The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

動物に託された偏見からの脱却 ズートピア

 例によってお久しぶりです。「バットマン V スーパーマン」の感想が結構書いたところで全部消えたので意気消沈しています。誰か新しいパソコンくれ!*1
 とりあえず数少ない劇場鑑賞からディズニーの最新作「ズートピア」の感想を箇条書き形式で。めっちゃハードでした!

物語

 草食動物も肉食動物も共に共存する世界。哺乳類は人間のように文化を発達させ暮らしています。ウサギのジュディはウサギ初の警察官を目指し、警察学校を主席で卒業。大都市であるズートピアへの赴任が決まりました。その頃ズートピアでは肉食動物の行方不明が続出、しかし配属初日のジュディは捜査には加えてもらえず駐車違反の取締に回されるのでした。その中でキツネの詐欺師ニックと知り合うジュディ。都会の現実に打ちひしがれるジュディですがたまたまカワウソの主人が行方不明になったオッタートン夫人に捜査の安請け合いをしてしまいます。勝手に捜査を引き受けたジュディに署長は48時間以内に解決できなければクビという条件をつけて捜査をさせることに決めました。捜査資料にあった最後のオッタートンの写真にはニックからアイスキャンディを買う姿が。過去の詐欺の告白を録音したデータを餌にジュディはニックに捜査に協力させます。ウサギとキツネのコンビが誕生。しかしこの事件の裏には巨大な陰謀が…

