ANVIL! THE STORY OF ANVIL
僕の好きなミュージシャンというとマイケル・ジャクソンにプリンス、デヴィッド・ボウイ、バンドならメタリカ、モーターヘッド、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンそしてラモーンズだったりするが、ファンになったきっかけは純粋に音楽的なものとは言い難い。
メタリカはプロレスラーのサンドマンがECWで入場テーマに「ENTER SANDMAN」を使用していたのが知ったきっかけだし、モーターヘッドも同じくHHHの入場テーマだったからだ。
デヴィッド・ボウイは存在こそ知ってたけど直接聞くきっかけは映画「セブン」で主題歌を担当してたからだしレイジは「クロウ 飛翔伝説」と「マトリックス」、プリンスは言わずもがなティム・バートン版「バットマン」。映画やプロレスがらみでないマイケルは兄の影響だろう。ラモーンズはちょっと例外でJUDY AND MARYの音楽をさかのぼって行ったら辿り着いた。
もちろん、いったん好きになったら過去にさかのぼり、あるいは新しく出る新譜は映画やプロレスと関係なくてもチェックしたりはしてる、でも純粋に音楽を聴いて好きになるというよりはそのタイアップの映像を通してということが多い。
そんな僕だからこのバンドのことは聞いたことがなかった。
映画「アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜」を観た。
アンヴィルはカナダのヘビー・メタルバンドで後続のメタルバンドに大いに影響を与えたが大成しなかった。オリジナルメンバーはヴォーカル、ギターのスティーヴ・”リップス”・クドローとドラムのロブ・ライナー。
リップスは厳格なユダヤ教徒で短気で感情的、普段は給食の配達員をやっている。ロブは父親がアウシュビッツの生き残りというやはりユダヤ人で、リップスとは対照的に落ち着いていて思索する哲学者を思わせる。普段は建設作業員。
二人は15歳で知り合って以来の仲だが、ともに50を過ぎ頻繁に映されるリップスの後姿からは伸ばした髪に薄くなった頭頂部が印象に残る。
話は1984年の日本から始まる。日本のロックフェスでアンヴィルはボン・ジョヴィなど名だたるバンドの中でも一番人気だった。彼らの輝かしい映像とともにさまざまなミュージシャンがアンヴィルを語る。ガンズのスラッシュやアンスラックスのスコット・イアンなど。だがやはりここはメタリカのドラムにしてリーダー、メタリカの突貫小僧、ラーズ・ウルリッヒとモーターヘッドのレミーだろう。彼らのような大物ミュージシャンがアンヴィルの凄さを褒め称える。
←当時の日本でのライブ映像。
それから20年、彼らは変わらずバンドを続けていたが、もはやかつての栄光とは無縁だった。熱心なファンこそいるがバンドでは生活できない。普段は別の仕事に就き、合間を縫ってライブをする。
ん・・こんな映画最近どこかで見た気がするなあ。というかこれは「レスラー」とほぼ同じだ。あの映画のミッキー・ロークもかつての栄光を引きずりつつ、止めたくないし、止められないという話だった。
とはいえこちらは「レスラー」ほど悲惨ではない。(それなりに理解のある)家族はいるし、カナダというお国柄か結構いい家に住んでいる。全体的に悲惨というよりは笑えるユーモアに満ちている。
アンヴィルは女プロモーターの企画で50日におよぶ東欧ツアーに出かける。最初こそ順調だったものの、客がほとんどいないところで演奏したり、ギャラがもらえなかったりと散々な目にあう。ここでリップスとロブが軽い喧嘩をするが、多分この20年以上ずっとこんな感じの喧嘩を繰り返してるんだろうなあ。
帰ってきた二人(一応この映画の時点ではアンヴィルには二人のほかにギターとベースがいるがオリジナルメンバーはリップスとロブの二人)は初期作品を手がけたプロデューサーにデモテープを送る。そのプロデューサーは彼らの13番目のアルバムを手がけても良いと連絡を入れる。ただし、制作費はアンヴィル持ちで。
彼らは金を稼ぐために奮闘する。リップスはファン(最初このファンも負け犬かと思ったら実は社長という勝ち組だった)のコネでテレフォンセールスの仕事(かなり激しい口調で電話で物を売る商売、多分日本には無いと思う)に就くが普段の激しさとは裏腹に厳格なユダヤ教徒の家庭で育ったリップスは上手くセールス出来ない。結局6日間ぜんぜん稼げずに辞めてしまう。
結局姉(どうもリップスの家族は保守的な一方で、一族のはみ出し者で夢を追求するリップスに憧れを持っているようだ)から借りた金でアルバム製作に入る。ロンドンに行く一行。
製作途中でついにロブとリップスが激突する。常に冷静であまり感情を出さないロブにリップスがキレる。反論するロブ、
ロブ「お前がストレスを感じてるのは分かる。だけど何故、俺にばかり当たるんだ。」
リップス「お前を愛してるからだ。お前は親友で家族だし、お前にぶつけられなかったら誰にぶつけろっていうんだ!」
このシーンは感動的。少し泣きそうになった。
彼らは完成したアルバムの音源を持って大手のレコード会社各社に持ち込むがにべもなく断られてしまう。結局自主制作にせざるを得ない。
その昔「ハードロック・ハイジャック」を見たときにも思ったけど、反体制的なロックでもいざ売ろうと思ったらハード・ロックなんてほとんど聴かないような奴に認めてもらわなければいけない、という矛盾。彼らは今までその矛盾に目を瞑ることが出来なかったからこそ売れることが出来なかったのかもしれない。
そんな中、日本からロックフェスのオファーが来る。2万人の会場での演奏だ。かつては5人しかいない会場で演奏したこともある。もしもその会場で5人しか客が入らなかったら主催者に申し分けない。不安になる2人。
しかしその会場は満員だった。客の何人がアンヴィルのファンかは分からない(別のバンド目当てかも)。でも彼らは一緒にアンヴィルの音楽を楽しんでいる。
ラストは大都会東京、渋谷の交差点。リップスが叫ぶ、
「ゴジラだ!」
この映画によって再び彼らが大ヒットを飛ばせるようになるかは分からない。ただし彼らにはほかのバンドには無い強みがある。彼らはたとえどんな状況に陥ろうと30年以上バンドを続けてきたのだ!