The Spirit in the Bottle

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格好悪いってことは格好良いってことさ ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション

 10月6日はトム・クルーズの日!(語呂合わせだけど本当にトムの日らしいよ)ちょっと早いけれどそういうわけでトム・クルーズ主演映画を観賞。トム・クルーズが制作から務める「ミッション:インポッシブル」シリーズ最新作「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」を観賞。

物語

 おはようハントくん。君が追っていた犯罪組織「シンジゲート」だが、実在することが判明した。死亡したり任務中に行方不明になったことになっている各国のエージェントをスカウトし、各種テロ活動や武器密売などを行っている「ならず者の集まり」だ。
 ところで我がIMFはこれまでの無茶がたたって解体されCIAの管理下に置かれることと成った。
 そこで今回の任務だが、君にはこのシンジゲートを追って貰いたい。まずはロンドンの秘密支部へ行ってほしい。例によって君、もしくは君のチームメイトが捕らわれ、あるいは殺されても当局は一切関知しないのでそのつもりで。このテープは5秒後に自動的に消滅する。

 ロンドンでIMFの指令を受け取るイーサン・ハント。しかしそれは罠でハントは謎の組織に捕らわれてしまう。意識を取り戻し拷問にかけられそうというその時、彼らの仲間であるイルサがハントを逃がす。IMFに連絡を取るもIMFはCIAの管理下に入り、ハントは逆に彼らに追われるはめに。ブラントの意思を忖度してハントは姿を消す…
 6ヶ月後。CIAで働くことになった元IMFエージェント、ベンジーのもとにウィーンのオペラ「トゥーランドット」の招待券が送られてくる。ウィーンでベンジーは送り主がハントだと知る。ハントによればこの公演にシンジゲートの首領、かつてハントを拉致した男が来るはずだというのだ。ハントの手伝いをし客の中から男を探しだそうとするベンジー。一方劇場には主賓として訪れたオーストリア首相を暗殺するため3人の暗殺者が紛れ込んでいた。一人は以前ハントを逃したイルサだ…

 前作の感想はこちら。

トムの辞書に不可能の文字はない! ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル

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 前作が2011年なので4年ぶり。元はTVシリーズスパイ大作戦」の映画化として始まったこの企画、トム自身が制作も努めており4〜5年の間隔で定期的に作られていることからトム・クルーズのライフワークといっていい。もちろんトム主演映画としても最長シリーズだ。1作目のブライアン・デ・パルマの「ミッション:インポッシブル」が制作されたあたりは60年代〜70年代のTVシリーズがどんどん映画化リメイクされていった時期だが、1作目はその嚆矢となった作品か。前作の感想で書いた部分と重複するけれど、「チャーリーズ・エンジェル」みたいなTVシリーズの続編*1である作品と、ガラッと変えた完全なリメイクとがあって、「MI」シリーズは後者なわけだが、この1作目の時点ではTVシリーズの主人公フェルプスを裏切り者にしてしまい悪役として殺してしまったこともあって賛否両論だった。
 続く2作目ではジョン・ウーが監督を努め、もう「スパイ大作戦」要素は薄れていたが、まごうかたなきトム映画として作られてこれまた賛否両論。個人的にはジョン・ウーの演出にはそれを体現できる役者の相性というものもあって、あんまりトム・クルーズジョン・ウーは相性は良くなかった印象*2
「007」シリーズと違って、この「ミッション:インポッシブル」シリーズは希代のスーパースタートム・クルーズのオレ様映画という側面とTVシリーズの頃からの特徴である「チーム物」という一見相反する要素を両立させなければならないのだが、このバランスが最もよくとれていたのが3作目の「M:I:Ⅲ」だろう。監督はJ.J.エイブラムスで、ここから本作「ローグ・ネイション」までの3作は直接ではないが連続した作品とも言える。エイブラムス自身がこの時点ではそうだったが、映画監督としては新人に近い監督を抜擢するようになったのも3作目からだろう。今作は「アウトロー」でトム・クルーズと組んだ(オール・ユー・ニード・イズ・キル」では脚本も)クリスストファー・マッカリーが監督に抜擢。「アウトロー」は独特の緩い部分もあって賛否両論だったが、本作ではその緩い部分もうまくユーモアとして本編に溶け込んでいて、より幅広い観客向けの作品として成功している。

