The Spirit in the Bottle

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愛の支配、四重奏 ルームメイト

 ロバート・ルイス・スティーヴンソンの「ジーキル博士とハイド氏」は現在では「二重人格」の代名詞ともなっているが、もちろん、実際の多重人格症状そのままではない。ジーキル博士は薬品を飲むことでハイド氏に変わるし、その際には人格だけでなく容貌も大きく変化する。サイコホラーの古典みたいなこの作品だが、同時にモンスター作品でもあるのだ。この辺、スティーヴン・キングが言うところの「内なる恐怖」が「外なる恐怖」に連なっていく代表例みたいな作品だと思う。ともあれ、ドッペルゲンガーにしてもジキルとハイドにしても人間の内に潜む別人に人々は怖れつつも惹かれてきた。
 今回観た作品は古澤健監督の「ルームメイト」。古澤監督とは一度お会いしたこともあり、僕としては珍しく邦画では毎回観に行ってる監督。先に観た人の評判が良かったので今回も劇場観賞。

物語

 派遣社員の萩尾春海は交通事故で入院していた病院の看護婦、西村麗子と出会い意気投合ルームシェアして同居することになる。最初は楽しい同居生活だったが、時折麗子には不審な言動も見受けられる。事故の加害者、工藤謙介は春海に対して誠実に対応していたが、保険の担当の長谷川は春海に代わり対応していた麗子と連絡が取れないという。
春海は工藤の会社で働くようになるが麗子の言動もさらにエスカレートし…

 僕は最初に主演の二人が映っているポスターを見て、「ブリジット・フォンダジェニファー・ジェイソン・リーが主演した同名映画(原題は「Single White Female」で「白人独身女性」というルームメイトの条件がタイトルになっている)のリメイクかな?」などと思ったのだがどうやら別物のよう。原案として、今邑彩の同名の小説がクレジットされている。Wikipediaを見ると確かに登場人物の名前などは一緒だが、設定、物語はかなり違っており、原作というよりは原案というのが適切なようだ。また漫画化もされているようだが僕は小説も漫画も読んでいないのでそちらには言及しない。ただ、僕は今まで知らなかった作家だが今邑彩氏は今年の2月頃に亡くなっていたそうでご冥福をお祈りします。

 しかし、面白いもので、女性2人のルームシェア描いた作品と聞いて、青春映画やコメディを全く思い浮かべず、ホラーやスリラーだ、と思ってしまうので不思議なものである。先の1992年の洋画作品以外にはセガサターンの「ROOMMATE〜井上涼子〜」というゲームソフトを持っていたが、そっちは全く思い出さなかったものなあ。
 僕自身は、軽い共同生活願望みたいなものはあって、結婚や家族との同居ではなく、「めぞん一刻」の一刻館のようなプライベートの緩い下宿みたいなものに憧れがないでもない。ただ生活においては孤独が好きな部分もあって、実際のところよほどの相手や同居であっても、きちんと個室も確保できるという環境じゃないとすぐ耐えきれなくなるだろうなあ、という気はする。本作では春海と麗子はその意味でアメリカほど他人同士のルームシェアが一般的でない社会で同居させるにはちょっと無理があるかなあ、という気もするのだが、もちろんそういう疑問は最終的に氷解する。
 映画はサスペンスホラーといった趣なので同じ古澤作品でも雰囲気は当然「今日、恋をはじめます」より「アナザー」に近い。若干の説明不足や物語の急展開など気になる部分もないではないが十分面白かった。「アナザー」に比べると超常的部分は少なく、基本的に合理的説明がつくので矛盾は少ない。
 こういう作品だから、つい観ながら先を予想したりはするのだが、うまく先読みが成功した快感みたいなものと、いい意味で予想が裏切られる快感みたいなものがうまく共存していたと思う。
 結論から言ってしまうと大体の人は早い段階で麗子が二重人格者で、冷酷なマリという人物が麗子と同一人物である、というのは予測できると思う。ただ、そこからさらに麗子とマミがともに春海の別人格というところまで予想できるようになるのは結構終盤*1、そしてさらにもう一捻りある。
 映画の時代設定は普通に現在だと思うけれど、美術的な世界設定はちょっとレトロ風味で、特に最初の病院は仕切りもない大部屋でまるで野戦病院のような感じ。春海の隣のベッドでは顔全体を包帯でグルグル巻いた患者が呻いていたりする。この辺はわざとだと思うけど、後半出てくる飲食店(キャバレー?)やその周辺の描写などもかなり昔風の猥雑。春海の部屋も外観はちょっと古い。ただ、三池崇史監督作品で見られるような極端なわけでもない。ただどうせならいっそのこと携帯電話やインターネットという現在(少なくとも平成、21世紀)を分かりやすく象徴する小道具を出さず、漠然と「現代だと思うけど、なんか違和感もある」っていうのを突き詰めても良かったと思う。