 ディズニーの3DCGアニメ作品としては「塔の上のラプンツェル」「シュガー・ラッシュ」「アナと雪の女王」「ベイマックス」に続く第5弾(「ボルト」もそうなのかな?まあ僕のブログ上での鑑賞では第5弾ということで)!ただTVスポットなどで「ラプンツェル、アナ、エルサに続くニューヒロイン」みたいな紹介のされ方をしていたのだが、僕の中では同じディズニーの3DCGアニメ作品でも「塔の上のラプンツェル」「アナと雪の女王」の古典童話を題材にした作品と「シュガー・ラッシュ」「ベイマックス」のオリジナルSF作品*2とでは明確に別の枠に区分されていて本作「ズートピア」は後者。だから童話路線の作品と一緒にされるのはちょっとどうなの?という部分はある。
 とはいえ、僕自身ちょっとこの作品を侮っていたところはあって、「ああ、動物の擬人化ものね。「カーズ」の動物版みたいなものか」って感じでそれこそ「シルバニアファミリー」とかみたいなかなりファンシーな子供向け作品だと思いこんでいた部分はあった。でもそれは大きな間違いでめっちゃハードな社会派サスペンス映画でした!
 内容としてはそれこそ「カーズ」「プレーンズ」系の「擬人化された何かを人間社会に置き換えたもの」なのだが、作りこみが半端無く、正直「カーズ」の世界はこれに比べるとかなり適当な感じさえ今となっては見えてしまう。
 まずこの「ズートピア」は「哺乳類の肉食動物・草食動物が共に暮らす文明社会」という世界だが、まず連想するのがただいま放送中の「動物戦隊ジュウオウジャー」。どっちがコンセプトとして早かったのかわからないが、あちらもジューマンと呼ばれる動物たちがジューランドと呼ばれる世界で人間のように暮らす(が主人公たちは人間の世界に来てしまう)世界を描いた番組だ。ただ「ジュウオウジャー」はメンバーにサメがいたり(サメ自体は戦隊では定番の動物モチーフだが、明確に魚類なのでせめてイルカとかシャチとかにできなかったものか)、レッドは鳥だったり*3イマイチ徹底していない。人間を自動車や飛行機に置き換えた「カーズ」世界も同様で、牛や虫まで自動車だったりしてその世界観はあやふやだ。それに比べると「ズートピア」の世界は完全に哺乳類に限定しており、さらにそれは現在の我々の世界において野生動物として生きる種に限られる。つまり犬や猫、馬や牛といった愛玩動物・家畜である種類は登場しない。また猿やチンパンジーといった霊長類、イルカやクジラといった海の哺乳類も登場しない。あくまで陸生の野生動物に限られるのだ(一回観ただけでの感想でパンフレット等も読んでいないのでもしかしたら見落としあるかもですが)。これは人間を模した社会を形成しながら人間を観客に意識させないことに成功している。またここまで徹底したことで、単なる児童向けのファンタジーではなく、もっとSF的な背後の設定まで予測することもできる(つまり人類が滅び、そして如何に野生動物が共存文明化した世界が誕生したのか?とか)。ズートピアにおける様々な大きさの動物たちがうまく共存しているさまもスムーズに描かれる。ちなみに肉食動物は植物や昆虫を材料としたものを食べている、という劇中直接出てこない裏設定があるのだそう。
 物語は表向きは肉食動物の行方不明者を探し、その捜査の過程で明らかになる陰謀を暴く物語だが、その裏には現在の人類社会が今のなお抱える様々な問題を提示している。
 僕は映画の予告編(具体的な物語紹介はなし)を観た時に、「またキツネの詐欺師か。こういうある種族の動物に特定のステロタイプな役割を押し付けるのはどうなの?」というような疑問を持った。食いしん坊のブタ、亀の長老、知恵者のマンドリルといった具合。そろそろこういうのもある種の人種差別民族差別として問題にされてもいいんじゃないの?と。しかしそんな疑問を持った人こそ、この映画の格好のターゲット。そういう疑問に答えた映画であるともいえるだろう。
 主人公のジュディはウサギでありながら警察官を志すキャラクターだが、やけに色っぽく描かれている。これ自体、ウサギは好色という俗説を利用したものといえるだろう。雑誌「プレイボーイ」のシンボルはウサギだし、バニーガールなんて衣装もある。手塚治虫の「W3」のヒロイン、ボッコなんて人間態の時よりうさぎの姿のほうがエロティックだ。他の動物擬人化キャラクターはそれほど性差を外見に現れるものとして描かれていないが(服は着ているし、警官なんてほぼマッチョな雄なので判別はつくけれど、ボディラインとしては特に差はない)、ジュディと例外的にトムソンガゼルの歌手ガゼルが色っぽく描かれている。これによって警察内での「弱い存在」としてのジュディが際立つわけだ。そしてジュディはその偏見を退けようと奮闘する。
 一方でジュディはキツネという種にいかがわしさをもっていて、その態度は自分でも知らぬうちにニックに対して向けられてしまう。ニックもキツネというだけで虐げられた結果、ズートピア社会でまっとうに生きる道を見失い詐欺師として生きている。この二人の互いを分かり合いぶつかり合う過程も見どころだ。
 ちなみに制限時間48時間の警官と犯罪者のバディもの、というのは「48時間」だね。

48時間パック [DVD]

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 物語は肉食動物の行方不明事件は実は野生化した動物を市長(ライオン)が密かに保護していたものと判明する展開を迎える。保護というか隠蔽工作。そして野生化の原因が不明のまま、しかし肉食動物の身にだけ起きる、と民衆に伝えた結果、草食動物と肉食動物の間に相互不信が拡がる。ニックもジュディの何気ない偏見に基づいた言葉で彼女の元を去る。
 この展開は何よりアメリカ国内の人種問題を元にしているのだろうが、僕はまず永井豪の「デビルマン」(原作版)を連想した。あの中でデーモンが人間への合体攻撃を繰り返した結果、ある科学者が「デーモンの正体は社会に不満を持った人間だ!」と結論しその結果を発表することで人類は魔女狩りを行い自滅する(実はサタンであった不動明の親友飛鳥了がそれに拍車をかける)。デビルマン」まで連想せずともこの展開で実際の人種・民族問題を連想することは容易だ。日本国内の問題に置き換えるのだって容易だろう。ただ肉食動物と草食動物の人口比が1:9であり、どちらかと言えば社会の上層部を肉食動物が多く占めていた、そして今回の事件は動物間の憎悪を煽り、草食動物が権力を握るためのヒツジの副市長の陰謀だった、という展開はおそらくルワンダの大虐殺事件がモチーフなのではないかと思う。ルワンダでは1994年に大多数を占めるフツ族フツ族出身の大統領が暗殺されたことをきっかけとして少数のツチ族への虐殺が行われた。この時憎悪を煽ったのがラジオや新聞といったメディアだった。もちろん映画ではそんな大虐殺が起きる前に事件は解決するのだが、もし一歩誤れば同じような事態になっていた可能性もあるだろうと思わせる。
 結果として「なりたいものになれる」という、それこそ「カーズ」や「プレーンズ」そして「モンスターズ・インク」などで描かれたテーマの最も優れた作品となったのではないだろうか、と思う。ホッキョクグマを従えるネズミのマフィアとかその動物の持つギャップをギャグにしている一方で、相棒としてのキツネ(西欧社会では往々にして嫌われている存在)や善良な存在として描かれることの多いヒツジが黒幕だったという展開は我々の持っており動物のイメージから脱却している。ちなみにヒツジはキリスト教において人間を意味する存在でもあり、多分この物語に出てくる唯一、現実の人間との関連を伺わせる存在でもある(前述したとおりこの世界には基本的に現在の人間と縁が深い家畜、愛玩動物や人間に近い霊長類は登場しないが、ヒツジはほぼ唯一の例外ともいえるだろう)。動物擬人化ものの枷から我々を解放してくれる物語だ。

