The Spirit in the Bottle

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トイ・ストーリー:リベンジ! LEGO®ムービー

LEGO(レゴ)」と言うとデンマーク生まれのトイブロックで日本でも大変親しまれているものだ。僕も子供の頃は遊んでいた。また突起部分や全体的に大きめなダイヤブロックよりより年長向け、というイメージもある。このレゴはその独特な親しみやすいデザインで全世界で遊ばれているが、最近はブロックそのものだけでなく、TVゲームでレゴそのものの特性を活かしたソフトなども発売されている。そんななか、満を持してレゴのキャラクターが活躍する映画が登場。「LEGO®ムービー」(以下®を省いて「LEGOムービー」と表記します)を鑑賞。

物語

 レゴ・ワールド、ブロックシティで作業員として暮らすエメットは何をやるにもマニュアルに頼り切りのマニュアル人間。あるとき勤務終了後の作業現場で謎の美女を見つけ一目惚れする。エメットは彼女を追いかけようとして作業現場の深い穴の中へ。そこでエメットは「奇跡のパーツ」を入手する。このことからエメットは「おしごと社長」の部下バッドコップに捕まり尋問を受ける。何がなんだか分からず混乱するエメットを謎の美女が助ける。謎の美女ワイルドガールによるとこの世には様々な世界が有りかつては自由気ままにブロックを組み立てることができたが、おしごと社長ことおしごと大王の手によって世界は隔離され、マニュアル通りの組み立てしかできなくなってしまったという。ワイルドガールによれば奇跡のパーツを見つけたエメットこそ世界を救う最もイケてる救世主だという!
 エメットは世界を救うことができるのか?!

 僕がレゴブロックで遊んでいた頃は、まだそんなに種類は無くて普通に「はたらく自動車」とか西洋風の一軒家を再現とかそんなのが中心だった気がする。そろそろブロック遊びも卒業かな、という頃に中世ヨーロッパ風ファンタジーをテーマにしたキットが発売されそれは欲しかった記憶がある。あれから20年以上、今では様々なテーマのレゴキットが発売され、スターウォーズインディ・ジョーンズと言った映画やバットマン、スーパーマンなどアメコミのキャラクター、多種多様な物が発売されている。もう子供のための物、という意識も薄くて立派なおとなも楽しめる娯楽といえるだろう。映画でもいわゆるレゴのキャラクター以外にスーパーマンやグリーンランタンと言ったDCコミックスのキャラクター(商品としてはスパイダーマン始めマーベルの商品も発売されているが、この映画はワーナーの作品のためか劇中出てくるアメコミ・ヒーローはDCコミックスに限られる)が登場し、中でもバットマンは終始登場する重要なキャラクターだ。
 この作品、レゴから発売された様々な版権キャラが出てくるのでそもそもパロディ的であるが、作品内容としても幾つか過去の映画を思わせる部分がある。「マトリックス」や「トゥルーマン・ショー」など色々あるが僕が連想したのはやはり「トイ・ストーリー」シリーズ。
