The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

旅半ばにして再び始まる… スター・トレック BEYOND

 さあお待ちかね。僕の一番好きなSFシリーズ、「スタートレック」の最新作!1966年のTVシリーズから続く壮大なシリーズを、でも新規ファンのために新しく作りなおしたその第3弾。でも一応シリーズとしても物語としても過去のシリーズときちんとリンクしていて、知らなくても楽しめるけど、古くからのファンにはもっと楽しめる、というある意味理想的な作品。前2作は序章とでもいうべきか、USSエンタープライズ号が5年間の深宇宙探査飛行に出る(つまりTVシリーズの本編)に至るまでを描いた話なのに対して、本作はやっと本編開始とも言えます。大体長く続くシリーズ(特に3部作とか決めてないもの)だと3作目ぐらいでやっとフォーマットが固まって以降の良くも悪くも定形が出来上がるのだよ。というわけで「スター・トレック BEYOND」を観賞。

物語

 23世紀、USSエンタープライズ号の人類初となる5年間の探査飛行も3年目を迎えた。惑星連邦領域辺境の宇宙ステーションヨークタウンに立ち寄ったクルー一行は一時の休息を取る。艦長ジェームズ・T・カークはヨークタウンの副提督となる異動願いを出していて、自らの任務に揺らぎを感じていた。一方スポックのもとには未来からやってきた自分〜スポック・プライムの死の知らせが届く。
 まだ知られぬ異星人の乗る救命ポッドがヨークタウンに流れ付き救出され、乗っていた女性のいうことにはまだ未知である星雲の向こうで挫傷し、そこにいるであろう仲間たちを助けて欲しいとのこと。エンタープライズがその任務につく。
 目的地と思われる惑星アルタミッドに辿り着いたエンタープライズ。しかしそこに無数の小型宇宙船が現れエンタープライズは襲撃される。乗り込んできた異星人の目的はどうやらエンタープライズに積んであった古代の兵器らしい。応戦虚しくエンタープライズは破壊され、墜落を余儀なくされる。救命ポッドで脱出するクルーたち。カークたちは無事脱出できるのか?そしてエンタープライズを襲った異星人の真の狙いは?

 前作の感想はこちら。

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 シリーズ全体の解説は前回結構な文量書いたので今回はできるだけ本作に絞って感想を。前作は2013年の自分のランキングでは実写映画一位でした(総合一位は「パラノーマン」)。新作のバックに広がる過去の作品からの引用やオマージュ、設定を活かした上で、でも知らなき人でも楽しめるという作品で、何度も言っているけれど、これはスポックたちが未来(24世紀)から過去(カーク生誕時点)にタイムトラベルしてきた事によって生まれた新たなタイムライン(スタッフやファンの間では遭遇したカークの父が乗っていた船の名前からケルヴィンタイムラインと呼ばれているらしい)で、パラレルワールドになっているものの、過去のシリーズともきちんと地続きなのです。この辺は「X-MEN」の1〜3作目とFCの関係とも似ているかな。もちろん知らなくても問題はないです。
 で、今回使用したポスターは映画1作目「スタートレック ザ・モーション・ピクチャー」(TMP)を意識したこちらを。今回もこのポスターにかぎらず過去作のオマージュ、引用、設定の再活用はたくさん出てきます。

 前2作はTVシリーズであるTOSの放送前にあたるいわば前日譚。本作はTVシリーズそのものの時代の出来事になります。
 前2作のJ・J・エイブラムスが製作に周り、監督は「ワイルド・スピード」シリーズのジャスティン・リンに交代。アクション映画を多く手がけた監督に変わったことで本作もよりアクションシーンが際立つ作品となった。元々このスタートレックの劇場版シリーズはTVでは無理だったSFXやアクションを!と言う期待と、でもTVの描写から離れすぎても変、というジレンマがあったのだが、ケルヴィンタイムラインになったことでその辺のジレンマは解消。宇宙での艦船による戦闘シーンでも、生身のアクションでも過去のシリーズとは段違いにテンポ良くなっていて、ある意味これが一番新シリーズの特徴ともいえるかも。
 リンは自身が熱心なトレッキーだそうで、その辺はエイブラムスとは異なるところ。トレッキーの脚本家が溢れる思いを脚本に込め、それをそれほどファンでもない監督が一般ウケするように演出する、というのがこの手の作品の妙ともいえる部分なのだが、さて、本作ではどうだったか。脚本はスコッティでもあるサイモン・ペッグが手がけていて、「宇宙人ポール」などでもスタトレ愛は炸裂していたが、その割にはまあ自分の出番も控えめであったかなあ(もちろん旧シリーズに比べると元からスコッティの出番は多い)。
 エンタープライズの惑星への不時着シーンは映画の「ジェネレーションズ」、設定的には「スタートレックエンタープライズ」とのつながりが強く、ラストには「スタートレックⅥ 未知への世界」とつながる。

