当世風昔からの物語 美女と野獣
美女と…
野獣。
そして…
美女で野獣。
4月は結局1日に「キングコング」と「レゴバットマン」を観たっきり劇場での映画鑑賞が出来なかったのだが、終盤になって何とか新たに1作だけ観賞できた。それがディズニーの1991年の名作アニメの実写リメイク作品。ビル・コンドン監督作品、「美女と野獣」を観賞。
物語
むかしむかしのフランス。森の奥深くにある城には若く美しい王子が住んでいましたが、この王子はとてもわがままで傲慢でした。毎晩のように繰り広げられる宴の最中、一人の老婆が城を訪れ一輪の薔薇と引き換えに一晩の宿を求めましたが王子はこれを無碍に断りました。すると老婆は美しい魔女に変わり王子と城の住人たち、そして城全体に呪いをかけてしまいます。王子は醜い野獣に、召使いたちは家財道具へと姿を変えられました。魔女は言います。赤い薔薇の花びらが全て落ちて枯れ果てるその日までに王子が人を愛し愛されなければ野獣のまま二度と人には戻れないと。またお城の記憶も人々から消してしまいました。
城の近くにある村に住むベルは村一番の美しい娘でしたが読書が好きなため変わり者扱いされていました。村で一番ハンサムででも乱暴者のガストンはベルト結婚しようとちょっかいをかけてきますがベルにそのつもりはありません。ある時ベルの父モーリスが時計を納品に家を開けますが途中で道に迷い、狼から逃れてお城にたどり着きました。モーリスは城に入り暖を取ろうとして、テーブルにあった食事を勝手に取りますが、その時ティーカップが動き彼に声をかけてきた事に驚いて急いで城を後にしようとします。入り口で薔薇を見かけたモーリスはベルからのおみやげが薔薇だったことを思い出して一輪摘んだその時、恐ろしい野獣にとらわれてしまうのでした。
馬のフィリップが主人を置いて帰ってきたことに心配したベルはフィリップに乗ってお城へ向かいます。そこには囚われの身となったモーリスがいました。ベルは父親の代わりに自分が囚われとなることを申し出ます。動く家財道具たちに世話されながらベルと野獣の生活が始まり…
とまあ、あらすじをつらつら書いたけれど、もう元の作品も含め有名な物語。数年前には本家フランスの映画としてクリストフ・ガンズ監督、レア・セドゥ&ヴァンサン・カッセルによる「美女と野獣」もあったりしたけれど、本作は同名のディズニー作品の実写リメイク作品。ディズニー作品の実写リメイクというと1996年に「101匹わんちゃん」の実写リメイク「101」があったりしたけれど、現在の流れにつながるのは2014年の「眠れる森の美女」を悪役視点で描いた「マレフィセント」、2015年の「シンデレラ」、昨年の「ジャングル・ブック」などだろう。他にも「ホーンテッド・マンション」とか「パイレーツ・オブ・カリビアン」とか「トゥモローランド」みたいなディズニーランドのアトラクションの映画化なんてのもあるんだよね。
ただ、「マレフィセント」「シンデレラ」「美女と野獣」(ちょっと話がぶれるので「ジャングル・ブック」は除外)にはそれぞれ明確な製作意図の違いもあって、「マレフィセント」は自ら製作総指揮・主演したアンジェリーナ・ジョリーの強い意図が働いてかなり独自視点のリメイクと言う感じだし、「シンデレラ」は一部楽曲はそのままアニメ映画の方から使用しているものの、別物となっている部分も多く、1950年作品という古い時代の価値観から上手く21世紀の現代的視点の作品になっていた。それに比べると今回の「美女と野獣」はオリジナルが1991年という割と最近の作品というだけあって(それでも25年も前だ)、物語や設定面で特に大きく変えることなく、そのアニメ的表現をどこまで実写でバージョンアップして表現できるか、がポイントとなっていると思った。
もっとも僕は今回この実写版公開にあたって、オリジナル作品を見返すことはしなかったのだが、元々アニメの方は70年代80年代の割りとディズニー長編アニメ映画不遇の時代が続いていて、1989年の「リトル・マーメイド」とともにディズニー復活の旗印になった作品。劇場公開時こそ見ていないがTVなどで放送されればそれなりに見ていた記憶。ただ、個人的にはそんなに好きじゃなかった。でもこの実写版はすごく好きです。
ベル役はエマ・ワトソン。アニメのベルは確かいわゆるディズニープリンセスでは初の平民出身だっただろうか。そのデザインはお姫様というより活発で利発な少女、という感じで好みだった記憶(自分の一番好きなディズニーヒロインのデザインは「ヘラクレス」のメグです)。ベルと言う名前は劇中でも「美しい人」という意味と言及される通り「美女と野獣(フランス語原題La Belle et la Bête)」の美女担当。元々の童話ではそもそもこの「ベル」という名前は本名ではなく「名無しの"美女=ベル"」という感じだったそうだ。
家族構成などはディズニーオリジナル設定でレア・セドゥのベル(6人兄弟の末っ子)の方がオリジナルに近いようだが、単に心が清いというだけでなく進取の気性に富む女性として1991年の時点でも新しいタイプだったが、更にエマ・ワトソンという血肉を得たことで現代的な女性に近づいたと思う。
父親のモーリスはケビン・クラインでこれがなかなかの曲者。城に勝手に入って暖を取るまではいいが(僕だったら扉の前で開けてくれるの待ってしまうと思う)、何の躊躇もなくテーブルの料理に手を付けたり、ビビって逃げるのに薔薇をもぎるのは忘れなかったりする。この親にして娘あり、という感じ。元々はパリに住んでいてペストから逃れて村に来たという設定。野獣が魔女から送られた本でベルをパリに連れて行き、母親の死の真相を知るシーンも今回のオリジナルなのかな?映画の時代設定としてはすでにシェイクスピアが読まれているので17世紀以降フランス革命前ぐらい(ブルボン朝全盛期)の約150年ぐらいの間か。
ベルが野獣の蔵書に驚愕して「これを全部読んだの?」と尋ねて、野獣が「ギリシア語の本もあるから全部ではない」と返すのをベルがジョークとと捉えて笑うシーンがあって最初は意味不明だったんだけど、これはシェークスピア由来の「It's all Greeek to me.」という言い回しがあって、英語では「ちんぷんかんぷん」みたいな意味なんだそうです。ただ、僕個人の感じ方としては野獣は文字通りの意味で言ったのに対して、ベルが勝手に「洒落たジョーク言ってる」って好意的に捉えたような感じに見えた。
この映画の悪役はガストン。村一番のハンサムで暴れん坊、ベルには嫌われているがその他の村娘には好かれているようなキャラクター。戦争や暴力をこよなく愛する男。アニメでもそんなに魅力的には思えない。魔法を使うわけでもそれほど邪悪というわけでもないが、マレフィセントなどと並んでいわゆるディズニーヴィランとしても名を連ねる。演じているのはルーク・エヴァンスで、もうこれは役というより役者自身の魅力でかなり格好良くなっている。もちろん後半は悪役としてかなり厭らしい役柄なのだけど、前半は初登場のシーンから、酒場での踊りからかなり魅力的である。やはりアニメと違ってピタッと当てはまる役者に恵まれると実写はそれで魅力が倍増するなあ。ルーク・エヴァンス、以前は「美男子だとは思うけど、僕個人はそれほど魅力は感じない」枠の役者だったのだが、ここ数年でその魅力が分かってきた。このつぎに劇場鑑賞予定作品は「ワイルド・スピードICE BREAK」でまたルーク・エヴァンスですよ。
ルーク・エヴァンスはそのキャリアの最初の方から同性愛者であることをカミング・アウトしていて、かと言って、それで演じる役が制限されたりしたことはないそうなのだが、面白いのはこのルーク・エヴァンス演じるガストンの腰巾着としてル・フウというキャラクターがいる。これが明らかに同性愛者として描かれていて、ガストンに恋い焦がれているが相手にはされていない(友人としてそれなりに重宝されてはいる)。これはおそらくアニメではなく今回新しく設定された描写だと思うが、このル・フウのキャラクターがいることで同時にガストンにも深みが出ている。ル・フウはガストンの最も近くにいるため、同時にその心の醜さに最初に気付く。
先述した通りベルは元々「美女」という意味だし、城の召使い=家財道具たちの名前も「ルミエール=光」であったり、「ポット夫人」であったり多分に駄洒落ネーミングなんだけど、「ル・フウ=LeFou」もフランス語で「愚か者」とかそんな意味である。有名なところではフランスヌーヴェルヴァーグ作品「気狂いピエロ」の原題が「Pierrot Le Fou」で日本語の「気狂い」の部分にあたるのですな*1。いわゆる道化師でありこのル・フウも笑いの多くの部分を担当していたりするが、それ故時に冷徹に作品世界を俯瞰するキャラクターともいえよう。最後は報われるので良かったです。
僕は初回を日本語吹替で観て、それはそれで十分満足だったのだけど(錚々たる実力者が歌の部分も吹き替えている)、エマ・ワトソン以外の出演者を特に知らずに観た。で、驚いたのですよ。プロローグ部分のお城のシーンでスタンリー・トゥッチがいるなあ、というのはなんとなく気づいたのだけど、この家財道具に変えられた召使たちがそうそうたる面々。ポット夫人はエマ・トンプソン。時計に変えられたコグスワースはイアン・マッケラン。ピアノ(クラヴィコード?オルガン)のマエストロ・カデンツァがスタンリー・トゥッチ。そして、燭台のルミエールがなんとユアン・マクレガー!もうユアン出てるなら出てるって言ってよ!特にユアンとエマ・トンプソンはメインもサブも含めたくさん歌う楽曲があるのですよ。
というわけで作品そのものは吹替版で十分満足だったのだけど、今度は最初からユアンが歌っているんだ、という認識を持って字幕版に挑戦。もうね、ユアンの歌が魅力的なのは「ムーラン・ルージュ」はじめとするいくつかの作品で十分証明されているので、それを堪能するために二回目を観た。観てない作品いっぱいあるのに。
いややっぱり、ユアンの歌声は魅力的。歌のアルバムとか出してくれれば絶対買うのに。ユアンはじめ役者本人が顔を出すのは最後の最後なのだけど、声だけで十分ユアンと認識できる。もちろんその他のキャストも素晴らしかったです(特にエマ・トンプソン)。一番歌声が不安定だったのは主演のエマ・ワトソンだったかもしれないけれど、これは若さの証明でもありむしろその不安定さがキャラクターの新鮮さを表現している。
で、僕はこの作品で初めて知ったのだけど、ルミエールの恋人であるプリュメット役のググ・バサ=ローも、マダム・ド・ガルドローブ役のオードラ・マクドナルドも黒人。またベルの村で役人(図書館司書?)も黒人。比較的社会的上位階層のキャラクターとして黒人が配役されていて、この辺は多分リアルな史劇であれば通常ありえない配役。実際「ポリコレに配慮したのか」とか文句を言っている意見も見受けられた。ただ、これは舞台の配役だと思うと全然変な感じはしない。作品そのものがファンタジーであるし、ミュージカルという特性上、舞台的配役を映画でもしたものと思えて僕は全然不自然には感じなかった
あ、肝心の野獣を忘れていた。「美女と野獣」の映像化における「呪いが解けた王子様より野獣の姿のほうが格好良いじゃん!」の法則は今回も健在。演じているのはイギリス出身のダン・スティーヴンスで、僕が過去に観た中では「ナイト・ミュージアム3」の蝋人形のランスロット役で出ていた。もちろんいかにも王子様と言った感じのハンサムだが、野獣の渋く低く響く声、ライオンとビッグホーンを足したような精悍なルックスに比べると物足りなくなってしまう。特に変哲のない特徴のないハンサム、に落ち着いていしまうのだなあ。これは野獣姿が格好良すぎるのも問題かも。若くて特徴のないハンサムではあかんと、ガンズ版では爬虫類顔でキャリアも十分なヴァンサン・カッセルが野獣役だったが、それでもなお「野獣のほうが格好いい」って感じになってしまったし。この辺は永遠の課題か。
とにかく真正面からアニメをそのまま実写に置き換えることに挑んだ作品で、かつこの25年の間のアップデートも(技術や見せ方だけではなく人物演出でも)きちんとされているので割りと万人におすすめです。ディズニーアニメそのものは苦手って人でも、コレは大丈夫なんじゃないかな。
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龍争虎闘 小覇王の選ぶ対決映画ベストテン!
