The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

超合神Sの黄金魂! キング・オブ・エジプト

吉村作治林完治で踏める!
 一口に神話と言ってもよく知られているギリシア神話北欧神話、日本神話などは「神統記」「スノッリのエッダ」「古事記」など個人やあるいは国家事業としてまとめられた書物が伝承の主となっていることが多いので割りと秩序だっているのだが、最も古い神話であるエジプトやメソポタミアの場合、そういうまとまった事蹟が少ないため混沌としている印象が強い。特にエジプト神話はその混沌とした部分が魅力となっているような一面も。エジプト神話を題材とした「キング・オブ・エジプト」を観賞。

物語

 まだヘリオポリスの神々と人間が共存し、神が人間に直接君臨し支配していた神代のエジプト。国王であるオシリスはその息子ホルスに王の座を譲ろと考えていた。その儀式の最中オシリスの弟で砂漠を治めるセトはオシリスを殺し、ホルスを倒して王の座を手に入れる。
 セトの圧政が始まり、奴隷となったこそ泥のベックとその恋人ザヤはセトの宝物を奪おうとするが失敗、ザヤは殺されてしまう。今や神の目を失い追放されたホルスと出会ったベックはザヤの復活を条件にホルスの王座奪還に協力する…!

 まずは題名。原題は「GODS OF EGYPT」で、文字通り「エジプトの神々」なのだが、なぜか邦題は「キング・オブ・エジプト」とスケールダウン。日本で宣伝したりタイトルを付けるにあたり、いろいろ意見はあるだろうけど、盛るのはまだ分かる。でもなぜ小さくまとめる?そりゃ確かに「エジプトの王」って言葉も何度も出てくるんだけど「ゴッド・オブ・エジプト」でも十分格好いいタイトルだろう。ポスターでもオリジナルの抽象的だけど格好いいやつから色いろあるんだろうけど、日本のそれはかなりださい。そして予告編もなんか神話の話でなくて一応史実に基づいてますよ、みたいな感じになっていて非常に疑問。セトやホルスが出てくるし、予告編でも大蛇やスフィンクスが出てくるからあくまでファンタジーってのは分かるだろうけど、なんか神話モノじゃないよ、って思わせたい感じがしてよくわからない。
 話のほうはエジプト神話の最初の方、オシリスとイシスの国造りを経てのセトとホルスの王権争いを題材に到底史実ではありえないような壮大なビジョンが繰り広げられる。この映画だけ見てもかなりめちゃくちゃで混沌とした物語なのだが、それでも実際のエジプト神話に比べると結構整理されていると思います。
 監督はアレックス・プロヤスブルース・リーの息子ブランドン・リーの遺作となったジェームズ・オバー原作の「クロウ/飛翔伝説」(大好き!)を手がけた人。「クロウ」が公開当時その暗さに対して「ティム・バートンの『バットマン』は『クロウ』に比べたら100W電球の下で撮られたように感じる」と言われたぐらいダークな画作りを作風としていた人。これは単に画面が暗い、というだけでなく物語含め映画そのものの雰囲気が陰鬱、ということだ。その後もSF大作を撮っているが総じて暗めだ。だが、本作は暗さとは無縁!むしろ眩いばかりの光に包まれている。神々は黄金に輝く。もちろん暗めのシーンもないではないが、作品全体として黄金に輝く映画、という印象を持つだろう。
 そのまるで車田正美の「聖闘士星矢」に出てくる黄金聖闘士が黄金聖衣をまとったかのようなビジュアルで、やはり北欧神話を題材とした「マイティ・ソー」なんかを彷彿とされる。というかですね、一応古代の地球のエジプトが舞台ということになっているけれど、これが地球とは別の惑星の物語で、セトに敗れ神としての力を失って地球に追放された神ホルスがニューメキシコの砂漠でナタリー・ポートマンと出会う、って話だとしてもなんの違和感もない感じです(実際マーベルにはアスガルド北欧神話)やオリンポス(ギリシア神話)に次ぐぐらいの感じでヘリオポリスの神々も出てきます)。

 エジプトの神々の映画だが、何故かアテン神*1の壁画のアップから始まる辺り、この映画のいい意味での適当さが冒頭から炸裂しているのだが、やはり主要キャラとなるのは比較的有名な神々たち。日本神話でのイザナギイザナミに当たるオシリスとイシス、その兄弟であるセトとネフティス。ホルス、ハトホル、トート、アヌビスなどが登場する。神々は人間に比べて1.5倍から2倍ぐらいでかく、人間の姿をしているがそれは本性でなく、まるでロボットのようなメカメカしい正体を持っている(ポスターの画がそれ)。
 主人公は王の弟であるセトに敗れ、追放された王子ホルスで、物語自体は典型的な貴種流離譚ともいえるのだが、まあホルスはそんなに魅力はない。遊び人系のハンサム(演じるのはニコライ・コスター=ワルドービル・プルマンアーロン・エッカートを足して割った感じ)だけどもう一人の主人公ベック共々あんまり強い印象は残さないタイプ。まあいわゆる分かりやすいヒーローなので深みに欠ける。これは割りといろんな映画で見られ、主人公で金髪のハンサムなんだけど全然印象に残らない人。「センター・オブ・ジ・アース」2作のジョシュ・ハッチャーソンなんて全然印象に残らなかったものなあ(その後「ハンガー・ゲーム」で人気爆発!オレの中で)。
 やはり登場する神々の中でも最も強い印象を残すのはセトだろう。

