The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

時代とガトリング マグニフィセント・セブン

 またブログ更新が滞っていました。いやそろそろ更新しようかなあとか思っていたところにアレな出来事が起きてどうにもやる気を失っていたのですが、それでもそろそろやる気を起こしましょう。まずは公開初日に観てもう、公開も終わりらしい「マグニフィセント・セブン」。ご存知「七人の侍」を西部劇リメイクした「荒野の七人」のリメイクです。

物語

 1879年アメリカ西部の町ローズ・クリーク。町はサクラメントに本拠地を持つ横暴な資本家ボーグによって崩壊の危機を迎えていた。金鉱のための本拠地にしようと企むボーグは保安官を買収し住民を追い出しにかかる。今や建前も捨てて堂々と反対派の住民を殺害する始末。夫を殺されたエマは町のためにガンマンを雇おうと決意する。
 アマドールシティ。委任執行官として賞金首を追うチザムは教も酒場で賞金首と彼に味方する荒くれ者どもを始末した。それを見てエマが彼にボーグから街を守る仕事を依頼する。チザムが集めたガンマンは7人。チザムに借金代わりの馬の代金を肩代わりされて仲間となったギャンブラーであるファラデー。南北戦争での南軍として戦ったグッドナイト・ロビショーと彼の相棒である東洋人ビリー。山里でハンターとして暮らすホーン。仲間になることと引き換えにチザムに見逃された賞金首バスケス。そしてチザムとコマンチ族の戦士レッドハーベスト。そこにチザムを加えた7人がローズ・クリークに向かう。しかしボーグは軍隊をも動かすような力を持っている。果たして彼らは街を守ることができるのか?

 オリジナル黒澤明監督による「七人の侍」は1954年の作品。「ゴジラ」や「東京物語」などと並んで50年代日本映画の黄金期を彩る作品の一つにして日本映画の最高傑作とも言われる作品だ*1。重厚で長大、社会性も批判性もあるけれど、まず何よりアクション映画として面白い作品。それまでの時代劇とは趣も違うこの作品はすぐに海外でも評価され、西部劇としてリメイクされた。
 1960年に西部劇リメイクされた「荒野の七人」は僕の大好きな作品で今でも頻繁に見返す作品。好きな作品というだけなら数多いけれど単純に一番多く見た作品は「荒野の七人」かもしれない。もちろん「七人の侍」も好きなのだけれど、白黒と長さがネックとなって頻繁に見返すとはいかない(といったってこの「荒野の七人」も2時間8分あるんだけれど)。「荒野の七人」に関しては過去何度か感想を書いていたりするのだけれど、とりあえず劇場で名画座という形で観た時のこちらを。

 作品は日本の「七人の侍」とは別にシリーズを重ね、最終的にはユル・ブリンナーも関係なくなっていくのだけれど、続編が4作、1998年からはTVシリーズ(映画とは無関係)も作られている。
 分かりやすく骨太なストーリー、オールスターを揃えられる設定。アクションも多く入れられる、とヒットの要因が揃ったこの作品を他の映画人が見逃すはずもなく、これまでも様々な「七人」物が作られてきたが、当然映画としてのリメイクも考えられていて、僕が最初にリメイクの噂を聞いたのは1997年頃か、ケビン・コスナーをクリス役にトム・クルーズチャーリー・シーンなどが噂として上がっていた気がする。最もこれはその時々の大スターを揃えて、という実現可能かどうかは度外視の噂であって、本当に当時どこまで進んでいたのかは定かではない。ただ、当時の噂のキャスティングでもすでにデンゼル・ワシントンイーサン・ホークは名前が挙がっていた気がする。
 監督は「イコライザー」でもデンゼル・ワシントンと組んだアントワーン・フークア。アクション作品のリメイクで馴染みの俳優と組んで、ということになる(イコライザーは元々はTVドラマ)。脚本は先に出来ていて、西部劇であることを条件に引き受けたとのこと(もしも現代劇だったり、中世ヨーロッパを舞台にした時代劇だったら引き受けなかったという)。

 さて、僕はなんといっても「荒野の七人」が大好きすぎるので、「荒野の七人」との比較でこの「マグニフィセント・セブン」を語るなら「面白かったけど、元の作品には遠く及ばない」という評価になってしまう。これはもうしょうがないことで、多分客観的に(「荒野の七人」に限らず)リメイク作品が本家の出来を超えたとしても、なかなか受け入れられないだろう。ただ一西部劇として観た場合は楽しく上手く現代に適合した作品になっていると思った。
 今回の「マグニフィセント・セブン」(これは「荒野の七人」の原題であり「七人の侍」が最初に海外公開された時のタイトルである)は比較的「七人の侍」に忠実だった「荒野の七人」に比べると大分アレンジがなされている。ぱっと見は時代劇(戦国時代の日本)を西部劇(開拓時代末期のアメリカ・メキシコ)に置き換えた「荒野の七人」の変化に比べれば同じ西部劇である今回はそんなに変化はなかろう、と思ってしまうのだけれど、「荒野の七人」は意外と設定や物語はオリジナルまんま。キャラクター設定のほうでアレンジはあるけれど(勘兵衛を主君として擬似的な君主と家臣の関係を築く侍と、あくまで横並びの対等な関係であるガンマンたちの違いとか)、大筋は野盗(野伏)に定期的に襲われてる村を守る、という点で一緒。村人が侍から若い女を隠したり、若い侍と村娘が恋仲になったり、百姓出身の侍が武士の酷さを訴えたり(「荒野の七人」だとその恋仲になるのと百姓出身が同一人物になっちゃうんだけど)するのも一緒。最後のセリフも一緒でまさに正統リメイク。それに比べると今回はかなりアレンジしてある。
 まず敵となるボーグのキャラクター。野盗であったカルベラと違い、資本家であるボーグはどちらかと言えば体制側である。野盗などというアウトローではない。アウトロー同士の戦いでもあった「荒野の七人」と比べ資本家ボーグと委任執行官チザムの戦いは(両者とも仲間にアウトローを含むが)体制側同士の戦いと言えそうだ。

