The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

原作漫画とアニメと実写の理想的なあり方 銀魂


 と驚いたのが約一年前。少女漫画以外の特に非現実的な世界が多い少年漫画の実写映画化は死屍累々たる様子なのであるが、もちろん全部が全部失敗というわけでもない。「るろうに剣心」3作はいろいろ言われてるが概ね成功といえるだろうし、異能力バトル漫画そのものではないが業界ものと言うよりはバトル漫画の亜種であった「バクマン。」はなんなら原作より良く出来ていた。日本だけでなく日本のコンテンツをもとにした海外での実写映画も多く作られるようになりいまや漫画の実写映画は数多く作られている。今回の「銀魂」はその独特なギャグと同時にSF、剣戟としても読まれていて僕も大好きな作品である。だから最初に聞いた時は「おいおい大丈夫なのか?」と思ったのもたしか。ただその不安は監督が福田雄一である、ということで期待に変わった。「HK変態仮面」2作やTVシリーズ「勇者ヨシヒコ」など多くの作品を楽しんでいて、僕自身「銀魂」と福田雄一作品の感性は似ているのでは?と思っていたからだ。というわけで初日に鑑賞したのだった。空知英秋原作、福田雄一監督による「銀魂」を観賞。漫画及びアニメの「銀魂」の実写化、そして福田監督作品の新作としてもほぼ完璧な出来ではないかと思います。もちろん元々の題材や監督の作風が人を選ぶものなので万人向けとは思わないけれど、原作ファンはほぼ満足できるんじゃないかな。

物語

 江戸時代。ペリーの黒船…は来なかった!代わりにやってきたのが天人と呼ばれる異星人たち。天人は強引に開国をさせ、攘夷志士と天人たちの間で攘夷戦争が繰り広げられた。やがて攘夷戦争は攘夷志士たちが敗れ、江戸幕府は天人の傀儡政権として存続、社会が急速に発展するとともに廃刀令が出され武士はその力を失っていった。
 攘夷戦争からおよそ20年後の大江戸かぶき町。かつて攘夷戦争で白夜叉として恐れられた男坂田銀時は今は「万事屋銀ちゃん」をのんべんだらりと営んでいる。従業員は落ちぶれた剣術道場の跡取り志村新八と宇宙で傭兵種族として知られる夜兎の少女神楽。そこに新八の姉、妙や攘夷戦争時代の仲間桂小太郎とそのペットエリザベス、さらに江戸の治安を守る真選組などが加わって、彼らとダラダラした日々を過ごしていたのだった。
 ある時、銀時は刀鍛冶の村田兄妹から盗まれたという名刀紅桜の探索を依頼される。紅桜は持ち主を不幸にするといういわくつきの妖刀。さらに江戸で頻発する辻斬りに桂が巻き込まれ、エリザベスから桂探索も頼まれる。やがてこの2つの事件は一つになり、そこには桂や銀時のかつての同士高杉晋助鬼兵隊の影があった…

 原作の空知英秋の「銀魂」は僕は先にTVアニメの方で知って*1、アニメにしても結構時間が経ってから触れたのだが(それでももう10年近く前だ)、その設定とタブーを恐れぬギャグでファンになった。単行本は全巻持っているとはいかないが、好きなエピソードが収録されている巻は何冊か持っている。
 原作からパワーの有る作品だが、それに輪をかけてアニメが頑張っている作品で、サンライズ製作なのだが自社パロディも他社パロディも辞さないし、原作で紙媒体であることを活かしたギャグをちゃんとTVアニメ媒体のギャグに変換していて飽きないようになっている。ちなみにアニメの方のメインライターは大和屋竺の息子で、浦沢義雄の弟子でもある大和屋暁。今回は直接関わっていないが、実写だからこそより不条理ギャグが活きるという作劇は影響を与えていると思う。
 この作品はワーナー製作の邦画だが、やはりワーナー製作でジャンプ掲載作品の映画化である「るろうに剣心」と共通点があって、「幕末の開国から20年後ぐらいを舞台にした剣戟アクション」だ。もちろん作風から何から全然違うのであるが、この辺外国資本であるワーナーから見て魅力的な題材なのかもしれない。「ラストサムライ」もほぼ同じ時代を舞台にしているしな。
 キャストは脇にいつもの福田組とでも言える常連俳優を配置しつつ、メインどころは実に豪華。主要三人は坂田銀時小栗旬。新八に菅田将暉、神楽に橋本環奈という布陣。

