The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

理想の上司但し悪人

 日本の誇る国民的人気マンガ「ドラゴンボール」。その人気は未だにとどまるところを知らず、今年はついに新作のTVアニメシリーズが作られました。フジテレビ水曜7時は原作者鳥山明の「Dr.スランプ アラレちゃん」から始まって「ドラゴンボール」「同Z」「同GT」そしてリメイクである「ドクタースランプ」とおよそ20年の長きにわたって一人の作者の原作作品が放送され続けたことになります*1。新しいシリーズ「ドラゴンボール超」は「ドラゴンボールZ」をデジタル・リマスターした「ドラゴンボール改」に続いて映画作品である「ドラゴンボールZ神と神」の設定を受けて作られています。
 今年は映画の方でも新作「復活のF」が公開され、僕はそちらは見ていないんですが、敵役として宇宙の帝王フリーザが抜擢。TVなどでもフリーザを見る機会が増えました。
 で、フリーザが出てくると定期的にネットに上がってくるのが「フリーザ様は理想の上司」というネタです。後述しますが実際はフリーザ様が理想の上司などということはまずありえず、個人的にキャラとしての魅力や人気とは別に、こういうネタは正直あまり気持ちのよいものではなかったりします。
 そして今年は「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が公開されて、そこでの悪役イモータン・ジョーに対してやはり似たような「イモータン・ジョーこそ理想の指導者、上司」みたいな物がネット上で見受けられます。大部分はネタ以上のものではないのでしょうけど、個人的に嫌なのと、今後も定期的にネットに上がってげんなりさせられることが多いと思うので先に軽くこの手のネタにツッコミを入れておきたいと思います。たとえ野暮と言われようとも。

 アニメやマンガなどで悪の集団の首領、幹部を務める者は大きく2つのタイプに分けられます。簡単に行って秩序型と混沌型。組織が(個人の戦闘力重視の)実力主義であったり、首領の独裁であるとかは悪の組織である以上前提条件みたいなものなので、ほぼすべての組織に見受けられ、この点ではどこも似たり寄ったりです。秩序型・混沌型というのは首領の性格、支配の仕方とでもいうべきでしょうか。
 秩序型の悪役は自分の支配をきっちり守り、そのためにはなんでもするタイプです。逆に混沌型はその強力な力で部下を従えてはいるものの基本的には放任主義といえるでしょうか。「マッドマックス」で言うなら前者がイモータン・ジョーで後者がヒューマンガス。
 イモータン・ジョーは水という人が生きる上でもっともだいじなものの一つを支配することでシタデルに権力を築きました。シタデルはどうやらジョーが開拓しそのもとに飢えた民衆が集まってきて、それをジョーが支配するという形のようですが基本的にジョーとその一族、幹部以外は自由はありません。兵士であるウォーボーイズは靖国神社もどきの狂信的信仰で支配し、組織の歯車、それも簡単に交換可能なものとしてしか見ていないでしょう。ジョーがウォーボーイズを捨て駒としか見ていないのはニュークスに対する使い捨て(おだてて置きながら失敗すると「マヌケめ」と切り捨て)からもわかります。個人的な感想ですがおそらくジョーの理想とする社会は自分たちの身内や一部の幹部以外は完全にジョーの支配社会を機能させるための道具として生きることです。一人一機能のみを能力としそこから逸脱することを許さない。人間でありながら真社会性の昆虫のような社会だと思われます。

 一方ヒューマンガスは同じ「マッドマックス」というシリーズの悪役でもかなりイモータン・ジョーとは違っています。もちろん時代・組織の規模が違うのでいずれはジョーのようになった可能性も有りますが。ヒューマンガスは荒野の荒くれ者たちを自分の支配下に置いていますが、その支配はかなり緩いように思えます。彼らは人の命と言うものに対して徹底的に扱いが軽いですが、自由です。人も食料も不自由な世界で秩序だった社会を形成しようとすれば面白半分に殺すとかは許されることではありません。ヒューマンガスがいっときのものではなく、本当に荒野に支配体制を築こうと思ったらそういう部下の暴走を抑えなければなりませんが、その辺は自分が演説してる時にウェズが暴走したのを抑えたものぐらいでした。基本部下のやることは放任主義。荒くれ者が腕一本で好き放題できる。ある意味では真に自由な社会化もしれません。ただし弱いものには一切情けがないですが。
 ウォーボーイズはおそらく命令されなければ勝手に暴れることは許されていないと思います。映画冒頭でマックスが捕まった時も殺されずに済んだのは彼らにそんな権限はなかったからかもしれません。シタデルは管理国家であり、文字通りディストピアですが、ヒューマンガス軍団は無秩序な荒くれものの集団を一時的にヒューマンガスが抑えているという形なのかもしれません。
 フリーザは宇宙の地上げ屋で気に入った星の住民を滅ぼして売り飛ばしているということですがその力は界王でさえ力が及ばないほどでした。ここで考えてみてください。フリーザ慇懃無礼な態度、個性的な部下を多く抱えることから理想の上司扱いされることが多いですが、やはり気に入らないとすぐ殺すタイプですね。フリーザは秩序型でしょう。


