とある素人の靖国考 - The Spirit in the Bottle

　着々とカルト化している産経新聞だが、特に8月はその傾向が強いようだ。これが靖国神社の機関紙とかならまだしも一応全国紙ですからねえ。
　先日8月15日はいわゆる「終戦記念日」だけど民主党、菅内閣は閣僚全員が靖国神社を参拝しなかった。現代に生きる一日本人としては「当然だろ。個人としてはともかく閣僚が特定の宗教施設に参拝すんなよ」と思うだけだが産経は違うようだ。

【政治】菅内閣、全閣僚が靖国神社に参拝せず…戦没者を悼む心はどこに - MSN産経ニュース

個人的にはid:itarumurayamaさんのブコメ

産経は８月の３の倍数の日にアホになります

が秀逸。本当にその通りだから*1。
　それにしても、素人目にも靖国参拝は無理がありすぎ。その理由をいくつか。

１）靖国神社の成立事情

　靖国神社は1869年に東京招魂社として戊辰戦争の新政府側の戦死者を祭る目的で作られれた。この時点で旧会津藩出身の僕としては噴飯物。右よりの人はよく「愛国」「反日」と極端に分けたがるが例えば当時は対立こそしててもどちらも日本のためを思って戦ったはず。それを分け隔ててる時点で個人的には正当性はゼロ。戦地で死んですらいないA級戦犯なんかを祭るぐらいならまずはそういった近代日本の礎になった人たちを祭るべき。
　

２）政教分離の原則

　戦前は神道は国教（国家神道、ただしこれは従来の神道からはかなり異質だと思う）だったから当たり前だったのかもしれないが、現在は特定の宗教に肩入れしない政教分離が原則。なんで一宗教施設に過ぎない靖国神社を公式参拝しなきゃならんのか。15日には他の宗教的に中立な追悼式がありそちらに出れば十分だろ。
　　

３）合祀、分祀問題

　靖国神社には本来、祭るべきではない（戦地で死んでない）A級戦犯らが祭られてる。素人目にも戦地で死んだ人を祭るべきところにそうでない人を祭るのは失礼ではないですか。

「すべての『戦犯』の名誉は法的に回復されている。『Ａ級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない。戦争犯罪人が合祀されていることを理由に首相の参拝に反対する論理はすでに破綻（はたん）している」
初の「全閣僚、靖国参拝せず」民主党政権下で異例の８・１５ (1/2ページ) - MSN産経ニュース

　あのさあ、戦犯が戦犯でなかったら誰が責任取るのよ。それこそもっと上の人たちが取る羽目になるよ。そうならないために軍幹部の段階で止めたんでしょう。第一次世界大戦の時に敗戦国から賠償金を取りすぎたことがナチズムを生んだ、という反省に立って戦争責任を責任者に取らせることで一般国民が連合国に賠償金を払わなくてすんだんでしょうが。大体連合国に対しては「戦争を起こした責任」かもしれないが日本人にしてみりゃ「戦争に負けた責任」でしょうが。大体天皇や一部保守派にだってA級戦犯合祀に反対な人はいる。そうやって参拝者を制限してるのは靖国神社の側なのだが。

参考
【産経抄】８月１４日 - bogus-simotukareの日記

　
　後関係ないが

神社境内で開かれた戦没者追悼中央国民集会で、日本会議の三好達会長（元最高裁長官）はこう訴えた。民主党が進める永住外国人への地方参政権付与や選択的夫婦別姓などの政策阻止を主張し、１０日発表の首相談話についても「北朝鮮がわが国に対する理不尽な要求をする格好の材料を与えた」と批判した。
　境内には、首相と仙谷由人官房長官、岡田克也外相を批判する写真も地面に張り付けられていた。特定政党・政治家が名指しでこうまで批判されるのは、街宣車が行き交う１５日の靖国でも珍しい光景だ。

　神社内で政治的主張をしたり、踏絵よろしく写真を地面に貼り付けたりする行為が英霊のためによろしいとは到底思えないのだが、どうなんでしょうね。

　
　それと分祀問題が起きてるのはA級戦犯に限った話ではない。生前クリスチャンだった兵士。朝鮮、台湾など植民地から徴兵された兵士などは死んで靖国祭られることなど望んでないに違いない。彼らは本人の意思に反して勝手に祭られ実際遺族から分祀してくれという声も出ているが靖国神社側は拒否している。
　日本人の宗教的に曖昧でなあなあな部分は良い面も悪い面もあると思うがこれは悪い面。まあ、例えば日本で合法宗教としての歴史が長く実際「神仏習合」などで一緒に信仰されてきた仏教の信徒はともかく、敬虔なクリスチャンなら自身が祭られるのはもちろん参拝もしないだろう。靖国側は兵士の尊厳のためにも分祀を望む遺族の意思に答えるべき。個人的にはこちらの方がA級戦犯合祀問題より重要だと思う。僕はA級戦犯の合祀云々関係なく参拝する気はないから。
　靖国自体がかなり政治的、意図的に作り上げられたものなので神道としてはかなり異端である。人間の都合でできたものが同じ人間の都合でどうにかできないはずがない。
　
　最後に不謹慎を承知で言うと「負けた責任ぐらい取れよ！」ということだ。日本が負けた責任は誰のせい？アメリカ軍？彼らは自分の仕事をしただけだ*2。やはりここは無謀な戦争を始めバカな作戦で犠牲を大量に出した軍部と政府の責任だろう。勝ってりゃ誰も文句は言わないよ！（とはいえ、個人的には最小の被害で負けるのが一番良かったのではないかと思う）
　「国家を肯定しないなんて」、という意見も聞くが誰も現在の日本政府を否定してなんかいない。現在の体制は戦前の否定・反省から始まっているのだから戦前を擁護する輩こそ、日本を否定している「反日」に他ならないと思うがいかがか。