The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

黒豹 武装蜂起のバラード ブラックパンサー

 アメコミ映画だけは感想書こうと思っていたのにこの体たらく。昨年の「X-MEN」シリーズのヒュー・ジャックマンのラストウルヴィー「ローガン/LOGAN」も書けず、DCFUのとりあえずの最初の頂点「ジャスティス・リーグ」も色々思うところはあったが書けてない状態です。そしてMCU、すでに年末に「マイティ・ソー:バトルロイヤル」が公開され、年明けには「ブラックパンサー」が。そしてついにフェイズ3最大の山場「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」が公開されます。今回は大分遅れた「ブラックパンサー」の感想ですが、同時にMCUフェイズ3の簡単な復習もしたいと思います。なんならまだ「ブラックパンサー」は公開中で「アベンジャーズ」とハシゴできるのかな?MCU17本目!(多分)

 ちなみに「星の王子ニューヨークへ行く」はザムンダでワカンダとは別のアフリカの国で、「特命武装検事・黒木豹介」とはまったくの別人です。

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  • 物語

 アフリカの小国ワカンダ。世界のほかの国々からは発展途上の一農業国に過ぎないと思われているこの国には秘密があった。それはかつてこの国に落ちたヴィブラニウムの隕石の力で他の国を凌駕する最新科学を備えていたのだ。国を治めるのはティ・チャラ。テロによって亡くなった先代ティ・チャカ王の後を継いで国王となった。それは同時に、国の守護神ブラックパンサーとなることでもある。

 ティ・チャラのもとにかつてワカンダからヴィブラニウムを盗んだ武器商人ユリシーズ・クロウの所在が判明したと報告が入る。国王の親衛隊ドーラ・ミラージュの隊長オコエ、ティ・チャラの元恋人で今は国外で活動するナキアと共にクロウ捕獲に向かう。そこにはCIAのロス捜査官もいたが、クロウを捕獲。しかしクロウは謎の男エリック・キルモンガーに奪われてしまう。キルモンガーはワカンダと深い関わりがあって……

  MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェイズ3はいきなり「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で最高潮に達してしまいその後は宇宙でも地球でも特に大きな動きは無かった。「ドクター・ストレンジ」と「スパイダーマン:ホームカミング」の2本は新ヒーローの登場編で、それぞれの存在感を示したがMCU全体の物語としては大きな動きはなかった(アガモットの目がインフィニティストーンの一つとして登場したことぐらいか)。

 宇宙に目を向けると「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は時間軸的にはフェイズ2に属する物語でスターロード=ピーター・クイルの出生の秘密が分かったりしたものの前作以上に他の作品との絡みは少なく、ラストにサノスに対抗しうるアダム・ウォーロックの誕生を伺わせる程度。

 そして「マイティ・ソー:バトルロイヤル」*1ではアスガルドをめぐり壮絶な戦いが起きた結果、ソーは行方不明になっていたハルクと再会し、しかしアスガルド自体が難民となって終わる。

 MCUという世界においてヒーローたちの内紛という重大な出来事を描いた「シビル・ウォー」のその直接の続編として始まっているのが今回の「ブラックパンサー」だろう。「シビル・ウォー」でデビューした彼はテロによる王の死という緊急事態を受けての参戦したが、今回正式な国王となる。

 映画はしかし現在から30年ほど昔の1990年代初頭から始まる。先代ブラックパンサーことティ・チャカ国王はアメリカで活動する弟の元を尋ねる。実は弟である王子はワカンだのヴィブラニウム製の武器をもって黒人革命を起こそうと画策していた。しかしそれは鎖国を国是とするワカンダに反する行為。国王は自ら弟を始末するのだった。この時ティ・チャカの身につけているブラックパンサースーツは全身は見えないがティ・チャラのスーツにアフリカの民族衣装の意匠を少し混ぜたような感じ。個人的にはなんなら最新のスーツより格好良く思えた。90年代初頭とかいってもすでに映画のほうで「バットマン」や「バットマン リターンズ」があった頃だから実写のヒーロースーツもそれなりにボディスーツっぽい物。どうしてもマーベル映画で過去の話(主人公の子供の頃とか)が出てくると現在(2018年)基点だから90年代とか「アメスパ2」で出てきたように2000年代とかでおかしくないのに、1960年代を思い浮かべてしまうなあ。特にこの作品の場合内容的にも「ブラックパンサー」というタイトルからも60~70年代の黒人公民権運動などを連想してしまうから。

ブラックパンサー」というタイトルからはどうしても「ブラックパンサー党」を連想するがこちらのほうが1966年デビューでブラック・パンサー党より登場は一年早い。しかしこの二つの黒豹が同じ名前なのは全くの偶然なのではなく、その前に存在していた黒人団体が黒豹をロゴにして用いていたことから別々にインスピレーションを受けたようだ。

 MCUでは「アイアンマン2」でウォーマシンが、そして現在におけるキャプテン・アメリカの相棒としてファルコンがすでに「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」で黒人ヒーローとしてデビューしているが、単独主演は初。映画で登場する主要登場人物で非黒人キャラは武器商人ユリシーズ・クロウとCIA捜査官のエバレット・ロスぐらいしかおらず、舞台も含めてここまでアフリカが強調された作品も珍しい。

 ワカンダの描写は国全体を覆うホログラムでカモフラージュされており、そのホログラムを抜けると本当のワカンダ王国が現れる。そこは最新科学と伝統的文化が見事に融合された世界。最新科学の一方で国王即位の儀式などでは伝統も重んじられ、農業や牧畜も盛んなある意味理想国家として描かれている。ワカンダでしか産出出来ない鉱物ヴィブラニウムと人間に超人的なパワーをもたらすハート型のハーブの力で国王はブラックパンサーとして国を守護する。

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 主人公ティ・チャラは「シビル・ウォー」に続きチャドウィック・ボーズマン。宿敵となる、マイケル・B・ジョーダンとはまた別の人懐っこそうな魅力を持つ。「キング・オブ・エジプト」では知恵の神トートを演じていたが、この人はアフリカン・アメリカンにありがちなストリートの匂いをまったく感じさせないというか、貴族的な育ちの良さを感じるのでその辺もこのヒーロー兼国王というキャラクターにピッタリだった。

 他にも色々個性的なキャラクターが登場し、特に女性陣は皆魅力的。オコエやナキアなど普通に主人公を凌駕する力を発揮するヒロインもいいがティ・チャラの妹でブラックパンサーのバックアップをするシュリが個人的には好き。演じているのはレティーシャ・ライトは1993年生まれなので25歳だが劇中ではもっと若く見えおそらく作品の設定的にはまだ10代だろう。このシュリが天才科学者として今回のブラックパンサーのスーツ、装備、後方支援を担当。その技術力はトニー・スタークやハンク・ピムを凌駕しているように思える。スターク系はアイアンマン、ウォーマシン、スパイダーマン。ピム系はアントマン、ワスプ、イエロージャケット。そしてシュリ系はブラックパンサーとヒーローの強化スーツを系統立てれると思う。それぞれ注力したポイントが異なるけれどスターク=火力、ピム=縮小機能、シュリ=耐ショックといったところか。「シビル・ウォー」でのブッラクパンサースーツはヴィブラニウムを織り込んだボディスーツという感じだったが、今回新たに登場したスーツは首飾りからナノマシンが放出されて全身を覆う感じで変身/変身解除が思いのまま。

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 とにかくこの妹様シュリがさりげなくMCUでも一二を争う天才なのに、一方で普通の今どき少女っぽいのも良い所。シーンシーンによっていろんな魅力を出しています。またティ・チャラとシュリの母親である王妃にはアンジェラ・バセット。90年代に女性アクション俳優といえばこの人だったイメージがあります。実際撮影現場でも出演者からかなりのリスペクトを受けていたようだ。

 ヴィランはエリック・キルモンガー。元米国の特殊部隊として世界中で殺戮を繰り広げた男。正体はティ・チャカの弟ウンジョブの息子でありティ・チャカがウンジョブを処分した時にそのままアメリカに置き去りにしてしまった悲劇の王子である。彼は血統の正統性と儀式によってティ・チャラを破りワカンダの国王となる。そしてヴィブラニウムの武器を世界中に配り父の果たせなかった世界一斉蜂起、黒人革命を試みる。

