The Spirit in the Bottle

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暗闇に浮かぶシュワ サボタージュ

 さて、「エクスペンダブルズ3」ではゲスト以上メイン未満(だけどレギュラーではある)の出演だったアーノルド・シュワルツェネッガーであるけれど昨年本格的に俳優復帰したのはご存知の通り。復帰以降これまで3本出演作があって内2本はシルベスター・スタローン主演作品に共演という形。単独主演の「ラストスタンド」は韓国のキム・ジウンを監督に迎え骨太ながらこれまでのシュワ主演作とは一線を画す作品で復帰した後のシュワの活躍を今後も期待するには十分だった。そして「エクスペンダブルズ2」や「大脱出」といったスライ主演作でどちらかと言うとこれまでのシュワの役割を連想させる役を演じつつ、自身の主演作ではきっちりドラマのある作品としているのだった。アーノルド・シュワルツェネッガー主演、デヴィッド・エアー監督作品「サボタージュ」を観賞。

物語

 DEA麻薬取締局のジョン・ウォートンと彼のチームはこれまで数々の功績を上げ“ブリーチャー(破壊屋)”と呼ばれている。その日も潜入捜査していたチームの紅一点リジーを含む彼のチームは麻薬カルテルのアジトを襲撃しこれを成功させた。しかし彼らの本当の目的は組織の蓄えた札束を密かにせしめること。油断からチームの一人を失うものの、1,000万ドルを無事確保したかに見えた。しかし下水に隠した1,000万ドルは誰かに持ち去られ、更に横領の疑惑をかけられたウォートンは内部調査で事務職に追いやられてしまう。
 半年後、調査が終わりウォートンはチームに復帰する。結局カネの在処は不明のまま、チームが復活したことを喜ぶ隊員たち。しかしチームの一人パイロが自宅のキャンピングカーが列車に衝突して死ぬという事件が発生。事件か事故かわからぬまま今度はやはり隊員のネックが惨殺死体で発見。何者かが隊員たちを狙っている?かつて滅ぼした組織か、それとも?隊員たちに不信感が広がっていく…

 政治とは基本無縁で映画製作を続けてきたシルベスター・スタローンは「ロッキー6」と「ランボー 最後の戦場」で自身の代名詞的キャラクターに納得の行く結末を付けてからは開き直ったようにあえて新しい役柄と言うより自分のイメージに沿った役を演じているような気がするが、対照的に復帰したシュワはこれまであまり演じてこなかったような新境地のキャラクターを演じている気がする。本作の「プリーチャー」も若い隊員たちを従えるリーダーで現役ではあるがもう「おやっさん」的な役どころ。はっきり言って背広を着ていたり、ジャンパーを着込んでいたりするような格好の時はもうかつての筋肉マンぶりは伺えない。それなりに身体も小さくなり顔にも歳相応のシワが刻まれ、スライがいつ血管が破裂するか心配になりそうなほどの太い上腕を維持しているのに比べると今のシュワにかつての面影はない、と言うと言い過ぎかも知れないがそこにいるだけで超人として際立っていたかつての姿に比べると鍛えて入るけれど十分普通の人、という感じか。もちろん、小さい、普通の人といってもそれはかつてのシュワの姿との比較の話で一般人と比べれば十分マッチョマンだし大きい。それでもそういう超人すぎず、かと言って普通の素人の肉体、佇まいとも別という独特の雰囲気が「ラストスタンド」や今回「サボタージュ」にはよく似合っている。今後は過去にヒット作(ターミネーターやツインズ、コナン・ザ・グレートなど)の続編という企画もあるそうだけれど、全くアクションのないそれこそミステリーやサスペンス作品なんかもいいかもしれない。もっともどんなミステリーだろうと最後は腕力でなんとかしてしまいそうな雰囲気は健在だけど。
 ちょっと前までは「クリント・イーストウッドブルース・ウェインに『ダークナイト・リターンズ』実写映画化を!」などとよく言われていたのだが、本作を見ると今のシュワなら「DKR」のブルース・ウェインバットマンも可能なのではないかと思う。今回暗闇に浮かび上がるシュワの顔、というようなシーンも多く、肉体的にもちょうどよいのではないかと思ったりした。シュワといえば「バットマン&ロビン」ではミスター・フリーズを演じていたけれど、若いブルース・ウェインならともかく年を取り一度引退したブルースならかなり似合うと思う。元々声はアニメ版のバットマンだしね(違)。仮に「DKR」でなくともたとえば「バットマン・ザ・フューチャー」の引退して若い二代目バットマン、テリーのサポートをするブルースとかでもシュワルツェネッガーでぴったりだと思う。