 主演は北川景子深田恭子、そして高良健吾の3人。深田恭子は「ヤッターマン」以来、北川景子はTVドラマは見たことあるけど、映画出演作は初めてかな。高良健吾は評判の良い「横道世之介」は観ていない(予告は散々見た)のでおそらくこれが最初だと思う。
 深田恭子はまあ、僕は軽いファンで、もう見てるだけで幸せになる感じ。今回は世話好きな麗子と冷酷なマリを演じている。深キョン(もうこの呼び方で行きます)は意外に背が大きくて(主に北川景子と並んでだけれど)最初はその豊かな胸や微笑みで母性の象徴の如く春海を包み込む。
 マリとしての演技は全体としてはそこは深キョンなので柔らかめではあるんだけど、表情はきつめです。ただ、マリの格好、ボブカット?のカツラをつけて全体としてオレンジ色っぽいワンピースを着ているのだが、これが膨張色に顔が丸くて、深キョンが凄い大柄に見えてしまう。また、どうしてマリがわざわざこの格好をするのか、特に説明が無かった気がするがその辺はちょっと残念か。マリの犯罪はどうしてそいつを殺さねばならんの?という被害者もいるんだけど、それに関してはまあ、ホラーとして見れば、特に気にならなかった。
 北川景子はキリッとした美人だけれど、笑ったり叫んだりすると表情がかなり崩れる。一方で深キョンは美人というより可愛いと言った方がいいけれど、あまり感情の変化で顔が崩れることはない。この辺が対象的で振り回される春海と振り回す麗子とが上手く表現できていると思う。あと北川景子はアイドリング!!!21号橋本楓ちゃんに似てますね。楓ちゃんがあと5年もしたら北川景子級の美女になることでしょう!
 個人的には最初の一ヶ月、春海と麗子の仲睦まじい様子をもうちょっと多く描写すると展開の唐突さが緩和されて良かったのではないかなあ、などと思う。

 ここから書くことは、いいとか悪いとかではなく嗜好の問題。ラストは綺麗にまとまっているけれど、ちょっと僕好みではなかった。もっとバランス良く4人目の存在を匂わせつつ、最後の事件は実行されるのか否か?ぐらいで終わらせると大まかな物語は解決しつつ、ちょっと後味の悪さというか不気味な余韻と謎を残して終わって良かったのではないかと思う。「チャイルドコール 呼声」あたりと雰囲気は似ているのであんまり劇中で綺麗に解決するより不条理な部分を少し残して終わらせた方が僕は好きだ。あくまで僕の好みの問題で、映画のラストがダメというわけではないです。

ルームメイト (中公文庫)

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個人的にはミステリーというよりはホラーとして見る方がいいと思う。
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ROOMMATE 井上涼子

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ああ、バスに!バスに!

*1:僕はマリが工藤の事務所に何故かいた段階でなんとなく分かったが、勘のいい人は春海のアパートで麗子が春海の行動を全て知っている、というところで気付くかも