 小栗旬は原作・アニメのほうでも小栗旬之助として出演済み(セリフ無し)だが、今回は主人公坂田銀時として。外見は原作をそのまんま再現し、でも割りとコスプレでなくきちんと劇中に実在するものとして自分のものにしていると思う。ちなみに小栗旬之助は劇中で良い奴として描かれてました。銀時は死んだ目なキャラクターだが、小栗銀時は割りと生気にあふれていたかな。でも熱い桂とニヒルな高杉の間でその虚無感は割りと出せていたと思う。小栗旬は普段のやる気のない銀さんといざというときの格好いい銀さんをきちんと使い分けていてよかった。予告編とかでも使われている「ちわっ」ってところはちょっとつらかったけれど。
 新八はフィリップこと菅田将暉。そっくりです。以上。
 神楽役の橋本環奈。いわゆる「1000年に一人の美少女」さんですね。僕はこの橋本環奈さんは以前所属していた九州のアイドルグループ「Rev.from DVL」のリリースイベントで観て、ついでに握手会にも参加したことがある。この時点で彼女だけが注目を浴びていたこともあるが、他のメンバー(もちろん皆美少女)に比べ彼女だけ明らかに話し方や佇まいがプロとして頭ひとつとび抜けていた印象が強い。その後グループが解散し、彼女は女優として独り立ちしたわけだが、まだ18歳。背が低く童顔なこともあって、年齢設定13歳の神楽として違和感はなし。以前に出演したやはり少年漫画の実写作品「暗殺教室」では自律式固定砲台通称律ちゃんを演じていたけれど、あの時は外見はともかくハスキーな声はあまり似合っていなくて、声だけアニメ声優が吹き替えたほうが(劇中の設定的にも)良かったんじゃないか、と思ったりしたのだが、今回はそのハスキーな声も役柄にピッタリ似合っている。神楽といえばタブー破りのヒロイン。ゲロを吐き鼻をほじり、毒舌を振りまく。果たしてあの美少女橋本環奈がそこまでするのか?というのは話題になっていたのだがきちんとやります。しかもそういうシーンで不快にならないのは素晴らしい(アニメで平気でも実写にしたら不快になる描写などたくさんある)。

 最初は銀時と新八の出会いのエピソード(原作第一話)から始まるんで不安になるんですよ。もしやこのテンポでずっと進むのか?って。それぞれのキャラクターのオリジンや出会いを馬鹿丁寧にイチから見せるんじゃないだろうな?って。でもそっからすぐにギャグモードというかかぶき町の日常に突入。新八や神楽は特に何の説明もなく万事屋にいるし、真選組とはすでに腐れ縁になっているし。この辺の「すでに存在している世界観に客を投げ入れる」「人物相関図に必要以上の説明は入れない」感じはすごく良いです。後はこの後の「カブト狩り篇」でのテンポがギャグだけでなくシリアスモードでも維持されていく。
 映画を観るときに、全く傷のない完璧な作品などというのはそうそうなくて多かれ少なかれその傷を観る側がどのように捉えるかで作品の評価というのは変わってくると思う。例えばたった一つ、あるシーンの描写が許せなくて他はほぼ良い出来だったとしても総体として嫌いになる作品もあれば、傷はたくさんあるけれど、たった一つでも自分の感性とピシャリと合うシーンがあれば他がどうあろうと総合的に好きになる作品というのもある。これは明確な基準と言うものはなく、自分でも曖昧であるのだけれど、僕の場合福田雄一作品は明らかに後者で、客観的に見ても、なんなら贔屓目に見てもダメなところはたくさんあるけれど、最終的に好きか嫌いか問われれば僕は好き作品なのだ。
 今回も福田唯一監督の脚本によるが、原作の「紅桜篇」を底本にしていて、ギャグシーンが幾つかアップデートされていたり、キャストに絡めたりしている以外はほぼ物語の流れは忠実。映画における福田脚本ははっきり言ってオチが弱い。「HK変態仮面」は設定こそ原作付きであったが、物語はほぼオリジナルで中盤の盛り上がりに対してラストはいきなり巨大ロボが登場して無理やり決着をつけている。この辺り単発で完結させねばならない映画より連作でつながられるTV出身らしいところではある。今回は物語から「紅桜篇」をそのまま使っているのでそういう意味での物語のオチの弱さはない。桂を助けるために駆けつけた攘夷党の面々の替わりに真選組になっているなど、真選組が終盤まで関わってくるところぐらいが映画オリジナルの部分で後はほぼ原作に忠実な流れ。

