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堕ちた英雄譚 キック・アス ジャスティス・フォーエバー

 ヒーロー月間継続中!なので先に観た「スノーピアサー」と「新しき世界」はちょっと置いておいて、先にアメコミヒーロー映画の異色作として話題になった「キック・アス」の続編「キック・アス ジャスティス・フォーエバー」の感想をば。超能力も魔術も超科学もない現実世界で実際にコスチュームを着てヒーローになろうとした少年の顛末を描いた前作。基本的にはコメディでありながら、容赦無いバイオレンス描写、特にまだ年端もいかない少女ヒット・ガールのアクションが演じるクロエ・グレース・モレッツのキュートさも相まって大人気となった。その続編。

物語

 キック・アスとヒット・ガールがマフィアのボスフランク・ダミーコを倒してのち、2人は日常に戻り、ヒットガールことミンディは父の警察時代の同僚だったマーカスの保護のもと成長し高校1年生になった。素直に学校に通っている、はずだったがミンディは学校には行かずヒットガールとしてヒーロー活動(過激な自警行為)を続けていたのだ。
 デイヴの方はやがて退屈な日常に我慢できなくなりミンディと訓練を始め再びキック・アスとしての活動を続けようとする。しかしミンディはマーカスに諌められ引退を決意。キック・アスは彼の影響で続々と登場した”正義のヒーロー”たちとチームを作る。
 一方、父親を殺された復讐に燃えるかつてのレッドミストことクリスはマザーファッカーを名乗り「世界初のスーパーヴィラン」となることを決意。金と悪のコネクションを使い凶悪な連中を集め始めた!

 前作の感想はこちら。

キック・アス (ShoPro Books)

キック・アス (ShoPro Books)

 イベントで観たり、原作コミックスと比べたりしたとはいえ3回にも渡って感想書いてたのか。最初に言っておくと僕は今回の「キック・アス」続編ははっきり言って否定的。かなり不満とモヤモヤが残る出来でした。
 前作はマーク・ミラー原作、ジョン・ロミータJr.作画の原作を「X-MEN ファースト・ジェネレーション」のマシュー・ヴォーンが映画化したものだが、大筋で原作通りなのだが、ラストにおいて映画と原作では決定的に描写が違っていた。今回の「ジャスティス・フォーエバー(以下2)」は原作にあたる「キック・アス2」の日本語版の出版がまだなので確認していないがおそらく基本的には原作に忠実なのだろう。そのせいか映画化された続編はかなり歪であると感じた。映画ではデイブは憧れのケイティと結ばれるが、原作ではこっぴどくふられる。それで2を作るにあたって原作との整合性が取れなくなったのか、今回ケイティは登場するが扱いが酷い。前作からの流れであれば映画版のケイティはあれだけのことでデイブを今更ふったりしないだろう。ケイティを退場させるエクスキューズのためだけに登場させたとしか思えない。映画がハッピーエンドの終わり方をさせたのは脚色として何の問題もないと思う。ただ、ならば映画は映画のほうであの結末をきちんと尊重して映画ならではの続編を作るべきだと思う。枝分かれした原作とすり寄せるとしてもかなり乱暴だと思った。
 映像的には悪くなかったと思う。前回の感想でヒーロー映画のバイオレンス描写としてはヒーローがガンガン殺しちゃうのはちょっとつらい、みたいなことも書いたが、あれはもう「キック・アス」という作品の世界観みたいなものなので、その辺に関しては今となっては特に気にならない。半端にやるぐらいならガンガンやれ、とも思う。アクションシーンなども前作のテディベアに仕込んだ隠しカメラからビッグダディの襲撃につながるシーンやラストのヒット・ガールVSギャングなどの流麗な美しさこそ無かったが、単純にアクションシーンとしてみればむしろ前作よりも優れていたかもしれない。最もその辺は映像におけるマシュー・ヴォーンらしさだったので、そういう意味ではやっぱり今回はヴォーンは直接関わっていないのだなあ、と思い知らされる(今回は制作のみ)。
 また、デイブがキック・アスのコスチュームを修復しようとして父親にオナニーと間違わられる(この辺は定番か)とか、ミンディが高校のクイーンにゲロ&下痢をもたらすシーンなどお下劣な笑いどころがあるが、正直そんなに笑えなかった(ていうかむしろつまらなかった)。とは言え、これは直前に「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を観たからインパクトが薄く感じた、ということもあるのかもしれない。

