咎に トガニ 幼き瞳の告発
確か7月に観たと思ったのだが、ちょうど「ダークナイト ライジング」と「アベンジャーズ」に挟まれて「ちょっとこのヒーローづいている時にこの重い社会派を紛れ込ませるのは嫌だなあ」と思って後回しにしていたら、すっかり書くのが遅くなってしまったのが韓国映画「トガニ 幼き瞳の告発」。いや、作品自体はとても良かった考えさせられる作品なんですよ!ただやっぱりテーマが重いし中々書く気が起きなかったのも事実。観たのがだいぶん前なので詳細を忘れていてちょっと短めではありますが今更ながら。
物語
霧の街として有名なムジン(霧津)。そこにある聴覚障害者学校、慈愛学園に恩師からの紹介で教職を得たカン・イノ。妻を亡くし幼い娘を母に預けての仕事。慈愛学園は双子の校長と行政室長が取り仕切っていた。一見温和に見える二人だが拒食に就くための代償として堂々と賄賂を要求。生徒たちもどこか怯えている。
ある時、カン・イノは食欲旺盛な女子ユリに導かれ寮のとある部屋に連れて行かれる。そこでは女子生徒ヨンドゥが校長の妹で寮長のユン・ジャエに酷い暴行を受けていた。すぐに保護するカン・イノ。知り合いの人権センターの女性ユジンとともに彼女から聞き出したのは、校長や教師が生徒たちに性的虐待を与えていたというおぞましい事実だった・・・
タイトルの「トガニ」とは韓国語で「坩堝(るつぼ)」のこと。一昔まえだとアメリカの人種状況を「人種のるつぼ」などと表現していた。るつぼとは複数の物を溶かして一つにするもので昔は人種民族に関係なく、違うものをアメリカナイズしていたので「人種のるつぼ」という表現があった。現在はそれぞれの人種や民族性を尊重しつつアメリカ国民として共存するという意味で一つにしてしまう「るつぼ」より「人種のサラダボウル」という表現が使われる。閑話休題。
ここではその「るつぼ」という言葉が「逃げ場がなく、じわじわと焼かれる恐ろしさ」みたいなものを表現しているようだ。物語は事実が元になっており、韓国の光州のろう学校で2000年から04年にかけて実際に行われていた事件を元に作家コン・ジヨンが小説にしその映画化という形になっている。
この事件を韓国ならでは、などと簡単には言えないだろう。日本でも養護学校などで性的虐待が行われていた、という事件は多数ある。ただ、韓国ならではの儒教やキリスト教が顔を出してもいて、容疑者が地元の名士で熱心なクリスチャンだったからということで温情がかけられたり、子どもや教師が大人や雇い主を訴えるなんてけしからん、という人たちが現れたりする(これは日本でもこういう論調で被害者を攻めることはあるよね)。最終的に司法まで(警察や判事や相手弁護士はもちろん検事までもがグルになり)虐待した側の味方となり極めて軽微な罰で終わってしまう。判事から弁護士になってデビューしようとする人を雇え、とか(デビューに華を持たせるため後輩である判事が弁護側を勝たせることが多いらしい)どこまで本当なのかな、と思うがこういうジメッとした関係も韓国的というより東洋全体に存在してそうで怖い(もちろん司法形態が日本と韓国が似ているからというのもあるけれど)。
今回、いわゆる韓流スター含めて僕が事前に知っている人は1人も出ていなかったのだが、逆にそれが良かったかもしれない。主人公の美術教師を演じるコン・ユは爽やかな好青年。一方、気の強い女性ユジンを演じるのはチョン・ユミという人。そして双子の校長と行政室長を演じるのはチャン・ガンという人でこれが「ソーシャル・ネットワーク」のウィンクルボス双子同様一人の俳優が演じている。まあ「ソーシャル・ネットワーク」ほど一緒の場面はなかったけれど。で、僕は見ながら例えばコン・ユは眞島秀和とか西島秀俊辺りを想定してしまったし、チョン・ユミなら菅野美穂、そして双子はきたろうという具合に日本人のキャストを当てはめて見てしまった。元々同じ東洋人。仮に日本で起きた事件として映画化しても違和感がない。先程も述べた通り日本でも実際に似たような事件は起きているのだから。
その他ではやはり重要な役割をはたすのは子役たちだ。食べることに夢中ではあるが天真爛漫なユリ、中心的な賢い少女ヨンドゥ、そして弟とともに被害にあい弟を亡くしてしまう少年ミンス。ミンスは本人の意志と無関係に勝手に家族(いずれも生活に困るような貧困家庭)が示談に応じ原告として証言することができなくなってしまう。そして解放された被告の1人(自分と弟を虐待した教師)に直接報復を狙い・・・この辺はかなりショックなシーン。これ自体はフィクションだと思うけど。
後はコン・ユのお母さん役の人が強烈だよね。日本だとあき竹城とか渡辺えり子とか大島蓉子みたいな雰囲気。でもこのお母さんはいい味を出しているんだ。息子のために金を出したり、世間体と自己の正義の狭間で揺れ動いたり。
今この手を離したら、ソリ(カン・イノの娘)にとって良い父親になれる自信がない
- 作者: 孔枝泳,蓮池薫
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