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家路へ 新感染&ソウル・ステーション

 最近はトビー・フーパージョージ・A・ロメロとホラー映画の巨匠の訃報が相次ぎ、僕も大好きな作品の監督なので軽く落ち込んだり。ちょっと一時代の終わりというか象徴性も感じます。一方で新しい作り手も出てきているわけで、今回はそんな新しいホラー映画として韓国の作品を。昨年話題になった韓国製ゾンビ映画「新感染ファイナル・エクスプレス」とその前日譚であるアニメ映画「ソウル・ステーション/パンデミック」を観賞。

ソウル・ステーション/パンデミック

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物語

 夕暮れのソウル駅。ホームレスの老人が首から血を流す大怪我をしながら駅構内のねぐらへ向かう。老人の弟はそれに気づき様々な助けの手段を講じるが全て梨のつぶて。やがて老人は死亡してしまう。弟が駅員に訴え死亡した現場に赴くとそこにあるはずの老人の遺体が亡くなってしまっていた。老人を裏路地で見つけた弟だったが、老人は人を襲い食べていて、弟にも襲いかかってきた!

 家出少女ヘスンは自分に身体を売らせて日銭を稼ごうとする恋人キウンと喧嘩をして駅をうろついていた。一方キウンはキウンが勝手にネットに載せた売春広告を見てやってきたヘスンの父と名乗る男と出会う。父にこっぴどく怒鳴られ、とりあえず拠点にしている安宿でヘスンの帰りを待つことに。しかし宿では女将が客を襲い、それを目撃したキウンたちにも襲いかかってきた。なんとか部屋の外へ出ると外には同じような者達が多数徘徊している。なんとか自動車まで辿り着いた二人はヘスンを探すこととするのだった。

 一方ヘスンは駅で凶暴化した者達に襲われホームレスたちと一緒に交番へ駆け込む。最初はホームレスだからとバカにしていた警官だったが、やがて交番にも押し寄せヘスンたちは留置所へ逃げ込むことに。果たしてソウルで何が起きたのか?そしてヘスンたちは助かるのか?

  製作及び韓国での公開順は「ソウル・ステーション」「新感染」の順番だが、僕はまず「新感染」を観て、その後「ソウル・ステーション」を観た。で、「ソウル・ステーション」を観た後勢い余ってもう一度「新感染」を観た形。もちろんどっちを先に観ても問題なく楽しめるが、やはり制作順通りに観たほうがより物語は理解しやすいように思う。例えば「新感染」でソグたちが乗車してから車両内のニュースでデモを鎮圧、というニュースを見るが、このデモの正体は「ソウル・ステーション」の方を観ていれば分かる。

 でこの2本の作品はともにヨン・サンホ監督作品で多少矛盾はあるのかもしれないが同じ世界の物語であり時間的にも両作品は前後して交差している。ただ同じ監督、同じ世界観、同じゾンビが出てくる映画であってもこの2本はかなりテーマ的な部分で異なる部分があり、それが自分には興味深かった。

 韓国のアニメ映画、というのをきちんと意識して観たのはおそらく初めてだと思うのだけれど、個人的に全くアニメを見ているという意識が無かった。もちろんアニメならではのカットやシーンもあるのだけれど、驚くほど普段の韓国の実写映画を見ている感覚で観ていた。絵柄的には確かにキャラクターの等身も高くリアルな絵柄ではあるんだけど、おそらくこの絵柄で日本で作られると動きにしろ会話にしろもっと淡々とした感じになるのではないか、と思った。でもこの映画では韓国人の喜怒哀楽の激しい部分がそのままアニメになっても生きている感じ。リアルな表現だが、台詞のやりとりは激しく、でもデフォルメはされていない、そんな感じ。特にお役所や警官の(相手がホームレスだからと)小馬鹿にする感じのやる気のない演技・描写はちょっと日本や欧米のアニメでも、珍しいんじゃないか、と思うぐらい素晴らしい。今回は字幕で観たけれど日本語吹替版も公開されているようです。そっちはどうなってるのかちょっと気にならないでもない。

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 主演のヘスンを演じているのは「サニー」「怪しい彼女」のシム・ウンギョン。19歳の家出少女で風俗店から逃げ出してきたものの出会った恋人キウンは彼女に体を売らせようとするクズ。ヘスンはホラー映画のヒロインとしてそれなりに強い部分もあるが、根本的に男性に頼らないと生きていけない体質の女性、という風に描かれている。交番から逃げ出した後なぜか初老のホームレスのアジョシ(おじさん)と行動を共にする。そのホームレスが亡くなったあとは電線を伝って逃げようとする男性を見つけ同じ行動を取る(結果その男性を犠牲にして自分だけ助かってしまう)。特にホームレスのアジョシとの行動は何故行動を共にしているのかよくわからない感じ。ふらふらと頼れそうな男性の後を追ってしまう感じだろうか(ホームレスのアジョシはゾンビ化した警官から銃を奪ってヘスンを助けた)。

 この「ソウル・ステーション」は上映時間約90分と短め。何故こんな事態に陥ったのか、という部分は全く触れられない。物語的には最初の感染源であろう冒頭の老人ホームレスにしても最初に怪我を負った状態で登場していて、じゃあその怪我を負わせたのは誰なのか?と言う部分には触れられない。ただし「新感染」では描かれ無かった部分も描かれ、むしろアニメといってもこっちのほうが社会的なテーマは深いかもしれない。

 「新感染」は邦題が駄洒落になっているようにメインの舞台は韓国のソウルから釜山までの日本でいう新幹線、高速鉄道KTXが主たる舞台となっている。当然一部例外を除いてそれに乗って旅行できるレベルには裕福な人達がメインの登場人物だ。一方で「ソウル・ステーションはソウル駅の近辺を根城とするホームレス、安宿を拠点にその日暮らしをする若者がメインの登場人物。途中ヘスンとアジョシをいちゃついてるカップルと勘違いして罵倒していく(ちょっとアレな)おばさんがこの世の中、社会、国家への呪詛を吐き捨て、こんな世界滅んでしまえばいい!というような事を言うが、「ソウル・ステーション」の方はまさにそんな「この浮世こそ地獄」という感覚でそこに本当の地獄が溢れだしてきた、と言う感じ。物語的にも全く救いはなくまさになんなら生きていくことよりゾンビになる事こそ救い、と受け止められなくもない。

 とまれこのアニメ映画が評判となり、続編後日談として「新感染」が制作されることとなる。


『ソウル・ステーション/パンデミック』予告篇

新感染 ファイナル・エクスプレス

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物語

 ファンドマネージャーのソグは妻と離婚して娘のスアンを引き取って暮らしているが、仕事が忙しくてあまりスアンをかまってやれない。スアンは誕生日に釜山にいる母の元へ行きたがっていて、ソグは母の忠告もあり一緒に釜山へ行くことにする。まだ日も昇らない朝方、ソウルでは何やら不穏なことが起きていたようだが無事釜山行きKTXに乗車。ソウルを出発する。直前に乗り込んできた女性が女性乗務員に噛み付き、襲われた者もまた凶暴化し車両内はパニックに。ソグとスアンは屈強なサンファとその身重の妻ソンギュン、高校の野球部のヨングクなどと行動を共にしながら釜山へ向かうKTX内で安全を求める!

 こちらは実写映画。先述したように「ソウル・ステーション」は驚くほどアニメ映画というよりも通常の実写韓国映画と同じ感覚で観れたので、この監督が続編を実写で撮ろうと思ったのも納得。ただし同じ世界を描いた作品でも「新感染」と「ソウル・ステーション」は大きな違いもあって、こちらのほうがより前向きで一つのエンターテインメント作品として完成度は高い。

 邦題は駄洒落で、原題は「釜山行き」で英語題他の外国語題も概ねこの原題に準じている。副題含めてあんまり良いとも思えないけど、割りとこの駄洒落題は嫌いじゃないかな。ただ中国語題が「屍速列車」で簡潔にして格好いい。せめてこの同じ漢字文化圏、中国語題に負けないぐらい頭を捻って邦題をつけてほしい*1もの。

 同じ列車を舞台にした韓国映画ということで「スノー・ピアサー」を連想したりするのだが、「スノー・ピアサー」が列車という閉じた社会で、でもその中でも明確に存在する格差社会を寓話的に描いていたが、その辺の描写はむしろ「ソウル・ステーション」のほうに譲る。「ソウル・ステーション」はソウル駅を中心に同心円上に広がるパニック、という感じだが「新感染」はソウルから釜山まで線状に辿っていく物語。このソウルから釜山へゾンビ禍が南下していく様子は朝鮮戦争の時の北朝鮮軍の進路を暗示している、なんて解説もあって、「ゴジラ」におけるゴジラの東京上陸の進路が東京大空襲の時のB29編隊の進路と同様で空襲、戦争を暗示している、なんてのに通じるところか。

 KTX出発間際、感染した女性が乗り込んでくるが、この女性を演じているのがシム・ウンギョン。これはもちろん「ソウル・ステーション」の方で主演している関連である。で僕はこの情報を知って「ソウル・ステーション」を観たので、てっきりこの女性が「ソウル・ステーション」の方の主役ヘスン(の成れの果て)なのかな?と思っていたのだがどうやら別人という扱いのよう。とまれこのシム・ウンギョンがパニックの原因となる。ちなみにこのウンギョンに噛まれる女性乗務員がチャーミングな美人で、てっきりこの人がヒロインなのかな?とか思ったりした。二回目観賞の時も!(この人はゾンビとなってある意味映画を象徴するヒロインみたいな感じになるが)

 社会の底辺の人たちがメインである「ソウル・ステーション」と比べるとこちらは比較的社会的地位の高い人たちがメインとなる。その中で描かれる疑心暗鬼の物語は割りと定番で平板な描き方だと思う。自分本位なおっちゃんが出てきたりする。主人公のソグもファンドマネージャーという資本主義社会での勝ち組で最初は自分たちだけ助かろうとしたり、スアンに他人より自分を優先しろと諭したりわりと嫌な人物として描かれているがそれが物語の中で徐々に行動し成長していく。

 ソグたちはKTXの中のニュース映像でソウルが凶暴化した群衆によって混乱状態になっていること、暴力的なデモを警察や軍が出動して鎮圧していることなどを知るが、このデモというのはゾンビ化した感染者のことではなく、ゾンビから逃げ出したのに政府から隔離させられその場所から逃げ出そうとすると放水によって押しとどめられる人たちのことだということが「ソウル・ステーション」を見ていると分かる仕組み。

 こちらは登場人物も多く、一応パニックの原因と思われる事象にも言及があったり、より詳細にこの世界について描かれている。また主人公が実はこの事態に一枚噛んでいた可能性が示唆されるところは理不尽さより因果応報というふうにも受け止められそう。

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 列車の中をゾンビをぶちのめしながら前方に進む三銃士。この3人、どうしても西島秀俊大塚明夫浅利陽介に見えてしょうがなかった。ちなみに大塚明夫に見えたマ・ドンゾクの日本語吹替の声は大塚明夫ではなく小山力也のようです。

 多く出てくる役者は皆魅力的で主人公ソグを演じるコン・ユはハンサムだが他人を見下す感じの前半から、後半の慈愛に満ちた表情への変化を上手く演じているし、子役であるスアン役のキム・スアン(名前が同じというのは演技(act)より反応(react)をさせるためだろうか、とか思ったけれど、この子は子役としてすでに結構なキャリアがある模様)も良かった。何度か書いてるけど、子供が重要な役割を果たす映画って、(役柄というよりも)その子役に好感を持てるかどうかってことが結構重要になってくるのですよ。高校生カップルも微笑ましい(周りの野球部員が素直に祝福している感じなのも良かった)。

 後は老姉妹。この姉妹のうちお姉さんの方は普通におばあちゃんという感じなんだけど、口が悪そうな妹の方はちょっと老人というには若いような、40歳ぐらいの人がコント用のメイクで老人を演じている、って感じに思ったのだがどうなんだろう。他最初に美人すぎて僕がヒロインと勘違いした女性乗務員や男性乗務員、運転手なども良いキャラでしたね。

 でも一番魅力的なのはチョン・ユミとマ・ドンソクの夫婦だろう。芯の強い妊娠中の妻ソンギョンと大柄で口は悪いけど正義感が強いサンファ。この夫婦がいるだけで映画に力強さを与えている。

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 ソグ役のコン・ユとソンギョン役のチョン・ユミは「トガニ 幼き瞳の告発」のコンビでもありますね。

 この世への呪詛に満ち、人間なんて滅んでしまえ!というルサンチマンあふれる「ソウル・ステーション」と比べると疑心暗鬼、人間のほうが恐ろしい、という展開になれど極限状態でなお生への望み、人間性への希望をつなぐ「新感染」はかなり前向き。それは両作品のラストシーンにも現れているだろう。

 この映画に出てくるのはいわゆる「走るゾンビ」。特にただ走るだけでなく結構な運動量を誇り、「ワールド・ウォーZ」ほどではないけれど、個体としてより群体としてのゾンビを見せてくれる。

 いわゆるゴア描写もそれなりにあるけれど、いい意味で抑制が効いているというか、そんなにこれみよがしに見せるタイプの描写ではないです。物語的にも前向きで希望を見せて終わるので多分物足りないと思う人もいるだろうけど、その分より多くの人に奨められる作品。


「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編 

新感染 ファイナル・エクスプレス (竹書房文庫)

新感染 ファイナル・エクスプレス (竹書房文庫)

 
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susahadeth52623.hatenablog.comコン・ユの過去の出演作。