またちょっと間が開いてしまいました(4月全然映画観てないんだよ〜。新作観てないなら観て感想書いてない奴書けやって話ですが追々)。そして間が開いた時はそうです。わっしゅさんのベストテン企画で再開です。今年の前半企画は「対決映画」!(タイトルは「燃えよドラゴン」からだけど「燃えよドラゴンはランクインしてません)
対決というと蘇我馬子と物部守屋とか、平清盛と源義朝とか、武田信玄と上杉謙信とか、柏戸と大鵬とか、長嶋と王とか、馬場と猪木とか。時代を彩るライバル関係が思い出されます。映画でもアクション映画の類は大抵主人公だけでなく悪役も魅力的でなければ作品自体が面白くはならず、その意味でほとんどの映画は「対決映画」と言えないこともないのですが、ただ今年はわっしゅさんの定めたルールがちとキツい。
- 今回は、タイトルを重視します。タイトルに、対決する両者の名前が明記されているものが対象となります。
- 『ゴジラ対メカゴジラ』は入りますが『メカゴジラの逆襲』は入らない、というのを基準にしてください。
- 洋画/邦画、実写/アニメ、劇映画/ドキュメンタリーなどの区別は問いません。
- ただし、あくまで「映画」に限ります。テレビドラマ、テレビアニメ、ネット動画などは対象外となります。
- タイトルで謳われているキャラクターたちが、作中で実際に戦っていなくてもかまいません。
- 実際に観た内容がスットコドッコイだったとしても、タイトルを見た瞬間のときめきが印象的であれば、選んでOKです。
- 迷ったときには当ベストテンの大原則である「迷ったら入れる」を採用してください。
この「タイトル重視」というのがネックになってなかなか決まりませんでした。もちろん例えばその気になれば東宝怪獣映画の中から10作、とかスーパー戦隊VSシリーズだけで選ぶ、とかも全然可能なんですが、さすがにそれでは面白みがありません。なので試行錯誤しながら選んでみました(それでもだいぶ偏りあるけどね)。
- ゴジラVSメカゴジラ(1993年 大河原孝夫監督 日本)
- フレディVSジェイソン(2003年 ロニー・ユー監督 アメリカ)
- キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(2014年 アンソニー&ジョー・ルッソ監督 アメリカ)
- 侍戦隊シンケンジャーVSゴーオンジャー 銀幕BANG!!(2010年 中澤祥次郎監督 日本)
- 続・夕陽のガンマン(1966年 セルジオ・レオーネ監督 イタリア)
- スター・トレックⅡ カーンの逆襲(1982年 ニコラス・メイヤー監督 アメリカ)
- キングコング対ゴジラ(1962年 本多猪四郎監督 日本)
- フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(1966年 本多猪四郎監督 日本)
- ガメラ対宇宙怪獣バイラス(1968年 湯浅憲明監督 日本)
- 北国の帝王(1973年 ロバート・アルドリッチ監督 アメリカ)
先述した通りアクション映画なら大抵は主人公と敵役の対決映画といえるんですが、ここではあくまで「主人公格」同士による対決を重視(そうは言えないのもありますが)。例によって一シリーズ一タイトルとしましたが、ゴジラに関しては昭和ゴジラと平成VSシリーズで別枠ということに。タイトルにそれぞれのキャラの名前が入っているというタイトル縛りが今回のルールですが、スイマセン、最後の「北国の帝王」だけはどうしても入れたくて10位という形で特別エントリーさせました。もしルール違反ということであれば9位までで計算して頂いて結構です。
特徴としては今回はタイトル縛りのせいもあって邦画が多いですね。それとやはり怪獣映画。それではそれぞれの作品を簡単に解説。独立した感想記事がある場合はそちらへのリンクも。
ゴジラVSメカゴジラ(1993年 大河原孝夫監督 日本)
平成VSシリーズ第5弾。本来は一応シリーズ最終作として制作されていて、この後、シリーズはアメリカのトライスター版(エメゴジ)へ引き継がれるはずでした。結果としてトライスター版の製作が延期され、じゃあその間にシリーズ延長しよう、となってこの作品が最終作とはならなかったのだけれど、そんなわけでシリーズ最終作として気合の入った出来栄え。
メカゴジラは昭和シリーズのものと違って流線型となり、また宇宙人の地球侵略兵器からゴジラを模した人類の対ゴジラ兵器へ(「ゴジラVSキングギドラ」で出てきたメカキングギドラの残骸が基になっている設定)。デザインの好みはあれど新しいメカゴジラを創りだしました。ちなみに生頼範義によるイラストのポスターはまだメカゴジラのデザインが決定する前に描かれたもので、昭和メカゴジラとも本編に登場したメカゴジラともまた違った格好良さがあります。
僕の個人的な思い出としては、公開時お子様たちがいっぱいいる劇場で観たのですが、メカゴジラが圧倒的な力でゴジラを痛めつけているシーン、すでにその時点でお子様たち(ゴジラやラドンに肩入れ中)が泣いたり応援したりしていたのですが、途中で機材トラブルでフィルムが停止、今まさにゴジラが殺される!というシーンでスクリーンが真っ黒になったため、劇場は子供たちの泣き叫ぶ声で阿鼻叫喚の地獄と化したのでした。そんな部分も含めて思い入れ深い作品。
シリーズはこの後、トライスター版の製作延期を受けて2作作られましたが、もうなんかやる気があんまり感じられない出来となってしまいました(特に「VSスペースゴジラ」)。なので個人的シリーズ最終作はやはり本作なのです。
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フレディVSジェイソン(2003年 ロニー・ユー監督 アメリカ)
多分明確に今回の趣旨に合致している作品。それぞれ独立したホラー映画の主人公を対決させる企画。比較的監督の個性が強くでて快作の多い「エルム街の悪夢」シリーズに対して凡作も多くなった「13日の金曜日」シリーズを「エルム街の悪夢」のニューラインシネマが権利獲得。すぐに共演ではなくきちんと「13金」シリーズを立ち直らせてからの満を持しての対決。フレディとジェイソン、それぞれの出自と個性をきちんと活かした上で最後は肉弾戦、という黄金の構成。どちらかと言うとジェイソンをヒーローに、フレディの悪巧みを打ち破るという感じか。「貞子VS伽椰子」はこの作品を反面教師にした、と監督は言っていたようだけど、個人的にはこの「フレディVSジェイソン」の足元にも及ばない出来だと思います。
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キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(2014年 アンソニー&ジョー・ルッソ監督 アメリカ)
MCUの対決映画というと「シビル・ウォー」のほうが相応しいとは思うんですが(なんたってアベンジャーズを二分しての全面対決)、タイトルの関係で「ウィンター・ソルジャー」の方を。いや、でもキャプテンアメリカ(スティーブ・ロジャース)とウィンター・ソルジャー(バッキー・バーンズ)の戦争中からの互いの関係など対比も見事で立派な対決映画だと思います。「ウィンター・ソルジャー」はサブタイトルではなくキャップと並ぶもう一つのタイトルロールと言えるし。
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侍戦隊シンケンジャーVSゴーオンジャー 銀幕BANG!!(2010年 中澤祥次郎監督 日本)
スーパー戦隊VSシリーズはオリジナルビデオとして始まったのだけれど、この1作前「劇場版炎神戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー」から劇場版となり現在に続いています。基本はその年放送中、現役の戦隊と前年の戦隊が共演するこのシリーズ。シリーズの中では「特命戦隊ゴーバスターズVS海賊戦隊ゴーカイジャーTHE MOVIE」が一番出来がいいとは思うのだけれど、個人的にはこの「シンケンジャー」と「ゴーオンジャー」の共演作が好きです。というか「シンケンジャー」が非常に評判良く、そのせいか対象年齢低めに作られた「ゴーオンジャー」は逆に不当に低い評価を受けていたと思うのだけれど、この共演作では見事に両作の個性がスイング。「ゴーオンジャー」が決して駄作ではなかったと証明した部分でも高く評価したい作品です。敵役の害統領バッチードやガイアーク三大臣のその後、とかゴーオンジャー側のキャラが光る。
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死んだら終わりなのではない。辞めたら終わりなのである!ジ・ニ・ン!
続・夕陽のガンマン(1966年 セルジオ・レオーネ監督 イタリア)
邦題は特に「対決映画」と言う感じではないですが原題は「Il buono,il brutto,il cattivo(イタリア語)」「The Good,the Bad and the Ugly(英語)」で「良い奴、悪い奴、醜い奴」と登場する三人のアウトローの属性を表しているので良しとしましょう。何度かこのブログでもエントリを書いていますが、やはりクリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラックの3人の個性が最高で、特にラストの三つ巴は映画史に残る名シーン。エンリオ・モリコーネのスコアも最高!
