吹き替え映画祭！ マッドマックス3部作！

　現在地上波で最も信頼の置ける洋画放送枠、それはテレビ東京「午後のロードショー」。その他の枠では余り放送されない映画が日本語吹き替えで放送される今では貴重な洋画枠である。今や夜９時台の放送はカットやCMの間のつなぎ、１０時台に改めてあらすじ解説したりと凄惨な状況になっているし、深夜の映画放送もほぼ字幕が中心になっている（番組表の解説に「字幕なし」と表記されるため「吹き替えなのかな」と思って期待してみると「最初から字幕なので字幕は無いよ」というものだったりしてがっかりすることが多い）。そんな中で古い映画やB級アクションやサスペンスをしっかり吹き替えで放送してくれる「午後のロードショー」はもっと注目されていいと思う。関係ないがTBS系で洋画枠が復活してそれ自体はとても喜ばしいことでTBSは早く大平透がジョーカー＝ジャック・ニコルソンの声を担当した1989年の「バットマン」を放送してください！
　で、その「午後のロードショー」4月はメル・ギブソン特集ということで木曜日に「リーサル・ウェポン3」、「陰謀のセオリー」「マッドマックス2」「マッドマックス サンダードーム」の四本が放送された。「リーサル・ウェポン３」はレギュラーにレネ・ルッソが加わった一編。4の制作までに間が空いているため一応完結作的な趣もある。余談だが僕はこれまで見た女優さんの中で実はこの「リーサル・ウェポン」シリーズでマータフ（ダニー・グローヴァー）の娘リアンを演じるトレイシー・ウォルフさんが一番美人だと思っているのだが、この人このシリーズ以外には特に出演してないようである。
　「陰謀のセオリー」はパトリック・スチュアートが悪役やってたなあ、ぐらいしか印象がないが書店に入ってしまうと既に何冊も持ってるのに「ライ麦畑でつかまえて」を買ってしまう、という主人公の設定が面白い。僕は昔古本屋で百円のウィリアム・アイリッシュの「幻の女」を買ったら中に1万円札が挟まってた、という出来事があって以来古本屋で「幻の女」を見かけるとパラパラめくってお札が挟まってないか確認する癖がついちゃってます。そんなことが二度ある可能性まず無いのにね！

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))

　
　そして！やはりメインは「マッドマックス」の二本である。僕はこのシリーズが本当に大好きで、特に「２」は生涯のベスト３に入る*1。勿論既にシリーズ３作すべてDVDは持っているのだが、そこには吹き替えは収録されておらず、今回（トルネにデジタル録画できることもあって）歓喜にむせたのであった。そこで今回は今月放送された「マッドマックス２」と「同サンダードーム」、そして昨年12月に放送された「マッドマックス」を下にこのシリーズについて少し書きたいと思う。
　以前午後のロードショーで企画された「ロッキー」一挙放送！の時はシリーズすべてを同じ吹き替えキャスト（羽佐間道夫、松金よね子）で統一されたものが放送された。今回は残念ながら作品によってバラバラ。メル・ギブソン演じる主人公マックスの声は「１」安原義人、「２」山寺宏一、「３」岡本富士太、となっている。まあ、マックス以外共通して出てくるキャラはいないし（ブルース・スペンスが別人だがほぼ同じ役柄で出ている）、単独で見る分には問題ないのだが、やはり続けてみると多少の違和感は残る。もし統一された吹き替えが出てくれるとすごく嬉しい（個人的には１の安原義人版を希望）。

マッドマックス

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今からそう遠くない未来・・・

　暴走族による凶悪犯罪が多発する近未来のオーストラリア。それを取り締まる警察MFPも完全武装している。警官殺しの暴走族ナイトライダーをマックスはクラッシュさせてしまう。ナイトライダーのボスだったトーカッター率いる暴走族は復讐に乗り出し、まずは白バイ警官のグースを殺す。ショックを受けたマックスは辞職を願い出るが上司はそれを取り下げ休暇を勧める。妻子とともに一時の休暇を楽しむマックス。しかしそこにトーカッターの魔の手が忍び寄っていた・・・

