The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

SING SONG KONG SING/シング

 3月ももう終わり。3月下旬はゴリラだぜコングだぜ。と言う具合でゴリラをこよなく愛する僕としては楽しい映画が連続公開。他の映画を差し置いて「キングコング」と「SING/シング」を何回も観ている感じです。人類はペンギンとゴリラと猫を崇めつつ、この地球の片隅でひっそり生かさせてもらっている立場なのです。地球の主権を人類は海はペンギン、ユーラシアは猫、アフリカはゴリラに明け渡すべき!猫を、ゴリラを、そしてペンギンを讃えよ!
 と、程よく電波入ったところで本題。まずは動物が歌って踊る「SING/シング」の感想です。

物語

 子供の頃、舞台に魅せられたコアラのバスター・ムーンはおとなになって今や劇場の支配人だが、劇場は閑古鳥が鳴いている。なんとかかつての勢いを取り戻そうと一般人の歌唱オーディションを開催する。秘書のミス・クローリーのミスで賞金は二桁多く10万ドルと記されたチラシを見た歌に覚えのある市民たちが劇場に駆けつける。選ばれたのはゴリラの少年ジョニー、彼氏と一緒に出たものの一人だけ選ばれたヤマアラシのロッカーアッシュ、25人の子豚の母親で専業主婦のブタロジータ楽天家のブタグンター、そして欲張りで自己中心的、自信家でもあるネズミのマイク。そして引込み事案でオーディションに失敗したものの裏方として雇われたゾウのミーナ、それぞれ複雑な事情を抱える身だ。
 予算を獲得するため、バスターは友人エディの祖母で憧れのスターだったナナ・ヌードルマンを招いてリハーサルを行うことに。しかしその場で賞金10万ドルが1000ドル弱しかないことが露見し大変なことに…

 本作は「ミニオンズ」「ペット」などのイルミネーション・エンターテインメント。とにかく狂騒的というか、割りとぶっ壊れた内容なのが魅力。その代表が「ミニオンズ」だったりするのだが、本作冒頭では「ILLUMINATION」のロゴの下でミニオンが歌うとその歌声で「ILLUMINATION ENTERTAINMENT」の「ILLUMINATION」部分の「MIN」「ION」つまり「「MINION」部分が壊れるという始まり方が初お目見え。今後しばらくはこれが定番となるんでしょうか。「ミニオンズ」関連次回作は「怪盗グルー」第3弾。「怪盗グルーとミニオン大脱走」が待機中。

 イルミネーションの動物ものだと前作の「ペット」が合ったわけだけど、アレは人間に飼われているペットたちの人間がいない間の物語。今回は動物たちが服を着て人間同様の日常生活を送っている世界の物語ということでアニメやカトゥーンの設定としては決して珍しい世界観ではないが、近年だと昨年のディズニーの「ズートピア」が一番近いだろうか。ただ、「ズートピア」が(物語部分の社会性は置いといても)、哺乳類に限定して、更に家畜やペット、霊長類が基本的にいない世界で更に肉食獣と草食獣の間に見えない軋轢があるという設定などかなり作りこまれていて、結果として、どうしてああいう世界になったのか?といったSF的な考証をしたくなるのに対して、「SING」はもっとおおらか。漠然と人間以外の全ての動物が人間のような生活をしている、という世界観。ペンギンや鶏といった鳥類もいればミス・クローリーのような爬虫類もいる。更にはかたつむりや蜘蛛、イカや金魚といった者達まで普通に市民として暮らしている世界。物語的にも「この動物は現実における〇〇人の比喩」みたいな見方はほぼ出来ないだろう。
 ちなみに僕はほとんど見なかったのだけど、今季(2017年1〜3月)は「けものフレンズ」というアニメが大好評だったようです。でも個人的には日本のアニメとかでよくある、ほぼ人間の姿に耳と尻尾、肉球つきの手をつけただけのような動物擬人化より「ズートピア」「SING」みたいなガッツリ動物が立って喋る方が全然イケる。日本のだと「メイプルタウン物語」とか。どっちがケモナーとしてより重傷なのか……