 演じるのはマイケル・B・ジョーダンで監督のライアン・クーグラーとは「フルートベール駅で」「クリード」に続き3作目のタッグ。アメコミ関連映画としては(アメコミ原作ではないが)「クロニクル」「ファンタスティック・フォー」のヒューマントーチに続く。ヒーロー一転ヴィランである。この人の特徴は悲劇的な役柄を演じていてもその親しみやすさでどこか希望を残すところで、本作のキルモンガーも悲劇的な出自を持つが、どこか明るくそしてカリスマ性を持っていて一時的とはいえワカンダの国王になるだけの器量を垣間見せる。ただ、最初の方のアフリカの祭祀用の仮面をかぶる姿と違って、クライマックスではブラックパンサーのバージョン違いのスーツを着用する。二人のブラックパンサーは色合いが極端に違うわけではなく、戦闘の舞台も暗いところだったりするので見分けがつきにくく混乱してしまってちょっとその辺は残念。いわゆる主人公と同型で能力的には凌駕するヴィランというパターンだがその辺ではちょっと物足りなかったかな。

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 数少ない白人キャラはマーティン・フリーマンエヴァレット・ロスとアンディ・サーキスユリシーズ・クロウ。二人ともMCUではすでに登場済みのキャラクターだが、今回は共演し、ロスがクロウを尋問するシーンも有る。この二人といえば「ホビット」のビルビ・バギンズとゴクリ/ゴラムである。あの時は特殊メイクやCGで共演していたが、その二人が今回は生身で共演。だからといって特にこの二人のやりとりが「ホビット」を連想させたりはしないんだけど、その分鬼気迫るものはありました。

 今回はティ・チャラがワカンダの国王として自らを確立する物語であり、クライマックスの戦いもちょっとした内戦でありコミックヒーローの戦いというのとも少し違うかもしれない。またこの物語を通してワカンダという国を紹介する役割を負っている。

 ラスト、無事国王に返り咲いたティ・チャラは国連でこれまでの鎖国政策を止め世界に広く文化を開放することを宣言する。弱小の農業国としか思われていなかったワカンダだが、その世界の最先端を行く科学力や希少なヴィブラニウムは世界を大きく変えていくことだろう。良くも悪くも。


Black Panther - Official Teaser Trailer | HD

 オマケ映像はワカンダの子どもたち懐かれている謎の男。その正体はウィンターソルジャーことバッキー・バーンズ。「シビル・ウォー」ラストで本人の意志により洗脳が完全に解ける手段が見つかるまでワカンダの科学力で冷凍睡眠されることとなったが、内戦のさなかの混乱で解除されたのか?ここでは「ホワイトウルフ」と呼ばれるが、「インフィニティ・ウォー」でもウィンターソルジャーでなくホワイトウルフとしてクレジットされているとかいないとか。

 BLACK PANTHER WILL RETURN IN AVENGERS : INFINITY WAR.

そして物語は「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」へと続きます。


Marvel Studios' Avengers: Infinity War Official Trailer

 予告編を観る限りわりと「ブラックパンサー」からすぐつながる物語っぽく今回登場したキャラクターの多くはそのまま登場するっぽい。同時にやっと「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が他の作品と明確に絡んでくることも確かで宇宙の話と地球の話がひとつになります。前後編の前編と言われているので「インフィニティ・ウォー」だけで完結はしないと思われるけど十分見応えはありそうです。

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 ブラックパンサーが出てるMCU前作。 

  

ライアン・クーグラー監督の前作。感想記事のタイトル「父親越えの神話」はそのまま今回の記事にも使えそう。監督デビュー作が実録社会派「フルートベール駅で」だったため社会派のイメージがあって、その意味では今回のMCU参加は「ロッキー」シリーズである「クリード」以上に意外だったのだが、娯楽作の中にきっちりテーマを盛り込むことでは一級の力を見せたと思う(ただアクションシーンの演出はルッソ兄弟に比べるとちょっと下手かな)。

ブラックパンサー ザ・アルバム [Explicit]

ブラックパンサー ザ・アルバム [Explicit]

 
ブラックパンサー (オリジナル・スコア)

ブラックパンサー (オリジナル・スコア)

 

  もう発売されちゃったね。

 さあ、明日はインフィニティ・ウォーだ!!

*1:しかしやはりこの邦題は間違いだと思う。「ラグナロク」に戻してほしい

舌切り雀の選択 レッド・スパロー

 実は最初のうちは全く食指をそそらなかった映画。ジェニファー・ローレンス主演のスパイアクションね。「ソルト」とか「アトミック・ブロンド」みたいな…って感じ。特に新味を感じずスルーでいいかな?と思っていた。それが変化したのはまず予告編で一部が修正されていると話題になったこと。僕が劇場で観た時は噂になった修正がされていなかったので不思議に思ったが、別の劇場で別の作品を観た時に流れたものは確かに修正がされていて劇場毎に基準が違うのかな?などと思いそれから気をつけて予告編を見るようになった。それでも本編への興味はまだ薄くてあくまで基本スルー予定、公開されて評判が良かったら観てもいいかな、ぐらいの位置付け。それが替わったのは公開直前に監督がフランシス・ローレンスと知ったからだ。ジェニファー・ローレンス主演の「ハンガー・ゲーム」シリーズの後半3作を手がけた監督。僕は多分日本人の映画好きの中ではかなり積極的にあのシリーズを絶賛している数少ないブロガーと自負しているのだが、あのとにかく丁寧に作られた作品を手がけた人物の手によるものならこれは観なくてはなるまい、と方針を改めたのであった。ジェニファー・ローレンス主演、フランシス・ローレンス監督作品「レッド・スパロー」を観賞。f:id:susahadeth52623:20180418174529j:image

  • 物語

 ロシア。ボリショイ・バレエでトップを務めていたドミニカはステージで大怪我を負い引退。住んでいたアパートも立ち退かねばならない事態に。病気の母親を抱えて途方に暮れたドミニカはロシア情報庁幹部の叔父ワーニャはドミニカの怪我は仕組まれたものであったことを伝える。ドミニカは仕組んだ者に復讐を果たすが、そのために叔父の仕事を手伝わなければならなくなる。最初に聞いた条件と違い工作員による暗殺の片棒を担がされたドミニカは、そのまま母の治療費などを条件にスパイ養成所へ。スパローと呼ばれるスパイを養成するそこであらゆる手管を学ばされたドミニカは最初の仕事を任される。それは内通者を探り出すため、CIAの捜査官と接触すること。ドミニカはブタペストでCIA捜査官ネイトと接触するが・・・

 先に「ハンガー・ゲーム」の監督作品だから観た、と書いたけれども。実は監督デビュー作はキアヌ・リーブス主演のアメコミ映画「コンスタンティン」で、その後ウィル・スミス主演の「最後の男」のリメイク「アイ・アム・レジェンド」を監督していたりするので実は2011年の「恋人たちのパレード」以外は全部観ていた。最も監督を意識して観たのは今回が初。「アイ・アム・レジェンド」はリチャード・マチスンの原作から大分脚色されているけれど、「ハンガー・ゲーム」に関してはとにかく丁寧に忠実に原作を実写に映し変えているな、、という感想。なのでその辺に監督としての方向性があると思いながら見た。今回はエンドクレジットで出てくるまで原作付きだったことも知らなかったぐらいなのだけど、それでも丁寧だしおそらく忠実に映像化しているんだろうなあというのが伝わってくる。後述するけれどこの作品は派手なスパイアクション映画ではなくかなり堅実なスパイ映画なのだけど、地味だが決して退屈にはならないそのギリギリの線をきちっと計っていると思った。

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 タイトルの「レッド・スパロー=赤い雀」の雀=スパローとはスパイの隠語で赤いとはおそらくロシアのことを指しているのだろう。ジェニファー・ローレンス演じるドミニカは叔父に見込まれてスパイ養成所に送られる。ただしこの養成所では格闘術やテロ工作などではなく(ある程度それらも学ぶとは思うけど)徹底的に人を操る術を学ばされる。相手の感情を理解し、感情を操り、でも決して相手に対して感情を持たないスパイ。もちろんそこには肉体を駆使し性的に相手を誘惑、実際に肉体関係まで持ち込むことも求められる。

