ペン、ペニー、ペニス狂騒曲 ウルフ・オブ・ウォールストリート
今年もアカデミー賞の季節ですね。まあ基本アカデミー賞はノミネート時点がピークでどれが最優秀賞を獲ったかはあまり重要ではないと考えている口なのですが、それでも今年気になるのはやはりマシュー・マコノヒーですね。見事最優秀主演男優賞を獲りました。いやあ凄いですね。だって映画の冒頭にちょこっと出てでもそれが凄いインパクトだったからノミネートされて賞を獲ったんでしょう?え、賞を獲った作品は「ダラス・バイヤーズクラブ」ですって?「ウルフ・オブ・ウォールストリート」ではない?こりゃまた失礼いたしました!
というわけでレオナルド・ディカプリオが主演男優賞にノミネートされた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を鑑賞。
物語
ウォール街の一流証券会社に就職したジョーダン・ベルフォート。先輩ブローカーに圧倒されながらも仕事に邁進しトレーダーとしての資格を取るがデビュー当日に株式が大暴落する「ブラックマンデー」に遭遇し会社は倒産。
落ち込んだジョーダンだったが田舎にある「ペニー株」を取り払う証券会社に就職。ここでくず株を口八丁で人々に売りつけ儲けを出したジョーダンは同じアパートの住人ドニーとともにストラットン・オークモント社を創立。社員はドラッグディーラー。これも大成功し、ジョーダンは再びウォール街へ。しかし連日続く狂騒的なパーティー、ドラッグ、娼婦遊び、彼と彼の仲間たちは自制心をなくし放蕩を続けるが、そんな彼らをFBIが狙っていた・・・
実はあんまり興味がわかなかった作品でもある。2月頭は「アメリカン・ハッスル」や「マイティ・ソー」の方に関心が向いていて、こちらは後回し、更にアイドリング!!!のライブなどで頭のなかでいっぱいで後回しになっていた。凄い凄いと噂を聞いてもいまいち食指が動かず、やっと下旬になって観に行ったのであった。
いや、でもこれはやっぱり凄かったですよ。上映時間3時間(179分)という長時間は全く苦にならず、しかもずっと笑いっぱなしでありました。ただ、一本の作品としてはやはりかなり歪では有りますね。
実在の人物で現在もコンサルタントやセミナー講師として活躍しているジョーダン・ベルフォートの自伝を原作にしていてジャンルとしては社会派物、と区分できるかもしれないけれど、やはりここはブラックコメディといったほうがしっくり来る。監督はマーティン・スコセッシ。ウォール街という題材からはオリヴァー・ストーン、個性的な異能の人物の伝記映画ということではミロシュ・フォアマン、アメリカ的な生き方をブラックに笑い飛ばすような感じはポール・バーホーベンとスコセッシよりしっくり来る監督が他にいて、そのへんもこの映画に中々食指が動かなかった理由でもある。もちろんスコセッシもすごい監督だけれど、こういう題材の作品を撮る人ではないイメージが合った。逆に「アメリカン・ハッスル」のマフィア絡みのシーンはロバート・デニーロがカメオ出演したこともあって「スコセッシぽいなあ」などとも思ってしまったのであった。
作品を見て、十分満足した後でも、上記の監督らによる「ウルフ・オブ・ウォールストリート」も観てみたいという思いは消えないが、その際はもっと大胆に刈り込まれるのであろうか。この作品、シーン、シーンではインパクトも強く大爆笑の連続*1だが、物語としてはピークが幾つもあり、長時間は気にならなかったが「そろそろ終わりかな」と思ったらまだまだ続く、という部分が2,3回続いて構成の部分でその辺はあんまりうまくないなあ、とは思った。具体的に言うと一度目はFBIからの追求を逃れるため社長業など会社から完全に手を引くと決め、そのための演説をぶちまけるシーン。ああここで終わりかな、と思ったら引退を撤回して狂騒人生はまだまだ続く。次は船が遭難し酒とドラッグを止めると誓うシーン。しかしその後もまだまだ続く。この辺原作通りだから、なのかもしれないがうまく脚色・整理できたんじゃないだろうか、という気もする。しかしつまらないわけでは決してないです。
で、文頭にもネタにしたマシュー・マコノヒー。彼が演じた先輩トレーダーはこの映画の冒頭に少し登場しただけだが強いインパクトを残し、そのテーマ曲がレオナルド・ディカプリオ演じるジョーダンの生き方としても映画的にも(文字通り)テーマ曲となる。
この「hum〜♪」な曲は撮影現場でマシュー・マコノヒーが遊びでやってたのをディカプリオが関心を示して劇中に取り入れたものらしくて、エンデイングでも流れます。かなりインパクトは強く他にもこのシーンだけつないで60分にした動画とかもあった。
マシュー・マコノヒーは予告編で観た時は題材もあってまるで渡邉美樹にしか見えなかったのだが、確かに強烈な演技でこれはアカデミー最優秀主演男優賞を取るのも当然かな、と思う(だから、「ダラス・バイヤーズクラブ」で穫ったのであって本作で獲ったわけではありません)。
