The Spirit in the Bottle

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溶ける恋人たち ポンペイ

 アメコミ映画に挟まれてそれほど印象は強くないけれど、今現在古代を舞台にした史劇が集中して公開されている。古代ローマを舞台にした「テルマエ・ロマエⅡ」と「ポンペイ」、古代ギリシャを舞台にした「300 帝国の進撃」。史劇に含めるにはちょっと問題は多いけれど聖書の「創世記」、ノアの箱舟を題材にした「ノア 約束の舟」なんかもある*1。古代と一口に言っても場所も時代もずいぶん幅はあるけれど、とりあえず古代ギリシャ・ローマを舞台にした物語群。ただいずれもSF要素だったりファンタジーだったり他の要素との合わせ技の作品が多い。その中では何気にまっとうな作品となっているのがポール・W・S・アンダーソン監督の最新作。「ポンペイ」を鑑賞。

物語

 紀元79年、一族をローマ軍に殺されたケルト人の青年マイロは今は剣闘士として生きていた。その武勇を認められた彼はローマ近郊のポンペイへと連れて行かれる。そこで彼はポンペイの有力者の娘カッシアと出会う。マイロは王者であるアティカスと戦わされることに。そしてカッシアはローマ元老院議員のコルヴィスと婚約を余儀なくされていた。試合の前日、地震によって落ち着かないカッシアの馬をなだめたマイロとカッシアは愛を確かめ合う。捕らえられたマイロはムチ打ちされ、翌日の試合は剣闘士数人対ローマ軍に変更、マイロとアティカスはともにこれを打ち破るがその時ヴェスヴィオ火山が遂に噴火を始めた…

 同時期に「テルマエ・ロマエⅡ」も公開されたけれどこちらはどうも今回は興が乗らずスルー。「300」は観に行く予定。でもこの二つがタイムトラベルだったり魔法みたいなSF・ファンタジーの要素があるのに比べると「ポンペイ」は監督から思えば意外なくらい正統派史劇であるとは思う。”ダメな方の”ポール・アンダーソンと散々揶揄されてきて実際、僕もさすがに「バイオハザードⅤ」あたりで「もうこの人の作品はいいかな…」と思い始めていたのだけれど、本作に限って言えば面白かったです。長く印象に残る作品とかではないけれど、それなりに驚きが合ってスカッとする作品としては及第点だと追う。多分その原因は幾つか考えられて、ひとつは脚本がアンダーソン自身によらないこと。意外と自分の手掛けた脚本だと思い入れがありすぎて客観的判断がつきにくいのかグダグダになっちゃうけれど、他人の手掛けたものだと堅実にしっかり演出できる映画監督というのもいてこの人はその典型なんじゃないだろうか、という気がする。そしてその脚本がシンプルにして典型的な物語であるということ。はっきり言って「タイタニック」と一緒です。あれの古代ローマ。以前「タイタニック3D」の感想でも述べたが、「タイタニック」の物語は定番中の定番である。身分違いの男女が恋に落ちて、どちらかには婚約者がいて、そして何らかの事件の結果結ばれつつも最終的に決して幸せとはいえない結末を迎える。僕がパッ思いつくのは「タイタニック」以外には以前も上げた「シザーハンズ」や「ムーラン・ルージュ」だが他にもこの定形に基づく作品は多くあるだろうし、「ロミオとジュリエット」あたりもこの物語の親戚みたいなものだろう*2

 今回の「ポンペイ」も基本となる物語はこの定型に基づいていて、であれば陳腐ではあるけれど古今東西老若男女誰でも感情移入しやすい作品であることは確かなのだ。そんなシンプルだが力強い物語なので下手に複雑にしてグダグダになる要素が少なかったと言えるのかもしれない。
 映画の舞台となるポンペイは紀元79年にヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流によって一夜の内に壊滅してしまったことで知られる。火砕流は人々を飲み込みそのまま固まったため、後に死体部分が腐って無くなったため空洞となり、後世の調査団がその空洞部分に石膏を流し込み当時の人々の姿を映し出すことができた。この石膏像は映画の最初と最後にも出てくる。ポンペイは当時の人口2万人ほどで内2千人程度が犠牲になったと見られている。日本だと、徳川家康公の隠居地、駿府が富士山の噴火で一夜にして壊滅!ぐらいの出来事だろうか。「テルマエ・ロマエ」の漫画のほうでもこの時に居場所がなくなった人々の子孫が山賊として出てきたりした。ヴェスヴィオ山はこれまた「テルマエ・ロマエ」でタイム・トラベルしたルシウスが銭湯の富士山のペンキ絵を見てヴェスヴィオ山と思ったくらい富士山に似てはいる。
 劇中「新しい皇帝」というのが名前だけでてくるが当時は英雄・名君・暗君・暴君を僅かな期間に続けざまに排出した初代ローマ皇帝アウグストゥスから始まるユリウス・クラウディウス朝が滅び(最後はネロ!)、その後の混乱の時期をへてフラウィウス朝の2代目であるティトゥス帝の時代である。その後世襲ではなく禅譲によって帝位が受け継がれる五賢帝の時代に入るその少し前(「テルマエ・ロマエ」のハドリアヌス帝は五賢帝の3代目)。この皇帝は79年に即位して81年には死んでしまうが、この後を継いだ弟のドミティアヌス帝が暴君だったため相対的に評価は高いそうである(治世が短かったためボロが出なかっただけかもしれないが)。

