The Spirit in the Bottle

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隣りあわせの灰と青春 シンデレラ & エルサのサプライズ

 本当は怖いシンデレラ!ここ数年の流行の一つである古典的なお伽話を最新技術で実写化!解釈のぜんぜん違う「白雪姫」2本、「ジャックと豆の木」「美女と野獣」そしてディズニー公式の「眠れる森の美女」外伝「マニフィセント」、お伽話オールスターズによる「イントゥ・ザ・ウッズ」などがあるわけですが*1、今回はディズニー公式で外伝でもひねったものでもなく真正面からのリメイク。ケネス・ブラナー監督の「シンデレラ」を観賞。

アナと雪の女王 エルサのサプライズ


 同時上映は「アナと雪の女王」新作「エルサのサプライズ」。アナの誕生日のために奮闘するエルサとクリストフたちの様子を描く。スマートフォンのゲームアプリで「FREE FALL」というのがあってそこの本編後のゲームの部分がこの「エルサのサプライズ」なんですね。なのでそこで出てくるアイテムがこれでもかと登場するのでちょっと答え合わせをしながら観た部分も。日本語吹替ではちゃんと神田沙也加と松たか子、ピーエル瀧らが続投。ハンス王子もちょっと出てくるけれど、長編として作られると聞く続編では捲土重来を謀るハンス王子が南の魔術師を連れてアレンデールを侵略しにくるという話はどうか?

シンデレラ


 物語はもうそのまんまです。結構オリジナルのエピソードとか挿入して膨らませるのかな、とおもいきや、意外にも特に新しいエピソードはなし。まんまあの「シンデレラ」が実写で展開される。これまでにも「シンデレラ」のその後を描いた「エバー・アフター」などあったわけだけれど、だからこそかここ最近の作品の中では正統派とでも言っていい出来栄え。。
 とはいっても「シンデレラ」も元々のお伽話は色々あるわけで、源流は中国とも古代ギリシャとも言われていて(似たような話はやはり世界中あるみたい)、底本となっているのはディズニーの「シンデレラ」。一部楽曲も共通している。僕はそちらを見てはいるはずなのだが、詳しくは覚えていない。なので今回の実写化がどこまでアニメ映画「シンデレラ」に忠実なのかはちょっと分からない。
 例えば漠然と知っているお伽話「シンデレラ」だと王子は舞踏会で初めてシンデレラと出会い、しかしガラスの靴を残して去ったシンデレラを見つけるために国中の娘の足にガラスの靴を履かせていくが、一目惚れしたのに顔覚えていないのかよ!とか思っていたのだが、この映画では舞踏会より前に森でシンデレラと王子が出会い、その時点で王子が惚れたことが示されているので、あくまで探す手段でしかないことが分かり、現代風の整合性は取れている。
 お伽話における「遠い昔(あるいは「昔々」)」をどの時代に見るかはちょっと意見が分かれるところではあるけれど、この「シンデレラ」では18世紀から19世紀初頭ぐらいが舞台のように思えて、それこそ「アナと雪の女王」と同じぐらいの時期っぽい。もうちょっと昔(百年戦争ぐらいの時期)のイメージがあったが。
 舞台となる王国も城のロケーションが「アナと雪の女王」のアレンデールとよく似ていてなるほど同時上映にしたのもよく分かる。この映画一応架空の国の特に年代を指定しない設定だけれど、物語の中ではパリが言及されてはいるんだよね。ファッションの中心地パリって言うとやはりブルボン朝ルイ14世の頃とかなのかなあ。お城の衛兵とかはハンス・ルドルフ・マヌエルの絵「傭兵」に出てくる左右アンバランスな派手な格好をした兵士が務めていたりしたのでスイス傭兵を雇っているみたいです。


 主演のシンデレラ(ちゃんとした名前はエラだが途中から義姉によってシンデレラ(灰かぶりのエラ)とあだ名される)はリリー・ジェームズ。「白雪姫と鏡の女王」のリリー・コリンズに続く眉毛のリリーだ。映画の役柄から若く見えるけれど現在26歳。最初は眉毛リリー1号に比べてちょっと魅力に欠ける気もするけれど最終的にはちゃんと魅力的に見えるから不思議。ただ、ドレス姿のウェストはCG加工で実際よりちょっと細くなってるらしいです。残念。
 魔法使い(フェアリー・ゴッド・マザー)はヘレナ・ボナム・カーターで彼女がドタバタしながらかぼちゃを馬車に、ネズミを馬に、アヒルを御者に、そしてトカゲを従者に変える。ここでシンデレラのドレスも見事なものに変えるのだが、ここでシンデレラが着ているピンクのドレスをシンデレラは「母の遺したドレスだからあんまり変えないで欲しい」と言うのに出てきたのは青いドレスで外見もガラッと変えちゃうのはどうなのか?しかもシンデレラもそれに納得しちゃう。このフェアリー・ゴッド・マザーとの出会いもちょっと唐突なので王子の時同様、舞踏会の前に出会っておくシーンがあると良かったかも(もしやあったかな?)。眉毛が太いのは清純であることか何かの象徴になってるの?それとも単にここ最近の女性のファッションのトレンドなのでしょうか?
 王子役はリチャード・マッデン。ここ最近のお伽話実写映画では様々な面で女性が強くなったことを反映しているのか主人公のヒロインが能動的でその分王子役が割りを食うことが多いのだが(担当も王子でなく猟師だったり庶民であることも)、ここでは正統派なヒーローとしての王子の役割を。最も王子自身がアクションをするわけでもないので他の作品に比べるとボロが出なかっただけとも言えるか。股間のモッコリも目立つ白タイツを見事に履きこなしている。