 劇中では淡々と描かれるがここではキューブリックの「フルメタル・ジャケット」前半の海兵隊の教練シーンを連想した。スパローたちも海兵隊員ももちろん最初から完成されているわけではない。養成所や教練を通して一般人としての価値観を捨てさせ目的のために手段を問わないマシンを養成する。

 だから、この映画で描かれるスパイはCIAの男性捜査員を誘惑したり、あるいはレズビアン上院議員秘書官と親しい仲になったりするのがメイン。アクションもゼロではないがその辺はいわゆるアクション映画という体では描かれない。すべて観ていて痛いシーンばかり。ちなみに一番痛いシーンは最初のバレエで怪我を負うとこなのでそこを乗り越えれば他はそういう面での苦痛は感じないと思います。

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 原作は元CIAの人ということである程度リアルなのだろうが、スパロー養成所の内部などどこまで事実かは分からない。それでも映画の中では荒唐無稽さはほぼ感じないリアルなものとして描かれている。スパイ映画といっても「007」シリーズ系ではなく「裏切りのサーカス」系の作品ですね。

 映画は「R15+」指定ということでジェニファー・ローレンス他の際どいシーン(ヌードや拷問)も多い。これらのシーンに対して、映画秘宝に載っていた監督のインタビュー記事がとても素晴らしかったので紹介したい。(取材・文は渡辺麻紀氏。強調は元の記事より)

(前略)僕としては、彼女にいい環境で演技に専念してもらいたいという気持ちが強かった。ヌードを始めとした過激なシーンをこなすため念入りなミーティングを重ね、なぜ裸にならなければならないのか?そのシーンでのドミニカの心情はどうなのか?そういうことをじっくりと話し合った。でもそれは女優にヌードを頼むときの当然の手順だ。そこで僕は、もっと彼女が安心して演技ができるよう、ヌードシーンの編集権を与えたんだ。つまり、そのシーンが完成したら、プロデューサーやスタジオより先にジェンに見せる。彼女が最初に見て気になるところがあれば変更したりカットしたりできる。彼女の前に見るのは僕とエディターだけというふうにしたんだ。これはとても良かったと思う。彼女は演技に集中できたから。

 ジェンが手を入れたかって?あったけれど決して多くはなかったよ。僕たちの意図もちゃんと判っているのがジェンのいいところのひとつでもあるから(笑)(後略)

 監督/主演コンビで4作目でもあり、信頼関係が最初から出来上がっていたからってのもあるけれど、 「女優にヌードを頼むときの当然の手順」と言う姿勢が素晴らしい。以前「授乳シーンで乳首を見せない女優はダメだ」と言っていた日本の映画監督*1がいたけれど、じゃあ果たして脱がせる側はここまで誠意を見せているか?

 もちろんアメリカでも昨年のワインスタインの一件から始まる「#metoo」運動があったように日本だからアメリカだからということでもないかもしれない。それでも映画だけでなく、、ここ最近の日本で起きた様々な事案、相撲の土俵における女人禁制問題や、写真家荒木経惟のモデルを長年続けた人の告白やそれを受けたモデル/女優の水原希子の告白、財務省次官のセクハラ問題などを顧みれば、フランシス・ローレンス監督が特別誠実なだけかもしれないがやはり日米で雲泥の差を感じる。

 こうして撮影された過激な際どいシーンは、劇中の登場人物はともかく観客が観て劣情を催すようなものにはなっていない。作劇上でも必要な物でいわゆる男性向けのサービスシーンと言った類のものではない(予告編で修正されたことで話題になった水着含め)。

 ジェニファー・ローレンス以外のキャストとしてはCIA捜査官ネイトにジョエル・エドガートンジェイソン・クラークあたりと同様派手さに欠け、決してヒーローというタイプの俳優ではないが、こういう作品の中では溶け込んでいて良かった。他ジェレミー・アイアンズ、メアリー・ルイズ・パーカーなどが共演。特筆すべきはドミニカの叔父であるマティアス・スーナールツで、これがプーチン大統領そっくり。身内であるドミニカをも使い捨てにし容赦なく利用(そしてちょっと色目も使う)。プーチンが元KGBということもあってこのキャラクターの容姿はかなり意図的なのではないかなあなどと思う。後は名前もない役柄でありながら、強烈な印象を残すのがスパロー養成所の教官でもある監督官を演じたシャーロット・ランブリング。「愛の嵐」などが有名だが、冷徹に酷いことを教えこんでマシンを送り出す姿が恐ろしい。


【予告編#1】レッド・スパロー (2018) - ジェニファー・ローレンス,ジョエル・エドガートン,マティアス・スーナールツ 原題:RED SPARROW

 ラスト、ドミニカはいくつかある選択肢の中から一つを選ぶ、それは復讐でもあり決別でもある。たとえ今後も国家に所属しようとも。

 

レッド・スパロー(上)

レッド・スパロー(上)

 
レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)

レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)

 

 関連記事

 監督の前作。「ハンガー・ゲームFINAL」の2作は独立した感想記事書いてません。スマヌ。

 タイトルはこちらから。

*1:その後別の件でもセクハラが話題になった

Deep One’s Love シェイプ・オブ・ウォーター

 ”深き愛”ならぬ”深きものどもの愛”。アカデミー賞といえば英語圏の映画賞の中でも最高峰なわけですが、やはり色々物議を醸すものであって、なぜあれが選ばれなかったんだとか逆になぜあれが選ばれたんだ!とか毎回良くも悪くも話題になります。僕なんかはもうノミネート段階では何が選ばれたのか興味はありますが、最優秀賞となるともうどれでも別にいいかなってスタンス。作品選びの参考にすることは殆ど無くなってますね。そしてこの手の映画賞はやっぱりある種のジャンル差別があって、どんなに大ヒットしても評価が高くてもSFやホラー作品が選ばれることは滅多に有りません。技術部門で取ることはあっても作品賞や男優女優賞はまず有りませんね。しかし今年は「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」以来のファンタジーが作品賞、監督賞などを取りました。ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞受賞作「シェイプ・オブ・ウォーター」を観賞。観たのはちょうどアカデミー賞授賞式の次の日でした(別に意識したわけではないです)。

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  • 物語

 ハンサムな王子の時代が終わりに近づいた頃…

 唖の女性イライザは航空宇宙研究センターで清掃員として働いている。同僚のゼルダと隣の部屋の絵かきジャイルズのみを友達として過ごす代わり映えしない毎日。

 ある時ホフステラー博士の研究チームが新しく何かを連れてきた。イライザはその生物が警備担当のストリックランドの虐待に対して暴れ血の海にしたらしい現場の掃除を任される。ふとその生物と目が合い惹かれるイライザ。

 次の日からちょっとづつその「彼」と親交を深めるイライザ。一方ストリックランドは「彼」に負わされた傷も痛み彼の解剖を主張する。ホフステラー博士は反対するがトップのホイト元帥はストリックランドの意見を受け入れる。それを聞いてしまったイライザは彼を逃そうとする。イライザの作戦にゼルダやジャイルズ、そして実はソ連のスパイだったホフステラーも加わって…

  ギレルモ・デル・トロ監督というと怪物への偏愛。僕も「ミミック」で知って以降一応全部の作品を見ている。僕自身怪物・怪獣映画は大好きだし、特にデル・トロ監督同様半魚人に目がないのでその意味でもこの作品は面白かった。世間的にはデル・トロ監督といえば「パシフィック・リム」なのだろうが、個人的にはあの作品には他の作品に見られる怪獣描写への繊細さと偏愛が欠片も感じられず残念だったのだが、その後の「クリムゾン・ピーク」や本作は本来のデル・トロらしさが感じられて僕は好きです。

 この作品がアカデミー賞(作品賞、監督賞)などを取ったということで、これで「怪物が出てくる作品が認められた!今後は怪獣映画が作品賞を取る可能性もある!」と喜んでいたりする人も見受けられたけど、僕は特にそうは思わない。「王の帰還」の時には僕も「今後はジャンル関係なく評価される!」と思ったりしたけれど、特にそんなことも無かったしね。この作品が評価されたのはまずラブロマンスとして優れていたからだろう。ドラマとして評価されたからクリーチャーが出てくるファンタジーという部分をおいて賞を得たのだと思う。