  同じ監督による、同じ世界を描いた2作。その違いばかり強調してしまったけれど、もちろん共通する部分もある。それは「家」だ。ヘスンは地下の線路を歩きながら家出してきた実家に帰りたいと泣く。それを受けてホームレスのアジョシも別に怒鳴るでなく、自分も家に帰りたいけどそもそもホームレスだから家がないんだよ!と泣く。「新感染」でも悪役的立場になったバス会社の重役は感染して自分を失う直前にまるで子供に戻ったように「家に帰りたい」と呟く*2。帰る場=家という構図だが、それは単にノスタルジックな田舎という感じではなく都会であってもいいから家族がいる場所、という風に受け止めた。ゾンビに帰る場所はないが人間にはそれがあるのだ。

*1:この映画だけでなく「ドリーム」とかもね

*2:この重役とホームレスのアジョシはおそらく同年代で共に韓国の民主化の時期に貢献した世代か

帰ってきた貴方の親愛なる隣人 スパイダーマン:ホームカミング

 またしてもしばらく間が空きましたが、それでもなんとか月2回の更新。今回はもう公開はほぼ終わってしまったのかな?我らが親愛なる隣人、21世紀に入ってから3度めの仕切り直しスパイディ、「スパイダーマン:ホームカミング」の感想です。マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)16本目!(そろそろ数えるのが面倒くさくなってきたので数え間違っているかも)

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物語

 NY決戦。敗れ去ったチタウリの残骸や瓦礫の撤去作業を請け負ったエイドリアン・トゥームズ。ここが稼ぎどきと人も雇い機械も入れた。しかしエイリアンの遺産が外部に漏れることを恐れた政府によって新組織「ダメージ・コントロール局」が作られトゥームズの会社は排除されてしまう。大損を余儀なくされたトゥームズはDC局やその組織設立に関わったトニー・スタークを深く恨むことになる。

 それから数年。ひょんなことからスーパーパワーを手に入れた少年ピーター・パーカーは「スパイダーマン」としてトニー・スタークの誘いで”シビル・ウォー”に参戦。その時着用したスターク製スーツももらい、アベンジャーズ見習いとして意気揚々、今日もNYの平和を守るべくパトロールしてはその成果をハッピー・ホーガンに報告する日々を送るのだった。

 そんなピーターも思春期真っ盛り。想いを寄せるのは年上の美少女リズ。しかしピーターはスパイダーマンとしての活動を優先させ彼女がリーダーを務める全米学力コンテストへも不参加を決めてしまう。そしてピーターの思いとは裏腹にトニーはピーターをアベンジャーズに入れる気はさらさらないのであった。

 ある時、ピーターはATM強盗の一団と戦うことになるが彼らは一般の強盗では手に入れ難い特殊な武器を使用していた。そのことをトニーに報告するがナシのつぶて。親友のネッドとリズの家で開かれるパーティーに行った夜、不可思議な爆発を目撃したピーターはその現場に赴く。そこではあの特殊な武器が取引されていた。スパイディは彼らを追い詰めるもそこに巨大な翼を持った敵が襲いかかる。彼こそエイリアンの技術で武装したエイドリアン・トゥームズ=ヴァルチャーであった!

  これまででも最も雄壮雄大な「スパイダーマンのテーマ」で幕を上げる本作。御存知の通りスパイダーマンの映画化は21世紀に入ってからもう6度目。サム・ライミの「スパイダーマン」1~3作、マーク・ウェブの「アメイジングスパイダーマン」1~2作がある。特に「アメイジングスパイダーマン」2作はまだ最近で、実際続編やスピンオフへの含みを残したままシリーズ打ち切りと言っても過言ではない。そしてスパイダーマンマーベルコミックス。これまでマーベルコミックスの実写映画化には大きく3つの流れがあって、ひとつは主に「X-MEN」をメインとした作品、キャラクターが出てくる20世紀FOXのシリーズ。そしてマーベルが自身の映画スタジオ「マーベルスタジオ」を作りそこでたくさんのキャラクターを共演させる「マーベル・シネマティック・ユニバース」。そしてソニーが権利を持つ「スパイダーマン」となる。この内スパイダーマンを何とかMCUに合流させる動きというのはずっと囁かされていて、どうやらキャラの出向という形で晴れてスパイダーマンMCUに合流、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」でひとまずお先にお披露目となった。この先厳密にはどうなるかはまだ分かっていないのだが、何作かMCUとして参加したあと、改めて(今回のシリーズが)MCUから離れて独立するなんて噂もある。個人的には「アメイジングスパイダーマン2」の終わり方が好きで、あの続編が見たい!と思っていたのだが、それはもう無理そう。ただスピンオフ企画自体は続いていて、「ヴェノム」がトム・ハーディ主演で、なんて動きもあるようだ(今回のシリーズと世界観がつながっているのかは不明)。

 副題の「ホームカミング」は映画内容的には劇中で出てくる学校主催のパーティーのことで在校生だけでなく卒業生も参加できる行事ということで「ホームカミング」というのだが、もちろんこれは第二義的な意味であって、第一義的にはスパイダーマンが我が家=マーベル・シネマティック・ユニバースに帰ってきた、という意味である。

 MCUではキャプテン・アメリカの盾を奪う、という鮮烈なデビューを飾ったトム・ホランドのNEWスパイディ。キャラの出向、というからにはそんなにMCUの他のキャラクターや要素を極力絡ませない物語になるのかな?と思ったのだが、蓋を開ければむしろこれまで作品を重ねて(劇中の一般人にとっても)半ば日常と化したスーパーヒーローやヴィランが当たり前のように存在する世界にまた新しいヒーローをごく当たり前のように投入してみました、という感じになっている。なんならフェイズ2以降の新ヒーロー「アントマン」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ドクター・ストレンジ」なんかと比べても最もMCU要素が満載かもしれない。特にアイアンマンはたんなるゲストキャラクターの域を越えてがっつり物語に関係してくる。

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 MCU要素がごく当たり前のように満載な一方で、スパイダーマン自身のオリジンは今回は描かれない。過去の2シリーズで(もちろん今回とつながってはいないものの)かなり丁寧に特殊蜘蛛に刺され超能力を手に入れた顛末やベンおじさんの死によってヒーローとしての覚悟を決める描写が描かれてきて、いくら作品として世界が繋がっていないといっても3度目ともなればもうさすがに鬱陶しいということもあるだろう。すでに「シビル・ウォー」でスクリーンデビューをしていることもあって最初からスパイダーマンとしての活躍が拝める。

 新しいスパイダーマン=ピーター・パーカーを演じているのはトム・ホランド。僕が観た中では2012年の「インポッシブル」でユアン・マクレガーナオミ・ワッツの長男を演じていた。あれから5年で成長したな、と思ったのだが1996年生まれなので現在21歳。「インポッシブル」当時で15歳ぐらいだったことになる。今回のピーターが高校1年生の15歳という設定なのでもとよりかなり童顔なのだな。トビー・マグガイアからアンドリュー・ガーフィールドになったときも(スパイダーマン役以外のキャストも含め)かなり若返った印象があったが、今回は本当に「まだ子供」と言う感じ。

 もちろん単に若返っただけでなく、ピーターを取り巻く状況もかなり変化しており、コミックスに忠実というよりは(あるいは最近の作品の設定なのかもしれないが)映画独自に現代的な描写となっている。メイおばさんはマリサ・トメイが演じているがこれまでの歴代実写メイおばさんの中でも単に年齢だけでなく若い。アイアンマンのロバート・ダウニー・Jrと同い年。これまでのどちらかと言うとお婆さんの印象から美人のおばさん、という感じに。ただ若いだけでなくマリサ・トメイのキャラクターかこれまでの専業主婦(それ故にベンおじさん死後に苦労する)だったメイおばさんに比べると普通に仕事の面でも充実してそうで、飲食店かブティックあたりを経営してそうな雰囲気(具体的になにしてるかは語られてない)。劇中ベンおじさんのことは話題にならないので今回そもそもベンおじさんが存在したのかも不明。なんならずっと独身のメイおばさん、と言う設定でも普通にイケそう(コミックスではピーターはベンおじさんの弟の子供なので、ベンおじさんいないとメイおばさんとの続柄がおかしいんだけど)。

 さらに過去の作品と大きく変わったのがピーターの学友たち。秀才だけど冴えない(友人もいない)という描写が大きかった高校時代のピーターだが、今回は(決してメイングループにいるような人気者でもないが)別に蔑まれてもいなければ孤独でもない。オタクの友人ネッドがいるし、学力コンテストでは頼られてもいる。フラッシュ・トンプソンからは相変わらず嫌味を言われているが、このフラッシュも金持ちではあるがこれまでの体育会系のジョックスではなくなっている(しかもヒスパニック系あるいはインド系)。この大きな変化はピーターの通うミッドタウン高校が、公立ではあるものの地域ごとに進学する高校でなく専門知識を習うための高校、日本でいうところの高専みたいな学校だから、というのも大きいのではないか(劇中での授業も実習もほぼ理工学系)。アメリカの映画などではいじめのピークが高校であることが多いが日本では中学校であることが多い。これはアメリカでは地域ごとにそのまま高校まで進学するのに対して日本では高校から進路別になるからだろう。アメリカの公立校ではアメフト部員が幅を利かせ、また自動車通学が認められているため、親の経済力がそのまま如実に学内ヒエラルキーにつながることが多い。しかしミッドタウン高校は皆学究の徒であるのでそういうものとは無縁でいられるのだろう。

 新登場のネッドは肥満のオタクだが、なんだかんだ言ってもこの子も優秀なので、クライマックスでは現場に出ないサイドキック(バットマンに対するオラクルとかパニッシャーに対するマイクロなど)としてコンピューターを使ってサポートする。スーツの機能を解放したのも彼の仕事だ。

 スパイディのスーツは基本的に「シビル・ウォー」で着用したものと同じ。最も基本的なスパイダーマンの衣装。特徴としては目の部分がおそらくズーム機能で大小変化することで、これによってフルフェイスのマスクなのに表情をつけることに成功している。マグガイアのスパイダーマンはかなり筋肉質、一方ガーフィールドスパイダーマンはしなやかなヤセ型、今回はその中間という感じだろうか。個人的には「アメイジングスパイダーマン2」の時のスパイダーマンがかなり好きだったのだが(特に顔部分)、今回はあれに比べるともうちょっと硬い感じ。機能はそこはトニー・スターク謹製だけあって多機能で、これまではピーター自家製で手首のウェブシューター以外はほぼただの布だったのに比べると様々な機能が備えてある。胸の蜘蛛のシンボルはドローンとして役立つし、アイアンマンスーツにおけるジャーヴィス、フライデーのようなサポート人工知能も付いているし、これまで実写では描かれてなかったウェブウイング(脇の下から展開する蜘蛛の巣状の膜)も。着る時はゆったりだが勝手に身体に密着してくれるし、濡れても乾かすヒーター機能付き。

 一方後半はトニーにスーツを取り上げられ(勝手に機能を解放したりした)、最初のお手製スーツを着用する。これも「シビル・ウォー」でちょこっと出てきたが、これまでトビー・マクガイアもアンドリュー・ガーフィールドも自分で手作りしたにしてはしっかりし過ぎだよな、と思うぐらい手作り感満載。この後半になって初期のスーツを着用するって展開は「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」と同様だがやはり燃える展開でもある。

 余談だが、日本でもスパイダーマンのコスプレする人って多いのだが、市販の全身タイツを着れば済む手軽さの一方で全身タイツタイプだけに体の線がもろに出るし、いっぽうでフルフェイスのため表情が分からず結構怖い。せめてある程度身体を鍛えて(でも痩せててほしい)からコスプレしてほしいなあ。

 MCUから引き続き登場のキャラクターはアイアンマン=トニー・スタークにハッピー・ホーガン、ペッパー・ポッツ。それぞれオリジナルキャストが演じている。というか予想以上にアイアンマンたちの出番も多くてびっくりした。ホーガン役のジョン・ファブローなんて監督降りてからのほうが出番が多くなっている気がするなあ。後はキャプテン・アメリカもピーターたちが高校で観るビデオ教材の出演者として出てくる。キャップは「シビル・ウォー」以降手配中の犯罪者ということになっているのだけど、一応先生がその旨忠告してから生徒に見せるのが面白い。後はミッドタウン高校の校長が東洋人なのだけれど、この人は「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」に出てきたハウリングコマンドーの一員と同じ人が演じていておそらくその子供か孫といった辺だろう。校長室にそのハウリングコマンドーの写真が飾ってある。後はATM強盗がコミックスタイプのアベンジャーズの面々のマスク(祭りの屋台で売ってるようなタイプ)を付けて反抗に及ぶのだが、この時のマスクがソーが翼付きの兜かぶった状態だったりする。がMCUであの兜かぶってるの見たことないな。脇に抱えてはいたけど(新作でそれっぽいのかぶります!)。

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 今回のヴィランはヴァルチャー。スパイダーマンの敵としては古株ではあるが、コミックスのランクではこれまで出てきたグリーン・ゴブリン、ドクター・オクトパス、サンドマン、ヴェノムといったあたりに比べるとワンランク落ちる感じ。全身を緑の羽毛に身を包んだハゲオヤジ。しかし今回はかなり格好良く、実写映画に限れば歴代のスパイダーマンヴィランの中でも一番ではないかと思う。エイドリアン・トゥームズは仕事を奪われた腹いせに密かに隠し持ったエイリアンの残骸から武器や自分が着用するスーツを製作。その特殊武器を悪党に売って稼いでいる。演じるのはマイケル・キートンで、このキャストからバットマンを連想しないわけにはいかない。実際バルチャーが翼を広げて降り立つシーンはバットマンの同様のシーンのオマージュでもあるだろう。