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スター・トレックⅡ カーンの逆襲(1982年 ニコラス・メイヤー監督 アメリカ)
スペースオペラシリーズ「スタートレック」からは2作目のこちら。哲学的に過ぎ、あまりヒットしなかった前作「TMP」から一転、TVシリーズからの人気悪役優生人類カーンを登場させた娯楽大作。カーンはのちにケルヴィンタイムラインの「スター・トレック イントゥ・ダークネス」でも出てきましたが、ベネディクト・カンバーバッチ演じるカーンと比べてリカルド・モンタルバン演じるカーンは情熱の男。カークへの復讐心も露わにエンタープライズを追い詰めます。宇宙船同士による戦闘も見どころ。物語は3作目「ミスター・スポックを探せ!」4作目「故郷への長い道」へと続く形を取るけれど、単独でも十分楽しめる作品です。
こちらは別のカーンが登場する「イントゥ・ダークネス」の記事。
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キングコング対ゴジラ(1962年 本多猪四郎監督 日本)
以前の「筋肉映画」でもランクインした怪獣映画の金字塔。アメリカのキングコング、日本のゴジラの堂々たる対決。前作「ゴジラの逆襲」にもアンギラスが登場してゴジラと戦うわけですが、この時点ではまだ「怪獣プロレス」と言われるような(ともすれば揶揄される)感じではありません。ここからゴジラに人気怪獣をぶつけるという路線が確立されます。元々はウィリス・オブライエンの企画がまわりまわって日本で映画化された作品でタイトルもキングコングが先に来ているようにどちらかと言えばキングコング主演といえるかもしれません。今後はモンスターバースの中で「Godzilla VS Kong」が予定されています。
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フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(1966年 本多猪四郎監督 日本)
僕はツイッターのプロフィールに「フランケンシュタイン大好き」と書いているぐらい(といっても好きなのは主にメアリ・シェリーの原作のほうなんだけど)なので「フランケンシュタインもの」も大好きです。前作「フランケンシュタイン対地底怪獣」の続編(といっても直接続編というよりは一応関連あるよってぐらい)。双子の巨人怪獣サンダとガイラが戦う。見た目はほぼ一緒ながら山の怪獣で人間に育てられた心優しいサンダと、海の怪獣で人間を食らうガイラの対決。東宝自衛隊といえばこれ!というメーサー殺獣光線車もこの映画がデビュー。
ガメラ対宇宙怪獣バイラス(1968年 湯浅憲明監督 日本)
ガメラシリーズからは過去に「続編映画」として「大怪獣空中戦ガメラ対ギャオス」を選んだけれど、好きなのはむしろこっちかな。日本人と外国人の子供のコンビ、東宝怪獣とは一味違ったデザインの宇宙怪獣バイラス、勧善懲悪のストーリー、そしてガメラマーチ!と昭和ガメラの定番が揃った作品。個人的に平成3部作の出来の良さは認めつつ、好きなガメラ作品といえば圧倒的に昭和ガメラです!
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北国の帝王(1973年 ロバート・アルドリッチ監督 アメリカ)
今回唯一タイトル縛りのルールから外れた作品。邦題は原題をそのまま訳したものなので、あくまでタイトルロールはリー・マーヴィンのA・ナンバーワンを指します。でも敵役となるアーネスト・ボーグナインのシャックの存在感も半端無く、言ってみれば互いに特にメリットもデメリットもないけどプライドだけの問題で相手を出し抜く物語ですからやはり主役二人の対決映画といっていいでしょう。
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惜しくも選外、という感じなのは「ルパン三世 ルパンVS複製人間」と「マジンガーZ対暗黒大将軍」あたりでしょうか。「VS複製人間」は「カリオストロの城」より好きな「ルパン三世」なんですが今回は入らず。一方「マジンガーZ対暗黒大将軍」は作品自体は大好きなんですが、タイトル重視で言った場合本当の主役剣鉄也とグレートマジンガーがないがしろっぽい気がして選びませんでした。
というか「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」がもっと文句なしの傑作だったらこんなに悩むことなかったんだよ!(それなりに好きな作品です)
地獄の創世記! キングコング:髑髏島の巨神
さて、キングコングである。僕的には怪獣と言った場合ゴジラに勝るとも劣らない存在。大好きなキャラクターで、やはりオリジナルの1933年版「キング・コング」は今でもそれこそ過去に何回も当ブログで取り上げた「荒野の七人」「大脱走」などと並んでよく見る映画の一つ。そんなキングコングが装いも新たに再登場。それも最初から2014年の「GODZILLA ゴジラ」と同じ世界観であり、将来的にゴジラと戦うことを決定づけられた通称「モンスターバース(MonsterVerse)」作品の一つとして。必然的にオリジナルに比べ変更点も多く、オリジナルをこよなく愛する僕としては期待半分不安半分で観に行ったのだった。「キングコング 髑髏島の巨神」を観賞。
物語
1944年南太平洋。とある島に不時着した日本軍とアメリカ軍のパイロット。出会った途端に激しい殺し合いをする二人であったが、その前に巨大な手が襲いかかる…
1973年、アメリカがベトナムからの完全撤退を決定したその頃、地球観測衛星ランドサットが謎の島を発見する。その島は巨大な暴風圏に囲まれていたため漂流や不時着以外ではこれまで辿りつけなかった未知の島。政府の特務機関モナーク。その一人ランダはこの島の探索のための許可を上院議員に取り付ける。遅かれ早かれソ連もこの島の存在に気付くだろう。そこに何があるかは分からないがソ連に後れを取ってはいけない…
その島〜髑髏島の探索隊にはランドサットとモナークのメンバーの他にパッカード大佐率いる米陸軍ヘリ部隊が輸送を命じられた。ランダは島の探索のために元SASでサバイバルの達人コンラッドを雇い入れる。また民間人カメラマンとして女性カメラマンウィーバーがいた。
島を取り囲む嵐を乗り越えるとそこは手付かずの自然が残る風光明媚な美しい島が。早速サイズミックという地質調査のための爆弾を投下。その振動で地層密度を調べるのだ。モナークのブルックスが島の地下に広大な空間が広がっていることを認めたその時、巨大な猿が現れ、次々とヘリを攻撃していくのだった。この島はまだ人類が挑戦するには早すぎた…
原題は「KONG:SKULL ISLAND」で邦題もほぼそれに準じているが原題にない「キング」の称号をすでに付けてしまっている(巨神というのも盛りすぎとは思う)。僕がこの作品を観る前に知っていたのは
- 舞台が1970年代であること
- コングの設定がおよそ30mでしかし、まだまだ成長中の若者であるということ
- コングはほぼ直立で動き、ナックルウォークはしないこと
- 将来的にコングとゴジラは対決するすること(ただゴジラと対決する個体が今回出てくるコングかは不明
といったあたりの情報。原題で「キング」をつけていないのはなにか意味があるのかな?と思ったのでいくら「コング」だけでは物足りないとはいえこの時点で「キングコング」としてしまうには勇み足過ぎないか?などと思ったのだった。個人的には怪獣王であるゴジラとの対決に際して「キング」の称号が付いてどちらが怪獣王に相応しいか争う、という意味もあるのではないかと思った*1。まあ結果として劇中で何度も「髑髏島の王、神」という触れ方はされるので現時点での「キング」付きの邦題も特に問題はないだろう(あるいは予定されている「GODZILLA VS KONG」でもコングとだけタイトルになっているのでこの「モンスターバース」ではあえてキング抜きのコングが正式名称なのかもしれない)。
僕はこの作品を2回観て、一回目は割りと1933年のオリジナル「キング・コング」の新しいリメイク、コング主演単独作品として観た。その点で言うと正直イマイチである。ただ二回目はモンスターバースの中の一作、すでに「GODZILLA」が前作として在り、さらに後続の作品も複数控えているという視点で見直した。やはりこの2つのどちらの視点で観るかで感想も変わってくると思う。
僕が最初に劇場で観た実写映画が1984年の「ゴジラ」である、というのは何度か書いたと思うのだが、それ以前にまだ小学校に入る前だと思ったが、親戚の家で見たのが1933年の「キング・コング」だった。小さなテレビ(持ち運べるようなやつだったので10インチもなかったと思う)で、しかも白黒の作品。子供が見て退屈しないはずがないのだが、僕はその面白さにやられてしまった。この記憶の中の面白さは割りと盛られていて、後年改めて「キング・コング」を見なおした時に、もちろん面白いけれど、あれ?こんな感じだっけ?という部分もあったりしたのだが、それ以来キングコングに関してはオリジナル原理主義者である。というかいま見ても屈指の面白さで戦前の映画とは思えないテンポの良さ。きちんとキャラクターとして確立されたコングの造形や動き。ティラノサウルスとの死闘、ラストのエンパイアステートビルでの戦闘機との対決と見せ場だらけだといっても過言ではない。
なので僕の中では1933年の「キング・コング」とその忠実なリメイクである2005年のピーター・ジャクソン監督の「キング・コング」は自分の映画史のなかでも不動の地位を占めている。
今回の「髑髏島の巨神」の解説や感想を読むと、「ただのゴリラじゃないのが良かった」とか「きちんと怪獣映画になっている」といった意見が多く見受けられて、要するに「人類の兵器なんか効きやしねえぜ!」という感じのもの。1998年のエメリッヒ版「GODZILLA」があっさり通常兵器で倒されてしまったことに対する批判にも似ているのだが、僕としてはその部分でゴジラとコングは明確に違うのだ、と言いたい。
ゴジラのデビューは1954年、コングは1933年とおよそ20年の開きがあるが、この間に第2次世界大戦という人類が見た地獄があり、さらに原爆、水爆といった核兵器の脅威が存在することでゴジラとコングが同じ怪獣と言ってもその存在価値は大きく違う。水爆によって目覚め、人類の通常兵器はほぼ通用せず、大都市東京を焼け野原にする怪獣ゴジラはいわば「黙示録の怪獣」。人類が自分の手に負えない、自ら自分たちを滅ぼしてしまいかねない科学力を手に入れたことに対する警句みたいなものがある。
コングは違う。手付かずの大自然で王として君臨していた巨大猿はやがて外部からやってきた人間に捕らえられて大都会に連れてこられる。暴れだして都会をパニックに陥れるものの、最後は人類の科学力(戦闘機)の前に敗れる。キングコングはいわば「創世記の怪獣」。まだこの時期は怪獣(大自然)と人類が対等に戦える存在であった。
だから、ゴジラの文脈での「怪獣」の意味合いで、それ以前の「怪獣」のパイオニアであるコングを語り、そうじゃないから良かった、悪かったというのはちょっとコングに酷ではないか、と思うのだ。
単なる巨大ゴリラじゃないのが良かった、というのも理解はできるものの個人的(ゴリラ大好き)にはゴリラであることと怪獣として格好いいことは矛盾しないので、この意見にもちょっと与し難い。もちろんオリジナルもまたそれよりずっとゴリラに近い描写であったPJ版にしても単なる巨大ゴリラではないのだが、そのゴリラっぽさはコングの重要なファクターだ。今回のコングは全体的なフォルムは足が短く腕が長いというゴリラやオリジナルのコングに近いものなのだが、全く直立二足歩行をし、ナックルウォークはせず、前かがみになることも殆ど無い。ほとんど前かがみ状態でナックルウォークで移動していたPJ版とは大きな違いだ(オリジナルはその中間ぐらい。前かがみの二足歩行だが急ぎの時はナックルウォークになる)。あの体型なら時と場合によってはナックルウォークしたほうがいいと思うのだがなあ。ナックルウォークによって怪獣としての威厳が損なわれるみたいなことも個人的には全く思わないです。むしろ格好良さが増す!(ただPJ版はその点で確かにゴリラに寄り過ぎたと言えるし、設定はそのままに常に前かがみになった結果、全体としてオリジナルより小さく感じてしまうという欠点はあった)
