The Spirit in the Bottle

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悪魔が紡ぐ世界 アナベル 死霊人形の誕生

 その昔から人を象ったものには魂が入りやすい等と言われていて、人形は単に愛玩道具としてだけでなく死んだ人の身代わりとなる、なんて例も多い。日本の髪の伸びる日本人形から映画「チャイルド・プレイ」シリーズのチャッキーまで人形を扱った心霊ホラーもたくさんある。今回はそんなホラー映画の一つ。「死霊館」シリーズ第4弾、外伝的ストーリーとして人気も博した「アナベル」の第2弾「アナベル 死霊人形の誕生」を観賞。

f:id:susahadeth52623:20171024071919j:image物語

 1945年、カリフォルニア州で人形工房を営むマリンズは妻と一人娘と慎ましく暮らしている。しかし教会からの帰り道娘のアナベルは交通事故で帰らぬ身となってしまう。

 1957年、孤児の少女たちがシスター・シャーロットに率いられマリンズ邸にやってくる。孤児院が閉鎖されたことで新たな行き先を探していたところマリンズが屋敷の提供を申し出たという。寝たきりだというマリンズの妻の部屋などいくつ入ってはいけない部屋以外は自由に使って良いと言われ興奮する少女たち。しかしポリオによって足が不自由なジャニスは屋敷に住む不穏な存在を感じ取る。

 夜中、ジャニスは入ってはいけないと言われた部屋の鍵が開いていることに気づく。何かに誘われるようにその部屋に入ったジャニスはそこで謎の人形と出会う……

 原題は「ANNABELLE CREATION」で「アナベル 死霊人形の誕生」はほぼ原題のままといってよいかと思う。「CREATION」には「創造」というような意味もあるがこれは単に人形を誰が作ったか、というのとそれが何故悪魔の取り憑いた死霊人形となったか、という2つの意味があるのであろう。前作の感想記事はこちら。

susahadeth52623.hatenablog.com

  もともとこのシリーズは実在する心霊研究家ウォーレン夫妻の彼らが体験した出来事に基づく物語。それが本当に超常現象だったかどうかはともかく、基本的には実際に起きた出来事に基づいている*1アナベル人形も実在し、「死霊館」冒頭で描かれる事件は現実に起きたものを元にしている。ただ、「死霊館」本編で物語に関わってくることは殆ど無く、基本的にはウォーレン夫妻の家に設置された心霊博物館に陳列されているにとどまる。メインの心霊事件に共鳴したかのような描写もあるが、あくまでも映画を彩るワンポイントに過ぎない。ただそのインパクトは強烈でメインでないにも関わらずいくつかあるポスターの一つを飾っていたし、自身の主演作を経た「死霊館」続編ではより存在感を増していた。

 ウォーレン夫妻を主人公とした「死霊館」シリーズは第3弾も予定していて(長期シリーズ化が可能なぐらいウォーレン夫妻がこれまで関わって収集したオカルト事件は興味深いエピソードが満載だそうだ)、そこでは実在した事件がモデルとなるのであろうが、本作自体はオリジナル。「死霊館」冒頭のエピソードそのものは実在のものだが、それ以前のアナベル人形については不明で、前作や本作のエピソードはもしかしたらまた別の事件が参考にされていたりするのかもしれないが基本的にはオリジナルだろう。このウォーレン夫妻が実際に携わった事件、とオリジナルの外伝という二本柱でこのシリーズは成り立っている。

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 前作は1969年が舞台(「死霊館」では冒頭のアナベル事件(アナベル1作目→「死霊館」冒頭の順)が1968年になっているので矛盾が生じる)だったが、今回はそこから更に12年遡る1957年がメインとなる。オープニングはそこから更に12年さかのぼって1945年、人形師の娘アナベルの不慮の事故が序章となる。これらの年代は過去のシリーズと12年前という説明から判断し、後でパンフレットで確認。観てる時は正直いつなのかわかりにくかった(田舎の一軒家が舞台なので服装などの風俗からの判断も難しかった)。

 本作はとにかく構成が見事で、本作単品でも面白いのだが、この続編によって前作を輝かせる。前作は普通に面白かったけれど、特に傑出した出来とは思わなかったが、本作を観た後前作を見なおせば新たな発見があり、また評価も変わってくるのではないかと思う。

