The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

サイケデリック・ウィザード! ドクター・ストレンジ

 昨年はマーベルの映画は3本。うち2本は20世紀FOXX-MENユニバースに所属する作品で(今年はウルヴァリンの最終作「LOGAN」が待機中!)、MCUは一本きり。どちらかというとDCコミックスのDCEUの作品のほうが勢いがあった気がする(ただ瞬間最大風力こそ凄かったけど、作品評価的にはまさにカオスな感じだったが)。その一本のMCU作品は「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で、これは最高によく出来ていたけれど、これまでのシリーズの(地球での)集大成のような作品だったので、とっつきにくいと思った人もいるのではないか。もうMCUも13本めで、更にTVシリーズなどもあるので追いつけない、という人も多いと思う。そんな貴方に朗報!再び入門編というか、一から新しいヒーローの登場です!余計こんがらがるだけかも、という気もするけれどとりあえずMCU14本目、「ドクター・ストレンジ」を観賞。フェイズ3も2本目。マーベルのロゴタイトルも新しくなったよ!

物語

 神経外科医スティーヴン・ストレンジは今日も手術中に音楽をかけながら鼻歌交じりで難しい手術をやり遂げた。同僚の医者がさじを投げた患者も見事に手術成功させる天才だ。まさに神の腕を持つストレンジだが、性格は傲慢。自分勝手で派手好き。その日パーティーに出席するため雨の中、自動車を走らせていたストレンジは車の中で自分に見合う患者を選んでいた。一人の患者に興味をいだいたその時、事故を起こしてしまう。一命をとりとめたものの両手はボロボロ。リハビリで私生活レベルならなんとかなるもののもはやメスを握ることは出来ない。自分の唯一の拠り所を失いストレンジは自暴自棄になる。
 その時かつて決して歩けない状態から元気に復活した者の噂を聞き、その男のもとを訪れる。物理的手段に希望を失った彼が最後に望みを託したのは奇跡。ネパールはカトマンズにあるカマー・ダージこそストレンジの希望を叶えてくれるだろう。
 カマー・ダージを訪れたストレンジはそこでエンシェント・ワンと彼の弟子たちと出会う。エンシェント・ワンにもう一つの世界を見せられ弟子入りしたストレンジ。最初は戸惑いつつもメキメキと力をつけていく。しかしそんなエンシェント・ワンたちを狙う者がいた。かつての弟子カエシリウスだ。ストレンジが秘宝アガモットの目を手にとった時、カエシリウスが急襲する。一大魔術合戦が始まった!

 MCUフェイズ2の最後を飾ったのはちょっと小さな物語「アントマン」だったのだが、個人的にこの「アントマン」は増えすぎたMCU世界への再入門編だと思っている。だから多分意図的に1作目である「アイアンマン」と同じ要素が沢山見受けられた。天才科学者の社長ヒーロー(トニー・スターク&ハンク・ピム)VS会社を自分のものにしようとする幹部(オバディア・ステイン&ダレン・クロス)という構図や敵の力も主人公の技術に由来するところとか。ただ主人公のスコット・ラングはその相関図から自由だったのが特徴だったが、フェイズ1とフェイズ2は「アイアンマン」と「アントマン」で最初と最後を挟むことでひとつの結末を見たと思っている。
 フェイズ3はその最初から「シビル・ウォー」でユニバースの根底を覆す大騒動となったわけだが、逆に2本目はちょっとクールダウン。新しいヒーローで再び間口を広げる。「アントマン」と「アイアンマン」は人物相関図が似ているが、「ドクター・ストレンジ」は「アイアンマン」と主人公の設定が似ている。傲慢で自己中心的、天才肌で派手好きなヒゲのダンディ。ともに深手の重症を負い、その対策として力を獲得、それを活かすためにヒーローとなる。ただ違うのはアイアンマンが徹底的に物理的な存在だとすれば、ドクター・ストレンジは力の源に魔術を当てていること。
 個人的には今も評価が難しいのが「アイアンマン3」で、ここでは魔法の指輪をもつヴィラン、マンダリンが売れない役者が演じる傀儡、という設定にされてしまっていた。「マイティ・ソー」の神話的な世界観を経た上でならマンダリンも十分本来の設定で活躍できたと思うのだ。またここで魔術の要素を見せておくことは、この「ドクター・ストレンジ」へのちょうどいい伏線にも出来たのではないか、と思うと返す返すも惜しい。