これらの見解の相違はおそらく最初に触れたキングコングがオリジナルの「キング・コング」か、ゴジラと戦った「キングコング対ゴジラ」か、という違いも大きいのではないかと思う。これまで正式なライセンスのもと作られたキングコング映画は1933年のオリジナル「キング・コング」とその続編の「コングの復讐」、その次が東宝の1962年の「キングコング対ゴジラ」と67年「キングコングの逆襲」(この2つは正続の関係なし)。そして76年にディノ・デ・ラウレンティスが製作した「キングコング」とその続編でメスのレディコングが登場する「キングコング2」。2005年のPJ版「キング・コング」と今回のレジェンダリー版「キングコング 髑髏島の巨神」の計8本となる。意外と少ないし、いずれも2本以上シリーズが続かない。もちろんその影に膨大な類似作品が存在し(「クイーン・コング」劇場で観たな)、あるいは「猿人ジョー・ヤング」やそのリメイク「マイティ・ジョー」のようなコングの遺伝子を受け継ぐ巨大ゴリラ映画もあったりするのだが。
東宝制作による「キングコング対ゴジラ」は僕も大好きな作品だが(以前筋肉映画ベストテンでランクインさせた)、ここでのコングはゴジラ(体長50m)と戦う都合上45mという巨体(現時点で最大のコング)になり、ゴジラの放射熱線もへっちゃら、更に劇中で帯電して電撃を放つなど「対ゴジラ」仕様になっている。今回(というかモンスターバースのコング)の作品にも強い影響を与えているであろう「キングコング対ゴジラ」、ちなみに日本版では引き分けとされることが多いが海外版では明確にコングが勝った!という風になっているらしいです。
本作はメイン舞台が1973年だが、1944年の南太平洋における日本とアメリカの空戦から幕を開ける。ここで共に墜落したパイロット同士が無言で殺し合うのは「太平洋の地獄」。ただ、日本兵が腰に日本刀をぶら下げ、それをスクっと抜いて立ち向かってくるさまは割りとトンデモ日本描写の一つ、という感じがしてスタート時点から良い意味で「あ、この映画はまともじゃないな」と思わせてくれる。もちろんコングはじめ怪獣が出てくるわけだから、まともじゃないのはわかっているのだけれど、いわゆる人間ドラマの部分でもどちらかと言うと「キル・ビル」に近い世界観じゃないのかと思ったりしたのだった(そういやあの映画も「サンダ対ガイラ」の影響受けてるんだっけ?)。実際の戦闘機乗りが日本刀所持して戦闘機に乗ったりしたのかは分からないけれど、刀の銘なんかから支給された物と言うよりは結構な業物という感じだった。
1973年が舞台ということで時期的には1976年版の「キングコング」を彷彿とさせる。ベトナム戦争が終わり、パッカード大佐(サミュエル・L.ジャクソン)はその憤懣やるかたない想いをこの髑髏島にぶつけている。ヘリの船隊が髑髏島に辿り着き、サイズミックを落とし、髑髏島を爆撃していくさまはまさに「地獄の黙示録」(コンラッドとマーロウの名は「地獄の黙示録」の原作「闇の奥」を書いたジョセフ・コンラッドと登場人物マーロウからの引用だろう。ちなみにPJ版でも船員のジミーが読んでいる本が「闇の奥」である)。ちなみに今回ギラーミン版の2作に関しては見返していないので、もしかしたら本作と強く関連ある部分もあるかもしれないけれど、確認できないのであまり触れません。
主人公であるコングの造形に関しては個人的にはPJ版のほうが好きです。今回はどちらかと言えば粗暴・粗野な印象が強い。ただ、初登場(ヘリ撃滅大作戦)の時はかなり人相が悪いのだが、物語の進行とともに徐々に魅力的になってくる。これは最初は観客がどちらかと言えばパッカードやコンラッドと言った人間側の視点でコングを観るのに対して中盤以降はコングに肩入れした状態で映画を観るからではないかと思う。具体的に造形も演出として最初と後半では違うような気もするんだけれど、気のせいかどうか。直立でのっしのっし歩くのは個人的にあまり好きではないというのは先に書いた通り。ゴリラというよりはイエティやビッグフット(有名なパターソン・ギムリン・フィルム)などの雪男を彷彿とさせる動き。ただスカルクローラー他相手の格闘シーンは良かったです。大蛸リバーデビルとのシーンは官能的ですらある。コングのゴジラにはない動きとしてそこは巨大とはいえ類人猿なので賢くて道具を使うところである。クライマックスでは漂流船の鎖のついたスクリューを武器として使う。おお!片腕カンフーと空とぶギロチン!
オリジナルでのティランノサウルスとの死闘はクライマックスのスカイクローラーとの死闘である程度再現されていて顎をガクガクいわせる描写も健在。ただ、オリジナルは殺した後で生死を確認するためにガクガクさせるのに対してPJ版は倒してと思ったら実は生きててしょうがなくとどめを刺すために顎をガクガクさせる。今回は中盤でガクガクさせるも最終的には口の中に手を突っ込んで内臓ごと引き釣り出すというブルータルな倒しっぷり。スカルクローラーがティランノサウルスと違って大自然の中で生きるための競争相手と言うよりは、より邪悪な意志を体現するモンスターとして設定されているので、この倒し方もコングが残酷!という印象にはならない。
コングとゴジラの大きな違いのもう一つは、コングは人間と交流できるキャラクターということである。ゴジラもいくつかの作品でそれっぽい描写がないでもないが(個人的に好きなのは「ゴジラVSキングギドラ」で戦争中にゴジラの前身ゴジラザウルスに偶然救われた土屋嘉男がゴジラと見つめ合うが、ゴジラは一瞬にやっとし(たように見える)、その直後放射熱線で土屋嘉男をビルごとふっとばすシーン)、そこはコングにはかなわない。きちんと人類の一人一人を区別する。オリジナルのコングとアン、ドリスコルの三角関係は設定としても見事だと思う。本作ではオリジナルのように特定の女性に惚れたがためにどうにかなる物語ではないが、ウィーバーがスケル・バッファロー(巨大な水牛)を助けようとしたため、コングがそれに報いようとする感じ。一方で部下をコングに殺されたパッカードはコングを殺すことを邁進し突き進む。いくらマーロウやコンラッドに「コングを殺したらスカルクローラーに立ち向かう者がいなくなる」と言われても聞く耳を持たない。パッカードの中ではコングとベトナムが一体となっていて、これを討ち果たさないと全てが無駄になる、と言う思いでもあるのだろう。パッカードは最初の方は割りと理解のある軍人という感じだが、徐々にコングに固執する凶気を覗かせる。コングの方もそれを察しているようで不倶戴天の敵となる。
それに比べるとオリジナルではドリスコルにあたるのであろうがコンラッドは割りと陰が薄い。トム・ヒドルストンが演じているから訳ありっぽい格好良さではあるのだが、あくまで物語を順調に進めるための都合の良いコマという感じはする。
オリジナルのカール・デナムにあたるのが、ジョン・グッドマン演じるランダで、彼はいろいろ謎を引っ張りつつあっさり亡くなってしまったのは残念。またモナークからはランダの他に地質学者のブルックスと生物学者のサンが同行するが、一部で話題になっていたのがサン。中国出身の女優ジン・ティエンが演じているが、見事なまでに何もしない。役に立たない代わりに足も引っ張らない。最後まで死なない。徹頭徹尾お人形さん。一説には中国共産党幹部の令嬢でそれ故にコネで出演したのだとか*2の噂も耳に挟んだけれどどうなのかしら?死なないのはまだいいんだけど、劇中全然汚れないのよね。元々色白の美人なんだろうけど、ウィーバー役のブリー・ラーソンがそれなりにジャングルで汚れて、でもそこが魅力となっているのに比べると、最初から最後までビシッと美貌を維持。添え物なら添え物でいいんだけど、妙に気になる女性ではありました。
髑髏島とスカルアイランド
オリジナルのスカルアイランド(以降、髑髏島と言ったら本作の舞台を指し、オリジナル版及びPJ版の髑髏島を指す場合はスカルアイランドと書く)はインドネシアの領域に在り、島民の原語もニアス島(インドネシアの実在の島)のものに近いとされ、実際船長がある程度会話に成功している。つまり島そのものは完全に孤立していたわけではなかった(島の中にある壁によってコングや恐竜がいる世界とは隔絶していたが)。PJ版では壁を築いた民族と1933年当時島に住んでいる民族は別という設定。尚PJ版のスカルアイランドは映画の後、数度の探索が行われたが、発見から15年後海に沈むこととなる(この設定は「コングの復讐」を受け継いでいるのだろう)。インドネシアで類人猿といえばゴリラでなくオランウータンなのだが、巨大なオランウータンといえば「ジャングル・ブック」のキングルーイである。コングとルーイを結びつけたSF考証みたいなのって何かないのかな?
本作の髑髏島はこれまでとかなり設定を変更していて、場所もインドネシアでなく南太平洋。島の住民は海岸近くの僅かな部分に生活していたスカルアイランドと違ってどちらかと言えば島の中央部の開けたところに居住地を作っている。攻撃的だった島民もどちらかと言えば親切になりマーロウによれば言語を介さず会話する人たちということとなる。コングの脅威から生贄を捧げることで村を守っていたオリジナル版と違って、スカル・クローラーの魔の手から守ってくれるコングを神として崇めているという設定。住民が温和になり、生贄とかもなくなっているので従来のスカルアイランドのイメージとは大分違う。
続編で登場する予定のモスラにそれと関連してインファント島が登場するかはまだ分からないのだけれど、本作の髑髏島にはインファント島のイメージもあるのではないか?と思ったりした。本作では地球の地下に巨大な空間がある「地球空洞説」が採用されていて、髑髏島にはその出入口となっている穴がある。スカルクローラーはそこから出てくる。ランダたちモナークの目的もそこに住んでいるであろう古代の支配者たち(ゴジラ)なのだが、その辺は本作ではまだ詳細は明かされない。
この髑髏島に1944年に不時着したのがマーロウとグンペイで敵対していた者同士最初は殺しあうが、自分たちがちっぽけと思える存在=コングの出現によって争いを止め親友となる。本編はそこから30年後のことであり、すでにグンペイは死亡。マーロウが島にやってきたコンラッドたちと出会い、島について詳細を語る。マーロウ役はジョン・C・ライリー。1944年の時にはまだ美青年と言っていい容姿だったが(二回目観たら鼻のあたりがライリーによく似てる)、30年で容姿はワイルドに。人は魔境で30年間サバイバルすると美青年でもジョン・C・ライリーになる!*3
登場するモンスターは巨大ナナフシや竹林に擬態する巨大蜘蛛、翼竜系のサイコ・バルチャーなどが登場。普通に通常の大きさの鹿なども出てくるが生態系はどうなっているのだろう?コングの最大の敵となるのがスカルクローラーでオリジナルでドリスコルがコングから逃れて崖の穴に逃れた時に襲いかかってくる前足しかないトカゲが元になっている。顔のデザインは「エヴァンゲリオン」の第3使徒サキエルなども参考にされているのだそう。複数匹登場し、クライマックスはその中でもとびきり大きい個体と対決。これまでのティランノサウルスやV-レックスと違って生存競争というよりは明確にコングや島の住人を狙っている邪悪な存在として描かれているのが特色。このスカルクローラーは地底に棲む怪獣でコングたち髑髏島の他の巨大生物とも出自が異なるようだ。「GODZILLA」のムートー(M.U.T.O.)と近い存在。「M.U.T.O.(未確認巨大陸生生命体)」という単語は巨大生物全体を指す単語として今回も登場する。
軍平とオマージュ
今回はまず日本語吹替版を観て、二度目を字幕版で観賞。コンラッドにGackt、ウィーバーに佐々木希、パッカードの部隊の一人に真壁刀義、と言ったあたりがいわゆるタレント吹替。佐々木希(結婚おめでとうございます)が下手じゃないけどなんか癖があるな、ッて感じではあったけど、特に文句を言うほどダメではなかったです。
冒頭登場するMIYAVI演じる日本兵の名はグンペイ・イカリ(碇軍平)。吹替では「グンペイ」だが字幕では「ガンペイ」となっている(ノベライズでは漢字で「軍平」)。確かにジョン・C・ライリーのマーロウの発音は「ガンペイ」に近い感じではあったのだが、日本人の名前をローマ字で書いた「Gunpei(クレジット表記)」なら表記は「グンペイ」だろう。「gun」は確かに英語発音だと「ガン」だけどこれは固有名詞だし。またこの名前は日本のゲームクリエイターで「ゲーム&ウォッチ」や「ゲームボーイ」を開発した横井軍平氏にちなんだものだという(碇はエヴァンゲリオンの碇シンジから)。遺作がそのものずばり「グンペイ」と言うタイトルのゲームであるし、その辺を考えたらこれは「グンペイ」としなければ間違いなのではないか?