 前作は若い夫婦の特に妻のほうが主人公だったが(余談だが、この主婦をアナベル・ウォーリスが演じていてアナベルアナベルであった。あとこのアナベル・ウォーリス、トム・クルーズの「ザ・マミー」のヒロインだったんだけど全然気づかなかった)、「死霊館」2作や本作では年端もいかぬ少女がオカルト現象の中心となる。で、最初に二人の少女が登場した時、主人公となるのは目鼻立ちがくりっとしたこれまでの少女たちジョーイ・キングやマディソン・ウルフを連想させるリンダという少女がメインだと思ったら、ジェニファー・ローレンスに似た、正直ちょっと地味(ただし気は強そう)なジャニスの方が中心となる。ジャニスとリンダは大の親友で、一緒に引き取られなければ養子を断ろうというぐらいの仲なのだが、他の4人の孤児(二人は年長でもう二人は同年代)とは少し距離を置いている。さらにジャニスはポリオによって足が不自由なためさらに孤独を募らせていく。悪霊はそういう孤独につけ込むのだ。

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 アナベルに取り憑いた者が亡くなった少女の霊などではなく、悪魔そのものであるというのはもう「死霊館」冒頭で示され、前作「アナベル 死霊館の人形」でも提示されていたのだが、それでも本作でまたもや亡くなったマリンズの娘アナベルが憑いたと錯覚させる。実際にはやはり悪魔がアナベルの名を騙り人形に憑依する許可をマリンズ夫妻に求め、娘が帰ってくるのならとそれを許可したがその途端悪霊の本領を発揮したため封印した、という経緯を持つ。

  ホラー映画としてみた時に、見事なのは実はアナベル人形そのものが直接動くことは殆ど無い。なんなら悪魔が黒子のごとく持っている描写はあっても直接誰かを攻撃する描写はないのだ。にも関わらず、まるで人形そのものが生きているような後味を覚える。

 そしてジャニスが悪魔に魅入られ、主人公がジャニスからリンダに交替。この交代劇も見事なのだが、さらに見事なのはジャニスのその後。姿を消したジャニスは別の孤児院でアナベルを名乗りヒギンズという夫妻に引き取られ育てられる。12年後成長したアナベルカルト教団に入信し、恋人共に養父母を殺害。発見された時腕には隣の家から盗んだアンティークの人形を抱えていた……果たして人形とジャニスが同じ場所に集ったことで起きた悲劇なのか、それともそんなものと関係なく事件は起きる運命だったのか。そもそも人形とジャニスが12年の時を経て集ったのは本当に偶然だったのか?

 こうして物語は前作につながる。この構成には思わず歓声を上げそうになった。小野不由美の「残穢」の岡谷マンションの歴史がひとつにつながった時に感じた興奮に似た何か。本編も面白かったが、このラストでホラー的な興奮と言うよりは歴史物を見ているような知的興奮を味わった。

 この映画にはもうひとつ仕掛けが合って、劇中でシスター・シャーロットがスペインの修道院を訪れた時に撮った記念写真をマリンズが見るシーンがある。そこにはシスター・シャーロットとスペインの修道尼のほか尼の格好をした別の何かも写っていて、マリンズはシスターに尋ねるがシスターは知らないと答える。この謎の尼僧こそ「エンフィールド事件」で出てきた悪魔ヴァラクである。こうして「死霊館」と「アナベル」すべての事件がつながった。実は「死霊館」シリーズのスピンオフ第2弾としてこのヴァラクに焦点をあてた作品「The Nun(尼僧)」が予定されている。おそらく50年代のスペインを舞台にした物語となるのだろうか(さらに「エンフィールド事件」で登場した「ねじれた男」を主人公とした映画も予定されているそうです)。


official Trailer of Annabelle: Creation (2017)

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  で、本物のアナベル人形である。過去にも「死霊館」や前作の記事で紹介したように実際のアナベル人形は映画に出てくるような木製のアンティーク人形ではなく、布製の抱き人形。これは「ラガディ・アン」というアメリカでは1915年から現在も発売されている人形とその人形を主人公とした絵本でアメリカはもちろん日本でも強い人気を誇るのだそう。

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 このラガディ・アン自体は全くオカルト要素はないのだが、「死霊館」「アナベル」を通した目で見るとその「誕生のエピソード」がなかなかホラーとして読めないこともない。実家の屋根裏で発見したボロボロの人形を直したのが元だとか、それで遊んでいた娘が13歳で亡くなってしまうとか。

 ラガディ・アン&アンディ - Wikipedia

  「死霊館」&「アナベル」グッズとしてちょっと欲しい。

 自分でも驚くぐらい、このシリーズ好きみたいです。

*1:何度も言っているように僕はフィクションの題材としては心霊含めた超常現象は大好きだけど実在のもととしては全く信じていません