黒白黄赤青・・・そして緑 グリーンランタン/グリーンアロー
映画「グリーンランタン」が公開されるのに合わせてか、「グリーンランタン」関連のコミックスが複数発売されている。その中でも名作と名高い1970年の「グリーンランタン/グリーンアロー」を読了。
グリーンランタン/グリーンアロー (ShoPro Books)
- 作者: デニス・オニール,二―ル・アダムス,関川哲夫
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2011/08/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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グリーンランタン
銀河警察機構グリーンランタン・コーズの一員で地球を含むセクター2814を担当。本作に出てくるランタンは2代目のハル・ジョーダンであるが、グリーンランタンコーズの一員のランタンとしては初代(初代のランタン、アラン・スコットはパワーの源こそ共通していてもコーズの一員ではなかった)。惑星オアを本拠地にするガーディアン・オブ・ユニバースの指導の下、持ち主の意思を具現化するパワーリングを手に宇宙の平和を守っている。パワーリングは黄色のものには無効である。ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカの創立メンバーでもある。
グリーンアロー
本名、オリバー・クイーン。金持ちの家に生まれたオリバーは得意の弓術を生かして故郷のスターシティで現代のロビンフッド、グリーンアローとして活躍した。後に破産して以降は過激な環境・社会派ヒーローとなる。見事に蓄えた金髪の髭が特徴。スピーディというサイドキックがいた。ジャスティスリーグのメンバーではあるが存在は浮きがち。
というわけで名前こそ似ているが全然属性が違うヒーローの共演、というかタッグを組むエピソード集。
グリーンランタン(以下GL)はウルトラマンとか宇宙刑事ギャバンに近い、集団の中の一人。地球以外に中心組織があってそこから地球の守護を任務としている。一方グリーンアロー(以下GA)は個人営業、超能力ももたないバットマンタイプ(というかもろバットマンパクリに近い)のビジランテヒーロー。とはいえこれが見事にタッグとして機能するのがアメコミの懐の深いところだ。
グリーンランタンはある日スターシティーの上空をパトロール中、中年男性に暴力を振るう若者を捕らえる。しかしそれを見ていた周りの人間はGLにゴミを投げつける。思わぬ展開にひるむGL。そこに現れたのはグリーンアロー。GAはGLに事情を説明する。先ほどの中年はこのスラム街のボロアパートの大家で住民を追い出して駐車場にしようとしていてアパートの修繕をしようとしない。先ほどの若者はここに住む老人の孫で怒りのあまり大家に暴力を振るってしまったのだ、と。憤るGAに対してGLは言う。「しかし彼(大家)は法を破ってはいない」
GA「スーパーヒーローごっこも結構だがな、ちったあ現実を見ろってんだよ!これでもまだわからねえってんなら・・・
GL「落ち着けよ。僕はやることをしたまでで・・・」
GA「そのセリフ、ナチの戦犯どももそう言ってたな」
黒人の老人「アローさんよ、あんたのお友達に一つ聞いてもいいかね・・・
あんたは青い肌の宇宙人に仕えてるって新聞で読んだよ。オレンジの肌の宇宙人を助けたともね・・・
きっと紫の肌のも助けてくれるんだろうよ。
でもな、少しでも考えたことはあるかね・・・
黒い肌の人間のことはどうだね・・・
答えてくれMr.ランタン」
GL「そ・・・それは」
答えることの出来ないGL。GLとGAは大家を懲らしめるがそれは法を破ってない者に制裁を加えるというガーディアンの指示に反する行為。ガーディアンは命令不服従によりGLに制裁を与えようとするがGAが代わりに喋りだす。
ヒーローを気取るのもいいがな、その前に人間だろうが、お前は!
いつまでガーディアンどもの操り人形でいるつもりだ!宇宙の出来事なんて忘れちまえ、アメリカを思い出せ!
この国は今、病に苦しんでいるんだぞ!
子供が命を奪われ、正直者が迫害に怯え、不満を溜めた若造どもが大学を引き裂いている・・・
メンフィスじゃ立派な黒人が死に、ロサンジェルスでは立派な白人が倒れた・・・
何かが狂ってる!
そうとも、この国のモラルは地に堕ちた!
このままじゃこの国はおしまいだ!
お前・・・てめえの星に居座って偉そうに指図してやがるがよ・・・
社会の危機にお前らに何ができる?
お前らに人間の何がわかるってんだ!
メンフィスで死んだ黒人とはマーティン・ルーサー・キング牧師のことでロサンジェルスで倒れた白人とはロバート・ケネディのことだろう。さすがのガーディアンもこのGAの熱弁に動かされ、「我々にどうしろというのだ」と問う。
簡単なこったぜ、てめえで体験すりゃいいのさ!
自分の目と耳でな!
というわけでグリーンランタンことハル・ジョーダンとグリーンアローことオリバー・クイーン。そして人間に変装したガーディアン(の一人)の3人が自動車でアメリカを探す旅に出るのだった。
ライターとアーティストは長いことバットマンを担当していたデニス・オニールとニール・アダムスのコンビ。1966年のTVドラマ「バットマン」以降の明るいバットマンを再びシリアスにダークなイメージに引き戻した二人である。貧困問題、人種差別、環境問題、麻薬といった社会問題を扱っているので多少は時代性を感じるものの、根本的には普遍の人間ドラマを描いているし、絵柄も今見ても全然遜色ない。これが1970年に発表されたことを思うと驚きである。
GL&GA(&ガーディアン)はアメリカを旅するうちに様々な問題にめぐり合う。またGAの恋人でもあるスーパーヒロイン、ブラックキャナリー(本名はダイナ・ランス)も登場。勿論深刻な社会問題ばかりではなく宇宙人やアマゾン(ワンダーウーマンのふるさと)なんかも出てくるのだが、結局は
ヒーローとは言うが、宇宙人や怪獣退治はともかく、現実の問題にはからっきしだった・・・
一番ショッキングなのはGAの元サイドキック、スピーディーが麻薬中毒者であったことが判明してしまう回だろう。
それも単純に「ダメ・絶対!」だけで描いているのではなく麻薬に手を出してしまう事情まで踏み込んでいる。
ともかく、本作は単なるスーパーヒーローの英雄譚ではなく、現実に根ざした物語をえがくことに成功している。とかく日本では1986年のフランク・ミラー「ダークナイト・リターンズ」とアラン・ムーア「ウォッチメン」がコミックスの転換となる画期的な作品みたいな風に語られがちで、僕も決してそれを否定はしないがあの二つが突然変異的に現れたのではなく本作を含む諸作品、例えばマーベルでも麻薬中毒を扱うこともあったし悪人を殺してしまうヒーロー、パニッシャーの登場などがあって初めて成立することは忘れてはならないと思う。
- 作者: ジェフ・ジョーンズ,イーサン・ヴァン・スカイバー,石川裕人
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2011/01/29
- メディア: 単行本
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- 作者: ジェフ・ジョーンズ,アイヴァン・リース,市川裕文
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
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で、その「グリーンランタン」の映画版なのですがどうにも評価が芳しくない。アメリカでの興行収入、評価ともにそんなに良くないらしいし。とはいえ、一説には映画版DCユニバースの発端という噂も聞くし(その場合壮大なグリーンランタンの設定で大風呂敷を広げておくのは正解だと思う)続編にグリーンアロー登場しないかなーなどと期待しているので今回はともかく、何とか次につなげたいものである。