The Spirit in the Bottle

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死んだはずだよ、おトムさん オブリビオン

 自分でも意外なのだが、今年の現時点でのベストにはトム・クルーズの「アウトロー」が結構な順位に位置している。あの作品結構緩いところもあるし、実際評価は賛否両論といったところなのだが、僕は相性が良かったのかとても好きな作品だ。これまでトム・クルーズの作品はほとんど観ているがもしかしたらその中でも一番好きかもしれない。ところであの作品の原題は「Jack Reacher」でそれはトム演じる主人公の名前ジャック・リーチャーから取られている。そのトム・クルーズが主演するもうひとりのジャックの映画、「オブリビオン」を観賞。

物語

 西暦2077年、地球は60年前に異星人スカヴに侵略された。人類はこれを撃退したが核兵器まで使用したため地球は荒廃。人類は土星の衛星タイタンへと移住。地球衛星上にはテットと呼ばれる基地があり、そこからドローンで地上を監視している。地球にはドローンの修理のためにジャック・ハーパーとヴィクトリアの二人だけが残されており、彼らはこの退屈だが過酷な任務に耐え得るよう、過去の記憶が消されている。
 残りの任務期間があと僅かというある日、謎の宇宙船が地球に墜落、テットの命令を無視してジャックが現場に行くとそこには墜落した旧式の宇宙船と多数の救命ポッドが。なぜかドローンが救命ポッドを攻撃する中、ジャックは1人だけ救出に成功する。救出された女性、ジュリアはなぜかジャックのことを知っていた。彼女こそジャックが時折夢に見る今は無きNYでデートをしていた女性だったのだ・・・

 監督は「トロン・レガシー」で「トロン」を正式な続編として現代に蘇らせたジョセフ・コシンスキー。原作も彼が書いたグラフィック・ノベルということである。「トロン」の全編CGで描かれた世界とは対照的に今回は荒れ果てた地球という設定の元、大自然が描き出されている。実際今回は結構なロケを敢行しているようである。
 僕はこの映画を見ながらSF作品を中心に過去の様々な作品(映画にかぎらずゲーム、小説色々)が次から次と思い出されて観ていて楽しかった。逆に言うとこの映画からはオリジナリティはほとんど感じなかった。だが、それがこの作品の評価を下げることにはならないと思う。例えば主人公たちが信じていて最初に観客に示される根本設定が覆される部分は「マトリックス」シリーズを思わせるし、放射能汚染による進入禁止地帯(本当のところは汚染されているのかは分からない)は「猿の惑星」「続・猿の惑星」における「禁断地帯」であろう。主人公のアイデンティティーの揺らぎと、本来彼をサポートするはずのテットのサリーが実はプログラムである、というのはゲーム「メタルギアソリッド2」を彷彿とさせる。真の恋人ジュリアとエンパイアステートビルでデートする記憶などそのまんまという気もする。他にもこの映画におけるモンスターとでもいう位置づけのドローンは「ターミネーター3」に出てきたマシーンたちを思わせるルックスだし、逆にジャックに真実を知らせるマルコムたちは最初「スターウォーズ」のタスケン・レイダー風を思わつつ、ボスであるマルコムのマスクはプレデターだったりする。それ以外にもたくさんの作品が引用でもオマージュでもなく自然に作品の中に息づいているがパクリだとかオリジナルじゃないからダメとかは全く思わなかった。もちろんそういった過去の作品達を知らない人は普通に「斬新な映像」として受け入れるだろう。


