スター・トレック イントゥ・ダークネス Take us Out!
「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の二回目を吹替版で観賞。それでさらに気付いた点や他にもいろいろ思うところもあったので少々。
僕は最初の感想などで「知らない人でも楽しめる」と書いたがその後、他の人の感想を見ているとやはり「シリーズ観てないから結構辛い」というような意見を見かけた。僕の意見はあくまでシリーズの大半を見ている*1人間のものなので完全に初めてという人の心境は分からないけれど、まあ前作ぐらいは見て臨んでほしいな、とは思う所。
そしてJ.J.エイブラムスが事前に次の「スターウォーズ」の監督(制作のみ?)を手がける、という情報が出回ったことで、本作をJJ版「スターウォーズ」の試金石、実験作として見る人が意外と多いんだな、ということ。僕もまあ例えば「モンスターズ」の監督なんかを「次のハリウッド版ゴジラの監督がどんなもんか見てやろう」という気持ちで鑑賞したりしたので人のことは言えないのだが、個人的にスターウォーズの方がスタートレックより上、と見られているようでいい気分ではない。何より今回確かに主にアクション方面で娯楽性は増しているし、クロノスでのドッグファイトなどスターウォーズを連想させるシーンもあるのだけれど同じ宇宙を舞台にし「スター」の冠がついていてもスタートレックとスターウォーズは本質的にまったく別の物語である。まあ日本のみならず世界的にもその辺ごっちゃにしている人は多いんだろうけど。映画版ではどうしてもアクションも増えるし話の規模も大きくなるがスタートレックは時には社会的なテーマも扱い、TOSの場合カーク、スポック、マッコイの3人を基本とした会話劇である。
後はスポックのキャラクターで最後のサンフランシスコでのカーンとのアクションに違和感を持つ人も多かったようだ。スポックはTOSの頃から「艦長、それは非論理的です(眉毛クイっ)」というキャラクターであるが本質は感情を論理で(バルカン哲学IDIC)で抑え込んでいる実はカークやマッコイ以上に感情豊かな人物である。スポックは純粋なバルカン人以上にバルカン人であろうと心がけている。特にTOSの頃の初期スポックは意外に感情の発露シーンが多い(バルカンのコリナーと呼ばれる精神修養を「ザ・モーションピクチャー」冒頭、習得間際で切り上げているがTOSの時点でのスポックはまだまだ未熟者なのだ)。あのシーンはそんなスポックがカークの死という場面で思わずこれまで貯めこんできた感情を爆発させたシーンといえるだろう。劇中では描かれないがおそらくスポックはあの後自己嫌悪に陥ったはずである。ちなみにカーンとのバトルで首の付け根を指で摘んで気絶させようと試みる技はバルカン・ナーブ・ピンチ(バルカン掴み)と呼ばれる技でTOSにおけるスポックのアクションシーン撮影の時レナード・ニモイが「バルカン人は基本的に殴る蹴るのような暴力は嫌悪するのではないか。もっとスマートな技を持っているはず」と提言し提案して生まれたものだという。基本的にヒューマノイドにはほぼ全てに通用し、スポックはカークにもこの技を教えたけれどカークは全然マスターすることが出来ず、代わりにTNGにおいてデータ(アンドロイド)に教えたところデータは一発でマスターした。結局優生人類たるカーンには通用しなかったけれど。
あのシーンではカーンがスポックの顔に両手を当てて頭蓋を砕こうとする際*2、スポックがカーンの右額に指を置いているがおそらくあれはサンフランシスコの艦隊本部をカーンが襲撃した際に死亡するパイクと精神融合したスポックがパイクの精神(カトラ)をカーンに移しているのだと思う。クリンゴンに向かうときにウフーラとの軽い討論でも言っていたがパイクの最後に発した苦痛や恐怖と言った感情をカーンにも味あわせようと試みたのではないかと思う。最もほとんどカーンには効果がなかったようだが、もしかしたらカットされたシーンとかがあるのかもしれない。
パイク船長は結果ああいう死を迎えたわけだが、特にカークと直接関わること無く、タロス星で余生を過ごすこととなったTOSのパイクとカークという息子に恵まれたといえるJJ版とどちらが幸せだったのか・・・(クリストファー・パイクはTOSのパイロット版での主人公です)
またカークのキャラクターは意図的に前半はマーカス提督と共通するように出来てますね。それが徐々にマーカスを否定する方向へ行くという感じです。だから最初の方のカークは少々共感ができづらいキャラクターになっています。
まあTVシリーズの映画化なんでウ〜ン、っていう意見だと僕が「パシフィック・リム」に関して思ったことも実は似たようなものなんだよね。あの作品僕はイマイチだったけれど、それなりに語りたくなる作品ではある。ただあの作品の脚本の不備はまるでTVシリーズの総集編+完結編を見せられているような感じだった。これが実際に1シーズンなり2シーズンなりTVシリーズがあってその完結編として5年後の物語とかだったらまだ良かったと思う。そういうものがあればそれを無視して「映画だけでよくわからないからダメだ」という意見は実は意味が無い。それに比べれば「スター・トレック イントゥ・ダークネス」はあくまでTVシリーズを元にはしているけれどきちんと一本で成立していると思うのだけれど、これはファンの贔屓目かなあ。
