The Spirit in the Bottle

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悪魔と魔女が来たりてヘヴィメタる ロード・オブ・セイラム

 多分僕が今年劇場で観た映画からキーワードを抽出すると一番多くの作品に共通する要素として「魔女」という単語が浮かび上がるのではないかと思う。単純にオカルトホラー系の作品のみならず「オズ はじまりの戦い」はもちろん「シュガー・ラッシュ」あたりにもその要素も見受けられるだろう。魔女と一口に言っても犠牲者と加害者あるいはその両方であったりするのだが、多くはヨーローッパにキリスト教が普及する前から伝わる民間療法を使う女性をキリスト教の観点から見て魔女と呼んだのが始まりではないだろうか。15世紀から17世紀にかけて欧米では「魔女狩り魔女裁判)」の名のもとに多くの女性(男性の場合がある)が犠牲になった。魔女とされた人々の実際のところは様々(単に隣人とのトラブルから訴えれた人もいれば政治的に地元の権力者とそりが合わなかったから、という人もいただろう。実際に悪魔崇拝していたり魔術を使っていた、などという人は殆どいなかったのでは?と思う)。現在は「魔女裁判」という言葉は「公正な方式によらない裁判」の代名詞ともなっている。
 中世の欧米で嵐のように吹き荒れた魔女裁判の中でも最も有名なのがアメリカのセイラムで起きた「セイラム魔女裁判」だろう。「セイラム魔女裁判」をテーマとしたロブ・ゾンビ監督作品「ロード・オブ・セイラム」を観賞。

物語

 魔女裁判で有名なマサチューセッツ州セイラム。ラジオDJのハイジはいつものように月曜日を迎える。アパートでは空き室になっていた5号室に入る人影を見かけるが大家によると入居者は未だ見つからず空き家のままであるという。その日ラジオ局にハイジ宛に木箱が届き中には「ザ・ロード」と名乗る人物のレコードが入っていた。自宅でそのレコードをかけると奇怪な音楽が流れハイジは気分を悪くする。
 火曜日、ラジオのゲストは地元で「セイラムの魔女裁判」について調べている人物で著書の宣伝のため訪れたフランシス・マサイアス。かれは自分の出番のあとに流れた「ザ・ロード」の音楽に興味を示す。ハイジはまた体調が悪くなるが帰宅すると大家とその2人の姉妹にお茶に誘われ姉妹のひとりメーガンに手相占いをしてもらっている途中卑猥な言葉を浴びせかけられハイジはその場を後にする。その夜ハイジは誰も居ないはずの5号室の扉が開いていることに気づき、誘われるように部屋に入っていくが。
 水曜日、フランシスは資料の中から「ザ・ロード・オブ・セイラム」の名前とそこに載せられた楽譜が先日流れた音楽と一緒だということを発見。著者に会うと17世紀魔女裁判で判事を努めたジョン・ホーソーンの子孫が「悪魔の王の子供を宿す」と処刑された魔女たちに呪われた宣言を受けていたことを知る。フランシスはさらなる調査でハイジの本名がアーデルハイド・エリザベス・ホーソーンであることをを突き止める。彼女こそジョン・ホーソーンの子孫だったのだ・・・

 ロブ・ゾンビの名を最初に知ったのは映画「ハードロック・ハイジャック」での出演だったと思うが、その時はホワイト・ゾンビという映画史上初のゾンビ映画にバンド名を由来したグループとしてだった。その後ソロになってからもまずはミュージシャンとして認知していたが、彼は自身のミュージックビデオも監督しており、それらは過去の名作映画に題材を取ったものが殆どでその趣味の良さ(受け取る人によるが)が感じられた。そんなロブ・ゾンビが映画を監督すると知ったのは2002年頃。WWEのエッジのテーマ曲なども手がけぼくは普通にアルバムを買っていたが、その監督デビュー作「House of 1000 Corpses」は日本では中々公開されなかった。僕は先にサントラを買って何度も聴いたものである。日本で公開されたのは2004年。「マーダー・ライド・ショー」と邦題が名付けられたそれは「悪魔のいけにえ」と「ふしぎの国アリス」をベースにまるで「ロッキー・ホラー・ショー」のようなけばけばしさをもった作品だった。ある意味では「悪魔のいけにえ2」が一番近いかもしれない。実際ビル・モーズリーが出演している。
 僕自身はロブ・ゾンビの最高傑作は「Living Dead Girl」のPVだと思っているが、まああれは「カリガリ博士」の完コピ作品みたいな部分もある。この作品で一躍映画監督としても認められたわけだが、2作目の「デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2」はその名の通り続編でありながら趣をがらっと変えニューシネマっぽい作りになっていた。「マーダー・ライド・ショー」はまだミュージックビデオ風ではあったが(実際彼が音楽も担当している)映画監督としての自分の方向性を見出したのは「デビルズ・リジェクト」の方かもしれない。
 その後ジョン・カーペンターの「ハロウィン」をリメイクしその続編も監督。タランティーノの「グラインドハウス」に合わせて嘘予告編「ナチ親衛隊の狼女」を作ったりしていたが、久々のオリジナル作品がこの「ロード・オブ・セイラム」である。