 ヴァルチャーがこれまでのスパイダーマンヴィランと比べて違うところは、彼は全く狂っていないところである。これまでは大なり小なり超常的な力を手に入れたことが精神の不調へと通じ、善良だった人物がヴィランとなっていったが、トゥームズはまったく経済的な理由から悪事に手を染めるしいわゆる狂人タイプのヴィランではない。それを象徴するのが、実は彼こそがピーターの想い人リズの父親だった、という設定である。

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 ピーターはスタークにスーツを取り上げられ、スパイダーマンとしての活動を止め、通常の学生生活を送ろうとする。そして「ホームカミング」にリズを誘うことに成功するのだが、当日彼女の家に迎えに行くと出てきたのはエイドリアン・トゥームズであった。リズも今回新しく出てきたキャラクターでスラっとした美少女だが人種的には黒人である。だから最初にリズの家でトゥームズを見かけた時にはトゥームズがリズの家を占拠したとかそういう展開なのかと思ったし、映画を観終わった後も、子持ちの黒人女性とトゥームズが再婚したとかそういう裏設定があるのかな?と思ったりしたが、多分普通にリズはトゥームズの実の娘であると思う。そういう描写に説明が全く不要な時代になっているのだろうと思う。一方で人種が違うことでこの2者につながりはないと思わせびっくりさせる効果もあるのだと思うけれど。

 ピーターはすでにヴァルチャーの素顔としてのトゥームズを知っていて、トゥームズはパーティに送る車の中での会話でピーターがスパイダーマンであることに気づくのだが、そんな簡単に相手の正体に気づくかな?と思う一方でこの車中の会話は中々にスリリング。


Spider-Man: Homecoming - Official Trailer 2 [HD]

 ラストは功績が認められトニーから新しいアベンジャーズのメンバーとして迎えられるも、自分は「ご近所のヒーロー」でありたいとこれを断るピーター。これまで諸先輩と肩を並べるべく肩肘張っていたスパイディもやっと自分の立ち位置を見つけた。父親が捕まったリズは母親の故郷へ去るが、新しい友だちも出来た。その一人変わり者のミシェルは自分のこう呼ぶよう告げる「MJ」と。

Spider-Man will return.

 NY、ワシントンなど意外といろんな場所に行き、ガジェットやマクガフィンはチタウリの遺産であったりガッツリMCUの中にいながらでも特に壮大な話になることもなく話を締めた。MCUがきっちり認知されているから可能なことで、これがもし最初から(例えばフェイズ1の時点で)スパイダーマンMCUに参加していたらまたちょっと違ったものになっただろう。まだ高校1年生でありシリーズが続いてもしばらくは高校生のままだろう。今後は少なくとも「アベンジャーズ3」前後編に参加し、MCUとしての単独続編が一本は作られる模様。

スパイダーマン ホームカミング:プレリュード (ShoPro Books)

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「スパイダーマン:ホームカミング」オリジナル・サウンドトラック

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 今後のMCU作品としては11月に「マイティ・ソー バトルロイヤル(この邦題何とかならないものか……)」が控えていて、すでに予告編が上がっているものにこちらもスパイディ同様「シビル・ウォー」でデビューした「ブラック・パンサー」が来年の春公開予定。そして「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」とフェイズ3のクライマックスへ。


"Thor: Ragnarok" Official Trailer


Black Panther Teaser Trailer [HD]

おまけ


Spiderman Homecoming , intro fun japanese

 帰ってきた地獄からの使者、スパイダーマン

スタン・リーも出てるよ!

WWは何故WW1を戦ったのか? ワンダウーマン

 混迷を続けるDCエクステンデッド・ユニバース(以下DCEU)!作品のヒットとは別に中々評価につながりません。最も僕なんかはそれこそ最初の「マン・オブ・スティール」の時こそ「自分の理想とするスーパーマンと違う!」とか思っていましたが、以降の作品は最初からこのDCEUの混沌、暗黒の闇鍋、という世界観を受け入れているので、その事自体を批判する気はないです。むしろ今から急に明るい世界観が出てきても困る。

 この秋公開の「ジャスティス・リーグ」の小冊子を読んだら「DCフィルムズ・ユニバース」と書かれていて、日本ではこっちが公式な呼称なのかしら?確かに「Extended(エクステンデッド=拡張する)」はちょっと分かりにくいし馴染みにくいけれど、どうせなら同じ「E」から始まる単語にすればよかったのに。そうすれば少なくとも略称は「DCEU」で一緒。なんとなく「E」から「F」に後退してしまったような印象も受けます*1

 しかし、そんなDCEUにも救世主が!「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」で場の流れを読まず(いやむしろ読んだ?)さっそうと現れて見せ場をさらった女傑ワンダーウーマンの登場です。今回もいろいろ賛否両論ではあるものの、一本の映画としてはDCEUの中で一番しっかりした作品であることは異論を挟まないでしょう。DCEU4本目!「ワンダーウーマン」を観賞。

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物語 

  外界から隔絶した女だけの住むパラダイス・アイランドことセミッシラ。ここには神々によって創造された不老不死の種族アマゾンが、かつて神々の間に戦争を起こした戦神アレスに備えつつも平和に暮らしていた。アマゾンの女王ヒッポリタの娘ダイアナも厳しい訓練の末勇敢な戦士に成長する。

 ある時外界から一機の戦闘機がセミッシラ沖に墜落。ダイアナがこれを救出するとそれはダイアナが初めて見る男性であった。その男を追って謎の軍隊が襲来。アマゾン族は女王の妹でダイアナの師匠でもあるアンティオペをはじめとした犠牲を出しながらもこれを撃退し男を尋問する。男の名はスティーブ・トレバー。イギリス諜報部所属のアメリカ人でドイツ帝国の恐るべき科学者イザベラ・マル博士の開発した新兵器について記した手帳を盗み出し逃亡したところでこの島に来たという。これまで知らなかった外の世界の状況~人類史上初の世界大戦が起こり、兵士だけではなく関係ない女性や子供も犠牲になっている惨状~を知り、ダイアナはこれはアレスの仕業に違いないと考える。そしてトレバーとともにこれを止めるべくセミッシラを後にするのであった。

 ロンドンに着いたトレバーは新兵器とそれを使用するであろうどドイツ帝国の将校ルーデンドルフ総監の恐ろしさを訴えるが上層部はすでに和平交渉が進んでいるためこれを取り下げる。ルーデンドルフこそアレスに違いないと確信したダイアナは前線へ向かうことを決意。トレバーが独自に集めた仲間たちとともにベルギーの前線へ向かう。しかしそこにはダイアナが思いもよらない事態が……

 「BVS」で颯爽とデビューしたワンダーウーマンは1941年デビュー。DCコミックスのヒーローとしてはスーパーマンバットマンにつぐ三番手だがこれまであまり映像化に恵まれてきたとは言いがたい。一番有名なのは1975年から始まるリンダ・カーター主演の「空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン(紅い旋風ワンダーウーマン)」だろう。ここでは第1シーズンは第二次世界大戦を舞台とし、第2シーズンから現代を舞台とする構成。

 映画は一応現代(BVS後)から始まり、現代のダイアナが過去を回想する形をとるが基本的に他のDCEUの要素が介在しない物語であり、この一本だけで観ても全く問題はないと思う。

 もっとも有名な女性ヒーローでパイオニアであるが、神話を由来とするヒーロー、現代でなく過去から始まり、そしてまた現代に続く流れは先行するマーベルの「マイティ・ソー」や「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」を連想するには十分。原作のほうで言うと「ソー」はデビューが1962年であるのでワンダーウーマンより20年ほど後輩。キャプテン・アメリカとは1941年同士のほぼ同期(キャップが3月ワンダーウーマンは11月なので半年ほどキャップのほうが早い)。またこの時期(いわゆるゴールデンエイジ)のヒーローは多かれ少なかれ枢軸国相手に戦うことが多かったのでナチス・ドイツと戦うという設定もそれほど珍しいものではない。

 ただキャップはそのオリジンがナチス第二次世界大戦と不可分なのに対してワンダーウーマンは特にそうでもない。不老不死設定なので現代まで凍っていたわけでもない。今回の映画ではその過去の設定が原作やドラマと違って第二次世界大戦(1939~1945)でなく、第一次世界大戦(1914~1918)となっている。これは割りと大きな違いで、この変更には色々な理由が考えられると思われるが、その幾つかを僕なりに考えてみたい(以下第一次世界大戦はWW1、第二次世界大戦はWW2と記す)。

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 まずはビジネス的な理由。先行するMCUの方ですでにWW2を戦うヒーロー、キャプテン・アメリカが映像化されている。今同じようにWW2を舞台にしても二番煎じとなってしまうであろう。キャップと、ひいてはMCUとはまた別物であることをアピールしたいDCEUとしてはこれは避けたい。そこで舞台をWW2ではなくWW1にしたのではないか。またキャップとの対比に限らずとも対ナチスドイツのヒーローというのはある意味手垢のついた題材ともいえる。あえてここを外すことで新鮮味が得られる。

 またキャップやワンダーウーマンなど1941年デビューでナチス大日本帝国を敵として戦ったのは当然リアルタイムであり、現在の我々が知っているナチス大日本帝国とも違うのである。もちろん敵として描くくらいだから(キャップのデビューは1941年3月でアメリカがドイツと開戦する前)、ナチスの独裁主義、ユダヤ人への迫害などはある程度知られていたのだけど(チャップリンの「独裁者」などの反ナチスのエンターテインメント作品もあった)、その詳細、ユダヤ人虐殺ホロコーストなどが一般に知られるのは戦後のことである。ナチスが登場するSF作品として我々が思い浮かべるUFOを連想させる超兵器だとかナチのオカルト的傾向、なども戦後になって広まった事項。結果アメリカが使用したが、各国の核開発なども戦前の時点ではよく分かっていなかったはず。戦時中にナチスを敵として描いたコミックライターたちが戦後にナチの実態を知って、自分たちの想像力(創造力)を遥かに越える形で現実はもっと酷かったことにショックを受けた、と以前何かで読んだ記憶がある。

 だから今我々がゴールデンエイジの雰囲気を映像で再現しようとしたらWW2を舞台にするより、WW1を舞台にしてそこでSF的な超兵器などの登場をさせたほうが近いのではないかという気もする。

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「BVS」でも出てきた写真(BVSの時はこれがクリス・パインだと気づかなかった)。

 そしてもうひとつは映画「ワンダーウーマン」のテーマ的な問題である。ダイアナは世界が戦乱に陥っているのは戦神アレスが暗躍しているからだと思っている。そしてその大本であるアレス本人(ダイアナはルーデンドルフがアレスその人だと睨んでいる)を倒せば全て解決する、と。ある意味でヒーローらしい単純さであり、ただただ明快さとアクションの爽快感だけ求めるのであればそのような展開もあったかもしれない。もしWW2が舞台であればそのような単純明快な展開もありだろう。もちろんWW2も言うほど単純ではないが、枢軸国は悪役として明快であり、これを倒せば世界に平和が訪れる。だからナチスを敵としてこれを倒して終わりでも良かったかもしれない。しかしこれはDCEUという混迷の闇鍋。

 劇中ではルーデンドルフもマル博士もアレスがちょっと背中を押した結果戦争に執着するようになったが、あくまで只の人間。これを倒しただけでは戦争は解決しない。アレスは実はイギリスの上層部(トレバーに指示を出すパトリック卿)に扮していて直接戦争を演出しているのではなく人間の心をほんのちょっと煽ることで戦争を継続させていく。人間の本質こそ悪なのだ!とするアレスの論理がWW2が舞台だとぶれてしまう。

 WW1の複雑な事情(ヨーロッパは普仏戦争以来基本的に平和が続いていて、また各国の王族は皆親戚同士)が絡み、歴史的に観てもWW2のナチスドイツやファシストイタリア、大日本帝国ほどドイツ帝国は悪役とは言えない。ナチが悪い!で済まない複雑さこそ劇中のアレスの理論を強化し、ダイアナの単純な善悪二元論を打ち砕く。これがWW2が舞台であったらドラマの奥行きが薄くなると思う。

 ちなみにドイツの女性科学者マル博士は原作では日本人、丸博士だったりする。そしてルーデンドルフはまんまその人ではないがモデルとしてWW1のドイツ帝国の軍人エーリヒ・ルーデンドルフという人物がいて、戦後ヒトラーと組んでミュンヘン一揆を起こした首謀者の一人だったりします。一揆ヒトラーとは喧嘩別れ。どうやら政治やオカルト志向という面ではヒトラールーデンドルフは似たもの同士だったものの、身分の違いから同族嫌悪していたようである。

 とまれ、他のヒーロー作品との差別化でも作品のテーマ的にも舞台をWW1にしたのは正解だったと思う。パラダイス島から一転暗い雰囲気もWW1が舞台なら仕方がない。個人的にWW1が(歴史的事象や作品の舞台として)好きな題材ということもあるが、普通にWW1物としてもよく出来ていたと思います。

 今回は特に年代が明言されない事もあって、WW2が舞台だと思ってい見た人も多そう。劇中ではきちんとドイツの「皇帝陛下」という呼び方も出てくる。英語のセリフだけどちゃんとドイツ皇帝を指す単語は「エンペラー」じゃなくて「カイザー」になってたね。WW1は多大な犠牲を出した一方で、医療技術の進歩もあり「中々死ねない」戦争でもあって、戦傷を負いながら、手足を失い、顔を損傷しても生き長らえること可能となり、「ジョニーは戦場へ行った」などはWW1での戦傷をテーマにしている。マル博士の陶器で作った顔の損傷を隠す部分マスクなども実際に当時あったもの。

 もちろん、問題もあって、WW1が舞台となったことで幾つか困った事態も。ワンダーウーマンはそのコスチュームからスーパーマンキャプテン・アメリカと並ぶ星条旗カラーのヒーローだが、WW1が舞台になったことでそのアメリカはほとんど登場しない。アメリカが大戦に参戦したのは末期も末期だからだ(逆に言うとここで参戦せずに済んだことが後のアメリカの強さの礎となった)。トレバーはアメリカ人だがイギリス諜報部所属となり、舞台になる地域はロンドンにベルギー。ダイアナという名前ともあいまって(あるいは故ダイアナ王妃も意識したのかもしれない)アメリカと言うよりイギリスのヒーローという印象さえ受ける。本作では現代におけるダイアナはパリのルーブル美術館学芸員として働いているようであり、DCEUにおいては特にワンダーウーマンにアメリカのイコンとしてのイメージを持たせるつもりはないのかもしれない。その辺もキャップとの差別化か。あのコスチュームはトレバーの前にパラダイス島に不時着したアメリカ人女性ダイアナ・トレバーを讃えてダイアナの名と星条旗カラーのコスチュームが作られたという設定。お分かりの通りこの女性はスティーブ・トレバーの母親。映画のコスチュームは基本的には原作を踏襲、露出部分も多いけど、もうちょっとくすんだダークな感じになっているかな。

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 ワンダーウーマンを演じているのは「BVS」に続きガル・ガドットイスラエル出身で兵役についていたこともある。ということはユダヤ人で、「ソー」のナタリー・ポートマンも今回のガル・ガドットも多民族の神話由来のキャラクターを演じることとなるが大丈夫なんだろうか?とちょっと心配に思ったり。まあ、現在北欧神話ギリシア神話を実際に信仰している人などほとんどいないだろうけど。それこそフィクションと割り切れば大丈夫なのかな?

