The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

悲しき対決 貞子vs伽椰子

 6月中にまた更新するという公約を見事に守れなかったのですが、現在プレイ中の「ドラゴンクエスト6」が程よく行き詰まったのでブログに精を出します。「ドラクエ6」はこれが初プレイなので知らなかったけど「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド」は「ドラクエ6」の前日譚(外伝)だったのね!昔ゲームボーイカラー版に熱中してたよ!
 さて、今回は和製ホラー映画の金字塔「リング」の貞子と「呪怨」の伽椰子が戦うというクロスオーバーホラー「貞子vs伽椰子」を鑑賞。他の作品をさておいてこちらの感想を書くというのはそうです、あんまり楽しめませんでした。負の感情が大きい時のほうがスムーズに書けるのは悲しいところ。とはいえ世間的にはそれなりに評判もよいのであくまで僕の意見ということで何かの参考になれば。

物語

 女子大生ユリは友達の夏美から両親の結婚式のビデオをDVDに焼いてほしいと頼まれる。そのためにリサイクルショップを訪れた二人は一番安いVHSデッキを購入。そのデッキの中にはすでにテープが挿入されていて、夏美はそこに映されていた映像を見てしまう。直後にかかってくる謎の電話。これは都市伝説の「呪いのビデオ」に違いない!このままでは夏美の命はあと2日。二人は都市伝説を大学で研究している森繁に相談、森繁もそのビデオを見てこれは本物と判断。森繁の知り合いの霊能力者に診てもらうことに。
 一方同じ頃新居に越してきた女子高生鈴花は向かいの今は立入禁止となっている一軒家が気になっていた。小学生が行方不明になっていたが鈴花はこの家の前でその小学生たちを目撃していたのだ。この家が関係していると思った鈴花は家に足を踏み入れてしまう。
 夏美は霊能力者に見てもらうがその呪いの力は強く霊能力者たちを殺してしまう。ユリは夏美から呪いを引き継ぐべく同じく呪いのビデオを見る。そこに現れたのが別の霊能力者常盤経蔵。彼は呪いのビデオの呪いの主、貞子と忌まわしき一軒家の呪いの主、伽椰子の2つの呪いを同時にその一身に宿らせることで呪いの対消滅という驚くべ戦法を立てる。ユリと鈴花が経蔵の手引のもと出会うことに。
「化け物には化け物をぶつけんだよ!」