 更に言うなら、別にアカデミー賞なんて取らんでもいいんじゃないの?って思う。ジャンル映画はジャンル映画として評価されれば良い。もちろんこの作品の受賞は僕も嬉しいし喜ばしいけれど、少なくともアカデミー賞で評価されるために怪獣映画にいらないドラマを加えるなんてことが起きたら本末転倒だと思う。

 

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 僕は怪物が出てくる物語としては「フランケンシュタイン」が大好きなんだけど、キャラクターとしてのクリーチャーでは「大アマゾンの半魚人」も大好き。「ウルトラマン」でも海底原人ラゴンとかが好きだし、「スターウォーズ」ではモン・カラマリのアクバー提督が好きだ。とにかく半魚人キャラにはどうしようもない魅力を感じてしまう。そんな中ここ最近登場した半魚人キャラで一番好きなのは「ヘルボーイ」シリーズのエイブ・サピエンで、その造形だけでなく所作や喋り方なども魅力的だ。そのエイブを演じたダグ・ジョーンズが今回も半魚人を演じている。

 ダグ・ジョーンズアンディ・サーキスと並んで「顔を見せない名優」という感じで、デル・トロ作品でも数多くのクリーチャーを演じている。ただ、今回は同じ半魚人でも服を着て言葉を喋るエイブとはかなり印象が違う。その辺は同じ半魚人でも別物だぞ、と制作側も強気意識したのだろう。のっぺりとしたエイブに比べて鱗やヒレのディティールが細かく、言葉を喋らないので動作や目線で感情を訴える。個人的にはデザインとしてもエイブのほうが好きだけどこちらも新時代の半魚人デザインとしてよく出来ていた。ただ個人的には(これは別にこの作品に限ったことではないのだが)生物発光して感情を表現するのはあんまり好きではないかな。

 ほとんどクトゥルフ神話色が無かった「パシフィック・リム」とかと比べると、今回はアマゾンの奥地で原住民に神として崇められた存在を連れてきて宇宙開発研究の一環としてアメリカで調べているという設定で、コズミック感こそ少ないが「深きものども」感は満載。しかもそれを恐れるべき敵ではなく、愛すべき存在としても描いているのが素晴らしい。愛すべきといっても単に可愛らしく描いているわけではなく、そこは人間とはまた違う価値観(猫食ったりする)の生き物で、感覚的にもかなり異なるものとして描いていて、でも魅力があるようになっているのもまた良い。

 で、まあ元ネタというか、劇中で触れられてるので別に深読みでも何でもないと思うんだけどこの作品はヘブライ神話「旧約聖書士師記」のサムソンの物語を善悪逆転したものですね。

 イスラエルの英雄サムソンがペリシテ人に神の力を失って捕らえられ、しかし最後は力を取り戻しダゴン神殿を破壊し多くのペリシテ人を道連れに死んだ、という物語。ゼルダのミドルネームがデリラと知った時にストリックランドがこの話に触れます。ストリックランドは自分をサムソンに例えるし、デリラはサムソンの恋人で彼の力の秘密を探りペリシテ人に密告する人物と同じ名前。そしてダゴンは古代に信仰されていた半人半魚の神様で、豊漁を司る神として広く崇められていたものの、この時に多くの信者を失い、のちにキリスト教では悪魔とされます。またダゴンラブクラフトによってクトゥルフナイアルラトホテップなどとともに旧支配者の一柱となります。ストリックランドは半魚人によって指を2本失うけれど、これはサムソンがダゴン神殿を崩壊させるときに2本の柱を倒すことを暗示しているのかも。

 この作品はダゴンとその信者たちが執拗に攻めるサムソンを倒してかつての神の地位を取り戻す物語ともいえる。ストリックランドはそれまでただの化け物としか見てこなかった半魚人を最後の最後で神と認めて死んでいく。だから怪物が出てくるファンタジーという部分以外でアンチ聖書なところがあって、よくこの作品がアカデミー賞取れたな、と観た後に別の意味でびっくりしてしまった。

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 ちなみに、ストリックランドというと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのマーティの天敵でもあるストリックランド教頭をまず思い起こすのだけど、日本語の響き的にも「ストリックランドStrickland」という名前は刺々しく厳しい印象を与えるがそのへんどうなんでしょう?実在する姓だろうけど英語でも悪役っぽい名前なのだろうか。f:id:susahadeth52623:20180321051750j:image

 ストリックランドを演じたのは「マン・オブ・スティール」のゾッド将軍ことマイケル・シャノン。いかつい顔はそのままだが、(鎧を着ていたからだが)上半身にボリュームがあったゾッド将軍に比べると身体がやけに細くアンバランスで、それが神経質そうなキャラの性質をより強調しています。ストリックランドは家庭では良き夫、良き父だが職場では最低な野郎で(トイレで手を洗わない)、そのストリックランドがイライザに好意を示すシーンがあるけれど、あれで連想したのは「スタートレックDS9」でカーデシア支配下ベイジョーでテロック・ノール(DS9)の司令官だったガル・デュカットがベイジョー人女性を愛人(うち一人はキラ・ネリスの母親でもある)にしていたエピソード。この権力に極端に勾配がある状況で行われるあのシーンは一見ストリックランドの人間性を示すようで実は、自分より弱いものに情を示すふりをすることで優越感を味わうという実に嫌なシーンである。

 またゼルダ役のオクタヴィア・スペンサーは「ドリーム」に続き宇宙開発の場で働く役だけど、こちらは清掃員という職種であり、時代的にも「ドリーム」の裏と思って見ると興味深いかも。ちなみに冒頭に「ハンサムな王子の時代が終わりに近づいた頃」と出てくるけれど、これはケネディ大統領のことで時代設定は1962〜1963年です。ただその辺ぼんやりとなので、僕は最初普通に現在が舞台で、それにしちゃやけに背景や小道具がレトロだなあ、とか思ってしまった。中盤以降朝鮮戦争の話などが出てきて時代に気付いた。

 ジェラルドはリチャード・ジェンキンズ。この人が出てきたSFホラー系作品だと「キャビン」でしょうか。ゲイであるジャイルズは好きになった男性に会いに行く時にカツラをつけるが、つけてない時のほうが素敵。ホフステトラー博士のマイケル・スタールバーグはどことなく中性的な不思議な魅力のある人で個人的には「メン・イン・ブラック3」が好き。

 主役のイライザにはサリー・ホーキンス。「パディントン」シリーズや「GODZILLA」に出演し、クリーチャーとの共演も慣れたもの。決して凄い美人というわけではなくどちらかと言うと近所にいそうな親しみのある容貌。元アイドリング!!!32号の関谷真由さんに似ている……というのは「パディントン2」の時にも書きましたね。今回はヌードもあり、また自慰シーンなどもあり必要なシーンかな?と思う一方で個人的にはノイズだったのでもうちょっとその辺はぼかした描写でよかったんじゃないか、とも思ったり。


THE SHAPE OF WATER | Official Trailer | FOX Searchlight

 デル・トロ監督が製作した「パシフィック・リム:アップ・ライジング」も公開間近。こっちは監督がTVシリーズの「デアデビル」や「スパルタカス」などを手がけたスティーヴン・S・デナイトが担当。予告編を観た限り、前作あってこその続編とはいえ前作より面白そう。僕的には適材適所、本来あるべきものがあるべき場所へ収まったという感じで楽しみです。

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  デル・トロへの期待値が大きすぎて個人的にはイマイチだったけど世間的には大ヒットした作品。

シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

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ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

 

  ギレルモ・デル・トロ監督は本作のような監督のわりとパーソナルな思いがあふれる作品のほうが好きなので次もこういう系を撮って欲しいなあ。しかしオスカーを得て、選択の幅も広がったはずで次こそは「狂気の山脈にて」を撮って欲しい!