 ダイアナはギリシア神話ではアルテミスのローマでの呼び名だが、その処女神としてのイメージも本作では発揮。日本での宣伝だと「男も知らず、恋も知らず」など過度にその辺を強調していたが、劇中では生身の男を見たことがない、というだけで知識としては十分(生殖的なこと含めて)知っているし、恋愛に関してもアマゾン同士普通にある、と察することができる描写。ただガル・ガドットの表情含め、セミッシラから出たことがないだけあって、単純な世界観の持ち主として「BVS」と比べると若く純粋そうな表情。撮影自体は「BVS」のほうが先だろうけど、全然違う。この辺は本作を通してダイアナが現実を知って成長した、と見るべきだろう。

 前線の塹壕の中で戦災にあった婦人の訴えからトレバーたちが止めるのも聞かず戦闘モードになるシーン(実質的にワンダーウーマンとしてのデビュー戦)では突然あの露出の多い衣装になり、一瞬そんなエロい格好ダメ!みたいになるけれど、次の瞬間にはいやらしさよりただ格好良さ、頼もしさだけが印象に残ることとなる。むしろガル・ガドットのちょっとした色気を発揮するのはロンドンに着いた直後、当時のイギリス婦人の格好に着替えるシーンで様々な服装を試着するところ。1917年当時の貴婦人の格好だから肌の露出など殆ど無いのだけど、むしろこのシーンのほうがワンダーウーマンとしての格好やパラダイス島での肌露出が多い格好よりエロチックだったりします。神様が現実世界にやってきてのカルチャーギャップを描くシーンとしても「マイティ・ソー」よりこっちのほうが好きかな。

 ダイアナはゴッドキラーという神を殺すことができる剣を携えて戦場に赴くが、実は「ゴッドキラー」とは剣ではなくダイアナ自身であることが判明。この設定はギリシア神話の「ギガントマキア」におけるヘラクレスの設定のいただきかな、と思う。

 ヒロイン(便宜上)はクリス・パイン。役柄としてはアメリカ出身のイギリス諜報部所属(アメリカでは空軍に所属)でダイアナを外界に誘う道標。しかし雰囲気としては「スター・トレック」のカーク船長や「ブラック&ホワイト」なんかの飄々としてるけど頼もしいといういつもの感じ。あれですね、クリス四天王(残る三人はクリス・ヘムズワースクリス・エヴァンスクリス・プラット)の中で仮にMCUが潰れても誰かは生き残るようにクリス・パインはDCEUにあえて行ったというまるで真田信之真田信繁兄弟のような、あるいは諸葛亮諸葛瑾のような話し合いがあったのだと思われます。まあこの4人が友人かどうかもよく知らないけど。

 ほかはトレバーが集める仲間もモロッコ人の詐欺師サミーアやPTSD気味のスナイパーチャーリー、インディアンである酋長など一癖も二癖もある連中。しかし彼らがダイアナにこの世界はダイアナが思うほど単純ではない、としらしめる役割も果たす。

 敵はアレス。ギリシア神話の主神ゼウスと正妻ヘラのあいだに生まれた不詳の嫡男。同じ戦争の神様でもアテナが戦略や栄誉を象徴するのに対して、アレスは戦場の狂気を体現する神。実際神話でもその戦い方は力押し一辺倒。しかも弱い。度々負ける。人間にも負ける。ヘラクレスにも負ける。ゼウスからも嫌われていて逆に可哀想になってくるがそんなわけで、ギリシア神話題材のフィクションに登場する時はハデスと並んで大抵悪役です。今回はトレバーたちを後押しするパトリック卿こそ実はアレスだった!ということでデヴィッド・シューリスが演じているが、パトリック卿としての姿はともかく素のアレスとしては別の人、あるいはCG表現でも良かったんじゃないか、という気もする。一応アレスは乱暴者だけど超絶美形なんですよ。クライマックスはアメコミらしくダイアナとアレスの一騎打ちバトルで、そこまでの雰囲気と一変するためちょっと逆に違和感。そこで負けかけたり苦悩したあと火事場のクソ力に目覚めたダイアナがアレスを倒して、めでたしめでたし。


Wonder Woman Official Trailer #2 (2017) Gal Gadot, Chris Pine --Regal Cinemas [HD]

 今回は物語の前後を現代(ブルース・ウェインレックス・ルーサーが持っていた写真(ベルギーで撮ったもの)の原版をダイアナに贈る)で挟むものの、基本的には百年前を舞台にした作品。なので気になる部分もある。つまりこの後「BVS」で登場するまでダイアナは何処で何をしていたのか?それこそWW2の時はどうしていたのかなど。このあとDCEUは「ジャスティス・リーグ」へ続き、それぞれのヒーローの単独作品へと連なる。さすがにもう「ワンダーウーマン2」があっても過去でなく現代が舞台となると思うが、ちょっとでもその辺が解決すると嬉しいかも。劇中では「BVS」でも本作でも「ワンダーウーマン」とは名乗ってないし、呼ばれてもいないんだよねたしか。その辺もちゃんと描写あると嬉しい。

 結果としてDCEUとしてはかなり”まとも”な作品となった「ワンダーウーマン」。きちんとDCEUの色は残しつつ新たに風を吹き込んだといっていいだろう。「ジャスティス・リーグ」も期待大!

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*1:それをいうならMCUは一歩もニ歩も先を進んでいることになり、実際そのと通りだとも思う

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 ユニバース!

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物語

 軍の任務の途中でちょこっと私腹を肥やそうとしたニック。案の定無計画がたたってイラクの町で武装集団に襲われることに。無事にやり過ごしたものの町の中に巨大な地下空間が現れる。考古学者のジェニーとともに地下に降り立つニック。そこは5000年前のエジプトの王女で追放されたアマネットを封印した遺跡だと知る。慎重に事を進めようとするジェニーを無視して勝手に棺を引き上げるニック。

 アマネットの棺を輸送するその最中同僚のヴェイルがおかしくなり乗員を殺し始める。躊躇なくヴェイルを撃つニック。輸送機はイギリスに墜落しニックも死んだ!

 ニックは何故か生きていて、ヴェイルの幽霊を見たりする。その頃復活したアマネットは墜落現場に来た救急隊員の生気を吸ってちょっとづつ元気に。ふらふらやってきたニックたちをセトのダガーで殺そうとするが失敗。ニックたちを救ったのは謎の武装集団「プロディジウム」だった。プロディジウムはロンドン自然史博物館の地下に本拠地を構える対モンスター組織。率いるのはヘンリー・ジキル博士。ジキル博士によるとニックはすでに呪われているという。アマネットも捕らえられるがジキル博士の体に変化が起き、ニックと乱闘している混乱に乗じてアマネットは脱走。いろんな奴らがニックを狙う。ニックの明日どっちだ!?

 1932年の「ミイラ再生」のリメイク作品。この作品は何度かリメイクされていて、僕自身は1999年からのスティーブン・ソマーズ監督による「ハムナプトラ」シリーズがリアルタイム。原題はすべて「THE MUMMY」だがやはり日本語(英語でも?)の語感として「マミー」は「お母さん」というイメージを持つ言葉なためこれまで邦題は原題片仮名ではなく「ミイラ再生」「ミイラの幽霊」「ハムナプトラ」と言う感じに。今回はそのまま原題をカタカナにした「ザ・マミー」だがやはりそれだけだと弱いと思ったのか「呪われた砂漠の王女」という副題が付与。もっとも舞台の大部分はイギリスなのでそれほど砂漠な感じはないけど、まあこれは「ハムナプトラ」とかもそうだからね(3作目の舞台なんてエジプト関係ない中国だったし)。

 今回はまず舞台を現代にしていることが特徴。「ハムナプトラ」は1923年という過去が舞台だった。そして一番大きな特徴はこの「ザ・マミー」はユニバーサル映画のモンスターたちが同じ世界に属する「ダーク・ユニバース」映画の第一弾ということだろう。一般にユニバーサル映画というと1931年の「魔人ドラキュラ」を始めとするベラ・ルゴシボリス・カーロフロン・チェイニーといったスターたちが演じたモンスターたち。これらはもちろん原作も違っていれば映画も別世界だったのだがそれらを一つの世界に持ってこようという企画。今後はハビエル・バルデムフランケンシュタインの怪物を演じる「フランケンシュタインの花嫁」やジョニー・デップ主演の「透明人間」なんかが予定されている。その世界をつなぐのが今回登場する「プロディジウム」で、ロバート・ルイス・スティーブンスンの「ジキル博士とハイド氏」の登場人物で二重人格の代名詞ともなったヘンリー・ジキル博士が率いる。

 この「ダーク・ユニバース」に近いクロスオーバー企画というとアラン・ムーア先生原作の「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」とその映画化である「リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い」であったり(ドラキュラ(ミナ・ハーカー)、透明人間、ハイド氏あたりが共通)、やはり「ハムナプトラ」のソマーズ監督作品の「ヴァン・ヘルシング」などがある。「ヴァン・ヘルシング」はアニメなどで続編があったが、結局映画としては単品で終わってしまった。ここで出てくるヴァン・ヘルシングが属する組織などはそのまま「プロディジウム」の前身ともいえるし、それこそ作品自体が「ザ・マミー」はじめとする「ダーク・ユニバース」の先駆けという感じだろう、実際、この作品のリブート企画に関わっていたアレックス・カーツマンが本作「ザ・マミー」の監督でもあるので、もしかしたらいずれ「ダーク・ユニバース」の一作として「ヴァン・ヘルシング」が再び登場するかもしれない。

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 さて、本作は以上のようにかなり独特な世界観を持った映画であり主役は人間よりモンスターという感じのであるが、にも関わらずやはり紛うことなき「トム映画」である。トムが自由に動き映画を支配する。本作のトムはかなり精神的にも若い印象。メインどころの出演者の中ではおそらくいちばん年上(劇中でラッセル・クロウがまるで父親かのようにトムと話すシーンもあるがトムのほうが2歳年上)。しかし外見の若さもあるが、何より行動が若い。多分過去のトム映画史上今回のトムはもっとも躊躇しない。考える前に動く。ヴェイルがおかしくなった時、他の軍人が射殺しようとするが友人であるトムはそれを止める。しかしいざ自分がやばくなると驚くべき早さでヴェイルを撃ち殺す。それも何発も打ち込む。これ以外にも今回のトムは、事前に考慮して動くということがほぼ無くその場の勢いで動く。よく言えば決断が早く、そのおかげで物語のテンポは早い。とにかく今回のトムは55歳とは思えぬ思慮の浅さを全開!でもそれによって引き起こされるトラブルが全て「若さゆえの過ち」と許せる不思議な感じ。

 今回のトムは「キング・オブ・エジプト」でもおなじみ、邪神セトが現代で蘇ろうとする為の依代でもあった。終盤、最後まで躊躇しないトムはそのおかげでアマネットの意表を突き、セトを宿すが精神はトムのままというデビルマン(悪魔人間)になる。ジェラルド・バトラー(GoEのセト神)の力をトムの身体に宿し、心はトムのままというデビルマン・トムは今後も「ダーク・ユニバース」のキーマンとなるのだろうか。

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 表題のミイラになるのはソフィア・ブテラ。「キングスマン」の女殺し屋だったり「スター・トレックBEYOND」の白い顔のエイリアン、ジェイラだったりこの世ならざる雰囲気の美貌の持ち主故かあまり普通の人間は演じてきていないが、今回も野心に燃えるエジプトの王女でありミイラ女。いろんな状態のアマネットを演じている。「ミイラ再生」のボリス・カーロフほど枯れた感じでもなければ「ハムナプトラ」のアーノルド・ヴォスルーほどアグレッシブでもない感じ。というか「ハムナプトラ」でいうとヴォスルー演じるイムホテップよりパトリシア・ヴェラスケスが演じたアナクスナムンに(外見上もキャラクター的にも)似た感じ。