さて、吹替版。まずは全体的にやはり吹替版の方が情報量が多い。一回目の字幕ではわかりづらかったこともきちんと説明されている印象。例えば宇宙艦隊が軍隊ではなく、それをマーカス提督が軍にしようとする流れとか、U.S.S.ヴェンジェンスが最初から戦艦として作られた航宙艦であることなどが分かりやすい。
キャラクターの名称などは日本独自の「チャーリー(スコッティ)」「ミスター・カトー(スールー)」といったものではなく英語どおりになっていた。これは「スター・トレック」の時点でそうだったかな。
「セクション31(セクションサーティーワン)」が「セクションサンイチ」と発音されたのはちょっと残念だった。原語では「セクションサーティーワン」と呼ばれていて、DS9でもそのように呼ばれていたので、できればそのように呼んで欲しかった。ちなみに字幕版では「31小隊」というもっとアレな名称だったそうだけれど、どうやら僕は音で「セクション31」が出てきた時点で脳内変換してしまったらしくて、その酷い訳を無意識になかったコトにしていたようだ。「31小隊」はないなあ。せめて「第31機関」とかだね。
ちなみにキャロルがカークのひととなりを得た情報源としてクリスティン・チャペルの名が前作同様出てくるけれど、本人は登場しないのですな。クリスティン・チャペルはTOSで出てきた人物で演じていたのはジーン・ロッデンベリーの奥さんであるメイジェル・バレット。TOSのパイロット版でパイク船長の女性副長を演じ、その時点ではTV局から「悪魔みたいな容貌の異星人スポックか女性の副長のどちらかを削れ」と言われてロッデンベリーは泣く泣くバレットの出番を削ったがエンタープライズの看護士という新たなキャラで準レギュラーとなった。ロッデンベリーと結婚し(日本での神前結婚!)その後はTNG以降もベタゾイド人ラクサナ・トロイ役(ディアナ・トロイの母親)や連邦のコンピューター音声としてシリーズでは欠かせぬ人物である。メイジェル・バレットは既に亡くなっているが、新たな時間軸の物語で存在はするけれど本人は登場しない、という役割を担っているのは永久欠番的なバレットに対するリスペクトなのかもしれないなあ、などと思ったりした。
先日の記事では「ENTの物語は今回のJJ版でも過去の出来事として共通しているはずである」と書いたが、思い返すとENTの舞台はピカード艦長のエンタープライズEが過去にタイムトラベルしたボーグを追って21世紀にやってきてワープを開発したゼフレム・コクレーン博士(70年代ロック好き)を手助けした過去の延長線上なんだよね(映画「ファースト・コンタクト」ENT「覚醒する恐怖」)。だから厳密にはENTの時間軸とJJ版も微妙にパラレルなのかもしれないね。その辺がTOS型とTNG型を合わせたような「顔はTNGタイプだけど身体はTOSタイプ」みたいなクリンゴンの造形につながるのかもしれない。まあそれを言ったらきりがないんだけど。
しかし、今回マーカス提督の執務室には歴代の象徴的な船、コクレーン博士の開発した人類初のワープ機能を備えた宇宙船フェニックス号、ENTのエンタープライズNX-01、前作冒頭に出てきたU.S.S.ケルヴィンなどが模型として登場しているので、まんまENTがJJ版の過去の物語でなくても似たような歴史はたどっているはず*3。
あとは一回目の観賞ではあまり活躍している印象のなかったスールーもよく見ると要所々々できちんと活躍していましたね。どうしてもブリッジから出ることが少ないので走り回っていた他のクルーに比べると目立たないですがむしろどんな状態でもブリッジが混乱しないように心がける要のような存在でした。
吹替のキャストはほぼ前作と同じ。ただ前回も言った通りウフーラ役が東條加那子から栗山千明に代わっています。栗山千明ははっきりって上手かったし、セリフ量も多い割に正直気にならなかったけど、やはりレギュラーキャラクターは変えて欲しくはなかったですね。だって次があってもまたやるとも限らないでしょう?キャロル役とかにすれば良かったのに、とは今でも思います。
パンフレットはやはりと言うかなんというか、マッコイ役のカール・アーバンよりもスコッティ役のサイモン・ペッグの方が扱いが大きかったです・・・
- 作者: ウェスロバーツ,ビルロス,Wes Roberts,Bill Ross,岸川靖
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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それでは、未踏の宇宙へ・・・発進!