The Spirit in the Bottle

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失われた砂漠の都? ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝

 久しぶりの中国映画。「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」を鑑賞。副題の方は全く無視していて、「ドラゴンゲートというからにはウルティモ・ドラゴンの伝記映画に違いない」などと、ふざけていたのだが、実際詳しい内容は殆ど知らないままの鑑賞となった。最近あんまり事前に内容を知らないで観たほうが楽しめる傾向が強いなあ。もちろん、ジェット・リー主演の武侠物っぽいという程度の知識はあったのだけど。

物語

 明代、成化年間。政治は宦官による秘密警察組織である東廠と西廠に牛耳られていた。義侠の人ジャオとその仲間たちは東廠の督主ワンを倒すが、今度は西廠の督主ユーがジャオの討伐を決める。皇帝の后である万貴妃の寵愛を受けるユーは密かに皇帝の子を孕んだ官女たちを始末してきたが、官女スーだけは逃亡したという。
 一方、スーは危機一髪のところを女侠客に助けられる。この女侠客はジャオを名を騙るのだった。
 女侠客とスー、ジャオ、そしてそれらを追う東廠とユーたち、更に韃靼人の一行が龍門という辺境の砂漠の宿にたどり着く。もう少しでこの地には砂嵐が吹き荒れ全て吹き飛ばしてしまうという・・・

 クレジットが出るまで知らなかったのだが、これは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズのツイハーク(徐克)監督作品ですね。それも久方ぶりのジェット・リーとのコラボ作品。そしてこれまた全然知らなかったのだが、この作品、一応「ドラゴン・イン」という作品の続編ということらしい。後でパンフを読んで知ったのだが、物語中リン(女侠客)がかつて龍門の宿屋の女主人であったことが語られるが、その時の物語が「ドラゴン・イン」らしい。ただ、役者はもちろん、名前も変更されているので続編とリメイクの中間ぐらいの設定なのではないだろうか。もちろん「ドラゴン・イン」を観ていなくてもなんの問題もないです。ちなみに僕は「ドラゴン・イン」見てると思うんだけど全く思い出せない。一応ドニー・イェンが敵役として出てる作品です。
 ドニー・イェンと言えば同じ明代の辺境が舞台の物語ということで「処刑剣 14BLADES」を思いだしたりしていた。実際共通点は多くて「処刑剣」で出てきた組織「錦衣衛」は今回出てくる東廠の下部組織にあたる。あちらは明建国200年後ぐらいという時代設定だったが、こちらは明確に成化年間(1464年〜1484年)とされている。成化帝は「土木の変」で有名な英宗の息子。父親がアレなせい*1で色々大変な目に合っているがそれでも一時地に堕ちた明の権勢を回復した人でもあるらしい。この成化帝の妃が劇中登場する万貴妃で、劇中では30代ぐらいの妖艶な女性として出てくるが実際は成化帝より20歳ほども年が離れていて、享年は60歳。しかし、劇中でも描かれていたとおり、皇帝と他の女性との間に出来た子を殺していた、というのは史実のようだ。
 史実といえば宦官による組織東廠と西廠も実在の組織。宦官といえば日本では基本存在しないが古代より広く世界的に存在して、主に権力者の後宮の諸事を取り仕切る。後宮というのは女性の園であるから皇帝以外の男性が出入りすることは好ましくなく、去勢された男性たちが取り仕切った。本来は宮廷の私事を取り仕切るのであって政治には口出しできないが、皇后や皇帝の寵愛を受けるものも現れ政治を牛耳るものも出現。有名な宦官には秦の趙高、後漢十常侍、明の鄭和などいる。特に後漢では宦官が権力をふるい、十常侍と呼ばれる宦官たちが活躍した。一般に「前漢外戚によって滅び、後漢は宦官によって滅ぶ」などとも言われる。有名な曹操も宦官の家の出で(祖父が宦官、父が親戚である夏侯家から養子に入った)ある。
 この宦官による東廠、西廠という組織もも実在したのだな。この辺意外とリアルに作られている。