と言うかですね。観る側にとっちゃオマージュとかはとりあえずどうでもいいのだけれど、グンペイならグンペイで、ガンペイならガンペイで、字幕と吹替、更にはパンフなどの表記を統一してもらわないと困るのですよ(少なくともオフィシャルのものは)。もちろんツイッター上で、軍平が自分の名前をローマ字で教えたけれど、結局マーロウはガンペイで覚えてしまってそれが直ることはなかった、みたいな考察をしている人がいたみたいにそういう裏設定があったりするのかもしれないが少なくとも劇中ではあんまり関係なかったしなあ。ちなみに字幕版の翻訳はアンゼたかし氏で監修が町山智浩氏。
オマージュといえば、この映画いわゆるオマージュ・引用が多い。それは観ている側としては楽しい部分でもあったりもするのだけれど、なんかこの映画では消化(昇華)しきれていないというか、まんまそのものを出してしまうものが多くてちょっと食傷気味ではあった。映像なら「地獄の黙示録」や「太平洋の地獄」「片腕カンフーと空とぶギロチン」といった具合。もちろん「キング・コング」からも引用されている。また登場人物の名前もコンラッド、マーロウ、碇軍平と言った感じでそのものをまんま持ってきてしまうのはちょっと気恥ずかしい。モンスターバースでは先の「GODZILLA」も渡辺謙演じる芹沢猪四郎博士(「ゴジラ」の登場人物芹沢大助博士と監督の本多猪四郎から)とか出てきてそのあからさま具合が妙に恥ずかしかったのだが、このあからさまさこそがモンスターバースの特徴なのだろうか。
監督はジョーダン・ヴォート・ロヴァーツと言う人でヒゲを蓄えたワイルドな容貌の御仁だが本作が初のメジャー大作。
KONG Will return.
二回目はリメイクではなく「GODZILLA」から続くモンスターバースの一作として観て、その点ではとても面白かったです。本編で世界観として語られたのは、モナークが「M.U.T.O.」探索のための組織であり、54年に核実験に偽装して怪獣(ゴジラ)を殺す作戦が立てられたが上手くいかなかったことぐらい。どちらも「GODZILLA」で説明されたものから特に進展はない。ただ、全て(エンドクレジット)が終わった後にコンラッドとウィーバーにブルックスとサンから語られるのが古代に実在した怪獣たち。背びれのある直立するトカゲのようなもの、巨大な蝶、巨大な翼竜、そして三つ首の龍…「元々地上は彼らの物。問題は彼らが奪い返すまでどのくらいの猶予があるか」
というわけで、モンスターバースの次回作は「GODZILLA:KING OF MONSTERS」でずばり「怪獣王ゴジラ」これは最初の「ゴジラ」の海外公開版タイトルですね。そしてモスラ、ラドン、キングギドラが登場する。前作の時点で次はモスラ、ラドン、キングギドラが出てくる、とは言われていたのだけれど、実際のものとして見ると格別。この3体が登場するということは実質的に「三大怪獣地球最大の決戦」のリメイクともいえるわけで、例えば金星人だとか小美人だとかの要素が引き継がれるのかも興味深いところ。その後で「GODZILLA VS KONG」が控えている。
予定されている続編には本作の登場人物も再び登場するとも言われているが、時代は再び現代になるはずで40年以上経っていることになるからどうなるのか。その辺も愉しみだ。
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髑髏島でともに暮らすようになって7年目。スカルクローラーによって島民に甚大な被害が出たその夜グンペイ(ノベライズでは軍平)がマーロウに尋ねる。
「一番おそろしい瞬間ってなんだった?」
「今日は相当やばかったな。お前は?」
沈黙。
「ここではじめて俺たちが会った日だ」
「はじめてコングを見たときか」
「違う。俺が一番怖かった瞬間は、やつが現れる直前、危うく親友を殺しかけたときだ」
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SING SONG KONG SING/シング
3月ももう終わり。3月下旬はゴリラだぜコングだぜ。と言う具合でゴリラをこよなく愛する僕としては楽しい映画が連続公開。他の映画を差し置いて「キングコング」と「SING/シング」を何回も観ている感じです。人類はペンギンとゴリラと猫を崇めつつ、この地球の片隅でひっそり生かさせてもらっている立場なのです。地球の主権を人類は海はペンギン、ユーラシアは猫、アフリカはゴリラに明け渡すべき!猫を、ゴリラを、そしてペンギンを讃えよ!
と、程よく電波入ったところで本題。まずは動物が歌って踊る「SING/シング」の感想です。
物語
子供の頃、舞台に魅せられたコアラのバスター・ムーンはおとなになって今や劇場の支配人だが、劇場は閑古鳥が鳴いている。なんとかかつての勢いを取り戻そうと一般人の歌唱オーディションを開催する。秘書のミス・クローリーのミスで賞金は二桁多く10万ドルと記されたチラシを見た歌に覚えのある市民たちが劇場に駆けつける。選ばれたのはゴリラの少年ジョニー、彼氏と一緒に出たものの一人だけ選ばれたヤマアラシのロッカーアッシュ、25人の子豚の母親で専業主婦のブタロジータ、楽天家のブタグンター、そして欲張りで自己中心的、自信家でもあるネズミのマイク。そして引込み事案でオーディションに失敗したものの裏方として雇われたゾウのミーナ、それぞれ複雑な事情を抱える身だ。
予算を獲得するため、バスターは友人エディの祖母で憧れのスターだったナナ・ヌードルマンを招いてリハーサルを行うことに。しかしその場で賞金10万ドルが1000ドル弱しかないことが露見し大変なことに…
本作は「ミニオンズ」「ペット」などのイルミネーション・エンターテインメント。とにかく狂騒的というか、割りとぶっ壊れた内容なのが魅力。その代表が「ミニオンズ」だったりするのだが、本作冒頭では「ILLUMINATION」のロゴの下でミニオンが歌うとその歌声で「ILLUMINATION ENTERTAINMENT」の「ILLUMINATION」部分の「MIN」「ION」つまり「「MINION」部分が壊れるという始まり方が初お目見え。今後しばらくはこれが定番となるんでしょうか。「ミニオンズ」関連次回作は「怪盗グルー」第3弾。「怪盗グルーとミニオン大脱走」が待機中。
イルミネーションの動物ものだと前作の「ペット」が合ったわけだけど、アレは人間に飼われているペットたちの人間がいない間の物語。今回は動物たちが服を着て人間同様の日常生活を送っている世界の物語ということでアニメやカトゥーンの設定としては決して珍しい世界観ではないが、近年だと昨年のディズニーの「ズートピア」が一番近いだろうか。ただ、「ズートピア」が(物語部分の社会性は置いといても)、哺乳類に限定して、更に家畜やペット、霊長類が基本的にいない世界で更に肉食獣と草食獣の間に見えない軋轢があるという設定などかなり作りこまれていて、結果として、どうしてああいう世界になったのか?といったSF的な考証をしたくなるのに対して、「SING」はもっとおおらか。漠然と人間以外の全ての動物が人間のような生活をしている、という世界観。ペンギンや鶏といった鳥類もいればミス・クローリーのような爬虫類もいる。更にはかたつむりや蜘蛛、イカや金魚といった者達まで普通に市民として暮らしている世界。物語的にも「この動物は現実における〇〇人の比喩」みたいな見方はほぼ出来ないだろう。
ちなみに僕はほとんど見なかったのだけど、今季(2017年1〜3月)は「けものフレンズ」というアニメが大好評だったようです。でも個人的には日本のアニメとかでよくある、ほぼ人間の姿に耳と尻尾、肉球つきの手をつけただけのような動物擬人化より「ズートピア」「SING」みたいなガッツリ動物が立って喋る方が全然イケる。日本のだと「メイプルタウン物語」とか。どっちがケモナーとしてより重傷なのか……
映画を観る前は本作がミュージカルなのか、それとも単に劇中でパフォーマンスするシーンが多い映画なのか分からなかったのだが、本作は厳密にはミュージカルではない。会話形式で地のシーンで歌ったりすることはなく、歌うシーンはちゃんと劇中でも歌っている、という形式。ただ、パフォーマンスシーンは多く、ノリに合わせてテンポよく進む様はミュージカルぽくはある。
キャラクターは「ミニオンズ」や「ペット」ほど壊れていないが、それでも通常の人間が演じる物語だったら大げさに過ぎるような部分も動物が演じることで違和感なく、更に大げさになっている。
僕が「SING」を見て最初に連想したのはジャック・ブラック主演の「スクール・オブ・ロック」。ジャック・ブラック演じるダメ人間のロッカーが教員になりすまし音楽的才能にあふれる小学生をだまくらかしてバンドを組んでコンテストに出場を目論む、という物語。バスターとブラックの立ち位置やミーナとトミカの素晴らしい歌唱力を持っているけれど人前で歌うのに躊躇してしまい実力を発揮できないキャラクターなど。「子どもと動物」というヒット要素のうち、「オレは子供で動物だから大丈夫」とブラックは言ったらしいが、その動物の部分に特化したのが本作「SING」といえようか。
全部のキャラクターが素敵だけれど、個人的イチオシはロジータとマイクで、ロジータは生活に疲れた専業主婦。25人の子豚の母親で、その世話だけで毎日が終わってしまうことに疑問を感じている。この子豚たちは多分25つ子で、普通ブタは一回の出産で10数頭生まれるらしいのでブタとしても多分異例なことなのだと思う(現実のブタの例を出しても意味がないかもしれないが劇中でもベビーシッターを雇おうとして子供の人数を告げたら電話を切られるシーンがあるので、あの世界のブタの家庭でも25頭の子豚というのは異例なのではないか?)。