 今回は第一弾ということで具体的に他のキャラクターは言及されず。おそらく全シリーズに登場するMCUにおけるニック・フューリー的な立ち位置としてラッセル・クロウのジキル博士がいるのであろう。

 ダーク・ユニバースとしては「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタインの花嫁」「透明人間」「大アマゾンの半魚人」などのユニバーサル作品のリメイクが予定されていて、さらに直接モンスターものではないものの「オペラ座の怪人」「ノートルダムのせむし男」などもこの世界の一作として予定されているという。後者2作などその時代設定から重要になるのだが、どのようにアレンジされるのだろう。そういや一応「キングコング」もユニバーサルモンスターなんだよな。すでに「モンスターバース」の方に行ってるけど。


THE MUMMY Trailer + No Gravity Spot (Tom Cruise Blockbuster Movie - 2017)

 本作に限れば映画は第一弾だけあって特に事前知識を必要としないし、面白かったです。さすがにトム色は弱いのかな、と思ったらむしろトム全開だったし。

susahadeth52623.hatenablog.com

アグレッシブなセト神が出てきます。

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クロニクル・ミーツ・ブレックファスト・クラブ!パワーレンジャー

 前回の「キン肉マン総選挙2017」の記事を書いた割と直後、はてなダイアリーからアクセス解析機能が削除されました。まあもうあんまりアクセス数などは気にしていないのですが(全盛期に比べると更新数が減ったこともあり大分アクセス数も減りました)、それでも全く反応が分からなくなるのは意外とやる気に直結していて、見れないと逆に気になる。時々パーンとアクセス数が膨れ上がることとかもあってそういう時はだいたいどこかで過去に感想書いた映画が放送されたりした時なのですが、例えばTVで長谷川博己が「ピラニア3D」に言及したらしく、それでアクセス数が爆発したなんてこともありました。

 そういうわけで無きゃ無いで困るので、Google Analyticsなる機能も試してみたんだけどなんだか上手くいかなくて、それで、思い切ってブログを「はてなダイアリー」から「はてなブログ」に引っ越しすることにしました。「小覇王の徒然はてな別館」と同時に存在するんじゃなくてリダイレクトというやつで今後は全部新しい方に移動する設定にしましたので全引っ越しですね。

 で、新しいブログタイトルは「The Spirit in the Bottle」としました。以前に旧ブログ「小覇王の徒然なるままにぶれぶれ!!!」引っ越しの際にも書きましたが、元々はジャンルごとに2つのブログを使い分けるつもりで「別館」と題しましたが、結果はてなダイアリーの方のみに注力することになりました。「小覇王の徒然はてな別館」という名前に愛着がないわけでもないですが、思い切って大幅変更!この「The Spirit in the Bottle」はドイツのお伽話が由来です。まあまだまだマイナーチェンジすることもあるとは思いますが、今後は「The Spirit in the Bottle」でよろしくお願いします。

 というわけで心機一転最初の記事はもう公開終わって久しい「パワーレンジャー」です。

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物語

 アメリカの地方都市エンジェル・グローブ。アメフトの選手として将来を嘱望されていたジェイソンは不祥事から選手生命を絶たれ補習を受けることに。そこで知り合ったのはビリーとキンバリー。ビリーをいじめから守ったことで親しくなったジェイソンはビリーの頼みで一緒に町外れの金鉱跡に遺跡発掘に行くことに。そこにはキンバリーの他に転校生のトリニー、不良のザックもいた。ビリーの爆破によって現れたのは謎の5色のメダル。それぞれが手にとったところで警察が集まり、5人はパトカーを振り切ろうとして貨物列車に激突していしまう。

 気づくと自宅にいるジェイソン。怪我もなければその後の記憶もないが、超人的な身体能力を手に入れたことに気づく。再び鉱山に集まる5人。常人をはるかに凌ぐ跳躍力などを堪能するが、渓谷の奥底に謎の遺跡を発見。そこにいたのはアンドロイド、アルファ5。アルファ5は肉体を失った過去のレッドレンジャーゾードンを意識だけ蘇らせ、5人に新たなパワーレンジャーとなるように要請する。過去にゾードンらパワーレンジャーが宇宙の平和を守っていたが、レンジャーの一人リタ・レパルザの裏切りによって壊滅、ゾードンは自身の力と引き換えにリタを封印した。しかし再びリタが蘇ろうとしており、そのために新たなパワーレンジャーが必要なのだ。力を使いこなさなければレンジャーのスーツは装着できない。5人のパワーレンジャーとしての特訓が始まった。

 ご存知日本の誇るスーパーヒーロー実写ドラマ「スーパー戦隊」シリーズのアメリカ版。この作品は1992年の「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をもとにした「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー 」のリメイク作品。コンセプトは継承しつつリアリティも重視し日本のスーパー戦隊とも従来のTVシリーズの「パワーレンジャー」ともまた違った趣の作品となった。

 僕が最初に「パワーレンジャー」の存在を知ったのは1996年頃だろうか。バイト先のレンタルビデオ店に入荷したのを見たのが始まり。もちろんそれ以前から情報自体は知っていたと思う。「ジュウレンジャー」の方は正直もう中学校に入っていて、大ぴらにこの手の番組を見るのは恥ずかしい年頃だったのでリアルタイムでは見たり見なかったり。ただその前のトレンディ戦隊「鳥人戦隊ジェットマン」が割りと大人向け路線だったのに対してファンタジーの低年齢向けに戻した作品で日本でもシリーズ中興の祖と言って良いだろう。巨大ロボットがロボットそのものではなく意思を持った神様、という設定になったことでこの後の設定の幅が大きく広がった。また後述するが追加戦士が登場しその後の定番となったのもこの「ジュウレンジャー」から。

 そんな「ジュウレンジャー」を元にした「パワーレンジャー」だが基本的にアメリカオリジナルの物語・設定で、特撮部分を流用して作ると言う形をとった。後続のシリーズでは日本のオリジナルの設定を極力そのまま使用して作品を作るようになったが、この時点では特撮部分以外はほぼ別物と言っていいだろう。ただ、第一話を見た時は結構衝撃だった。多人種で構成される戦隊(日本では男性だったイエローが女性になっていたりもする)、テンポが良くなって話がぐんぐん進む展開。そしておそらくアメリカではあまり馴染みのないであろう実写の巨大ロボ。「これはヒットするわ」と思ったものである。

 日本のスーパー戦隊との大きな違いはシリーズが基本的に全部つながっていることで、日本では「電子戦隊デンジマン」と「太陽戦隊サンバルカン」、それまでの全部の作品とつながっている設定の「海賊戦隊ゴーカイジャー」以外は基本的には一作で完結。のちに「VSシリーズ」なども作られるがあくまでイベントという感じで独立している(最近はそうでもないのだが)。「パワーレンジャー」は全部がつながっていて、特に最初の「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」から1998年の「パワーレンジャー・イン・スペース」までは明確にドラマが連続する一大スペースオペラともなっていて、キャストも一作きりではない。

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 そんな「パワーレンジャー」は過去に2回映画化されていて、一作目「パワーレンジャー・映画版」はTVシリーズとは同一キャストによるがパラレルな物語。復活した悪の権化アイバンウーズを倒すためにレンジャーたちが奮闘する(劇中でカクレンジャーっぽくなる)物語で、のちにTVシリーズでもこの映画版に相当するエピソードが作られた。

 もう一作は「パワーレンジャー・ターボ・映画版・誕生!ターボパワー」でこちらは明確にTVシリーズの「パワーレンジャー・ジオ(オーレンジャー)」と「パワーレンジャー・ターボ(カーレンジャー)」の間をつなぐ物語でここで登場した敵キャラクターはそのままTVシリーズでも登場した。

 今回は1作目の「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」のリメイク。5人の名前や役割もかなり忠実に受け継いでいる。最初の「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」は5人が高校に通うティーンエイジャーというのが「ジュウレンジャー」との大きな違いで(日本ではすでにターボレンジャーで高校生戦隊が実現しているがジュウレンジャーは十代どころか古代の人)、アメリカらしく多人種構成となっていた。いわゆるPCに配慮した作品の先駆けといえるかもしれないが、当時は今ほど洗練されておらず、わりと不自然だった*1が、その辺もシリーズを重ねるごとに洗練されていって、黒人やヒスパニック系のレッドも誕生している。

 最初にティーザーを見た時はまるで「クロニクル」みたいだな、という雰囲気でとても暗め、およそ「パワーレンジャー」とは思えない感じだったが、後続の予告編で徐々に内容が明らかになるにつれて、「アイバンウーズが出てくる最初の映画版とあんまり変わらないんじゃないか?」と思ったりもした。実際に脚本の一人マックス・ランディスジョン・ランディスの息子!)は「クロニクル」の脚本家。他にもアシュリー・エドワード・ミラーとザック・ステイツは「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」の脚本家コンビだったりしてスーパーヒーロー映画としてキャリアのある人物が参加している。

  この映画を観るときに大きく2つの見方があると思っていて、日本のスーパー戦隊がハリウッドで映画化!という日本の特撮を下敷きにして観る見方や、すでに「パワーレンジャー」シリーズを知っていて、そのTVシリーズとどのように差別化しているのか?というのを確認する見方。そして、全くの初心者として観た時にどう評価するか。僕の場合、後者の見方は出来ないわけだけど(スーパー戦隊はもちろん、パワーレンジャーもある程度新作はチェックしています)、それでも従来のスーパー戦隊パワーレンジャーとは大分異なる作りをしていることは分かるし、逆に従来のもののパワーアップ版を期待すると肩透かしを食らうと思う。

 実は最初のパワーレンジャーはすでにTVシリーズのほう「パワーレンジャー・メガフォース」と「パワーレンジャー・スーパーメガフォース」で実質リメイクされている。この2作はスーパー戦隊での「天装戦隊ゴセイジャー」と「海賊戦隊ゴーカイジャー」にあたるが天使と海賊というアメリカではあまり向いてない題材だったのか、最近のパワーレンジャーとしては大幅に日本版と設定を変えてきていて、ゴセイジャーにあたる5人は高校生となり、最初の「パワーレンジャー」を思い起こさせる高校学園モノとなっている。「スーパーメガフォース」はそのままメガフォースの5人が新たにパワーアップした姿、言ってみればこの作品はシリーズ最初の作品をリメイクしつつ、(ゴーカイジャー同様過去のレンジャーにチェンジするので)、集大成ともなっている作品。今回の映画はいわば二度目のリメイクだ。

 

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  レンジャーたちは特に(日本では)名を知られていない新人たち。名前はオリジナルそのままに、でも各所属するグループの理想的なトップクラスが何故か仲良し5人組だったオリジナルと違って、異なるグループに所属する(そしてそこからもドロップアウトした)各人がなぜ出会い、共に戦うようになったかを描く。「クロニクル」ミーツ「ブレックファスト・クラブ」。オリジナルとは人種設定も変えてあり、レッドとピンクこそそのまま(白人)だが、ブルーは黒人、イエローはインド系、そしてブラックが東洋人(中国系?)となっている。ブルーであるビリーが「黒のほうが良かった」みたいな事を言うシーンもあるが、オリジナルの東洋系はイエロー、黒人はブラック、というまんまだったところからは脱却している。

 各レンジャーのスーツは基本的に(特にヘルメット部分は)ジュウレンジャーの物を踏襲しているが、印象はだいぶ違う。最初の劇場版の時もジュウレンジャーのスーツを鎧にアレンジした感じだったが、今度はもっと生物的なアーマーという感じか。実際装着シーンも日本の変身シーンのような転送されて着装!というよりスライム的な物質が徐々に体全体を覆っていく、というスパイダーマンのシンビオート(ヴェノム)っぽい感じ、やっと変身できたぜ!という苦労に見合った感動はあるが、格好良く変身する爽快感は少ない。

 アクションシーンもいわゆる怪人はリタと戦闘員のゴーレムしか登場せず、そのゴーレムはCGによる岩石モンスターとい感じなのでTV版のような爽快感は薄め。

 ただそういうアクションシーンでのTV版の踏襲、様式美の部分はあえて封印しているように感じた。個人的には序盤から中盤にかけての「クロニクル」や「ブレックファスト・クラブ」的な部分が割りと刺さったので、この雰囲気を最後まで保持するには必要な演出だったと思う。

 ブルーレンジャーの役名はビリー・クランストンだが、このクランストンという姓はオリジナルから受け継がれていて、名の由来はブライアン・クランストンブライアン・クランストンはオリジナル当時、怪人の声を幾つか担当していて、今回はついに司令官(そして元レッドレンジャー!)役へと大出世!ゾードンはオリジナルでは巨大なチューブの中に投影される巨大な顔、という状態だったが(多分モデルは「オズの魔法使」のオズの大魔法使い)、今回は壁から3Dのように出てくる。冒頭ではレッドレンジャーだった時のレンジャー姿やその正体である異星人としての姿も出てくる。このゾードンも最初は自身が肉体を取り戻すために若者たちを利用する、という側面もあるのだが、最終的にジェイソンたちを認め、自身でなく彼らのために協力するようになる。

 シリアスな雰囲気が全体を占めるが、その中でのマスコット的というかユニークな一面を担当するのがアルファ5。碁を嗜む人口知能…ではなくゾードンに替わりパワーレンジャーとなる若者たちを直接指導するアンドロイド。このキャラクターが一番オリジナルとの解離が少ないキャラかも知れない。アイヤイヤイヤイヤー。

