままなのでね。過去のナミと現在のナミが交差するところとか(主人公の名前は日本版もナミです)。でももしこのリメイク版を見て興味を持ったらオリジナルも観てほしい。やはり総合的にはオリジナルのほうが何倍もよく出来ていると言わざるをえないです。

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」Original Sound Track

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」Original Sound Track

 

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 オリジナル版の記事。

サニー 永遠の仲間たち デラックス・エディション Blu-ray

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 最小ヒーロー第2弾。MCUは「アベンジャーズ インフィニティー・ウォー」ラストで大変なことになってしまうのですが、あそこで登場しなかったアントマンは一体何をしていたのか?という物語。シビル・ウォーでキャップ側に加担したことでFBIの監視下に置かれていたのです!そこに量子の世界から妻であり母親であるジャネット・ヴァン・ダインを救い出そうと試みるハンク・ピム博士とホープヴァン・ダインの親子が接触を試みて…。

 MCU作品としては初の女性ヒーローの名前がタイトルに刻まれた作品。もちろんこれまでもブラックウィドーやガモーラなどチームの一員として女性主人公と言えるキャラクターは登場していたのだけど、明確にタイトルに刻まれたのはこれが初。そしてここで言う「アントマン&ワスプ」はスコット・ラングとホープだけでなくハンクとジャネットも指しているのですな。ジャネット役はキャットウーマンことミシェル・ファイファー

 物語は予定調和的に「インフィニティー・ウォー」と同様の結末となるのだが、その時スコットは量子世界の中に取り残されてしまう。このことが果たして来るべき「アベンジャーズ4」で打開策の何かのきっかけとなるのか否か?

 次のMCUはやはり過去編。しかしもうちょっとさかのぼって80年代を舞台に描かれる「キャプテン・マーベル」。「アントマン&ワスプ」に続き女性主人公!しかも単独クレジット!サミュエル・L.ジャクソン叔父貴も若返りSFXでまだ両目があるニック・フューリーとして登場するよ! 

susahadeth52623.hatenablog.com

前作の記事。 

Ant-Man and The Wasp (Original Motion Picture Soundtrack)

Ant-Man and The Wasp (Original Motion Picture Soundtrack)

 

 というわけで一応これで全部終了。次からはなるべく(一週間に一度くらい)の感じで単独感想記事を上げたいと思います。お付き合いありがとうございました。

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将軍かよー!!!