 ギャグシーンはそりゃ好き嫌いは分かれると思いますよ。アニメがサンライズだからガンダムネタがあったり、かと思えば同じジャンプだから「ONE PIECE」ネタがあったり。そこまでなら十分許容範囲だが最終的にはジブリネタまである。キャストの過去の出演作に絡めたギャグなんかも多く、その意味で明らかに全く事前知識なしで楽しめる作品ではないと思う。ただ、原作、そしてアニメの「銀魂」の精神は確実にこの実写映画の中にも生きている。佐藤二朗演じる武市変平太のロリコンネタとか今どきどうなの?と思うものもないではないが、これは原作からあるネタなので。
 でも一発で分かるビジュアルのギャグと、その後に台詞のやりとりで繰り広げられるギャグはやはりアニメのままと言うよりはきちんと福田作品となっていて、特に佐藤二朗ムロツヨシの出演場面はほぼ「勇者ヨシヒコ」なので免疫があるかどうかが問われそう。
 今年は少年漫画の実写映画化がたくさん公開予定で、多分その中ではこの「銀魂」が一番予算が少ないんじゃないかと思える(より少ないのがあるとすれば同じ福田作品の「斉木楠雄のΨ難」か)。もちろんこれまでの「変態仮面」やそもそも予算が少ないことを売りにしていた「勇者ヨシヒコ」に比べると予算は多いのだろうけど。その辺はどちらかと言うと美術よりも原作の再現と豪華キャストのほうに注いでいるか。天人の造形も特殊メイクを駆使してとかじゃなくて本当市販のパーティグッズのマスクをかぶせているだけのような感じ。でもそれが作風にマッチしているのだからいいのだ。
 例えば数多くの漫画実写映画を手がけていて、このあと「ジョジョの奇妙な冒険」の公開も控える三池崇史監督作品だと美術に過剰な作り込みをし画面は常に暗く重くなることが多い。それに比べると福田監督作品は美術に過剰な作りこみはせず、あくまで背景としてのみ捉えている気がする。クライマックスは宇宙船(ぱっと見は木造の船)の甲板での戦闘だが、その背景はまるでベタ塗りのセル画のようなピーカンの青空だ。背景が心理描写の手助けをしたり場面の雰囲気を演出することがない。その分画面が重くなることもない。

 その他のキャストでは、まずお妙役の長澤まさみ。一説には「銀魂」世界最強説もあるキャラクターだが、今回はほぼ動きはなし。演じているのがスタイル抜群の長澤まさみなのでいざ戦闘になれば凄いだろうな、とは思わせるもののアクションがないのは残念。とはいえギャグ部分では十分活躍。個人的には料理してダークマターを生み出すシーンがないのと神楽との絡みがないのが残念かな。
 孤高の攘夷志士桂小太郎を演じているのは岡田将生。同じ攘夷戦争の仲間だった銀時や高杉と比べると役者の中ではちょっと若いがそのスラっとしたスタイルの良さと育ちの良さそうなルックスが桂にはよく似合っている。何よりこの岡田将生大河ドラマ平清盛」で源頼朝としてナレーターを務めたこともあるくらい声が良い。今回もその安定した癒しのイケボイスで我々を楽しませてくれる。「ヅラじゃない桂だ」などの定番セリフや、実は「紅桜篇」において一番の印象的なセリフではないかと思われる「いつから違った、俺たちの道は」も桂があのいい声で聞かせてくれる。全体的に真面目であるがエリザベスがらみのちょっとお馬鹿なやりとりも普段が格好良ければ良いほどギャップで魅力が増すパターン。
 真選組の面々は本来「紅桜篇」では出てこないキャラであるが、本作では大活躍。近藤、土方、沖田の3人が主として登場。ほぼ原作のまま。近藤のイメージは僕の中では照英なのだが、今回は中村勘九郎。はちみつ塗って全身金色になったりお妙のストーカーをしたり、どのキャラでも基本シリアスとギャグがある中ほぼギャグのみです。あと脱ぎ担当。カメラに映らなかったりモザイク処理されたりしている部分は実際に脱いでいたそうな。
 土方は最近すっかり福田組になってきた柳楽優弥柳楽優弥がそれほど格好良い、という印象も無かったのだが、ここでは格好いい土方十四郎を演じている。柳楽優弥はあれだね。豊田エリーと結婚した時は私生活で不安定な部分が見られたんであんまり良い印象なかったんですよ。豊田エリーのそれなりにファンだったこともあって不幸な結婚にならなきゃいいな、って余計なお世話を抱いたものです。でも「アオイホノオ」を経た今は柳楽優弥自身が好きな俳優の一人になっているので今なら素直に結婚を祝福出来ます。おめでとう。
 沖田総悟仮面ライダーメテオこと吉沢亮。こちらもそっくりかつ違和感なし。福田監督作品は初とのことだけど妙に馴染んでいてこの後は「斉木楠雄のΨ難」でも出演します。ちなみに近藤が全裸で素振りするシーン。沖田はアイマスクしてるので見れてないそうな。