 キック・アスはヒット・ガールとの活動を断られた後、仲間を求める。そのチーム名がタイトルにもなっている「ジャスティス・フォーエバー」だが、この辺は「ウォッチメン」のミニッツメンがモデルだろう。「ウォッチメン」の影響が色濃くフォロワー的色彩としては前作より本作のほうかと思う。
 僕は原作の2こそ読んでいないがジム・キャリーが演じるキャラクターが発表された時点で、おそらくこのキャラクターの正義が暴走してラスボスとなるのだろうと予想した。結果として違ってそれは全然いいのだが、それにしてもこのジム・キャリーが演じたスターズ・アンド・ストライプス大佐(星条旗大佐)の扱いは問題があると思う。彼はギャングの一員だったが宗教(ものみの塔らしい)とキック・アス登場に感化されてヒーローとなった。モデルは「ウォッチメン」のキャプテン・メトロポリスだと思うけれど、ジム・キャリーのギラギラした表情によってコメディアンの狂気も伺わせる。劇中でも汚い言葉遣いを極端に嫌う潔癖症な部分や犯罪者には容赦無い(何故か局部を狙いたがる)などその狂気の片鱗を伺わせる描写もあるが、結局彼は物語半ばでマザーファッカーたちに襲撃され命を落とす。そして彼は正義の殉教者となってしまう。
 この描写は結構唖然とした。この大佐の正義を継ぐ、みたいな形で物語が展開するのだ。その割には大佐のキャラクターは狂気にも純粋にいい人にも振りきれてない。いや例えば「アベンジャーズ」でコールソン捜査官の死がヒーローたちを結びつける要素となったようにあるキャラクターの死が重要な起点となる描写は定番でもある。でもこの場合、その死ぬキャラクターの描写が不徹底で見てる側は感情移入できない。例えば劇中ではリメンバー・トミー/トミーズダッド&トミーズマムという行方不明の息子を探すためにヒーローとなった夫婦が登場するがこのキャラクターと大佐を合体させて親の子を思う気持ちを現す善良さが全面に出るようにすれば良かったと思う。あるいはもっとブラックコメデイな路線を狙うのなら、大佐の狂気を前面に出し、彼の狂った人格が描かれ、それなのにキック・アスたち残されたヒーローがそれを全く知らずに英雄視して称える、という描写をすればまだましだがいずれにしろ中途半端。せっかくジム・キャリーが演じているのにもったいない。ジム・キャリーの無駄遣い。ジム・キャリーは「マスク」「バットマン・フォーエヴァー」に続くアメコミヒーロー映画だが、個人的には最も個性を出せていない作品だと思った(「バットマン・フォーエヴァー」は作品としてはあれだけどキャリーのリドラーはコミカルなだけじゃなくて凄みもあって素晴らしかったのよ)。
 パンフによると、ジム・キャリーはこの映画がバイオレンス過ぎるということでプロモートに関わらないことを宣言した、というがその辺はむしろ言い訳で単純に役の扱いに不満があったのではないかな、という気もする。
 キック・アスを演じたのは引き続き、アーロン・テイラー・ジョンソンン。前作では「一見オタク、でもよく見りゃハンサム」という感じだったが、今回は最初からもう「美男子全開!」という感じ。新しいハリウッド版「ゴジラ」の予告編などではマイケル・ファスベンダーにも似た精悍な表情を見せてくれるが、ここではどちらかと言うとイライジャ・ウッド系の耽美な美男子という感じ。イライジャ・ウッドがもうちょっと縦長になった感じか。体つきも最初から鍛えられていて、以前のオタクっぽい描写からは程遠くなってしまった。そういう役者の魅力は良いのだが、キック・アスのヒーローとして心意気は正直全然共感できない。ヒーロー復帰する理由が軽すぎるし、一人でやる気概もない。