 スーパー戦隊パワーレンジャーを他のスーパーヒーロー作品と隔ていている大きな要素が巨大ロボ戦、パーワーレンジャーでいうところのメガゾードなのだが、こちらは以前の映画版に続きCGで描かれている。映画版では「カクレンジャー」の隠大将軍がCGとなって登場したが、やけにメタリックで過渡期とはいえデザインも動きももっさりしていて正直魅力的ではなかった。今回は基本的な意匠はオリジナルのメガゾードバトルモード(大獣神)と同様だが、あえて人が入っていないことを強調するデザイン。正直おもちゃになることを考えた場合はあまり魅力的ではないけれど、映画の中では良かったと思う。

 ここのゾードは特に元となる動物の造形にこだわってはいないようでトリケラトプスが6本足になっていたり、プティロダクティルスは普通に戦闘機という感じ。特にマンモス(マストドン)は鼻に当たる部分は角のようになっていて、6本足で黒光りしているのでマンモスというよりカブトムシのゾードという感じ。もうちょっと元のモデルとなる動物に似ていたほうが良かったかなあ(設定的にはそもそも地球外の生物に似せて作られたゾードなのかもしれない)。この辺はトランスフォーマーに比べるとちょっともったいないです。

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 敵となるリタ・レパルサはエリザベス・バンクス。このリタ・レパルサこと魔女バンドーラこそ日本の、そして世界のヒーロー史上特筆する悪役で、特撮部分のみの流用でキャストは総とっかえだったパワーレンジャーにおいてなお、唯一演じた曽我町子のシーンがそのまま使われ、英語吹替も行い、なんなら新規シーンさえ撮り足したという伝説の悪役である。ちなみに曽我町子は「電子戦隊デンジマン」でベーダー一族の首領、ヘドリアン女王を演じているが、このヘドリアン女王のデザイン上のモデルとなったのがマーベルコミックスマイティ・ソー」のヘラで、今度の新作「マイティ・ソー バトルロイヤル」でヴィランとしてケイト・ブランシェットが演じますね。この辺の日米で影響しあってる感じとても興味深い。

 曽我町子のリタ・レパルサはさすがに途中から若返ったということで別の役者に変わってしまうが、最終的に「ミスティック・フォース(魔法戦隊マジレンジャー)」のミスティックマザー(天空大聖者マジエル)は善の魔術師になったリタ・レパルサということで曽我町子が演じている(日米共にこれが曽我町子の遺作)。

 オリジナルのリタ・レパルサはゆったりとした衣装に身を包んだ年配の魔女として描かれているが、本作ではもっと身体にフィットしたスーツを着ている。あるいは今回のリタ・レパルザは元グリーンレンジャーでゾードンら他のパワーレンジャーを裏切ったという設定(これは本作独自)なので、そのスーツは元を正すとレンジャーのスーツと同様なのかもしれない。

 どちらかというその姿はシリーズではこの後に出てくるディバトックスやアストロネマ、トラキーナといったパワーレンジャー独自に作られた女性幹部に近い。今回は一回限りの作品ということもあり毎回怪人を送り込むのでなく、直接レンジャーとやりあうから、という部分もあるだろう。エリザベス・バンクスはこういうコミック的な役柄を嬉々として演じる姿が素晴らしい。リタ・レパルサそのものは人気キャラクターなので今後もしシリーズが続けば再び登場することもありえるだろう。

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 映画は一応単独で完結するが、多少続編への含みはあって、敵側ではゼッド卿(ロード・ゼッド)の存在を匂わせ、レンジャー側ではトミー・オリバーがエンジェルグローブ高校に転入してきた(登場はしない)と知らせて終わる。続編ではゼッド卿が登場し、リタの復活とグリーンレンジャーをめぐる物語になるのだろうか。

 ご存知のようにオリジナルの「パワーレンジャー」は「恐竜戦隊ジュウレンジャー」がもととなっていて、そこでの追加戦士ドラゴンレンジャーの出演は数回に過ぎない。しかし「パワーレンジャー」の方はシリーズの最初から追加戦士が登場し、絶大な人気を誇ったためちょっと日本とは違った展開を迎える。日本では5人(作品によっては3人とか)の集団ヒーローで全員が主人公ともいえるが一方でその中でも中心となるメンバーはやはりレッドだ。必ずしもリーダーではないが*2主役的存在はレッドである。パワーレンジャーでもジェイソンが一応主人公的立ち位置なのだが、まだその認識が確立される前にグリーンレンジャー=トミーが絶大な人気を得てしまったために必ずしもレッドが中心じゃなくてもいいんじゃないか?という感じになってしまった。これはシリーズが続きトミー自身がレッド(オーレッド)になるまで続くこととなる。

 ちなみにジェイソン・デヴィッド・フランク演じるトミー・オリバーはシリーズの中でグリーンレンジャーを始めとしてホワイト(キバレンジャー)、レッド(オーレッド、レッドレーサー)、ブラック(オアバレブラック)となっているのであともう一色何か演じれば一人戦隊が可能。「動物戦隊ジュウオウジャー」のジュウオウバードか「宇宙戦隊キュウレンジャー」のホウオウソルジャーあたりで是非トミー・オリバーの復活を願う。

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  そして、ジェイソン・デヴィッド・フランクとキンバリー役のエイミー・ジョー・ジョンソンは今回の映画にもゲスト出演しています。この二人は(劇中で)恋人同士となり、シリーズが続く中で別れてしまったが、今でもパワーレンジャーシリーズ全体でのベストカップルだろう。


Power Rangers Official Trailer #1 (2017) Bryan Cranston, Elizabeth Banks Action Fantasy Movie HD

 もうすでに公開は終わってしまったのでソフト待ちの状態だと思うけれど、意外と普通に青春モノとしてよく出来ています。逆にハリウッドでパワーアップした戦隊物、という期待が過ぎるとちょっと物足りないかな。でも予想した以上によく出来ていて個人的には満足です。日本のスーパー戦隊、TVのパワーレンジャー、ともどもこの劇場版シリーズも見守っていきたい。

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susahadeth52623.hatenablog.com

*1:同時期の同じ手法で制作された「マスクド・ライダー(仮面ライダーBlack RX)」により顕著で、主人公が居候する家庭が白人の夫と東洋人の妻、黒人の息子という構成だったりする

*2:カクレンジャーではホワイト=鶴姫が女性リーダーでかつ最年少、メガレンジャーではブラックが部長=リーダー、タイムレンジャーではピンク=ユウリがリーダーである。ただカクレンジャーは(あえて言うならシンケンジャーの姫レッドも)血筋重視だし、逆にタイムレンジャーは西暦3000年の未来からやってきた人なので現在を基点とする戦隊ではまだ女性リーダーはいない、ともいえる。一方悪の組織の女性進出は著しいがそれはまた別の話

将軍様にひれ伏せ!キン肉マン超人総選挙2017!!


 みんな!「キン肉マン」の新章はもう見たか!感動の最終回を迎えた「完璧超人始祖編」のあとでこんな衝撃が待ち構えていようとは!?新たな敵に動けない主力超人たち。立ち向かうのは引退したはずのウルフマン、そこへ駆けつけたのはティーパックマン、カレクック、ベンキマン、カナディアンマンの4人。こんな展開誰が予想したであろうか。最初は死相が見えていたウルフマンですが(もしまた死亡すれば死亡回数4回でロビンマスクと並んでシリーズタイ記録)この援軍を迎えてちょっと希望が見えてきました。読切パワーで活躍しそうなカレクックとベンキマン(この二人が普通に格好良く見えてくるから困る)、旧シリーズの時に比べて偉いマッシブになったティーパックマン(単にデザインの変更なのかそれとも見合ったパワーアップをしているのか)に比べると相変わらずカナディアンマン*1はダメそうですが(自分のことしか言ってないからなあ)、これは今後の活躍が見逃せない!

 というわけで、そんな新章を迎えてさらに盛り上がる「キン肉マン」ですが、今年もやってまいりました「超人総選挙」。今年は新シリーズ再開以来の「完璧超人始祖編」が終了したのを迎えての総選挙。結果発表自体は7月1日だったのですが、正式な公式ページでの発表を待ってこの時期に。これまでの2回ともまた違った結果となりそうです。
 前回、前々回はこちら。

 ルールは前回までと一緒。事前登録をした上での一人3票。今回はスクショするのを忘れてしまいましたが、僕の3票は2人は新シリーズでの殊勲賞的な超人に。残り一票は永遠のあこがれあの人に。というわけで自分の入れた3人はロビンマスクブラックホール、ジャンクマンの3人でした。ロビンマスクはもう不動の1位なのでこれは永遠に変わらず。そして、完璧超人無量大数軍相手にまさかの2連勝という前人未到の結果を残したブラックホールと悪魔六騎士のなかでもいちばん人気がなさそうであったのに完璧超人始祖相手に勝利したジャンクマン。ブラックホールはさすがに始祖相手にはせず負傷したザ・ニンジャを連れてリタイア。それでも悪魔超人イチのタフネスを誇るだけに負傷しながらも体力的にはまだ行けそうでした。ジャンクマンは悪魔六騎士の中でもアシュラマン、サンシャイン、ザ・ニンジャの人気超人3人に対しスニゲーター、プラネットマンとともにどちらかと言えば不人気超人といえるでしょう。しかもプラネットマンとスニゲーターはキン肉マンシングルマッチをしているのに、ジャンクマンはキン肉マンと試合をしていないので接点も少ない。デザイン的にも両腕のスパイクは分かりやすいものの顔はラーメンマンをさらにやっつけにしたような感じだし。実際僕も以前の記事では負けるだろうな、と予想していました。でもこのジャンクマンが見事に勝利するんですよ。愚直にジャンククラッシュ一本で攻めていく姿勢も良かったです。相手のペインマンも良い超人でした。

 それでは順位を見ながら簡単な感想を。まずは10位から1位。

  1. 悪魔将軍(ゴールドマン)
  2. キン肉マン
  3. キン肉マンソルジャー(キン肉アタル)
  4. ロビンマスク
  5. ウォーズマン
  6. シルバーマン
  7. バッファローマン
  8. ザ・ニンジャ
  9. アシュラマン
  10. ブロッケンJr.

 というわけで10位以上は相変わらずの面々です。前回のテリーマン、前々回のラーメンマンがはずれ、替わりにシルバーマンがランクインしたのが唯一の変化でしょうか。後は同じ面々で順位の変動が合った形ですね。悪魔将軍とアタル兄さん、そして超人師弟コンビの4人はほぼ上位の固定。悪魔将軍は主役のスグルを差し置いてシリーズの最終試合を制した大殊勲。元々悪役としては旧シリーズでも人気の超人でしたが、新シリーズはほぼ主役と言って良い立ち位置。今回は過去も明らかにされ、前身であるゴールドマンとしても人気を得ました。悪魔超人の開祖であり、完璧超人始祖の一人。弟のシルバーマンが正義超人の開祖でキン肉族の先祖であることが明かされたので実はキン肉マンと悪魔将軍も遠い親戚ということに。何はともあれ、今回はシリーズの幕引きをした悪魔将軍が1位というのは全員納得でしょう。
 一方、相変わらず旧シリーズの人気だけでランクインしたのがキン肉マンソルジャーことアタル兄さん。超人血盟軍の回想などでちらっと登場することはありましたが本人自体は登場せず。そんな中でも超人血盟軍(今回も全員10位内にランクイン)を下位に従えてそのトップに君臨。そしてみなさん朗報です!新章が始まる前の箸休み企画であるゆでたまご嶋田先生と中井先生のフィギュア対談によると、新章でアタル兄さんが登場するのは間違いないそうです!ついに本命中の本命が満を持して登場!
 そして主人公ながら毎回この手の人気投票では1位になれないキン肉マンは今回は2位。試合も2試合しかしていませんが、その2試合が全て負けたら自死するのが掟である完璧超人相手に相手をただ倒して終わるのではなく、きちんと分かり合うために戦う、という正義超人の立場をきちんと示した勝利を収めているのがさすが主人公。ピークア・ブー(89位)もネメシス(19位)も(更に言うならネプチューンマン(17位)も)完璧超人としての立場こそ変えませんでしたが、さらなる高みを目指すために負けても死なないという新しい価値を見出したのは相手がキン肉マンだったからこそでしょう。悪魔超人はもちろん正義超人で勝利したものの相手を死なせること無く勝利したのはキン肉マンだけ!(最終戦の悪魔将軍やグリムリパー相手のバッファローマンなど例外はあるけれど)
 超人師弟コンビももう実際の劇中の活躍とは別に不動の人気を確立した感があります。ロビンマスクはネメシス相手に死亡してしてしまい、超人墓場での復活システムが崩壊したので今のところ再登場の目処は経っていません。ただ超人墓場以外でも超人強度のパワーの譲渡など復活する手段は他にもあるので何らかの復活を期待しましょう。ウォーズマンはそのロビンマスクの後継者としてキン肉スグル(キン肉星第58代大王)とはまた別の正義超人の(ラーメンマンも認めた)新リーダー。これまで精神的に脆いところもあったウォーズマン(この辺は師匠譲り)ですが、今後はそのあたりも克服し正義超人の要として活躍していくことでしょう。
 今回新しく10位内に入ったのがシルバーマン。銀のマスクですね。あごひげも生やし男臭さ満開の兄ゴールドマンに比べると元々が防御を得意とする「平和の神」であり「黄金のマスク編」で悪魔六騎士が正義超人のパワーを吸収した時は生命維持カプセルを与えるなど慈愛の象徴としての印象が強い存在でした。アニメでは銀のマスクの時の声が松島みのりミートくん(33位))だったこともあり、女性的な印象も強いです。今回はそんな銀のマスクが一試合分だけのパワーを得て(残りは黄金のマスクが悪魔将軍として復活するために使用)、イチ超人として登場。正義超人の開祖であり、キン肉族の先祖であることも判明しました。あれですね、キン肉族は生まれてすぐマスクを着用し、家族以外に素顔を見せてはいけない、もし見られた場合は死ななければならないという過酷かつ奇異な風習があるのですが、劇中で判明しているスグルの素顔は黒髪の(どうやら美青年)地球人に似た容姿っぽいのですが(キン肉星人全体がシルバーマンの子孫だとすればビビンバやホルモン・ヤーキを見る限り一般的な地球人スタイル)、ゴールドマンとシルバーマンはあれ、マスク着用じゃなくて素顔っぽいんですよね。何億年も経て他の種族の血が入ったりして変化していったのでしょうか、それともそのへんも超人のなせる奇跡?今回はその「平和の神」の異名に相応しくない完璧超人始祖・弐式(パーフェクト・セカンド)時代の「虐殺王」と呼ばれた過去も明らかになり、神話時代の兄ゴールドマンに勝るとも劣らない強豪超人としての姿を見せました。特にキン肉族三大奥義の一つ、マッスルスパークの原型にしてその威力はマッスル・スパークをはるかに上回るアロガント・スパークは衝撃の技でした。確実に相手を殺す技から、相手を倒しつつ命は奪わない技としてマッスル・スパークが生み出されそれを完成させたのがスグルということになります。シルバーマンはわずか一試合だけの登場でしたが、そこで見せた強さと理想と優しさ、そしてライバルであり親友でもあったサイコマンとの愛憎入り乱れる様が強烈な印象を残したので6位も納得です。
 7〜10位は安定の超人血盟軍。ただグリムリパー、ガンマンと倒したバッファローマンを除くといずれも健闘はしても大活躍とはいえない印象もあります。やられて絵になるザ・ニンジャとブロッケンJr.はともかく完膚なきまでに叩きのされた(死んではいなかった模様)アシュラマンはもうちょっと頑張ってもらいたかったかも。いずれ新章でキン肉マンソルジャーが登場すれば再びその下で超人血盟軍が勢揃いする姿も見れるかもしれません。
 