 オリジナルの「荒野の七人」は1890年代(1892年というが詳細不明)が舞台で、今回は1879年が時代設定されている。約10年から15年の時代差があるのだけれど、この間に西部開拓時代は終焉を迎えていてガンマンというアウトローの時代も終りを迎える。「荒野の七人」ではチコがクリスたちに憧れを見せる一方でベテランのガンマンはもう自分たちの時代が終わりつつあることをほのめかす会話などがあるが、「マグニフィセント・セブン」はどちらかと言うと西部開拓時代まっただ中の時代なので、皆ガンマン=アウトローとして前向きな感じで明るいのが違いか。
 映画の中では南北戦争(1861〜1865)が重要な役割を果たしているのも違いで、多分「荒野の七人」の七人で南北戦争に従軍したものはいない。実在の人物ならワイアット・アープ(1848年生まれ)が「OKコラルの決闘」でカウボーイズと銃撃戦を起こすのが1881年。アープを基準として「荒野の七人」はその後、「マグニフィセント・セブン」はその前。「マグニフィセント・セブン」劇中ではチザムとグッドナイト、ホーン、そしてボーグが従軍者か。チザムとグッドナイトは南北戦争では敵味方だったが、今は仲間。一方でボーグとは南北戦争から因縁がある。「荒野の七人」は最初はアンソニー・クインが勘兵衛の役で南北戦争の敗残兵という設定だったらしく、より志村喬の勘兵衛に忠実な設定だったが、結果としてクインが降板、ユル・ブリンナーがクリス役となったことでもっと若き設定となった。
 物語のクライマックスではボーグ側がガトリングガンを出してくる。これによって人数の差はあれど、対等な銃撃戦だった戦いが一方的な殺戮となる。ガトリング砲は南北戦争中に開発された武器で、ある意味近代最初の大量殺戮兵器ともいえる。クランクを回転させるだけで何百発もの銃弾が連発されるこの兵器は兵士個人の能力に頼る時代の終わりを象徴する。明治維新後の日本を舞台に(時代設定はマグニフィセント・セブンとほぼ一緒)した「ラスト・サムライ」でも弓矢と刀で反乱を起こした武士に対してこのガトリングガンを持ち出すことでその銃撃の前にサムライたちは敗れ去り、古い時代を終わらせ新たな時代(それは必ずしも明るいものではなく恐怖と殺戮の時代でもある)の幕開けを象徴する小道具となったが、本作でもほぼ同様の役割を果たしているといえるだろう。

