The Spirit in the Bottle

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時空を越える量産型守護神! ターミネーター:新起動/ジェニシス

歴代ジョン・コナーたちの波瀾万丈な人生

初代ジョン・コナー。その美貌と程よい悪ガキぶりで全世界を狂喜させるも、その後は人種差別主義者だったり、チンピラだったりで実際に逮捕も。
2代目ジョン・コナー。燃え尽き症候群で容姿が荒れるが、審判の日を再び阻止するべく奔走。しかし目的は果たせずショックで真っ黄色の変態殺人鬼<イエローバスタード>になった。
3代目ジョン・コナー。暗黒の騎士だったりドラゴンスレイヤーだったりガン=カタマスターだったり数々の英雄仕事の一環として片手間でマシーン軍団とも戦い、人類をいつものように救う。その後も救世主仕事は続き最近はファラオの支配するエジプトからヘブライ人の集団脱走を指揮し、成功に導いている。
4代目ジョン・コナー。CIAの職員として活躍。テロリストとしてホワイトハウスを占領したこともあるプロフェッショナル。類人猿との和平交渉を成功させた功績でコナーに抜擢。玄人好みではある。一番地味。

 というわけで「ターミネーター」の新作。僕はこのシリーズは特に熱狂的ファンというほどではない(劇場で観たのはたしか4が初めて)。「4」を観た時もどちらかと言うとシリーズが楽しみと言うよりクリスチャン・ベール主演だから、という理由が大きかった気がする。ただシリーズの歴史的価値は十分に認識しているし、特に「ターミネーター2」は公開当時すでに映画鑑賞を趣味にしていたし、周りも盛り上がっていたにも関わらず劇場で観賞しなかったことは、悔いても悔いたりない。
 政治家に転身する前のアーノルド・シュワルツェネッガーの最後の主演作が「ターミネーター3」だったのだが、「4」には(劇中の時間軸で)新型ターミネーター、T-800(いわゆるアーノルド型)としてCGで顔だけ出演。「4」を観た時は「ジョン・コナーはサラと違ってアーノルド型にはいい思い出しかないのだから、たとえこのT-800が悪者だとしても、その顔を見てちょっとは感慨深く思うシーンがあっても良かったのではないか」などと思ったのだが、あれは元は別の俳優が演じてたのをあとから「やっぱりシュワも出さなきゃ」ってことで顔だけすげ替えたらしいです。
 シュワルツェネッガーは「4」みたいなほんのちょっとだけのゲスト出演を別とするとカリフォルニア州知事を辞め俳優に本格復帰してからはこれで3本目(大脱出」を入れると4本目)の主演作だが、ここで自身の出世作でもある「ターミネーター」の新作への出演となった。しかも今度はちゃんと出ずっぱり!アラン・テイラー監督「ターミネーター:新起動/ジェニシス」を観賞。

物語

 人類と<スカイネット>率いるマシーンの凄惨な戦いが続く未来。ジョン・コナー率いる人類軍はついにスカイネット本体を置いつめこれを撃破したかに見えた。しかし直前にスカイネットはタイムマシンで刺客を過去に送っていたことが判明。タイムトラベルの先は「1984年のロサンゼルス」。ジョン・コナーが生まれる前にその母親であるサラ・コナーを殺し歴史を変えるつもりなのだ。サラを守るべくタイムトラベルに志願した兵士の中からジョンが選んだのはカイル・リース。彼は未来(彼にとっての現代)には戻れないことを覚悟してタイムトラベルに挑む。彼が過去に転送されたその瞬間、カイルはジョンが襲われるところを見る。そして時空の間で本来の自分にはない記憶がフラッシュバックするのだった。
 1984年、先に現れたターミネーターT-800。不良から衣服を巻き上げようとしたその時、その前に現れたのは同じ顔、但しかなり老けている男だった。男はT-800を撃破する。そして1984年に辿り着いたカイル・リースの前に現れたのはまだ観たこともない液体化するターミネーターT-1000だった。窮地を救ったのはサラ・コナー。しかし彼女は事前に聞いていたか弱いうウェイトレスではなかった…歴史に何が起きたのか?!

