The Spirit in the Bottle

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末期の酒のために生きる! ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!

 話題の映画。この人の映画はいつも日本での公開が大変なことになっているが、それでも今回は比較的スムーズに公開された印象。エドガー・ライト監督、サイモン・ペグとニック・フロストのコンビが主演の最新作「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」を鑑賞。

物語

 高校時代、ゲイリーとその仲間たちは町の一軒で1パイントずつ計12軒のパブのはしごに挑戦。挑戦は果たせなかったがそれはゲイリーにとって最良の夜だった。現在、かつてはイケてたゲイリーはアル中のすっかりダメな大人に。あの挑戦をきちんとやり遂げいていればこんなことにはならなかった!ゲイリーはすっかり中年になったかつての仲間に声をかけ、あの手この手で全員集合。里帰りし、パブクロール(パブのはしご)に再挑戦する。目指すは最後のパブ「ワールズ・エンド」。最初の店「ファースト・ポスト」から始めるが途中でおかしなことが。トイレでけんかを売った若者が青いオイルのロボットだったのだ。町は何者かにの乗っ取られている!彼らはワールズ・エンド(世界の終わり)に向かう前に世界を救えるのか?

 「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ」に続くエドガー・ライト監督、サイモン・ペッグニック・フロスト主演の第3弾。主演コンビの作品ということで言えば間に「宇宙人ポール」も挟んで4作目ということになる。それぞれアメリカ映画などへのオタクぶりを発揮しつつ、そこにイギリスならではの背景とユーモアを詰め込んだ作品。パブという設定は過去の2作でも重要な要素だったが、今回はメイン舞台。ただそこまで行くと下戸である僕にはちょっととっつきにくい題材である。僕は下戸なので飲み会などではとりあえず最初の一杯は頼むけど後はソフトドリンクという場合が多い。飲みを矯正させられるような飲み会には絶対参加しないので、まあ今回のパブクロールなど最初から棄権、という感じになるだろうけど。ただ日本のビールってドイツ風のアルコール度強めのキンキンに冷やした奴が主流でイギリスはそんなにアルコール度が高くないビールを常温に近い感じで飲むのが主流と聞いたこともあるのでそれならまだ違うかな。
 映画のもう一つのネタはSFの定番ネタとも言える「ボディスナッチ」物。ジャック・フィニィの小説「盗まれた町」が有名で何度も映画化されているが、宇宙人によって徐々に住民が入れ替わる恐怖を描いている。あるとき突然知り合いが別人のようになっているが誰もその不自然さに気づかない!という恐怖は冷戦時期の赤狩りによる人々の不信感を描いているともいわれる。だいたい15年毎ぐらいに映画化され、いずれも名作と呼ばれる作品が多い。
 ゲイリーたち主人公は20余年ぶりに田舎に帰るがそこはかつてのパブがチェーン店となっていたり、高校の時の知り合いがそのままの若さで存在していたりと悪い意味での変化とやはり悪い意味での無変化を感じることになる。この辺の住人とそっくりになり入れ替わったロボットに襲われるあたりはもうほぼ「ショーン・オブザ・デッド」のゾンビと同様である。

