The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

外なる恐怖、内なる邪悪 プリズナーズ

 今月は劇場に多く行っているようで、でもそのほとんどは「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」と「アメイジングスパイダーマン2」を何度も観るためで新作は2本だけだったのだった!その一本が「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」。そしてもう一本が今回の作品。でもこれもなんだかんだでアメコミ映画と関係が深い感じになってしまった。ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホール主演「プリズナーズ」鑑賞。

物語

 ペンシルバニア州の田舎町。工務店を営むケラーは家族とともに感謝祭を祝うため友人のフランクリン宅へ。しかし6歳になる娘アナとその一つ上のフランクリンの娘ジョイが外出したまま行方不明に。ケラーの息子ラルフは散歩をした時に見かけたこの辺りのものではないキャンピングカーが怪しいと告げる。捜索にあたったロキ刑事は森の入口でそのキャンピングカーを発見。運転手は逃げようとして木に激突し逮捕される。捕まったのはアレックスという男。いかにも怪しい人物だがアレックスは少女たちを知らないといい、また彼には10歳児並みの知能しかないことが分かる。
 48時間の拘留期間が過ぎてアレックスは釈放される。それに納得しないケラーは釈放時にアレックスに殴りかかる。その時ケラーは確かにアレックスが「僕がいる間は泣かなかった」というのを聞いた。ケラーはアレックスこそが犯人に違いないと確信する。夜、ケラーは犬の散歩に出たアレックスを拉致し父親の残した今は空き家となっている建物に監禁する。ケラーはフランクリンを連れ、自白するまで拷問を加える。やがてロキにも事件の別の側面が見えてきて…

 ヒュー・ジャックマンが主演だし「X-MEN フューチャー&パスト」の前哨戦ぐらいのつもりで観に行ったのだが、これがガツンと頭を殴られたような衝撃作だった。他の作品でいえば「悪魔を見た」とか「イノセント・ガーデン」、「チャイルドコール 呼声」とかに近い感じだろうか。最初は社会派な作品なのかな、と思いそのうち、犯人探しの面においてもケラーの徐々に暴走する、一度手を出したらもう戻れないという心理状態においてもサイコサスペンスぽくなり最終的に神と悪魔の宗教論争のような様相をなし、予想もつかない決着を見せる。

 物語は狩猟の場面から始まる。息子の初めての狩りだろうか。鹿に対して銃口の狙いをつけ、聖書の一節を口ずさむ。作品内では特に強調されていないが、ケラーは信心深く、また地下室に何かあっても生き延びれるように食料などを完全備蓄している。息子にも「備え」の大切さを教える。ここでのケラーの様子は狩猟を嗜む信心深いキリスト教徒としての一般的なアメリカ人のように思える。ただ、日本人にはわかりづらいがアメリカのキリスト教徒には世界の終わりに備えてサバイバル備蓄をする人がいたり、世界の終わりに神が信心深い我々を天に引き上げてくれる(携挙)と考えていたりする人がいるようでそういう人たちにとっては世界の終わりはむしろ待望するところであるらしい。そのような背景をもつケラーに対して、犯人はかつては敬虔なクリスチャンだったが、息子を失って以来神を信じることを止め、犯罪に走ったという人間だ。この人物は激しく神を憎むという意味で無神論者とも違う(かと言って悪魔崇拝ともまた違うのだけれど)。
 ヒュー・ジャックマンは一見すると良き父親、良き夫であるケラーを上手に演じている。この人は私生活でも本当にいい人でそういうイメージは最初の方のケラーのイメージに貢献している。ところがアレックスを拉致し、暴行を加えていく彼は徐々に児童誘拐の犯人探しとは別の悪魔の側面が見えてくる。事情を知っているフランクリンはやがて耐えられずに妻に話してしまうが、妻のナンシーは最初のほうこそアレックスを解放すべきだと言うがやがて状況に取り込まれ一緒にアレックスの拷問に加わる。このへんの人間は自分に事情があって許された存在だと思い込んだらとことん残酷になれる、あるいは特殊な事情でも徐々に麻痺してしまうというのはそれこそオウム真理教事件であったり、あるいは最近だと尼崎の事件などを連想させたりする。外なる恐怖が内なる邪悪を呼び覚ます。
 タイトルの「プリズナーズ」は囚人ということだが、物語の中ではケラーの父親が元看守で自殺したということが語られるに過ぎない。それでも捕まったアレックスの立場であるとか、あるいはひとつの考えに囚われて他を見出すことができなくなったケラーたちの心理であるとかを現しているのかもしれない。