　最初に「アナーキーロード」と表示され、この道路が無秩序な世界であることが示される。ナイトライダーも大概だがそれを追う警官もライフルのスコープで青姦カップルを覗き見するループ、嬉しそうに交通事故の死体の様子を語りながら食事するグースとどこか狂っている。そして主人公マックスは暴走車を止めるのではなく後ろから押してクラッシュさせてしまうのだ。このオープニングシークエンスは強烈で乾いた感じ。漫画的でありながらどこかリアルなこの映画の雰囲気をよく伝えている。
　暴走族の一人ジョニーが捕まっても証拠不十分で釈放されるところなんかは「ダーティー・ハリー」の影響受けてるのかな、と思う。カーアクションはすごいが「悪魔のいけにえ」同様それほど直接的な描写は少なく、しかしところどころで印象的なカット（ぶつかる寸前の血走った目のアップとか）を映すことで観客にその後の出来事を想像させている。

　日本の暴走族と違ってアメリカやオーストラリアは大人になってからが本番で犯罪の規模もまるで違うらしいが、トーカッター一味は本当に兇悪。カップルの乗った車を破壊し、警官を殺し、警官の家族を狙う。カップル襲撃ではどうも強姦されたのが男の方のように思える描写がある（下半身裸で尻から血を流してる）が、トーカッターとジョニーの関係を見るとどうやらトーカッターは・・・
　僕はさすがにリアルタイムで見てるわけではないが当時はカーアクションシーンでスタントマンが死亡しただの、暴走族の幹部ババ役の役者が本物の暴走族だったとか噂が流れたらしい（実際その他の暴走族は本物も多かったらしい）。
　ジョニーに対して約１０分後に爆発するクルマに手錠と脚をつないて鋸を渡し「その手錠と鎖は超合金でできている。手錠から抜け出すのに１０分だけやろう。もし運が良ければ５分で自分の足を切り離せる。」と放置するシーンは伝説。この映画は「最も経済効率の良い映画」として「ブレアウィッチ・プロジェクト」に抜かされるまでその地位を保った。
　吹き替えはマックスに安原義人。その他マックスの相棒でもあるグースに富山敬。トーカッターに堀口芳貞、ジョニーに石丸博也という布陣。ちなみにこの映画に関して言えば元々のバージョンもオーストラリアの俳優による訛りが強かったためすべてアメリカ人によって吹き替えられており役者本人のバージョンは存在しない。*2

「ザ・ナイトライダー。それが奴の名だ。夜空を見るたびヤツのことを思いだせ」

マッドマックス２

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　覚えているのは混沌の時代だ。破れた夢に荒れ果てた土地・・・。そして一人の忘れられない戦士がいた。マックスという男だ。彼を知るためには昔の話から始めなければならない・・・

　前作から数年後。世界は核戦争を起こし文明は崩壊する。数少ない石油をめぐって暴走族が日夜争いを続けている。インターセプターで荒野をさまようマックスはジャイロキャプテンという男と出会い、石油を精製しガソリンを作り出している集落を知る。そこはヒューマンガス率いる凶悪な暴走族に度々攻撃されていた。暴走族に襲われた集落の一人を助けだしたマックスはガソリンと引き換えに彼らが逃げ出すためにガソリンを運ぶトレーラーを見つけ出す取引をする・・・

　前作のヒットを受けて作られた続編だがおどろくべきことに全く別の作りになっている。文明は崩壊し人の命がとことんまで安く扱われ全く倫理観を無くしたモヒカンにアメフトを思わせるプロテクターを付けた悪党たち。ほとんど緑のない荒野で繰り広げられる世紀末の世界は「北斗の拳」はじめ様々な映画に影響を与えた。まあ日本にはその前に「バイオレンス・ジャック」もあるので傍目八目といったところだけど。
　アメリカでは前作がヒットしなかったため「MAD MAX２」という原題のままではなく「The Road Warrior」というタイトルで公開された。吹き替えが収録していないDVD(僕が持ってるもの）ではこのアメリカ版でDVDジャケットは「MAD MAX2」だが劇中出てくるタイトルは「The Road Warrior」。一方ブルーレイの方はジャケットが「The Road Warrior」だが劇中では「MAD MAX2」で収録されているようである。やっぱりブルーレイ買おうかなあ。

　「映画史上最も凶悪な悪の手下」ウェズ。常に後ろにいる表情を無くした優男風の青年はウェズを演じたバーノン・ウェルズ（「コマンドー」や最近では「パワーレンジャータイムフォース」の悪役でお馴染み）によると彼はウェズたちがその昔襲った村の生き残りでウェズが「ペット」として飼っているという設定だそうだ（首輪で繋がれている）。ウェズは彼がフェラル・キッドに殺されてしまった時に怒りに震えるが自分の身内に対して強く愛情を抱く一方他人の命に対しては微塵も情けをかけない。現実にもこういう悪人いるよね。またヒューマンガス率いる暴走族はパトカーと思わしき車種や白バイ警官風の衣装のメンバーが多数いることで全員ではないものの元・警官が主体になってるのではないか、と思われる。道徳が地に落ちた世界なのだ。