 チームは荒くれ者揃いで、皆シュワより大分若い。副リーダーのモンスターはサム・ワーシントンで僕が見たのは「タイタンの逆襲」以来か。スキンヘッドにヒゲ、タトゥーという外見に加えてかなり太ったので最初は誰か分からなかった。この人は「ターミネーター4」で間接的にシュワとの共演済みか。
 「プリズナーズ」では繊細な演技を見せたテレンス・ハワードもチーム唯一の黒人隊員シュガーを。今回は飄々としたいかにもな感じか。
 他には巨漢のグラインダーがちょっと格好良かったが、やはりいちばん強烈な印象を残すのはリジー役のミレイユ・イーノスだろう。潜入捜査が専門ながら自ら銃を取って戦闘も行う。麻薬取り締まり官でありながら自身も麻薬中毒。痩せぎすで血走ったような眼光とかはいかにもジャンキーという感じ。モンスターの妻だが性的にも奔放な役柄。前編にわたってキレキレで特に後半の襲撃はもうその開き直った演技はそれこそ「猿の惑星:新世紀」のコバとかの暴れぶりに匹敵する。演じたミレイユ・イーノスは「ワールド・ウォーZ」でブラッド・ピットの奥さんを演じていた人ですね。あの時と今回とではもちろん役柄・メイク・演技ぜんぜん違うんだけどとても同じ人には見えませんね。役者凄い。
 他は警察側の人間として「ゴーストライター」でピアース・ブロスナンの前英国首相の婦人を演じたオリヴィア・ウィリアムズ。「ゴーストライター」の時に比べると結構恰幅が良くなって叩き上げの女刑事という雰囲気をうまく出している。彼女は捜査のプロフェッショナルではあるが、軍事や銃撃戦などには弱いわけで、その辺をシュワと補いながらコンビを組む。いわゆるヒロイン役はリジーとこのオリヴィア・ウィリアムズのキャロライン刑事の二人だけでどちらも歴戦の雰囲気を兼ね備えていていわゆる「助けられ型のヒロイン」が出てこないところも良かったかな。厳密に言うとそのタイプのヒロインは一応いて、しかし劇中すでにこの世にいないのだけれど。

 物語のモチーフ・プロットはアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」だそうで、たしかにその要素もあるが、ミステリーとしてはもちろんサスペンスとして見るとかなり粗は目立つ。そういう意味ではやはりアクション映画という位置づけが一番しっくりくる映画ではある。ただ、シュワのキャラが元々ただ善良なキャラクターではない複雑な心理の持ち主なので結末にびっくりするもののそんなに不自然さは感じない。もうちょっとすべてが終わった後のラストを(お金の使い方含め)緻密に描いても良かったかな、という気はしないでもないけれど。
 でも先に書いたように暗闇に浮かび上がるシュワの顔はかなり味が有り。それこそデビュー当時「ターミネーター」1作目で見せたような冷酷な悪役や「DKR」のバットマンのような役も今ならかなり似合いそうだ。さすがにもうイーストウッドで「DKR」はムリだろうからシュワで実現しないかな。

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シュワの主演前作。
 監督のデヴィッド・エアーは現在ブラッド・ピットシャイア・ラブーフら主演の戦車映画「フューリー」も公開中。こちらも評判がいいですね。

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