 キャストがとにかくよくて、主役の2人はもちろん、それを支える脇もしっかりしてる。しかしヒュー・ジャックマン主演という以外は特にアメコミ要素なんてないだろうと思っていたら意外とキャスト部分で見つけられてしまった。ヒュー・ジャックマンはもちろんウルヴァリンだし、フランクリン役のテレンス・ハワードは「アイアンマン」の初代ローディ*1、そしてジェイク・ギレンホールの役名は「ロキ」。スペルも北欧神話のロキと一緒で実際に存在する名前(このキャラはロキ刑事としか出てこないので詳しくは不明だがおそらく姓だろう)なのかはよくわからないが、当然「マイティ・ソー」の邪神ロキを連想してしまう。映画の中ではロキ刑事は事件の解決に全力を尽くす敏腕刑事という風にしか描かれないが、どうやらただ敏腕なだけでなく時にはずるい手腕も使用し、清濁併せ呑む人物であるようだ。その意味で真犯人やヒュー演じるケラーが確固たる信念に基づいて自分の立場が絶対的に正しいと思い込んでいるのに比べるとフランクリンと並んで観客に近い人物でもある。
 アレックス役のポール・ダノは僕が初めて知ったのは「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」における独自の教団を率いて強烈な印象を残した。今回はある意味それに匹敵する怪演だと思う。

 ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホールポール・ダノという有名どころとはちょっと外れるけれど、少ない登場でぎょっとさせられたのは真犯人?と目される形で途中から登場するボブ・テイラー役のデヴィッド・ダストマルチャン。ポール・ダノに少し雰囲気は似ているけれど、更に精神を病んでいるような表所を見せる。どこかで観たことがあるな?と思ったらこれが「ダークナイト」のトーマス・シフを演じた人だった。

 トーマス・シフはアーカムアサイラムの患者だった男でジョーカーに心酔したか利用されたか、市長暗殺(未遂)のシーンでジョーカーの代わりに捕まる役回りだ。演じたダストマルチャンはまるで本当に精神を病んでいるような表情で出番は少ないながら強い印象を残した。今回もやはり真犯人ではなかった精神を病んだ人物という形で出てくるので役回りとしてはほぼトーマス・シフと同様である。とにかくまだそれほど知られていない役者だけれど、出てくる度に強い足跡を刻んでいくので、今後にも注目したい。


 監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。本作の前に、やはりジェイク・ギレンホール主演で「複製された男」という作品を撮っており、そちらも7月に日本公開だそう。
映画はその結末を含めて完全に解決しないまま終わる。ケラーの父親に関する件とか、なぜ先にジョイが助かったのか。そしてジョイはなぜケラーを犯人の一人と疑うような事を言ったのか。もしかしたら僕が一度観ただけでは気づかなかったのかもしれないが幾つか謎を残したまま終わる。その辺の不条理で解明されない部分も僕は作品としては結構好きだ。
 とにかくX-MENの前哨戦とでもいうような軽い気持ちで見たらものすごい衝撃を食らった作品。
 
 さて、これで残すは「X-MEN フューチャー&パスト」である。事前には色々心配されていた本作であるが前評判はかなり良い様子。ジム・リーの「X-MEN」でアメコミに本格的にはまった身としてはやはり本命はこちら。ちなみにすでに続編製作が決まっていてそれは「アポカリプス」という仮タイトルが付いているのだとか。もちろんあのアポカリプスが登場するのだろう。で、その続編の仮タイトルと今回の物語の基本設定、そして過去に読んだX-MENコミックスを考慮すると「フューチャー&パスト」のオチが予想されてしまうのだが、果たして…「X-MEN フューチャー&パスト」は先行公開で観ますよ!乞うご期待!

原作…ではなくノベライズです。