 カークは前2作ほど血気盛んな若者という印象は薄くなり、よくも悪くも成長して落ち着きを増した頼れる艦長という感じに。今回は長きに渡る宇宙での艦長任務に疲れ地上勤務を願い出たりするのだが、これは「ジェネレーションズ」でカークがピカードにいう「どんな昇進の誘いがあろうと艦長の椅子から離れるな」というやりとりとの対比だろう。実は劇場版の「TMP」以降のカークって正確にはエンタープライズの艦長ではなく旗艦として乗船している提督なんだよね(艦長はスポックだったりする)。でTMPでも自分で指揮しないと気に食わなかったり上昇志向の強いカークだけど、その一方で宇宙船の艦長という立場にこだわっているのもカークなのだ。この手の艦長でいるか更に上の提督を目指すか、という話は後のTNGなどでも出てきて、ピカード自身はその時々に応じたやりがいがある、と艦長に椅子にこだわらない立場を示しながら、他の同年齢の士官が出世する中、現場主義を貫いたりして面白い。なので、ここでのカークの悩みが一時的な気の迷い、本当に宇宙ステーションの副司令官になったりしたら死ぬほど後悔するぞ!というのはファンならすぐ分かる。
 途中で、カークとチェコフ、スポックとマッコイ、ウフーラとスールー(&その他のクルー)、スコッティと新キャラクターであるジェイラと別れて物語が進むのだが、このなかでもスポックとマッコイのコンビがオススメ。元々TOSの会話劇としての特徴は熱情的な地球人であるマッコイと冷静なヴァルカン人(地球人とのハーフ)であるスポックが言い争ってその中間にカークが位置するのが基本だったのだが、これまでまだそこまでマッコイとスポックの会話は多くなかった。今回はこの二人がコンビとして組まされたことで、二人の会話とそれに拠る個性の違いも際立った。相反する性格の者同士が険しい自然を乗り越えていく様子は「ディープ・スペース・ナイン」の107話、フェレンギ人クワークと真面目な警備主任オドーが二人で苦労する「あの頂きを目指せ」を連想したりした。


 敵となるクラールは実は元は宇宙艦隊の人間で、連邦設立前、地球がズィンディやロミュランと争っていた頃に活躍した軍人であったが、惑星連邦が成立して以降、軍人という立場ではない宇宙艦隊士官としての立場に不満を持っていたところで未知の惑星で不時着したため連邦に恨みを募らせた人物。2009年の「スター・トレック」では未来から、「スタートレック イントゥ・ダークネス」ではカーンと言う過去から敵がやってきたが、本作も前作に引き続き過去から現れた敵ということになる。この時のロミュランはスタートレック世界では比較的有名な宇宙人*1だがズィンディは本作の約100年前を描いた「スタートレック エンタープライズ」で出てきたエイリアン。一つの惑星に複数の知的生命体が存在していてその連合体である。これらのロミュラン戦争やズィンディ騒乱を乗り越えて2161年に惑星連邦が成立するのである。前作でもマーカス提督がクリンゴンと間に戦争を起こして宇宙艦隊を軍隊にしようと企てていたが、そこでも分かる通り宇宙艦隊は純軍事的な存在ではない。防衛だけでなく多種族との外交、宇宙の探査、研究なども重要な使命だ。クラールは元は軍人だったがそこから軍人でない立場になったことで不満を募らせたパターンで前作のマーカス提督の裏表といったところ。
 クラールは他の生物の生命エネルギーを吸収することで長生きし容姿を変化させていたという設定なので幾つか姿形があるのだが、どれも個人的にはいまいち。典型的なハリウッドの爬虫類型人間の造形という感じ。演じているのはイドリス・エルバだが、かなり後半になるまでそうとは気づかない。ちょっともったいない感じ。前作のクリンゴンもそうだが、宇宙人の造形にかけては旧シリーズの方が独創性に富んでいたとは思う。
 新キャラジェイラは「キングスマン」で義足の女殺し屋ガゼルを演じていたソフィア・ブテラ。こちらも全面真っ白なメイクで彼女だとは気づかないぐらいだったけれど、一人でサバイバルしながら生きてきた、ちょっと変な感じが伝わってきて良かったです。今後レギュラーキャラクターになるんだろうか?彼女の提案から始まった音楽を大音量でかけて敵の連携をぶち壊すシーンはちょっと「マクロス」シリーズ」っぽくても面白かった。