 さて、ここからは11位〜100位の間で気になった超人を幾つかピックアップ。まずは全体として新シリーズになってから登場した新超人、特に完璧超人始祖の上位ランクインが目立ちますね。10位以内に入ったのこそ始祖を抜けた金銀兄弟だけですが、まずシルバーマンの恋の相手(違)サイコマンが11位に、金銀兄弟の首を(結果として)はねたジャスティスマンが15位、そしてラスボスであった超人閻魔始祖・零式ザ・マンことストロング・ザ・武道が21位に入っています。前回11位につけたガンマンは25位ですが前回は「変身などしなーい!」が話題となってのネタ的な位置づけでの上位ランクインだったのに比べると純粋に物語の中の人気で今回は25位なのではないかと思われます。その下には26位のペインマン、48位カラスマン、54位ミラージュマン、58位シングマン、64位アビスマンと全員が入っています。前回までは何人か新シリーズで登場の超人も入ってはいましたが、やはり基本となる人気超人(特に敵役となるような超人)は旧シリーズの登場超人が多かったのですが、今回は現役で活躍した超人が多く入ってきたのも、「キン肉マン」という作品が過去の人気だけで成り立っているのではなくまさに現在進行形の人気によって成り立っていることが証明されているのではないでしょうか。
 ラーメンマン(12位)とテリーマン(18位)はちょっと不本意な感じでしょうか。僕も前回はテリーマンに1票入れ、そのせいか否か、10位に入る健闘でしたが、今回は僕が入れなかったせいか18位まで落ちてしまいました。活躍ぶりは他の人気超人に勝るとも劣らないと思うので次のがんばりに期待したいです。
 僕も1票入れたブラックホールとジャンクマンはそれぞれ16位と34位。ブラックホールは前回同様の16位で、中堅どころとして安定し人気。ジャンクマンは、結構以外なことに前々回31位、前回28位なので今回が一番低いですね。というかこの30位前後立ち位置で安定していたのか。もっと下だと思っていた。
 キン肉サダハルことネメシスが19位なのに対して似た容姿のキン肉マンスーパー・フェニックスが13位。運命の5王子も(味方としての)再登場が期待されているので、そのリーダーとしてはこの位の人気は欲しいか。
 ネタ超人の雄、レオパルドンは28位。35位〜100位の中にはキン肉タツノリ(36位)、ビビンバ(41位)、二階堂マリ(42位)、中野和雄(46位)、与作(50位)、翔野ナツコ(55位)、キン肉小百合(59位)、キン肉真弓(60位)、タザハマさん(76位)、吉貝アナウンサー(77位)といった正義超人の身内だったり人間キャラだったりが続きます。ちなみにハラボテ・マッスル(委員長)は71位。正直真弓と委員長の「昔とったる杵柄コンビ」はもっと上位でも良くないですか?
 さて、では新章で衝撃的に再登場した5人の順位を見ましょう。5人の中でもアイドル超人の末席ではあったウルフマンは44位。読切では引退の模様が描かれましたが(そういや断髪式やったのに新章では普通に髷結ってるな)、怪我を押しての復帰戦。アイドル超人としては低い順位ですが(ジェロニモ(30位)より低い)、ここでの頑張りによっては次はもっと上を狙えるかも!ウルフマン同様の読切コンビ、ベンキマンとカレクックは49位と52位。この二人にタイルマン(81位)を加えた3人は新シリーズ冒頭でザ・マンの「零の悲劇」によって超人パワーを奪われ人間にされてしまいましたが、どうやら無事超人に戻れた模様です。読切での二人の姿が格好良すぎたのでなぜだろうものすごい強豪超人に見え、勝てる気がする!ちなみに今回参戦した5人はそれぞれ超人オリンピック決勝トーナメントまで残った間柄、ということですが、第20回超人オリンピック決勝トーナメントBグループは実は牛丼(キン肉マン)、ラーメン(ラーメンマン)、カレーライス(カレクック)と日本人の国民的食事決定戦であったのです!(毒ガスブロッケンマン(47位)はほっとけ)
 ティーパックマンは73位。さすがにウォーズマンに惨殺されたぐらいしか印象がなかった超人なので妥当でしょう。全く誰も予想していなかったものなあ(ウルフマンとともに活躍できる正義超人としてはジェシー・メイビア(70位)とシシカバ・ブー(90位)あたりを予想していました)こちらも今後の頑張りで次回上位が狙えるかも。
 そしてヘタレ超人界の下っ端、カナディアンマンは55位。上位でもなければ下位過ぎるわけでもないつまんねえ順位だぜ。ちなみにビッグボンバーズの相棒スペシャルマンは63位。

 最後に「完璧超人無量大数軍編」「完璧超人始祖編」におけるベストバウト5を挙げて終わりたいと思います。新シリーズは旧シリーズでの最長だった「キン肉星王位争奪戦」より長いんですよね。でも試合のテンポが良かったのでそれほど長くは感じない。

 まずは「キン肉マンVSピーク・ア・ブー」。こちらはキン肉マンの復帰戦となります。実はこの試合は「キン肉マンVSジェシー・メイビア」を再現したものともいえるものでこの試合はそれまで「神がかり的な運の強さ(byラーメンマン)」と根性(大和魂)だけで戦っていたキン肉マンが初めてちゃんとした師匠プリンス・カメハメ(27位)のもとで体系的なレスリング技術を手に入れ挑んだ試合となります。相手の技術を真似して技術を吸収する急成長超人ピーク・ア・ブーと返し技の達人であるジェシー・メイビアも共通するところです。超人レスラーとしての本格的なデビュー戦と大王として引退したキン肉マンの復帰戦、大技でなく基本的な技の組み合わせである風林火山勝利するところも共通。まさにキン肉マンの新シリーズ復活にふさわしい一戦でした。
「悪魔将軍VSザ・マン」はシリーズのラストを締めくくる一戦。超人界でも最高峰の二人による全力の試合。互いに悪魔将軍はゴールドマン、ストロング・ザ・武道はザ・マン(超人閻魔)と正体はもうこの時点で判明しているのにマスクの破損で互いの素顔が見えそうになるシーンの緊迫感は見事。
ブラックホールVSジャック・チー」これはもうブラックホールがめくれ上がってペンタゴン(22位)になるシーンに尽きますね。インパクトではピカイチ。
キン肉マンVSネメシス」、「悪魔将軍VSザ・マン」が超人界の長老による過去の因縁に決着をつける試合だとすれば、この試合は超人界の今後を背負う者同士による試合。とはいえ同時にキン肉王族によるけじめの試合でもあります。完璧超人としての挟持からあえて自分に負担になろうとより威力のあるアロガント・スパークをかけようとするネメシスと、正義超人としての誇りからマッスル・スパークで勝負をつけるキン肉マン。名試合でした。
 そういえば今回は特にアナウンスされていないのですが、多分29位になった超人にはまたなにかあるのでしょう。そして今回29位の超人はアトランティスです。そのアトランティスの試合は両者死亡にによる引き分けとなったマーリンマンとの試合。こちらもかつての「ロビンマスクVSアトランティス」の再現。そして名台詞。さあご一緒に!

新章も楽しもう!

*1:カナディアンマンは身長265cm体重218kg超人強度100万パワーとアイドル超人と比べても遜色ないスペックなのでよりヘタレ具合が際立つ。相方のスペシャルマンは173cm86kg超人強度65万パワーと超人としては割と小柄

原作漫画とアニメと実写の理想的なあり方 銀魂


 と驚いたのが約一年前。少女漫画以外の特に非現実的な世界が多い少年漫画の実写映画化は死屍累々たる様子なのであるが、もちろん全部が全部失敗というわけでもない。「るろうに剣心」3作はいろいろ言われてるが概ね成功といえるだろうし、異能力バトル漫画そのものではないが業界ものと言うよりはバトル漫画の亜種であった「バクマン。」はなんなら原作より良く出来ていた。日本だけでなく日本のコンテンツをもとにした海外での実写映画も多く作られるようになりいまや漫画の実写映画は数多く作られている。今回の「銀魂」はその独特なギャグと同時にSF、剣戟としても読まれていて僕も大好きな作品である。だから最初に聞いた時は「おいおい大丈夫なのか?」と思ったのもたしか。ただその不安は監督が福田雄一である、ということで期待に変わった。「HK変態仮面」2作やTVシリーズ「勇者ヨシヒコ」など多くの作品を楽しんでいて、僕自身「銀魂」と福田雄一作品の感性は似ているのでは?と思っていたからだ。というわけで初日に鑑賞したのだった。空知英秋原作、福田雄一監督による「銀魂」を観賞。漫画及びアニメの「銀魂」の実写化、そして福田監督作品の新作としてもほぼ完璧な出来ではないかと思います。もちろん元々の題材や監督の作風が人を選ぶものなので万人向けとは思わないけれど、原作ファンはほぼ満足できるんじゃないかな。

物語

 江戸時代。ペリーの黒船…は来なかった!代わりにやってきたのが天人と呼ばれる異星人たち。天人は強引に開国をさせ、攘夷志士と天人たちの間で攘夷戦争が繰り広げられた。やがて攘夷戦争は攘夷志士たちが敗れ、江戸幕府は天人の傀儡政権として存続、社会が急速に発展するとともに廃刀令が出され武士はその力を失っていった。
 攘夷戦争からおよそ20年後の大江戸かぶき町。かつて攘夷戦争で白夜叉として恐れられた男坂田銀時は今は「万事屋銀ちゃん」をのんべんだらりと営んでいる。従業員は落ちぶれた剣術道場の跡取り志村新八と宇宙で傭兵種族として知られる夜兎の少女神楽。そこに新八の姉、妙や攘夷戦争時代の仲間桂小太郎とそのペットエリザベス、さらに江戸の治安を守る真選組などが加わって、彼らとダラダラした日々を過ごしていたのだった。
 ある時、銀時は刀鍛冶の村田兄妹から盗まれたという名刀紅桜の探索を依頼される。紅桜は持ち主を不幸にするといういわくつきの妖刀。さらに江戸で頻発する辻斬りに桂が巻き込まれ、エリザベスから桂探索も頼まれる。やがてこの2つの事件は一つになり、そこには桂や銀時のかつての同士高杉晋助鬼兵隊の影があった…

 原作の空知英秋の「銀魂」は僕は先にTVアニメの方で知って*1、アニメにしても結構時間が経ってから触れたのだが(それでももう10年近く前だ)、その設定とタブーを恐れぬギャグでファンになった。単行本は全巻持っているとはいかないが、好きなエピソードが収録されている巻は何冊か持っている。
 原作からパワーの有る作品だが、それに輪をかけてアニメが頑張っている作品で、サンライズ製作なのだが自社パロディも他社パロディも辞さないし、原作で紙媒体であることを活かしたギャグをちゃんとTVアニメ媒体のギャグに変換していて飽きないようになっている。ちなみにアニメの方のメインライターは大和屋竺の息子で、浦沢義雄の弟子でもある大和屋暁。今回は直接関わっていないが、実写だからこそより不条理ギャグが活きるという作劇は影響を与えていると思う。
 この作品はワーナー製作の邦画だが、やはりワーナー製作でジャンプ掲載作品の映画化である「るろうに剣心」と共通点があって、「幕末の開国から20年後ぐらいを舞台にした剣戟アクション」だ。もちろん作風から何から全然違うのであるが、この辺外国資本であるワーナーから見て魅力的な題材なのかもしれない。「ラストサムライ」もほぼ同じ時代を舞台にしているしな。
 キャストは脇にいつもの福田組とでも言える常連俳優を配置しつつ、メインどころは実に豪華。主要三人は坂田銀時小栗旬。新八に菅田将暉、神楽に橋本環奈という布陣。