 ドラゴンボールにおける混沌型悪役は最初のピッコロ大魔王です。彼はその個人の武力のみをもって世界を制し(かけ)ましたが、その公約はある意味完璧でした。法も秩序も警察もいらない世界。悪人が好きなことをし放題な世界です。そしてピッコロ大魔王の権力は彼自身の武力に拠っているため挑んでくるものはウエルカム。腕に自信のある者にとってはやり放題なわけでこれほど理想的な世界もないかもしれませんが、だからといって彼が理想の上司とはいえないでしょう。
北斗の拳」にも様々なタイプの悪役が登場しますが、理想の上司などは居るでしょうか?ラオウはもしかしたらそういう文脈で語れるキャラかもしれませんが、彼自身はそれなりに理想を持っていますが何しろ彼もまた個人の武力を最終的なたのみにしている人です、決定的に弱い人の気持ちが分かりません。また拳王軍はラオウを中心とした円心から離れれば離れるほど部下の質が落ちます。というか、拳王親衛隊とか初期はラオウに近くてもろくでもない人間しかいなかったよ…
 要するに貴方がそれらの作品世界に生まれ変わったとして、もし彼らを理想の上司・指導者として仰ぐのであれば絶えず忠誠心を示し、業績を発揮シなければなりません。その仕事の多くは星を滅ぼしたり、村を焼き払ったりすることです。そして裏切ろうとしたり、あるいはその傾向が見受けられただけで簡単に殺されてしまいます。
 例えば戦国時代を舞台にしたゲームなどではたいていプレイヤーは戦国武将となって領国経営をしたり、指揮官として戦争を主導します。しかし、実際に人が戦国時代に生まれたとしたらおそらく殆どの人は百姓になります。悪役を理想の上司・指導者というような人はその時、自分だけは支配階級やそれに準じる階級に落ち着いて最初から人を支配できる立場にいると思い込んでいるのでしょう。しかしほとんどは名もないウォーボーイズか定期的にイモータン・ジョーに水を分け与えてもらう下層民。その時でも貴方はジョーが理想の上司などと言えますか?
 それでは本当に理想の悪役はいないのでしょうか?「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」の破壊大帝メガトロンがある程度理想の上司かもしれません。でも、それは貴方がトランスフォーマー、しかもデストロンに生まれついた場合のみです。人間やサイバトロンに生まれたら彼の支配は断固として阻止しないとやはり奴隷として生かされるか全滅される運命が待っているでしょう。
 悪の首領というのは多くの作品で独裁者であり、その個人の力を正当性として組織に君臨している事が多いです。独裁者は物事を可及的速やかに決めることができるので多くの場合物語を動かします。そのために魅力に溢れています。一方主人公側と言うのは多くの場合、悪を受けての行動が多いですし、政治的な場合民主的な組織であることが多く、決断力に欠け、物語に拠っては上層部が腐敗している、などということも有ります。悪役は世界の根本的な改変を目論んでいるためドメスティックな行動が出来ますが、主人公は行動が限られ、眼の前の人を救いだすので精一杯だったリします。
 物語の構造上多くの場合、悪役が魅力的に見えることは珍しくありません。ただ肝に銘じてい欲しいのは魅力的であることは、必ずしも善ではないのです。多くの人がキャラクターの魅力とその行為をごちゃ混ぜにして「〇〇様は理想の上司!」などと言ってしまうのかと思います。現実でも独裁者の多くはカリスマ性があります。さすがに実質世襲制になっていて2世3世ともなるとそのカリスマ性は減りますが、例えば個人的にイモータン・ジョーの理想とする社会なんて北朝鮮とかなり重なると思いますけどね(そもそもウォーボーイズを縛る思想のモデルが靖国神社や特攻隊であったことを思いだそう)。そんな相手を上司に迎えても、貴方自身がよほど実力があって倫理観がぶっ飛んでいない限り、大体においてすぐ死にますよ。
 それでも、理想の悪役上司がまったくいないわけでもないので二人ほど上げて終わりたいと思います。一人は横山光輝「バビル2世」のヨミ様。彼はバビル1世の超能力を隔世遺伝で受け継いだ子孫の一人でどういう理由かバビル2世としては認められませんでしたが、そのバビル2世とほぼ同等の超能力をもちます。最初にバビル2世とヨミ様が出会った時、ヨミ様はすでに絶大な力を手に入れていました。何カ国かを支配地とししていますがちゃんと善政を敷いていて部下や国民には慕われています。またバビル2世が攻めてくるとまず自身が前線に立ちます。この人は超能力によるエネルギーの消耗が激しく(その辺でバビル2世に劣る)回復のためすぐ寝ますが、その間は部下を信頼して任せています。部下も信頼に値する優秀な人材も多いのですが、何しろバビル2世が強いので対抗できる手段がヨミ様しかおらず、すぐに「ヨミ様を起こせ」となってしまいます。それで部下を怒ることもなく自ら立ち向かうのです。とにかく勤勉な人ですね。もしもバビル2世がいなければ、あるいはすんなり彼が2世として認められていれば世界はヨミ様の支配下になっていたかもしれません。そしてヨミ様に限ってはその支配は平和でかつ慈悲に溢れたものになるような気がしてなりません。惜しい人を亡くした…

 後はぐっと規模は落ちますが、くぼたまこと天体戦士サンレッド」のフロシャイム川崎支部のヴァンプ将軍ですかね。フロシャイム自体は実は劇中でも結構ゴロツキ的怪人、ガラが悪いのも多かったりするのですが(劇中ではいつもサンレッドにあっさりやられているのですが、あの世界ではサンレッドが強すぎるのであって怪人としてはフロシャイム構成員は皆それなりに強かったりするのです)、そんな彼らをまるでおふくろさんのように暖かく躾けています。幾つかのエピソードでは実は本気出したら強いこともほのめかされていたりするのですが、やはりヴァンプ様の魅力はその主夫ぶり。一家に一人欲しいです。

 他の悪の組織は就職したくないですが、割りとヨミ様の部下やフロシャイムには入りたかったりしますね。

 というわけで悪党は所詮悪党。その倫理観からおかしいので到底理想の上司などにはなりようもないのです。

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*1:その後同枠は「ONE PIECE」が放送され、「ONE PIECE」が放映時間移動によってアニメ枠としては消滅