このポスタービジュアルにもなったDMCクラウザーさんのようなメイクのシーンはほんの一瞬だったのが残念。
 
「セイラム魔女裁判」自体は実際にあった出来事でその検事がジョン・ホーソーンという人物であったというのは事実。ただ実際は集団ヒステリーによるものとされ、処刑された者たちは25名という数字も本当だが、劇中のように本当に悪魔信仰をしていたものはいないだろう。大体ハイジはホーソーンの子孫ということになっているが、「緋文字」で有名なアメリカの小説家ナサニエル・ホーソーンは実際にジョン・ホーソーンの子孫である。
 セイラムの事件はアーサー・ミラーによる戯曲「るつぼ」として知られるほかその映画化作品「クルーシブル」がある。またクトゥルフ神話の主な舞台の一つでもあるアーカムラブクラフトがセイラムをモデルに作りあげたと言われるし、スティーブン・キングの「呪われた町」の舞台もセイラムズ・ロットの名の通りモデルの一つ。後は意外なところでは「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトンがこの事件の犠牲者と遠い血縁関係にあるそうだ。
 そして、なんといっても最近の作品では「パラノーマン」のブライスホローだろう。このブライスホローも同じマサチューセッツ州であり魔女伝説の残る町、ということでやはりセイラムがモデルである。と言うよりですね。僕は以前より「サイレントヒル」と「パラノーマン」が姉妹作のようなものである、と言っているけれど、ジョデル・フェルランド演じる魔女の汚名を着せられた少女、という点でこの2作はつながるが、「パラノーマン」と「ロード・オブ・セイラム」は魔女裁判そのものをテーマとし、色々と符合する部分も多くしかしこの2作は同じテーマの裏表、陰と陽といったものであると思った(もちろん「パラノーマン」が表で陽、「ロード・オブ・セイラム」が裏で陰である)。
 例えば同じ魔女裁判をテーマの一つとしていることはもちろんだが、

  • 本気で悪魔を信仰している人達がいる
  • 「パラノーマン」では七人の陪審員が魔女に死刑を言い渡すが、「ロード・オブ・セイラム」では七人の悪魔主義者が処刑される

などなど、「パラノーマン」と対照的に描かれている部分がある。

 主演はロブ・ゾンビの奥さんでもあるシェリ・ムーン・ゾンビ。この人は元々ホワイト・ゾンビ時代からのバックダンサーでありPVにも出演してそのままロブ・ゾンビと結婚して監督作にも全部出演している、という人ですね。今回は全身刺青の過激なラジオDJという役柄ではあるが外見に反してそれほど過激ではない普通の女性という感じ。そんな彼女が徐々に悪魔に取り憑かれてやつれていく様子が見ものである。また、ラジオDJ仲間で「ゾンビ」のケン・フォーリーが出ています。
 物事を調べていくいわゆる探偵役に当たるのは「ウィラード」や「いちご白書」、最近では「X-MEN」におけるケリー上院議員役でお馴染みのブルース・ディヴィソン。
 そして意外に印象に残るのが大家とその二人の姉妹でその内の一人を「ロッキー・ホラー・ショー」のマジェンタ役のパトリシア・クインが演じている。あとこの作品でもフライパンが活用されますが、あれですね、フライパンで頭をフルスウィングする映画は総じて面白いですね。

 映画は前半の淡々とした描写と後半のわけの分からぬ描写が渾然一体となっており、不思議な印象。70年代の映画のような雰囲気を持っている。出てくる悪魔は毛むくじゃらの巨大な猿人風のものもあれば小さい小人風の化物も。そして生まれてくる魔王の子はなぜかエビっぽい。正直悪魔のデザインとかちゃちいのだが、これが不思議と映画の雰囲気には合っている。クライマックスのコラージュ感満載の編集などもう観客を置き去りにしたわけの分からなさであり、邪悪でありながら、それでもどこかほのぼの感さえ漂わせるところは「ウィッカーマン」を思わせる。
 この作品面白いところはあくまでロブ・ゾンビその人が趣味として描いているところだと思う。音楽としてもそうだが、この人の悪魔趣味はあくまで趣味にとどまり本気で信じていたりする匂いはほとんどしない。あくまで洒落。そういう部分が作品から感じられるので真面目な描写であってもどこかエンターテインメントとして成立している。敬虔なキリスト教であろうとその他の宗教であろうと悪魔崇拝であろうと本気で信じている奴の作る映画はそれはそれで(突っ込みながら観るという意味では)面白いかもしれないが、まっとうなエンターテインメントには中々ならないよ。

 ノベライズ読んだら後半のカオスな部分も多少はよく分かるのかしら。
「パラノーマン」が面白かった人にはこちらも補完する形で見ていただけるといいと思います。

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 今年のベストですのでね。もう何度でもおすすめしますよ。

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