 リーダーであるチザムはデンゼル・ワシントン。先述の通り監督やキャストが決まる前に脚本は出来ていて、黒人であるデンゼル・ワシントンをキャストする前からチザムのキャラクターはある程度出来上がっていて、そこでは黒人という設定は無かったそうだ。これまでデンゼル・ワシントン主演映画の感想では何度か言っていると思うけれど、デンゼル・ワシントンはそれほど役柄から「黒人であること」を強く観客に意識させるタイプではない。今回もその例に漏れないのだけれど、それでも初登場シーンで荒くれ者が集う酒場にやってきた時に周囲のチザムに浴びせる視線は「黒人がこんなところに何のようだ?」という感じだろう。ラストのボーグとの会話もデンゼル・ワシントンが演じることにあたってある程度脚本を改定したのではないかと思う。チザムという名はリンカーン郡戦争(ビリー・ザ・キッドが活躍した事件)の重要人物ジョン・チザムが由来かなと思ったのだが、スペルが違う(Jhon ChisumとSam Chisolm)ので由来は不明。全身黒尽くめの格好はユル・ブリンナーのクリスを意識したものだろうか。この当時で黒人をリーダーとして担ぐのは異色も異色だったはずでその点でチザムこそ委任執行官という公僕だが、他はアウトロー気質が高い。
 スティーブ・マックィーンのヴィンに当たるのがクリス・プラットのファラデーだろうか。どちらかと言えば「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のスターロードに通じる飄々とした役柄。チームのムードメイカーとしても頑張っていたが、ただラストの死んだと見せかけて最後の一発を放つシーンは全然死にかけに見えなかったのはちょっとどうなのかという感じ。
 グッドナイト・ロビーショーとビリーのコンビはこの映画の最も見どころの一つだが、イーサン・ホーク演じるグッドナイトは南北戦争では南軍のスナイパーとして名を馳せながら現在はちょっとしたPTSD状態で普段はその弱さを隠して世俗にどっぷり浸かったような素振りをする。おそらく「荒野の七人」のハリーとリーを合わせたキャラクターだろう。ちなみにこのハリーとリーは「七人の侍」での菊千代と勝四郎をチコという一人のキャラに合体させたことで産まれた「荒野の七人」オリジナルのキャラ。ハリーはクリスが安いギャラで村を守るのに何か理由があるのだろうという世俗的なキャラで、一方ロバート・ヴォーンのリーは凄腕の賞金稼ぎだが今は逆に追われる身となり、また衰えていく自分の銃の腕に怯えているという役柄でもある。イーサン・ホークが見かけの世俗っぷりとその下に隠した怯えを上手く演じている。でもなんだか観てる最中ずっと嵐の二宮和也に見えてしょうがなかったです。
 東洋人ビリーはイ・ビョンホン。相棒グッドナイトがいることから孤高のイメージは薄いけれど登場シーンの対決やナイフ投げの達人という設定からも久蔵とブリットがオリジナル。ちなみに「ルパン三世」の五エ門は「七人の侍」の久蔵がモデルで、次元大介は「荒野の七人」のブリット、ジェームズ・コバーンがモデルだそうなので、元をたどると五エ門も次元もルーツは一緒!
 ビリーは一匹狼がグッドナイトと出会って相棒となった設定であるが、劇中ではむしろビリーがグッドナイトの保護者っぽい面を覗かせる。
 その他ホーンにヴィンセント・ドノフリオバスケスにマヌエル・ガルシア・ルルフォ、レッドハーベストにマーティン・センズメアーと新旧バランスよく揃えている。仲間になっていく経緯はちょっと弱い気もするのだが、そのへんは役者の魅力で持たせている感じか。個人的にはエマの付き添いとして出てくる街の若者テディ・Gを、なんならエマ自身を7人のひとりとしてカウントしても良かったのではないかと思ったりしたが。
 そのエマはヘイリー・ベネット。芯の強そうな未亡人を演じている。この「マグニフィセント・セブン」ではいわゆる恋愛要素がなく、ファラデーとエマがそうなるのかな、と思わせたりもしたが、最後までそういう展開にはならなかった。その上でエマの強さが際立つ。他の住人はテディ・Gをのぞいてほぼ目立たず。
 敵役のボーグにはピーター・サースガード。野盗ではなく資本家、という設定は独自であったが、実際ああいう「強盗貴族」は当時多くいたらしい。ただ!あえて無粋を承知で言わせてもらうと、僕が「荒野の七人」が大好きでなんなら「七人の侍」にも勝ると思っている部分はイーライ・ウォラック演じるカルベラの魅力が大きいと思っていて、その点でボーグは悪役の魅力としてカルベラに到底追いつくものでは無かった。

 オリジナルから大胆に削った要素もあれば、加わった要素もある。教会を舞台にしたシーンもそうで、初っ端から教会に火を付けられることでボーグの神をも恐れぬキャラクターが分かりやすくなっているし、また、神様はなぜ現在進行形で苦しんでいる者を助けてはくれないのか?みたいなテーマはこれまでになかったもので、その辺は「沈黙」とも共通するテーマと言える。何度も言うとおり僕は「荒野の七人」が大好きなのでそのリメイクに対して厳しい見方をしてしまうが、特に意識しなければ普通に優れた作品。人種構成が白人のみだった(チコのみメキシコ人、オライリーはメキシコとアイルランドのハーフ)「荒野の七人」に比べると黒人、インディアン、メキシコ人、東洋人まで揃えた「マグニフィセント・セブン」はバランスとりすぎだろ!と思わないでもないが21世紀にふさわしい西部劇となっているとは思う。残念ながらもう劇場公開は終わりだそうだが、ぜひ観て欲しい。

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 音楽はジェームズ・ホーナーとサイモン・フラングレン。ホーナーは「スタートレック2カーンの逆襲」「タイタニック」「アメイジングスパイダーマン」などを手がけたが本作の製作中に飛行機の事故で急逝(自家用機を運転中に墜落)。長年ホーナーと組んでアレンジなどを担当していたフラングレンが後を継いで完成させた。ホーナーに取っては本作が遺作か。
 エルマー・バーンスタインの「荒野の七人」のテーマ曲は、本編ではそれを元にしたっぽい旋律がちょっとあるかな?という程度なのだけど、最後のクレジットでバーンスタインのテーマ曲が流れます。

*1:全然関係ないが1954年には「ゴジラ」と「君の名は」「七人の侍」が興行成績を争い、2016年は「シン・ゴジラ」と「君の名は。」そして日本公開こそちょっとずれるが「マグニフィセント・セブン」が公開されるというのはなかなか興味深い。まあ「君の名は」と「君の名は。」は作品上ほとんど無関係なのだろうけど