オール・ユー・ニード・イズ・トム オール・ユー・ニード・イズ・キル
実録映画3連続、マーベル映画3連続、史劇3連続となぜか同系統の映画を続けて観る、ということが続いているけれど、そういうテーマ縛りで言うとこの夏はズバリ「日本発」。もちろん代表は「GODZILLA」であるがそれ以外にも日本のトイが原点である「トランスフォーマー」の最新作「トランスフォーマー ロストエイジ」、日本の原作漫画を韓国で見事に映画化して今度はそのリメイク作であるという「オールド・ボーイ」などが続く。
その先発隊とでも言えるのが「日本原作 トム・クルーズ主演」をキャッチコピーにした「オール・ユー・ニード・イズ・キル」である。ダグ・リーマン監督のトム・クルーズ最新作「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を観賞。
物語
近未来の地球。ギタイと呼ばれる謎のエイリアンによる侵略が進行している。ヨーロッパはほぼギタイの勢力下に陥っている。アメリカ軍に所属する軍の広報官ウィリアム・ケイジ少佐は元々広告会社に努めていた男で実戦経験は一度もない。しかし彼は前線での任務を言い渡される。拒否すると脱走兵として二等兵に降格、何の訓練も受けられぬままフランス前線へ。しかし彼は戦場で歴戦の勇者リタ・ブラタスキの姿を見た。何の成果も挙げられぬまま戦死するケイジ。しかしその瞬間彼は出撃の一日前に戻っていた。何度も繰り返される出撃・死・目覚め。そして彼は自分と同じ体験をしたリタのもと鍛えあげられていく。やがてケイジは幾度もの戦場を経験した歴戦の新兵となるのだった…
原作は日本の桜坂洋の「All You Need Is Kill」。いわゆるライトノベルの1片として出版されその後アメリカでも英語翻訳されたそうだ。僕はこちらは読んでいないがこの映画に併せて「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」の小畑健作画によるコミックスが全2巻で発売されたのでそちらは読んだ。そこで漫画の方は原作と大きく違っていないと言う前提で書く。少年兵といってもいい主人公キリヤ・ケイジがトム・クルーズ演じる中年の脱サラ軍人(戦場経験無し)に変わっているほかもちろんストーリー面でも色々と違いはあるが設定面では大きく逸脱はしていない。
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監督は「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン。脚本はやはりトム・クルーズ主演の「アウトロー」のクリストファー・マッカリーで(ただし他にもたくさんクレジットされている)、特に前半の弱いトム・クルーズの描写なんかはこのマッカリーの影響が強いのかな、と思う。例えば、トムが何の説明もないまま機動スーツを付けられていざ、戦場へ!という時に移送機に向かう途中でふらふらっと列から抜けだそうとして後ろの兵士に連れ戻されるところとか、妙な可笑しみを感じる。この辺「アウトロー」でも見られたおかしさと共通しているような気がする。
死んでも特定の時間に戻り記憶を保ったままやり直せるっていうアイデアは、それ自体は特に目新しいものではないが本作の場合、元々アイデアの源泉がゲームから来ているそうでなるほど、何度もやり直して徐々に強くなっていくさまはたしかにゲーム的だ。僕は子供の頃はアクションゲームが本当に苦手でアドベンチャーゲームやロールプレイングゲームばかり遊んでいた。アクションゲームもプレイするようになったのは大学生の頃で「バイオハザード」などアドベンチャー要素の強いゲーム。その中でもやはり「メタルギアソリッド」が一番「アクションって面白い!」と実感出来たゲームだろう。もちろんアクションが苦手なのは変わらないのでよく死ぬ。とにかく死ぬ。何度も死ぬ。それでもこの頃のゲームは普通にセーブ地点からのやり直しができるし、繰り返す内に何とか突破口を見つけ出し先に進むことができる。本作はそういう部分の再現みたいなことはよく出来ていたと思う。それはギタイとの戦いや物語の進行の重要な部分よりむしろちょっとしたところでうまく表現されており、例えばケイジがリタに会うために訓練の腕立て伏せ中にタイミングを計って他の兵士に見つからないように走っている車両の下を転がりながら離脱を計るシーンがある。ここでケイジは一回目はあっけなく車両に轢かれて死んでしまうのだ。一機喪失やり直し。しかし(劇中ではすぐだが)何度もそのシーンを繰り返す内にもう簡単にそこはクリアできるようになる。実際のゲームでも何度も苦戦してやっと切り抜けたゲームのシーンなのにある境界を越えるとこれまでの苦労が嘘のように簡単になる時がある。個人的に戦闘そのものよりそういうシーンが面白かった。