 ヒロインは「007慰めの報酬」でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコ。あの時は勝手にラテン系の人かと思っていてあとでウクライナ出身と知ってびっくりしたのだが、彼女「慰めの報酬」と同時期の「マックス・ペイン」でヒロインを務めたあと、特にこれといってメジャーな作品には出ていないのだね(出てはいるのだがほとんど日本未公開のようだ)。ウクライナ出身と言うことはミラ・ジョヴォヴィッチの後輩で彼の国が美人が多い国である、という噂を裏付けたりするのだが、同時にミラの後輩ということでアクションにも期待するところである。ただ、残念ながら今回はそれほどアクションを見せてくれるわけではなかった。もっぱらトム演じるジャックに守られる形で彼女自身が積極的にアクションに参加することはなかったのが残念。
 「慰めの報酬」の時は特にそうは思わなかったが、今回彼女はずっと基本的に真木よう子、時々水野美紀に見えてしょうがなかった。もちろん顔が似ている、という部分もあるのだが、この二人も日本では比較的アクションも出来る女優である。オルガさんもぜひとも次はもっと積極的にアクションに挑んで欲しいと思う。
 予告編ではオルガ・キュリレンコの影に隠れてはいたが、本編ではオルガに勝るとも劣らない魅力を見せてくれるのがヴィカ(ヴィクトリア)役のアンドレア・ライズボロー。ちょっと下膨れの顔で肉感的であり、確かにオルガとは対照的な女優。トム演じるジャックが可能なら地上で暮らしたい(実際隠れ家を持っている)のに対し、早くタイタンに戻りたいと思っていて、ちょっと潔癖症。その御蔭で自我に目覚めていくジャックと違って真実と虚構の揺らぎに翻弄される。
 その他ゾーイ・ベルも出ているのだがアクションは特にない上、僕が彼女に気付いたのは最後の最後であった。この辺もったいない使い方をするよなあ。

 でもなんといってもこの映画はやはり「トム映画」である。トムのナレーションから始まり、トムのナレーションで終わる。彼は残されたアダムでもある(イヴはテット側ではヴィカ、マルコム側にとってはジュリアといったところか)。なんといってもトムとトムが対峙する場面すらある。前作の「アウトロー」でもそうだったがトム・クルーズはもう下手に自分を格好良く見せよう、と考えてないんではないかと思う。身長が低いことをごまかそうとかしない(トムとオルガが並ぶシーンではオルガのほうが高い)し、もう彼の絶対的個性と言ってもいいトム走りにしても格好良いとか悪いとかを超えている。もちろん「ロック・オブ・エイジズ」とかでは格好良いトム・クルーズも存在するわけであくまで作品に寄り添ってということなんだろうけど。
 未来を舞台にした映画であるので、基本の格好も白いつなぎっぽい清潔感溢れる作業服。しかしトムはニューヨーク・ヤンキースの帽子をかぶったり、風光明媚な土地に隠れ家を持っていたりする。何より彼は地球に打ち捨てられた書物を密かに収集してたりするのでおそらくヴィカやサリーと比べてちょっと違う意識の人物なのだろうな、と予想できる。
 ジャックを導くマルコムにモーガン・フリーマン。本来なら存在しないはずの地球に現存する人類であり真実を知っている人物。彼は何人ものトムを待ち続けていた・・・

Oblivion

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 音楽はM83というフランスのミュージシャンによる音楽ユニットによるもの。スコアがまた良かったです。最初のナレーションと音楽で既になんかもうこのままエンドクレジット出てきちゃうんじゃないか、という盛り上がりでしたね。

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監督の前作。
 
トム&クリフ 危ない奴ら アウトロー
トム・クルーズの前作。

 監督の前作「トロン・レガシー」にしても「オブリビオン」にしても「これは何かの隠喩」「聖書の比喩」みたいなものは多く感じられる作家だと思う。ただ僕はあんまりそういう解釈しながら作品を見るのは好きではないので特に触れない。もちろんそういうのが悪いわけではないがまずは普通に見て面白い作品である。

特選:歌カラ1000 春日八郎 別れの一本杉/お富さん

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トム・クルーズの次回作はやはりSFアクションの「All You Need Is Kill」こちらは日本のSF小説が原作でトムが「スターシップ・トゥルーパーズ」の機動歩兵風の格好をして爆風に飛ばされる写真なんかが出回っている。こちらも又楽しみである。とはいえ公開は約一年後、来年2014年の6月6日の予定とちょっと遠くではあるが。
 
 そういえば、もうひとりのヴィカはどうなったんだろう?