 現代日本を代表する怪談キャラクター。今は少し落ち着いたが一時は世界的にブームにもなったJホラーの立役者となった2シリーズが共演。それこそ「東海道四谷怪談」のお岩さんぐらいまでは容易に遡れる*1黒髪に白い服の伝統的な日本幽霊を引き継ぎつつ、きちんと現代の要素を足しているところがこの2つのシリーズの特色でもあるだろう。
 僕は両シリーズとも一応それなりには見ていて、「リング」は最初の映画版と続編の「らせん」「リング2」、ハリウッド版のリメイクである「ザ・リング」と「ザ・リング2」はチェック済み。ほとんど記憶には」ないけれどオリジナルビデオやTVドラマの「リング」も少し見ていたと思う。鈴木光司の原作は読んでいない*2。ただクライマックスでTVから出てくる貞子、という表現は映画オリジナルだそうで「リング」が世界的に評判となったのはこの映画版あればこそだと思う。現にハリウッド版も鈴木光司の原作を改めて映画化、ではなくあくまで映画「リング」のハリウッドリメイクである。
呪怨」の方は最初のオリジナルビデオ2作、映画版2作、そしてハリウッドリメイク作2本は鑑賞済み。特にこちらの方は大石圭のノベライズも読んでいたりしてかなりハマった覚えがある。僕はどちらかと言えば「呪怨」の方が好きである。
 両シリーズとも、最近の作品はチェックしてはいないが初期作はだいたい見ているという感じだろうか。原作小説そのものよりも映像化によって世界にその存在が認識されていくさまは「ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」と同様であり、その辺でもまさに現代を代表するホラーキャラクターと言えるだろう。
 監督は白石晃士これまでは主にフェイクドキュメンタリーの形式でホラー映画を撮ってきた人だ。僕はこの人の作品はこれが初となるが、なかなか熱狂的なファンがいる印象で、監督自身の露出も多いみたい。本作では自分から名乗りを上げて監督をし(元々は2015年のエイプリルフール企画だったそうな)脚本も手がけている。だからまあ、本作への批判はほぼ白石監督に向けて良いだろう。
 こんな書き方をしたとおり、僕は今回の「貞子vs伽椰子」全然ノレなかった。物語の流れはともかく登場人物の造形と会話が薄っぺらすぎ、互いの設定も元々の設定をきちんと活かしているというよりはこの作品のために安易な方安易な方に改変しているように思えた。もちろん僕はこの両シリーズを全てチェックしているわけではなく、そもそもこの作品はおそらく両シリーズのパラレルワールド的な扱いになるのだろうし、独自の解釈があっても良いのだが、なんだか釈然としない。例えば分かりやすいところでは呪いのビデオを見て死ぬまでの日数が七日間から二日間に短縮。またその呪いのビデオ自体が最初の「リング」の時に作られた映像に比べるとかなりお粗末になってないか(廃墟と思われる建物の部屋が映って中央の扉から貞子らしい人物が姿を表すというだけ)?あと髪の毛を触手のように使うのはどちらかと言えば伽椰子の領分ではなかったかな?
 伽椰子の方は伽椰子の方で俊雄くんがアグレッシブすぎる。俊雄くんはあくまであの家の水先案内人とでもいう役割で俊雄くん自ら手を下す役割ではなかった気がする。それがこの作品ではかなり直接的に俊雄くんが手を下す。
 後は両者の違いって言うことでいうとやはり伽椰子は貞子と違って藤貴子という女優に負うところが大きいのではないかと思う。フレディがロバート・イングランドでなきゃ魅力が半減するように。

 登場人物の会話が薄っぺらいと書いたがそれは主役が一定しないところもあるだろう。山本美月のユリと玉城ティナの鈴花は良かったと思うのだが、それ以外のキャラクターがきつい(常磐経蔵はまた別)。例えば甲本雅裕が演じる森繁が都市伝説としての「呪いのビデオ」に熱中し、探偵役となって物語を主導するのかとおもいきやあっけなく死ぬ(貞子の呪いを受けたものは勝手に死ぬことも許されない、とか言っていた割に彼はあっさり一日目で死んでしまう。この辺りも設定が一貫してなくてイラッとするところ)。
 玉城ティナはお人形さん的な美しさははあったけれど、こういうホラーで被害に合う側としてはちょっとその美しさが逆に邪魔になっていたかな、という感じ。それでもそんなに台詞も多くなくそこにいるだけで魅力的な感じではある。
 山本美月は想像した以上によく今風でありながら芯の強い女子大生をうまく演じていたと思う。後半のアクの強い常磐経蔵と対等に立ち向かえていた。