 小栗旬は原作・アニメのほうでも小栗旬之助として出演済み(セリフ無し)だが、今回は主人公坂田銀時として。外見は原作をそのまんま再現し、でも割りとコスプレでなくきちんと劇中に実在するものとして自分のものにしていると思う。ちなみに小栗旬之助は劇中で良い奴として描かれてました。銀時は死んだ目なキャラクターだが、小栗銀時は割りと生気にあふれていたかな。でも熱い桂とニヒルな高杉の間でその虚無感は割りと出せていたと思う。小栗旬は普段のやる気のない銀さんといざというときの格好いい銀さんをきちんと使い分けていてよかった。予告編とかでも使われている「ちわっ」ってところはちょっとつらかったけれど。
 新八はフィリップこと菅田将暉。そっくりです。以上。
 神楽役の橋本環奈。いわゆる「1000年に一人の美少女」さんですね。僕はこの橋本環奈さんは以前所属していた九州のアイドルグループ「Rev.from DVL」のリリースイベントで観て、ついでに握手会にも参加したことがある。この時点で彼女だけが注目を浴びていたこともあるが、他のメンバー(もちろん皆美少女)に比べ彼女だけ明らかに話し方や佇まいがプロとして頭ひとつとび抜けていた印象が強い。その後グループが解散し、彼女は女優として独り立ちしたわけだが、まだ18歳。背が低く童顔なこともあって、年齢設定13歳の神楽として違和感はなし。以前に出演したやはり少年漫画の実写作品「暗殺教室」では自律式固定砲台通称律ちゃんを演じていたけれど、あの時は外見はともかくハスキーな声はあまり似合っていなくて、声だけアニメ声優が吹き替えたほうが(劇中の設定的にも)良かったんじゃないか、と思ったりしたのだが、今回はそのハスキーな声も役柄にピッタリ似合っている。神楽といえばタブー破りのヒロイン。ゲロを吐き鼻をほじり、毒舌を振りまく。果たしてあの美少女橋本環奈がそこまでするのか?というのは話題になっていたのだがきちんとやります。しかもそういうシーンで不快にならないのは素晴らしい(アニメで平気でも実写にしたら不快になる描写などたくさんある)。

 最初は銀時と新八の出会いのエピソード(原作第一話)から始まるんで不安になるんですよ。もしやこのテンポでずっと進むのか?って。それぞれのキャラクターのオリジンや出会いを馬鹿丁寧にイチから見せるんじゃないだろうな?って。でもそっからすぐにギャグモードというかかぶき町の日常に突入。新八や神楽は特に何の説明もなく万事屋にいるし、真選組とはすでに腐れ縁になっているし。この辺の「すでに存在している世界観に客を投げ入れる」「人物相関図に必要以上の説明は入れない」感じはすごく良いです。後はこの後の「カブト狩り篇」でのテンポがギャグだけでなくシリアスモードでも維持されていく。
 映画を観るときに、全く傷のない完璧な作品などというのはそうそうなくて多かれ少なかれその傷を観る側がどのように捉えるかで作品の評価というのは変わってくると思う。例えばたった一つ、あるシーンの描写が許せなくて他はほぼ良い出来だったとしても総体として嫌いになる作品もあれば、傷はたくさんあるけれど、たった一つでも自分の感性とピシャリと合うシーンがあれば他がどうあろうと総合的に好きになる作品というのもある。これは明確な基準と言うものはなく、自分でも曖昧であるのだけれど、僕の場合福田雄一作品は明らかに後者で、客観的に見ても、なんなら贔屓目に見てもダメなところはたくさんあるけれど、最終的に好きか嫌いか問われれば僕は好き作品なのだ。
 今回も福田唯一監督の脚本によるが、原作の「紅桜篇」を底本にしていて、ギャグシーンが幾つかアップデートされていたり、キャストに絡めたりしている以外はほぼ物語の流れは忠実。映画における福田脚本ははっきり言ってオチが弱い。「HK変態仮面」は設定こそ原作付きであったが、物語はほぼオリジナルで中盤の盛り上がりに対してラストはいきなり巨大ロボが登場して無理やり決着をつけている。この辺り単発で完結させねばならない映画より連作でつながられるTV出身らしいところではある。今回は物語から「紅桜篇」をそのまま使っているのでそういう意味での物語のオチの弱さはない。桂を助けるために駆けつけた攘夷党の面々の替わりに真選組になっているなど、真選組が終盤まで関わってくるところぐらいが映画オリジナルの部分で後はほぼ原作に忠実な流れ。

 ギャグシーンはそりゃ好き嫌いは分かれると思いますよ。アニメがサンライズだからガンダムネタがあったり、かと思えば同じジャンプだから「ONE PIECE」ネタがあったり。そこまでなら十分許容範囲だが最終的にはジブリネタまである。キャストの過去の出演作に絡めたギャグなんかも多く、その意味で明らかに全く事前知識なしで楽しめる作品ではないと思う。ただ、原作、そしてアニメの「銀魂」の精神は確実にこの実写映画の中にも生きている。佐藤二朗演じる武市変平太のロリコンネタとか今どきどうなの?と思うものもないではないが、これは原作からあるネタなので。
 でも一発で分かるビジュアルのギャグと、その後に台詞のやりとりで繰り広げられるギャグはやはりアニメのままと言うよりはきちんと福田作品となっていて、特に佐藤二朗ムロツヨシの出演場面はほぼ「勇者ヨシヒコ」なので免疫があるかどうかが問われそう。
 今年は少年漫画の実写映画化がたくさん公開予定で、多分その中ではこの「銀魂」が一番予算が少ないんじゃないかと思える(より少ないのがあるとすれば同じ福田作品の「斉木楠雄のΨ難」か)。もちろんこれまでの「変態仮面」やそもそも予算が少ないことを売りにしていた「勇者ヨシヒコ」に比べると予算は多いのだろうけど。その辺はどちらかと言うと美術よりも原作の再現と豪華キャストのほうに注いでいるか。天人の造形も特殊メイクを駆使してとかじゃなくて本当市販のパーティグッズのマスクをかぶせているだけのような感じ。でもそれが作風にマッチしているのだからいいのだ。
 例えば数多くの漫画実写映画を手がけていて、このあと「ジョジョの奇妙な冒険」の公開も控える三池崇史監督作品だと美術に過剰な作り込みをし画面は常に暗く重くなることが多い。それに比べると福田監督作品は美術に過剰な作りこみはせず、あくまで背景としてのみ捉えている気がする。クライマックスは宇宙船(ぱっと見は木造の船)の甲板での戦闘だが、その背景はまるでベタ塗りのセル画のようなピーカンの青空だ。背景が心理描写の手助けをしたり場面の雰囲気を演出することがない。その分画面が重くなることもない。

 その他のキャストでは、まずお妙役の長澤まさみ。一説には「銀魂」世界最強説もあるキャラクターだが、今回はほぼ動きはなし。演じているのがスタイル抜群の長澤まさみなのでいざ戦闘になれば凄いだろうな、とは思わせるもののアクションがないのは残念。とはいえギャグ部分では十分活躍。個人的には料理してダークマターを生み出すシーンがないのと神楽との絡みがないのが残念かな。
 孤高の攘夷志士桂小太郎を演じているのは岡田将生。同じ攘夷戦争の仲間だった銀時や高杉と比べると役者の中ではちょっと若いがそのスラっとしたスタイルの良さと育ちの良さそうなルックスが桂にはよく似合っている。何よりこの岡田将生大河ドラマ平清盛」で源頼朝としてナレーターを務めたこともあるくらい声が良い。今回もその安定した癒しのイケボイスで我々を楽しませてくれる。「ヅラじゃない桂だ」などの定番セリフや、実は「紅桜篇」において一番の印象的なセリフではないかと思われる「いつから違った、俺たちの道は」も桂があのいい声で聞かせてくれる。全体的に真面目であるがエリザベスがらみのちょっとお馬鹿なやりとりも普段が格好良ければ良いほどギャップで魅力が増すパターン。
 真選組の面々は本来「紅桜篇」では出てこないキャラであるが、本作では大活躍。近藤、土方、沖田の3人が主として登場。ほぼ原作のまま。近藤のイメージは僕の中では照英なのだが、今回は中村勘九郎。はちみつ塗って全身金色になったりお妙のストーカーをしたり、どのキャラでも基本シリアスとギャグがある中ほぼギャグのみです。あと脱ぎ担当。カメラに映らなかったりモザイク処理されたりしている部分は実際に脱いでいたそうな。
 土方は最近すっかり福田組になってきた柳楽優弥柳楽優弥がそれほど格好良い、という印象も無かったのだが、ここでは格好いい土方十四郎を演じている。柳楽優弥はあれだね。豊田エリーと結婚した時は私生活で不安定な部分が見られたんであんまり良い印象なかったんですよ。豊田エリーのそれなりにファンだったこともあって不幸な結婚にならなきゃいいな、って余計なお世話を抱いたものです。でも「アオイホノオ」を経た今は柳楽優弥自身が好きな俳優の一人になっているので今なら素直に結婚を祝福出来ます。おめでとう。
 沖田総悟仮面ライダーメテオこと吉沢亮。こちらもそっくりかつ違和感なし。福田監督作品は初とのことだけど妙に馴染んでいてこの後は「斉木楠雄のΨ難」でも出演します。ちなみに近藤が全裸で素振りするシーン。沖田はアイマスクしてるので見れてないそうな。

 敵役となる鬼兵隊はまず高杉晋助KinKi Kids堂本剛堂本剛というと役者としては初代「金田一少年の事件簿金田一一役。後は「人間・失格」なんかか。以降は僕なんかは正直役者というよりもバラエティの印象のほうが強い。役者としてみても、なるほどルックスはジャニーズだけあって美形だけれど背はそれほど高くなく、スタイルもそれほど良いというイメージもなかった。攘夷戦争の同士でもある銀時、桂、高杉を演じる3人の中では一番の年上でもあり、あんまり高杉に合うイメージは浮かばなかった。でもその美貌は妖艶にして繊細。大きな満月をバックに三味線を奏でる姿は美しく、語られるセリフも正直何言ってんだかよくわからないけど情念にあふれたものとなっていて高杉にぴったりでした。
 高杉の部下で鬼兵隊の幹部が菜々緒演じる来島また子と佐藤二朗演じる武市変平太。菜々緒はその美しいスタイルと攻撃的な美貌が神楽のどちらかと言うとちょっとムチムチした体型&童顔と対比になっていた。佐藤二朗はもういつもの佐藤二朗です。
 妖刀紅桜に取り憑かれた人斬り、岡田似蔵にはこれこそ「死んだ目の役者」として僕が一押しの新井浩文。今回は全くギャグシーンがなくクライマックスなんて突っ立てるだけだったので正直苦痛だったそうな。
 他、ムロツヨシ安田顕といった福田組常連が登場。安田顕の村田鉄矢はとにかく一定の調子で常に大声で喋るという役。これとか近藤がはちみつ塗って全身金色になるやつとか、面白いと思うかつまらないと思うかは自由だけど、まず原作にある設定やシーンで原作からこのエピソードをチョイスした以上外せない部分であることは理解したい。同じネタでもこう演出したほうが、ってならともかくネタ自体がダメだってのは原作の否定だからね。

 ちなみにエリゼべスの中の人はこの人(舞台挨拶では本当に中の人やってたけど、劇中は声の出演だけみたい)。エリザベスはもしもふなっしーブーム以前に映画化されてたらオールCG(今回だと定春みたいな感じ)での出演になってたかもしれないけど、ふなっしーを経て我々に着ぐるみを着ぐるみとして受け入れる心の余裕が出来たからこそのエリザべス。


 今回他の漫画実写映画化作品と違って素敵だなと思ったのは、アニメと映画が別物となっていないところ。通常漫画原作だとアニメ作品と実写映画作品とは複雑怪奇な権利の理由により別々のTV局、制作会社によって制作されることが多く、原作の掲載誌ぐらいはともかくTVなどではきちんと連動していない(できない)ことがあった。今回は映画の予告編のナレーションは長谷川さん(立木文彦)だし(ただし長谷川さん自身は映画には登場せず)、原作69巻の発売告知をアニメのキャストが自虐混じりで実写を背景にやってたりする。こういう原作、アニメ、実写映画のある意味理想的な制作体制が本作ではなされているのではないか?と思う。

 何度か言ってる通り、原作にしても監督の作風にしても人を選ぶ作品。ただこれだけ原作がメジャーなんだから「(原作通りなのに)原作読んでないけどあのシーンはダメでしょ」みたいな意見はどうかと思う。ほんのちょっとでも読めばいいのに。
 そしてこの映画は原作の「銀魂」ファンならまず間違いなく満足できる作品ではないかと思う。個人的には少年漫画の実写映画としては過去最高。原作ファンは観て欲しい。原作やアニメを知らんならまずは少しだけでも原作を読んでその上で自分で劇場へ行くかどうか決めると良い。

*1:週刊少年ジャンプは30年以上ほぼ毎週読んでいるが(大きな声では言えないが買うのは年に数回でほぼ立ち読み)、かと言って掲載作品全部読んでいるわけではなく、すでに知っている作者の作品なら新連載からチェックするけれど(新人の作品を連載1回めからチェックしたのって「ONE PIECE」の尾田栄一郎と最近では仲間りょうの「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜」ぐらい。堀越耕平の「僕のヒーローアカデミア」も一回目から注目したけれどその前に連載作品があった模様)そうでない作家の作品はある程度連載が溜まってアニメになったり人気が爆発してから読み始めることが多い