The Spirit in the Bottle

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成龍 最後の超絶アクション昇り龍! ライジング・ドラゴン

 以前見た「ヒッチコック」の感想で、本来裏方である映画監督の中で最も顔が知られているのはアルフレッド・ヒッチコックであろう、というようなことを書いた。そこでは注釈で「もちろん、チャップリンイーストウッドジャッキー・チェンのような俳優がメインだったが、監督としても名声を得たタイプは別」とも書いたが、そのジャッキー・チェンが最後のアクション超大作!と謳った作品が「ライジング・ドラゴン」で早速鑑賞してきたのだった。もちろん、監督もジャッキー自身(脚本はスタンリー・トンなどと共同)。

物語

 かつてアロー戦争(第二次アヘン戦争)の時にイギリス・フランスによって略奪された円明園の十二支のブロンズ像。中国への返還要求が高まる中、MP社はオークションで高く売りつけるため、まだ行方のしれない5つの像の回収をトレジャーハンターJCに依頼する。JCはフランスの大富豪が隠し持っている像を狙う。そこで文化財の故国返還を要求する学生団体のココと知り合うが・・・

 ジャッキー・チェンの映画というと、僕ももちろん子供の頃から親しんでいたのだが、劇場で観た作品となるとそれほど多くなく、最近ではアンディ・ラウ主演映画にゲスト出演に近い形で出ていた「新少林寺」ぐらいで、主演作となるとブログを開始する前に観た「シャンハイ・ナイト」まで遡ってしまうので、ドニー・イェンジェット・リーに比べてもそれほど劇場では観ていない。もちろんそうは言っても大体の作品はソフト化やTV放映されれば見ている大好きな俳優である。
 そんなジャッキーだがなんといっても御年59歳。来年には還暦を迎えようという歳だが普通に考えるともうアクションはきついだろう。ましてやスタントやCGをふんだんに使うハリウッドと比べてもジャッキーのアクションは生身のアクションが売り。苦労は人一倍に違いない。ジャッキー自身はいつまでも若々しいし、動きも素人目には全然かつてと比べて衰えが見られるわけでもないがそれでも見えない衰えもあるのかな、と思う。本作はそんなジャッキーが最後にするアクション大作、ということらしい。
 邦題はおそらくクライマックスに登場する十二支の龍の像にちなんでいるのだと思うが*1、原題は「十二生肖」、英題「cz12」で十二支のことを指している(CZとはおそらく「チャイニーズ・ゾディアック」の略)。観ていなくても何の問題もないが一応「サンダーアーム/龍兄虎弟」「プロジェクト・イーグル」に続く「アジアの鷹」シリーズ第3弾。

 アクションは相変わらず素晴らしく、冒頭のローラーアクション、豪邸への忍び込み、ドーベルマンとのスラップスィックな追いかけっこ。そして秘境でのアドベンチャー、秘密工場でのバトル、ラストのスカイダイビングと見せ場の連続。エンドクレジット恒例のNGシーンを見ると、さすがに合成も使用されているようだが、それでも基本的にジャッキーが自ら体を張っているのは間違いない。冒頭のローラーアクションなどヘルメットで顔も見えにくいし、全身を車輪だらけのローラースーツで覆っているのでスタントを普通は使うだろうに*2。ところでとあるシーンではジャッキーにやられる側もジャッキーが演じてた?中盤の海賊とのシーンでは海賊にもろに「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジョニー・デップのコスプレしてたのがちょっと笑った。
 個人的にゾクゾクしたのはライバルのトレジャーハンターハゲタカとソファーで戦うシーンで、互いに「おまえなんかソファーから離れずに倒せる」と言い張り、身体の一部がソファーについたままバトルするのだが、このシーンが空間的な動きは少なく細かい動作のバトルなのだがとても良かった。ジャッキーの動きはブルース・リーなどと比べてコミカルで細かい動き、そして小道具を使った動作が特徴だが、それが凝縮されていたように思う。
 ジャッキー以外は年齢的には息子、娘と言ってもイイ若手がチームの仲間として出てくるがそれぞれにすでに恋の相手が用意されていて恋愛物にはならないのも良い。冒頭からその長い肢体を披露するボニー役のジャン・ランシン(張藍心)は途中のハゲタカの仲間の女とのバトルも良かったし(ここで敵側がアクシデントからボニーを救うという展開も良い。ハゲタカは非道なやつだが、それでもアクションを頑張る現場の人は本当の悪では無い、という描写がされてるんだよね)、恋愛というか子供を挟んでの夫婦の心理描写も物語の邪魔にならない程度にスパイスになっていた。で、そのボニーの恋人でやはり仲間のサイモンを念じていたのがクォン・サンウ。僕は「火山高」「マルチュク青春通り」などで見てはいるはずなのだが特に覚えておらず、「ライジング・ドラゴン」劇中でサイモンとボニーの子供の手紙がハングル混じりで書かれているのを見て不思議に思ったのだが、後でクォン・サンウが韓流スターだと知って納得した。
 ヒロインはヤオ・シントン姚星[丹彡]。ヒロインといってもジャッキーには奥さんがいるという設定なので恋のお相手ではない。ジャッキー映画のヒロインは「ポリス・ストーリー」シリーズのマギー・チャンが印象的(後は「レッド・ブロンクス」のフランソワーズ・イップ!)なのだが、なんとなくそのマギー・チャンに似た容貌でジャッキーの好みなのかな、などと思う。
 香港映画のヒロインはみんな基本コメディエンヌだが、今回そのコメディエンヌとしての印象が強いのがフランスの破産した富豪令嬢を演じた、キャサリンやくのローラ・ワイズベッカーで世間知らずではあるがその分すれてない令嬢をおもしろおかしく演じていた。
 ゲスト出演で仲間の1人、デヴィッドの奥さんをスー・チーが演じていて、それに伴い、JCの奥さんも誰か有名人のゲスト出演なのかな?と思っていた。僕はてっきり(ヒロインのココがなんとなく雰囲気・容貌が似ていたこともあって)マギー・チャンあたりかなあ、などとも思った。映ったのは一瞬だったのでその時点では誰だか分からなかったが、どうやら実際の奥さんらしいですね(元女優のジョアン・リン)。やはり集大成ということで完全引退状態だった奥さんにもご出演いただいたのだろうか。

