The Spirit in the Bottle

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劇団・特命係島へ。 相棒 -劇場版III-

 TVの人気シリーズ「相棒」の劇場版最新作。昨年の「相棒シリーズX-DAY」が3月公開だったのでほぼ一年ぶりの新作という形か。TVの方ではシーズン12が放送されたが今回の劇場版はシーズン11とシーズン12の間に起きた事件とされる。「相棒」最新作「相棒 -劇場版III- 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ」を鑑賞。

物語

 特命係を神戸尊が訪れる。神戸が警察庁次長である甲斐峰明からの密命を特命係に託す。それは八丈島から船で40分ほどの全面私有地である島・鳳凰島で起きた事件。そこでは主に自衛隊退役者により組織された民兵が共同生活をしており、月に一度外部の人間に軍事訓練を施していた。そこで例外的に長期訓練を受けていた若者が馬に蹴られて死亡するという事件が起きる。実はこの民兵組織がテロの準備をしているという疑いが有り、特命係に事故の事後調査を装って調べてきてほしいというのだ。鳳凰島に降り立った杉下右京と甲斐享はリーダーである神室司と会い事故現場を検証。最初はカモフラージュに過ぎなかった事故の事後調査だったがやがて殺人事件の疑いが・・・

 最初に言っておくと、今回冷静な判断は放棄しています。というのも今回は出演者や監督の登場する関係者による舞台挨拶がある回を選んで鑑賞したから。純粋に映画だけでなく、そういう劇場の雰囲気も含めて劇場鑑賞だと思っているので、その意味では最高でした。はっきり言うと今回の映画版はスピンオフである「X-DAY」や前作に比べると若干質的には落ちる印象があります。それでもそういう環境で観たため文句よりは良かった、という思いのほうが強いのです。
 前作の記事はこちら。

相棒シリーズ X DAY [Blu-ray]

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 出発点がTVドラマ(しかも最初は2時間サスペンス)ということで、今回もTVシリーズとの連動は多く、「劇場版2」では映画本編直前の事件を描いた「予兆」、そして「X-DAY」では後日談(ただし放送されたのは映画公開より前)としてシーズン11で「ビリー」というエピソードが放送されたりした。今回も「序章」というタイトルで文字通り映画の序章にあたるエピソードが制作されている。ただし、これはTV放送用ではなくdビデオという携帯動画用のドラマとして製作。そのせいか「予兆」や「ビリー」に比べてもっと核心に踏み込んだものとなっている。これは映画本編の事件が終わった後(シーズン12が始まる前)にその関連した事件と思われる一年前(2012年6月27日)の事件の調書を読み、振り返る形で捜査一課による捜査が描かれる。これがシーズン10で神戸尊が特命係から去り、杉下右京は休暇をとってロンドンへ旅行中の出来事である。ここでピンとくる人もいると思うが「X-DAY」が2012年6月20日から始まる出来事なので、その直後の事件。捜査一課ものすごく頑張っていることになるなあ。いずれも右京さん好みの事件ながら旅行中不在だったので関与できなかったという設定。この旅行の帰りに香港でカイトと出会うわけですな。「序章」はTV放送用に作られたわけではないが、映画公開後に地上波でも放送され*1僕も観たが、映画の後に映画の前の事件を振り返る後日譚と前日譚を合わせたような内容。どっちを先に見ても問題はないが、むしろもう少し整理して映画本編に組み込んでも良かったのではないか、と思う。

「巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ」という副題は結構盛っていて、絶海という程でもないし、密室というほど閉じられているわけでもない。ただ孤島で軍事訓練をしているという異様さは際立っていて今回は殆ど都会は出てこない。それなりにアクションも多いし、爆発も多いけれど、なんとなく舞台劇を観ているようなディスカッションドラマと言う印象を受けた。
 主人公はもちろん杉下右京。どんな状況でもあの英国紳士風のいでたちと振る舞いは変わらないので、舞台がジャングル風の自然ということも合って余計に個性が際立つ。特に朝、川のそばでいつものように紅茶を嗜んでいるシーンは爆笑もの。TVシリーズはその長いエピソードの積み重ねの中で、王道の推理劇、社会派、コメディ、時にオカルトやSFチックな物語までバリエーションに富んでいるが、時折「劇団・特命係」とでもいうべき芝居がかった(本当に芝居するときも)捜査をする時があるがなんとなく今回は全編そんな感じであった。やはり舞台が都会ではないのでちょっと雰囲気が変わっているのだなあ。
 甲斐享ことカイトくんは前任の亀山薫、神戸尊が馴染むまで時間がかかった印象があるのに比べるとまだ若いだけあってそれこそ最初は反発していたけれどすぐに右京さんの力を認め従っている感じがする。独自性は少ないけどその分右京さんの邪魔をしてない。
 でも!今回の一番の見せ場*2は神戸尊が登場して杉下右京と再会、のみならず甲斐享と神戸尊という新旧相棒が一会するところだろう。もちろんそんなに大きな出番があるわけではないけれど、ドラマから退場しても世界からいなくなるわけではない、ということを示してくれる。
 そしていつものレギュラー陣。トリオ・ザ・捜一はシーズン12の第一話で三浦さんが引退してしまったが、ここでは3人揃い踏み。伊丹刑事も死体袋に入ったり頑張った!その他「暇か?」の角田課長、鑑識の米沢さん、内村刑事部長、中園参事官、大河内監察官なども、あ、そういえば今回は陣川くん登場してない!