 ヒット・ガールを主人公としてみた場合、評価は幾分か上向きになる。キック・アスに比べれば引退も復帰もまだ説得力がある。演じるクロエ・グレース・モレッツは相変わらず魅力的だし、ミンディとしては育ちすぎてしまったが(前作で11歳で今作15歳ということは4年間も経っているがデイブたちは高校卒業していないし、多分その辺はウヤムヤ)ヒットガールの衣装にカツラをつければ以前と同じ輝き。多分、キック・アスのヒーローとしての第2章を描くとともに、ヒットガールの社会復帰のリハビリをもっと丹念に描くべきだったと思う。マーカスの保護者はおそらくこの映画で最も社会的に立派で格好良い人物なんだが、その辺の描写も弱いのだなあ。

 敵となるのは前作のレッドミストことクリス・ダミーコことマザーファッカーで引き続きクリストファー・ミンツ=プラッセが演じている。彼をまっとうに育てようという母親が死に(実質殺害)、母親のボディガードだったハビエルのサポートの元凶悪な連中を集めて適当な名前で仮装させて悪の軍団を作り上げる。前作では多少複雑な(父親の仕事を手伝いと思ったり、一応キック・アスには軽い友情を覚えていたり)心理描写があったが、今回はただ狂騒的なだけに思える。ただ、ハビエルを演じるのがジョン・レグイザモで、彼はマザーファッカーの適当につけたヴィランネーム(黒人に「ブラックデス」と名づけたり、アジア人に「ジンギスカーネージ)とつけたり)に対してポリティカルコネクトを気にして忠告するなどちょっと面白いキャラクター。
 また前作でボスのフランクが死んで組織は服役中のフランクの弟(クリスの叔父)にボスの座が移るが、この新しいボスを演じているのがイアン・グレン。お子様なクリスに対して、マフィアの恐ろしさを見せつけるが、はっきり言ってほんの少しの出番だが、格好良かった。この映画、結局ヒーローやヴィランではない、マーカス、ハビエル、叔父さん、と言ったキャラクターの方がインパクトあるし格好いいんだよね。これはアメコミ映画としては致命的な欠陥だと思う。ただ事前に出てくることを知らなかったジョン・レグイザモイアン・グレンが出てきた時はちょっと嬉しかったりしたけれど。
 敵の中では唯一元KGBのマザーロシアという女傑だけ気を吐いていたがやはりそれだけでは持たないなあ。
 
 全体としてブラックコメディなのか、シリアス路線で行くのか中途半端だった。例えば前作でも出てきたデイブの2人の友人がいるがその内の一人がとんでもないことをやらかすがラストは普通に元に戻っているのが納得行かない。単にアクション面でパワーアップさせただけ、というひと昔前の続編映画によくみられたような作品に堕していると思う。個人的にはやはり最初のほうであっさりケイティを退場させたのが納得いかなくて、前作で原作とは違う映画ならではの結末を作ったのに、それを自らぶち壊してしまったかな、と思う。

キック・アス2 (ShoPro Books)

キック・アス2 (ShoPro Books)

ヒット・ガール (ShoPro Books)

ヒット・ガール (ShoPro Books)

 原作を読んでからじゃないとこの物語部分の根本でのダメさが、マーク・ミラーにあるのか、今回の脚本(監督も)を担当したジェフ・ワドロウにあるのかは分からないので保留するけれど、ひとつ言えるのはやはり前作の際立った素晴らしさは前作の監督/脚本を手がけたマシュー・ヴォーンに拠るところが大きいということ。逆説的だが、彼が脚本を手がける「X−MEN:フューチャー&パスト」がより楽しみになってしまった。

Kick Ass 2

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