ラヴクラフト全集 4

ラヴクラフト全集 4

 

 

実録ゆえの歪さ 15時17分、パリ行き

 クリント・イーストウッド監督最新作!俳優としては一応引退した身だが監督としては健在、今もコンスタントに新作を送り出している。僕も全部見ているわけではないが(前作観てないや)、新作が公開されればまずは気にかける監督の一人。今回も公開初日に観に行ったのだった。「15時17分、パリ行き」を観賞。

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  • 物語

 スペンサー・ストーンとアレク・カトラスの二人は幼なじみ。中学でそこに加わったのがアンソニー・サドラー。3人は学校に馴染めぬ一方サバイバルゲームなどで友誼を深めるが、アンソニーは別の学校に転校。アレクも父親に引き取られ3人はバラバラになる。それでも3人の友情は終わらなかった。

 大人になってスペンサーとアレクは軍に入隊する。スペンサーは志望のパラセーリング部隊に入れず、第2志望の部隊でも中々成果を出せない。ヨーロッパに駐屯するスペンサーとアフガニスタンで従軍するアレクは休暇期間中にヨーロッパ旅行を計画する。そこにアンソニーも加わってドイツ、イタリア、オランダと楽しむ3人。そして2015年8月21日アムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスに乗った3人は……

  最初にイーストウッドの監督最新作としてタイトルを聞いた時は「西部劇かな」?」と思ったのだが、これはイーストウッドのイメージと「3時10分、決断のとき(原題3:10 to Yuma)」からの連想だろう。タイトルにおもいっきり「パリ」と入っているのにね。

 正直本国などではあまり評判が良くないらしい。日本でも賛否両論といったところだが、根強いイーストウッドファンが多い事もあってそれなりに受け入れられている模様。僕自身は「面白かったけどかなり歪な映画だな」というのが最初の感想といったところ。事前に知っていた情報は、実際に起きたテロ事件をその当事者を主演俳優として起用し描く、という部分。その事件が具体的にどういうものかはあまり調べなかった。実在の事件を当事者を起用して描く、といえば2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」のハイジャックされながらも目標への激突を防いだ(しかし墜落して全員死亡)ユナイテッド航空93便の顛末を描いたポール・グリーングラス監督の「ユナイテッド93」を思い起こす人も多いだろう*1。僕も最初に作品情報を聞いて思い浮かべたのはこの作品。内容というか作品構成もテロが起きた前後をドキュメンタリータッチでリアルタイムに近い感じで描くのではないか?と思っていた。ところがこの作品はそもそもテロを描く作品ですら無かったのだ。

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 TVスポットなどでは「イーストウッドが描くテロとは」というような感じで宣伝されているが、この作品ははっきり言ってテロをメインに描くものではない。テロリストがなぜ?どうやって?テロを起こしたか?というのはほとんど描かれない。この映画は94分というわりと短い上映時間で大体4部構成となっているが、テロ事件そのものはその4部目で一瞬の出来事。それよりもこの映画が重視しているのはスペンサーというアメリカの一若者の苦悩だろう。

 最初はちゃんとプロの俳優で撮影する予定だったらしい本作。脚本作りのために当事者3人に聴きこみ取材をした際に「どうせなら本人に演じてもらおう」となったらしい。おそらくこの時点で作品の方向性も変わってきているはずで、フィクションとしての作劇はよりノンフィクションなものになったはず。通常の作品ならたとえ実話ベースであってももうちょっとクライマックスの事件と主人公のそこまでを絡ませたりすると思うのだが、何しろこれは事実を描いたもの。テロリストとヒーローとなった主人公たちの間には何の因縁もない。だからこれはテロに遭遇した若者を描く作品であっても「なぜテロが起きたのか」といったようなことを描く作品ではない。極端な話、テロでなくてただの列車事故でも良かったのだ。

 映画作品として歪なのは偶然がクライマックスにつながって物語が成り立っているので描写が積み重ねで出来ているわけではないから。そしてそれが他のフィクションと本作を隔てている。

 僕は事前に主人公を演じるのが当事者本人で、テロに対処した事件を描く作品と知っていても最初の中学生のスペンサーやアレク、その後の入隊してからも挫折するスペンサーの描写などで、こいつらがスクールシューティング起こすんじゃないか?と思うぐらい過去の描写が詳細。スペンサーとアレクはADHD(注意欠陥・多動性障害)を疑われ、母子家庭でもあるため、学校から疎まれている。母親はキリスト教系の学校に転校させるがそこでも二人は疎外感を味わっている。この2人に問題児であるアンソニーを加えた3人はサバイバルゲームに熱中。周りから浮いている軍オタという描写がやがて銃乱射事件に発展するのではないか?とこれがノンフィクションだと知っていても思ってしまうぐらい彼らの子供時代の描写が痛い。

 やがて成長しスペンサーとアレクは軍に入る。スペンサーはアンソニーの何気ない一言に奮起しこれまでにない努力をするが、本人の与り知らないところ(視力関係)で希望の部隊に入れない。

「これまでは何もしてこなった。何もしてないということはやればできる、と言う可能性を残すことだ。でも今回はやった。でもダメだった。それじゃあ希望はないじゃないか!」と言うような叫びを母親に訴えるシーンはぐっとくる。第2志望の部隊でも努力とは別にうまくいかない。挫折した軍人、という部分でも例えば「テキサスタワー乱射事件」などを思い出した。とにかくスペンサーを取り巻く未来が見えないため、どうしてもテロを止めるどころか主人公がテロを起こす未来が見えてしまうのだ。スペンサー・ストーンは軍人らしい巨漢といかにも白人といった白い肌が特徴。巨漢なので一見すると強面だが、よく見ると童顔で僕はレスラーのブロック・レスナーを思い出した。この巨大な身体に幼い顔が乗っているアンバランスさがまたこちらの不安を掻き立てる。この時点では彼らが英雄となる未来は見えない。

 ところがスペンサーの内面を描く描写はここで途絶える。中学、軍に続く第三幕はヨーロッパ旅行。ドイツ、イタリア、オランダと三人が本当に遊戯を深め楽しんでいる様が描かれる。ここは本当に楽しそうでカメラアングルもセルフィを使ったりしたものに。ここでは三人は演技というより素の自分を見せているのだろう。これまでのスペンサーの苦悩が嘘のようだ。

 そしてテロへ。実際の事件は乗務員が乗務員室に施錠して閉じこもった、という問題も起こしているが、その辺は描かれず、わりとあっさり巨漢の軍人であるスペンサーとアレクの二人がテロリストを取り押さえ、アンソニー(ともう一人三人とは別のイギリス人男性)がサポートする様子が描かれる。乗客が撃たれ、スペンサーもナイフで首を切られるが描写はあっさり。

 イーストウッドが描くのはテロでも事故でも何でも良かったのだろう。イーストウッドらしい骨太マッチョな描写だが、政治的にどうこうというよりは極限の緊急事態に人はどのように行動するのが正しいのか?ということを描いた作品という感じか。

 中学、軍でのスペンサーの挫折感がクライマックスでほとんど無関係(一応軍で習った応急処置が撃たれた乗客を助けるために生かされてはいる)だったりするのはやはりそれが実話だからなのだろう。主人公とテロの間には何の因縁もないだから。これが本人主演じゃなかったら脚色として過去とクライマックスにつながりをもたせると思う。僕は書いたように「本人が演じているとは知っててもこいつが銃乱射するんじゃないか」と思ったぐらいなのだが、そんな描写が許されるのも実話だから。実話の前には物語としてのつながりは通用しない。

THE 15:17 TO PARIS Trailer (2018)

 何度も言っているように一本の映画作品としてはかなり歪です。テロを描くものでもありません。ただその歪さ故にいわゆるノンフィクション映画ともまた違った緊張感、臨場感は味わえる代物かと。

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

  しかしイーストウッドは自身の出演作以外の監督作は基本ノンフィクションばっかりなんだね。

*1:管制塔の人は一部当事者

熊熊危機一髪 パディントン2

 2月ももう終わりで、相変わらずブログ更新をサボっていたわけですが、あれなんですね。はてなブログは更新が途絶えていると「そろそろ更新せえや」ってメール来るんですね。びっくり。というわけで新年は1日に前回の「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL」を観たきり全く劇場映画鑑賞をしていなくて、2月も半ばまではこれといった活動をしていませんでした。あまつさえ一時期文明と隔絶した生活を送っていたのでオリンピック他世間の話題から全く乗り遅れていたのでした。