 今回のゲストは民兵のボス神室司に伊原剛志。いわゆる民族派右翼で自衛隊から炭疽菌を盗みテロを企てる。最後には右京相手に核保有するべきだ、と訴えるような人物。演じる伊原剛志はこの一方でNHKの朝の連続ドラマ「花子とアン」では社会主義にのめり込む家族思いの男を演じてたりするのだから面白い。また島が部隊で馬に乗ったりする描写があるためイーストウッドの「硫黄島からの手紙」で伊原剛志が演じたバロン西も連想される。ただ劇中最大の敵であり特命係の前に立ちふさがる壁であるためそれなりに格好いいと思う描写が多いがその主張には一ミリたりとも共感できないようになっている。これは僕が特別右翼的なものを毛嫌いするから、と言うよりこれまで「相棒」というシリーズを見て右京さんの思考(志向といってもいい)を見てきたものなら同様ではないかと思う。神室にカリスマ性と志があるのは分かる。だがそれは到底ひとりよがりで共感できるものではないなあ。
 その神室に資金援助し島の所有者である若狭に宅麻伸宅麻伸といえば未だに「ゴジラ1984)」の沢口靖子の兄役なのである。今回は防衛大学校を出てながら自衛隊に入隊せず事業で成功し、怪我などで自衛隊をドロップした神室を支援する社長。しかし神室が暴走しているのではないか、と恐れる役でもある。
 そして島唯一の女性兵士、高野に釈由美子。この人も「ゴジラ(機龍二部作)」に出演したね。最初は釈由美子って分からなかったよ。というかこの人高身長のイメージがあったのだけど(調べたら165㎝)それでも元自衛隊という設定のため長身男性俳優を集めたのか男性との対比でとても小柄に見えてしまった。それほどセクシーなシーンがあるわけではないけれど、美しい部分と兵士としての凛々しさみたいな物がうまく兼ね備えていたように思います。それでもこの一味には全く共感できないんだけどね!その他民兵には神尾佑など。
 他にちょい役で吉田鋼太郎嶋田久作六平直政といった「いい顔の親父」俳優は今回も登場。
 
 前作では警察庁と警視庁の対立みたいなものが背景にあったが、今回は防衛省。過去のTVシリーズでは故・小野田官房長が「省になったからっていい気になってない?」という防衛省幹部に向けた台詞があったと思うが、神室たち自衛隊OBの暴走を描く一方でそれをもみ消そうとする組織の悪巧みを描く。実際の戦闘はできないが訓練だから、という体裁を取れば何事も可能、というのも恐ろしい。あくまで映画の中での描写だけれど。一応風間トオル演じる良心のような人物も出している。もちろん防衛省だけでなく警察庁、警視庁の悪事もこれまで描かれています。

 さて、部隊挨拶。事前の予定では杉下右京=水谷豊、角田六郎=山西惇、芹沢慶二=山中崇史、そして監督の和泉聖治の4人と聞いていたのだが、登場したのはそこに伊丹憲一=川原和久を加えた5人!イタミン!というわけで思いがけない慶事であった。マイクが効かないというコネタを五人連続でやるチームワークの良さを見せつつ、撮影の裏話など。撮影は沖縄で行われたそうだが(劇中では警視庁管轄)、約一ヶ月の撮影で水谷豊や成宮寛貴はほぼ毎日撮影だったのに対しトリオ・ザ・捜一は拘束期間は同じだけど実際に撮影した期間はわずかだったので沖縄を満喫したという話や、登壇者の中では唯一沖縄に行ってない山西さんがそれに対して愚痴を言う、みたいなネタも。山西さんはドラマだと分からないけれど普段は関西弁なんだね(京都出身。「相棒」のなかでも京都府警に勤務している双子の兄がいるという設定だったりする)。
 イタミンはある意味特命係より人気のあるキャラクターともいえ、今回は事前に予定されていない出演者だったこともあって水谷豊さんより川原和久さんの登場の時のほうが歓声は大きかったような気もするなあ。

相棒-劇場版3- (小学館文庫)

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 TVシリーズ発の映画を僕は全然否定はしない。その映画が初心者に難しくファン向けになってしまうのも致し方無いと思う。むしろTV発だと知っているくせに事前予習をせず「一本の映画としてダメな作品」みたいな映画が上、TVは下のような見方をする方がどうかと思う。長年続いてきたシリーズに対するリスペクトがあるなら少なくとも基本的な登場人物、設定などは知っておくべきだ。
 それこそシーズン8最終話「神の憂鬱」などはもちろん規模や表現に差はあるが行き過ぎた犯罪監視システムを巡る物語、ということでは前回の「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」と共通する部分なんかも多い。その幅の広さは貴重なものだ。今回の映画は正直映画作品としてはイマイチかも知れないが、可能性は広げたと思う。そもそもMCUも相棒も映画だけに収まらない拡がりが魅力だ。

*1:関東の場合。地方に拠っては公開前の放送もあったようだ

*2:そう言っちゃうと序盤も序盤なんだけど