The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

最初が最後のピーク? ラ・ラ・ランド

 今年のアカデミー賞で話題になった作品。僕も「ミュージカルでエマ・ストーン主演なら観ないわけには行くまい」とは思っていたのだが、なんだかどうにも観る機会を逸してしまい、かなり遅れてしまった。ただ正直予告編を見た限りではあまり自分の好みではないな、という思いがあってそれで足が遠のいたのも事実。でも観ました。その上であえて言いますとやはり僕好みの作品では無かったです。エマ・ストーンライアン・ゴズリング主演、デミアン・チャゼル監督「ラ・ラ・ランド」を観賞。

物語

 ロサンゼルス。オーディションに落ち続けている女優志望のミアとピアノの腕は確かだが自身のジャズへのこだわりのため何事もうまくいかないセブが出会った。最初の出会いは最悪だったが、やがて(紆余曲折あって)恋に落ちる。
 ミアは自分で脚本を書いて一人芝居の舞台を計画、セブも自身の音楽性とは合わないが旧友のキースの誘いを受けて彼のバンドに参加する。生活は豊かになったがやがて二人の生活はすれ違うように…

 監督デミアン・チャゼルの前作「セッション」は実はまだ見ていないのだが(場外の評論家による乱闘はちょっと読んだ)、こちらもやはり予告編を見た限りだと僕好みではなさそう、という感じ。予告編で観た「ラ・ラ・ランド」の印象は「理詰めで作られていてあんまり感情に訴えてこなさそう」というもの。もちろん映画のミュージカルなんて歌と踊りとカメラワークとが複雑に作用しているわけで、きっちり絵コンテや編集、カメラワークを計算して作られているはずで、その意味では全てのミュージカル映画は理詰めであるはずなのだが、なんだか音楽のエモーショナルな部分が感じられなかった。
 ストーリーは単純。ショービジネスを舞台に才能はあるけれど恵まれない男女が出会い、恋に落ち、葛藤する。確かに一つの映画としてはペラッペラだが、それは別にいいのだ。「ムーラン・ルージュ」だって突き詰めれば同じような話だ。ミュージカル映画においてはむしろ複雑な物語は邪魔でしかない場合もある。強力な音楽があればそこで歌い上げられる感情の訴えによって単純なストーリーは単純さ故に力強さを増す。
 しかしこの「ラ・ラ・ランド」はミュージカルとしての音楽性もイマイチだと思う。音楽そのものは良かった。セブによって何度も奏でられるメロディーは多少飽きが来るものの作品のテーマとして機能している。ただミュージカルナンバーとしては良かったのは冒頭ロサンゼルスのハイウェイで起きるモブによるナンバーと、その後のミアとルームメイトによるナンバー。この2つがピークであとは盛り下がる一方。記憶が確かならふたり以上の掛け合いで行われる楽曲はセブが自分の部屋でピアノを弾き語りするシーンが最後で、その後にミアがオーディションで自分語りをする曲があるだけ、両方共バラードなため映画としての盛り上がりに欠ける。最初のハイウェイのシーンなんて「この感じで最後までテンションが続くのなら期待できる!」と思ったんですよ。でもここがピーク。タイトルの「ラ・ラ・ランド(LA LA LAND)」はロサンゼルスの別名であると同時に「現実離れした世界、精神状態」という意味を持つ言葉だそうで、最初の高速道路の渋滞と暑さから(季節は冬なんだけどロサンゼルスなので)逃れるようにモブの人たちが歌い踊るシーンなんてまさにこのタイトルに相応しい始まりだったんだけどなあ。あるいは音楽性はイマイチでも、通常の作品のような社会性を帯び、ミュージカルでなく普通の劇映画として優れている、という場合もあるだろう。
 主人公二人もスタート地点で「嫌なやつ」として始まっているので、感情移入するまで時間がかかる。特にセブは自身の理想とするジャズ、ジャズバーなどにこだわっていて他の音楽を見下しているフシがあるのでキツい。ミュージカルではない(劇中でも演奏しているシーン)がパーティーの80年代カバーバンドによるa-haの「テイク・オン・ミー」だったり、あるいはキースのバンドによるライブシーンが音楽の盛り上がりとは別に「不本意に嫌々やってる音楽」という位置づけのため辛い。ミアの映画・俳優としての視点もジャズほどではないしろ「過去を理想とし、現在はダメ」という価値観があったりする。後述するが「幻想のハリウッド」という感じだ。
 あとこの映画の欠点はドラマ部分とミュージカル部分があまり一致していなくて普通の台詞のやりとりでドラマを進行させた後、締めで歌も、ッて感じになってる部分がある。何度かあるミアとセブの口論シーンなんてその口論を掛け合いで歌として魅せてくれよ!と思うのだが普通にドラマとして演出されてしまう。そこで歌わないでどうする?