 この作品、ジェット・リー主演の武侠物だが、思いのほか女性キャストがよく、リン役杏ちゃん似のジョウ・シュンや韃靼人の王女チャン役のグイ・ルンメイ、「孫文の義士団」でも紅一点でありながらどちらかと言うと少年ぽかったグー役のクリス・リーなどが個性を発揮していた。クリス・リーは「孫文の義士団」でもアクションで大活躍だったが、特にアクション俳優と言うことでもなく本業は歌手なんだってさ。グイ・ルンメイはオリエンタルな魅力が素敵で、いつも一緒にいる巨漢もまるでロン・パールマンみたいで個性があってよかった。
 ただ個人的には一番おすすめは官女スー役のメイヴィス・ファン。皇帝の子供を妊娠して西廠の魔の手から逃げている、という設定だが、美人で可愛らしく、また低身長、そしてアクション的には役に立たないという設定なのでマスコット的な存在に。てっきりメイヴィス・ファンはまだ二十歳ぐらいかと思ったら1977年生まれの僕と同い年。とてもそうは見えない可憐さでした。ただ、劇中ではいきなり豹変するのだが、特に伏線張られていたわけでもなし、このまま可愛いスーちゃんでいて欲しかったかなあ。
 演技が達者だなあ、と思ったのは一人二役で頑張ったチェン・クンで西廠の督主ユーと情報屋であるフォンを演じている。一人二役と言うことはこの2つの役柄は容姿的にそっくりで劇中でもそういうことになっているのだが、メイク(といっても特殊メイクではなく化粧)と演技でほとんど別物に見えて言われなきゃ分からないぐらい。ユーの方は(宦官という役柄もあって)中性的な雰囲気を出している少年隊の東山紀之似、一方フォンの方は飄々として関ジャニ∞錦戸亮っぽい感じ。この演じ分けはある意味見どころでもあります。
 後は冒頭のアクションシーンで東廠の督主としてリュー・チャーフィー(ゴードン・リュー)が出てます。リュー・チャーフィーと言えば少林寺修行僧(坊主でおでこに6つの点印)だが、老いた宦官としての雰囲気を出しつつ、ジェット・リーと渡り合う。
 後は西廠の沖田浩之似の人とかも登場。この作品、敵役は基本宦官なのでどこか中性的な耽美な輩が多いです。それでもユーや沖田浩之似の他にも、手強い仮面の男や顔に「水滸伝」の青面獣の楊志のような痣があるやつとか中々に個性的でした。
 ジェット・リーはどちらかと言えばクライマックスまでは表に出ない印象があるぐらいなのだが、出てきた時にはやはり強烈な印象を残します。

 物語は主に中盤の龍門での展開を経て、後半更に「失われた砂漠の都」が登場する。この辺、ジェット・リーが「ハムナプトラ3」に出てたこともあって「ハムナプトラ」を思い出す。が、まあこちらはオカルト的な展開はなく、最後に財宝を前にしての決戦。ただ、個人的にはその前の砂嵐を前にしての戦いがめいいっぱい迫力が合ったのでここはあっさりでも良かったかなあ、と思う。
 冒頭の港を鳥瞰図的な視点で動くカメラワーク、とにかく画面奥から何かが手前に飛び出てくる描写など3Dを意識した画作りもうまく、そこはさすが「香港のスピルバーグ」と呼ばれるだけのことはあって今まで観たアクション映画の3Dでは一番ぐらいの出来かもしれない。

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 最初のウルティモ・ドラゴンネタではないが、単なるカンフー以外にもルチャのような動きもあったし、アクションも面白かったです。大活躍するのは女性陣と宦官勢という玉ナシな人たちばかりなのに一本柱が入った、ガッツリ漢の武侠映画でありました!

*1:モンゴルに親征して捕虜になった