 もちろん、単に自我を持ったおもちゃの話、というだけでも似ているのであるが、ある意味で「トイ・ストーリー」へのアンチテーゼでもあると思う。僕ももちろん「トイ・ストーリー」は大好きで感動したけれど、単に子どもとおもちゃの関係を描いた時あの作品は実は優等生すぎる。一作目の悪役とも言えるシド少年はおもちゃを乱暴に扱う少年として描かれるが、あれは必ずしも悪いことではない。僕自身おもちゃを意図的に壊したこともあるし、例えばキン消しキン肉マン消しゴム)の手足をバラバラにして改造手術を行ったことなどたくさんある。プラモデルの中に爆竹を仕込んで破壊したり、壊れたおもちゃは壊れていても想像力を働かせて遊ぶことも可能だ。3作目での幼稚園の園児の乱暴な遊び方を恐怖として描いているのも少し残念だった。
 一方でコレクターとしておもちゃを収集する者(アル)も2作目で否定的に描かれていて、おそらくシドとアルを両極端なものとして描き、その中間におもちゃのユートピア的な存在としてアンディが位置している。もちろん、「トイ・ストーリー」ではおもちゃは意思を持っているので乱暴されたくない、改造されたくない、本来の遊び方で遊んで欲しい、とかいうのも分かるけど、本来のおもちゃの本質はこどもが時に乱暴でも想像力を働かせ、オフィシャルな設定にとらわれない遊び方をすることではないかと思うのだ(そういう面はアンディの想像力豊かな遊び方に現れていたけれど)。
LEGOムービー」のキャラクターは「トイ・ストーリー」に比べると全体的に脳天気というか、本質的にどこか壊れているようなキャラクターが多いが彼らは自分達が人間に遊ばれている、という自覚こそないものの、一方で「トイ・ストーリー」のおもちゃたちより自らの本質的な立場には自覚的であるように思う。
 後半「上にいるお方」として人間、子供であるエメットとウィル・フェレル演じる父親が登場する。ウィル・フェレル父親はレゴマニアでしかしきっちり作品を作り、それを接着剤で固め、また作品のテーマごとにきちんとディスプレイして悦に入るような人物。つまり彼こそがおしごと大王の真の姿であり、レゴワールドの彼はこのウィル・フェレルの人格を代弁したものである。一方エメット少年はまだ幼く、説明書なんて無視して自由に組み立てる。それがマスタービルダーであり、枠にとらわれない発想をするエメットである。ウィルは「トイ・ストーリー」で言うならアルに近い人物だが、単なるコレクションではなくきちんとレゴを組み立てて、しかしきちんと秩序だっているところはむしろアンディに近い部分もあるのではないか。いわゆる大きな子供の代表である彼はおそらくレゴに限らずいろんな分野のオタクを表現している。それに比べてエメット少年はもっとおもちゃの根源的な混沌を現している。彼は説明書通りにブロックを組むことはできないが一方で創造力(想像力)を働かせ思うがままに組み立てる。例えば趣味人で自分の子供にもそういう嗜みを持って欲しいと思っている人も多いだろう。しかしその時に自分のやり方を押し付けてしまい、それ以外を否定してしまってはいないだろうか。レゴブロックが大人の楽しみとなって久しいが、もしかしたらおもちゃ本来の楽しみ方はそういうケイオス(混沌)とした部分にあるとこの映画は教えてくれるのかもしれない。だから僕は(アルはともかく)シドを否定することはできないのだ。

