The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

ティンマンの心に温もりを ロボコップ

 4月は日本の「仮面ライダー」、そしてアメリカの「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」「アメイジングスパイダーマン2」とスーパーヒーロー映画が立て続けに公開される2月に引き続きヒーロー強化月間(そして5月は「X-MEN」の公開も待っている!嬉死にさせる気か!)。その景気付けの一発目!ということでもないが、映画発のヒーロー映画「ロボコップ」を鑑賞。もちろんあのポール・ヴァーホーヴェン監督のアメリカ進出第一弾作品のリメイクです。

物語

 2028年、オムニ社のロボットは中東などアメリカ軍が展開する各国で運用され治安維持に利用されてきた。しかし国内では反対も多く反対派のドレイファス上院議員の名をとった「ドレイファス法」によって国内の治安維持に利用することはできない。今最も利益が見込める国内でのロボット運用のため、オムニ社CEOセラーズは法の抜け穴、まずは亡くなった警官をサイボーグ化し、ヒーローとして盛りたてることで国内の世論を動かそうと考える。
 犯罪都市デトロイト。刑事アレックス・マーフィーはギャングの恨みを買い自動車を爆発させられる。意識を失った彼が気づくとそこは謎の研究施設だった。彼は脳、心臓、右手を残して死んでしまい、ノートン博士の元ロボコップとなったのだ。最初は戸惑うもやがて自分の立場を理解するマーフィー。彼を受け入れようとする家族の愛にも触れた。しかしお披露目直前に膨大な犯罪情報をインプットさせられたマーフィーは機能停止を起こしてしまう。しかしマスコミへ披露を優先するセラーズはノートンにマーフィーの感情をシャットダウンさせる。初披露で見事指名手配犯を捕まえたマーフィー。しかしそれはもう家族の知るマーフィーではなかった…

 オリジナルの「ロボコップ」は1987年の作品で元々はフィル・ティペットストップモーション・アニメーション技術をフル活用できる作品ということで企画されエドワード・ニューマイヤーが脚本を書いた。そこにオランダで映画を撮れなくなったヴァーホーヴェンが監督をして他の誰にも真似できない凄みのある映画となった。容赦無いバイオレンス描写、要所々々で挟まれる毒の効いた劇中CM、洗練されたデザインやフィル・ティペットによってアニメートされたED-209、アクの強い登場人物と全編に渡ってとにかく濃い描写の連続でアメリカ人にとって(そして日本人にとっても)ポール・ヴァーホーヴェンという人物を強く印象づけた。このエド・ニューマイヤー、フィル・ティペットポール・ヴァーホーヴェンのトリオは後にこの路線を素直に拡大させたような「スターシップ・トゥルーパーズ」を手がけることになる。
 僕もこの二つは大好きで、昨年ワッシュさん(id:washburn1975)の企画による「SF映画ベストテン」では「スターシップ・トゥルーパーズ」が1位、「ロボコップ」を5位にしている。

 シリーズは続編2本、アニメを含むTVシリーズ3本が作られるなど、映画発信のヒーローとしてはかなり広がっていた。ちなみに映画の「2」と「3」は脚本をフランク・ミラー先生が担当している。3の日本製ロボット「オートモ」は大友克洋から取られているというのは有名な話。ただ実際は現場でミラー先生に無断で脚本を大幅に変えられてしまい、これが原因でミラー先生はしばし映画業界から遠ざかり「シン・シティ」でロバート・ロドリゲスに共同監督を持ちかけられるまで映画業界と距離をおいていた。