参考記事

ジャッキー・チェンが元女優の妻を語る、自殺騒動でこっそり陰の人に―香港(Record China) - 海外 - livedoor ニュース
 去年の12月の記事なので文中の「チャイニーズ・ゾディアック」が十二支、つまり本作のことと思われる。しかし、日本ではジャッキーの結婚で女性ファンの自殺者まで出たのか・・・今以上に日本での人気は凄かったんだな。


 アクション部分の凄まじさに比べてドラマ部分はゆるくユーモラスな展開が続くがそれでも昨今の事情が反映されており、今回のテーマは文化財の故国返還要求。かつて大航海時代から帝国主義の時代にかけて列強が植民地やその他の国で違法に略奪したり持ちだしたりした歴史的文化財の行方というのは実際に問題になっている。大英博物館は世界中の歴史的な遺産が一堂に会する場所だが、それは同時に世界中からイギリスが略奪してきたことを示している。一処に集まっている利点ももちろんあるのだが、エジプトやその他から返還要求が出ていて、それも確かにもっともなことであるのだ。今回の中国清朝円明園もアロー号戦争の際にひどい略奪と破壊を受けている。十二支像(円明園十二生肖獣首銅像)は実際にはアロー戦争の時ではなくその後になって国外に持ちだされたようだが、円明園破壊の象徴ともなっている。数年前にもオークションで落札した中国人企業家が出品の正当性に異議を申し立て支払いを拒否したり、所有者が「中国政府がチベット政策を改めたら返還しても良い」などと発言して顰蹙を買ったはずである。
 日本はどちらかと言うと(主に韓国に対して)略奪した立場であるのだが、それでも明治維新前後に(過度な西欧化の反動もあって)江戸時代以前の文化財が国外に大量流出したりしている。日本だと最近の韓国人による対馬の観音像盗難事件、あるいは「朝鮮王室儀軌」の返還などが起きている。もちろん遠い昔の出来事で今の欧米人、日本人を断罪することは出来ないけれど、基本的には文化財は元の国の保護環境などを考慮しつつ返還するのが筋だと思う。
 映画では略奪したフランス人(の子孫)、返還要求する各国の若者の両方に配慮を示しつつ、最終的にそれらをオークションで売り払って儲けようとする企業を敵としている。敵役の親子は父がオリバー・プラットで、息子が麻生太郎似の東洋人という配置で普通に考えるとちょっとおかしな親子なのだが、そうすることで人種的民族的なバランスを取っているのかもしれない。JCの立場も最初は過去の因縁より今の利益、という感じだが、最後はココに感化されて頑張る、という感じか。

 今回は吹替版で観賞。ジャッキーといえば主にTVを通しての体験であり、その際のジャッキーの声はもれなく石丸博也氏であった。だから逆に劇場でジャッキー本人の声で観ても物足りないこともあり石丸博也の声で見直すということも多い。石丸博也は他にも「マジンガーZ」の兜甲児として有名であるが、ジャッキーにしても甲児くんにしても語尾がねちっこくなくスーっと宙に消える感じ。同時期に「ゲッターロボ」で流竜馬を演じ、後に「北斗の拳」でケンシロウを演じた神谷明のあとに残る演技とは対照的であるが、どちらも声優の声によるアクション演技のパイオニアであると思う。今回も安定のジャッキーであった。
 ラストはNGシーン集の後にジャッキーのこれまでの感謝などを込めた肉声のメッセージが流れる。はっきり言って普通ならまず許されない演出。例えばやはり引退作と謳われた(結果として違ったが)クリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」のラストでイーストウッドがこれまでの感謝などをいきなり述べ始めたら正直興ざめすると思う。でもジャッキーなら違和感ないし許される。それは多くの作品においてジャッキーが自分のキャラクターと役柄をほとんど一緒のものとして多数演じたきたことにもよるだろう。もちろん、ジャッキーが引退というのはあくまで自身がアクションをするアクションスターとしてであって俳優や監督、アクション演出家としての活躍はまだまだこれからだ。メッセージでも「引退するわけじゃないからね」と釘を刺している。でもね、多分そう遠くないうちにまたジャッキーはアクションやるんじゃないかな、という気もする。そのぐらいジャッキーのアクションは唯一無二だと思う(フォロワーはもちろんいっぱいいるが)。
 というわけでこれで終わりとは思えない。僕はまたジャッキーのアクション映画を待っているよ!

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*1:もちろんジャッキーの漢字名「成龍」にもちなんでいるのでしょう

*2:もちろんスタント併用もしてはいるのだろうけど