The Spirit in the Bottle

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怪物が父の名を名乗るまで アイ・フランケンシュタイン

 秋の話題作は「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」と「猿の惑星 新世紀」。どちらももう鑑賞したのだけれど、両作ともあと何回か観たいので感想はちょっと後回し。とりあえずそれとは別の作品の感想、消化試合と言ってはあれだけど細々と公開されてあんまり良い評価を聞かない作品の感想を。アーロン・エッカートフランケンシュタインの怪物を演じる「アイ・フランケンシュタイン」を観賞。

物語

 フランケンシュタイン博士の作った創造物が創造主への復讐を果たした。彼は創造主の亡骸を埋葬しようとしたその時、何者かに狙われる。彼らは古に伝わる悪魔であった。彼を助けた者たちによるとこの世界では悪魔とそれに対抗するガーゴイルとの戦いが続いており、なぜか悪魔はフランケンシュタインの怪物を狙っているという。ガーゴイルの女王にアダムと名付けられた怪物は共に戦うことは拒否する。そして現代…
 アダムが悪魔退治を始めたことで再びガーゴイルと悪魔の抗争が激しくなった。悪魔の王子ナベリアスは地獄に堕ちた悪魔の魂を宿らせるため魂のない蘇った人間の身体を欲していた。そのために人間の科学者に研究させていたが中々研究は進まない。そこにアダムが現れた。フランケンシュタイン博士の被造物であるアダムを手に入れることができればその秘密が解明されるはず。アダムとフランケンシュタイン博士の日誌を巡って悪魔とガーゴイルの最終戦争が始まった!

 いわゆる三大怪物の一人フランケンシュタイン。ユニバーサルなど映画で語られる場合はドラキュラ、狼男、フランケンシュタイン藤子不二雄Aの「怪物くん」でもおなじみのメンツ)。原作小説ということで考えるとブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」、ロバート・ルイス・スティーブンソンの「ジキル博士とハイド氏」そしてメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」ということになるだろう。いずれにしろ三大怪物と言って必ず数えられる存在だ。小説のほうで言うとこの3作は全て物語の構造が入れ子構造になっているという特徴を持ち*1、作品自体が怪物的とよく言われる。僕はもちろんすべて最初に知ったのは映画やそれこそ「怪物くん」と言ったそれら古典を元にした漫画・アニメだが原作を読むと一番大好きなのはメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」だった。単に作品としても一番出来が良いと思う。おどろくべきことにこの作品は当時十代だった少女の手によるものだが、この作品成立過程自体(ディオダディ荘の怪談会議)が伝説に満ちている。メアリーの両親、ウィリアム・ゴドウィンとメアリー・ウルストンクラフトまで含めれば彼女の人生自体がひとつの物語として十分成立するほどだ。
 ゴシックホラーと言っていい「フランケンシュタイン」だが同時に世界初のSF小説とされる時もある。これは新たな生命の創造というテーマがこれ以前の魔術や宗教によるものではなく科学を元にして描いたからだ。この背景には死んだカエルに電気を流して動かすガルヴァーニの実験などが知られていたことがある。今では創造主である「フランケンシュタイン博士(正確には博士ですら無く一介の学生)」とその被造物「フランケンシュタインの怪物」がごっちゃにされることは少なくなったが、少し前まではよくごっちゃにされていた印象。「怪物くん」でも単に「フランケン」と呼ばれていたりした。
 映画の中ではまずユニバーサル映画で1931年のジェームズ・ホエールの「フランケンシュタイン」が有名*2。ここで怪物を演じたボリス・カーロフの演技とメイキャップは以後の怪物のスタンダードとなった。こちらも傑作だがより高い評価があるのは続編である「フランケンシュタインの花嫁」。良くも悪くもこの映画の影響でフランケンシュタインの怪物が首からボルトの突き出た巨漢、というイメージが定番となったが、1994年に原作に忠実に、というのを謳い文句にしたのが1992年にやはり「ドラキュラ」を映画化したフランシス・フォード・コッポラ製作による「フランケンシュタイン」。ここではケネス・ブラナー(監督も)がフランケシュタイン博士を、そしてロバート・デ・ニーロが怪物を演じている。もちろんこの映画も完全に原作に忠実というわけではなかったが、怪物のこれまでのメイキャップから離れた造形、フンガー!だけじゃなくきちんと喋り知性がある描写などが特筆するべきものだった。ここでは最後にウォルトンが怪物に名を聞いて怪物が「名づけてもくれなかった」というのが印象的。後述するが今回の「アイ・フランケンシュタイン」はこのブラナー版の影響が強いように思う。