 本作はこれまでのシリーズとは世界観を共有しないリメイクと言う形だけれど、やはりまっさらな状態で見る、ということは不可能。どうしてもヴァーホーヴェン版と比べてしまうし、そしてどんなに頑張ってもあれを越えことはできないだろう、という思いがある。ただ、そういう前提を了承すればその範囲で肯定的に見ることはできるし、題材的にはもちろん全身をロボット化した刑事の物語、という大好きな部類なので楽しみではあった。
 オリジナルとの大きな違いはロボコップとなったマーフィーの心理の変遷だろう。オリジナルではロボコップとなったマーフィーは最初からマーフィーとしての個性や記憶を消され、それを取り戻す過程が重要となる。一方リメイク版は当初は感情も記憶も持ったまま家族の元へ帰る。しかし途中で人間性を失うため、家族によるマーフィー奪還作戦が行われる。それに先立ってマーフィーが完全なロボットであるEM-208に比べて反応速度が遅いため、戦闘モードになると自動的にプログラムが切り替わる(ただしマーフィーは自分の判断で行動していると思い込んでいる)、という設定が処理されているが、ちょっと疑問なのはオムニ社はED-209やEM-208の国内での運用を目指してその前段階としてロボコップ(ロボット的ではあるが完全なロボットではないので国内で運用できる)を利用するつもりなんだから別にEM-208より性能が悪くてもいいのでは?マーフィーが活躍して「マーフィーより性能がいいのがEM-208やED-209なんですよ」という方がいいのではないのだろうか。まあこの辺は「徐々に」マーフィーが人間的感情を失っていく描写なのかな。
 アレックス・マーフィーを演じているのはジョエル・キナマンデヴィッド・フィンチャー版の「ドラゴン・タトゥーの女」に出ていたらしいがちょっと記憶になし(過去に出てくる警察みたいな人かな)。スウェーデン出身で長身、小顔のイケメン。やはりスウェーデン出身のアレクサンダー・ステルスガルドに似た感じだがこちらのほうが若干ワイルドな風貌かな。僕にとっては実質初お披露目で後述するようにこの新人ヒーローをベテランが支える形となる。ロボコップのデザインは彼のスタイルの良さを反映したものとも言えそうだ。
 このような展開のため、オリジナルではほとんど出番が無かったマーフィーの家族が重要な役割を果たす。またそのせいでヒロインの立場がマーフィーの妻に移ったためマーフィーの相棒ルイスは女性(ナンシー・アレン)から黒人男性(マイケル・K・ウィリアムズ)へ変更。まあオリジナルでもあんまり(救出されるという役割での)ヒロインという感じではなかったけれど。黒いボディのマーフィーを見てルイスが「黒くなって本当の相棒だ」みたいなことを言って上手いとは思ったけれど笑っていい部分なのかは微妙。まさかこの台詞のためだけに黒いボディにしたのではあるまいな。
 マーフィーの妻。クララはアビー・コーニッシュ。美人で芯の強い妻、母親を演じています。

メカ

 ロボコップのオリジナルデザインは僕も何度か書いているが日本の「宇宙刑事ギャバン」のギャバンのデザインが東映村上克司の許可のもと参考にされている。そのシルバーの無骨なデザインはマーフィーのぎこちない動きも相まってまさに一度「死んだ人間である」ということを思い起こさせる。アイデアの源泉には古典SF映画メトロポリス」のマリアがあり、やはりマリアを参考にした「スターウォーズ」のC-3POとともにパイオニアといえるだろう。映画のヒットのあとは逆にその設定やロボコップのギミックが「機動刑事ジバン」などで日本の特撮ヒーローに反映されている。
 新しいロボコップのデザインはやはり今時というかずいぶん洗練されスタイリッシュになっている。オリジナルのある意味不格好とも言えるデザインは動きやぎこちなさでロボコップの悲しみを表現したが、今回は動きの面での制限は殆ど無い。普通にしなやかに人間を越えた動きを見せる。一応最初のシルバーカラーのスーツはオリジナルを今風にしたもの。更に劇中では実際には出てこないが旧デザインのロボコップがアーマーをパージすると中から新しいスリムなボディが出てくる、という演出で子供心を鷲掴み!という案も出されるが却下。結果として黒いボディとなるのあった。
 この黒いボディやデザインから最近の「アイアンマン」みたい!という感想が出てくるが僕はどちらかと言うと連想したのは「スタートレック」のTNG以降の宿敵ボーグだ。