 伏線といえば、ドクター・ストレンジは名前だけはすでに登場済みで「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」でシールド(実はヒドラ)のインサイト計画の対象者としてトニー・スタークやリベラル系の大学の学生などと並んで名前が挙がっていた。僕はてっきりもうこの時点でスーパーヒーロードクター・ストレンジとして活躍していて、今回の作品はその冒頭部分は過去なのかな、と思ったけれど、もちろん事故に遭う以前は多少過去だけれど、ヒーローのデビュー戦だった本編は「シビル・ウォー」の後の物語ということで「ウィンタ・ソルジャー」の時に名前が挙がっていたのはまだただの天才外科医スティーヴン・ストレンジとしてのようだ。今作の冒頭ではただ傲慢なだけの人物にしか見えないが、その歯に衣着せぬ物言いは危険分子扱いされたのか。ちなみに社交的であり、セレブのパーティーなどにも出席していたストレンジ。多分ヒーローとなる以前からトニー・スタークとは顔見知りだとは思うんだけど、互いに互いのことを「いけ好かないやつ」って思ってそうね。今後当然共演もあるでしょう。
 ちなみにきっかけとなる交通事故がトニーの時と違って100%ストレンジの自業自得というのは驚きましたね(その時見ていた患者のカルテはもしかしたら今後関わってくるのかもしれないが)
 ドクター・ストレンジを演じるのはベネディクト・カンバーバッチで、今や世界のセクシー俳優。「裏切りのサーカス」で観た時*1はやあ、個性的なルックスだなあ、という感じだったけれど、今や普通に美男子に見えるから不思議だ。現代を舞台にしたTVドラマシリーズ「SHERLOCK」のシャーロック・ホームズとしても知られていて、本作では本来スケジュールが「SHERLOCK」とバッティングして出演が無理だったのを、監督が「ストレンジにはベネさんじゃなきゃダメだ!ベネさんのスケジュールが空くまで撮影は延期!」となったという。その甲斐あってかコミックスのイメージも残したまま見事にドクター・ストレンジのキャラクターをスクリーンに刻んだ。
 とは言っても原作コミックスのドクター・ストレンジに関しては僕もよく知らない。もちろんマーベルでは重要なキャラクターで、多くの作品で登場するけれど、彼単独の作品はあまり知らないからだ。パンフレット等による解説を読むと今回の映画は長い歴史の中でいくつか語られたオリジンを上手くアレンジしているのだという。ちなみにDCコミックスにもヒューゴ・ストレンジというキャラクターがいて、通常マーベルとDCで同名のキャラが設定も似ていたりするのだけれど、こちらは真逆。バットマンの最古参のヴィランの一人でまさにマッドサイエンティストという感じ。TVシリーズ「GOTHAM」では顔で笑って目が笑ってない「ジュラシックパーク」シリーズのマッドサイエンティストでもあるB・D・ウォンが演じてます。
 今回の「ドクター・ストレンジ」はかなりデビューした時期の60〜70年代の雰囲気を残した作品となっている。他のマーベルの多くのキャラクター同様ドクター・ストレンジも1963年のシルバーエイジデビューなのだが、MCUに関して言えばキャプテン・アメリカを除く他のキャラクターは特にそのデビュー時期の雰囲気を残していないが、今回はかなり60〜70年代の有り体に言えばヒッピー文化の匂いを残している。エンシェント・ワンに最初に掌底をくらい幽体離脱のような状態に陥った時とか、極彩色に指先からまた手が生えてくるようなトリップしたような映像が続く。最後のドルマムゥとの無限に繰り返す対峙する宇宙も極彩色。とにかくサイケデリックである。