 このシリーズは元々はジェームズ・キャメロンが「ピラニア2殺人魚フライングキラー」を監督していたとき、当時の大変な環境の中で熱を出し寝込んでいた時に観た悪夢が元になっているという(炎の中から起き上がるエンドスケルトン)。話自体は特に目新しいものではなく(実際SF作家のハーラン・エリスンに自分の著作を元にしていると訴えられ、キャメロンもこれを認めている)公開時期的にも丸かぶりな「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」とも通じる。「フランケンシュタイン」以来の「自己の創造物に反乱を起こされる人類」の物語だがその力強い演出と表現、シュワルツェネッガー演じるターミネーターの有無を言わせぬ迫力でSF映画史上に残る一本となった。
 タイムトラベルものとしてはいわゆる「父殺しのパラドックス」。ただ一作目の時点ではそれほど複雑ではない。「2」は「1」でスターとなったシュワルツェネッガーを今度は善玉として登場させ一作目とは比べ物にならないスケールや技術の進歩でこれまたSF映画史上に残る1本。ここまでが創造主キャメロンによる正伝。
 3以降はキャメロンが関わっていないこともあって評価が様々だが、基本はタイムパラドックスものなので1と2を根幹としそこからは枝分かれして、映画(3、4)、小説、TVドラマ「ターミネーターサラ・コナー・クロニクル」、ユニバーサルスタジオ用アトラクション「ターミネーター2:3D」など異なる物語(未来)が語られている。キャメロンが否定的だったとも言われる3,4の時と違ってスタッフとして関わってこそいないものの本作にはキャメロンが賛辞を寄せていて、(実際の権利とかとは別に)キャメロン公認ではあるようだ。本作もどうやら3、4とは別に2から続く未来を拠点にしているよう(1997年に審判の日が起きたことになっているので、あるいは2もなかったことになっている?)。最初の未来世界では荒廃した世界での人類とマシーンとの戦いが描かれ、最初のT-800やカイルが1984年に送り込まれた過程を描いている。これは1作目での前提となる背景を丁寧に再映像化している*1、といってもよくこの時点では「今回はリメイクなのかな?」と思わないでもない。ところがいざ1984年に行ってみると先に送り込まれたT-800は老化したおなじアーノルド型に倒されてしまうし、カイルは彼のいた未来ではまだ存在していない最新型のT-1000に襲われるし、本来守るべき存在、か弱いウェイトレスだったはずのサラ・コナーはすでに歴戦の勇士となって逆にカイルを助けている。どうなってんのこれは?というのが本作の物語だ。
 どうやら別の誰かたちがカイルのいた時代よりも、もっと未来からいろんな時代に送り込んでいたらしい。最初のT-800を倒した老人のT-800はサラが9歳の頃に送り込まれてサラを守り、教え、鍛えていた。この変更は実に現代的だと思う。1の前半こそキャーキャー言ってるだけの女の子、という感じだったリンダ・ハミルトンのサラ・コナーだが「2」で見せた「強い女性」は画期的であり*2、TVシリーズでも「300」シリーズのスパルタ王妃ゴルゴや「ジャッジ・ドレッド」のギャングのボス・ママなど強い女性を演じさせたら間違いないレナ・ヘディがサラを演じていて、いまさらか弱いウェイトレスとしてのサラを出すのも時代にそぐわないだろう。

 新しいサラを演じたエミリア・クラークはTV「ゲーム・オブ・スローンズ」組の一人。見た目はリンダ・ハミルトンレナ・ヘディに比べると幼く可愛らしいがだんだん「ちょっと幼いミシェル・ロドリゲス」ぽく見えて頼もしくなってくる。彼女自身がタイムトラベルするシーンもあるので一応全裸になります(そう言うシーンがあるというだけで全裸ヌードが見れるわけではない)。
 1作目では彼女もカイルも知らぬまま実は二人の間に生まれた子供がジョン・コナーだった。つまりカイルが送り込まれなければジョンは誕生しない、というタイムトラベル物ならではの展開があるが、本作ではサラはそのことを知っており、さらに劇中で結ばれる前にカイルにもネタばらしされてしまうため、変に意識してしまい逆に結ばれない、という展開に。ちなみにポルノやアダルトビデオ以外でのもっとも魅惑的なベッドシーンはもしかしたら1作目のサラとカイルのベッドシーンかもしれない。子供の頃はやけに興奮した記憶が。大人になって見返したらまああたりまえだけどそれほど過激なわけではないんだけど。