 悪役と言える継母(役名もステップマザー表記で固有名は出てこない)はケイト・ブランシェット。ケイトさんは演じる役で「かわいい/怖い」と「善い/悪い」の組み合わせで四つに分けられるが今回は「怖い・悪い」か。この映画では「白雪姫」の女王や「眠れる森の美女」のマレフィセントのような徹底的な極悪人と言うよりは実際に存在しそうな悪人という感じだが、僕はこの継母を見て二人の人物を連想した。一人はロシア帝国の皇女ソフィア。帝室に生まれ皇位に昇る事こそなかったが、政治に辣腕を奮い、弟であるピョートル大帝との政治抗争の末破れた。彼女の存在が後の「女帝のロシア」を産む礎となったことは間違いない。ロシア帝室の皇女というのは中々に不幸で身分が下の貴族に嫁ぐわけにもいかないし、かといって他のヨーロッパ王室は野蛮なロシアの皇女など手に余り貰い受けるのは拒否されて、結局修道女となるのが普通だったという。さらにソフィアは容貌も悪かったらしく優れた頭脳を持ちながら生まれながらにして朽ちることを宿命漬けられたような存在。しかし彼女は弟の摂政となることで政治の世界に関わった。腹違いの弟であるピョートルとうまくやれればロシアはさらに前進したかもしれないが、この2つの才能はぶつかりあった。「シンデレラ」の継母も才能を持ちながら結局のところ自分で何かをやるわけではなく結婚とそれによる夫の財力の使用という手段でしか自分を活かせなかった。
 もぅ一人はガートルード・バニシェフスキー。映画「アメリカン・クライム」、ジャック・ケッチャムの「隣の家の少女」のモデルとなった1965年にインディアナ州で起きたシルヴィア・ライケンス事件の主犯である。この事件は旅芸人の娘シルヴィアと妹が両親の巡業の間バニシェフスキー家に預けられたが、約束されていた仕送りが遅れたことをきっかけにバニシェフスキー一家と一部の仲間による壮絶な虐待が行われ、ついに死を迎えたという事件で「インディアナで起きた最も恐ろしい事件」とされる。「シンデレラ」の場合、最終的にハッピーエンドが担保にされているのでもちろん死を迎えることはないがそれでも継母と義姉たちのシンデレラへの扱いは現代なら十分虐待である。また劇中でシンデレラを嫌う理由として「清純で純真だから」というようなことを言っているが、この相手が汚れがないからこそ、自分との境遇の違いで相手を憎むことしか出来ない、というのもなんとなく共通するところのような。というかシンデレラももし王子との出会いが無ければ最終的に虐待がエスカレートして死に至らしめていたような気がする。日本だと尼崎や北九州で起きた家族乗っ取り事件を思い起こさせる。いずれにしろ女性が結婚という受身的な手段でしか成り上がることの出来ない時代に恵まれた環境で純真に育ったシンデレラを憎んでしまうというのは十分理解できて、お伽話にありがちな分かりやすい悪役ではなかったが、もっと複雑な悪役として成功していたと思う。これは演じたケイト・ブランシェットによるところも大きいだろう。
 他悪役(という程でもないのだが)、王子が庶民の娘と結婚することをよしとせず、シンデレラ探しを妨害する大公にステラン・スカルスガルド。ブラナー作品は「マイティ・ソー」にも。意地悪な姉二人は特に個性分けがされておらず、名前もどっちがどっちか分からなくなるぐらいだけれど黄色のほうより桃のほうが若干かわいいかな(僕の好みの問題)。映画を観る我々の観点だと明らかにこの二人の姉よりシンデレラのほうがセンスがいい、というか過剰でなく流行に流されない格好なのだけれど、劇中では二人の姉のファッションこそが流行りでありパリの最先端という設定。
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 今回は吹替で観賞。シンデレラに高畑充希、王子に城田優。いわゆるタレント吹替の一種だとは思うがこれが全然違和感なし。城田優はクレジット見るまで全く気づかなかったし普通にうまかった。高畑充希のシンデレラはちょっと朴訥な喋り方で見ながら(誰だかわからないけどプロでは無いのかな?)などと思いながら観ていたけれど、シンデレラというキャラクターには見事にはまっていて文句なし。
 ほかはヘレナ・ボナム・カーターのフェアリー・ゴッド・マザー(この呼名はマレフィセントのことでもあるな)に朴璐美ヘレナ・ボナム・カーターって高乃麗もよくあてていたと思うけれど共にハスキーな声という感じか。ヘレナ・ボナム・カーターはブラナー作品では「フランケンシュタイン」でヴィクターの婚約者エリザベスを演じていた。
シンデレラ オリジナル・サウンドトラック (2CD)

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 まったくひねりはないけれど王道のお伽話実写化だとは思います。僕みたいに皇女ソフィアやらガートルード・バニシェフスキーやら連想するのはまれであろうし、小さい子どもと親が一緒に見たりするには十分面白かったです。演出ケネス・ブラナーなので手堅くありますしね。
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 眉毛リリー1号の白雪姫実写化作品(ディズニー作品ではないです)。

*1:ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」が流れの最初期のものだと思うが技術的には「アバター」の惑星パンドラの描写では無いかとも思う