 映画はストップモーションアニメではなくCGアニメーションのようだが、レゴブロックの特性を活かし、まるでストップモーションアニメーションのような絶妙な動きを見せる。爆発ひとつとってもきちんとレゴのパーツで表現されるのだ。だから、レゴの世界にあるものとそうでないものはすぐ分かり、そのへんから意外と早くこの物語のからくりを見抜くことはできると思う。
 とにかくレゴのキャラクターたちの動きも見事だが、出てくるキャラクターの扱いが見事で、ここでは原作となるバットマンだとかスーパーマンと少し離れてあくまでレゴキャラクターとしての立ち位置になっているのが楽しい。例えばバットマンはワイルドガールの恋人だが、当然その設定はコミックのものではない。それどころかこのバットマンブルース・ウェインの存在を知らなかったりする。後は灰色のガンダルフダンブルドアが間違われて怒ったり細かいところも楽しい。個人的には「ザ・シンプソンズ」のキャラクター、ミルハウスがウディ・アレン扱いされてたのがツボ(ミルハウスは「サザエさん」における中島のようなメガネキャラです)。

 さてこの作品、予告編がなんだか酷いものらしくて僕は見ていないのだけれど、それでまた吹替版が中心に公開されている事もあって一部で批判も受けていた。結果として、予告編とは別物らしく(僕は見てないので予告編についてはなんとも言えず)日本語吹替版も素晴らしいと胸を張って言えます。英語版は主人公エメットをクリス・プラットが演じるのを始めとして、ウィル・フェレルエリザベス・バンクスリーアム・ニーソンモーガン・フリーマンと豪華である。でもやはり僕としては日本語吹替版を推したい。こちらも英語版に負けず劣らず豪華なのだ。
 エメットには森川智之、そしてお仕事大王やバットマン山寺宏一ウィトルウィウスガンダルフには羽佐間道夫、ワイルドガールには沢城みゆき、そしてバッドコップ/グッドコップには玄田哲章。他にも岩崎ひろし(一瞬登場のC-3POのためだけにキャスティングしたとしか思えん)や間宮康弘矢島晶子。計8人の実力者声優がレゴの世界の様々なキャラクターを楽しそうに演じている。そう、この作品では8人の声優で全てのキャラクターをまかなっている。でもそのへんの違和感は殆ど無い。
 バットマン玄田哲章さんではなく、山ちゃんであることに一瞬?となったのだが、よく考えるとここで出てくるバットマンは1989年版の実写映画仕様で黒い鎧のようなバットスーツを着たバージョン。玄田哲章さんのバットマンは主にブルース・ティムのアニメ版でコミックス準拠の青いタイツっぽい格好のバットマンなのでこれで正解なのだな。ちなみに玄田哲章さんは実写シリーズでは「バットマン&ロビン」でシュワルツェネッガーミスター・フリーズを吹き替えてますね。
 で、「トイ・ストーリー」、山寺宏一玄田哲章と言うとピンとくる人も多いのではないだろうか。「トイ・ストーリー」は当時では珍しく、日本語吹替版も公開され、僕が劇場で観たのも吹替版だったと思う。そして当初この吹替版はウッディ=山寺宏一バズ・ライトイヤー玄田哲章でアフレコが行われた。ところが最終的に「知名度が足りない(宣伝しづらい)」との理由で配役が唐沢寿明所ジョージに変更された。この唐沢寿明所ジョージのバージョンが現在広く知られている日本語吹替版でこれがまた単なるタレント吹き替えの枠を越えて素晴らしい出来だったのだが、以降山寺宏一は実力があっても知名度が低ければ降板させられることもあるという事実に発奮し、積極的にTVなどで顔を出すようになったという。(一方玄田哲章さんはあんまりそういうこと気にしないそうだ)
 だからおもちゃを題材にしたこのアニメーション作品で山寺宏一玄田哲章の二人の声を聞いた時、僕は即座に「これは約20年越しのリベンジだ!」と思った。今では山寺宏一知名度は一般のタレントに勝るとも劣らないし、もちろん実力は折り紙つき。今回も複数の異なるキャラクターを見事に演じえ分けている。核となるおしごと大王はしっかりと山ちゃんの声だが、その他は言われて初めて気づく感じ。
 一方で、玄田哲章はそういうことをあまり気に気にしない、自分の過去の仕事に過度な思い入れを抱かないタイプだそうだけど、多分その辺は声優といえどもあくまで俳優であって、声だけの仕事がメインではない、という時代の人と、最初から声優を目指してなった人の差かな、と思う。ちょうど山寺宏一ぐらいが最初の声優ブームを受けて声優を目指した最初の世代ではないかな、と思うのだ。
 玄田哲章は2種類の顔を持つバッドコップとグッドコップ。サングラス姿のいかついターミネーターのような(と言ってもT-800ではなくT−1000のイメージ)バッドコップと気弱なグッドコップはレゴ人形の顔をくるっと回すと交代する仕組み(「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の町長と同じ仕様)なのだが、強面のバッドコップはもちろん、気弱なグッドコップもうまい。シュワルツェネッガーなど体格のいい強面を演じることの多い玄田さんだが、実は気弱なキャラやオカマキャラなども彼の持ち味。今回はそんな彼の二面性を活かした演技だったと思う。

 とにかく、アンチとまではいかないまでも色々と「トイ・ストーリー」の優等生的な部分にツッコミを入れるような作品でレゴブロックの特徴を最大限に活かしたアクションや表現が最高。大人も子供も楽しめる作品ですね。そんなに多くの場所で公開されているわけではないようですが、是非劇場で観て欲しい。できれば日本語吹き替えで!

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 比較で出したんでちょっと批判めいた感じになったけど、もちろんこっちも傑作!
 

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 でもタイトルはこちらから(「トランスフォーマー:リベンジ」含む自分の書いたトランスフォーマー関連記事のまとめです)。まあトランスフォーマーもある意味トイムービーだしね!