新スタートレック」のボーグ。
「サイボーグゾンビ」などとも言われるボーグだがTVと映画で多少特殊メイクに差はあれど、黒いボディアーマーで身を包んだサイボーグ、というイメージは一緒。ロボコップを「サイバネティック化された生ける屍」と見た場合このボーグを連想するのはあながち間違いではないと思う。
 オリジナルでも多分いちばんの見せ場の一つにED-209があると思う。階段を落ちるED-209も可愛いがやはり一番はお披露目デモンストレーションで標的(オムニ社若手役員)がED-209の警告に従って銃を捨てるも問答無用で殺してしまうところだろう。この欠陥によってED-209の制式採用は見送られロボコップ計画が発動するわけだ。フィル・ティペットによるアニメートされたED-209はもう一つの主人公とも言える(彼らだってある意味「ロボコップ」だ)。本作ではすでに実用化されていて人型のEM-208とともに外国におけるアメリカ軍の治安維持に使用されている。劇中ではイランでの様子が描かれるが、ということは2028年までにイランとアメリカは一戦交えたってことですかね。この新しいED-209は全体のフォルムはオリジナルそのままだけれど全体的に鋭角的になっている。ところでこの中東の町並みでのED-209、という風景はもうゲーム「メタルギアソリッド4」を思い起こさせる。ED-209はメタルギア月光に似ているし、後半のマーフィー VS ED-209は「メタルギアソリッド」のメタルギアREXとサイボーグ忍者グレイ・フォックス)との戦いや「メタルギアソリッド4」の月光VS雷電を思わせる。「メタルギア」シリーズ自体様々な映画の影響を受けているし、もしかしたらオリジナル「ロボコップ」もその一つかも知れないが、逆に昨今はゲームの「メタルギア」シリーズがハリウッドの映画に影響を与えているんだなあ、というのが分かる。「メトロポリス」から始まり「ギャバン」「メタルギア」と様々な作品が互いに影響を与えているなあ。