 4代目となるジョン・コナーにジェイソン・クラーク。これまでのジョン・コナー(2が少年、3でもまだ青年であるのを置いておいても)の中でも一番恰幅はよく軍人としてのリアリティにはあふれている。ジェイソン・クラークは「ゼロ・ダーク・サーティ」ではCIAのエージェント、「ホワイトハウス・ダウン」でテロリスト実働部隊のリーダー役として出てきた。はっきり言えばちょっと太めでイケメンと言う感じでもなく、あんまり善人のイメージもないのだが、この前には「猿の惑星・新世紀」で人類側の代表のひとりとして類人猿の代表シーザーとの折衝役を務め、理解を示す役を好演。本作でもクリスチャン・ベールエドワード・ファーロングの華麗さこそないけれど、実務に優れた指導者としてのジョン・コナーを演じていた。とはいえやはり後半になってからの悪役としての方が輝いている気はする。
 カイル・リースにはジェイ・コートニー。「アウトロー」でトム・クルーズ、「ダイ・ハード/ラスト・デイ」でブルース・ウィリス、そして本作でシュワルツェネッガーとやけに大物との共演が多くそして徐々に主役級になっている気がして、正直どうしてここまでフューチャーされるのだろう?そんなに格好良いとも思えないのだが?と僕なんかは思ってしまう。特に1作目でカイルを演じたマイケル・ビーンの明らかにハンサムという容姿と比べるとハンサムではあるがかなり癖があるタイプに見える。それでもユーモア溢れるシーンも多く、徐々に魅力的には見えてくるのだが。
 ただ、やっぱりジェイソン・クラークにしてもジェイ・コートニーにしてもこういうSFアクション映画でヒーロー役を務めるにはどうしても花がない。良い俳優ではあるのだが、シュワルツェネッガーイ・ビョンホンのような"スター"としてそこに居るだけで存在感があって輝きを放つ俳優に比べるとどうしても圧倒的に地味に映ってしまう。ふたりとも主人公の前に立ちふさがるテロリスト実行部隊のリーダーみたいな役だともっと輝く気もするのだけれど(これは過去の出演作品での役柄に僕が囚われているから、と言う見方もできるし、実際ジェイソン・クラークは後半悪役になってからのほうが輝いている。また今後スターとしての輝きが出てくる可能性だって十分あるし、何より良い俳優であることは確かで決して二人を否定しているわけではない)。

アイル・ビー・バック


 アーノルド・シュワルツェネッガーが堂々主演に復帰。元々「ターミネーター」という作品の設定から考えるとサラ・コナーはともかく敵であるターミネーターは毎回違くても問題ないと思うのだが、1作目でシュワが演じたT-800が強烈な印象を放ち結果、2以降でもシュワが続投、しかもプログラムを変更されたマシーンということで善玉として出ることとなった。一度そういう決定をしてしまえば元々機械、同じ顔が出てきても問題はなし(当時は工場で量産されるシュワ顔のターミネーター(アーノルド型というらしい)というCMがあったし、後には幾多のパロディも作られている)。逆に機械なのに登場するたび老けていくのはどうなの?とか3の頃言われていた気がするが、今回は最初に送り込まれた若いT-800とサラ・コナー9歳の時代に送り込まれそのまま表面の皮膚は人間同様老化し、機械も多少ボロになった「オジサン(サラがこう呼ぶ)」として登場。若い方は「4」で出てきたT-800の技術の発展形であるが、かなり自然だった気がする。
 メインのシュワは舞台が2017年に移るとさらに年を取りもう殆ど普段のシュワのままだろう。「旧式でもボロではない」と現役であることを謳う(が、多少部品にボロはあってぎこちない動きももうほとんど普段の初老の人。それでいて時折見せる人間とはちょっと違う様子が中々風流。
 今回はなんといっても役名が「Guardian」。エンドクレジットでは「T-800」でも「Terminator」でも「オジサン」なく「Guardian=守護者(あるいは保護者)」と出てくる。その名の通りサラ・コナーの保護者として彼女を守護する。ここに来てアーノルド型は破滅よりむしろ守護を象徴するキャラとなったといえるだろう。
 俳優復帰以来一作ごとに意欲的な作品に出てきたシュワルツェネッガーだが、ここに来てまた「ターミネーター」かよ!とか思ったのだが、冷静に考えるとドイツ出身というシュワの経歴がそのまま(シュワの場合はオーストリアだが)役柄に反映されていたり、自分のパロディを物ともしない感じだったのである意味原点であるターミネーターに戻ることは必然だったのかも。
 ただ「アイル・ビー・バック」の決め台詞の字幕が「戻ってくる」とかじゃなくてそのままカタカナで「アイル・ビー・バック」だったのにはいかがなものか。