 この作品で一番むかつくのは霊能力者法柳だ。堂免一るこ、という人が演じるこの役はかなり不快。口調が完全に命令口調。これが知りあいである森繁に対してだけなら別にいいのだが、初対面で客でもあるユリや夏美に対しても命令口調なのでこの上なく不快。いざ、除霊の時になったら口調が変わるとかならまだいいのだが、画一的に同じ口調でさっさと死なねーかな、と思うこと間違いない(案の定死ぬ)。この霊能力者は高天原が云々と神道ぽいことを口に出したと思ったら次は真言=タントラを唱える節操のなさで普通に人格がやばいだけでなく霊能力者としても無能なんじゃねえの?と思ってしまう。ホラー映画では大体観客に不快感を味あわせた人物は無残な死に方をして観客の溜飲を下げさせるのが定番だが、その意味では正しい最後を迎える。がどうも普通に格好いいキャラとして創造されたような気もするんだよな……全体的に悪い意味での漫画っぽい単純な人物造形が多く、そのせいで作品そのものが薄っぺらくなっています。
 中盤から物語を主導し、解決に導くのが安藤政信演じる常磐経蔵なのだが、これはやはり漫画的な造形の人物ながらそれがうまい方向へ作用しているキャラクター。盲目で少女の相棒珠緒を連れた無頼の霊能力者。探偵役でヒーローの役柄だが、彼はかなり唐突に登場する。一応法柳の手に負えないから彼にも連絡しておいた」、という体で登場するが、それまでに彼の説明がない。実質主役なのに登場が遅いということもあるがそのまるで誰もが知っているキャラクターかのように登場する(まるでホームズや明智小五郎が中盤に事件が行き詰まってからいきなり登場しても問題ないように)ので、僕はてっきりこの常磐経蔵と珠緒の二人が僕が見ていない「リング」呪怨」どちらかのシリーズ作品か、あるいは白石監督の過去作ですでに登場済みのキャラクターなのかと思ったぐらい。ところがこれがまったくの初登場らしい。これなら例えば映画の冒頭に本編とは直接関係ない幽霊事件を解決する常磐経蔵みたいな描写を入れて最初に主人公だと示したほうが良かったと思う。
 盲目の霊感少女珠緒も法柳同様口調が誰にでもタメ口、というか上からの不遜な口調で、相棒である経蔵との間では、それはむしろ信頼の絆を伺わせて全然良いのだが、ユリたちに対しては、もうちょっとやわらかい口調にできなかったものか。常磐経蔵も基本の口調は誰にでも乱暴なタメ口なんだけど、そこは安藤政信がきちんとセリフを咀嚼しているというか、人によっての微妙な機微を感じ分け、相手の様子を考慮して不快にならないようにしているのに対して珠緒はただ誰にでもぶっきらぼうなだけでセリフを自分の物にしていない感じが強い。
 モンスター映画としてみた場合、ラストのバトルと融合は面白かったが、それほど両者の個性が発揮されていたとは思えない。
 結局ホラーとしてもモンスター映画としても中途半端になっているように思える。「フレディVSジェイソン」を反面教師にしたと言っているがあの作品がきちんと両者の個性、フレディの邪悪さ、ジェイソンの悲劇性を再表現した上で互いの設定をすりあわせているのに対して、本作の貞子と伽椰子はほぼ出てくるだけ。過去のシリーズで散々描写されてきたからかもしれないが、どうしてこの二人の女性が怨霊となったかがまったく無視されているのは悲しい。呪いのビデオやあの家についてユリや鈴花が調べていってただ怖がるのではなく多少の共感を覚えるような過去の作品にあった要素が、綺麗に消えている。「外なる恐怖と内なる恐怖」というのはスティーブン・キングの言葉で超常現象を発端とする恐怖「外なる恐怖」とサイコホラーなど人間の内面を根源とする「内なる恐怖」の両輪があって、この作品で言えば外なる恐怖は描けても内なる恐怖は皆無。もちろん実際にあんな状況に放り込まれればそれは恐怖だろうけど、映画として観客が味わう恐怖感とはちょっと違う。効果音などでビクッとする瞬間はたくさんあるが、それと恐怖はまた別だと思う。

 急いで書いておくと、超常現象ホラー系の作品の時には毎回言っている通り僕は「フィクションの素材としては大好きだけれど、現実のものとしては超常現象の類を一切信じていない」人間なので、そういう人間の感想だし、実際僕がホラー映画を見て感じる恐怖は決して一般的ではないと思うので気になる人は各自確認を、ということになる。

貞子VS伽椰子 (小学館ジュニア文庫)

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聖飢魔IIが主題歌!楽しい曲だったけどホラー映画のクレジットでかかるのにふさわしかったかはちょっと疑問。
リング コンプリートBOX [DVD]

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フレディVSジェイソン」は偉大だ。

*1:ヘタすれば黄泉比良坂の伊邪那美命まで辿れる?

*2:関係ないが鈴木光司は昔NHKスティーブン・キングのドキュメンタリーを放送した時にスタジオ出演していて、学校が嫌いだった、というキングに「ボクはわからないな〜学校大好きでしょうがなかった」みたいなことを言っていた時に、この人とは友達になれないな、と思った