The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

スワンプシング 沼の怪物の伝説


 アラン・ムーア先生のDCコミックス時代の仕事、「スワンプシング」を購入。

スワンプシング (ShoPro Books)

スワンプシング (ShoPro Books)

 最近はすっかりDCとは疎遠なムーア先生だが(仲悪いらしい)アメリカでの初期の仕事はほぼDCオンリー。「スワンプシング」シリーズは「ウォッチメン」や「キリング・ジョーク」以前のムーア先生のアメリカでの代表作の一つ。
 アメコミというともっぱら「スーパーヒーロー」物ばかりでそれが多種多様な日本の漫画からすると「単純」「子供向け」という印象を与えてしまいがちなんだけど最初からそうだったわけではなく、第二次大戦後の50年代には西部劇や戦争物、探偵物や怪獣物など様々なジャンルがあったのだがその中でも一大勢力を築いたのがECコミックスに代表されるホラー作品群だった。

 やがて、これらのコミックスにいちゃもんがつき、フレデリック・ワーサム博士の反コミックス運動に発展しアメコミはスーパーヒーロー物を除いて衰亡していくことになる*1。実際は全てのジャンルがスーパーヒーロー物の中に集約されている、と言った方がいいと思う。最近映画化された西部劇「ジョナ・ヘックス」もDCコミックス。一応バットマンやスーパーマンと同じDCユニバース(時代は過去だが)ということになっている。
 で、「スワンプシング」もそんな50年代の怪奇コミックスの伝統を受け継ぐ一品。1971年に誕生し、今回まとめられているのは1982年のウェス・クレイブン監督の映画「怪人スワンプシング」の公開にあわせて始まったシリーズ。1〜19話までは別のライターが書いているがその後をアラン・ムーアが引き継いだ。大きな変更点としては、これまで

科学者アレック・ホランドが事故によって植物とのハイブリッド人間、スワンプシングになった、

という設定が、

アレック・ホランドの記憶を受け継いだ植物が人間の姿を再現したもの(つまりホランドとは関係ない)

と大逆転した。ルックスもそれ以前の泥人間風からより植物人間風になった。きしくもこの時期のDCコミックスの設定一新と重なってるように思う。
 というか、今でこそオリジナルのキャラで話を作り続けるムーア先生だがこの時期、期待されてたのは既存のキャラクターを設定を壊さずに心機一転させることだったのではないだろうか。以前発売された「スーパーマン ラスト・エピソード」もそういう感じだし、「ウォッチメン」も元々はチャールトン・コミックスという既存のキャラクターを使って語られるはずだった。ある意味その集大成がヴィクトリア朝を舞台に活躍したフィクションのキャラが集合する「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」といえる。

 スワンプシングがいかに怪奇ホラーの伝統を引き継いでいようとDCユニバースの住民であることは間違いなく、後半にはジャスティス・リーグの面々も登場するし前回の「魔法使いの弟子」同様アーサー王伝説(というか魔術師マーリン伝説か)をモチーフとした「エトリガン・ザ・デーモン」も登場する。
 この本のもう一人の主人公といえるDr.ジェイソン・ウッドルーことフロロニックマンは実は既に実写化されており「バットマン&ロビン」でパメラ・アイズリーをポイズン・アイビーに変える役でちょこっと出演済み。実際原作でもアイビーをより植物人間ぽくパワーアップさせる役割を担ったはず。
 
 ムーア先生の映画化はクレジットされている「フロム・ヘル」や「リーグ・オブ・レジェンド」「V フォー・ヴェンデッタ」、クレジットされていない「ウォッチメン」のほかにライターの一人だった「コンスタンティン」があるが、先のウェス・クレイブン版が以前の泥人間のイメージなのに対しその後の1989年版「怪人スワンプシング」は植物人間のイメージなので広い意味ではこれもムーア先生の作品の映画化といえるかもしれない。もっともムーア先生は自身の映画化はどれもおきに召していないようだが。

怪人スワンプシング [DVD]

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ヘザー・ロックリアが出てる!

*1:今でもその頃の名残で業界の自主検閲済を示すコミックコードが表紙に印刷されている。ほぼ有名無実と化しているので最近はないのもあるのかな