 とはいえ2月後半からは遅れを取り戻すように観賞復活。人より大分遅れて観たのが今回の「パディントン2」で、これが最高に良かった!正真正銘年明け一発目ポール・キング監督作品「パディントン2」を観賞。ちなみに熊といえば赤カブト(銀牙)と片目のゴン(牙王)が真っ先に思いつきます。

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  • 物語

 ロンドンのウィンザー・ガーデンでブラウン一家の一員として幸せに暮らす熊のパディントン。その誠実な人柄でブラウン家だけでなく近所の人たちとも仲良くやっていた。ペルーにいるルーシーおばさんへの誕生日プレゼントを探していた時グルーバーさんのお店で飛びだす絵本を見つける。世界に一冊しかないロンドンの名所を紹介した特別な絵本。パディントンはこの絵本をおばさんのプレゼントに決めたが高価なためアルバイトに励むのだった。

 そんなある日、グルーバーさんの店に泥棒が入り絵本を盗む。その場に居合わせたパディントンは泥棒を追いかけるが逃げられてしまう。そして到着した警察はパディントンを犯人として捕まえてしまう。実は絵本には隠された秘密があって、それを狙った落ち目の俳優ブキャナンのしわざだったのだ。ブキャナンの嘘の証言もあってパディントンは刑務所へ。

 ブラウン一家はパディントンの無実を信じ、真相を見つけようとする。一方パディントンは無頼者揃いの刑務所でもいつもの誠実さで囚人たちに慕われていくのだった・・・

  前作はその年のベストテンに選んでいるけど、ちょうどブログの更新が途絶えがちになった時期でもあって独立した感想記事は書いていない。のでちょっとこちらで前作の補完も。

 この作品はイギリスの作家マイケル・ボンドの絵本。僕は映画が作られて初めて知ったのだが1958年に出版され、日本でも複数の出版社からシリーズが発売されている。作者のボンド(ジェームズ・ボンドとは無関係)は前作に特別出演していたが2017年の6月に91歳で亡くなった。本作はボンドに捧げられている。

 前作で面白かったのは、「喋る熊」というパディントンの特色をブラウン一家はじめ良い人達はそれを特別視しないこと。もちろんパディントンは熊なので、その点で怖がったりする部分もあるのだが、基本的にはあくまでパディントンの人柄で評価して受け入れているのだ。パディントンの「喋る」部分に興味を持つのはニコール・キッドマン演じるミリセント・クライド。父親の冒険家がルーシーとパストゥーゾ(パディントンの育ての親グマ)を友人として扱い、熊の居場所を明らかにしなかったため学会を追われた。ミリセントはその復讐を「喋る熊」パディントンを捕まえ剥製にして展示することではらそうとしている。登場人物で唯一パディントンの「喋る」部分に拘りながら、その喋る部分を一切生かせない剥製にしようと頑張るのが実に倒錯していてまた悪役としてよく出来ていた。厄介者のご近所カリーさんも「熊怖い」であっても喋る部分にはとくに恐怖を覚えていないというか。

 実はちょっと特殊な能力を持つ主人公が上京(便宜上の言い方)してそこに馴染み新しい家族を見つける、という物語は大デュマの「ダルタニャン物語」など定番で、僕は宮﨑駿の「魔女の宅急便」を連想した。あれも主人公が魔女であり箒に乗って空を飛べる、というのを主人公の特性として尊重はしているものの周りの人達は特に重要視すること無くあくまでキキの人柄をもって受けいれている。空飛ぶ能力を重要視するのはトンボだけで、トンボは悪役ではないが、そのゆえにキキを危機に巻き込む(駄洒落になってしまった)。 

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 今回は評価の高かった前作を受けてスタッフ/キャストがほぼ続投。順当に物語の規模がパワーアップした正統派の続編映画となった。

 前作ではパディントンがブラウン一家に受け入れられるまでを描いた物語だったが、今作はその辺はもう心配なし。逆にウィンザー・ガーデンの他の住人との交流が描かれる。ウィンザー・ガーデンには人種民族様々な人が暮らしていて、インド系の学者もいれば退役軍人もいる。ロンドンに例えばアメリカのニューヨークほど多人種が暮らす都市というイメージはないが、そこは古くから繁栄した国際都市で、ありとあらゆる人たちが暮らしている。つまりパディントンもそんな移民たちの一つに過ぎないのだ。人間じゃないキャラクターを移民として描くというのはそれこそスーパーマンから続く表現ですね。昨今はイギリスのEU離脱などもあり、ナショナリズムによって人々の心が狭くなって(これはイギリスばかりではなくアメリカでも日本でもその傾向が強くなっていて由々しき事態だ)来ているが、そんな風潮に警鐘を鳴らす作品でもあろう。というか別にそんな社会派作品として観なくても全然いいのだが、もっとおおらかになろうよ、という感じ。

 ブラウン一家は今回はもう完全にパディントンを一家の一員として受け入れていてそこが乱されることはない。パディントンの無実を晴らすための捜査の方針でヘンリー(かつてはワイルドだったが、結婚と子供の誕生を機に堅実になったリスク管理会社に務めるサラリーマン)とメアリーらが揉めたりするものの全員一丸となってパディントンの無実を晴らそうと動く。ジュディとジョナサンのこどもたちもしっかり成長している。メアリー役のサリー・ホーキンスゴジラパディントンと、この後に「シェイプ・オブ・ウォーター」で半魚人とも共演する今最も羨ましい女優(半魚人大好きです)。いわゆる美人というよりはチャーミングな感じ(前作の時点で超美人であるニコール・キッドマンとの対比もあったと思う)。人間ではパディントンの一番の理解者で今回も頑張ります。あれですね個人的に関谷真由さんに似ているとこも好感が持てます。

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 刑務所でもパディントンはその誠実な人柄とマーマレイドレシピのお陰で囚人や看守から慕われ、刑務所の待遇改善までしちゃうところはさすがハートフル・コメディいったところ。ガタイがでかいいかにも暴れん坊といった風体のキャラほど実は料理や家事が得意、みたいなのも定番ではありますな。

 そして悪役はヒュー・グラント。かつての売れっ子、今は落ち目の俳優で今回はその芝居で養った演技やメイキャップを駆使してパディントンやブラウン一家を翻弄する。セレブを装ってはいるが今はお金に困っているブキャナンは絵本の秘密を知っていて…

 ヒュー・グラントはわりとTHEイギリス俳優!というイメージ。それこそ金髪碧眼の美男子という定型的な白人俳優で他にイギリスの俳優として思いつくユアン・マクレガーなんかと比べてもイギリスらしさが全面に出ていると思う。その意味では多人種多民族だったウィンザー・ガーデンにあって支配層でもあるイギリス人のイメージ(故に逆に異物)なのかもしれない。そういえばウィンザー・ガーデンのブラウン一家などが住む家って多分建売というか同じ構造の戸建てが連続して並んでると思うんだけど、これ「死霊館エンフィールド事件」の舞台となった家と多分同じ構造なんだよね。もちろん色味から何からぜんぜん違うんだけど。

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 ブキャナンがメアリーを自宅に招いた時にブキャナンの若いころの写真が部屋中に飾ってある描写があって、これはブキャナンのナルシズムを笑うところなんだけど、ここで飾ってあるのはもちろんヒュー・グラント自身の若いころの写真。これが本当に美男子なんだよね。もともとロマンティック・コメディで人気を博した人で、この作品なんかもユーモラスな部分が強調されているけれど、若い頃は男も惚れそうな美男子で、そりゃこんなルックス生まれたらナルシストにもなりますわ(グラント自身がどうかは知らないが)。

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 今回は初回は日本語吹替で観賞。前作はパディントン松坂桃李、ヘンリーに古田新太、メアリーに斉藤由貴、ミリセントに木村佳乃といったいわゆるタレント吹替全開のキャスティング(僕はよく知らないのだけどジュディ役の三戸なつめも)。なので不安も不安で前作公開時は字幕版を選んだ。でも公開前の年末に1作目がTV放送されて、そこで初めて日本語吹替版を見た。そしてこれが実に良かったのですよ。なんといっても松坂桃李パディントンのとにかく丁寧で誠実な語り口がこちらによく伝わってくる。丁寧さではオリジナルのベン・ウィショーを上回るかもしれない。ご存知のように松坂桃李は「侍戦隊シンケンジャー」の主人公、志葉丈瑠としてドラマデビュー。スーパー戦隊はちょうどこの「シンケンジャー」からオールアフレコではなく、素顔での演技は同録となったものの、もちろん変身後やアクションシーンなどでアフレコするシーンもあっただろうし、そういうところで鍛えられたのでしょう。他のキャストも良かったので、今回は日本語吹替と字幕両方を最初から観る気満々であったのです。