 映画を観る前は本作がミュージカルなのか、それとも単に劇中でパフォーマンスするシーンが多い映画なのか分からなかったのだが、本作は厳密にはミュージカルではない。会話形式で地のシーンで歌ったりすることはなく、歌うシーンはちゃんと劇中でも歌っている、という形式。ただ、パフォーマンスシーンは多く、ノリに合わせてテンポよく進む様はミュージカルぽくはある。

 キャラクターは「ミニオンズ」や「ペット」ほど壊れていないが、それでも通常の人間が演じる物語だったら大げさに過ぎるような部分も動物が演じることで違和感なく、更に大げさになっている。
 僕が「SING」を見て最初に連想したのはジャック・ブラック主演の「スクール・オブ・ロック」。ジャック・ブラック演じるダメ人間のロッカーが教員になりすまし音楽的才能にあふれる小学生をだまくらかしてバンドを組んでコンテストに出場を目論む、という物語。バスターとブラックの立ち位置やミーナとトミカの素晴らしい歌唱力を持っているけれど人前で歌うのに躊躇してしまい実力を発揮できないキャラクターなど。「子どもと動物」というヒット要素のうち、「オレは子供で動物だから大丈夫」とブラックは言ったらしいが、その動物の部分に特化したのが本作「SING」といえようか。
 全部のキャラクターが素敵だけれど、個人的イチオシはロジータとマイクで、ロジータは生活に疲れた専業主婦。25人の子豚の母親で、その世話だけで毎日が終わってしまうことに疑問を感じている。この子豚たちは多分25つ子で、普通ブタは一回の出産で10数頭生まれるらしいのでブタとしても多分異例なことなのだと思う(現実のブタの例を出しても意味がないかもしれないが劇中でもベビーシッターを雇おうとして子供の人数を告げたら電話を切られるシーンがあるので、あの世界のブタの家庭でも25頭の子豚というのは異例なのではないか?)。
 ロジータは理系の人である。家を開けるために一晩で家事のオートメーション化を計り実現、いわゆるピタゴラスイッチ形式で子供と夫の世話を自動化する。更に覚えられないダンスのために床に足の動きやフォーメーションを図式化したものを敷いたりする発想は、建築設計とか機械工学を学習していたのではないか、と思わせるに十分で、そんな本来ならキャリアウーマンとなっていたかもしれない女性が結婚と出産・育児(なんといっても25頭だ)のため専業主婦になった、という背景を連想する。実際、崩壊した劇場を再建する際にほんの一瞬だがロジータが陣頭指揮を執っている描写がある。
 マイクは小さなネズミだが、自信満々の嫌な野郎で、それは最後まで変わらない。喘息のヒヒを恐喝するという登場の仕方をし、熊のギャングからカード勝負のインチキで大金をせしめる。結局コレが原因となって大変なことになるのだが、一応マイクもミーナの歌に感動するみたいな部分もあるが、最後はギャングに追われ、恋人?のネズミに助けられるシーンがあるがそれが最後でエピローグで登場しないので今頃なぞの行方不明者となっているかもしれない。でもそんなマイクの歌う「マイ・ウェイ」が最高にいいんだよなあ。悔しいが歌の実力と人格は関係ないのです。
 他にやはりゴリラのジョニーに触れなければなるまい。家庭はファミリービジネスとして強盗を生業としている犯罪一家。ジョニーも見張りや逃走用ドライバーを担当したりしている。でも心優しいジョニーは歌手を夢見ていてギャングになる気は毛頭なく…このジョニーの心優しさはまさに理想のゴリラ。父親の強さ(刑務所の鉄格子を壁ごと破壊)を兼ね備えた立派なシルバーバックになるでしょう。シルバーバックになりたい人生だった。