 敵役となる鬼兵隊はまず高杉晋助KinKi Kids堂本剛堂本剛というと役者としては初代「金田一少年の事件簿金田一一役。後は「人間・失格」なんかか。以降は僕なんかは正直役者というよりもバラエティの印象のほうが強い。役者としてみても、なるほどルックスはジャニーズだけあって美形だけれど背はそれほど高くなく、スタイルもそれほど良いというイメージもなかった。攘夷戦争の同士でもある銀時、桂、高杉を演じる3人の中では一番の年上でもあり、あんまり高杉に合うイメージは浮かばなかった。でもその美貌は妖艶にして繊細。大きな満月をバックに三味線を奏でる姿は美しく、語られるセリフも正直何言ってんだかよくわからないけど情念にあふれたものとなっていて高杉にぴったりでした。
 高杉の部下で鬼兵隊の幹部が菜々緒演じる来島また子と佐藤二朗演じる武市変平太。菜々緒はその美しいスタイルと攻撃的な美貌が神楽のどちらかと言うとちょっとムチムチした体型&童顔と対比になっていた。佐藤二朗はもういつもの佐藤二朗です。
 妖刀紅桜に取り憑かれた人斬り、岡田似蔵にはこれこそ「死んだ目の役者」として僕が一押しの新井浩文。今回は全くギャグシーンがなくクライマックスなんて突っ立てるだけだったので正直苦痛だったそうな。
 他、ムロツヨシ安田顕といった福田組常連が登場。安田顕の村田鉄矢はとにかく一定の調子で常に大声で喋るという役。これとか近藤がはちみつ塗って全身金色になるやつとか、面白いと思うかつまらないと思うかは自由だけど、まず原作にある設定やシーンで原作からこのエピソードをチョイスした以上外せない部分であることは理解したい。同じネタでもこう演出したほうが、ってならともかくネタ自体がダメだってのは原作の否定だからね。

 ちなみにエリゼべスの中の人はこの人(舞台挨拶では本当に中の人やってたけど、劇中は声の出演だけみたい)。エリザベスはもしもふなっしーブーム以前に映画化されてたらオールCG(今回だと定春みたいな感じ)での出演になってたかもしれないけど、ふなっしーを経て我々に着ぐるみを着ぐるみとして受け入れる心の余裕が出来たからこそのエリザべス。


 今回他の漫画実写映画化作品と違って素敵だなと思ったのは、アニメと映画が別物となっていないところ。通常漫画原作だとアニメ作品と実写映画作品とは複雑怪奇な権利の理由により別々のTV局、制作会社によって制作されることが多く、原作の掲載誌ぐらいはともかくTVなどではきちんと連動していない(できない)ことがあった。今回は映画の予告編のナレーションは長谷川さん(立木文彦)だし(ただし長谷川さん自身は映画には登場せず)、原作69巻の発売告知をアニメのキャストが自虐混じりで実写を背景にやってたりする。こういう原作、アニメ、実写映画のある意味理想的な制作体制が本作ではなされているのではないか?と思う。

 何度か言ってる通り、原作にしても監督の作風にしても人を選ぶ作品。ただこれだけ原作がメジャーなんだから「(原作通りなのに)原作読んでないけどあのシーンはダメでしょ」みたいな意見はどうかと思う。ほんのちょっとでも読めばいいのに。
 そしてこの映画は原作の「銀魂」ファンならまず間違いなく満足できる作品ではないかと思う。個人的には少年漫画の実写映画としては過去最高。原作ファンは観て欲しい。原作やアニメを知らんならまずは少しだけでも原作を読んでその上で自分で劇場へ行くかどうか決めると良い。

*1:週刊少年ジャンプは30年以上ほぼ毎週読んでいるが(大きな声では言えないが買うのは年に数回でほぼ立ち読み)、かと言って掲載作品全部読んでいるわけではなく、すでに知っている作者の作品なら新連載からチェックするけれど(新人の作品を連載1回めからチェックしたのって「ONE PIECE」の尾田栄一郎と最近では仲間りょうの「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜」ぐらい。堀越耕平の「僕のヒーローアカデミア」も一回目から注目したけれどその前に連載作品があった模様)そうでない作家の作品はある程度連載が溜まってアニメになったり人気が爆発してから読み始めることが多い