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色々出てるけど。

 過去作ではどちらかと言うと平凡(生真面目)なサイモン・ペッグとダメなニック・フロスト、という設定が多かったが、今回は逆。サイモン・ペッグ演じるゲイリー・キングは高校時代の栄光を引きずったまま全く成長していないダメな大人だが、ニック・フロストはしっかり社会人をやっている。サイモン・ペッグは「スター・トレック」や「ミッション・インポッシブル」シリーズでは一芸に秀でた職人タイプだけどムードメイカーという感じだったが、実は結構鋭い顔つき。今回のロックスター風の格好も似合っていて意外とシリアスな悪人なんかも似合うんじゃないかって気がした。このゲイリーがとにかく狂騒的で例えば「ハングオーバー!」シリーズで言えばザック・ガリフィアナキスのアランが主人公としてメインで活躍するようなものである。
 ニック・フロストのアンディ・ナイトはやはり5人の仲間の中でも特にヘイリーと仲が良かった役で、劇中では高校時代、まるで2人が恋人同士だったかのような台詞もあるが、まあこれはこのコンビの映画に特有の「女の子と付き合うより男同士で遊んでいたほうが楽しい年頃」描写で済むだろう。お笑いトリオ、ネプチューン原田泰造堀内健みたいなもんですよ。今回は至って真面目な役で5人の中でも一番真面目なぐらい。途中でやけになって酒を飲んだときはそこからブチ切れてはっちゃけるのかな、と思いきや特にそういうこともなかった。
 この定番コンビに続くのがバディ・コンシダインのスティーブン・プリンス。キング、ナイト、プリンスと続くイギリスらしく王家を連想させる名前が続く。このスティーブンもゲイリーに続く女好きで今回はコンビでなくトリオといったほうがいいかもしれない。
 更にエディ・マーサンのピート、マーティン・フリーマンのオリヴァーと続く。エディ・マーサンは日本ではガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」シリーズでのレストレード警部役が有名か。今回は高校時代のいじめられっこだけど家が金持ちだったので重宝されたという役。マーサンはこれまで「ジャックと天空の巨人」の騎士や先のレストレードなどその渋みがかったルックスを活かした役人タイプの役を僕は多く見かけたが今回の弱そうな役もよく似合っている。
 そしてマーティン・フリーマン。ご存知ビルボ・バギンズ氏やTVの方の「SHEROCK」ジョン・H・ワトソン。今回はワトソンに近い感じで仲間内では一番小柄、不動産のセールスマンで途中でロボットと入れ替わるが普段から真面目タイプであるため気づかれにくい!彼の役名はオリヴァーで渾名はオーマン。これはこめかみ辺りに「6」の形の痣があるからで予兆を意味する「OMEN」を「O-MEN」とした時に「666」ではなく6一つだから単数で「O-MAN]というわけですな。マーティンは「ショーン・オブ・ザ・デッド」にも出演しており彼ら3人はサイモンとニックほどでないにしても映画の外でも実際の仲間と言えそうだ。 

 「ホット・ファズ」では4代目ジェームズ・ボンドティモシー・ダルトンが出ていたが、今回は5代目ピアース・ブロスナンが出演。彼はゲイリーたちの高校時代の恩師だが、すでにロボットとなり入れ替わった者達のスポークスマン的な役割で登場する。ちなみに彼の役名、ガイ・シェパードだが、ガイは「Vフォー・ヴェンデッタ」でも有名になった1605年の火薬陰謀事件の犯人ガイ・フォークス*1から。シェパード*2はイギリスの有名な犯罪者ジャック・シェパードから取ったと考えると、例えばキング、ナイト、プリンスと王家を連想させる名前を持つ主人公たちと体制に逆らった者の名前を持つピアース・ブロスナンが対決という構図になる。ただ一方でゲイリーたち(というかゲイリーのみ)は秩序とは無縁なのに対してとロボット(宇宙人)が新しい秩序を築こうとしているという意味では正反対なのも興味深い。
 ちなみにピアース・ブロスナンとは「ダイ・アナザー・デイ」で共演したボンドガール、ロザムンド・パイクも出演。「ダイ・アナザー・デイ」ではボンドを裏切るボンドガールだったが、本作では善悪が逆転しているのも面白い。

 映画はギャグ部分の面白さにばらつきがみられた感じがするのと個人的にエピローグ部分はいらなかったかなあ。
 作品は日本では先に「したまちコメディ映画祭」の映画秘宝まつりで上映されたそうだけど、たしかに映画秘宝好きそうな作品ではある。雰囲気の似た作品にケビン・スミス諸作品なんかがあるけれど、やはりあちらはアメリカ映画、こちらはイギリス映画という違いはある。今回の主演5人なんかはそのままかつてのモンティ・パイソンよろしくこの後もチームを組んで作品を作っていって欲しいと思ったりする。
 ビル・ナイも出てるよ!

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監督の前作。

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サイモン&ニックのコンビの前作。
 ちなみに!現在「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」が絶賛公開中(傑作!)ですが、ようやっとエドガー・ライト監督による「アントマン」が動き始めました。公開は「アベンジャーズ2」の後となるようですがこれでやっとハンク・ピムのアントマンとその奥方に逢えますね!

*1:ガイという名称が男性を指すようになったのはフォークスが起源とも言われる

*2:これ自体は羊飼いから転じたよくある姓だが