 他には液体金属のターミネーターT-1000としてイ・ビョンホンが出てきます。元々1作目でシュワがターミネーターを務めた経緯にはその顔や身体の他にもほとんどセリフがないのでドイツ語なまりが取れなかった当時のシュワには最適だった、というシュワ側の事情もあるそうなのだけれど、そういう意味ではイ・ビョンホンもいわゆる外国人がセリフ喋らなくて済む役、という感じなのかも。ターミネーターには元々ランス・ヘンリクセンが予定されてたそうなのだけれど、その意味ではイ・ビョンホンもオリジナルT-1000のロバート・パトリックもシュワとは違う爬虫類顔の美形といった感じ。ただイ・ビョンホンのT-1000はすぐ倒されちゃうので、「エグゼクティブ・デシジョン」のスティーブン・セガールみたいなスポット参戦。今回は脱がないしあんまりイ・ビョンホンに期待すると拍子抜けではある。
 後は1984年でヘナちょこだった警官が2017年ではすっかりおっさんになった刑事としてJ・K・シモンズが登場。これもモデルは1作目で出てきたランス・ヘンリクセンたち警察か。しかしJ・K・シモンズである。スパイダーマンの鬼編集長J・ジョナ・ジェイムスンにTVシリーズ「OZ/オズ」の凶悪囚人シリンガーである。僕は見てないけど「セッション」もかなり鬼だったらしいね。そんなJ・K・シモンズが比較的へなちょこな刑事として出ているのでちょっとした見どころでも有ります。
 話としてはちょっと後半がだれた印象。またこの作品が新たな3部作の第1作となる予定らしく*3、劇中で解明されない謎やあからさまに続編への引きがあったりするのでちょっと散漫な印象も。
 最初はリメイクなのか、リブートなのか*4、それとも正当続編なのか、分からぬまま観たのだけれど、話としては「タイムトラベルによって誕生した新たな時間軸の物語」ということでこれまでの「スタートレック」とJ・J・エイブラムスの「スター・トレック」みたいな関係が一番近いか。シリーズを通しての矛盾はタイムパラドックスものであるし、作品の雰囲気か僕の場合あんまり気にはならなかった。かなり雰囲気は緩く、印象は3に近い。シリーズのファン、特に1と2を絶対視するような人には嫌われるかも。

 しかし、最初は1997年だった審判の日が3では2003年に伸び、今回は2017年まで伸び、それも回避したのでシリーズ続ければそのうち「何も起きませんでした」て事になるかもね、ならないかもね。 

Terminator Genisys (Music from the Motion Picture)

Terminator Genisys (Music from the Motion Picture)

 音楽はローン・バルフェという人。おもにゲーム音楽を手がけている人なのかな。エグゼクティブ音楽プロデューサーとしてハンス・ジマーが関わってるせいかちょっとジマーっぽいです。ブラッド・フィーデルのテーマ曲も出てきます。

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 シリーズ前作。旧ブログの方です。

 監督の前作。「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」の感想はもうちょっと待って下さい!

ターミネーター3 [Blu-ray]

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*1:7月13日追記。本作を劇場で観た後、録画していた1984年の「ターミネーター」を見たら、本作でカイルとT-800が1984年にやってきた直後の数シーンは1の完コピだったのだな。その辺は丁寧

*2:それ以前にも「エイリアン2」のリプリーバスケスなどキャメロン作品での強い女性や女軍人は出てきたが、主役でリプリーを凌駕する強い女性として出て来たのは画期的だったと思う

*3:4も3部作とか言ってた気がしたが

*4:そもそもリメイクとリブートの違いもよく分かっていない