 さて、この「アイ・フランケンシュタイン」だが、実はこれダークストームコミックスのアメコミが原作で作者はヴァンパイアとライカン(人狼)の果てしなき抗争を描いた「アンダーワールド」シリーズの原作者兼出演者でもあったケヴィン・グレイヴォー。本作でも脚本に協力している他製作総指揮も務めている。そう言われて観てみると、なるほど基本的な、人類の陰で行われる二つの種族の果て無き抗争、という設定やそこに終止符を打つかもしれない異種(「アンダーワールド」ならハイブリッドであるマイケル、本作ならアダム)という設定など「アンダーワールド」と同様であるといえるだろう。
 主人公であるアダム(フランケンシュタインの怪物)はアーロン・エッカート。冒頭の黒い長髪という描写などはこれまでの映画版でもブラナー版でもなくメアリー・シェリーの小説に忠実だが確かに顔が縫合傷だらけではあってもアーロン・エッカートの美形がそのまま生かされているので全然フランケンシュタインの怪物らしさはない。身長も実際のエッカートとそう変わらないように見える。現代に舞台を移すと髪型もこざっぱりした短髪となり普通に格好いい。動きもぎこちなさとは無縁。現代の酒場などで周りの人間が傷にビビって思わずアダムを見る、という描写があるが、最初こそ驚いても全然受け入れられる容姿だと思う。これまでのフランケンシュタインの怪物の怪物っぽさとは全然別物で別に踏襲しなくても構わないが、もうちょっと怪物っぽさを出すべきだったかと思う。この顔で「オレは怪物だ!」とか言われても全然こちらに響いてこない。アーロン・エッカートといえば「ダークナイト」のトゥーフェイスだが、あちらのほうがまだフランケンシュタインの怪物感があったよ!せめて身長だけでも2mを優に超えるとかそういう演出が欲しかった。
 このフランケンシュタインの怪物が創造される過程は回想などで時折劇中に出てくるがイメージとしてはブラナー版を踏襲しているように思う。ユニバーサル版含め通常は雷を利用する電気をデンキウナギを利用したという描写はブラナー版独自のものだったと思う。
 フランケンシュタインの怪物に「アダム」とかなりベタな名前をつけるのはまあいいといして(人造人間とその花嫁が人間を越える新たな種のアダムとイブになるのを防ぐため花嫁の製造を断る描写も原作にはある)、むしろこの物語はアダムが名前(ファーストネーム)を得るよりも父と同じ「フランケンシュタイン」を名乗るまでの物語、という気がする。戦いの過程でフランケンシュタイン博士の残された気持ちを知り最後にそう名乗るのだ。

 物語の核となるガーゴイルと悪魔の抗争。ガーゴイルは普段は人種も様々な人間の姿をしているがいざ戦うときにはいわゆるガーゴイルの姿をとる。ガーゴイルと言うとどちらかと言うと悪魔の仲間というイメージもあるがあれは魔除けに近いのでこの描写も正しいのかな?ガーゴイルの中では最初に登場する2人が魅力的だが序盤で退場。ガーゴイルの女王リオノア(演じるのは「ロード・オブ・ザ・リング」でローハンのエオウィンを演じたミランダ・オットー。正直だいぶ老けた)もその部下であるギデオン(「アウトロー」の真犯人。「ダイ・ハード/ラスト・デイ」でのブルース・ウィリスの息子だったジェイ・コートニー)もキャラクター描写としては優柔不断の中途半端で観ていてイライラする。
 ガーゴイルたちは戦いに敗れると身体から光が飛び出して昇天するがこのイメージは「ノア約束の舟」のウォッチャーと共通するものがありいわゆる地上に落ちて人間を見守る天使の共通イメージなんだろうか。
 一方敗れると地面に穴を残して*3燃え尽きるのが悪魔たちでそのボス、悪魔の王子ナベリアスをビル・ナイが演じている。ビル・ナイはこれまで吸血鬼、ゾンビ、魔法使い、神様、デイヴィ・ジョーンズと人為らざるものを数多く演じてきたがそこに悪魔も加わることとなる。とはいえ「悪魔の王子」という肩書からイメージするものとは全く別の老人姿でありビル・ナイ個人の魅力でもたせているものの「悪魔なんだから容姿なんていくらでも変えられるだろうになんでそんな細い老人の姿に?」と思ってしまう。
 彼らの変身は頭部だけいかにもアメリカの怪物という形になるもので背広やジャケットを着たまま頭部だけ悪魔に戻る姿はTVシリーズの「バフィー恋する十字架」を思わせてしょぼく感じるものの個人的には楽しかった。そういえば「バフィー」でも第4シーズンのボスはアダムと名付けられた人造人間だったね。

 全体的には映画と言うよりTVの特別編、ゲームのムービーみたいな印象の強い作品ではあるのだけれど、要所々々で僕好みの描写があるのでそんなに嫌いにはなれない。ビル・ナイの出演や僕の好きな「バフィー」っぽい描写そして何より人間の科学者テラを演じるイヴォンヌ・ストラホスキーとガーゴイルの女性戦士を演じたCaitlin Stasey(読みはケイトリン・ステイセイでいいのかしら)が美人だったので良かったです。ちなみに1931年の「フランケンシュタイン」の名台詞でその後も何かと「フランケンシュタインもの」では使用される「It's Alive!」のセリフを今回放つのは彼女です。

I Frankenstein

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 アダムという名はとりあえず与えられたものにすぎない。怪物は最後に自ら「フランケンシュタイン」の姓を得るのだ。「オレはフランケンシュタイン」と
フランケンシュタイン Hi-Bit Edition [DVD]

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ブラナー版。
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ユニバーサル版。何度も読んだ原作。エンドクレジットには「スペシャル・サンクス」としてメアリー・シェリーの名がありましたね。
フランケンシュタインの日記 (学研ホラーノベルズ―MOVIE MONSTERセレクション)

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劇中で出てくるものとは別だけれどこんな物もありました(実在したフランケンシュタインのもの!とか言われてた)。

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原作者ケヴィン・グレイヴォーの創造したシリーズ最新作。これにはほとんど関わってはいないみたいだけど。

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直近の作品から。ヒロイン?加奈子の愛読書の一つがメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」だった。

*1:フランケンシュタイン」は北極航路を探検するウォルトンの手紙、その中で語られるフランケンシュタインの告白、そして更にその中で語られる怪物の独白という形。「ジキル博士とハイド氏」は最初は三人称だがラストはジキル博士の手紙。そして「ドラキュラ」に至っては全てが手紙や録音、新聞と言った断片的な記録で語られる

*2:それ以前にエジソンによる1910年作品もあり

*3:連想したのは「イワンのばか」