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　今回放送されたものと同じ吹き替えがブルーレイには収録されているらしい。「マッドマックス２」に限っては何種類か吹き替えのバージョンがあるが、この山寺宏一版が一番放送回数が多いか。ヒューマンガスに麦人（おそらくナレーションである成長したフェラル・キッドも）。ウェズが強力わかもとこと若本規夫。若本さんは別のバージョンではパッパガーロもやってますね。そのパッパガーロが堀勝之祐。実はこの映画主役のマックスのセリフはそんなにない。印象的なセリフはジャイロキャプテンやヒューマンガスが多かったりする。
　その他のバージョンではマックスを柴田恭兵、ジャイロキャプテンをジョニー大倉が演じる「チ・ン・ピ・ラ」バージョンや、鈴置洋孝、青野武（両名ともお亡くなりになりましたね。合掌。）のバージョンなどがある。

「お前たちにはひどく失望した。またもこの私の手を煩わせおって」

　

マッドマックス/サンダードーム

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２人が入り出るのは１人。　

　更に年月が経った。文明は更に後退している。あいも変わらず荒野を彷徨うマックスは「バータータウン」という物々交換で成り立つ町にやってきた。彼はこの街を治めるアウンティ・エンティティと取引し、地下のメタンガス工場のボスで実質的な支配者であるマスター・ブラスターと金網の球体、サンダードームの中で戦うことになる・・・！

　２の世界的な成功でジョージ・ミラーもメル・ギブソンも一躍有名になった。３作目の本作はハリウッド資本が入っているためか、前作までの乾いた雰囲気や残虐さは影を潜めた。これはシリーズの製作者でミラーの相棒だったバイロン・ケネディの死も影響していると言われる*3。
　前半のクライマックスはブラスターと戦うサンダードームの決戦。これは「キン肉マン　キン肉星王位争奪戦」の中の「ラーメンマンVSバイクマン」のサンダードームデスマッチで流用されてますね。
　また、後半は子供たちを多く用意したジュブナイルSFとしても見ることが出来る。この子供たちは文明崩壊後に生まれているので完全に戦争前のことを知らない。砂漠で倒れたマックスを自分たちを連れ出す「キャプテン・ウォーカー」だと信じるがマックスは否定する。この辺は「北斗の拳」第二部の修羅の国におけるラオウ救世主伝説に影響をあたえている？
　クライマックスは汽車を使ったカーチェイス。「２」の時とほぼ同じ役柄の飛行機を操る男としてブルース・スペンスも続投。アウンティ・エンティティは歌手のティナ・ターナーが演じている。
　マックス役は岡本富士太。ちょっと真面目すぎる気がしてあまり合っていないかも。あとはやっぱり僕の中では岡本富士太というと「中学生日記（この間終わってしまいましたね）」の南先生を思い出してしまう。その他印象深いのはマスター（演じるのはあの「フリークス（怪物團）」にも出演しているベテラン小人俳優アンジェロ・ロシェット）の永井一郎。また子供たちのリーダーを古谷徹が演じている。


「やるじゃないか。私の負けだ。男だね！ハハハ」　

　僕が好きな順は２＞１＞３の順。とはいえシリーズ全体が大好きである。マックスは映画オリジナルのヒーローとしては「ニューヨーク1997」「エスケープ・フロム・LA」のスネーク・プリスケンと並びますね！
　そして！ついに「Mad Max4：Fury Road 」が起動しました。何年も企画だけは残っていて製作の噂が立っては頓挫しての繰り返しでしたが、やっと具体的な動きが見えてきたようです。

HIHO NEWS&RUMOR online:ジョージ・ミラー監督＆トム・ハーディ主演『マッド・マックス：フューリー・ロード』いよいよ撮影開始！　あのスーパーモデルも参戦決定！

　主演はトム・ハーディ！時代的には「サンダードーム」の少し後ということで文明は崩壊した後の世界が引き続き舞台になるようだ。2013年公開予定でそのままさらなる続編「Mad Max5：Furiosa」もほぼ同時に撮影を開始し、新三部作という形で6まで製作予定だという。まだまだ死ねないぜ！

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*1:残る二つは「バットマン・リターンズ」と「悪魔のいけにえ」

*2:本作に限らず後から別の役者がアテレコしたものがオリジナルとして流通しているものは結構ある

*3:ラストに「バイロンに捧ぐ」とクレジットが出る