The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ブラック・スワン 白鳥の女王は醜いアヒルの仔の夢をみるか

 話題の映画。ナタリー・ポートマン主演、ダーレン・アロノフスキー監督作品「ブラック・スワン」を見た。

 全然関係ないのだが僕の世代ぐらいだと「ブラック・スワン」と聞いて思い出すのは「聖闘士星矢」のデスクイーン島の暗黒聖闘士ブラックスワン。他の暗黒聖闘士が青銅聖闘士に「ブラック」をつけたものなのに「白鳥」だけ「ブラック・キグナス」でなく「ブラック・スワン」で子供心に変だなあ、と思ったものだ。まあ、死に際に目玉をテレポートさせてフェニックス一輝に届けたことで暗黒四天王の中では印象に残っている(僕が好きなキャラがキグナス氷河だからかもしれない)。多分ブラック・キグナスだと「黒白鳥」になって「頭痛が痛い」みたいな感じになるからか(調べるの面倒なので適当)。閑話休題
 

物語

 ニューヨークのバレエ団。題目「白鳥の湖」の公演が決定するがベテランのプリマ、べスが引退するため新しいプリ・マドンナを決めるオーディションが開催される。今回は白鳥と黒鳥を同一ダンサーが演じる趣向だ。
 ニナは12のころから母親とバレエ一筋で生きてきたが奔放な新人ダンサー・リリーに気を取られてしまう。ニナはべスの楽屋から化粧道具を盗み、リップを塗って監督のルロワの元へ。ルロワは彼女に手厳しい言葉を浴びせる。しかしキスを拒んだ彼女をプリマに選ぶ。
 練習に邁進するニナだが、彼女を変化が襲う。自分そっくりの人間を見つけたり、背中に引っかき傷が現れたり。やがて彼女の身体にも変化がおき始める。

 監督の前作「レスラー」と一見似ているし、実際この二つは元々一つの作品として撮られるはずだったという。ただ、僕はこの2作品は似て異なるものだと思う。勿論幾つか共通点はある。プロレスとバレエという芸術競技(ともにスポーツとも単純なパフォーマンスとも違うので便宜上こう呼ぶ)を舞台にし、辞めたくないし、辞められない、という心情を描いている作品である。しかし「レスラー」はあくまでヒューマンドラマであり、「ブラック・スワン」は精神が肉体に変化をもたらすホラーでもある。ただ、ともに上手いな、と思ったのは「レスラー」はミッキー・ローク、「ブラック・スワン」はナタリー・ポートマンという主演の役者そのもののキャリアを上手く反映させている。

小覇王の徒然なるままにぶれぶれ!: レスラー

 「レスラー」のランディは別にトップにいたいわけではない。彼はかつての絶対的ベビーとして人気があるので試合では勝ちにいける。彼がしがみつくのは現役そのものだ。一方、ニナはまだまだこれから、という人材である。その彼女がトップを目指しあがくさまが描かれている。「レスラー」は現実だけを映し出す*1が「ブラック・スワン」は彼女の妄想・幻覚を映し出す。
 確かスティーブン・キングが言っていたと思うのだがホラーの描き方は大きくは二つに分かれる。「内なる恐怖(サイコ系)」と「外なる恐怖(超常現象系)」だ。一見内なる恐怖の方が高尚に感じるがそうではない。時に内なる恐怖が外なる恐怖を呼ぶこともあるし、その逆もしかり。ネタバレになるが、この映画の中でニナに起こることは基本的に全て幻である。しかし彼女はその内なる恐怖を肉体の変化という外なる恐怖に置き換えてしまう。最後まで見ると彼女の身に起こった事は彼女の中だけの出来事だということが判明する。実は例によってほとんど前情報なしで観たため、かなりギリギリの所までこの作品が実際に彼女に身に起きた変化を映す超常ホラーだと思っていた。しかし、彼女が黒鳥として舞台に上がる場面で彼女にとっては実際に起きた肉体の変化が観客の目には映っていない、というシーンでサイコホラーだったのだ、と気付いた(遅い)。
 彼女は技術は完璧だが黒鳥を演じる妖艶さが足りない。彼女に起こる肉体変化は自らを黒鳥と変態するものでどうやらニナには元々自傷癖があり、そのときの場所なのか背中に傷を負う。よく考えるとこの時はニナ以外の第3者母親のエリカもこの傷を目撃している。これが肉体的変化の第一章。その後指先が割れたり、足の指がくっついたり遂には脚が逆関節の鳥脚になってしまったりするのだが、僕と違って最初からサイコ物と分かってみてた人には変な描写、やりすぎと思うかもしれない。僕はこういうの大好きなのだが。
 後、これは特段、ホラーではないのだがバレリーナがトゥーシューズに手を加えたり(傷つけて滑り止めを加えているのかな)足先にテーピングを巻いたりするシーンが微妙に恐怖を煽る*2
 