敵となるギタイの描写はちょっとイマイチ。ギタイはおそらく「擬態」であったり「義体」だったりという感じの単語をカタカナ表現したものだと思うが僕が聞いた限りおそらく英語では「ギタイ」とは呼ばれず別のネーミングになっている(どうやらMimics”ミミック”なので「擬態」が正解かな)。流体金属が獣を形作るような形態で個性に乏しい。これは小畑健の漫画のほうがデザイン的には良かったかな。実はこの作品見せ場のように思われる戦闘スーツを着てのギタイとの戦闘ってところは正直あまり面白くない。戦闘スーツそのものはそれなりに格好いいし「スターシップ・トゥルーパーズ」の兵士が「スターシップ・トゥルーパーズ3」に出てきたもの(操縦ロボットタイプ)よりもっとスリムな戦闘強化服を装着する、という感じで特にリタの装着するそれはかなり格好いい。このある種見せ場であるギタイとの戦闘シーンが存外淡々としているのがある意味この映画のカラーでもある。この辺でノれる人、ノれない人分かれるんじゃないだろうか。
トム・クルーズはもう貫禄の演技で最初のいかにも口だけの調子のいい広報から頼りない新兵。そして徐々に強くなっていく様を見事に演じ分けている。「アウトロー」では最初から完成されたキャラクターを演じていたがそれとはある意味対照的だ。「オブリビオン」もトムの控えがたくさんいる、ということでは本作との共通点はある。でも僕の場合同じトム・クルーズ主演映画でこの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と似た印象を持つのはSFである「オブリビオン」より「アウトロー」なのだなあ。
ただ、ある意味トム以上にこの映画のシンボル的なキャストはリタ・ブラタスキを演じたエミリー・ブラントである。小柄な女性兵士だが歴戦の戦士であり他の兵士が銃器に頼るのに対し巨大な刀を振るう。彼女も最初のきっかけとなる戦いまではタイムループを繰り返す人生を送っておりそれによって強化してきた。ケイジと入れ替わるようにループは止まるが今度はケイジをサポートする。この映画の設定とエミリー・ブラントの配役を聞いた時僕は妙に納得してしまった。僕が見ている範囲でしか無いのだろうとは思うがエミリー・ブラントは「アジャストメント」でも「LOOPER/ルーパー」でも未確定の時空を生きる、みたいな役が多くないか。ディック的というかなんというか。物語の中で決められた未来を変えようという物語のヒロインが多い気がする。ただ先の二つはあくまでヒロインとして巻き込まれる形であったが、本作ではむしろ積極的に物語を引っ張っており単にトム・クルーズの添え物的ヒロインではなくもう一人の主人公といってもいいだろう。映画の中では一応ギタイとの決着も着いている?が永遠に繰り返される人類とギタイの戦いの中で更に繰り返されるタイムループという形でリタが新兵からタイムループの繰り返しでいつしか最強になっていく様子をもっと見たかったとも思う。先述したとおりこの映画意外と昼間のギタイとの戦闘は淡白なのでその辺は物足りないかなあ。
爽快なSFアクション映画としては案外人を選ぶ作品。。日本人原作ということで日本的な部分(アニメ的な描写とか)は特にそう感じるところは少なくその辺で期待する人には物足りないかも。でもトム映画としては百点。「宇宙戦争」あたりから顕著な結構等身大なんだけど、でもどうしようもなくトムでなきゃダメ!というトム印の映画としては満点だと思う。僕らにはトムが必要だ。All You Need Is Tom.
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