キートン、オールドマン、ジャッキー・アール・ヘイリー、そしてサミュエル・L.ジャクソン

 この映画、最初に主演の名を聞いた時は全く覚えがなく、容貌も個性的だったピーター・ウェラーに比べるといまいちぱっとしない感じだったのだが、その後予告編を見て驚いた。なんといってもマイケル・キートンゲイリー・オールドマンジャッキー・アール・ヘイリー、そしてサミュエル・L.ジャクソンといったアメコミヒーロー映画のベテランたちが脇を固めているのだ。キートンはもちろんティム・バートン監督の1989年の「バットマン」とその続編「バットマン・リターンズ」。ゲイリー・オールドマンはスーパーヒーローではないが「ダークナイト」シリーズのジム・ゴードンジャッキー・アール・ヘイリーは「ウォッチメン」のロールシャッハ。そしてサミュエル・L・ジャクソンは「アベンジャーズ」他マーベル・シネマティック・ユニバースのニック・フューリー。ベテランのヒーローが新人ヒーローを支える感じか。そしてもちろん彼らは全員、単に陽性のヒーローと言うより一癖も二癖もあるヒーローを演じてきた人たちである。
 マイケル・キートンはオムニ社のCEOセラーズ。彼は自社のロボットの国内での使用のためにロボコップ計画を建てる。同時にこの映画の最後の悪役であり、ラストはマーフィーに倒される。つまりキートンはその一身にオムニ社会長(ダン・ハーリー)、リチャード・ジョーンズ(ロニー・コックス)、ロバート・モートンミゲル・フェラー)というオリジナルのオムニ社重要人物を兼ねているわけだ。彼の周囲には冷徹そうな女性幹部や、それこそ「LIFE!」でもアダム・スコットの周囲にいたようなヒゲのヤンエグがいたりするけれど、まあ殆ど存在感はない。キートンの存在感の前には霞みがちだ。ただキートンは確かな存在感だがそのラスボスとしての役割は微妙で、オリジナルのジョーンズやクラレンスに比べるといまいち物語上の位置づけには欠ける。ちなみに僕は「ロボコップ」ではミゲル・フェラー推し。ED-209、ラストシーン、クラレンスなどが取り上げられがちだけど、オリジナルではミゲル・フェラー出演シーンがどれもいいんだよなあ。
 オリジナルではあまりロボコップの開発者というのは大きく取り上げられて来なかったが、今回は重要でその責任者がゲイリー・オールドマン演じるノートン博士。オムニ社側の人間では良心とも言える人物だが、一方で自分の研究のために倫理に背くことも意外と簡単に出来てしまう男。彼の行動はよく考えると矛盾の塊なのだが、そこはオールドマンが演じているだけあって科学者としての野望、会社人としての重圧、良識ある人としての葛藤みたいなものがうまく出ていたと思う。オールドマンは一昔前はアクの強い悪役ばかりやっていたが、「ハリー・ポッター」シリーズで最初は敵か味方かよくわからないシリウス・ブラックを演じたり、「ダークナイト」シリーズでゴッサム警察の良心ジム・ゴードン本部長を演じたりして最近は善良なイメージも強い。今回はその善悪の狭間で揺れ動く役とも言えるだろう。
 ジャッキー・アール・ヘイリーはオムニ社のロボット兵器の戦闘についての担当(役割がプログラムなのか、ちょっと良くわからなかったけれど彼自身も相当訓練を積んだプロフェッショナルぽい)のリック・マトックス。ビジュアル的には「エリジウム」のシャールト・コプリーに似ている。彼が本来ならオリジナルのクラレンスにあたる戦闘面での敵キャラなんだろうけど、やっぱりギャングではなくきちんとしたオムニ社側の人間なので、ちょっと物足りない。このキャラがもっと残虐性の部分ではっちゃけるとメリハリが付いてよかったのではないだろうか。
 オリジナルではポール・ヴァーホーヴェンのその後の作品「スターシップ・トゥルーパーズ」でも見られた劇中挟まれる扇情的で大げさなCMが特徴だったが、本作ではその猥雑な部分をほとんど一手に受け持っているのがサミュエル・L.ジャクソン演じるTV番組のキャスター、パット・ノヴァックである。彼はオムニ社のロボットの国内運用に賛成する立場で反対派を強く糾弾する。もう公平とか中立とかいう立場からは無縁な人間。ある意味彼が劇中におけるアメリカの立場を代弁しているのだろう。ジャクソンはスタジオから出ることはないけれど一流のアジテーターとしての本領発揮。最初と最後を締めるのであった。てか最後某台詞を言った時は劇場で笑いが起きたよね。ちなみにオリジナルの「ロボコップ」のテーマ曲はちょっとだけ本作でも使用されるけれど、これはこのノヴァックの番組「ノヴァックエレメント」がマーフィーのテーマ曲として使用した、という感じだよね。

ロボコップ オリジナル・サウンドトラック

ロボコップ オリジナル・サウンドトラック

 さて、やはりオリジナルと比べると色々物足りない部分は否めない。なんといっても今回はオチが弱い。オリジナルのあの鮮やかなラストには到底かなわないとしてももうちょっとすっきりするラストが欲しかった。でもデザインや社会状況含めきちんとアップデートされていたしけっして安易なリメイクではないのでその辺を考慮して無理にオリジナルと比較しなければ十分素晴らしかったと思う。個人的にはもっと木偶の坊ぽくというか動きのぎこちなさが面白さにつながっていたと思うので俊敏な動きはちょっと残念だが、これはノスタルジーもあるだろう。
 本作で興味を持ったら是非オリジナルも見て欲しいですね。PS3版買ったけどほとんど進んでいない…
あ、あとパンフがめちゃくちゃ充実しているのでこれはお買い得です!
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ティンマンはこちらのブリキの木こりから。