ロジータは理系の人である。家を開けるために一晩で家事のオートメーション化を計り実現、いわゆるピタゴラスイッチ形式で子供と夫の世話を自動化する。更に覚えられないダンスのために床に足の動きやフォーメーションを図式化したものを敷いたりする発想は、建築設計とか機械工学を学習していたのではないか、と思わせるに十分で、そんな本来ならキャリアウーマンとなっていたかもしれない女性が結婚と出産・育児(なんといっても25頭だ)のため専業主婦になった、という背景を連想する。実際、崩壊した劇場を再建する際にほんの一瞬だがロジータが陣頭指揮を執っている描写がある。
マイクは小さなネズミだが、自信満々の嫌な野郎で、それは最後まで変わらない。喘息のヒヒを恐喝するという登場の仕方をし、熊のギャングからカード勝負のインチキで大金をせしめる。結局コレが原因となって大変なことになるのだが、一応マイクもミーナの歌に感動するみたいな部分もあるが、最後はギャングに追われ、恋人?のネズミに助けられるシーンがあるがそれが最後でエピローグで登場しないので今頃なぞの行方不明者となっているかもしれない。でもそんなマイクの歌う「マイ・ウェイ」が最高にいいんだよなあ。悔しいが歌の実力と人格は関係ないのです。
他にやはりゴリラのジョニーに触れなければなるまい。家庭はファミリービジネスとして強盗を生業としている犯罪一家。ジョニーも見張りや逃走用ドライバーを担当したりしている。でも心優しいジョニーは歌手を夢見ていてギャングになる気は毛頭なく…このジョニーの心優しさはまさに理想のゴリラ。父親の強さ(刑務所の鉄格子を壁ごと破壊)を兼ね備えた立派なシルバーバックになるでしょう。シルバーバックになりたい人生だった。
本作は「ズートピア」と違ってSF的な見方は出来ない、と書いたけれど、ちょっと気になったのが刑務所のシーン。ジョニーが自分のミスで捕まった父親に面会に行くシーンが二度ほどあるのだが、ここでジョニーと父親以外の受刑者と面会者はほぼ異種族同士なのだ。この映画ではブタはブタと結婚するし、ゾウの家族はゾウだし、ゴリラの息子はゴリラなのだが、ここでは異種族同士の面会ばかり。日本だと関係者の接見を除くと面会は家族だけが許されていると思ったはずだが、アメリカではどうなのだろう(架空世界だが、ほぼアメリカ準拠のはずだ)?もしかしたらこの世界では異種族感恋愛はご法度なのか?いやそれなら面会も無理だよな?とかちょっとだけそんなことを思ってしまった。
今回は字幕版と吹替版両方観賞。原語ではマシュー・マコノヒーやリース・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソンなどが声を当てて、実際に歌っている(バスターは歌わない)。それぞれ素晴らしい歌声&パフォーマンス。普段はアニメ映画は日本語吹替版を優先するが、歌のシーンも多いし、しかもそれがオリジナルでなく既存のポップスだったりするので、字幕で原語のパフォーマンスを堪能するのも良いだろう。
しかし!吹替版も負けてはいない。ウッチャンナンチャンの内村光良、坂本真綾、長澤まさみと言った面々を揃えている。しかもパフォーマンスの部分も吹き替えているのだ。ウッチャンは普通に上手いし、長澤まさみも良かった。坂本真綾は全く問題なし。マイク役の山寺宏一は普通にオリジナルのセス・マクファーレンを超えていたようにも思う。一番タレント吹替と言う感じなのはグンター役のトレンディエンジェル斎藤さんだろう。元々グンターがパフォーマンスメンバーでは一人だけ背後の事情が描かれてなく、でも常に楽天家と言うキャラクターなのでふざけた演技も許容範囲で、しかも斎藤さんが予想以上に上手だったので坂本真綾とのパフォーマンスも申し分なかったです。ジョニー役は歌手スキマスイッチの大橋卓弥で、僕はこの人の歌手活動はあんまり知らないんだけど、本業だけあって歌は申し分なし。通常のセリフ部分はちょっとたどたどしかったけど、それはジョニーの初々しさにつながっていて良かったと思います。
吹替版でのパフォーマンスは映画オリジナルの楽曲は日本語で、既存の楽曲で元々日本語カバーのないものに関しては英語で、と言った感じだろうか。一大オーディションのシーンなんかでは基本日本語になっていたが。マイクの歌う「マイ・ウェイ」なんかはご存知布施明のカバーがあるのでそれに準じたものになっていて、英語同様の替え歌になっている。ミュージカルや歌ものの洋画吹替版の場合、ディズニーなどを除くと歌部分はオリジナルのまま字幕観賞になる、というのが多いのだが(歌まで吹き替える、となると更に手間がかかる)、本作は英語歌詞の部分でも吹替。細かい差異だが、やはり通常の会話と歌に入ってからの違和感が解消されるので本作みたいな形式は画期的。字幕も吹替もパフォーマンスの部分でそれぞれの違いはもちろんあるが、両方共素晴らしいのでその違いも含めて堪能して欲しい。
この手のファミリーアニメ映画は最近では吹替が多くスクリーンを占めてしまい、映画ファンからは文句を言われることも多いのだが、僕は基本的にこういう作品は子供が楽しめる吹替版の方が多くなるのは間違っていないと思う。本作に関しては字幕版も吹替版も同じくらいの規模で公開されているので、都合に合わせて好きな方を選択して欲しい。で、字幕を観たら吹替も、吹替版を観たら字幕も、と二度観てもらうと嬉しい。その価値はある。
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「SING」同様動物が人間同様の活躍をする世界の物語。雰囲気は全然違うけどね。
SING!
xXxは家族だぜ! トリプルX:再起動
テレビ東京の「午後のロードショー」で「ワイルド・スピード」一挙放送(といっても3作目まで)!と言う企画をしているので、これまでなんとなくテレビでやっててもながら見でイマイチ内容を把握していなかったこのシリーズを新作「ワイルド・スピード ICE BREAK」公開までにシリーズを復習しようかと思っています。ほぼ何も知らない状態で「SKY MISSION」は観たからそこまでの6作だ!
この「ワイルド・スピード」シリーズといえば主演のヴィン・ディーゼルで、シリーズの本数から言っても「リディック」シリーズと並んで彼のライフワークともいえるだろう。そんなヴィン・ディーゼルが一躍大スターとなった作品といえば「リディック(ピッチ・ブラック)」「ワイルド・スピード」両作と並ぶのが「トリプルX」でその最新作が今年公開。「トリプルX:再起動」を観賞。観たのは一ヶ月ぐらい前でもうそろそろ公開も終わりそうなんだけど、とにかくスカッとする作品なので是非観て欲しい。
物語
NSAのギボンズが人工衛星の落下という手段によって殺された。人工衛星を自在に操るという「パンドラの箱」を使用した作戦と思われたが、その事件についての会議の最中、賊が侵入し「パンドラの箱」を奪い去る。NSAのマルケはかつてギボンズが作った「xXx(トリプルX)」を再び組織する。最初に起用されたのは最初のXであるザンダー・ケイジだ。ザンダーは一癖も二癖もある仲間を招集し「パンドラの箱」を奪ったジャン一味に挑む。しかしその過程で別の真実が見えてきて…
原題は「xXx:Return of Xander Cage」で「ザンダー・ケイジの帰還」。シリーズ一作目は僕も劇場で観たと記憶するが、その後の2作目「トリプルX:ネクスト・レベル(2005)」はヴィン・ディーゼルは出演せず、アイス・キューブが主演。これが興行的に失敗したため(僕もレンタルで見たと思う)、シリーズ打ち止め状態だった。それが10年以上経って再びヴィン・ディーゼルを迎えて復活。文字通り「ザンダー・ケイジの帰還」となった。
ストーリーは単純明快。「パンドラの箱」という分かりやすい名前の装置をマクガフィンとしてこれの取り合いをメインとする。この「パンドラの箱」は地球の衛星軌道上にある人工衛星を国関係なく自在に操る、というものだが、その「自在に」の部分も「任意の地上に人工衛星を落とす」という分かりやすいもの。ストーリーで悩むことは一切ない。
というかですね。多分この映画こんなアクションシーンが撮りたいな、ってのが先にあって、各アクションシーンを上手くつなげるのを目的としてストーリーが考えだされたのではないかと思うレベルで単純明快。物語に関しては観客(というかこの場合僕)がこうなるだろうな、と予想すると見事にその通りに進行する。映画を観る時に、物語を予想しながら観るのは別段ふつうのコトだが、いつもならその予想を裏切られたことに対して快感を覚えるのだが、今回は別。全く自分の思った通りに進行するので逆にストレスが皆無。気持ちいいほどストレス無く観れました。
これはその単純な物語を凄いアクションが補完してくれているので、その意味では前回書いたような「ミュージカルの手法」のミュージカル部分をアクションに置き換えた物と同質かもしれない。
キャスト的にも冷たい表情の悪そうな奴はやっぱり悪いやつだし、笑顔が素敵な奴はやっぱり良い奴だったというわかり易さ。後述するけれどドニー・イェンとトニー・ジャーの出演が今作の目玉であるのだけれど、もうこの二人最初の登場シーンで素敵な笑顔を見せてくれるので、(物語上悪人じゃなかったと判明するのはもっと後だが)この時点で「ああこの人達悪いやつじゃないな」と思ったらやっぱりそうだった、という安心仕様。
キャストも主演のヴィン・ディーゼルはじめ、味方の側は多種多様な人種・嗜好の持ち主を集めているのに、悪い奴はいかにもWASPといった風情のエリート白人だったり強面で融通のきかないタイプの軍人だったり。この現在を反映したわかり易さ(同時に色んな意味でストレスがない)が映画の魅力となる。
