蝙蝠侠:開戰時刻 バットマン・ビギンズ
記事タイトルは中国語題から。
念願の「ダークナイト ライジング」公開まであと僅かだけれど、アメリカでは痛ましい事件が起きてしまった。
犯人の動機・目的(なぜこの「ダークナイト ライジング」プレミアという機会を狙ったのか、など)は解明されなければならないが、多分「映画に影響された」などと無責任なことを言う輩も出てくると思うけど、映画に影響されたとしてもそれは影響された奴が悪いのであって映画そのものには責任はない。これによって作品の評価と別のところで興行その他で影響が出ないことを祈る。またこの件で亡くなった方々のご冥福を祈らせて頂きます。
では本題。「ダークナイト ライジング」の予習・復習ということで「バットマン・ビギンズ」を劇場で観てきたわけですよ。僕は「ダークナイト」の方は8〜9回劇場で見ているのだけれど*1、「ビギンズ」の方は劇場公開時に一回観た限り。しかも、実は公開された当時はあまり評価しておらず、その年のワースト作品として雑誌「映画秘宝」に投稿して掲載されたりしたぐらいだった。
ところが「ダークナイト」が公開されて改めて「ビギンズ」を見直したら、これが結構面白いと思ってその後評価が好転した作品だった。勿論、自分的にも世間一般的にも公開当時酷評されながら後々評価を上げていった作品(あるいはその逆)などたくさんあるが、「ビギンズ」の場合続編である「ダークナイト」の存在によって引き上げられたような部分が珍しい気がする。
例えば、先日公開された「アメイジング・スパイダーマン」は結構、評価が両極端に分かれている。いわゆる映画ファンは「テンポが悪い」「グダグダ」などといい、アメコミファン(といってもアメコミファンの大部分は映画ファンでもあると思うが)は「丁寧な描写」という感じ。「アメイジング・スパイダーマン」の場合明らかに続編を考慮して作られているので単品としてみた場合、伏線が放りっぱなしだったり物語が途中で終わっていたりする部分がある。なので「映画としてはダメ」という人も出てきているのではないだろうか。とはいえ映画には連続活劇、という側面も本来あるのでこういうシリーズ化前提の展開も悪いとはいえないと思う。後はアメコミに限らないが原作付き作品の場合も似たような評価の二分が起きるような気がするなあ。
何度か書いているのだけれど、僕は「バットマン・ビギンズ」に関しては「ダークナイト爆弾の導火線」という評価をしている。「ダークナイト」は全編見所といってもイイ作品だ。そしてビギンズはダークナイトという大爆発を起こす爆弾についたちょっと長めの導火線なのだ。だから謂わば二時間かけて火が爆発物まで到着するのをじっと眺めているようなもの。
今回改めて劇場で観て(勿論、自宅ではブルーレイで何度も鑑賞してる)思ったのは「一本の映画だけで評価したら色々と言いたいことはあるけれど、シリーズの序章としては最高ではないか」ということ。
例えば「ビギンズ」は前半はブルースの小さい頃に始まり、チベットでのラーズ・アル・グールと影の同盟における修行、大学生のブルースが両親を殺したジョー・チルの裁判とそれを裏で操作するカーマイン・ファルコーネに出会い己の無力感を知る、3つの時間軸が交差するいかにもクリストファー・ノーラン的な感じだが、後半は一直線になっているため、作品が前後半で分断されてる印象が強い。そのうえ、アクションをカット割りでごまかしている(ノーランがそんなにアクション描写がうまくないと言うのは認めざるをえない)部分もあったりする。そして日本人としては影の同盟のニンジャ描写や鳴り物入りで出演が喧伝された渡辺謙のラーズ・アル・グールのあっさりした死が拍子抜けに思えただろう。
未だにビギンズのラーズ・アル・グールについてはよく分からないことがあって、あの作品では超常的な描写が極力無いので原作におけるラーズの不老不死の源である「ラザラス・ピット」が存在しない。だからラーズと言えども一度死んだら終わりなのだが、問題は誰が真のラーズ・アル・グールなのか、ということ。
