The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

どうせなるなら・・・ 北国の帝王

 先日の「相棒」シーズン9、第8話「ボーダーライン」がヘビーすぎてちょこっと鬱気味。日本のドラマとしては凄い傑作だと思うけど何か他人事とは思えなくて、放送の後、ずっと気分がダウナーだった。
 それで、次の日の朝それを払拭すべく、何か観ようと思い立って「北国の帝王」のDVDを観た。その、同じ浮浪者の話だけど、こっちは見ていて何かが奮い立ってくると思ったから。そしてそれを記事にすることで色々とリハビリを兼ねてみる。

 「北国の帝王」という特徴あるタイトルだが勿論北新地で金貸しをする男の話、ではない(というか多分「ミナミの帝王」はこの映画からタイトルをとったのだろう)。

物語

 1933年、アメリカは大不況(そう「キング・コング」でアン・ダロウがリンゴを万引きするあの年だ)の真っ最中。仕事を求める浮浪者、通称「ホーボー」達は列車を無賃乗車をしながら移動を繰り返していた。そんなホーボーたちを鬼車掌シャックは決して許さず、「無賃乗車には死の裁きを」与えていた。ホーボーたちは彼の19号列車を避けていたがA・ナンバーワンと呼ばれるホーボーだけはシャックの裏をかいて19号列車に乗り続けていた。そんな彼は廻りのホーボーたちから「北国の帝王Emperor of the North」と呼ばれていた。
 あるとき彼の座を狙う若いホーボー、シガレットが19号列車に挑戦しA・ナンバーワンと行動を共にするようになる・・・

 とにかく濃い顔のおっさんが汚れた格好で面子を賭け戦う漢の中の漢の映画。色っぽいシーンなんてほとんどない(ドリュー・バリモア似の女性が電車で腋毛を剃るシーンくらい)が惚れるという意味では艶っぽい映画だ。
 主人公、北国の帝王A・ナンバーワンにリー・マービン。対する鬼車掌シャックにいい顔の親父ナンバーワン、アーネスト・ボーグナイン。マービンが細目で渋く決めるのに対し、ボーグナインは常に目を大きく見開いてその眼力で他を圧倒する。そして野心あふれるがどうにも危なっかしい若手ホーボー、シガレットにキャラダイン家の三男(四男?)、キース・キャラダイン。まあ分かりやすく言うと昨年亡くなったビルことデヴィッド・キャラダインの弟です。これが容姿や役柄もあいまって飄々としたところなんかが後年のスティーヴ・ブシェミを髣髴とさせる。
 
 アクション映画の定型としてA地点からB地点に向かう間にアクションがある、というものがあると思う*1が、この映画の場合、目的地はほぼ無意味。ホーボーたちはおそらく当初は仕事先に向かうための汽車賃を節約するために無賃乗車してるのだと思うがA・ナンバーワンレベルになると最早完全に目的が「いかに無賃乗車するか」になってしまっている。

いいか!19号はお前の乗る列車じゃねえ。俺のホテルだ。
星は俺のために輝き、大統領だって俺には一目置く。
俺は行きたいところへ行けるんだ。
ニューヨークの大金持ちでも、俺ほど自由じゃない。
あの列車は俺のもんだ。
道連れはいらんし、お前みたいな嘘つきを教育してやる気もねえんだ!

 この無駄なことに命を賭ける姿勢がたまらない。一方のシャックのほうも定刻どおり汽車を走らせるとかは眼中になくて「いかに無賃乗車野郎を殺すか」に心血を注いでいる。まあ、時代、お国柄的に今よりずっと大雑把だったのだろうけど(人の命も)。
 
 若手のシガレットは実力がないくせに上ばかり見てる。シガレットとA・ナンバーワンの二人はTVアニメ「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」のスタースクリームとメガトロンの関係を思わせる。

あんたの時代は終わったのさ!俺がやってやる。お前が出来なかったことをな。
そしてこの俺は「北国の帝王」になるんだ!根性のなくなった奴は引っ込んでろ!
俺は浮浪者の英雄になって見せるぜ!どこのキャンプへ行ってもよ、崇め立てられ、この顔を知らん奴は一人もいなくなる。
国中の浮浪者は俺の手柄を囃したて、連中はみんなこの俺に憧れるだろうぜ!
俺はピカ一で、怖いもんなしの帝王になるんだ!なんか文句でもあるか!
けど断っとくがあんたなんかのおかげじゃねえからな。
おい!貴様!俺が話してんじゃねえか、ちゃんと聞いてろ!
絶対に貴様のおかげじゃねえからな。貴様の力なんかその程度さ。
老いぼれから習うことなんかねえんだよ!貴様はシャックに負けて引き下がった。
さっさと消えて亡くなれ!

 夢が大きいのか小さいのか分からん。てか、この人たち浮浪者だよ。一般に社会の底辺と呼ばれるような人たちなのになんでこんなに格好いいの?!シガレットも「俺は5年も浮浪者やってる」とか誇らしげに言うし。そして「まだまだだ」とか言われちゃうし。
 ラスト、A・ナンバーワンはシャックと対決し汽車から叩き落す。走り去る19号列車に捨て台詞を吐くシャック。一方それを見ていたシガレットを返す刀で陸橋から川へ落す。

うぬぼれるんじゃないぞ、くそったれ小僧が!お前なんかボロをまとってせいぜい哀れっぽく物乞いして歩いてりゃいいんだ!
せいぜい大法螺吹いて哀れみを請え!
お前は見込みのある奴かと思ったが、爪の垢ほども人の心が分からねえ奴だ。
もうこれっきりだ!おい、分かったか!お前の性根は腹の底から腐ってる。それじゃあ、お前は一生北国の帝王にはなれんのだ!
折角いい根性してながら、お前には心がない!お前はいびつの人間なんだ。
口だけ達者でも心は空だ!お前は一生北国の帝王にはなれん!なりたきゃまず、人間になれ!
二度と線路に近づくな!いつか命を落すぞ!これが最後の忠告だ!
覚えとけ小僧!

 監督はロバート・アルドリッチ。幾らでも社会派に仕上げられる設定だが、むしろ純粋なエンターテインメントに仕上げている。頭脳戦であり、アクション映画である。
 おそらくありえないが物に囲まれて生活する一方ですべてなげうってこういう自由な生き方をしたいと思うことも時にある。その場合は自分の意志だがもしもそうならざるを得ないときにはこのように生きたいと思う。

 今回は軽くこんな感じで。
 ちなみに引用の台詞はすべて日本語吹き替え版から。昔の吹き替えは軽妙洒脱な言い回しとかが最高。古い映画をソフト化するときにはなるべく入れて欲しいものだ(出来ればテレ朝の洋画劇場版吹き替えを)。

*1:有名どころだと「007ロシアより愛をこめて」とか