その出会いは自己選択 アジャストメント
1989年から始まる「バットマン」シリーズ4作のジョエル・シュマカーが監督した後半2作は一般に評判が悪いがそれでも幾つか見るべきところはあって「バットマン フォーエヴァー」のラスト近くバットマンが、
と言うシーンは素晴らしいと思っている。
いつの頃からか簡単に「運命」とか「宿命」とか使うドラマが嫌いになっている。例えどう見えようともそれは人間が選んだ結果なのだ、と思いたい。
運命をテーマにした映画「アジャストメント」を観た。
物語
ニューヨーク州選出の上院議員候補デヴィッド・ノリスは選挙を優勢に進めていたが土壇場でスキャンダル(下半身露出!)が発生し落選してしまう。落選演説をトイレで練習中に他人の結婚式に紛れ込んで警備員から隠れていたエリースという女性に出会う。彼女と出会ったことで演説を変え、それが功を奏しデヴィッドは捲土重来を計る。そんなデヴィッドを見つめる謎の男達がいた。
数日後、バスでデヴィッドとエリースは再び出会う。それはデヴィッドを見守る男達にとってあってはならないことだった・・・男たちはデヴィッドを拉致し二度と女に会わないように言い含める。自分達はずっと人類の運命を調整してバランスを保ってきたという。デヴィッドは将来重要な人物となり、そのためにはエリースと結ばれてはならない。もしもこれらを口にすれば記憶の全てを消去すると言う。
しかし、デヴィッドは彼女が忘れられない。3年間同じバスに乗り続け、遂に彼女と再び出会う・・・
原作は「アイディンティティーの揺らぎ」なテーマばかり書き続けたフィリップ・K・ディック。僕は「ブレードランナー」の原作で有名な「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」ぐらいしか読んだことがないのだが映像化作品は多く他に「マイノリティ・リポート」「トータル・リコール」などなど。「ブレードランナー」なんていろんなバージョンが出すぎてわけが分からなくなっているところまでディック的である。以前にも書いたが僕自身も自分以外のほかの人間は本当に存在するのか、といった疑問に取り付かれたことがある。ディックはそんな妄執を書いてきた。本作は「悪夢機械」という短編集に収録されている「調整班」という短編が原作。
最初に予告編を見て予想した時は結構シリアスな物語と思ったのだが実際はかなりライトでところによってはコメディと思える部分も存在する。調整員がデヴィッドの行動に翻弄され右往左往する様はかなりコメディっぽい。
西欧人のイメージとして、人の世は契約で成り立っているので例え雇用主と社員であっても対等な立場である、という個人が確立しているイメージの一方、キリスト教的な全ては神の御心のまま、という自由意志否定論みたいなイメージもある。
調整局は彼らも言っているがいわば天使で人の行動に干渉することによって運命を調整する。どうみても議長は「神」だ。勿論キリスト教に限定する必要もなく各宗教、神話などで人間に助言を与える超常的な存在は全て彼らのこと、という設定なのだろう。彼らは(非常に都合のいいことに)ローマ時代末期までは干渉し、そろそろいいかな、と思ってほっといたら中世の暗黒時代に突入したので再び介入。ルネッサンスや産業革命をもたらす。で1910年にまた手を離れたら戦争と暴力の20世紀が現れてしまったのでもう一度再介入←今ここ。というご都合主義。
調整員には先ほども言ったとおり天使のイメージが与えられる。彼らは全員1930年代風のスーツやコートを着ている(特殊部隊風の者もいる)。彼らはドアを起点にして空間を越え移動するがその鍵となるのは帽子であるがこれは天使の輪を思わせる。しかし、過労によって失敗し、やがて主人公に協力するハリーやデヴィッドに翻弄されるリチャードソンは見ていて愉快だし、何と言ってもやり手の調整員トンプソンはテレンス・スタンプである。そんな天使達のサラリーマンドラマ風でもある。ドアを開けたら別のところ、というのはイマジネーションとして最高で、狭いところのドアを開けたら野球のスタジアムに通じているとか画の作り方はうまい。
主演はマット・デイモン。「ヒア・アフター」こそ観られなかったが彼の出演作は信頼が置ける。ヒロインのエリースはエミリー・ブラントで割れた顎が特徴の美人だがどこかで見たことあるなと思ったら「プラダを着た悪魔」でアン・ハサウェイの先輩を演じていた人ですね。あのときとは真逆な感じである。
運命なんてない。一見運命のようでもそれは全て各個人が選択した結果なのだ。僕はそう信じたい。
シリアスなSFを予想すると少し拍子抜けするかも。ファンタジーコメディぐらいに思ってたほうがいいと思う。
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