ヴィン・ディーセル演じるザンダーはエクストリームスポーツの第一人者で、とにかく危険なアクションが大好きという役柄。性格的には反体制で我が道を行くタイプだが映画の中では体制側に付いてしまうということでジョン・カーペンターの「ニューヨーク1997」「エスケープ・フロム・LA」のスネーク・プリスケンに近い*1。このザンダーの基本的には体制嫌いだし、普段は孤独だけど仲間は家族として大事にするというキャラクターはそれこそリディックやドムに通じるものがあるし、なんなら「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で声を担当したグルートもこのヴィン・ディーゼルキャラに含めたっていい。強面だけどどこか人懐っこいヴィン・ディーゼルの容姿もこの路線のキャラクターづくりに一役買っているだろう。タイトルに偽りなく全編にわたってこのザンダーのキャラクターでもって映画を引っ張っている。
ドニー・イェンは「パンドラの箱」を奪う犯罪グループのリーダー、ジャンを演じている。映画としてもザンダーのライバルでありザンダーとは心理戦も行う。が!実は彼はこの10年の間にギボンズのもとで活動したトリプルXであり、彼自身の確固とした目的があって動いていた人物。後半はザンダーと競いつつ共闘。たしかヴィン・ディーゼルとドニーさんが直接格闘するシーンは無かったと思うんだけど、代わりに波乗りしたり敵基地まで競争したりする。先述したけど、もう最初から笑顔が全開で悪人要素が感じられないのですよ。一応ジャン一味の中でも最後まで真意が不明ということになっているんだけど。
他にジャン一味としてデンマーク生まれのインド人女優ディーピカー・パードゥコーンが峰不二子的な魅力で一応ヒロインと言っていいのか。後はジャン一味の戦闘員としてトニー・ジャーとマイケル・ビスピン。トニー・ジャーは「マッハ!」などで主演したタイの至宝。今回は脇役だけどその分気負うこと無くとにかく元気いっぱいと言う感じで好演。ハリウッド映画はこれが初なのかな?と思ったら「ワイルド・スピード SKY MISSION」にも出ていた模様。」覚えてないぞ!見なおさなきゃ!マイケル・ビスピンは現役の総合格闘家ということで僕は初めて知ったのだけど、ジャン一味の中では目立たないものの隠し味的な活躍を見せる。
ジャン一味に立ち向かう(すぐ共闘するけど)、トリプルXチーム(紹介順逆にしたからジャン一味が主役みたいになっちゃった)はザンダーの他にアフリカで密猟者を懲らしめているアデル(ルビー・ローズ)にDJをやっていて口八丁手八丁のモテモテ男ニックにクリス・ウー。ルビー・ローズはパンク娘で銃火器の取り扱いが得意なスナイパー。クリス・ウーはEXOという中国と韓屋で活躍するグループの一員らしいです。他に常に自暴自棄的なドライバー(特攻野郎Aチームのクレイジーモンキーみたいな感じ)テニソンにロリー・マッキャン。
そして最初はNSA側の職員だけど一緒に活動していくうちにxXxの仲間となっていくメガネ娘ベッキーにニーナ・ドブレフ。一番一般人だけどオタクな部分で変人ででもかわいいタイプ。とにかく味方として出てくるキャラが人種もキャラクターも色とりどり。この辺は古臭いタイプのアクション映画じゃなくてきちんと21世紀の作品になっていると思う。
そして!本当に危機一髪の時に登場するのはアイス・キューブ!「トリプルXネクスト・レベル」の主人公ダリアス・ストーン!この「エクスペンダブルズ2」でのチャック・ノリスのような装いで登場するのが、不遇な2作目の主人公というのが泣けるじゃありませんか!これだけは僕も読めなかったよ。同時に「xXxは家族だぜ!」という映画のテーマもより強く。
映画の冒頭ではサミュエル・L.ジャクソン叔父貴がもう叔父貴以外の何者でもない感じで登場して新人スカウト(スカウト相手はネイマール!)に勤しんでいる。その直後に人工衛星が落ちてきて強い印象を残して退場するのだが、いや、もうこの時点で死んだなんて露ほども信じなかったですよ。悪馬尻直次郎曰く「主人公てのは殺されても姿を見せない時は生きてるものと相場が決まってらあな!」(byあばしり一家)てなもんですよ。そして案の定ラストは生きてて(ネイマールも!)姿を見せるのである。なぜか意味ありげに片目をサングラス状にしたメガネをかけて(特に隻眼になったとかではない模様)たりしたけれど、これは「キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー」でのニック・フューリーへのオマージュか。
アウトローたちによる擬似家族の強い絆、というのは「ワイルド・スピード」でもみられて、ちょっとしたあこがれでもある(現実にはこういう擬似家族が犯罪行為に走るととてつもなく残酷な結果をもたらすことが多々ある)。本作ではその多幸感が半端無く観終わった後の満足感は物語の単純明快さもあってとにかく元気になれる。こういう映画も必要なのだ。
xXxは家族だぜ!
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最初が最後のピーク? ラ・ラ・ランド
今年のアカデミー賞で話題になった作品。僕も「ミュージカルでエマ・ストーン主演なら観ないわけには行くまい」とは思っていたのだが、なんだかどうにも観る機会を逸してしまい、かなり遅れてしまった。ただ正直予告編を見た限りではあまり自分の好みではないな、という思いがあってそれで足が遠のいたのも事実。でも観ました。その上であえて言いますとやはり僕好みの作品では無かったです。エマ・ストーンとライアン・ゴズリング主演、デミアン・チャゼル監督「ラ・ラ・ランド」を観賞。
物語
ロサンゼルス。オーディションに落ち続けている女優志望のミアとピアノの腕は確かだが自身のジャズへのこだわりのため何事もうまくいかないセブが出会った。最初の出会いは最悪だったが、やがて(紆余曲折あって)恋に落ちる。
ミアは自分で脚本を書いて一人芝居の舞台を計画、セブも自身の音楽性とは合わないが旧友のキースの誘いを受けて彼のバンドに参加する。生活は豊かになったがやがて二人の生活はすれ違うように…
監督デミアン・チャゼルの前作「セッション」は実はまだ見ていないのだが(場外の評論家による乱闘はちょっと読んだ)、こちらもやはり予告編を見た限りだと僕好みではなさそう、という感じ。予告編で観た「ラ・ラ・ランド」の印象は「理詰めで作られていてあんまり感情に訴えてこなさそう」というもの。もちろん映画のミュージカルなんて歌と踊りとカメラワークとが複雑に作用しているわけで、きっちり絵コンテや編集、カメラワークを計算して作られているはずで、その意味では全てのミュージカル映画は理詰めであるはずなのだが、なんだか音楽のエモーショナルな部分が感じられなかった。
ストーリーは単純。ショービジネスを舞台に才能はあるけれど恵まれない男女が出会い、恋に落ち、葛藤する。確かに一つの映画としてはペラッペラだが、それは別にいいのだ。「ムーラン・ルージュ」だって突き詰めれば同じような話だ。ミュージカル映画においてはむしろ複雑な物語は邪魔でしかない場合もある。強力な音楽があればそこで歌い上げられる感情の訴えによって単純なストーリーは単純さ故に力強さを増す。
しかしこの「ラ・ラ・ランド」はミュージカルとしての音楽性もイマイチだと思う。音楽そのものは良かった。セブによって何度も奏でられるメロディーは多少飽きが来るものの作品のテーマとして機能している。ただミュージカルナンバーとしては良かったのは冒頭ロサンゼルスのハイウェイで起きるモブによるナンバーと、その後のミアとルームメイトによるナンバー。この2つがピークであとは盛り下がる一方。記憶が確かならふたり以上の掛け合いで行われる楽曲はセブが自分の部屋でピアノを弾き語りするシーンが最後で、その後にミアがオーディションで自分語りをする曲があるだけ、両方共バラードなため映画としての盛り上がりに欠ける。最初のハイウェイのシーンなんて「この感じで最後までテンションが続くのなら期待できる!」と思ったんですよ。でもここがピーク。タイトルの「ラ・ラ・ランド(LA LA LAND)」はロサンゼルスの別名であると同時に「現実離れした世界、精神状態」という意味を持つ言葉だそうで、最初の高速道路の渋滞と暑さから(季節は冬なんだけどロサンゼルスなので)逃れるようにモブの人たちが歌い踊るシーンなんてまさにこのタイトルに相応しい始まりだったんだけどなあ。あるいは音楽性はイマイチでも、通常の作品のような社会性を帯び、ミュージカルでなく普通の劇映画として優れている、という場合もあるだろう。
主人公二人もスタート地点で「嫌なやつ」として始まっているので、感情移入するまで時間がかかる。特にセブは自身の理想とするジャズ、ジャズバーなどにこだわっていて他の音楽を見下しているフシがあるのでキツい。ミュージカルではない(劇中でも演奏しているシーン)がパーティーの80年代カバーバンドによるa-haの「テイク・オン・ミー」だったり、あるいはキースのバンドによるライブシーンが音楽の盛り上がりとは別に「不本意に嫌々やってる音楽」という位置づけのため辛い。ミアの映画・俳優としての視点もジャズほどではないしろ「過去を理想とし、現在はダメ」という価値観があったりする。後述するが「幻想のハリウッド」という感じだ。
あとこの映画の欠点はドラマ部分とミュージカル部分があまり一致していなくて普通の台詞のやりとりでドラマを進行させた後、締めで歌も、ッて感じになってる部分がある。何度かあるミアとセブの口論シーンなんてその口論を掛け合いで歌として魅せてくれよ!と思うのだが普通にドラマとして演出されてしまう。そこで歌わないでどうする?