実際の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で男優賞にノミネートされてたのはレオナルド・ディカプリオで、こちらも全編見どころ。かつての美男子アイドルからは想像できない乱痴気ぶりで素晴らしい。ところどころ格好いい部分もあったりするが(先程述べた引退演説とか)、基本的には反省や自制という言葉を知らない人物だが実際にいたら(実物のジョーダン・ベルフォート)どうか分からないが劇中ではそれなりに魅力的である。レモンと呼ばれるドラッグ(鎮静剤)を大量服用してグデングデンとなって芋虫のように這いまわる姿は哀れを通り越して滑稽であるが、相方のジョナ・ヒルとの相互作用でもうわけがわからない状態。その他にも尻の穴に蝋燭を入れられるSMプレイシーンや、逆に女性の尻にためたドラッグを鼻から吸うシーンとかもう狂乱と言っていい描写が続く。
レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシのコンビはもう五度目で往年のスコセッシとデニーロのような感じになりつつあるが、この作品はあえて言うなら「アビエイター」に近いのか。しかしディカプリオはなにげに実在の人物を多く演じていないか?「アビエイター」のハワード・ヒューズ、「バスケットボール・ダイアリーズ」のジム・キャロル、「太陽と月に背いて」のアルチュール・ランボー、「仮面の男」のルイ14世、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のフランク・アバグネイル、そして「J・エドガー」のジョン・エドガー・フーバー。そこに今回はジョーダン・ベルフォートが加わる事となる*2。僕は以前「華麗なるギャツビー」の感想で
ディカプリオは「太陽と月に背いて」で破滅的な詩人アルチュール・ランボー、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で伝説の詐欺師フランク・アバグレイブ、「アビエイター」で大富豪ハワード・ヒューズと言った実在の人物を演じているが、これらは見事にジェイ・ギャツビーと言うキャラクターに集約される
と書いたが、その意味ではこのジョーダン・ベルフォート役も同様で、ある意味「華麗なるギャツビー」と「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はディカプリオ集大成の表と裏、という感じだと言って差し支えないと思う。悲劇の主人公と喜劇の主人公。しかし両者とも詐欺まがいの行為で億万長者となり、ある種最後まで純粋なままのピーターパン症候群。だから、現代と1920年代、時代の異なるニューヨークを舞台にしていても両者にはどこか共通している部分が多い。この2つはセットで見るべき。まあ、僕は「華麗なるギャツビー」の方が好きですけどね。
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他にも先に挙げた相方のジョナ・ヒルややはり登場シーンは少しだが強い印象を残すジャン・デュジャルダンなども怪演。他にはロブ・ライナー、ジョン・ファヴロー、スパイク・ジョーンズなど監督兼役者が多く出演しているのも特徴か。
狂騒的な登場人物の中で唯一と言っていい常識人がカイル・チャンドラー演じるFBI捜査官。経済事件を操作するFBI捜査官ということで「アメリカン・ハッスル」のブラッドリー・クーパーとも重なるがあれよりもっと落ち着いた人物。カイル・チャンドラーはピーター・ジャクソンの「キング・コング」でオリジナルのヒーロー役をエイドリアン・ブロディと分け合ったブルース・バクスター役で有名になったが、その後「SUPER8/スーパーエイト」の警察官を皮切りに「アルゴ」や「ゼロ・ダーク・サーティ」のCIA局員と役人を演じることが多い気がするね。顔は井上順を思わせるが真面目そうだからかな。
ヒロインでジョーダン・ベルフォートの妻であるナオミ役はオーストラリア出身のマーゴット・ロビーという美人でドラマの「PAN AM/パンナム」なんかで知られているようだ。でも個人的にはジョーダン・ベルフォートの前妻であるテレサを演じたクリスティン・ミリオティの方が好みかな。
179分という長時間、株取引物という一見難しそうな題材ととっつきにくく感じるかもしれないが、時間は苦にならないし、シリアスというよりブラックコメディなので楽しい作品です。ただ全編セックスとドラッグとペニスに満ちているし、とにかくアッパーな描写ばかりなのでやはり人を選ぶ映画ではあると思う。各シーンのインパクトは強いけど一本の作品としてはどうかと思う感じで評価は難しい。とにかく「すげえもの観たな」という感じは味わえるので大人は是非。
hum〜♪(ドン!ドン!)hum〜♪(ドン!ドン!)
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*1:おかげ直後に観た「キック・アス ジャスティ・フォーエバー」のお下劣シーンがすっかり薄味に感じて全然笑えなかった
*2:しかも企画待機の作品にはセオドア・ルーズベルト役が控えているらしい