 前作のニコール・キッドマン木村佳乃に変わってヒュー・グラントには斎藤工斎藤工自身のアフレコ、声優としての技術がうまいかはよくわからないが、グラントの大げさな演技にはあっていた。声優だと森川智之に近い声質。もちろん実際のグラントとは歳が離れていて若い声なんだけど、何しろミュージカル的な部分もあるので今回のヒュー・グラントにはぴったりだったと思う(他の作品だったらどうかは分からないが)。

 残念だったのはサリー・ホーキンスのメアリーの声が斉藤由貴から変わっていることですね。なんかスキャンダルがあって降板したらしいのですが……とはいえ替わった石塚理恵さんも素晴らしかったです。

 作品は前作ではそれほど多くはなかったアクション面でも強化され、舞台が大きく広がったこともあって大満足。前作が良かった人なら問題なく楽しめるでしょう。倫理や表現の限界に挑むような作品で賛否両論になるのもいいけれど、とにかく丁寧に不特定多数が楽しめるように作られた作品も良いものです。

 今回唯一残念かな?と思った部分はカリーさんですね。前作でも近所の厄介さんとしてパディントンを毛嫌いしミリセントと組み、でもミリセントがパディントンを殺そう(剥製標本にしよう)とすると密かに(すぐバレるけど)ブラウン一家に情報を与える役柄で、一応善性が示されていたのだけれど、今回は一人自警団として住人にパディントンの危険性を説き回り最後まで良いキャラにはならなかったのは少し残念(ラストのブラウン家に集まる人達の中にもカリーさんはいなかったと思う)。別に完全に改心する必要はないんですよ。もし新作が作られたらまた厄介さんとして登場してくれて良いのです。でも根っからの悪い人でない部分は示してほしいかな。


PADDINGTON 2 - Official Film Trailer (International)

 とにかく丁寧に作られた誰でも楽しめる作品だと思います。

 ラストもハッピー!「カンフー・ヨガ」とかと最近こういうエンディングが心地よい。年取ったかな。

クマのパディントン

クマのパディントン

 

 

 

愛と平和とライダーの成長と 仮面ライダー平成ジェネレーションズFINALビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー

 2018年ももう1月が終わり。寒さに震えておりました。何より今年は元旦こそ劇場で映画を観たものの、そこから先まだ劇場へ行けていないのです。その元旦に観た映画は「仮面ライダー」最新作。仮面ライダー平成ジェネレーションズFINALビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー」タイトルが長い!の何回目かを観に行ったのでした。これは「MOVIE大戦MEGAMAX」以来の傑作ですぜ!

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  • 物語

 「エニグマ、起動!」

平行世界移動装置=エニグマを使った何者かの企みによって、

二つの世界が一つになろうとしていた。

一つは、仮面ライダービルドとして戦う桐生戦兔たちがいる世界。

もう一つは、仮面ライダーエグゼイドとして戦っていた、宝生永夢たちがいる世界だ。

この事件の黒幕は、ビルドの世界の東都政府の元・研究員だった最上魁星。

彼は二つの世界をドッキングさせることによって、

すべてを消滅させ、自らは「永遠の命」を手に入れようとしていたのだ。

人類に残された時間は、あとわずか。

地球最大の危機に、伝説の彼方に去ったはずの、あの戦士たちが立ち上がった・・・・・・。

ビルド、エグゼイド。そしてオーズ、フォーゼ、鎧武、ゴースト。

6人の仮面ライダーが、世界の消滅を阻止するため、いま力を合わせる――!!

  えー、張り切ってあらすじ書いたんですが、トラブルで消えてしまったので(同時に再び書く気力も消えた)、パンフレットのSTORYから引用しました。なのでかなり端折ったものとなっていますが、詳細は追々触れていきたいと思います。

 今年はまだスーパー戦隊の方の「VSシリーズ」が全然情報が上がってこず、もしかしたらないのかもしれませんが、代わりと言ってはなんだけどこちらのライダー映画が最高なのでぜひ観に行ってほしいです。

 この「平成ジェネレーションズ」は今回が2作目。系列的には「MOVIE大戦」の現行ライダーと前年のライダーのクロスオーバー作となる。ただそれ以外のライダーもがっつり関わってくるのが「MOVIE大戦」と違うところか。とはいえ平成と言う年号が来年で終了予定であることからこのシリーズはここで打ち止め。とはいえ新たなタイトルでまた作られることでしょう。

 「MOVIE大戦」シリーズは大きく3つのパートに分けて、前年のライダーの後日談エピソード、現行ライダーの新作エピソードを経て二人のライダーが共闘するMOVIE大戦パートに至るのが特徴だったが、それは「ゴースト&ドライブ」及びタイトルを「平成ジェネレーションズ」に変えた前作の「Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー」では踏襲されず一本のエピソードとして描かれました。今回も基本的には一本の長いエピソードではあるのですが、何しろテーマがパラレルワールドであり、終盤までビルドとエグゼイドが直接交わることがないこともあって二分割でこそないけれど、二つの世界のエピソードをちょくちょくザッピングしながら楽しむと言う感じでしょうか。

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 これまで何回か書いたと思うのですが、スーパー戦隊の「VSシリーズ」が割りと一定のクオリティを保っているのに比べると仮面ライダーのクロスオーバー作品は出来不出来が激しいです。より低年齢向けのスーパー戦隊のほうが多少の矛盾を物ともせず力づくで押し通せる勢いの良さがあると言う部分もあるのですが、仮面ライダーのそれも春映画は色々中途半端なものが多いです。

 一応これまでの平成仮面ライダー第2期(仮面ライダーW以降)は同じ世界観の物語といってよくその世界を貫く存在が財団Xでした。なので前作エグゼイドまでは多少の矛盾はあれど同じ世界の物語といってよいでしょう。しかしビルドは違います。10年前に火星から持ち帰ったパンドラボックスによって日本は北都、東都、西都の3つの国家に分裂し覇を競っている、という完全に新しい世界です。なのでどうしてもクロスオーバーさせるなら平行世界を移動ということになります。仮面ライダーの平行世界物ではなんといっても個人的にワーストでもある「仮面ライダーディケイド」が真っ先に浮かんでくるため、不安だったのですが幸いエグゼイド以前を一つの世界、そしてビルドの世界と二つに絞ったため、パラレルワールドテーマの作品としてもこれまでのライダー映画では最良のものとなりました。

 今回脚本は「エグゼイド」と「ビルド」のそれぞれのTVシリーズのメインライター高橋悠也と武藤将吾が共同で担当。まず片方が脚本を書き、それをもう一方が自分の担当したライダーの描写を修正しつつ第二案を書き、それを受け取ったらもう一回自分のライダーの描写を修正しながら書き、とキャッチボールしながら書いたそう。お陰で両ライダーのエピソードとしてもこれまでのTVシリーズの補完としても優れたものとなっています(ちょっと矛盾はあるかも)。

仮面ライダーエグゼイド」は実は平成ライダー2期の中で最もノれなかった作品で、そのせいで前作は劇場では見逃してしまいました。後半になってクロノスが現れたり、檀黎斗が檀黎斗神になったり、九条貴利矢が復活したあたりからハマった感じ。なので「エグゼイド」関連の映画は観ていなかったりしたのですが、物語は「トゥルーエンディング」(レンタルで見ました)からつながっています。映画のラストに突然現れてエグゼイドのパワーをボトルに吸収するビルドの描写がそれ。今回の映画はそこから始まります。戦兔は身に覚えのないその行為を葛城がビルドとして行ったもの、と推理(最も「トゥルーエンディング」でのビルドの口質、口調は明らかに戦兔ノそれなのだが)。これらはのちにTVシリーズの方で戦兔が顔を変えられ記憶を失った葛城巧その人、と判明したことで見事につながります。