ヒカル・スールー

 公開前にいろいろ話題になっていた要素の一つにスールーが同性愛者として描かれる、というものがあった。ヒカル・スールーは人気キャラクターで「スールー艦長率いるエクセルシオールの冒険を描いたTVシリーズを作ろう」署名運動などもあったほど。オリジナルシリーズでスールーを演じたジョージ・タケイはアメリカの俳優の中でも早く同性愛者としてカミングアウトした人物で、かつ、第二次世界大戦中には日系人収容所に入れられた過去も持つことからアジア系の社会的地位の向上を訴えてきた人でもある。そんなジョージ・タケイへのリスペクトを込めての設定なのかもしれないけれど、ジョージ・タケイ自身はこの改変に否定的なコメントをした。もちろん作品中に同性愛者を出すな、ということではなくて、出すなら新しい登場人物として出せばよいのであって、違う設定だったキャラを無理やり同性愛者にするのはいかがなものか。というのがタケイの主張だろう。僕も半分ぐらいはこの意見に近くて、スタートレックに同性愛のキャラを出すのは全然いい、いやこの作品のコンセプトからしたらむしろレギュラーキャラクターでいないのはおかしいくらいだ、とも思う。ただ一方ですでに確立されたキャラの設定を変えるのではなくて、出すなら新しいキャラにするべき。ちなみにタケイはジーン・ロッデンベリーの設定に忠実で、日本ではTV放送された時の吹替版からスールーはミスターカトウとしても知られているのだが、本人はこの名前には不満だそうだ。スールーはフィリピンのスールー海に由来し、設定もフィリピンと日本をルーツに持つアメリカ生まれ。これをカトウだけにして日本人(日系人)の部分だけ強調するのはロッデンベリーの趣旨に合わない。だからもちろんこの改変に否定的なタケイの意見もロッデンベリーの設定に忠実に行こうよ、というだけなのだと思う。

 ただ、出てきた描写はヨークタウンで待っている娘と同世代の若い東洋系男性というだけでにとどまり特に細かく説明されるわけではない。言われなければ、この男性とスールーが恋人だとも思わない人も多いのではないだろうか。どうなんでしょう?今後シリーズが続くとより詳細に描かれたりするんだろうか?ちなみにこのスールーの娘さん、おそらく名前はデモラ・スールーで、後にエンタープライズBのクルーとなります(ジェネレーションズ)。

 この作品は二人の人物に捧げられていて、一人は交通事故で亡くなったアントン・イェルチン。そしてもう一人はオリジナルのタイムラインからやってきたスポックであるレナード・ニモイ。カークが自分の進むべき道を見失って地上勤務を望んだように、スポックもこのスポック・プライムの死を知ってニューヴァルカンでの彼の仕事を引き継ごうと揺れることとなる。彼の遺品の中にはエンタープライズAのクルーの集合写真があり、それは映画「スタートレックⅥ未知の世界」時のもの。ニモイのスポック以外でもきちんとウィリアム・シャトナーはじめ、オリジナルのクルーがケルヴィンタイムラインに登場したことに。

 本作はTVシリーズで言うところの第3シーズン、あるいは打ち切られなかったら続いていたかも知れない第4シーズンにあたるエピソードなのだが、オリジナルより早くエンタープライズが失われ、ラストは同じ名前を受け継ぐUSSエンタープライズAが建造されているシーンで終わる。ここからはTOSでは描かれることのなかったTOSとTMPの間をつなぐ物語となるだろう。すでに続編の企画は上がっていて、クリス・ヘムズワースのカークの父が再登場するらしい。ヘムズワースはMCU主演俳優では当時無名に近くて、この2009年の「スター・トレック」で父カークを演じて注目されたということなので今だともっと出番も多くなるか?
 アントン・イェルチンが亡くなったことでチェコフがどうなるのだろうか。役自体いなくなるのか、別の役者に変わるのか。
 後はTVシリーズのほうが23世紀の宇宙艦隊アカデミーを舞台にナンバーワン(TOSパイロット版でメイジェル・バレットが演じた女性副長)をメイン主人公とした新シリーズが待機していると言われています(どっちのタイムラインなのかは不明)。50週年を迎えて、スタートレック宇宙はまだだ広がるぜ!
Engage!
レナード・ニモイアントン・イェルチンのご冥福を祈ります。

LIVE LONG AND PROSPER

Space...the final frontier.
These are the voyages of the Starship Enterprise.
Its five-year mission : to explore new worlds,
to seek out new life and new civilization,
to boldly go where no man has gone before...
 

宇宙――それは人類に残された最後の開拓地である。
そこには人類の想像を絶する新しい文明、
新しい生命が待ち受けているに違いない。
これは、人類最初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った
宇宙船U.S.S.エンタープライズ号の脅威に満ちた物語である。

ラストはクルー全員がそれぞれこの有名なナレーションを一節ずつ語りかける。まだ冒険は始まったばかりだ。

*1:バルカン人とルーツを同じくする宇宙人で22世紀に地球と戦争状態になった