 さて、タイトルの「ローグ・ネイション」はアメリカ政府がテロを容認・支援していたり、人権を抑圧していたりする国家をさして呼称した「ならずもの国家rogue state」から来ているのだろう。観る前は今回の敵組織の名前かと思ったが、劇中では死亡したり行方不明になったりした各国のスパイ=エージェントが集まった「ならず者の集団」という認識。その実態は英国が秘密裏に各国のエージェントをスカウトし英国が裏のそのまた裏の手段として行使するための計画で、首相は却下したがMI6のもとで進められ、さらに今回の敵首領であるサイモン・レーンがその計画を乗っ取ったというもの。この辺後述するが「007」シリーズを意識しているような気がする。ところで「ローグ」といえばX-MENのローグ(元々はヴィランとしてデビューしたのでこんな名前だったりする)なのだが、「X-MEN フューチャー&パスト」の「ローグ・エディション」買いました。でも現在blu-rayもDVDも見れない状態でまだ見てないです。これと「ヒックとドラゴン2」は見て改めて感想書こうかなあなどと思っていたのだけれど、ソフトは手元にあるけれど鑑賞できない状態でイツになるやら…(ヒックとドラゴン2は一回だけ見れた)閑話休題

 今回はイーサン・ハントが冒頭のアバンタイトルから超人的なアクションを見せる一方で、基本的にはハントが孤軍奮闘する話なので前半から中盤にかけてはチームものという印象は薄い。大体IMF自体が解体されてしまうのだ。これまでもバックアップ組織としてのIMFはあんまり役に立った印象はないが今回は組織自体がない!そしてCIAに追われる(ハントがハント(狩り)される)それでもベンジーが巻き込まれる形でハントとチームを組み、ブラントもルーサーを引き釣り込んでCIAとは別にハントの足跡を追い、最終的にはこれまでにないほどチームとして機能するから見事だ。トムは超人的なアクションを生身で演じるけれど、一方で同じくらい捕まったり気絶したり失敗したりと言った格好わるい描写も多い。もちろんタイトルどおり「不可能な任務」に挑むため常人なら失敗して当たり前なのだが、最近のトム・クルーズはその格好わるい姿でさえ魅力に変えている。またその失敗を仲間がフォローするからこそチームものとしての映画として印象が強くなり、トム映画であることとチーム映画であることがうまく両立している一因でもあるだろう。イーサン・ハントの本来のエージェントとしての個性「変装の達人」もきちんと出ていたのは嬉しかった。
 今回はポスターにもなっている飛び立つ飛行機の側面にしがみつくトム、オペラ座で本番中の舞台の裏側でスラップスティックに殺し屋と格闘するトム、ミッション達成も溺れてしまうトムなど色々なトムの魅力がいっぱい。紛れも無いトム映画であろう。
 チームは3作目から登場のベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)を相棒(兼ヒロイン)に据え、前作から登場のブラント(ジェレミー・レナー)とハント以外では唯一の全作登場(しかし前作ではラストにちょっと登場しただけだった)ルーサー(ヴィング・レイムス)も今回はきちんとフル出演。
 ジェレミー・レナーは前作の段階では「ハントはバックアップにまわりシリーズとしての主人公はレナーに譲る」などの噂もあったんだけど、むしろハントをバックアップする役割。レナーは「アベンジャーズ」や「ボーン・レガシー」などスパイやエージェントの役が本当多いのでむしろこのシリーズでは現場でなくバックアップの方に回ってほしい。
 エージェント役といえばトム・クランシー原作で役者を変えて今も続く「ジャック・ライアン」シリーズの最初の映画化「レッド・オクトーバーを追え」でCIAの情報分析官、ジャック・ライアンを演じたアレック・ボールドウィンがCIA長官ハンリーを演じている。この辺は意図的なものなのかなあ。
 敵役のサイモン・レーンはショーン・ハリス。「プロメテウス」のモヒカンの学者だが今回あまりに印象が違う。「NY心霊捜査官」にも出てたらしいが、どの役だろう。悪魔に取り憑かれた海兵隊員かな。ひょろいメガネの役で全然強そうではないのだが、冷徹なイメージはよく出ていた。この人最初の登場の前にロンドンのレコード屋IMFの秘密基地)でちゃんと試聴室に居るのが映っているのね。
 MI6の長官であるアトリー(残念ながらイニシャルはMではない。ファーストネーム出てこないのでもしかしたらMから始まるのかもしれないが)にサイモン・マクバーニー。「マジック・イン・ムーンライト」でコリン・ファースを嵌めたマジシャンを演じた人ですね。コリン・ファースもスパイもの(キングスマン)に出てますね。
 しかし、今回一番の儲け役はイルサ役のレベッカ・ファーガソンだろう。MI6のスパイとしてシンジゲートに潜入し、ハントとは時に助け合い、時に出しぬきシンジゲートを追う。イルサ・ファウストという名前も多分に暗示的だ(多分偽名なんだろうけど彼女がこの名前を選択した経緯も興味深い)スパイといういざとなれば国家に切り捨てられる役割に疲れ果て、誰が敵で誰が味方か分からなくなってくる複雑な役柄。今回はハントのチーム(ハント、ベンジー、ブラント、ルーサー)には女性はおらず、単に女性キャラと言う意味では確かにヒロインなのだが、彼女自体が独立したスパイであり役柄的にもハントたちに依存しているわけではない(互いに利用している)のでいわゆる「助けられ役」という意味でのヒロインではない。この意味でのヒロインはむしろベンジーである。ドレス姿や水着などのシーンもあるがきちんと意味があるシーンでちょっとしたお色気シーンという印象もほとんど持たないくらい格好いい女性として描写されている。ハイヒールがらみのシーンも印象深く、なるほどこれを見た後だと「ジュラシック・ワールド」のブライス・ダラス・ハワードが(言い方は悪いが)おバカさんに見えてしまうわけだ。
 イーサン・ハントとは互いにエージェントしてリスペクトしているというか、まったく男女の恋愛感情して互いを意識していないわけでもないようだが、明確には描かれないのも良い。ハントには安全のため別れた妻が居るはずだしね(今回はミシェル・モナハンは出てこないし言及もされず)。
 ベンジーベンジーでトムに「お前を守りきれない(からワシントンに帰れ)」と言われて拒否したり、最後は捕まってしまったりヒロイン度が高い。