「母親の呪縛物」というジャンルがあるかどうかは知らないが「サイコ」に始まり「キャリー」「13日の金曜日」などは母親の強い呪縛を描くドラマというのが往々にしてある。最近だと「塔の上のラプンツェル」や「ザ・ファイター」もホラーではないがそのような作品だ(関係ないが、この二つ同日に観て全然関連無いと思っていたがこういう面では共通していたのである)。この「ブラック・スワン」のニナも母親の強い呪縛に囚われている。劇中から判断するに母親エリカは28歳の時にニナを身ごもり自分がプリマになる夢を諦める。しかし実際には28まで芽が出なかったのだからニナの存在に関わらず彼女はトップにはなれなかった。自分の才能がなく諦めたのではなく妊娠(おそらく未婚の母)、ニナのために諦めたと自分に言い聞かせているのだ。そして生まれた娘に自分の夢を押し付ける。ニナもそんな母親の状況は知っているし決してバレエが嫌いなわけではないから黙っているがその過剰な対応に遂文句を言ってしまいそうになる。いろんな似顔絵が張ってある部屋なんてそれだけで十分ホラーなのけどなあ。
 

3人のヒロイン


 この作品の成功はひとえにナタリー・ポートマンの起用によるところも大きいと思う。彼女は「レオン」で注目されて以来ずっと第一線で活躍してきた子役スターである。そのキャリアは見事にこのニナ役にはまっている。劇中では彼女に妖艶さが足りないため「オナニーしろ」とかバンサン・カッセルに言われたりするのだが(見事なセクハラ、お前はラサール石井か!さすがはモニカ・ベルッチを嫁に持つだけある)実際彼女が色っぽくないのは単に痩せているからで、しかも舞台上でどう見えるかは関係ないような気がする。

 リリー役のミラ・クニスは「ザット'70sショー」に出てたり、「ザ・ウォーカー」に出てたりする。今回はナタリーと対照的になる奔放な役柄。彼女がニナに脅威として襲い掛かり時に彼女がニナの姿となる。ナタリーは時折ドッペルゲンガーと出会うわけだが彼女が微妙にナタリー・ポートマンと似ているのだなあ。ナタリー・ポートマンの影武者といえば「スターウォーズEP1」のキーラ・ナイトレイが有名だが、リリーは黒鳥役の代役でもあり、彼女自身の意思とは無関係にニナを翻弄する。そういえばこの映画でもバレエ部分のダブルとなんか揉めてるらしい。

 引退するベテランプリマ、べス役はウィノナ・ライダー。落ち目の元トップということでむしろ「レスラー」におけるランディの役どころは彼女だと思う。彼女もまたニナの未来の姿であり憧れでもありながらその末路に恐怖を与える存在だ。リリーほどでもないが彼女もニナ自身になる。爪やすりでサクっと自身の頬を貫いた時は怖かった。
 この役は衝撃を持って迎えられているようだけど、実は彼女は僕の(映画女優として)初恋の人でもある。だからここではこう言っておく。
「ウィノナ・フォーエヴァー!」

参考?記事

【1087】家の中にストーカーがいます

 ところで、役作りに必要な経験を積むことって限度があると思う。いわゆるメソッド演技というのは僕はあんまり感心しない。アメリカの俳優は役作りのためにその職業を経験したりということを好むそうだがイギリスの俳優は脚本から抽出してあくまで技術で演じていることが多い気がする。役作りの凄さという面では一長一短だが僕は可能性の大きさからはイギリス型のほうがいいと思う。殺人者の気持ちとかスーパーヒーローとか経験したくたって出来ないしね。メソッド演技批判者で有名なのはサー・アンソニー・ホプキンスだけど彼なんてベジタリアンだからね。それで人食いレクター演じてるんだから!

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*1:この辺プロレスの事情にある程度詳しくないと分かりづらいのかな、と思う

*2:中国の風習、纏足を思わせる