 主人公マイロ役は「サイレントヒル:リベレーション3D」で一応ヒーロー役に当たるヴィンセントを演じたキット・ハリントン。「X-MEN フューチャー&パスト」のピーター・ディンクレイジと同様TVの「ゲーム・オブ・スローンズ」組でもある(僕は残念ながら未見)。「サイレントヒル」に比べると役柄が違うのもあるが大分大人っぽくたくましくなっている。古代ローマギリシア(あるいは聖書の物語の舞台であるエジプトやイスラエル)を舞台にしていてもアメリカ映画である以上白人が演じることが多く、もうその辺は観客の方に見立ての心が求められるのかな、と思う。まあ言語も英語になってしまうしなあ。近代以降が舞台だと最近はきちんとフランス人はフランス語、ドイツ人はドイツ語と言った具合に複数の言語が使われるようになってきてはいるが。で、このマイロはブリテン島ケルト人が連れて来られた、という設定なのでルックスにはそれほど違和感がない。ちょっとコリン・ファレルっぽい感じはするしね*3。マイロという役名はシーザー(カエサル)という名前も出てくる事もあって、「猿の惑星」シリーズの後半戦、「新・猿の惑星」や「猿の惑星・征服」のシーザー/マイロを思い出しますね。ちなみに僕は劇中頻繁に出てくるマイロの別名(リングネームみたいなもの)「ケルティック・ウォリアー」がWWEで活躍中のシェイマスを思い出しました。がおー!



 それに比べるとこの映画の敵役であるコルヴィスを演じるキーファ・サザーランドはもう本当に典型的なアメリカ人にしか見えなくてどう見てもアメリカのヤンキーが古代ローマ人のコスプレをしてみましたって感じである。いや格好いいことは格好いいんである。ただ未だに「スタンド・バイ・ミー」のエースの印象が強かったり僕はちゃんと見たことないんだけど「24」の印象だったりが強くてどうしても史劇には似合わない人なのかもしれない。父親ドナルド・サザーランドは最近「ハンガー・ゲーム」のスノー大統領として活躍していて親子して古代ローマモチーフの作品で悪の親玉を演じている事になりますな。この人の最後はいわゆる「マッド・マックス」のジョニーの死に様と一緒です。
 キーファはローマ人には見えないが、その部下であるプロキュラスは髪型といい、顔つきといいザ・古代ローマ人!という感じである。演じているのはサーシャ・ロイズという人。個人的にはこの作品で一番印象に残ったのはこのプロキュラスであった。

 ヒロインのカッシアはエミリー・ブラウニング。「エンジェル・ウォーズ」の妄想ダンス娘である。そして母親が「マトリックス」のキャリー・アン・モス。ともにヴァーチャルでは最強アクションをする親子である。エミリーさんはちょっと貧相な感じではあるのだが、まあ助けられ型のヒロインとしては最適であるか。それよりも注目すべきはカッシアの侍女役のアリアドネである。ギリシア神話を元にした「タイタンの戦い」でもアンドロメダよりその侍女の方が魅力的だったが、こちらでもお姫様より侍女のほうが美人!また「ヒロインのお姫様よりその侍女の方が美人」の法則が発動してしまった。もちろんそれぞれお姫様も美人が演じているし、僕の好みのタイプというのもあるわけだが、いずれもお姫様は典型的な白人女優が演じているのに対し、侍女はエキゾチックな容貌の美人が演じているからだろう。この辺「十戒」あたりの頃から変わらないなあ。「ROCK YOU!」とかはヒロインにも様々な人種の血を引いているシャニン・ソサモンをキャスティングしていて姫も侍女も両方エキゾチックな美人で良かったのだが。

 この映画でその侍女を演じているのはリメイク版の「死霊のはらわた」にも出ていたジェシカ・ルーカス。日本だと秋元才加に似た感じか。とにかくこの映画では男性だとプロキュラス、女性だとアリアドネがお気に入りですね。脇役に入れ込む人生よ。

 ラストは恋人2人の前に敵を倒し、迫りくるヴェスヴィオ火山の火砕流から逃げる。しかし火砕流の勢いは止まらず、やがて2人は諦め愛のキスを交わす。そして…という感じなのだが、えー!死んじゃうの?せっかく苦労して敵を倒し、そのために友人の命も犠牲にしたりしてるんだから、せめてどっちかは生き残ろうよ。それじゃ劇中の悪役も手助けした友人も無意味じゃないか。実際は確かに巻き込まれれば一巻の終わりだったけれど、なんとかしようよ。観てる最中は中々 格好良くアクションや敵に対するラストも良かったのにそれが、報われないなんて。
 またこのラストのキスが妙に生々しいディープ・キスでそのまま死んじゃったものだから最後はキスした状態の石膏像がエンドクレジットを飾る始末。先ほど書いたとおり後世の人間が火砕流が固まってできた空洞部分に石膏を流し込んだら人型ができたってことだから、このキスした男女が出てきた時は調査団気まずかったでしょうな。まさか2000年経ってさらされようとは(この映画はフィクションです)。実際人口2万人のうち2千人が犠牲者ということで9割は何とかなったんだからこの主人公カップルを生き延びさせたほうが良かったんじゃないかなあ。
 全体的には面白く満足だったんだけど、最後はちょっと不満ですね。

ポンペイ

ポンペイ

ポンペイ最後の日 CCP-201 [DVD]

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 ポンペイを題材にした映画はたくさん出てるけど過去の代表作はこちらですかね。

*1:これは予告編から受ける印象と違ってかなりトンデモ映画だった!次感想書きます

*2:ロミオとジュリエット」の場合は身分と言うか敵対する集団の中の男女が恋に落ちる、という感じで若干ずれるけれど

*3:そういえばコリン・ファレルアレキサンダー大王なんてのもあったけど、違和感バリバリだったね