 本作は「ズートピア」と違ってSF的な見方は出来ない、と書いたけれど、ちょっと気になったのが刑務所のシーン。ジョニーが自分のミスで捕まった父親に面会に行くシーンが二度ほどあるのだが、ここでジョニーと父親以外の受刑者と面会者はほぼ異種族同士なのだ。この映画ではブタはブタと結婚するし、ゾウの家族はゾウだし、ゴリラの息子はゴリラなのだが、ここでは異種族同士の面会ばかり。日本だと関係者の接見を除くと面会は家族だけが許されていると思ったはずだが、アメリカではどうなのだろう(架空世界だが、ほぼアメリカ準拠のはずだ)?もしかしたらこの世界では異種族感恋愛はご法度なのか?いやそれなら面会も無理だよな?とかちょっとだけそんなことを思ってしまった。
 

 今回は字幕版と吹替版両方観賞。原語ではマシュー・マコノヒーリース・ウィザースプーンスカーレット・ヨハンソンなどが声を当てて、実際に歌っている(バスターは歌わない)。それぞれ素晴らしい歌声&パフォーマンス。普段はアニメ映画は日本語吹替版を優先するが、歌のシーンも多いし、しかもそれがオリジナルでなく既存のポップスだったりするので、字幕で原語のパフォーマンスを堪能するのも良いだろう。
 しかし!吹替版も負けてはいない。ウッチャンナンチャン内村光良坂本真綾長澤まさみと言った面々を揃えている。しかもパフォーマンスの部分も吹き替えているのだ。ウッチャンは普通に上手いし、長澤まさみも良かった。坂本真綾は全く問題なし。マイク役の山寺宏一は普通にオリジナルのセス・マクファーレンを超えていたようにも思う。一番タレント吹替と言う感じなのはグンター役のトレンディエンジェル斎藤さんだろう。元々グンターがパフォーマンスメンバーでは一人だけ背後の事情が描かれてなく、でも常に楽天家と言うキャラクターなのでふざけた演技も許容範囲で、しかも斎藤さんが予想以上に上手だったので坂本真綾とのパフォーマンスも申し分なかったです。ジョニー役は歌手スキマスイッチ大橋卓弥で、僕はこの人の歌手活動はあんまり知らないんだけど、本業だけあって歌は申し分なし。通常のセリフ部分はちょっとたどたどしかったけど、それはジョニーの初々しさにつながっていて良かったと思います。
 吹替版でのパフォーマンスは映画オリジナルの楽曲は日本語で、既存の楽曲で元々日本語カバーのないものに関しては英語で、と言った感じだろうか。一大オーディションのシーンなんかでは基本日本語になっていたが。マイクの歌う「マイ・ウェイ」なんかはご存知布施明のカバーがあるのでそれに準じたものになっていて、英語同様の替え歌になっている。ミュージカルや歌ものの洋画吹替版の場合、ディズニーなどを除くと歌部分はオリジナルのまま字幕観賞になる、というのが多いのだが(歌まで吹き替える、となると更に手間がかかる)、本作は英語歌詞の部分でも吹替。細かい差異だが、やはり通常の会話と歌に入ってからの違和感が解消されるので本作みたいな形式は画期的。字幕も吹替もパフォーマンスの部分でそれぞれの違いはもちろんあるが、両方共素晴らしいのでその違いも含めて堪能して欲しい。
 この手のファミリーアニメ映画は最近では吹替が多くスクリーンを占めてしまい、映画ファンからは文句を言われることも多いのだが、僕は基本的にこういう作品は子供が楽しめる吹替版の方が多くなるのは間違っていないと思う。本作に関しては字幕版も吹替版も同じくらいの規模で公開されているので、都合に合わせて好きな方を選択して欲しい。で、字幕を観たら吹替も、吹替版を観たら字幕も、と二度観てもらうと嬉しい。その価値はある。

シング-オリジナル・サウンドトラック

シング-オリジナル・サウンドトラック

 ちなみにこの映画の素晴らしさに観た後「SINGKONG(SINGとキングコングの合体)週間だ!」とか呟いたんですが、「SINGKONG」ってインドネシアあたりの言葉で「キャッサバ(芋の一種)」を指すらしいです。SING!KONG!SONG!

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 イルミネーションの前作。本当の前作「ペット」は独立した感想記事書いてません。スマン!

「SING」同様動物が人間同様の活躍をする世界の物語。雰囲気は全然違うけどね。
 SING!