 他のキャストはストレンジの同僚でかつては恋人だったクリスティン・パーマーにレイチェル・マクアダムズ。この人はガイ・リッチー版の「シャーロック・ホームズ」でアイリーン・アドラーを演じた人で、その時はアイアンマン=ロバート・ダウニーJrのホームズに対してヒロイン(といっても一筋縄ではいかないタイプ)だったのだが、今度はTVの「SHERLOCK」のホームズを相手にすることに。と書いてて思ったのだが、今後アイアンマンとドクター・ストレンジが一緒に出てきたらホームズが揃うことになる。是非今後ジョニー・リー・ミラー(やはり現代を舞台にしたシャーロック・ホームズものであるTVシリーズ「エレメンタリー」のホームズを演じた)もMCUに参戦して三大ホームズ勢揃いして欲しい。ちなみにミラーとベネディクト・カンバーバッチは舞台の「フランケンシュタイン」でヴィクター・フランケンシュタインと怪物の両方を互いに交互に演じた間柄です。
 ストレンジの師匠になるエンシェント・ワンにはティルダ・スウィントン。坊主姿に黄色を基調とした僧俗という感じで華奢ながら神秘的に演じている。穏やかな中にも時に厳しさが垣間見えるのは見事だが、このキャラクターはコミックスでは東洋人の男性であり、ホワイトウォッシュだとか騒がれた。マンダリンしかり「白い神」ヘイムダルを黒人俳優にしたのもしかり、MCUたまにこういうことをしてしまう。原作を知らないので言われなきゃ気づかないし、それぞれキャストは最高なので映画としては素晴らしいのだが、ちょっと気になるところではある。
 ドクター・ストレンジの兄弟子であり、良き仲間でもあるモルド(コミックスでは「モルド公爵」)にキウェテル・イジョホー。茶目っ気もありつつ生真面目なモルドを演じていて、その生真面目さはやがて彼を蝕んでいく。コミックスでは悪役となるキャラで、本作でも最後にその片鱗を覗かせる。この辺は2がアレばそこで、あるいは他のMCU作品で続きが描かれるのか?予告編でもオチとして使われた「今どきだろ?」というWi-Fiパスワードは「SHAMBALLA」でヒマラヤにあるという黄金郷シャンバラを指してますね。

 個人的イチオシキャラクターはベネディクト・ウォン演じるウォンで一見とっつきにくそうで実は飄々として、実はモルドよりも融通がきくキャラクター。

 敵となるキャラクター、カエシリウスマッツ・ミケルセンが演じている。キャラクター的にはさほど個性の強いものではないが、演じるマッツ・ミケルセンの魅力でヴィランとして輝いている感じ。他部下にスコット・アドキンスがいます。

 極彩色のLSDでトリップしたような映像と並んで特徴的なのがビルが伸びたり曲がったりして変化していくもの。「インセプション」の夢の中を更に進化させたような映像が特徴的。いずれも「ドクター・ストレンジ」の世界観の象徴ともいえるだろう。

 MCUの他の作品との絡みは本作に限れば特に無し。ウォンがアベンジャーズの名を出して「彼らの戦いが物理的な世界の物とすれば、我々の戦いは精神的なもの」というような事を言うが(詳細忘れた)、直接的な言及はそれのみ。後はドクター・ストレンジが胸に下げるアガモットの目がインフィニティストーンの一つで「時間」を司るものであるらしいことが示唆される。作品の中では「マルチバース(多元宇宙)」の存在が言及されて、すわ!「X-MEN」とかもついに来るか!?と思ったりしたが、そういう意味での多元宇宙とはちょっと違って現実の世界に対して「アストラル次元」や「ミラー次元」「暗黒次元」など異なる物理法則で動いている世界がある、という感じ。これまではアスガルドなど神々の住む世界や様々な宇宙人が住む宇宙が登場したけれど、これらはあくまでMCUの現実である地球と地続きの同じ世界それに対してことなる次元を題材にした物語がこの「ドクター・ストレンジ」と言う形。

ドクター・ストレンジ:プレリュード (ShoPro Books)

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ドクター・ストレンジ:シーズンワン (ShoPro Books)

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Ost: Doctor Strange

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監督の前作。

MCUの前作。
 MCUだけど新しいヒーローということで過去作との関連は極力減らし新たなファンを獲得、と言う試みが成功したかはちょっと微妙かもしれないが(個人的に面白かったけれどキャストに助けられた部分は大きい気がする)、エンターテインメントとして十分面白かったです。あ、あと「スパイダーマン ホーム・カミング」に先駆けてMCUではニューヨークを根拠地とするMCU初のヒーローです(TVシリーズのデアデビル等除く)。まあ劇中時期的にはそんなに変わらないのだとは思うけれど。
 で、エンドクレジット後、恒例のお約束はソーとストレンジの会話。ロキの探索するソーにストレンジが協力する、というお話。
 というわけで、次は雷神ソーの3作目!「マイティ・ソーラグナロク」。「神々の黄昏」をタイトルの冠した更に神話色の強い作品になりそうです。すでにハルクが出るのは判明済みだが、ここにドクター・ストレンジも出てくるのだろうか。乞うご期待!

 スタン・リーも出てるよ!
EXCELSIOR!

*1:最初に観たのは多分「戦火の馬」なのだが、その時はまだ認識してなかった。ちなみにロキ(トム・ヒドルストン)の同僚軍人!