 映画を事前に見る前に話題になってたと思われるのが映画館でのシーン。セブがミアを「理由なき反抗」のリバイバル上映に誘うのだが、ミアは当日に恋人(この時点ではまだミアとセブは付き合っていない)との食事があったため遅れる。すでに上映の始まっている映画館でミアは一番前スクリーン前に立ちセブの姿を探す。このシーンが「映画館のマナーが悪い」みたいな感じで話題になっていたのだが、僕はここはそんなに気にならなかった。実際の上映環境は分からないけれど、アメリカ映画で出てくる映画館シーンってわりとうるさいしマナーが悪いイメージもあるし、その意味ではここで描かれてるのはまだ全然マシではないか。他の客もそんなにうるさくしないイメージ。後はミュージカルなんて言ってみれば全ての状況が主演二人に奉仕するためにあるようなものなのである。だからこの二人が劇的な出会いをするために他の客が割りを食うくらいは普通。なんならここで勢い良く抱き合って他の客が拍手するぐらいあっても良かった。なのでその後の(理由なき反抗のロケ地でもある)グリフィス天文台に忍び込む(でいいんだよね?)シーンも気にならず。ただ、映画館で「理由なき反抗」の上映中にフィルムが焼け付いてしまったり、その後その映画館が潰れている描写なんかは少しイラッとした。
 ラストは5年後。二人はそれぞれ成功しているが今は別れており、ミアは結婚して子供もいる。夫とふと立ち寄った店がセブの店で、ここでセブが客であるミアを見て、例のテーマ曲を演奏する。あれもう終わり?予告編であったシーン(出会い頭と思われる二人が勢い良くキスするシーン)、無かったよ、などと思って嫌な予感。やめてよ、結婚して夫も近くにいる場面でもしかしたらアレが起きるの?とか思ってたら、そこからキスから始まってすでに観たシーンの、でも全てが上手くいったであろうIFの世界を見せられる。なんだろういきなり時間改変SFに突入したのかと思ってしまった。音楽の力は凄い!と言ったってそこまでじゃねえだろ(特にセブの楽曲は)!ここでも歌はない。なんならこのシーンにエンドクレジットかぶせていればまだましだったなあ、と思うのだけれど。その後再び現実に戻り二人はアイコンタクトだけして別れる。そして終わり。

 僕は映画を観ながら最近の作品では「バードマン」を連想した。あれも巧みな技術を駆使し、映像的には優れていたが、テクニカルすぎてイマイチ感情に訴えてこない作品だった。「ラ・ラ・ランド」も映像的に凄いシーンもあるけれど、全然ぴんとこない感じ。
 あるいはやはり「バードマン」もそうだが、アメリカ出身でない監督が虚構溢れるブロードウェイやラスベガスのショーなど幻想のショービジネスを舞台にした映画を創り出すことがある。オランダ出身のポール・バーホーベンによる「ショーガール」とか。この「ラ・ラ・ランド」も描かれているハリウッドは実際のものというより「古きよき幻想のハリウッド」という気がしたが、このチャゼル監督アメリカ出身なのだな。パリで脚本無しでロケする映画、なんて実際ありえるのか?と思うし。香港映画なら脚本ないって言われても「だろうね」って思って気にならないけど。
 僕はミュージカル映画というジャンルをこよなく愛するけれど、それはすべての作品を全面肯定するものではない。最後の大花火というか盛り上がりに欠ける構成はミュージカルとしては欠点だと思うし、音楽によって物語が補完できていない。正直僕はダメでした。
 最も僕はミュージカル映画好きと言っても最初が「ウェスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」(両方共ロバート・ワイズ監督だ!)が出発点で、実はこの2作は一般にアメリカミュージカル映画の黄金期と言われる50年代の作品とはかなり趣が異なる作品。そして60年代の作品を出発点としている僕はその50年代の作品は結構苦手である。「ラ・ラ・ランド」は多分に50年代の作品を意識していると思わしき演出・描写も多く、その点で僕と合わない作品ではあったのだ。僕がつらつら書いたミュージカル映画とはこうあるべきだ!みたいなのもあくまでオレ基準なのでいや違う!と言われればそれまでだしね。
 いっその事、スマートフォンを出すのをやめて、微妙に年代を特定させないようにすれば良かったのになあ、と思う。十数年後、あるいは何十年も経てば分からないけれど、現時点でスマホって特に強く現代を意識させちゃう小道具だと思うので、こういう作品ではなるべく劇中で出さないほうが良いと思う。

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

 音楽は(映画の中での構成を気にしなければ)良かったです。本人たちが歌っているのも吉。
 映画は僕には合わなかったけれど、これは監督の思い描くミュージカルと僕の好きなミュージカルのタイプがかなり違う、つまり出来不出来よりも相性の問題も大きいとは思う。

あと、フロック・オブ・シーガルズの「I Ran (So far Away)」バカにすんじゃねえよ最高にかっこいいじゃねえか!(聖闘士星矢のアメリカでの放送で主題歌になってたらしいのだけど詳しいこと不明)。
フロック・オブ・シーガルズ~ベスト

フロック・オブ・シーガルズ~ベスト

 ここ最近エマ・ストーン出演作品があまり楽しめなくてツラい…(エマ・ストーン自体はいつも良いんですけどね)