 今回はアクションも見事で、物語の進行に合わせてその舞台となる各国に合わせていくつもアクションが用意されているがいずれも印象深い。冒頭のアバンタイトルの飛行機アクション。拷問室からの脱出。オペラ座での舞台本番の裏側で繰り広げられるアクション、難攻不落の砂漠の金庫への侵入、カー&バイクチェイス、ラストのトリック。オペラ座ではオペラ「トゥーランドット」の進行に合わせてイーサンとベンジー、他に3人の暗殺者など複数の視点が入り組んでいるのに観客が混乱することが無く整理されているし、これはカーチェイスでも同様。
 ラストの強化防弾ガラスの箱にレーンを閉じ込めて生きたまま捕らえる、という結末も、一見カタルシスに欠けるようでもあるが、むしろ殺して終わり、と言うより明確に相手を出し抜いて終わったということでは爽快感は上だと思う。

 今回はロンドンが重要な舞台の一つであり、組織としてMI6が重要な役割を果たすため「007」を意識しているのかな?と思ったりした。本作の最後でハンリーが復活したIMFの長官に就任し、新たな始まりを思わせるが、これも「007」がボンド役がダニエル・クレイグに変わってから3作めの「スカイフォール」でシリーズとしての体裁が整ったことに似ている。こちらもエイブラムスが関わった連続するシリーズとして考えれば3作目だ。基本シリアスなスパイものでありながらガジェットにこだわり(今回も直接触れずにデータを消去したり配電盤?の蓋の上から接触しただけで操作できる用になる機器とか多分実際にはないだろうというメカも多い)、それでいてユーモアもたっぷり、でも方や個人の活動を重視し、かたやチームの活動を重視という点で異なる2つのスパイものは大西洋を挟んで(でも世界中をまたにかけて)切磋琢磨してほしいものである。とりあえず次にも期待だ!2020年頃かなあ。東京オリンピックなんて吹っ飛ばせ!*3
 

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 音楽はマッカリー作品常連のジョー・クレイマーラロ・シフリンの原曲による有名なテーマの他に今回は重要な舞台の一つがオーストリアオペラ座なのだが、そこで上演されている設定の「トゥーランドット」の有名な(フィギュアスケート荒川静香さんの使用曲としても知られる)テーマが(そのシーンのあとでも)BGMとしてアレンジされて登場します。

*1:エンジェルたちやボスレーは代替わりしているがチャーリー・タウンゼントはそのままで2作目には初代エンジェルがゲスト出演した

*2:あと「MI2」はパンフレットが大判で中身がパンフという名のトム・クルーズ写真集だったのが今となっては印象深い

*3:個人的にはハントが完全に引退しても新しいキャラクターを主人公に据えていいのでトム制作でシリーズを続けてほしい