 なので永夢自身は終盤まで変身しません。そこで他のゲーマドライバーたちのチームとしての活躍が光ります。ブレイブ、スナイプ、レーザーはもちろん、ゲンムまで。ただ個人的に一番好きなシーンは病院でカメラがワンショットで階段から降りていき、エグゼイドチームが毛布や水をやりとりしながら永夢とタケル(ゴースト)の元まで辿り着くシーンが妙に格好良くて変身後のシーンよりも好きです。

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 勢揃いした平成ライダー。オーズだけオフロードタイプのバイクじゃないためジャンプしたりしないです。オーズのライドベンダーは量産型(オーズ、バースはもちろん鴻上ファウンデーションの他の隊員なんかも使用していた)ので後半でオーズ専用機登場するかと思ったけど結局フォームチェンジはあれど最後までライドベンダー一体だけでしたね。最近は仮面ライダーのオートバイの描写が薄い気はするなあ。

 今回僕が観に行った大きな理由は二つ。ひとつは現行ライダーの「仮面ライダービルド」が面白いこと。そしてもうひとつは仮面ライダーオーズ仮面ライダーフォーゼがレジェンドライダーとしてしかも渡部秀三浦涼介福士蒼汰がちゃんと顔出しで出演すること。なんといっても特に「仮面ライダーW」「オーズ」「フォーゼ」の3作品は僕が最も好きな平成仮面ライダー。現在「W」も漫画「風都探偵」で続編展開中です!

風都探偵(1): ビッグ コミックス

風都探偵(1): ビッグ コミックス

 
風都探偵(2): ビッグ コミックス

風都探偵(2): ビッグ コミックス

 

 「仮面ライダーオーズ」からは火野映司とアンクが登場。ちゃんと「MOVIE大戦MEGAMAX」でのアンクとの別れと約束を踏まえた展開でその復活と再びの別れは涙なしでは見れません。多分映画史上最も感動的で美しくそしてエロチックにアイスキャンデーを舐めるシーンがある映画だと思う。アンクはその魂とでもいえる鷹のコアメダルを割れた状態で映司が所持しているわけですが、今回は財団Xの科学者でもあるエグゼイドの世界の最上魁星が用意した人造のコアメダルから生まれた偽アンクの身体を依代として一時的に復活した、という設定の模様。割れたコアメダル自体は修復しないので結局また消えることになるのですが、未来への希望は残した展開。

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 そしてフォーゼ!こちらは新米教師としての如月弦太朗を見ることが出来ます。新米教師といえば「MOVIE大戦アルティメイタム」。この作品では(公開時から見て)5年後の世界で教師として、新・天ノ川学園高校に在籍していましたが、今回はあの映画から5年ということで、その直前の出来事。セリフで城島ユウキの乗ったスペースシャトル打ち上げとそのサポート役としてロシアに行った歌星賢吾のことが語られます。

 フォーゼは主演の福士蒼汰の活躍こそ目覚ましいものの、仮面ライダー部はじめ一部の出演者には割りと不幸といっていい出来事が続いています。歌星賢吾役の高橋龍輝は引退。ほのかりんは未成年飲酒などで事務所解雇。第一話で賢吾にラブレターを渡す生徒役で出演した冨田真由はストーカー事件の被害者となりました。そして城島ユウキ役の清水富美加は突然「幸福の科学」へ出家すると行って全てをうっちゃってしまいました。今回エンドクレジットではそれぞれの作品のTVの時のダイジェストともいえるスナップが出てくるのですが、「フォーゼ」のところは慎重に清水富美加が写っているカットを排除していたなあ。とにかく僕は「フォーゼ」が好きすぎるので出てたキャストは全員幸せになってほしいと願ってやみません。f:id:susahadeth52623:20180114034426j:image

 弦ちゃんは「アルティメイタム」でフォーゼドライバーを廃棄するのですが、今回はその直前それでも多分久々のフォーゼとしての活動といったところなのでしょうか。決して出番は多くないですが紛れも無い弦ちゃんの活躍が見れます。仮面ライダー部からはJkと大杉先生が登場。

 他は仮面ライダーゴーストと鎧武が登場。ゴーストは「平成ジェネレーションズ」前作でエグゼイド「と共演済みなので割りとエグゼイドのブレイブたちとともに行動。タケル殿は多分年齢的には今回一番年下でやっと大学に受かった一年生といったところ。ライダーとしてはエグゼイドやビルドより先輩ですが立場上永夢には敬語になりますね。この映画の一番の笑いどころは御成と檀黎斗神の仏と神の会話です。

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この後姿は御成でした。

 神といえば鎧武ですが、鎧武の世界自体はおそらくWからエグゼイドにつながる世界ですが、彼はなんといっても神様なので一人ビルドの世界へ現れます。多分今後シリーズが続く上でビルドのような明らかにこれまでと違う世界観の作品も出てくると思うのですが、そこでそれらをつなぐ役割をするのが鎧武なのではないかと思います。

 先ほどタケル殿が一番若い、と書きましたが、じゃあ仮面ライダーとして一番後輩は誰なのかというとそれは仮面ライダークローズである万丈龍我ということになります。エグゼイドはすでに一年戦ってきましたし、戦兔も番組が開始した時点ですでにビルドとして活動履歴が半年~一年ありそうです。また本人は覚えていませんが葛城としてのビルドの経験もあります。また戦兔はあの性格なのでパラドやエグゼイド、他のライダーに対しても特に後輩ぶりません。

 しかし万丈は番組も開始してから、映画公開の直前(この映画は14話直後ぐらいだたと思われます)仮面ライダークローズとなりました。まだまだ新米ライダー。当初は恋人の敵と自分にかけられた殺人容疑を晴らすためという個人的な動機が中心で、この映画を通して先輩ライダーと接することで仮面ライダーとしての自覚と責任に目覚めることとなります。両方の世界で物語は彼の視点となることが多いようです(最近また暴走気味ですが)。

 今回の敵はパラレルワールドの両方に存在する二人の最上魁星。それぞれ性格は違いますが、この二人の同一人物がそれぞれエニグマを作り合体させることで世界の破滅と不死身のバイカイザーとなることが目的。性格の異なる二人の最上魁星を大槻ケンヂが演じています。

 ラストは北都のあらたなるライダー仮面ライダーグリスが登場してTVに続く形をとって終わり。この映画ではクレジットは「???」ですがTVの方では絶賛活躍中で演じているのは「仮面ライダーキバ」の紅音也こと武田航平武田航平こと紅音也は「キバ」の中ではイクサ、ダークキバなどに変身しましたが、これらは全部他の登場人物も変身しているので今回始めて武田航平オリジナルのライダーということになります。ちなみに息子の紅渡は月曜日に女装してドレス作ったり、かまどの火と一緒に料理したりしてます。


『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』予告篇

 さて、本作の監督は「仮面ライダーゴースト」のオリジナルビデオを監督し、「エグゼイド」のTVシリーズを手がけた上堀内佳寿也。劇場用映画作品としてはこれが初監督作品となります。最初長い名前過ぎて「上堀・内佳・寿也」かと思った。今回は脚本がよく出来ていたことこもありますが、絵作りも素晴らしく(先述したエグゼイドチームの病院のシーンなどセンスが光る)、坂本浩一監督と並んで今後特撮ヒーロー系では注目したいです。

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 とにかく面白いから観て!

新年のご挨拶

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あけまして

おめでとう

ございます

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というわけで、今年は戌年。僕はというと新年早々体調を壊してしまい幸先の良くないスタートです。元日恒例の劇場初めは「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINALビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー」を観賞。もう何度目ですかね。毎度アンクと映司に涙してしまう。多分映画史上最もエロく美しく、そして感動的にアイスキャンデーを舐めるシーンがある映画です。本当はもう一本ぐらいはしごしようと思ったんだけど、あまりに体調が悪いので断念して帰宅。今日はもう「風雲児たち」と「相棒」を見て休もうと思います。

さて犬というと「銀牙 流れ星銀」くらいしか思いつかなかったのですが、そういやアイツがいたよダルメシマン!

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ギャー!!

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ギャー!!

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スクービードゥーも怯えてしまいました。

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今年もよろしくお願いします!