 セトはオシリスの弟で砂漠の多い上エジプトの神だとされる。砂漠の砂嵐を象徴する荒々しい戦争の神でツチブタの頭を持つともいわれるが残っている壁画のセトの画像は獣頭人身が多いエジプトの神々にあって、特定の動物に当てはまらない合成された架空の獣であるともされる。ホルスとの王権争いも80年近く続いていて、時には和解して一緒に寝たり(キーワード「レタス」)、あるいはホルスがトチ狂って母親イシスを殺したりもうめちゃくちゃ。映画はある程度スッキリまとめている。
 僕がセト神を知ったのはやはり北欧神話のロキ同様、ゲーム「デジタル・デビル物語 女神転生」のボスキャラとしてでその後ゲームの原作である西谷史の「女神転生」「魔都の戦士」「転生の終焉」を読んだ。なのでセトというと蛇の姿をした神様、というイメージも強いです。
 邪神として扱われることも多いセト神だが、元々強い戦争の神ということで軍人には人気があり、第19王朝ではついにセトの名を持つ王も誕生する。セティ1世がそれで「セト神の君」の意味を持つ。彼が父*2の跡を受け継いで第19王朝を安定させ、息子であるラムセス2世の繁栄の時代の礎を作ることとなる。
 セトを演じるのはレオニダス王ことジェラルド・バトラー。暴君ということになっているが圧倒的なカリスマで映画を支配する。ほぼキャラクター的にはレオニダスと変わらず、武力を頼みに頂点を目指す。父であるラーの愛情を欲していたとか細かいところはあるがもう「超合神」という肩書の上では全てが無意味。「クロニクル」の「頂点捕食者」と並ぶイカれた肩書。実質的主人公です。やはり「女神転生」で知った北欧神話題材の「マイティ・ソー」のロキは元祖トリックスターともいわれる口の旨さやヘタレた部分も見せる繊細さも魅力だったが、こちらは繊細さなど微塵も感じさせない豪快さん。あれだねロキがデスラー総統だとすればセトはズウォーダー大帝。ちなみにデスラーのネーミングは英語の「デス(死)」とエジプト神話の「太陽神ラー」の合体で「死の太陽」みたいなイメージで付けられたらしい。

 その他神様にはハトホルに「G.I.ジョー バック2リベンジ」でスネークアイズの相棒であるニンジャのジンクスを演じたエロディ・ユン。今回はアクションこそないが、名前の通り(失礼!)エロいシーンも多いです。一応ホルスに対してのヒロインでもあるのだけれど、普通に本人が強いのであんまり守られてる印象は無し。
 知恵の神トート神(トト神)はブラックパンサー=ティ・チャラことチャドウィック・ボーズマン。俗世より知識の探求の方が大事という浮世離れした感じのキャラクターだが、飄々としてユーモアもあり、セト以外ではこの映画イチオシのキャラクター。
 そしてオシリスやセトの父親で一番えらい神様であるラーを演じるのがジェフリー・ラッシュ。ラーは太陽神でもあるが、毎夜宇宙の彼方からやってくるアポピス撃退のため疲れ果てた老人という感じ。このアポピス退治にも神話ではセトは関わっていて、割りと神話の根幹的な部分はちゃんと生かされている。本来敵対するセトとアポピスだが、後世になると同一視されるあたりも映画に反映されている?ラーも神話だと最高神なのにボケ老人扱いされたりするんだよな。イメージとしてはそのボケ老人としてのラーぽくもあります。

 人間側の主人公ベックを演じるのはブレントン・スウェイツで、誰かと思ったら「マレフィセント」のフィリップ王子。あの王子様も別にいてもいなくても良かったようなキャラクターでほとんど印象に残っていなかったが、本作でも特に印象には残らず。写真だけ見ると愛嬌あるハンサムなんだけどねえ。次回作は「パイレーツ・オブ・カビリアン」の新作だそうでまた印象に残るのは難しそう。そのベックの恋人であるザヤはコートニー・イートン。スタイル抜群だけどルックスは妙に幼い感じで「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」のイモータン・ジョーの花嫁の中での末娘フラジール。僕の中では「海の向こうのふみカス(清水富美加)」ということで定着している。中盤はずっと死んでいるのでそんなに出番は多くないがただか弱いだけでなく、芯の強い部分も見せてくれる。この人はオーストラリア出身だが、ヴァネッサ・ハジェンスとかと同様、様々な人種の血を引いているのでエジプトにいても違和感はなし。今後の活躍も楽しみ。「MMFR」といえば花嫁仲間だったアビー・リー・カーショウも出てます。
 人間側でセトの腰巾着的な小者にルーファス・シーウェル。こういうコスチューム劇での悪役はもはや安定した匠の域に達している感もありますな。

 早くも一部ではカルト的な人気を集めているように思うのだけれど、凄い完成度の高い作品かといえば全然そんなことはないです。監督のアレックス・プロヤスの個性も発揮されているかといえば全然ないし。ただ作品全体に漂う混沌としつつ有無を言わせぬパワー炸裂みたいなものは題材となっているエジプト神話そのもの、という感じもあるので劇場で圧倒されてほしいなあとも思う次第。

キング・オブ・エジプト

キング・オブ・エジプト

古代エジプトうんちく図鑑

古代エジプトうんちく図鑑

エジプトはナイルの賜物!

*1:太陽から降り注ぐ光線(手)を神格化した神で、第18王朝のアクエンアテンがこのアテン神を唯一絶対の神としたことで世界初の一神教とも言われる

*2:ラムセス1世。余談だが第18王朝はアクエンアテンのアマルナ改革や有名なツタンカーメンの時代の混乱を経て弱体化していたところを直接王家と関係ないホルエムヘブがファラオとなって立て直した。ホルエムヘブには男児の跡継ぎがいなかったため部下で盟友だったラムセスにファラオを譲り第19王朝が誕生する。血筋の上ではホルエムヘブは第18王朝最後のファラオ(王女を娶っていた)とされることが多いが、実質的には第19王朝最初のファラオといったほうが正しいように思う