 動物擬人化ものの枷から我々を解放してくれる、と書いたが、実は一人だけ従来のイメージを引っ張ったままなのがイタチのウィーゼルトンで、イタチの持つ小賢しい悪党、といったイメージを踏襲している。ただ、これは英語版で演じているのがアラン・テュディックで、この人はここ最近のディズニー映画では「シュガー・ラッシュ」のキャンディ大王、「ベイマックス」のアリスター・クレイと悪役で常連出演していて、なにより「アナと雪の女王」では小悪党ウェーゼルトン公爵を演じていて、ウィーゼルタウン(イタチの町)と名前を間違えられるというキャラだった。今度はまんまイタチであるウィーゼルトンを演じているわけで、これは別の作品のキャラがそのまま別の作品に登場するスターシステムの亜種みたいなものと思っていいのではないだろうかと思う。
ズートピア (まるごとディズニーブックス)

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ズートピア オリジナル・サウンドトラック

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 今回は同時上映作品はなしで、日本語吹き替え版で鑑賞。ジュディを上戸彩が、ニックを森川智之が演じていて特に問題はなし。上戸彩は以前にやはり3DCGアニメとして作られた「鉄腕アトム」のリメイク「ATOM」でアトムの声をやっていて、その時はやはり少年の声というよりはどうしても少女の声になっていていまいちだったのだが、今回は少女らしさももつ大人の女性ということで特に違和感はなし。言われなければ気づかないレベルだと思います。森川智之はもちろん最高。
他に劇中で出てくる歌手のガゼル(英語ではシャキーラが演じている)にE-girlsのDream Ami(一部歌も)、警察のぐうたらな受付のチーター、クロスハウザーにサバンナの高橋茂雄サバンナ高橋はもしかしたらサバンナという点での起用だったのかもしれないけど普通に上手かったです。関西弁になるわけでもないしね。
 ただ、上戸彩、Dream AmiということでどうにもEXILEの影がちらつくのがちょっと不信感。なんといっても同じディズニー制作のMCU「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の日本版イメージソングをEXILEの人がやっているということでちょっとこれ以上こっち来ないで!という感じ。
 ディズニーにしろ、ピクサーにしろ、あるいはドリームワークスにしろここ最近のアメリカの3DCGアニメ映画はほぼハズレがない状態なのだけれど、この「ズートピア」はその中でも最高レベルの傑作ではないでしょうか。オススメ!

*1:とはいえなんとか近日中に挙げたい

*2:とはいえ「シュガー・ラッシュ」には様々な実際のゲームが取り上げられているし、「ベイマックス」は一応間マーベルコミックス原作だけど

*3:本来ならジュウオウニンゲンにでも変身するべきなのだろうが、わけあってワシに。そしてワシのジューマンも登場