The Spirit in the Bottle

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壁の中に誰かがいる 劇場版『進撃の巨人』 前編 〜紅蓮の弓矢〜

 まったく観る気はなかったんだけど、たまたま劇場料金が安い日に時間が取れて、しかしスケジュール上はこれぐらいしか観るのがなかったという消極的な理由から今回の作品を鑑賞。大ヒット漫画のTVシリーズ、その総集編として劇場公開された「劇場版『進撃の巨人』 前編 〜紅蓮の弓矢〜」を観賞。

 原作はもちろん大ヒット作である諫山創の「進撃の巨人」。それがTVアニメ化されたのが2013年の4月。今回はその総集編で、公開が2014年の11月22日であるからもう2ヶ月経っていることになる。
 物語はもう大体知っていると思うけれど一応簡単に述べると、人を捕食する巨人が人類を圧倒している世界。人類は全高50mになる三重の巨大な壁の中にその生存権を得た。壁の中の平和が100年ほど続いたある日、一番外側の壁「ウォール・マリア」のシガンシナ区に50mを優に超える超大型巨人が出現、壁をぶち破る。壁の外の世界の探索に憧れる少年エレン・イェーガーはその巨人の襲撃で母を亡くし、巨人の殲滅を誓う。5年後、訓練兵団で兵士として成長したエレンだったがそこに再び超大型巨人が現れて…というもの。人を喰う巨人と人類の生存競争という単純ながら奥が深そうな世界観。立体機動装置による独特のアクション、作者独特の決して美麗ではないが迫力ある作画、時折あらわれる作者独特のギャグセンス、といった内容で話題を呼んだ。
 TVアニメの方はこの原作を非常に丁寧に作っていて多少構成は異なっているが地上波でもMBS、TOKYOMXといった民放大手の系列局ではないのが幸いしてか、ほとんど遠慮することなくアニメ化していた。特に実際に動いている立体機動の描写はアニメならでは。後はキャラクターデザインなども明らかに原作より上手かったりする。
 今回は原作の第1巻から第4巻の前半、シガンシナ区の陥落からその5年後トロスト区に再び超大型巨人が現れ、そしてそのなかでエレンの巨人化の力が判明。その力でトロスト区の奪還作戦が成功するところまでを描く。TVシリーズだと1話から13話までの1クール分。総集編としてはとても丁寧に作られていたと思う。ぱっと見、どこがカットされていたのか、とか分からないぐらい物語的にはすべてが含まれている。TVアニメでは4巻後半からの訓練兵団時代のの初期のシーンを最初の方に持ってきていて、その辺は劇場版では全カットしているので時系列は直線的に描いている。
 ただ、これは僕がこの劇場版を、それなりに原作のファンでもあるし、TVアニメシリーズもちゃんと見ていたのにそれほど観る気が起こらなかった理由でもある。丁寧な総集編であるがゆえに、すでに原作やTVアニメをみている身にはわざわざ劇場まで行って確認作業する意味があるのかな、と思ったのだ(もちろん音響や画質など細かい面では劇場用にパワーアップはされているのだと思う)。あくまで原作を読みTVアニメも全話見た身から言うと、例えば物語の進行はほとんどアルミンあたりのナレーションをベースに省略して、とにかく立体機動のシーンを中心にアクションのつるべうちにするような展開でも良かったのではないかと思う。逆に言うとこれを劇場で初めて見た人は物語も分かりやすいし、かと言って途中で飽きる、とかもない展開で良かったとは思う。ただやはり劇場オリジナルな展開があるわけでもなく、すでにファンである人にはちょっと物足りないかも。とにかく物語の進め方は丁寧です。これは構成が上手いのだなあ(脚本は小林靖子)。
 ただ、立体機動のシーン含め、アクションは激しく、例えば3Dで観たいなあ、と思ってしまうほどだった。いわゆるセル風アニメの3Dってあるんだっけ?