映画を事前に見る前に話題になってたと思われるのが映画館でのシーン。セブがミアを「理由なき反抗」のリバイバル上映に誘うのだが、ミアは当日に恋人(この時点ではまだミアとセブは付き合っていない)との食事があったため遅れる。すでに上映の始まっている映画館でミアは一番前スクリーン前に立ちセブの姿を探す。このシーンが「映画館のマナーが悪い」みたいな感じで話題になっていたのだが、僕はここはそんなに気にならなかった。実際の上映環境は分からないけれど、アメリカ映画で出てくる映画館シーンってわりとうるさいしマナーが悪いイメージもあるし、その意味ではここで描かれてるのはまだ全然マシではないか。他の客もそんなにうるさくしないイメージ。後はミュージカルなんて言ってみれば全ての状況が主演二人に奉仕するためにあるようなものなのである。だからこの二人が劇的な出会いをするために他の客が割りを食うくらいは普通。なんならここで勢い良く抱き合って他の客が拍手するぐらいあっても良かった。なのでその後の(理由なき反抗のロケ地でもある)グリフィス天文台に忍び込む(でいいんだよね?)シーンも気にならず。ただ、映画館で「理由なき反抗」の上映中にフィルムが焼け付いてしまったり、その後その映画館が潰れている描写なんかは少しイラッとした。
ラストは5年後。二人はそれぞれ成功しているが今は別れており、ミアは結婚して子供もいる。夫とふと立ち寄った店がセブの店で、ここでセブが客であるミアを見て、例のテーマ曲を演奏する。あれもう終わり?予告編であったシーン(出会い頭と思われる二人が勢い良くキスするシーン)、無かったよ、などと思って嫌な予感。やめてよ、結婚して夫も近くにいる場面でもしかしたらアレが起きるの?とか思ってたら、そこからキスから始まってすでに観たシーンの、でも全てが上手くいったであろうIFの世界を見せられる。なんだろういきなり時間改変SFに突入したのかと思ってしまった。音楽の力は凄い!と言ったってそこまでじゃねえだろ(特にセブの楽曲は)!ここでも歌はない。なんならこのシーンにエンドクレジットかぶせていればまだましだったなあ、と思うのだけれど。その後再び現実に戻り二人はアイコンタクトだけして別れる。そして終わり。
僕は映画を観ながら最近の作品では「バードマン」を連想した。あれも巧みな技術を駆使し、映像的には優れていたが、テクニカルすぎてイマイチ感情に訴えてこない作品だった。「ラ・ラ・ランド」も映像的に凄いシーンもあるけれど、全然ぴんとこない感じ。
あるいはやはり「バードマン」もそうだが、アメリカ出身でない監督が虚構溢れるブロードウェイやラスベガスのショーなど幻想のショービジネスを舞台にした映画を創り出すことがある。オランダ出身のポール・バーホーベンによる「ショーガール」とか。この「ラ・ラ・ランド」も描かれているハリウッドは実際のものというより「古きよき幻想のハリウッド」という気がしたが、このチャゼル監督アメリカ出身なのだな。パリで脚本無しでロケする映画、なんて実際ありえるのか?と思うし。香港映画なら脚本ないって言われても「だろうね」って思って気にならないけど。
僕はミュージカル映画というジャンルをこよなく愛するけれど、それはすべての作品を全面肯定するものではない。最後の大花火というか盛り上がりに欠ける構成はミュージカルとしては欠点だと思うし、音楽によって物語が補完できていない。正直僕はダメでした。
最も僕はミュージカル映画好きと言っても最初が「ウェスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」(両方共ロバート・ワイズ監督だ!)が出発点で、実はこの2作は一般にアメリカミュージカル映画の黄金期と言われる50年代の作品とはかなり趣が異なる作品。そして60年代の作品を出発点としている僕はその50年代の作品は結構苦手である。「ラ・ラ・ランド」は多分に50年代の作品を意識していると思わしき演出・描写も多く、その点で僕と合わない作品ではあったのだ。僕がつらつら書いたミュージカル映画とはこうあるべきだ!みたいなのもあくまでオレ基準なのでいや違う!と言われればそれまでだしね。
いっその事、スマートフォンを出すのをやめて、微妙に年代を特定させないようにすれば良かったのになあ、と思う。十数年後、あるいは何十年も経てば分からないけれど、現時点でスマホって特に強く現代を意識させちゃう小道具だと思うので、こういう作品ではなるべく劇中で出さないほうが良いと思う。
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映画は僕には合わなかったけれど、これは監督の思い描くミュージカルと僕の好きなミュージカルのタイプがかなり違う、つまり出来不出来よりも相性の問題も大きいとは思う。
あと、フロック・オブ・シーガルズの「I Ran (So far Away)」バカにすんじゃねえよ最高にかっこいいじゃねえか!(聖闘士星矢のアメリカでの放送で主題歌になってたらしいのだけど詳しいこと不明)。
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”死の天使”映画の傑作! ザ・コンサルタント
例えば僕の好きな映画にトム・クルーズの「アウトロー」があって、また感想書けなかったけど、キアヌ・リーヴスの「ジョン・ウィック」、デンゼル・ワシントンの「イコライザー」なども大好きなアクション映画だ。これらはチョットとした共通点があって、それは
- 一見普通の人が、
- 実は超凄腕で、
- 過去はあんまり明らかにならないが
- 独自の価値観で悪党をぶちのめす!
という作品群。更に重要なのはその「一見普通の人」を名だたる大スターが演じているということ。無名の新人や名優だけど渋い系ではなく、もうスーパースター級の売れっ子が主演なのに、劇中ではそういうオーラを極力出さない作品。最近の作品で上記3作に準じるのだとウォン・ビンの「アジョシ」やライアン・ゴズリングの「ドライヴ」なども当てはまるかもしれない。
そういった作品を僕は勝手に「死の天使」が出てくる作品と呼んでいるのだが、今回もそんな「死の天使」が活躍する作品。ベン・アフレック主演のアクション映画「ザ・コンサルタント」を観賞。TVでCMやってた時点では全く興味はなくて、映画の日にとりあえず何か観ようと思って消化試合のように観た作品ですが、現時点で今年1位です。
物語
財務省の犯罪対策本部が追っているのはマフィアのマネーロンダリングを手がける会計コンサルタント。彼は後ろ姿だけは残しても決して正体を見せなかった。
田舎町で公認会計事務所を構えるクリスチャン・ウルフ。彼は今日も愛想笑い一つせずに農場を営む老夫婦の税金対策を見事にやってのけた。その農場で遠距離から見事な射撃の腕を披露するウルフ。実は彼こそが財務省が追う「裏社会の会計コンサルタント」だったのだ。
ウルフはハイテク義手や義足を扱う「リビング・ロボ社」からの依頼で使途不明金の調査を依頼される。ウルフはたった一晩で15年分の帳簿をチェックし、見事に洗い出す。しかしウルフは社長から解雇されてしまう。最初に使途不明金の存在を指摘したデイナが狙われ、ウルフも農場で狙われるが追手を返り討ちにする。
ウルフは高機能自閉症スペクトラムであり、将来を心配する父親からありとあらゆる戦闘術を叩きこまれていたのだった。デイナを守るためロボ社の創立者ブラックバーンの屋敷に乗り込むウルフ。しかしそこにはブラックバーンが雇った凄腕ブラクストンが待ち構えていた…
先ほど上げた「死の天使」作品のうち、最も神話性が高いのはキアヌの「ジョン・ウィック」だと思うのだけど、あの作品はもう半ば俳優としての存在がファンタジー化しているキアヌ・リーヴスに拠るところも大きいと思う。過去は断片的に語られるのみ。愛すべき女性は物語開始時点ではすでに亡く、形見の愛犬を殺されたという(悪役側から見れば)些細な理由で全滅させられる。敵対する組織の首領などは最初に相手がジョン・ウィックだと知った時点で怯え始め、途中では捕まえて殺す寸前まで言っても焦り続ける。最後もうダメだと分かった時点で開き直るが、どんなにジョン・ウィックが傷めつけられても最初のアドバンテージが動かない。またホテルのオーナーや死体を片付ける男(デヴィッド・パトリック・ケリー!)など存在自体がリアルと言うよりは半ば幽界に属しているようなキャラクターも多くリアルなアクション映画とファンタジーの境目のような作品だったと思う。
この「ザ・コンサルタント」はそこまでファンタジーというわけではない。主人公ウルフの過去も丁寧に回想される。ウルフと同じような子供たちを集めた施設から始まって、母親が出て行くシーン。その後アジアの何処かの国でウルフとその弟に格闘技を習わせる父親。そしていじめっこに復讐させるシーン。こういうシーンが続くがただ回想というだけでなく、上手く伏線になっている。
原題「THE ACCOUNTANT」はズバリ「会計士」なのだが、そのままでは訳してもカタカナ邦題もわかりづらいためか邦題は「ザ・コンサルタント」に「会計コンサルタント」から来ているのだろう。コンサルタントには会計以外のものもあるが、まあこれは悪くない邦題かな、と思う。
主人公ウルフを演じるのはベン・アフレック。ご存知新バットマンに旧デアデビル。表情が豊かと言うよりは何考えてるかわからない茫洋とした演技をする印象だが、この人も紛うことなきスターであることは変わりない。もしもこれがベン・アフレックでなく他のたとえもっと演技がうまくても知名度の低い俳優が演じていたら映画自体の印象が大分変わるだろう。あのベン・アフレックが演じているからちょっとしたシーンも深み(というかおかしみ)が出ると言ってもいい。毎日同じルーティーンで同じ作業をするおかしさ、財務経理を検証する作業の前に同じマジックを何本も並べるシーンのおかしさ。秩序を乱されることに過剰に反応するも、いざ集中すると平気でホワイトボードからはみ出してガラス壁にどんどん書き出していくシーンの面白さ。ちょっとしたシーンが全て映画としての楽しさにつながっていく。もちろん脚本や演出も素晴らしいけれど、これらのシーンとか何よりベン・アフレックが演じているから面白さが倍加していると思う。
ウルフのライバルにあたるブラクストンを演じるのはジョン・バーンサル。「ウォーキング・デッド」のショーンであり、(僕はまだ見ていないが)ドラマの方の「デアデビル」のパニッシャーである。ちなみにベン・アフレックは映画のデアデビルでもあるので歴代デアデビルと共演。このブラクストンが面白くて結果として言えば彼はウルフの弟である。回想シーンでは自閉症を患うウルフの唯一の友達と紹介され、ウルフ同様父親から戦闘訓練を受けていたものの、劇中には本編では全然登場しない。だから映画を観ながら色々予想を立てたりした。実はウルフはこの弟で、兄が死んでしまってその自責の念から兄に成り代わっているのではないか?とか。でも実際はライバルであったブラクストンこそ弟であった。ではこの兄弟はなにか仲違いをしたのか?と思ったらそういうこともないではないのだが、結局は「なんだよ、兄貴じゃん!」であっさり仲直り。これまで巻き添え食って死んだブラクストンの部下や、ブラクストンの雇い主であるブラックバーンならずとも「は?」となる展開だがそれがいい!この自分たちの中での確固たるルールが存在し、世間一般のルール(普通に法律だとか、雇い主のことを守るとか)は完全にその下に位置する価値観も愉快。現実にこんな兄弟が存在したら恐怖以外の何物でもないとは思うが、フィクションの中ではとても良い。
ヒロインはアナ・ケンドリックで最初に登場した時は子供か!と思うぐらい小さく感じたのだが、一応恋愛っぽくならないでもないが、どちらかと言えば恋愛対象というよりも庇護すべき対象だったから守ったという意味合いが強い。このへんも「死の天使」作品に共通。
他にJ・K・シモンズが財務省犯罪捜査部の局長を、シンシア・アダイ=ロビンソンがその部下としてウルフを探る役を演じている。どちらかと言うとこの二人を通してウルフの正体が観客に知らされている形なのだが、シモンズからロビンソンへ世代交代する過程も上手いと思う。
後はジェフリー・タンバーがウルフの「裏の会計」としての師匠を演じている。この人は「ヘル・ボーイ」シリーズ2作でFBIのマニング局長を演じていて、印象としては「腹に一物抱えているけど、なんか憎めない人」。今回もそのイメージに違わずいわばウルフに「悪を指南」したわけだが、やはり憎めない。で、このジェフリー・タンバーが出てきた時、とっさに名前が思い出せなくて代わりに浮かんできたのがジョン・リスゴーだったのだが、直後にそのジョン・リスゴーも出てきてびっくりした。今回は一見良い人そうで実は……ッて感じなのだが、最終的には兄弟に振り回されたかわいそうな(でも別に同情はしない)人ってい印象に落ち着いたなあ。
トム・クルーズの「アウトロー」は主人公に対すす設定説明が不足していたり、推理としての真実の解明より物語の進行を優先していて、「あれ?」と思うことが多く、それによって生まれる不親切な部分がある種の魅力であったりする(僕はその部分が好きだったが、やはりだから苦手だという人もいるだろう)。それに比べるとこの「ザ・コンサルタント」は結構かっちりパズルのピースが一処に当てはまっていく作品で最期のピースをはめて全体像を見た時に「ああ、これだったのか」と分かる理想的な造りをしているとも思う。
アクション映画として見た場合、特に派手さは最後までないのだけれど、逆にその淡々としたアクションもウルフのキャラクターを上手く表現しているようで映画にあっている。
そして最後まで見た時に分かるオチも見事。とにかく現時点で今年1位。オススメ!
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