影の同盟は首領の襲名方式をとっており渡辺謙演じるラーズ・アル・グールは本物のラーズ・アル・グールだが、ブルースに倒され死亡したため生き残ったリーアム・ニーソン演じるアンリ・デュカードが次のラーズ・アル・グールを襲名したのか。あるいは元々渡辺謙は影武者であり最初からデュカードこそ真のラーズ・アル・グールだったのか。どうやら後者の方らしいが、影の同盟が有史以来世界中の出来事を裏から操ってきた、という大風呂敷にふさわしいのは前者のような気がする。
突っ込みどころとしてはやはりラーズ達がウェインエンタープライズから強奪し、使用する「マイクロ波放射器」だろう。ゴッサムの水道に流した薬を蒸気化する役割をはたすのだが、要は水分を蒸発させる機械なわけで普通に周りにいる人間含む生物の体液も沸騰してしまいそうな気がする。
「ビギンズ」では繰り返し、「恐怖」というキーワードが出てくる。ブルースが小さいころ古い井戸に落ちてコウモリに襲われた時、父のトーマスは「彼らもブルースを恐れているから」という。そしてブルースは自分が感じた恐怖を犯罪者にも与えるべくコウモリの格好に扮する。「ダークナイト」ではジョーカーが「混沌は公平(fair)だ」というところを「恐怖(fear)」と誤訳されてしまう部分があるが(地上波放送でもそのままだったのが実に残念)、もしかしたらビギンズにおける「恐怖」の繰り返しに訳者が引きづられてしまったのではないか、という意見を見かけてなるほど。と思った。とは言え後半デュカードが「正義とは公平さ(この場合はbalanceだが)だよ」というシーンもあったりするのだが。
誤訳といえば、ビギンズラストにジョーカーの存在が示されるが(この時点では続編製作は決まってなかったらしく、あくまでサービスらしい)「前科2犯」と出るがこれも本来は「ジョーカーが犯したとされる(逮捕されて立件されたわけではない)事件が2件」ということであっていわゆる「前科」は誤訳のようだ。
バートン版*2では希薄でノーラン版になって強められたテーマに「バットマンは犯罪者を捕らえはしても裁きはしない」というのがある。バットマン/ブルース・ウェインは犯罪者に対する復讐という初期の動機があるがそこから脱し、犯罪そのものを憎むに至る。そして彼自身は決して殺人を行わない。勿論、劇中戦いに巻き込まれて重傷負った人はたくさんいるよね、とかラストの「殺しはしない。しかし助けもしない」てのはオイオイどうなのよ。とか思ってしまうところではあるが。でもここで徹底されてるからこそ、「ダークナイト」において、なぜジョーカーを轢き殺してしまわなかったのか。というのが理解できる。
「ライジング」はいまだ物語そのものに関する情報は基本的にシャットアウトしているのだが、予告編から判断する限り、「ビギンズ」直系の設定も多そうでどうやらクライム・アクションとして伝奇的な要素が少なかった「ダークナイト」に比べると雰囲気的には「ビギンズ」の要素も多そうだ。「バトルシップ」の時のインタビューだと思うが一応リーアム・ニーソンも「ライジング」に出演してるようなのだな(撮影参加時間がわずか二時間で本人も「カットされなきゃいいなあ」みたいなこと言っていたので回想に近い登場だと思うが)。当然役柄はアンリ・デュカード=ラーズ・アル・グールだろう。僕は以前続編には影の同盟のブルースの兄弟弟子みたいな役柄に設定を変えてアズラエルが登場したらいいんじゃないか。と書いたことがあるが、そういえばベイン(トム・ハーディ)も原作ではかつてラーズのボディガードを努め、後継者候補の一人だったことがあるのだな。そういう意味でおそらくベインも影の同盟と関係があるのだろう。
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アメリカの事件で正直ケチが付いてしまったが(犯人の動機はどうやらプレミアのチケットが取れなかった腹いせ?ということらしい)、それでも今年一番重要な作品の一つであることは間違いなく心して待ちたい(可能なら先行で観に行きたいが・・・)。
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