 悪く言えば乱暴な、よく言えば勢いがあって味がある諫山創の原作の絵と比べて、アニメの方は作画も丁寧。ただうますぎて原作の狂気がアニメの方からは多少減じているのも事実。例えば巨人たちは容姿が様々だが、明らかに異形な巨人だけでなくぱっと見は普通の人間みたいな巨人でさえも通常の巨人は全く知性が感じられないというか、何考えているか分からない怖さがあるのだが、アニメではうますぎるために逆にその辺の怖さは薄い。これはアニメだけでなく、諫山創以外が手掛けた外伝漫画などでも言えることである。
 鎧の巨人は原作初期に登場したものでなく、のちに再登場したものをデザインとして採用していて、さながら装甲の厚い巨大ロボットのよう。というか「進撃の巨人」ってある種の「巨大ロボットもの」として見ることも出来て、巨人化可能な人間が巨人化する際、うなじ部分に居るというのはおそらく「エヴァンゲリオン」がモデルだろうし、巨人が単なる生物でなくある種人造的に作られた存在であることは明白なので、今後巨大ロボやSFとしての見方が大きくなると思う。この作品中においては、巨人対人間、巨人対巨人が描かれているが立体機動装置による人間VS巨人のほうがまだメインといえるか。続編だともっと女型の巨人なども出て巨人VS巨人も生きてくるだろうけど。
 そして僕が個人的に一番気になるのはミカサのデザインで明らかに原作より色っぽく描かれている。もちろんミカサはメインヒロインであり原作では数少ない東洋系の人種*1ということでエキゾチックな魅力はあるのだろうが、ジャンが惚れた以外は特に凄い美人という描写は無い。むしろ高身長で筋肉質なアスリートっぽい描写が特徴だと思う。ユミルほど男性っぽいわけではないが、少なくともクリスタに比べれば容姿で美人という描写があるわけではない。容姿以外でも口数は少なく、そして立体機動の技能としては作中でもトップレベルでいわゆる性別を越えた物語のキャラ構成として言えばヒロインというよりヒーローに近い。エレンやアルミンの方がヒロインぽいとすら思うこともある。それがアニメでは具体的に美人だ、と触れられるわけではないが原作よりずっと色っぽく描かれているように思う。一番は唇だろう。アニメのミカサは明らかに口紅を塗っているように思える。それ以外にも原作より柔らかい表情が多く、ヒロイン・女性として強調されているように思うのでおそらくこれはアニメ製作者の意図的なものなんだと思う。個人的にはこの作品にそういう女性らしさというのかヒロインぽさ、あるいはもっと言えば萌え要素とでもいのか、そういう部分はあまり要らないように感じるのでこの辺は賛否で言うなら否だなあ。
 ラストは見事トロスト区の壁に開いた大穴を巨人となったエレンが塞いで、しかしミカサとアルミンがエレンを助け出そうとするもそこに他の巨人が迫ってきて絶対絶命!終わりかと思った瞬間一陣の風が舞い、人類最強の男リヴァイ兵長が!という終わり方。ウン、これはこのシーンを最後に持ってくるよね。僕だって途中はいろいろあっても終わり方はあのシーンだと確信できたもの。あのリヴァイは最高に格好いい。
 リヴァイ兵長については作者は「ウォッチメン」のロールシャッハがモデル、と言っているそうなのだけど、これがいまいちよくわからない。もちろん外見でなく内面のモデルなんだろうけれど、あんまりロールシャッハとリヴァイに共通点は感じない。それよりも同じ「ウォッチメン」だと調査兵団団長のエルヴィンのほうがオジマンディアスをモデルにしているような気がする。リヴァイはそれよりも「ドラゴンボール」のベジータ、「幽☆遊☆白書」の飛影といった「小柄だけど超強い主人公のライバル」というジャンプ少年漫画によく出てくるタイプの発展形に思える。

 ちなみに僕の妙な特技というか習慣に作品によってある作品を別の作品の絵柄で(脳内で)読む、というのがある。例えば永井豪の「デビルマン」を脳内で思い返すときに小畑健の「DEATH NOTE」の絵柄で再生したり、その逆と言う具合。具体的には飛鳥了夜神月不動明=Lに置き換えて読むのだ。この「進撃の巨人」も荒川弘銀の匙」と絵柄交換して読む、ということをしたりするのだが、あるときは相川くんがトロスト区奪還作戦時に死んでしまったので、もう一度別のキャラを相川くんに置き換えたら、今度は超大型巨人になってしまいました。ぎゃふん!

 現在は劇場版の後編としてTVシリーズの後半の出来事の総集編が待機中。多分前編よりも内容は増えるのでカットされる部分も多くなるだろう。また実写化も制作されているようだが、こちらは日本人キャストによるものだし、かなりオリジナルなものとなるっぽいのでまあ、メインであるというより外伝的なものとでも思ったほうがいいのかな。あんまり期待はしていないです。
 ただやっぱりこのアニメを最も象徴する映像はTVシリーズの最初のオープニングだと思う。タイトルにもなっている「紅蓮の弓矢」が劇場版ではそのままかかるわけではないのだが、Linked Horizonの主題歌はアニメ主題歌としては近年まれに見る傑作だと思う。

進撃の巨人 コンプリート DVD-BOX import

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*1:原作の方ではようやっとアッカーマンという姓や東洋系という出自に光が当てられましたね