The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

孤独者の共感 メアリー&マックス

 まったく前情報を持たずに観に行った「メアリー&マックス」は心にずしんと重いドラマだった。

 実はぱっと見のビジュアル以外、何の情報も得ずにこの作品を見たので、結構な衝撃だった。クレイアニメの見た目で「チキン・ラン」「ウォレスとグルミット」などで知られるアードマン・アニメーションの作品だとばかり思っていたのだ。勿論、アードマン作品も単なる家族向けではないにしてももっと明るい雰囲気の作品。ところがこれはどんより薄暗い灯りの元で展開されるヒューマンドラマだった。
 というか、ぶっちゃけ、同時期公開の「ファンタスティック Mr.FOX」ともごっちゃになってました。さらに言うなら「ファンタスティック Mr.FOX」とゲームの「スターフォックス」の区別がついていなかった。

物語

 1976年、オーストラリア。メアリー・デイジー・ディンクルは8歳。濁った水溜りのような目とおでこにウンチ色のあざがある。父親は仕事と剥製作りに励んで相手をしてくれない。母親はアル中の万引き癖あり。学校ではいじめられ、友達はいない。
 一方ニュー・ヨーク。マックス・ジェリー・ホロウィッツは44歳になるユダヤ無神論*1。身長190cm、体重160kg。アスペルガー症候群を患っており、チョコレートが大好きで過食気味。天涯孤独の身で友達はいない。
 あるときメアリーは電話帳から適当に選んだアメリカ人に手紙を書いて送る。それはマックスの元に届き、マックスも返信をする。二人の長い年月にわたるやりとりが始まった・・・

 まず、登場するキャラクター達が正直可愛いとはいえない。キモ可愛いともいえないだろう。主人公のメアリーにしてからが全然少女でありながら魅力的ではないのだ。アニメならではの誇張はマイナス方面に発揮されているし、そのほかのキャラクターに関しては嫌悪感さえ覚える(特にメアリーの母)。
 オーストラリアはまだ多少明るいものの、舞台がニューヨークになるとほとんど白黒の世界。赤い色だけカラーなところが逆に白黒を際立たせる*2
 正直前半部分を見ていたときは「こりゃ失敗だったかな」とか思ったのだが、後半は抜群に感情に訴える作品になっていると思った。
 遠く離れた地域にいる二人の孤独者のやりとり。歳も環境も違うのにどこか共通している。最初のやりとりの後、2回目のメアリーの手紙で彼女は手紙を書きながら思わず涙を手紙にたらしてしまう。
 

 マックスはアスペルガー症候群をわずらっているが、彼自身はそれを特にコンプレックスだとは思っていない。劇中で描かれる特徴は論理的でないことに理解が及ばない。相手の表情を読んで感情を確認することが苦手だったり(マックスは表情と感情を示したあんちょこを常に持ち歩いている。それと照らしあわないと相手の感情が分からないからだ)、アイコンタクトが分からない。要するにコミュニケーション不全な部分がある。ただ、彼自身はそれを自分の個性と捉えているようでもある。
 メアリーは(言い方は悪いが)両親が死んでから人生は好転し、精神治療の医者としてマックスを題材に本を書く。彼女は賞賛を得るがおそらく勝手に哀れな存在にされたことが嫌だったのだろう、マックスは怒り、タイプライターの「M」を取り外してメアリーに送りつける。ここからは強烈な展開。メアリーは自己嫌悪に陥り、結婚生活は失敗。旦那のダミアンはニュージーランドペンパル(男!)のもとに走る。
 そこからは「許し」の物語だ。
「君は不完全だし、僕も不完全だ。人は皆不完全なものだ」
 ナレーションが多すぎるし、アニメならではの動きもそんなにないが、かといってもしこれを実写でやったら凄惨な救いようがない話になるような気もする。
 
 これ、アダム・エリオット監督が実際に長い間文通をしていた話を基にしているらしい。マックスのモデルは健在で製作に当たって作中のメアリーと違って許可をもらったそうだが何の関心を示さなかったそう。
 マックスの声を担当してたのはフィリップ・シーモア・ホフマン。ユーモラスに演じている。ダミアンがエリック・バナだったことが一番びっくりした。
 手紙は20年に及び結局最後まで直接会うことはなかった。彼女がマックスの部屋を訪れると・・・ 

参考

『メアリー&マックス』アダム・エリオット監督について - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE

 アダム・エリオット監督のこれまでの作品がまとめられています。

ハーヴィー・クランペット [DVD]

ハーヴィー・クランペット [DVD]

 
親は選べないが友達は選べる。

*1:無神論者なのでユダヤ人ではないと思うのだがどうなのだろうか?

*2:関係ないがこの手の演出を見ると「天国と地獄」を即座に思い出す癖がついている